インソールの装用が身体動揺に与える影響 ~スマートフォンを三軸加速度計として用いた検討~ キーワード:インソール 身体動揺 スマートフォン ○佐藤 健斗(PO)1)、湯浅 篤(ENG)1)、橋本 紘樹(PO)1) 昆恵介(PO)2) 1) (株)田村義肢製作所 2) 北海道科学大学保健医療学部義肢装具学科 1. はじめに 偏平足の所見のある足では、距骨下関節の過回内によ る低アーチが生じ、それに伴って足部剛性の低下、足指 の把持力の低下および衝撃吸収能の低下等の症状がみ られ、単なる足部変形にとどまらないさまざまな悪影響を 生じさせる1)と言われている。 そのため,偏平足などの低アーチでは、身体のバランス 保持能力の低下につながると考えられる。大澤ら2)は、ア ーチサポートの使用で、裸足と比較して片足立位時の重 心動揺軌跡長の低減を報告している。また、江崎ら3)は、 アーチサポートにより距骨下関節を回外位へ誘導する事 で、片足立位時の重心動揺軌跡長の低減を報告しており、 身体動揺の低減を示唆している。 しかしながら、先行研究の多くは高額な計測機器や大 掛かりな実験装置を用いることでインソールの効果判定を 行っていた。これでは、臨床現場で容易にインソールの 効果判定を行えないという問題点が生じる。 本報告では、臨床の場でデータを容易に蓄積出来そう なスマートフォンに着目した。スマートフォンに内蔵されて いる3軸加速度計を使用し、インソールの装用時と非装用 時で身体動揺の指標として知られる加速度実効値(以下 RMS:Root Mean Square)を算出して、各条件で違 いが出るか調査した。 2.被験者情報、計測の条件等 2-1.被験者情報 計測の被験者情報を(表1)に示す。 清水ら4)の先行研究を参考にすると、男性において立 位アーチ高率が16.4%以下では偏平足変形のある足と 言う事が出来る。被験者の男性は右足で11.8%、左足 で11.6%となっており、著明な偏平足であることがうかが える。 表1 被験者情報 性別・年齢 身長・体重 効き脚 座位足長(mm) 座位舟状骨高(mm) 立位足長(mm) 立位舟状骨高(mm) 座位アーチ高率(%) 立位アーチ高率(%) 舟状骨沈降度(mm) 男性・27 歳 177cm・68kg 右脚 左足 右足 264 260 42 38 270 267 32 31 15.9 14.6 11.8 11.6 10 7 2-2.使用機器 インソール(図1-A)は、弊社標準の徒手による矯正 をかけた採型とし、モデルの修正は基本的には行わず にモデルなりに製作した。製作にはGo-tecインソール システムを使用した。主材料は中硬度のチョコレート色 (ショア硬度58度)のブロック、トップ材にマルチフォーム3 mm(ショア硬度30度)を使用して仕上げた。また、インソ ール非装用時には、インソールと同硬度、同じ厚みのマ ルチフォームのフラット板(図1-B)を靴に入れた。計測 時の靴には、破損等がないことを確認した上で普段履き なれたスニーカーを使用した。 3軸加速度計としてスマートフォン(京セラ製KYL22及 びHTC製 S31HT)を計測機器とした。 A インソール B フラット板 図1 インソールとフラット板 2-3.実験および評価方法 スマートフォンの設置部位は、第3腰椎上(以下:腰部)、 利き脚の大腿骨外側上顆(以下:外側上顆)、利き脚の外 果から近位2cm(以下:外果上)の3カ所とした。身体への 固定は、シリコーンシートの上にスマートフォンを置き、そ の上から荷造り用のフィルムを巻きつけて行った(図2)。 3軸加速度の計測には、フリーアプリの「ACCELERO METER MONITOR」を使用し、重力加速度の除去機 能を使用して計測した。サンプリング周波数は機種の性 能に依存するため、KYL22を使用した腰部は100Hz、 S31HTを使用した下肢の2カ所は、50Hzでの計測とな った。 また、計測時の課題動作は、木村ら5)の報告を参考とし た片脚ドロップジャンプを採用した。20cmの高さから、両 手を胸に当て、片脚で前方30cm四方の枠内に着地、着 地後は出来るだけ片脚立位を保持するように指示した。 今回は課題動作を各条件で10回ずつ行い、その際の加 速度を計測した。各条件、各部で計測された3軸加速度 の生波形から、1回の課題動作ごとに、3軸合成RMSを 算出した。算出された合成RMSの値に有意差があるか Wilcoxonの符号付順位和検定を使用し確認した。 面積とファンクショナルリーチには正の相関があると報告 している。この事より、インソールの装用でアーチを保持し、 足底圧が足底全体に分散され足底感覚閾値の偏りを減ら すのではと考える。また、接触面積を増やす事で、有効な 感覚入力を受ける感覚受容器を増やす結果となり、これ らの要因もRMS低減につながったと考える。 図2 スマートフォンの設置部位 3.結果及び考察 3-1.結果 各部RMSの平均値と検定結果を(表2)に示す。RMS は値が小さければ重心動揺が小さいことを示す。 外果上及び外側上顆において、インソールを装着する ことによりRMSが低減した。腰部においては、有意差は 見られなかった。 今回の結果からは、下肢の2カ所でインソールの効果 が見られたと言える。 表2 各部RMS平均値と検定結果 計測部位 外果上 三軸RMS インソール なし インソール あり 検定結果 (N=10) 9.08±0.45 8.28±0.33 P=0.0069※※ 9.25±0.36 8.75±0.21 P=0.0125※ 10.1±0.41 10.3±0.52 P=0.1394 (m/s2) 外側上顆 三軸RMS (m/s2) 腰部 三軸RMS (m/s2) Mean±SD ※※:インソールの有無で有意差あり(P<0.01) ※:インソールの有無で有意差あり(P<0.05) 3-2.考察 矯正位で製作したインソールを装着することによって、 距骨下関節の過回内が抑えられ、足部剛性が保たれるこ とに繋がり、必要以上の足部の沈み込みを防いだのでは ないかと考える。その影響として、RMSの低減が見られ たのではないかと考えた。 また、建内ら6)はアライメントの変化等で足底圧に偏りが 生じている場合、足底圧の高い部位の足底感覚閾値は 高くなると推察している。また、同一の論文内で足底の接 地面積と重心総軌跡長には負の相関があり、足底の接地 4.おわりに 今回は、インソールの効果を身近なものを使用して、確 かめることが出来ないかと考え、実験に取り組んだ。結果 として高価な機器や大がかりな装置を使用せずにデータ の計測を行うことができ、今回の被験者においてはインソ ール装着によって RMS を減少させる効果を示唆した。 経験や感覚で装具の調整や製作が許されているのが 義肢装具士という立場ではあるが、客観的データを蓄積 して装具の効果を主張することも今後は求められるので はと考える。 選択した課題動作や、スマートフォンの設置位置等の 妥当性を改めて考えた上でデータを蓄積して行き、臨床 の場に生かすことが出来たらと考える。 参考文献 1) 尾田敦:偏平足が運動能力に及ぼす影響に関す る実験的研究 : 足部内側縦アーチの評価と足部 筋力および機能的運動能力との関係,仙台大学 大学院スポーツ科学研究科研究論文集 5, 139-1748,2004. 2) 大澤徹也ら:insole が重心動揺に及ぼす影響 第44回日本理学療法学術大会抄録集, 2009. 3) 江崎太宣ら:距骨下関節の回内誘導が片足立位 時の安定性に及ぼす影響 重心動揺計及び筋電 図による検討 第49回日本理学療法学術大会抄録集, 2014. 4) 清水新悟ら:扁平足に対するフットプリントとアーチ 高率値の信頼性,臨床バイオメカニクス Vol.30, 243-248, 2009. 5) 木村 佳記ら:ドロップジャンプ着地による動的バラ ンス計測:着地直後の重心動揺軌跡解析,スポー ツ傷害(J. sports Injury)Vol.18,55-57,2013. 6) 建内宏重ら:高齢者における足底感覚と足圧分布 および足底接地状態が立位バランス能力に与える 影響,京都大学医学部保健学科紀要 健康科学 Vol.4,25-30,2007. 7) 中野 英樹ら:足底知覚学習トレーニングが. 高齢 者の歩行安定性に及ぼす影響. ―転倒予防を目 的として―,公益財団法人在宅医療助成勇美記 念財団 助成実績報告書,2007. 8) 大坂裕ら:歩行分析における加速度計の適切な装 着位置,理学療法学 Vol.26(6),785-789,2011.
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