時代のニーズに合わせ 商品、戦略を変革し続ける チロルチョコ(株) 代表取締役 松尾 利彦氏/取締役 松尾 裕二氏 聞き手=西村道子(本誌発行人) 先代の社長が生み出した低価格の一口チョコを、大人にも愛されるブラ ンドに育て、販路を拡大してきたチロルチョコ(株) 代表取締役 松尾 利彦氏。アートへの造詣が深い同氏は、商品開発もほとんど自身のアイ デアのみで進めてきたという。ソーシャルメディアやeコマースを取り入 れ、次なる変革に取り組む取締役の裕二氏も交え、お話を伺った。 今ではこれが主流となっています。 2つ目は、販売チャネルが広がる こととも関連していますが、子ども から大人への、ターゲットの年齢層 の拡大です。 しているのですが、 「きなこチョコ」 冬季限定の季節商品ですから、販 ているところなのだろうと認識して はもともと、この中に入れるアイテ 売期間は実質約3カ月間です。 います。 ムの1つとして開発したものでした。 ――御社の現在の年商は? たまたまそれを食べたセブン-イレブ 松尾: 「きなこチョコ」のブレイ ンのバイヤーが、 「この商品は良い クがきっかけとなってじわじわ から、ぜひ単品で売るべきだ」とアド と知名度が上がり、2006年度に バイスしてくれたので、その言葉を 約55億円だった年商が、2007年度 ――「チロルチョコ」のファンは多 素直に受けて単品で発売したところ、 には約110億円に跳ね上がりまし いですが、愛されている秘訣は何だ 大ヒットとなったのです。ピーク時 た。 それ以降は下がり続けており、 とお考えですか。 にはこの商品だけで年間20億円近く 2011年度は約80億円です。ブーム 松尾:私が入社当初から心掛けてい を売り上げました。年間と言っても、 が去った今、本当の実力が問われ たのは、価格は安くても、大人にも 認めてもらえ、楽しんでもらえる味 そして3つ目は、販売エリアの拡 やデザインを提供することでした。 大です。松尾製菓は福岡県を拠点と 高級感を演出するということではな しているため、かつて商品はほとん く、ニッチで、エッジの利いたブラ ど西日本で販売されていました。こ ンドをつくっていきたいと考えたの れを全国的な商品に育てるための体 です。 制づくりを進めてきたのです。かね そう思うようになった要因のひ てより全国各地で営業担当者を現地 先代が開発した商品を 引き継ぎ 販売チャネルを拡大 151 円に戻し、再スタートしたのが、今 日の「チロルチョコ」の原点になり ました。 ――それを引き継いで、松尾様が社 ――「チロルチョコ」のこれまでの 長に就任されたのはいつですか。 変遷をお聞かせいただけますか。 松尾:代表取締役に就任したのは 松尾利彦(以下、松尾) : 「チロルチョ 1991年のことです。 コ」は、福岡県に本社を置く松尾製 社長に就任する前の専務時代か 菓(株)の社長であった私の父が新 ら、私は「三拡運動」というものに 規商品として開発し、 昭和37年(1962 取り組んでまいりました。3つのもの 年)に発売しました。当時は高級品 を拡大しようというわけですが、ま だったチョコレートを、子どもたち ずそのひとつが販売チャネルの拡大 にも買える値段で提供しようと、中 です。従来は駄菓子屋ルートが主流 にヌガーを入れることでコストダウ だったのですが、駄菓子屋が消えて ンを図り、 「10円あったらチロルチョ いく中で、これをコンビニ、スーパー コ」というキャッチフレーズで売り ルートにシフトさせることに力を注 出したのです。 ぎました。現在ではコンビニとスー しかし昭和49年(1974年)の石油 パーがそれぞれ約4割ずつを占めて ショックで値上げせざるを得なくな います。コンビニなどで販売するた り、20円になり30円になると、売り めには商品にバーコードを付ける必 上げが低迷していきました。そこで 要があるため、サイズの制約があり、 もう一度原点に返ろうということ 10円で販売していたものより大きい で、大きさを3分の1にして値段を10 20円チロルが登場することになって、 8 194 2012-7 ○ とつは、大学を卒業してすぐ、2年 採用したり、営業拠点を設けたりし 間、アメリカに留学していた時に触 ておりましたが、2004年には販売・ れた1970年代のアメリカ文化にあり 企画部門を分社化して東京に本社を ます。その頃のアメリカはベトナム 置くチロルチョコ(株)を設立しま 戦争などの影響で、イケイケムード した。今では売り上げも全国的に平 ではなく、幾分疲弊したような、あ 準化しています。 る意味で良き時代でした。アート の世界ではアンディ・ウォーホル 「きなこチョコ」の大ヒットで 知名度・売上高が 飛躍的に向上 やニューシネマが注目を集めていた 頃です。私はそういうものに非常に 魅力を感じ、 「チロルチョコ」をそう いったモダンなブランドに育て上げ ――長年かけて少しずつ、知名度や たいと思い、これまで取り組んでき 売上高が向上してきたわけですね? ました。ほかにはない味であったり、 松尾:全国的な知名度が向上したの キャラクターであったり、一貫して は、 今年10周年を迎える「きなこチョ マイノリティとしての面白さや魅力 コ」の大ヒットが大きかったと思い を追求した商品づくりを目指して ます。これを機に、 「チロルチョコ」 きたのです。それがお客さまにも伝 がコンビニやスーパーに順調に配荷 わっているのではないでしょうか。 されるようになったのです。 ――「きなこチョコ」はどのような 経緯で誕生したのですか。 松尾:私どもではバラエティパック という袋物の詰め合わせ商品を販売 大人にも愛される 個性的なブランドを志向 ――具体的な商品開発のヒントはど Toshihiko Matsuo 1952年生まれ。福岡県出身。1975年、慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、アメリカの 大学に留学。1977年、松尾製菓(株) 入社、1991年、代表取締役社長に就任。趣味はアー トと車と筋トレ。中でもアートに関しては、幼少の頃から絵画を習い、大学でも美術クラブ に所属。アメリカ留学では70年代のアメリカ文化をリアルタイムで体験し、造詣を深めて きた。そのセンスはチロルチョコのパッケージデザイン、コンセプトワーク、CMプランニ ングなどに色濃く反映されている。 こから得られるのですか? 松尾: 「面白そうだ」 「美味しそうだ」 といった自分の琴線に触れるものを 具現化していくのが、私の基本的な 2012-7 194 ○ 9
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