グリース阻集器の阻集効率に与えるエアレーション装置の影響

試験・研究
グリース阻集器の阻集効率に与えるエア
レーション装置の影響
Experimental study on influence of the aeration equipment in grease interceptors to
their retention efficiency
川谷 翔二*1、高地 進*2、小早川 香*3、小南 和也*4
1. はじめに
グリース阻集器(以下、阻集器と呼ぶ)の維持管理に
2. 実験装置及び実験方法
2. 1 実験用阻集器
おいて大きな負担となっているのが阻集器の清掃であ
実 験 に は L800mm× W400mm× H600mm( 水 深
る。東京都の立ち入り検査において、排水設備の中で「阻
320mm、実容量100L)のステンレス製の三槽式阻集器
集器の悪臭、浮遊物の状況」の不適率が最も高い事から
を使用した。阻集器の側面1面は透明アクリル樹脂板に
もその負担の大きさがうかがえる。
なっており内部を観察できるようにしている。阻集器の
近年、清掃作業軽減のため、油脂分解菌やオゾン注入
構造・寸法図を図-1に、外観を写真-1に示す。
等によるエアレーション装置が後付けされるケースが増
加している。しかしこうした現場の中には、排水ととも
L- 50x50x3t SUS304
曲げ加工
に阻集されたグリースや残さが阻集器外へと流出する事
例が見受けられ、厨房系の排水管のみならず、共用排水
管、公共下水道管に対しても閉塞等の多大な影響を与え
流入口80A
流出口80A
ることになる。
上面図
SHASE-S 217「グリース阻集器」1)では、エアレー
ション装置の後付けを禁止しており、阻集器と一体とし
て全ての性能を満足することとしている。しかし、油脂
分解菌やオゾンでのエアレーション装置の後付け設置を
認めている地方公共団体があることや、エアレーション
装置が阻集器に与える影響について明確な文献や研究が
少ないため、エアレーション装置の取扱いに苦慮してい
るのが実情である。
62.5
12φ
906X506
L800 X W400 漕内部
200
120
整流板A
3.0t SUS304
200
整流板B
L-50x50x6t
SUS304
100
H 600
653
(320)
80
160
48
整流板C
アンカー穴14φ
側面図
3
透明アクリル板 t15
ゴムパッキン3tx40
100X50X6t SS400
図-1 阻集器の構造・寸法図(寸法単位:㎜)
エアレーション条件を変化させて阻集性能の実験を実施
し、阻集効率への影響及び槽内の挙動に関して検討を行
った結果を報告する。
*1 KAWATANI Shoji:(一財)日本建築総合試験所 試験研究センター 環境部 環境試験室
*2 TAKACHI Susumu:ピーエーシー環境モード(株)、工学博士
*3 KOBAYAKAWA Kaori:(一財)日本建築総合試験所 試験研究センター 環境部 環境試験室 主査
*4 KOMINAMI Kazuya:(一財)日本建築総合試験所 試験研究センター 環境部 部長、博士(工学)
18
242.5
WL
本稿では、エアレーション装置が阻集器の阻集効率に
与える影響を把握することを目的に、実大阻集器を用い、
DT75
100
側面図
GBRC Vol.40 No.3 2015.7
2. 2 エアレーション装置
ョン装置を設置して、送風量、送風箇所を変更した6条
阻集器内底部には槽内に送風できるようにポンプを接
件(条件①~条件⑥)について阻集効率及び阻集状況の
続した送風パイプを設置し、経路上に設置した流量計で
比較を行った。なお、送風パイプの設置位置は各槽の中
送風量を設定した。また送風パイプによる違いを確認す
央とした。また、条件②において、送風パイプの違いに
るために、直径2mmの空気穴を20mmピッチで設けた
よる影響を把握するため、パイプ1とパイプ2で比較実
13Aの塩化ビニル樹脂製のもの(以後、パイプ1と呼ぶ)
験を行った(条件②-2)。
と300μmの空気穴が全面に開いた樹脂製の散気管(以
たい積残さの阻集性能の実験条件を表-1に示す。
後、パイプ2と呼ぶ)の2種類の送風パイプを用意した。
エアレーション装置の全景を写真-2に、送風パイプの全
景を写真-3に示す。
なお、エアレーション装置を使用する場合は油脂分解
菌やオゾン等を投入するのが一般的であるが、本実験で
はエアレーション自体が阻集器の阻集性能に与える影響
や槽内の挙動の把握を目的としているため、それらの分
(1)側面
解菌は投入していない。
(2)上面
写真-1 実験用阻集器
2. 3 実験方法
実験方法はSHASE-S 217に準拠した。実施した実験
項目はたい積残さ及びグリースの阻集性能の2項目と
し、(1)式及び(2)式によりそれぞれの阻集効率を算
出した。実験装置の概要を図-2に示す。
グ リ ー ス の 阻 集 性 能 実 験 で は 流 入 回 数 は70回 と
SHASE-S 217で規定されているが、これは清掃周期を
写真-2 エアレーション装置
考慮してキャパシティも評価するためである。本稿では
写真-3 送風パイプ
(上:パイプ1、下:パイプ2)
阻集性能への影響度合いを評価するため、これまでの実
験経験より、その性能傾向をほぼ把握できる流入回数
流量計
20回を標準とし、一部50回実施した。
貯湯槽
・・・・・・・(1)
送風ポンプ
残さ又はグリース
グリース投入器
投入器
電磁弁
流量調整弁
ここに、
ER:残さの阻集効率[%]
Rt:投入された残さの質量[g]
Re:流出した残さの質量[g]
流入管
阻集器
流出管
採集槽
・・・・・・・(2)
図-2 実験装置の概要
ここに、
EG:グリースの阻集効率[%]
Gt:投入されたグリースの質量[g]
Ge:流出したグリースの質量[g]
表-1 たい積残さの阻集性能における実験条件
送風箇所
送風量
(L/min)
パイプの
設置場所
パイプの
種類
基本
―
―
―
―
①
全槽
0
②
全槽
各槽3 3
③
全槽
各槽2 0
④
全槽
各槽1 0
⑤
1 槽目と2 槽目
各槽3 3
―
⑥
2 槽目
33
―
②-2
全槽
各槽33
条件
3. 実験条件
3. 1 たい積残さの阻集性能
1分間当たりの流入水量は実容量の75%(75L/min)
とし、投入残さの量は1回当たり150gとした。エアレ
ーション装置を設置しないものを基本とし、エアレーシ
特記事項
―
送風しない
―
各槽中央
パイプ1
パイプ2
―
―
―
注)一般的に送風量 100L/min のポンプが多く使われているため、それを 3 槽に均
等分配して最大 33L/min とした。
19
GBRC Vol.40 No.3 2015.7
3. 2 グリースの阻集性能
(1)流入回数20回までの検証
1分間当たりの流入水量はたい積残さの場合と同様の
75L/minとし、投入グリースの量は1回当たり375gとし
た。たい積残さの阻集性能実験と同様にエアレーション
装置を設置しないものを基本とし、送風量を各槽33L/
minに固定して、エアレーションの送風箇所及び送風パ
イプの設置場所の違いによる阻集効率の比較を行った。
表-2 グリースの阻集性能における実験条件
送風箇所
送風量
(L/min)
基本
―
―
A
全槽
条件
B
全槽
C
全槽
D
2槽目
パイプの
設置場所
パイプの
種類
―
―
―
1槽目中央※
残さ②と同条件
1槽目流入口寄り※
―
1槽目流出口寄り※
中央
各槽
33
特記事項
E
2槽目
流入口寄り
F
2槽目
流出口寄り
―
パイプ1
残さ⑥と同条件
―
―
※2 槽目と 3 槽目は中央に設置。
また、グリースの阻集箇所、阻集状態、槽内の挙動を観
察した。
グリースの阻集性能の実験条件を表-2に示す
(2)流入回数50回までの検証
後述する20回までのグリースの阻集性能実験の結果
において、基本条件とエアレーションを行った場合とで
(1)パイプ1
グリースの体積の増加やグリースの阻集傾向に相違がみ
(2)パイプ2
写真-4 エアレーションの状況
られたため、条件Aにおいては、流入回数20回以上の傾
向を見るため、流入回数50回まで実験を実施し、グリ
全槽エアレーション
ースの阻集傾向の確認を行った。
4. 1 たい積残さの阻集性能
(1)送風パイプの比較
条件②と②-2において送風パイプの比較を行った結
果、パイプ1及びパイプ2ともに累積阻集効率で18%と
同程度の結果となった。またパイプ1に比べ、穴径の小
1・2 槽目
2 槽目
全槽
パイプ 2 使用
100
累積阻集効率(%)
4. 実験結果及び考察
エアレーションなし
80
33L/min
60
10L/min
33L/min
送風量
40
各槽
33L/min
20L/min
33L/min
20
98
99
18
32
48
47
62
18
基本
①
②
③
④
⑤
⑥
②-2
0
さいパイプ2ではより細かい気泡が出ることが予想され
条件
図-3 たい積残さ阻集性能測定結果
たが、本実験での送風量では、双方のパイプから排出さ
れる気泡の状態に大きな違いはないことから、以後の実
験はパイプ1で行うこととした。各パイプでのエアレー
ション状況を写真-4に示す。
流出側
流入側
(2)阻集効率及び阻集状況の比較
30回分のたい積残さの累積阻集効率測定結果を図-3
に、たい積残さの阻集状況を写真-5に示す。基本条件で
は98%、条件①も99%と高い阻集効率となった。条件
①の阻集効率がわずかに上がったのは、送風パイプを阻
(1)条件①
集器内底部に設置するため、残さが送風パイプに堰き止
められたものと考えられる。
エアレーションを実施した場合、いずれの条件も阻集
流出側
流入側
効率が低下した。特に条件②では、阻集効率18%と極
端に低下し、基本条件の1/5程度となった。
送風量で比較する(条件②~④)と送風量が多いほど
阻集効率が低下し、条件②で阻集効率18%、条件③で
32%、条件④で48%となった。
(2)条件②
写真-5 たい積残さの阻集状況
20
GBRC Vol.40 No.3 2015.7
送風箇所で比較する(条件②、⑤、⑥)と、送風箇所
性能を大きく低下させることが確認できた。
が多いほど阻集効率が低下し、条件②で、18%、条件
⑤で47%、条件⑥で62%となった。
100
基本
これらの結果より、エアレーションの実施はたい積残
たエアレーションを行う槽数が多いほどその影響が大き
くなることが確認された。
また、阻集状況も条件①では1槽目、2槽目にほとん
条件A
各回阻集効率(%)
さの阻集性能を大きく低下させ、送風量が多いほど、ま
90
B
C
D
80
E
どの残さが阻集されているが、エアレーションを行った
F
条件②では最終槽(3槽目)まで残さが到達しているこ
70
0
とから、エアレーションを行えば残さが阻集器内で攪拌
積阻集効率で98%となった。エアレーションを行うと、
累積阻集効率(%)
基本条件では阻集効率は安定しており、20回目の累
20
100
4. 2 グリースの阻集性能
効率測定結果を図-5に示す。
15
図-4 グリースの各回阻集効率測定結果
できた。
グリースの各回阻集効率測定結果を図-4に、累積阻集
10
流入回数(回)
され、水流によって流出しやすい状態になることが確認
(1)阻集効率の比較
5
基本
条件A
90
B
C
D
80
E
F
全ての条件で阻集効率は低下した。また流入回数を重ね
70
ても阻集効率は安定せず、初期段階では著しく低下する
0
5
10
15
20
流入回数(回)
ものの、5 ~ 10回程度を過ぎると性能が回復する傾向
図-5 グリースの累積阻集効率測定結果
が見られた。これはグリースが阻集器内にある程度溜ま
ると、グリースの層が形成され、投入されたグリースが
100
着しやすくなり、その結果としてグリースの流出量が減
少するためと考えられる。
送風箇所で比較した場合、エアレーションを全槽で行
うもの(条件A ~ C)よりも、2槽目のみで行うもの(条
累積阻集効率(%)
エアレーションによる上昇水流によってグリース層に付
基本
90
条件A
80
条件D
件D ~ F)の方が阻集効率が低下した。送風パイプを槽
の中央に設置したもので比較する(図-6)と、条件Aの
70
0
5
20回目の累積阻集効率が91%であるのに対して、条件D
10
15
20
流入回数(回)
では81%まで低下した。これはたい積残さの結果とは
図-6 送風箇所での比較
逆であり、単純にエアレーションを行う槽数だけが性能
100
また、送風パイプの設置場所を槽の流入口寄り、中央、
流出口寄りと変えて比較した場合、すべての条件で、流
出口寄り、流入口寄り、中央の順で阻集効率が低下する
傾向がみられた。2槽目のみエアレーションを実施した
もので比較する(図-7)と、条件Dで累積阻集効率81%
累積阻集効率(%)
低下の原因ではないと推測される。
基本
90
条件D
条件E
80
条件F
条件Eで83%、条件Fで91%という結果となった。これ
はエアレーション装置の設置場所によって槽内に生じる
水流が異なることが大きな原因であると思われる。
いずれの場合でも、エアレーションはグリースの阻集
70
0
5
10
15
20
流入回数(回)
図-7 設置場所での比較
21
GBRC Vol.40 No.3 2015.7
(2)槽内挙動の比較
各条件の試験終了後のグリースの阻集状況を写真-6に
示す。
条件Bでは1槽目の流入口寄りに送風パイプを設置し
ているため2槽目への移流が助長され、2槽目により多
くのグリースが阻集される結果となった。また、基本条
(1)基本条件
(2)条件B
件と阻集されたグリースを比較すると、エアレーション
を行った条件Bの方が気泡を含んでいるためグリースの
見掛けの体積が増していることが確認された。
条件Cでは一般的な阻集位置である2槽目とは異なり、
1槽目にグリースが多く溜まる結果となった。これは1
槽目の流出口寄りに送風パイプが設置されているため、
グリースが2槽目に移流する前にエアレーションの上昇
(3)条件C
(4)条件D
(5)条件E
(6)条件F
水流によって浮き上がり、1槽目にグリースが阻集され
やすくなったためと考えられる。
1槽目でエアレーションを行わない条件D ~ Fでは、
どの条件においてもグリースは2槽目で阻集された。条
件Dでは最終槽(3槽目)までグリースが流れており、
阻集効率も低いことから、最終槽へのグリースの移流が
写真-6 グリースの阻集状況(左:流入側、右:流出側)
阻集効率に大きく影響を与えていることがわかる。
以上の結果より、エアレーションを行った際のグリー
スの阻集位置は送風パイプの設置位置によって大きく異
なることが確認できた。これは阻集器内でのエアレーシ
流入側
ョンに起因した槽内の水流がパイプの設置場所によって
流出側
大きく異なることによるものと推測される。
(3)流入回数50回の阻集効率実験結果
条件Aにおいて実施した流入回数50回目までの測定結
果を図-8に、試験終了後のグリースの阻集状況を写真-7
に示す。20回目を超えた後も性能は少しずつ回復傾向
写真-7 グリースの阻集状況(条件A、50回目)
を示すが、30回目前後から少しずつグリースの流出が
多くなり、阻集効率の低下を招いていることが確認でき
た。これは1槽目にエアレーションを実施したことによ
100
ぎたあたりから1槽目の阻集限界に到達し、流出してし
まったためと考えられる。
以上の結果より、グリース内におけるエアレーション
は初期性能の低下のみならず、グリースの見掛けの体積
阻集効率(%)
り、グリースが1槽目に集中して阻集され、30回目を過
90
各回
累積
80
の増加により、グリースの阻集限界を早めてしまう恐れ
があることが確認できた。
70
0
5. おわりに
阻集器にエアレーション装置を付加した場合の阻集性
能への影響を検討するため、実大阻集器を用いて実験を
行った。その結果、エアレーションはたい積残さ及びグ
22
10
20
30
40
流入回数(回)
図-8 50回のグリース阻集性能測定結果
50
GBRC Vol.40 No.3 2015.7
リースの阻集性能を低下させることが確認できた。その
影響は、たい積残さでは送風量やエアレーションを行う
槽数、グリースでは槽数だけでなく、送風パイプの設置
位置などの細かい条件によっても変化した。
また、エアレーション装置の付加は阻集効率だけでな
くグリースの阻集場所や阻集されたグリースの状態な
ど、槽内の挙動にも大きな影響があることが確認できた。
なお本稿は、既発表の参考文献2)及び3)の内容を
中心にして、関連した実験データ等追加して再編したも
のである。
【参考文献】
1)SHASE-S 217-2008「グリース阻集器」,空気調和・衛生工
学会
2)川谷翔二・高地 進・小早川香・小南和也:グリース阻集
器におけるエアレーション装置が阻集効率に与える影響,日
本建築学会学術講演梗概集(近畿),pp.653-654,2014年
3)川谷翔二・高地 進・小早川香・小南和也:グリース阻集
器にエアレーション装置を付加した場合の阻集性能の変化と
槽内挙動に関する検討,空気調和・衛生工学会論文集(東北),
pp.241-244,2014年
【執筆者】
*1 川谷 翔二
(KAWATANI Shoji)
*2 高地 進
*3 小早川 香
(TAKACHI Susumu) (KOBAYAKAWA Kaori)
*4 小南 和也
(KOMINAMI Kazuya)
23