防衛憲法(Wehrverfassung)の概念について ―現代的意味における防衛

防衛憲法(Wehrverfassung)の概念について
―現代的意味における防衛憲法の形成のために―
山 中 倫 太 郎
防衛大学校紀要(社会科学分冊) 第110輯(27.3)別刷
防衛憲法(Wehrverfassung)の概念について
―現代的意味における防衛憲法の形成のために―
山中 倫太郎
はじめに
(1)
問題の背景
Wehrverfassung という語およびそれが指し示す概念は、ドイツの憲法に関
わる文献および実践において、新しいものではない1。日本では、その語は、
「防
衛憲法」(あるいは「軍事憲法」) 2、「防衛組織憲法」 3 および「軍制」 4 などと
多様な形で訳されてきた。
既に1849年3月28日のドイツライヒ憲法(フランクフルト憲法)にお
いて、Wehrverfassung の語および概念は、「ライヒ軍(Reichsheer) の規模お
よび状態は、Wehrverfassungに関する法律によって定められる」
(§12第1
項2文)、あるいは、
「全ドイツにとって等しい共通のWehrverfassungについて、
特別のライヒ法律が制定される」(§16)という条項にみられる。
その後、1919年8月11日のドイツライヒ憲法(ヴァイマル憲法)にお
いて、
「ドイツ国民のWehrverfassungは、特別の同郷的特徴を考慮してライヒ
法律によって統一的に規律される」(79条2文)と定められていたことが注
目されるが、学術文献においても、Wehrverfassung という語は、とりわけ、
憲法史、軍制史および軍事法の分野で用いられ 5、俯瞰的な記述をもたらして
きた。例えば、エルンスト・ルドルフ・フーバー(Ernst Rudolf Huber)は、
「し
かし、防衛秩序(Wehrordnung) は、政治的憲法の単なる表現ではなく、むし
-13-
ろ、国防軍(Wehrmacht)は、同時にVerfassungを形成する諸力のなかでも最
も強力なものである。Wehrverfassung の歴史は、政治的および軍事的な形成
の奇妙な相互作用を示している。」 6 と述べ、国制の軍制規定的な契機と同時に
軍制の国制形成的な契機について印象深い総括をなしている。
Wehrverfassung の 語 お よ び 概 念 に と っ て 画 期 を な し た の は、お そ ら く
1950年代における二度の基本法改正を通じた再軍備であったろう。「連邦
軍を国家の憲法適合的構造へと編入すること(Einordnung)」 7 を主眼とする、
1956年3月19日の基本法改正によって、連邦憲法裁が表現したところに
よれば、
「いわゆるWehrverfassungが基本法に挿入」され、それは「軍隊の設
置(旧87a 条)および命令司令権(65a 条)を定め、Wehrverfassung にお
ける議会の地位を強化し(45a 条、45b 条、49条、59a 条、87a 条)、
諸基本権の制限を授権し(12条、17a 条)、特別の軍防衛行政および軍防
衛裁判権のための憲法上の諸前提を作り出し(87b条、96条3項、96a条)、
軍人の被選挙権を制限し(137条)、内的非常事態における軍隊出動の規律
のための憲法留保を基礎づけた(143条)」8のであった。
これ以降、Wehrverfassung の語は憲法学、国法学および防衛法学の文献に
広くみられるようになったし 9 、連邦軍にとってもう一つの画期ををなした、
1990年代の連邦憲法歳判決にも姿をみせ 10、それが指し示す概念は、実定
法的論議において法的意味をもつものとしてドイツ基本法も立脚する現代憲法
の構成原理との関係でその意味を問題とすべきものとなっている。
以上の例は既に、Wehrverfassung の語および概念が、様々な歴史的文脈に
おいて、また様々な視角の下で、使用され、様々な意味を指し示してきたこと
を示しており、ヨアヒム・ザルツマン(Joachim Salzmann) によれば、この
場合、「主として、行政法的、政治的、制度的および国法的に方向づけられた
考察方法が認められうる」 11 とされている。既に冒頭で示したように日本にお
いてその語が多様な訳語で置き換えられてきたことも、かかる多義性を反映し
ている側面があると考えられる。
こうした多義性自体が興味深い題材であるが、同時に、それとは対照的に一
-14-
貫してみられる傾向にも着目しなくてはなるまい。その傾向とは、Wehrverfassung という語が、国家または憲法の全体に対する、軍隊という部分の関係
の大枠を総括する上で鍵となる概念となってきたことである。
(2) 本稿の目的
Wehrverfassung の語を用いた、かかる含み深い記述の堆積を前にして、現
代の憲法学および防衛法学の立ち位置からは、次のような問いを立てることが
できる。すなわち、現代憲法という与件の下、国家または憲法に対する軍隊の
関係を俯瞰的に総括するためには、Wehrverfassung という語が多義的である
なかでそのいかなる意味および概念を基軸に据え、いかなる概念枠組みを構築
することが実り豊かな研究成果をもたらすであろうか。本稿は、かかる問いに
対して一つの結論を提示することで、日独の比較防衛憲法史研究に関する個別
の研究に対して統合的な視座を提示し、もってかかる個別の諸研究に対する序
章たらしめんとすることを目的とする。
ドイツでは、冒頭で述べたように、Wehrverfassung という語を用いた記述
がしばしばみられ、本文中で具体的に検討してゆくように含蓄深い示唆がもた
らされてきた。けれども、Wehrverfassung という語および概念、並びに、そ
れを用いた概念枠組みそれ自体が研究対象とされることは稀であり、付随的に
触れられるに止まってきた。ましてや、Wehrverfassung の訳語として、防衛
憲法という語が初めて使用されるようになった日本においては、防衛憲法とい
う語および概念それ自体についての研究がなされてこなかった。このような現
状の下にあって、本稿は、ドイツにおける Wehrverfassung という語および概
念に関する断片的な記述の体系的連関を明らかにすることを通じて日本にとっ
ても有意な形で防衛憲法の語および概念を分析し、それを用いた概念枠組みを
構築することを試みる。
なお、既に本稿筆者は、防衛憲法(Wehrverfassung)の語および概念を基
本に据えてドイツにおける憲法と軍隊の関係を全体として把握し、また個別に
分析しようとしてきた12。けれども、Wehrverfassungが多義性を有するなかで、
-15-
防衛憲法、特に実質的意味における防衛憲法の語および概念に着目することが
研究遂行上いかなる意義を有するか、また、かかる概念の礎の上にいかなる枠
組みを構築するかについて正面から検討する十分な機会をもたなかった。本稿
は、それとの関係では、防衛憲法(Wehrverfassung)という語および概念自体
を検討の対象とすることで、かかる諸問題に対する検討を補完するものとして
の位置づけを有する。
(3) 本稿の構成
本稿は、次のような構成による。まず、Wehrverfassung という語が、いか
なる多義性を有しているか、また、それら複数の意味の相互関係を明らかにし
た上で、特に憲法学的分析にとって直接の重要性を有する二つの意味、すなわ
ち、形式的意味における防衛憲法、および実質的意味における防衛憲法の概念
の意義を明らかにする(第1章)。次に、かかる二つの意味があるなかで、実
質的意味における防衛憲法の概念の方を基軸に据えることの研究遂行上の意味
を検討した上で、かかる意味での防衛憲法の概念を基礎に据えて憲法と軍隊の
法的関係を全体として把握するための概念枠組みを明らかにする(第2章)。
最後に、本稿において構築された概念枠組みに依拠した上で、日独の防衛憲法
に関する個別の比較憲法学的研究に対して統一的な課題を提示することにした
い(おわりに)。
1.実質的意味における防衛憲法と形式的意味における防衛憲法
(1) 防衛法または防衛憲法(Wehrverfassung) -法的意味における Wehrverfassung
オットー・ヒンツェ(Otto Hintze) は、1906年の講演において、「すべ
ての国家体制(Staatsverfassung)は、本来的に、戦争体制(Kriegsverfassung)
すなわち軍体制(Heeresverfassung)である」13という命題を提示していたが、
-16-
クラウス・シュテルン(Klaus Stern)は、かかるヒンツェの一言を引いて、
「そ
のことは、国家の状態の記述として用いられる、かの Verfassung 概念のみに
おそらく妥当する。」とコメントした 14 。このような用例は、HeeresverfassungおよびKriegsverfassungが状態を意味するものであったことを示しており、
Wehrverfassungについても同様に考えることができる。かかる意味は、カール・
シュミット(Carl Schmitt)がVerfassungの語の意味を整理したところに従えば、
状態としてのVerfassung15に対応するものといえる。
このような用例に対置され、あるいはそれを特定するのが、Wehrverfassung の語が法を意味する場合である。ヨアヒム・ザルツマンによれば、Wehrverfassung の概念を最初に詳細かつ国法的意味において規定したのは、ロー
レンツ・フォン・シュタイン(Lorenz von Stein)であるとみられ16。そのシュ
タインは、Wehrverfassungは、
「その形式的な概念において、そこにおいて軍
隊が一方で国家の物理的な力の独立した組織体として法律制定権およびその組
織体との間で立つところのすべての諸関係の総体、他方で、それに基づいて法
律制定がこの軍制の創設のための諸条件を定めるところの諸法律のカテゴリー」
を含むと述べている 17。シュタインの説示を例示することが適切か否かは、そ
の説示が意味するところが必ずしも一義的に明確でないので判断し難いところ
があるが、Wehrverfassung の語が法を意味することがあることは、そのよう
な用法が以下に広くみられるように今日において中心的な地位を占めているが
ゆえに疑いがない。
この場合、広義においては、Wehrverfassung が、防衛法(または軍事法)
のすべてを意味している場合がないではない。1955年6月27日のブラン
ク大臣による政府声明において、
「Wehrverfassungの下で、部隊の設置、指揮
および維持に必要な官庁および施設並びにその権限の総体が観念される」 18 と
述べられていたが、マンフレート・レッパー(Manfred Lepper) は、かかる
説明において Wehrverfassung の語が防衛法(または軍事法)のすべてを意味
しているとみた19。このような場合、Wehrverfassungを防衛法(または軍事法)
という語で置き換えるのが適切であろう20。
-17-
かかる広義の意味はあるけれども、Wehrverfassugの語が「防衛憲法」とい
う邦語で置き換えられるべき意味を有する場合の方が通例である。この場合に
おいて、大きくみると、憲法(Verfassung)の語が、形式的意味の憲法(Verfassung im formellen Sinn)および実質的意味の憲法(Verfassung im materiellen Sinn) の 意 味 を 有 す る と い う 一 般 的 な こ と に 対 応 し て、防 衛 憲 法
(Wehrverfassung)も、形式的意味における防衛憲法(Wehrverfassung im
formellen Sinn) を 意 味 す る 場 合 (1) と、実 質 的 意 味 に お け る 防 衛 憲 法)
(Wehrverfassung im materiellen Sinn)を意味する場合 (2) がありうること
になり、実際のところ、憲法学、国法学および防衛法学の文献では、防衛憲法
(Wehrverfassung)の語がいずれの意味でも用いられている。
(2)形式的意味における防衛憲法(Wehrverfassung im formellen Sinn)
第 一 に、防 衛 憲 法 (Wehrverfassung) の 語 は、形 式 的 意 味 の 防 衛 憲 法
(Wehrverfassung im formellen Sinn) を意味している。この意味における防
衛憲法は、「軍隊に関して基本法に取り入れられ、それゆえに憲法的性格を有
する規範」21、「直接憲法のレベルにみられる、防衛法諸規範の部分」22を指し、
あるいは、「軍隊の任務および国家の権力構造へのその編入に関連する憲法規
定を統合的に表す」 23。この種の記述において表現に微妙に違いがみられるも
のの、(形式的意味における)憲法にとり入れられた防衛法規範 24 を指すもの
として形式的意味の防衛憲法が語られていると考えられる。この場合、防衛法
全般のうち、特に形式的意味の憲法として定められたものが防衛憲法というこ
とになるであろう。
この意味で防衛憲法の歴史を概観することは容易である。というのは、(形
式的意味における)憲法という法形式に規定されているものに照準を合わせて、
その歴史を記述してゆけば足りるからである。すなわち、1949年5月8日
の基本法制定に際しては、基本法にはほぼ防衛関連規定が存在しなかったが、
1954年および1956年の2回にわたって防衛関連規定が数多く挿入され
たので、これをもって「防衛憲法の成立」25と捉えることができる。
-18-
(3) 実質的意味における防衛憲法(Wehrverfassung im materiellen Sinn)
次に、形式的意味における防衛憲法の概念に対しては、実質的意味の防衛憲
法 (Wehrverfassung im materiellen Sinn) の 概 念 が 対 置 さ れ、防 衛 憲 法
(Wehrverfassung)の語がこの意味を有する場合もしばしばみられる。例えば、
「防衛憲法とは、国家の選択された防衛形態の国法上の基礎」である 26 とされ
たり、「防衛憲法がすべての防衛法規定の総体」のうち特に「軍隊の基本秩序
を定めるところの部分のみである」ことに一致がある27とまで説かれることもあっ
た。この場合、防衛法全般のうち特に基礎的な法であるものが防衛憲法である
ということになるであろう。
このような実質的意味における防衛憲法は、いくつかの法領域のものに分け
られる。ギュンター・ハーネンフェルト(Günter Hahnenfeld)によれば、
「国
家における軍隊の地位」および「軍隊における市民の地位」 28 を規律するもの
分けられているし、ザルツマンによれば、
「国家と軍隊の間の関係」および「防
衛制度と公民の間の法的関係」を規律するものに区分されている29。さらに、レッ
パーによれば、「防衛憲法は、第一に防衛組織および防衛制度の基礎を把握し
なくてはならない」が、「さらに、防衛憲法は、しかし、個々の軍人の、それ
が奉仕する国家に対する関係も定め、国家指導と国防軍指揮の権限を画定し調
整しなくてはならない」とされる 30。以上の説示からは、憲法全般についてそ
うであるように、防衛憲法にも、少なくとも、①国家組織法の部分31、および、
②基本権の部分があることを看取することができる。このことを踏まえれば、
Wehrverfassungの語が特に①の部分のみを意味している文脈において、
「防衛
組織憲法」という邦語を特にあてることができる。
以上のように、現代において防衛憲法の概念が基本権の領域にも及ぶ概念で
あることは疑いがない。けれども、かつての防衛憲法の概念においては、組織
の側面に重点がおかれる傾向があり、軍隊に対する軍人の法的地位については、
僅かにしか注目されてこなかった 32。ザルツマンによれば、1933年の以前
においては、個人を主体としての公民ではなく客体としてみなす「官憲国家
(Obrigkeitsstaat)」の影響が残存していたこと、また、ナチス以降には、個
-19-
に対して全体を優先させるイデオロギーがあったことがその原因とみられてお
り、33 それ自体、興味深い見方である。戦後に実現された再軍備に際してよう
やく、「制服を着た公民」としての軍人が軍隊の内部秩序においても基本権主
体としての地位を占めることが国法で徹底されるようになった 34。このような
転換は、軍隊と軍人の関係という問題への関心の高まりを反映したものであっ
て、防衛憲法の概念の射程が広がりをみせたことは、そのことの結果であると
考えられる。ザルツマンが示したように、かかる展開を法治国家の理念の発展
として位置づけることができるであろう35。
(4) 両者の関係
これまで検討してきたように、防衛憲法(Wehrverfassung)の語には、形
式的意味における防衛憲法、および実質的意味における防衛憲法の意味がある。
それゆえに、Wehrverfassungの語が防衛憲法の意味を有する場合においても、
さらに「いかなる意味の防衛憲法なのか」が文脈に応じて確定されなくてはな
らない。そのことを踏まえた上で、次に両者の関係を検討する。
まず、実質的意味における防衛憲法は、必ずしも形式的意味における防衛憲
法として存在するとは限らない。すなわち、(その性格をいかに理解するかに
依存するが)憲法判例の他、通常法律以下の下位法令にも、それをいかなる基
準で識別するかという問題はあるにせよ、実質的意味における防衛憲法に該当
する法規範がありうる。
次に、両者の関係は、現代憲法の下において(形式的意味における)憲法の
最高法規性の理念によって規定される。その理念からすれば、形式的意味にお
ける憲法に反する規範は効力を有しないことになるので、形式的意味における
防衛憲法(よりひろく形式的意味における憲法の全体)に違背する、実質的意
味の防衛憲法は存立の余地がないことになる。実質的意味における防衛憲法の
概念に依拠するからといって形式的意味における防衛憲法の最高法規性が軽視
されるわけではない。
以上のような関係の下で、実質的意味における防衛憲法に属する法規範のい
-20-
ずれを形式的意味における防衛憲法として取り込むかが問題となる。レッパー
は、かかる問題を一般憲法学および憲法政策上の問題と考えた36が、比較憲法学、
憲法史学の問題でもあるといえる。というのは、防衛や軍隊についていかなる
事項が(形式的意味における)憲法の規律事項となるかは、立憲民主制諸国家
の比較において、また、その国の憲法伝統との関連でも明らかにされうるから
である。
上述の問題との関連でいえば、シュテルンが「自由で民主的な基本秩序の憲
法は、少なくとも次の問いに対する答えを要求している」と述べ、次の問いを
列挙していることが一つの指標となりうる。「その出動要件を含む、武装兵力
の任務および目的は?」、「義務兵役軍か、志願兵軍か?」、「軍事領域における
基本権の効力は?」、「政治的および軍事的首脳の間の指令および命令権能の配
分、特に統帥権の配属は?」、「議会の統制権限は?」、「超国家的同盟システム
への編入を含む、組織の基本問題は?」 37。ドイツ基本法の下では、かかる諸
問題に対する決定は、1956年3月19日の基本法改正法律を通じて形式的
意味における防衛憲法によって法的に規律されることになったが、同時に、こ
れらの事項に関し、少なくとも基本的で重要な決定にわたる法的規律は、実質
的意味における防衛憲法に属するといえる。
2.憲法全体における防衛憲法の法的地位
(1) 実質的意味における防衛憲法の概念の選択
前章では、防衛憲法(Wehrverfassung)の語が、形式的意味における防衛
憲法を意味する場合と実質的意味における防衛憲法を意味する場合があること
を明らかにした。繰り返しになるが、ドイツの文献において、Wehrverfassung の語が防衛憲法の意味を有する場合においていずれの意味を有するかを
文脈に応じて確定しなければならない。
こうした意味理解の問題とは別に、いずれの意味を基本的に有するものとし
-21-
て防衛憲法(Wehrverfassung)の語を用いることが学術的に豊かな実りをもた
らすかが問題となり、形式的意味における防衛憲法の概念を基軸に据えて研究
を構築する論者と実質的意味における防衛憲法の概念を基軸に据える論者の両
方がある。
形式的意味における防衛憲法の概念を基軸に据えた研究は、形式的意味にお
ける憲法の形式を有する防衛法規範の内容、意味、並びに成立および変動のあ
り方を究明してきた 38 が、そのようにして形式に着目することは、客観的に明
確な対象設定を可能とする。そのことは、形式的意味における防衛憲法におい
て特段に重要な防衛法規定が定められる傾向があることに鑑みれば、かかる重
要な規定に焦点を絞った研究を可能とするし、同時に、形式的意味における憲
法の最高法規性の理念に基づく違憲審査論にとって直接的な関連を有する研究
遂行に途を開く 39。こうした点において、形式的意味における防衛憲法の概念
を基軸に据えることの有用性には否定しがたいものがあると考えられる。
他方、実質的意味における防衛憲法の概念を基軸に据えて研究を実施しよう
とする意欲的な試みもみられる。レッパーは、国家と軍隊の関係を全体として
研究し、その際に、国家全体と軍隊を方法として対置させるためには、国家憲
法との対比で防衛憲法という部分憲法の概念に依拠することが合目的的である
と説いた 40 が、かかる試みにおいては、まずもって実質的意味における、国家
憲法および防衛憲法の概念が出発点に据えられているのである。
以上に既に示されているように、いずれの意味における防衛憲法の概念を基
本にして研究を構築するかは、つまるところ研究の目的および機能の相違に由
来している。そして、本稿は、国家における軍隊の地位を分析すること、特に
法という観点から国家の基本的法秩序において軍隊の基本的法秩序が占める地
位を全体として把握し分析することを課題としているので、かかる課題を遂行
するためには、レッパーと同様に実質的意味における憲法の概念を基本に据え
て概念枠組みを構築することが有益であると考えられる。また、形式的意味に
おける憲法が存在しない国や形式的意味における憲法に防衛関連規定が存しな
いまたは少ない国―日本は、これである―にも共通しうる概念枠組みを設定す
-22-
るためにも、実質的意味における憲法の概念を基本に据えることが有益である
といえよう。
もっとも、実質的意味における防衛憲法の概念を基本に据えることには、大
きな問題も伴う。形式的意味における防衛憲法に該当する防衛法規範として具
体的にいかなるものがあるかは客観的に明確であるのに対して、実質的意味に
おける防衛憲法については、そうではないことである。それゆえに、通常法律
など(形式的意味における)憲法に劣位する法形式を有する防衛法規範につい
て、不当に広範に及び、また、具体的な内容を有するものにも、論者の主観に
基づいて恣意的に実質的意味における防衛憲法の資格が付与されることになり
かねない 41 のである。そのようなことがあれば、実質的意味における防衛憲法
の概念は、研究対象を客観的に確定する機能において問題を残すことになろう
し、また、実質的意味における防衛憲法としての資格づけになんらかの法的効
果が結び付けられるならば、実益に関わる問題となりうる。
しかし、かかる問題に対しては、①いかなる事項における、いかなる内容の
法規範を実質的意味における防衛憲法として位置づけることができるかという
問題は、一般憲法学、憲法史および比較憲法学の成果に基づく論議に服するの
であって、そのことで、防衛憲法としての資格づけに際しての主観性、また、
それに伴うところの恣意性を―完全にではないが―縮減しうること、また、②
実質的意味における防衛憲法としての資格づけに特定の法的効果が結び付けら
れることに対しては、実質的意味における憲法に関する一般的な議論の蓄積と
の関連を踏まえつつ学術的な禁欲を維持することを処方箋として挙げることが
できよう。
以上のように実質的意味における防衛憲法の概念を基本に据えた上で、国家
憲法の全体との対比における部分憲法としての防衛憲法の概念の意義、および、
国家憲法全体における防衛憲法の位置づけが問題となる。これら諸問題につい
て、各々以下の(2)(3)で検討することにしよう。
-23-
(2) 国家憲法と防衛憲法の対置
ドイツの憲法学、国法学および防衛法学の文献において、「国家憲法(Staatsverfassung)」(あるいは「全体憲法 (Gesamtverfassung)」)という語との
対比で、
「部分憲法(Teilverfassung)
」としての防衛憲法が語られたことがあっ
た。例えば、ザルツマンは、国家憲法は部分憲法から構成されているところ、
防衛憲法をそのような国家憲法の「切り抜き(Ausschnitt)」と表現しており
42
、また、ハーネンフェルトは、「防衛憲法は、全体憲法の一部である」 43 とも
説いている 44。かかる説示においては、憲法の全体を意味する国家憲法との対
比において防衛事項に関する構成部分が概念上対置されていることを看取する
ことができよう。
かかる部分憲法として挙げられるのは防衛憲法に限られず、例えば、ザルツ
マンは、財政憲法(Finanzverfassung)、社会憲法 (Sozialverfassung) 、裁判
所憲法(Gerichtsverfassung)、経済憲法(Wirtschaftsverfassung)も挙げて
いる 45。また、かかる部分憲法の概念は、現代ドイツにおける様々な法領域の
文 献 に も 広 く み ら れ る の で あ る。ヘ ル ベ ル ト・ク リ ュー ガ ー (Herbert
Krüger) は、「副憲法的憲法(subkonstitutionelle Verfassung)」という概念
の下、かかる部分憲法それ自体の理論的な意味を検討した46。
かかる部分憲法の語および概念に異議を唱える論者もないではない。例えば、
アドルフ・シューレ (Adolf Schüle) は、「国家の憲法は、正しく理解すると、
不可分の全体であり、それは、個々の部分複合体(財政憲法、経済憲法、防衛
憲法など)に、用語上も、ましてや概念上も解体されてはならない」47という。
確かに、シュミットが憲法概念について分析するところによれば、憲法の語は、
政治的な統一および秩序の全体的状態、あるいは完結した規範システムを意味
することとされ、いずれにせよ全体を意味するものであるとされている48。シュー
レが防衛憲法という語に批判を加えるのは、かかる意味理解に立脚しているか
らであろう。
また、ゲオルク・クリストフ・フォン・ウンルー(Georg-Christoph von
Unruh) の異議にもこれと同様の発想があるものと考えられる。ウンルーは、
-24-
軍隊が国家における全体の部分領域を成すに過ぎず、「『憲法』という表現は、
最高かつ最後の法規範の総体のために残しておかれるべき」であるという理由
で、防衛憲法という表現を避けて、
「防衛秩序(Wehrordnung)」という語49に
依拠している 50。かかる発想も全体を表す憲法という語によって部分を表現す
ることに対する疑念を含んでいると推察される。
けれども、語の問題としていえば、①憲法(Verfassung) が全体を意味する
ということが唯一の正統な意味であるとしても51、防衛憲法(Wehrverfassung)
という語を用いることがそのような意味に抵触すると直ちにいえるか疑問であ
ること、また、②既にみてきたように、現在では防衛憲法の語は広く受容され
ている点からしても防衛憲法という語が誤りであるとまではもはやいえないと
考えられること、③代替案として示されている「防衛秩序」という語では、特
に防衛・軍事事項に関する基礎的な法の秩序に着眼するという視点が希薄にな
りかねないことを挙げることもできよう。また、概念上の問題としていえば、
④防衛憲法という語によって憲法の全体のうち特定の構成部分が特に概念上区
別されるに止まり、それを実体において憲法の全体から分離し解体することま
では意図されていないこと、さらに、⑤憲法という全体を意味する語に対し防
衛憲法という構成部分を意味する語を対置させることは、憲法における全体と
部分の関係に関する分析的な認識に途を開くという積極的意義があること 52 を
反論として挙げることができよう。
⑤の反論に対して、防衛憲法という部分的な概念を立てることでかかる部分
にのみ関心を奪われ、国家憲法の全体における連関を見失ってしまうのではな
いかという批判が考えられる。けれども、かかる問題は、防衛憲法という概念
を立てること自体を否定することによってではなく、より直接に国家憲法にお
ける防衛憲法の法的地位を正しく把握することによって解消されるべきであっ
て、かかる作業は、むしろ防衛憲法という概念を立てることの趣旨(上記⑤参
照)に則ってその概念に従ってこそ、分析的な形でよりよく遂行されうるであ
ろう。
-25-
(3) 国家憲法における防衛憲法の位置づけ
以上のような、国家憲法と防衛憲法という、全体と部分に関する二つの語お
よび概念に依拠することで、両者の関係について次のような俯瞰的な問いを発
することが可能となる。すなわち、国家憲法と防衛憲法はいかなる関係にある
か(あるいは、過去にあったか)という事実認識の問題、また、いかなる関係
にあるべきかという規範的な指針および評価の問題に関する問いである。国家
憲法の事項的な一部として防衛憲法を観念するとしても、そのことから両者の
関係は直ちに定まるものではない 53 ので、両者の関係について特段の検討を要
するであろう。このような関係性について、次のような大きな問いを提起する
ことが可能となる。すなわち、国家憲法全体との間で防衛憲法をいかなる関係
の下に位置づけることが現代立憲国家に相応しいか、という俯瞰的な問いであ
る。かかる問いは、ひいては国家憲法の全体にとって死活的な問いに他ならな
い。
① 国家憲法との法原理整合性の確保
現代立憲主義憲法における防衛憲法のあり方を特定する中心的な要因の一つ
は、程度や様態の差はあれども、国家憲法の構成原理に防衛憲法を服せしめる
こと、言い換えれば、両者の間に法原理における整合性を確保することである
と考えられる。かかる要因は、国家憲法における防衛憲法の地位を規定する。
この場合に、防衛憲法が軍隊に対して有する関係という側面からいえば、ヴォ
ルフガング・マルテンス(Wolfgang Martens) の表現を借りれば、「国防軍を
政治的な基本秩序へとシステム適合的に嵌め込むことを規範的に保障すること
が、防衛憲法のなすべきことである」54ということになろう。
かかる整合性を意識的に徹底した例としてドイツ連邦共和国を挙げることができ
る。そこでは、1956年の基本法改正の手続きを通じて1949年から既に存在し
てきたドイツ連邦共和国基本法の構成諸原理の枠組みのなかに、あらたに創設さ
れる軍隊を編入することが追求されることとなった。すなわち、その基本法改正の
目的として、
「連邦軍を国家の憲法適合的構造へと編入すること」55 が掲げられ、
その際に、「議会は、国家憲法と軍憲法(Heeresverfassung) を調和させる難
-26-
しい課題に直面した」 56 のであった。このような課題は、国家憲法の構成原理
の下に防衛憲法を服せしめ、両者の間に法原理における整合性を確保しようと
するものといえる。
ハーネンフェルトがいうように、「可能なかぎり摩擦なき、防衛憲法の国家
憲法への編入は、昔から、憲法制定者のもっとも難しく、重要でもある諸問題
の1つである。その際、他の部分諸秩序を全体憲法に編入する場合よりもより
大きな困難が生じたことは稀ではない」 57。ドイツ近代憲法史においては、国
家憲法と防衛憲法の関係は、ゲルハルト・シャルンホルスト(Gerhard von
Scharnhorst)やアウグスト・フォン・グナイゼナウ(August von Gneisenau)
らに主導されたプロイセン軍制改革以降も、長い間にわたって国家憲法の構成
原理とは異質な秩序が軍隊において残存しており、その基本秩序は、状態とし
てのWehrverfassugであったか、国家憲法の構成原理とは異質な要素に規定さ
れた防衛憲法であったといえる。ヴァイマル憲法の下における防衛憲法も同様
であって、ライヒ国防軍がヴァイマル憲法が標榜した諸原理とは異質の存在で
あったことは、「国家の中の国家(Staat im Staate)」という標語によって知
られる通りである。こうした時代においては、国家憲法の構成原理との法原理
整合性は、防衛憲法において貫徹されていなかった。
かかる防衛憲法との対比でみれば、1956年の基本法改正以降における防
衛憲法は、現代憲法の構成原理との整合性という点で際立った特徴を有するこ
ととなった。その基本法改正を通じて、国民主権・民主制、権力分立、法治主
義、人権保障および連邦制という、既に所与のものとして1949年の基本法
制定によって確立されていたドイツ基本法の構成諸原理との整合性を有する防
衛憲法の形成が図られたのであった。
② 防衛憲法の「固有法則性」の存在?
他方で、現代立憲主義憲法の下にあっても、軍隊を設置しそれに軍事的任務
を付与する以上、軍隊の任務遂行可能性の確保、言い換えれば、軍隊がまずは
その本来的な任務―国家の軍事防衛―を実効的に遂行できることが要請される。
かかる要請は、防衛憲法に特有の構成原理を基礎づけうる。レッパーがいうよ
-27-
うに、「防衛憲法は、形態および内容において軍事力に課された諸任務によっ
て規定される。軍隊が国家の外的および内的な存立をその存在を脅かす攻撃か
ら保護すべきであるとき、必然的にその構造のために規定された法則性が生ま
れ、それが考慮されなくてはならない」58のである。かかる特有の構成原理は、
防衛憲法の内容、および国家憲法における防衛憲法の地位も規定するであろう。
この場合、「法則性 (Gesetzmäßigkeit)」という表現が意味しているのは、
特に法的な文脈においては 59、国家憲法全体の構成原理のみでは把握しつくす
ことができない構成原理である。かかる法則性の存在が必然であるか否かにつ
いては、現代憲法を構成する法原理の各々との関係で個別具体的かつ実証的に
検討すべき課題であるが、それは防衛憲法の特徴を規定しうるもう一つの中心
的な要因である。
かかる構成原理を代表するものとしてまず挙げられるのが命令と服従の組織
編制原理である。かかる原理は、軍隊の組織構造の特性を規定し、国家憲法の
構成原理との間に頻繁に緊張対立を生ずる。
国家憲法と防衛憲法の間で法原理整合性を徹底して追求しようとしてきたド
イツ連邦共和国においてさえも、軍隊の実効的な任務遂行可能性の維持は、基
本法が要請ないし許容する利益として連邦憲法裁判所によって認められてきた 60。
かかる利益に基礎づけられる形で軍隊の「固有法則性」を承認するか否かが防
衛憲法の様々な個別的領域において解釈論的主題となってきた 61。これについ
ていかなる結論を導くかがドイツ連邦共和国における防衛憲法にあっても主要
な問題となってきたのであった。
以上のような「固有法則性」は、軍隊の固有の動態に結び付く。この点につ
いて、ハーネンフェルトが、防衛憲法を主題とする章において、
「国家の憲法は、
数多くの部分憲法のための枠である。この部分秩序のいずれも、その固有の法
則性およびその固有の動態を有する。」 62 と述べ、動態の問題にも論及してい
ることは示唆的である。かかる固有の動態は、本稿の冒頭で挙げたフーバーの
表現を借りれば、「Verfassung を形成する諸力」となる危険を抱えている。そ
うであるからこそ、国家憲法の枠内において、政治の優位の下に押し止めるた
-28-
めの、憲法保障および政治統制上の特段の必要性が問題となるのであって、現
代の国家憲法全体にとってヴァイタルな課題を提起している。かかる必要性も
また、防衛憲法に特有の法理を基礎づけうるであろう。
むすびに代えて ―現代的意味における防衛憲法の確立に向けて
現代立憲国家は、人権保障、権力分立原則、法治国家(または法の支配)の
原則、責任政治の原則、そして民主主義・国民主権の理念を基調とした現代憲
法の下にある。かかる憲法の全体に防衛憲法をいわば「編入」し、現代憲法の
諸原則と基本的に均質な防衛憲法を形成することに成功した国家は、いわば“現
代的意味における防衛憲法”を有することになるであろう。
むろん、かかる現代的意味における防衛憲法においても、それが軍隊の設置
およびその任務設定を前提とするものである以上、軍隊の任務の実効的な遂行
の必要性を否定するわけにはゆかない。現代憲法の構成原理との関係において
かかる必要性との間でいかに調整を図るかという課題もまた、現代的意味にお
ける防衛憲法それ自体が解決しなければならない問題である。特に、軍隊の任
務が伝統的な軍事的国防から地域的および国際的安全保障へと拡大している現
代国家において、かかる問題はより複雑なものとなった。
それぞれの国家における防衛憲法がいかにして現代的意味における防衛憲法
であることができるかという問題は、それ自体、軍隊を保有する現代立憲国家
が共有する普遍的な課題である。かかる共通の課題について、現代立憲諸国家
は、現代立憲主義という共通の基盤に方向づけられつつ、各々の固有の歴史的
文脈の下でいかなる法の理論と実践を積み上げてきたであろうか。かかる問い
に答えるためには、各国の防衛憲法を個別具体的に検討することを要する。
これについて、本稿筆者は、ドイツ連邦共和国の戦後を題材として、防衛憲
法の実践および理論について法政策および法解釈の両面から分析を加えてきた。
その実践および理論における議論の蓄積においては、現代的意味における防衛
-29-
憲法の確立のための意識的な検討が高い理論水準によって徹底されており、日
本における防衛憲法に関する議論においても共有可能なものがそこには含まれ
ている。それを探し出し、またその示唆を受けながら、日本の防衛憲法に関す
る既存の議論を補完しつつ発展させ、また場合によっては批判的にも評価する
ことは、日本の現代的意味における防衛憲法の確立に向けた試みに他ならない。
そのような試みが求められる防衛法の分野が今なお相当に残されていることは、
日本法に即した個別領域の研究において順次示してゆくことにしたい。
注
Manfred Lepper, Die verfassungsrechtliche Stellung der militärischen Streitkräfte im gewaltenteilenden Rechtsstaat, 1962, S.53. こ の こ と は、Johannes
Heckel, Wehrverfassung und Wehrrecht des Grossdeutschen Reiches, I. Teil,
1939, S.14でも、既に指摘されている。
2
「防衛憲法」と訳している文献として、例えば、小林宏晨『国防の論理』
(日本工業新聞社・
1981年)96頁。
「軍事憲法」という用語がおそらくWehrverfassung の邦訳であると
思われる文献として、小針司『文民統制の憲法学的研究』
(信山社・1990年)158頁。
Wehrverfassungを「防衛憲法」と訳すか「軍事憲法」と訳すかは、Wehrをいかに訳
すかによる。
3
Wehrverfassung の訳語であると思われるものとして、参照、小林、前掲書101および
111頁。
4
水島朝穂『現代軍事法制の研究』(日本評論社・1995年)47頁では、ヴァイマル憲
法におけるWehrverfassungの語は、
「軍制」と訳されている。
5
Vgl. z.B. Heckel, a.a.O.; Ernst Rudolf Huber, Heer und Staat, 2.erweiterte
Aufl., 1943.
6
Huber, a.a.O., S.14.
7
BT-Drucks 2/ 2150, S.1(第16法制度憲法委員会報告書).
8
BVerfGE 90, 286(294)(NATO域外派兵訴訟判決).
9
Wehrverfassungという表題を有する論文および書籍だけでも、例えば、次のようなも
のが挙げられる。
Walter Roemer, Die neue Wehrverfassung, JZ Nr.7(1956)
, S.193ff.;
Wolfgang Martens, Grundgesetz und Wehrverfassung, 1961; Eberhard Barth,
10 Jahre Wehrverfassung im Grundgesetz, DöV Heft 5-6(1966), S.153ff.; Tade
Matthias Spranger, Wehrverfassung im Wandel, 2003; Dieter Wiefielspütz, Reform der Wehrverfassung, 2008.
10
例えば、NATO域外派兵訴訟判決において、
「外交権は、憲法によって、広範に執行
府の権限領域に帰属させられる(・・・)のに対して、Wehrverfassungに関する基本法上の
規定は、武装した軍隊の出動について原則的に議会の関与を予定している。」といわれ
る(BVerfGE 90, 286[381])。
1
-30-
Joachim Salzmann, Der Gedanke des Rechtsstaates in der Wehrverfassung der
Bundesrepublik, 1962, S.10.
12
現在までに公表しているものとして、次のようなものがある。拙稿「ドイツ防衛憲法改革
の概念と論理」赤坂幸一、曽我部真裕(編)
『憲法改革の理念と展開』
(信山社・2012年)
所収191頁以下、拙稿「ドイツ防衛憲法における命令司令権の概念と論理」防衛法研究
36号(2012年)163頁以下、拙稿「ドイツ防衛憲法における基本権保障総論」防衛
法研究37号(2013年)147頁以下。
13
O t t o H i n t z e , S t a a t s v e r f a s s u n g u n d H e e r e s v e r f a s s u n g , i n: G e r h a r d
Oestreich(Hrsg.), Staat und Verfassung, 3.durchgesehene und erweiterte Aufl.,
1970, S.53.
14
Klaus Stern, Das Staatsrecht der Bundesrepulik Deutschland, Bd.2, 1980,
S.844.
15
Vgl. Carl Schmitt, Verfassungslehre, 9.Aufl., 2003, S.3ff.
16
Salzmann, a.a.O., S.10.
17
Lorenz von Stein, Handbuch der Verwaltungslehre, Bd. I, 3.Aufl., 1888, S.279.
18
BT-Steno.Ber.92.Sitzung 27.6.1955, S.5215(A).
19
Lepper, a.a.O., S.53.
20
しかし、そのような意味を示す語としては、既にWehrrecht(防衛法)という語がある。
21
Richard Jaeger, Die wehrrechtlichen Vorschriften des Grundgesetzes(2), BayVBl. Heft 11(1956), S.331.
22
Spranger, a.a.O., S.20.
23
Peter Lerche, Bundeswehr, Wehrverfassung, in: Werner Heun/Martin Honecker/
Martin Morlok/Joachim Wieland(Hrsg.), Evangelisches Staatslexikon, Neuausgabe, 2006, S.288.
24
Lepper, a.a.O., S.52.
25
リヒャルト・イェーガー(Richard Jaeger)は、
「『防衛憲法』の成立」という表題の下、
1954年および1956年に基本法に防衛関連規定が挿入されるまでの経緯を概観し
ている。Richard Jaeger, Die wehrrechtlichen Vorschriften des Grundgesetzes(1),
BayVBl. Heft 10 (1956), S.289f. 26
Vgl. Lepper, a.a.O., S.52.
27
Salzmann, a.a.O., S.9.
28
Günter Hahnenfald, Wehrverfassungsrecht, 1965, S.20.
29
「従って、次の二つの部分内容
Salzmann, a.a.O., S.11. 本文における区分に続けて、
が防衛憲法の本質に属する。一方で、防衛憲法は、国家における、および国家に対す
る軍隊の地位を取り扱う。他方で、防衛憲法は、法的に保護された公民の個人的諸利
益および義務の種類並びに範囲に関する内容であって、防衛組織への個人の従属の程
度を規定するものを含む。」と説かれている。
30
Lepper, a.a.O., S.53.
31
防衛憲法の国家組織法的側面については、基本的には、国家と軍隊の関係という問題
になるが、この場合に、軍防衛行政機構の位置づけが問題となりうる。シュプランガー
は、この点を意識し、形式的意味の防衛憲法の概念に依拠してのものであることに注意
しなければならないが、
「・・・防衛憲法は、もっとも広い意味において軍隊または軍防衛
行政に取り組む、形式憲法の諸規範の総体として理解されなくてはならない」と述べ、
軍防衛行政の問題も防衛憲法の概念の射程に含むことを明確にしている(Spranger, a.a.O.,
。軍隊と軍防衛行政機構の関係については、ドイツ軍制史に着目しただけでも多
S.20)
11
-31-
様なものがあるが、本稿では、軍防衛行政の組織を軍隊との関係でいかなる組織にす
るかも、軍隊の組織の問題に含むものとして整理する。
32
Salzmann, a.a.O., S.11.
33
Vgl. Salzman, a.a.O., S.11.
34
これについては、さしあたり、拙稿「ドイツ防衛憲法における基本権保障総論」150
頁以下、およびそこにおいて参照されている文献を参照されたい。
35
Vgl. Salzmann, a.a.O., insbes. S.11f.
36
Lepper, a.a.O., S.54.
37
Stern, a.a.O., S.850f.
38
Vgl. z.B. Jaeger, a.a.O.(Fn25), S.289ff.
39
例えば、形式的意味における防衛憲法という主題の下、その内容の認識および解釈をす
ることは、裁判所による合憲性審査のみでなく、議会および執行府による憲法適合的
な法令の形成および運用に際して判断を下すための大前提を確定することに他ならない。
また、形式的意味の防衛憲法の制定の歴史的経緯の探究は、立法者意思、およびそれ
が依って立つ歴史的文脈の探究という点で、違憲審査にとって有意味である。
40
Lepper, a.a.O., S.53f.
41
Spranger, a.a.O., S.20 では、軍隊の設置、指揮および使用の根拠として用いられると
いうだけで、通常法律の法規範にも広範に防衛憲法としての資格が付与されることに危
惧が表明されている。
42
Salzmann, a.a.O., S.4. 43
Hahnenfeld, a.a.O., S.15.
44
また、同様の説示として、vgl. Stern, a.a.O., S.848; Klaus Obermayer, Das Leitbild
der Streitkräfte im demokratischen Rechtsstaat, NJW Heft 40(1967), S.1840.
45
Salzmann, a.a.O., S.4.
46
Herbert Krüger, Subkonstitutionelle Verfassungen, DöV 1976 Heft 18, S.613ff.
47
Adolf Schüle, Oberbefehl, Personalausschuβ, Staatsnotstand, JZ 1955, S.465.
48
Schmitt, a.a.O., S.3.
49
テオドール・マウンツ(Theodor Maunz)は、かつて「防衛秩序(Wehrordnung)
」の表
題の下でドイツの防衛制度を解説していた(Theodor Maunz, Deutsches Staatsrecht
7., neubearbitete Aufl., 1958, S.133ff.)。
50
Georg-Christoph von Unruh,Führung und Organisation der Streitkräfte, VVDStRL Heft 26(1968), S.164f.
51
これに対して、レッパーは、防衛憲法という語および概念が成り立ちうる理由として、ゲ
オルク・イェリネック(Georg Jellinek)の用語法を挙げている(Lepper, a.a.O., S. 53f.)。
確かに、イェリネックは、
「あらゆる継続的団体は、それに従って、その意志が形成およ
び実施され、その領域が画定され、それにおいておよびそれに対してその構成員の地
位が規律されるところの秩序を要する。そのような秩序は、
(Georg
Verfassungといわれる。」
Jellinek, Allgemeine Staatslehre, 3.Aufl.(6.Neudruck), 1959, S.505)という。けれ
ども、ここでは、ごく一般的にあらゆる団体のVerfassungについて述べられているので、
そのような説示を防衛憲法の問題に直ちに持ち込むことができるかは疑問である。
52
そのような意義を意識するものとして、vgl. Lepper, a.a.O., S.53f.
53
Vgl. Lepper, a.a.O., S.58f.
54
Martens, a.a.O., S.103.
55
BT-Drucks 2/ 2150, S.1(第16法制度憲法委員会報告書)
56
Eckhart Busch, Staat und Streitkräfte: Grundzüge der Wehrverfassung, in:
-32-
Bernhard Fleckenstein(Hrsg.), Bundeswehr und Industriegesellschaft, 1971,
S.13.
57
Hahnenfeld, a.a.O., S.16.
58
Lepper, a.a.O., S.54.
59
レッパーは、
「固有法則性」の問題の下で軍人の行動および思考様式についても語って
いる(vgl. Lepper, a.a.O., S.55f.)が、ここでは法原理としての意味にのみ着目すること
にする。
60
Z.B. BVerfGE 28, 243(261); BVerfGE 28, 282(292); BVerfGE 44, 197(202).
61
というのは、軍隊に固有の法理を認めるか否かそれ自体が、防衛憲法の各領域におけ
る個別研究において、個別具体的な論点ごとに問題とされてきたからである。命令司令
権の問題としては、行政指揮権との異同をめぐって(拙稿「ドイツ防衛憲法における命
令司令権の概念と論理」)
、また、基本権保障の問題としては、例えば、軍隊の勤務関
係における基本権制限の特有の性格をめぐって(拙稿「ドイツ防衛憲法における基本権
保障総論」159頁以下)
、こうした問題が繰り返し形をかえて立ち現われてきた。
62
Hahnenfeld, a.a.0., S.15.
-33-