日射が与える大分元町石仏への影響 -赤外線サーモグラフィによる調査結果から- Impact of solar radiation will give Oita Motomachi Stone Buddha – From survey results by Infrared Thermography – ◯山路康弘(別府市立鶴見台中学校),伊藤広宣,山村健生(㈱文化財保存活用研究所) ◯Yasuhiro Yamaji ( Tsurumidai junior high school ,Beppu City ), Hironobu Ito,Kensei Yamamura ( The Institute for Conservation and Use of Cultural Heritage,Oita Co.,LTD ) 1.はじめに 近年、大分元町石仏では土壌化が進行し、胸部~腹部~膝周辺の脆弱化が目立つようになった。こ の脆弱化の要因のひとつに「塩類析出」が挙げられる。現在、大分元町石仏では保存整備事業の一環 として、温度湿度測定,表面温度測定などの環境調査や間欠カメラによるモニタリングを実施してい る。これらデータ解析をする中で、塩類の析出には「日射」が影響しているのではないかと考えた。 そのため、赤外線サーモグラフィを用いて、日射が磨崖仏の表面にどの程度影響を与えているのかを 撮影し、解析することとした。また、日射の遮断時も撮影し、比較検討をおこなった。今発表では、 赤外線サーモグラフィがとらえた大分元町石仏へ与える日射の影響について報告する。 2.調査方法 赤外線サーモグラフィは対象物から放出される熱赤外線エネルギ ーを検出し、これを表面温度の分布に変換して、可視画像として表 す。よって、対象物の温度変化を熱赤外線量の変化として可視化す ることができる 1)。今回は日射による磨崖仏の表面温度変動状況を 調査するために、冬場で「日射を遮断しない日」と「日射を遮断し た日」の2回撮影を行った。日射の遮断には黒いビニールで作成し た幕を使用し、 これを大分元町石仏の覆屋入口と窓に設置した(写真 1)。両日とも5時~17 時まで 30 分毎に撮影をおこない、撮影箇所 は塩類の析出が著しい胸部から膝部までの範囲である(写真2, 3)。 写真2 大分元町石仏撮影範囲 写真1 日射遮断状況(覆屋内設置) 写真3 撮影範囲拡大(胸部~膝) 3.調査結果 今回の撮影では 6:30~8:00 頃まで朝日が射し込んだ、写真4と図1に朝日が射し込んだ時の写真 とその時の赤外線サーモグラフィ画像を示した。また、図2と図3は「日射を遮断しない日」と「日 射を遮断した日」の表面温度を示したものである(測定箇所:点a~eは図1に白丸で示した箇所で ある) 。 今回の撮影時間内で日射がよく当たったのは、塩類析出が著しい石仏の右側膝部から台座にかけて であった。図2から 6:30~7:30 にかけて急激に表面温度が上昇し(点eは約 4.4℃上昇) 、その後、 朝日が当たらなくなることで一旦は下降するものの、気温の上昇にともない徐々に表面温度は高くな った(全体的に表面温度は約 3.0℃上昇) 。とくに塩類の析出が著しい点cや点d周辺は表面温度の上 昇が大きいことがわかった。また、各測定箇所間においても約 1.7℃の表面温度差が認められた。こ れら測定結果から、表面温度が著しく上昇する箇所は塩類の析出も著しいため、日射により岩内部に おける水分の蒸散が促進され、これが塩類の析出につながっていると考えられる。 日射を遮断した場合、図2の 6:30~7:30 のような著しく表面温度が上昇する箇所はなく、覆屋内 の温度変化にともない表面温度も緩やかに上昇し、全体的に表面温度は約 1.8℃未満の上昇で、各測 定箇所間の温度差は約 0.8℃と小さい(図3) 。このことから日射を遮ることにより、表面温度の上昇 を緩やかにすることを赤外線サーモグラフィで明らかとした。 c a d b e 写真4 撮影範囲における日射状況 図1 写真4におけるサーモ画像 14.0 14.0 12.0 12.0 10.0 表 面 温 8.0 度 10.0 表 面 温 8.0 度 ( ( ℃ 6.0 ℃ 6.0 ) ) a b 4.0 a b c d 4.0 c d 2.0 2.0 e e 0.0 0.0 5:00 6:00 7:00 8:00 9:00 10:00 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 17:00 図2 「日射を遮断しない日」の表面温度 5:00 6:00 7:00 8:00 9:00 10:00 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 17:00 図3 「日射を遮断した日」の表面温度 4.おわりに 今回の調査結果から、日射によって大分元町石仏の表面温度がどのように変動しているか示すこと ができた。また、日射を遮断することにより表面温度の上昇を緩やかにし、表面温度差を小さくする ことが可能であることも示した。さらに大分元町石仏の劣化要因の一つである塩類析出に関しては、 「表面温度が著しく上昇する箇所」に「塩類の析出が著しい」という関係がみえてきた。今後は季節 ごとの照射範囲やその際の表面温度の変動など詳細な調査をおこない、大分元町石仏の保護ならびに 日射風化を防ぐための一助になればと考えている。 参考文献 1)山路康弘: 「赤外線サーモグラフィによる屋外文化財の劣化診断」 , 『埋蔵文化財の保存・活用におけ る遺構露出展示の成果と課題 報告書』 ,奈良文化財研究所,pp97-104,2009 年
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