世田谷区パートナーシップの宣誓の取り扱いに関する要綱と渋谷区条例との違い 伊藤久雄(認定NPOまちぽっと理事) ■ 世田谷区の要綱 東京新聞に、以下のような記事が 7 月 29 日の夕方に掲載された。 =東京新聞=「同性カップル 世田谷も「公認」 区が公的書類発行へ」 東京都世田谷区は29日、同性カップルの宣誓を認める公的書類を発行すると定めた要 綱案を区議会に報告した。要綱案には区の発行する書類の具体的な効力は明記されてい ないが、公的機関が同性カップルを承認する制度が広がることで、性的少数者(LGB T)への偏見や不利益の解消が進むことが期待される。区は11月をめどに書類を発行 する方針。 http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015072902000234.html?utm_so urce=dlvr.it&utm_medium=twitter 要綱案によると、同性カップルが区にパートナーであることを宣誓し、区が押印した宣 誓書の写しと、受領の証書を交付する。宣誓するには、双方が 20 歳以上で区内に居住する か、一方が区内に住み、もう一方が転入を予定していることなどが条件。区が 10 年間、宣 誓書を保管する。 ○世田谷区パートナーシップの宣誓の織り扱いに関する要綱 ■ ⇒別紙参照 世田谷区(要綱)と渋谷区(条例)の違い 世田谷区と渋谷区の渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例(同性カ ップルへのパートナーシップ制度)の違いを 3 つある(この項は、LGBT 法連合会 Life Media2015/7/29 ① を参考にした)。 世田谷区は要綱 渋谷区の同性パートナーシップ制度は条例 に盛り込んだものであったが、世田谷区の同性 パートナーシップは“要綱”である。 ② 世田谷区は申請に公正証書が必要ない(無料で簡単) 渋谷区が発行する「パートナーシップ証明」は次のような手続きが必要である。 (区が行うパートナーシップ証明) 第 10 条 1・区長は、第 4 条に規定する理念に基づき、公序良俗に反しない限りにおいて、 パートナーシップに関する証明(以下「パートナーシップ証明」という。)をすることが できる。 2・区長は、前項のパートナーシップ証明を行う場合は、次の各号に掲げる事項を確認す るものとする。ただし、区長が特に理由があると認めるときは、この限りでない。 (1)当事者双方が、相互に相手方当事者を任意後見契約に関する法律(平成11年法 律第150号)第2条第3号に規定する任意後見受任者の一人とする任意後見契 約に係る公正証書を作成し、かつ、登記を行っていること。 (2)共同生活を営むに当たり、当事者間において、区規則で定める事項についての合 意契約が公正証書により交わされていること。 3・前項に定めるもののほか、パートナーシップ証明の申請手続その他必要な事項は、区 規則で定める。 以上のように、渋谷区でパートナーシップ制度を申請するためには、カップルの間で結 んだ公正証書が必要となる。この公正証書は行政書士などのプロを雇ったりなどし、公証 役場などにも行く必要がある。任意後見契約が大体 1 名 20,000 円だとしても、2 名で約 40,000 円の費用がかかる。 それが、世田谷区では無料で、カップルの 2 人が宣誓さえすれば公的書類の交付を簡単 に受けることができる(パートナーシップ宣誓書、パートナーシップ宣誓書は別紙)。 ③ 制度に違反した事業者名を公表するかどうかの有無 ○渋谷区 – 渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例 ⇒https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kusei/jorei/jorei/pdf/danjo_tayosei.pdf (事業者の責務) 第7条 3・事業者は、男女の別による、又は性的少数者であることによる一切の差別を行っては ならない。 渋谷区の条例では、事業者の責務を定め、同性パートナーシップ制度に違反した事業者 名を公表することを条例に盛り込んでいる。しかし世田谷区の同性パートナーシップでは そのような決まりはない。実際に次のような質疑が区議会の区民生活常任委員会で行われ た。 =東京新聞= この日開かれた区議会区民生活常任委員会では、区議が「宣誓書を見せれば、事業者が 対応をするといった具体的効果を考えなければ理念にとどまるのでは」と質問。 区側は「性的少数者に基礎自治体が向き合い、啓発の第一歩となることに意味がある」 と要綱の意義を強調した。 賃貸住宅の入居を断られたり、病院での家族の面会、生命保険など、同性カップルだか らという理由で断られた場合、渋谷区の制度なら事業者名を公表されることがあるが、世 田谷区はそのようなことは要綱には明記されていない。 ④ 渋谷は 10 月から「証明書」、世田谷区は 11 月から「宣誓受領証」発行 渋谷区は今年 2015 年 4 月に同性パートナーシップを認める条例を施行する予定であるの で、10 月から証明書の発行が行われる。世田谷区は 7 月 29 日に要綱を区議会に報告し、 11 月に宣誓書を受付し、受領証書が発行されるようになる。 ■ 今後の課題 渋谷区は今年 2015 年 4 月に同性パートナーシップを認める条例が施行されるが、10 月 から証明書の発行が行われる。世田谷区は本日 7 月 29 日に要綱を区議会に報告し、11 月に 宣誓書&受領証書が発行されるようになる。 LGBT 法連合会( Life Media2015/7/29)は、総論として次のように述べている。 世田谷区の同性パートナーシップは、法令ではなく要綱である。社会的インパクトとい う意味で日本の同性愛者の権利獲得に繋がるので、今の日本の同性愛者たちに必要なもの であることは間違いない。しかし、渋谷区と同じ、もしくは渋谷区よりもより法的効力は 薄いものになる。とはいえ、渋谷区のパートナーシップ制度でたびたび批判を生んでいた” なぜ証明書を手に入れるのにお金がかかるんだ”という点をクリアしたという点で、日本 において画期的である。今後も、他の市区町村なども動き出すことでより制度が磨かれて いき、より多くの同性愛者や LGBT の人たちが暮らしやすい社会になっていって欲しい。 LGBT 法連合会(性的指向および性自認等により困難を抱えている当事者等に対する法 整備のための全国連合会)は、「日本における性的指向および性自認を理由とする困難を解 消する地方自治体の施策」一覧表を作成し、公表している。 ○日本における性的指向および性自認を理由とする困難を解消する地方自治体の施策 ⇒http://lgbtetc.jp/pdf/data02.pdf これら自治体が男女共同(平等)参画や人権指針等における基本的な理念の表明からさ らにすすめて、渋谷区や世田谷区を超える制度をつくり出すことが期待される。なお LGBT 法連合会は、 「LGBT 差別禁止法」に対する考え方を発表している。LGBT に対する世界的 な潮流も大きく変わりつつある。法制定とともに、自治体政策の進化(深化)と具体化が 問われている。
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