第1回:ロマン主義の誕生

地域文化論Ⅱ
第1回:ロマン主義の誕生
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地域文化論
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[19世紀]
*ロマン主義の誕生:スタール夫人/シャトーブリアン
*ロマン主義の詩:ラマルティーヌ/ユゴー/ネルヴァル
*ロマン主義の音楽:ベルリオーズ
*詩の現代性:ボードレール
*象徴主義の文学と芸術:ワグネリスム/ヴェルレーヌ/
マラルメ/モロー
*印象派と後期印象派:マネ/モネ/セザンヌ
*詩の革命:ランボー
*ベル・エポックの芸術:バレエ・リュス
[20世紀]
*20世紀芸術の黎明:コクトーの場合
*破壊と創造:ダダ/シュルレアリスム
*現代芸術の行方:デュシャン/瀧口修造
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ロマン主義の誕生
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ロマン主義 romantisme の時代区分
一般には1820年から1840年代まで
1820年:ラマルティーヌの『瞑想詩集』の刊行
それ以前:前ロマン主義
(プレ=ロマンチスム pré-romantisme)
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ロマン主義が生まれた背景
・ルソーら18世紀文学・思想の影響
・ドイツ文学・イギリス文学の流入
・大革命のあとの精神風土
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18世紀文学・思想(とくにルソー)の影響
・自我と社会の葛藤から生まれる孤独感
・普遍的理性にたいする主観性と抒情の優位
・進歩の観念や文明への批判としての自然回帰
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ドイツ文学・イギリス文学の流入
ゲーテ、シラー、シェイクスピアなど
とくにゲーテの『若きウェルテルの悩み』
ロマン主義時代の青年たちの精神風土
絶望、孤独、不安、メランコリー、倦怠、厭世、不信、懐疑、無為
焦燥に裏打ちされた熱狂……
「世紀病」mal du siècle
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大革命のあとの精神風土
貴族
敗北感と自我の凝視
自国の文化伝統への懐疑
ブルジョワジー
金銭支配による疎外感
激越な「キリスト教破棄」にたいする違和感
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「ロマン主義」le romantisme という語
18世紀:
17世紀以来の形容詞 romantique「小説のような」
→ paysage romantique「ロマンティックな風景」
19世紀:
文学の特質を示す言葉として classique / romantique
→ 1830年代:le romantisme「ロマン主義」
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スタール夫人
Mme de Staël, Germaine (1766-1817)
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『文学論』De la littérature (1800)
南方の文学と北方の文学
新しい文学は北方の文学を手本に
趣味の相対性 各国の文学が時代・風土・社会制度によって深く
影響されていることを指摘
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『ドイツ論』De l'Allemagne
(1810発禁、1813刊)
ドイツのロマン主義的精神をフランスに紹介
「熱情」enthousiasmeの称揚
熱情(…)それは美にたいする愛、魂の高揚、献身の喜び
がひとつに結びついて、偉大さと落ちつきをそなえた感情
となったものだ。(…)熱情こそ、わたしたちの内なる神
を意味するものなのだ。
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『ドイツ論』におけるロマン主義の定義
「ロマンティックという語は、最近、ドイツで用いられるようになったも
ので、トルバドゥールの歌を起源とする詩、騎士道およびキリスト教から
生まれた詩を指す。(…)時としてクラシックという語は、完璧さの同意
語として用いられる。わたしはここではこの語をちがった意味に用い、古
典的な詩 poésie classique とはギリシア=ローマの古代人の詩と考え、ロ
マンティックな詩 poésie romantique とは、なんらかの意味で騎士道的伝
統に根ざす詩と考えたい。この区別はまた、世界の二つの時代に照応する
̶̶キリスト教が根をおろす以前の時代と、それ以後の時代と。(…)ロ
マンティックな文学は、今日なおより良いものとされる余地のある唯一の
文学だ。なぜなら、それはわたしたちの国土のなかに根をもつものとし
て、あらたに成長し、生命を得ていくことのできる唯一の文学だからだ。
それはわたしたちの宗教を表現する。その起源は古いが、古代にあるので
はない。」(スタール夫人『ドイツ論』1812年)
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国際性と土着性(空間的両義性)
・ドイツにおけるロマン主義は17世紀フランスに成立し
た古典主義にたいする国民主義的反動として誕生した。
・スタール夫人はそれをフランスに移入しようとしたが、
単純にドイツを模倣するものではない。
・「ロマンティックな文学」とは、古代ギリシア=ローマ
を模範として普遍的な真実を表現するとした古典主義にた
いし、フランスの国土・国民の特殊性を表現し、みずから
の土着性に忠実であろうとするもの。
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過去志向性と未来志向性(時間的両義性)
・古典文学の古代ギリシア=ローマ起源にたいして「ロマ
ンティックな文学」の中世起源(騎士道の文学)を強調。
・フランス国民の過去への結びつきを再認識しようとする
が、単なる懐古趣味にとどまらない。
・自国の国土・歴史に根をおろしているがゆえに、未来へ
の発展の可能性をもつ、と考える。
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ロマン主義における「自由」
・スタール夫人の文化的相対主義の主張:古典主義の圧制
を否定し、文学・芸術の「自由」を称揚
→18世紀啓蒙主義の精神につらなり
大革命の精神を受けつぐもの
・ただし、そうした自由主義的ロマン主義だけでなく、
反=啓蒙主義的・反=革命主義的ロマン主義も同時に存在
両者はときに対立し、ときに混じりあう
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シャトーブリアン (1768-1848)
François-René de Chateaubriand
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『キリスト教精髄』
Génie du christianisme (1802)
(『アタラ』Atala(1801)『ルネ』René(1802)を含む)
・「キリスト教こそもっとも詩的・人間的で、自由・芸
術・文芸に最適な」宗教であることの証明をおこなう。
・護教論であると同時に文学の視野を聖書・中世に向け、
歴史的観点を導入。
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ロマン主義の特質
・変動する社会体制の刻印
・自由への熱烈な欲求
・幻滅と「世紀病」mal du siècle
・現実の彼方への志向
・神秘主義的な宗教意識
・人道的な理想主義
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変動する社会体制の刻印
・大革命によって没落した貴族階級の疎外感
・解放されたブルジョワジーの上昇エネルギー
・ブルジョワジー自身が社会的現実のなかで味わう挫折感
・これらすべてがナポレオン第一帝政の圧制(1804-15)
→王政復古の反動的貴族政治(1815-30)→七月王政の大
ブルジョワジーによる寡頭政治(1830-48)を通じて相互
作用をくりかえす。
・他国のロマン主義と比べて強い政治色。
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ロマン主義時代におけるフランスの政体の変遷
・1804-1815:第1帝政(ナポレオン)
・1815-1830:王政復古(ルイ18世­シャルル10世)
1830:7月革命
・1830-1848:7月王政(ルイ・フィリップ)
1848:2月革命
・1848-1851:第2共和政
1851:ルイ=ナポレオンのクーデタ
・1852-1870:第2帝政(ルイ=ナポレオン)
・1870-1940:第3共和政
1871:パリ・コミューン
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自由への熱烈な欲求
・美の普遍性にもとづく古典主義および理性尊重の啓蒙主
義への反動。感性・想像力・情熱を至上のものとする。
・「文学・芸術における自由」の追求→とくに演劇におけ
る「形式の自由」
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幻滅と「世紀病」mal du siècle
・法の前では平等でありながら富においては不平等が増幅
するブルジョワ社会の抑圧(貴族にとっても、ブルジョワ
にとっても)。精神の不安な状態・疎外された自我のあり
ようが作品の主題となる。
・「世紀病」mal du siècle:絶望、孤独、不安、メラン
コリー、倦怠、厭世、不信、懐疑、無為、焦燥に裏打ちさ
れた熱狂など、ロマン主義時代の青年たちの心を冒し、こ
の時代の文学に特徴的に描き出された精神状態。ルソー、
ゲーテの『若きヴェルテルの悩み』に源を発するが、直接
的にはシャトーブリアンの『ルネ』が原形。
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階級・世代の観点からみた「世紀病」
・大革命によって没落した貴族の疎外感から発し、
・やがてそれがブルジョワジー自身の内部において、大革
命の理念と金銭本位の現実のずれに基づく欲求不満として
受け継がれ、
・さらに信仰不在とナポレオンの栄光に対するノスタルジ
ーによって増幅されたもの。
・確立をとげようとするブルジョワ社会の抑圧がこの
「病」の原因といえる。
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現実の彼方への志向
・異国趣味(エキゾティズム)→空間的な彼方へ
・中世趣味→時間的な彼方へ
・幻想性→現実の彼方へ
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神秘主義的な宗教意識
・18世紀啓蒙主義と大革命によりカトリック信仰は後退。
・その一方で「神秘思想」に宗教的情熱が向けられる。
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人道的な理想主義
・神秘主義的な宗教意識のなかで、詩人が人類を教え導く
という社会的使命感を自覚。
・ブルジョワ社会の犠牲者である民衆を救済しようとする
人道的・社会主義的な理想主義が生まれ、ロマン主義者は
積極的に政治に参加。2月革命(1848)の原動力となる。
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