平成27年10月 第742号 第4回 SJAC講演会を開催 -サイバーセキュリティ問題の現状と標的型サイバー攻撃への対処法- (一社)日本航空宇宙工業会では、去る9月3日富士通市ヶ谷事務所において平成27年 度第4回SJAC講演会を開催した。講師としてNPO日本ネットワークセキュリティ協会 (JNSA)「脅威を持続的に研究するWG」から岡谷 貢氏、大森 雅司氏、高倉 弘喜氏、有 村 浩一氏、本川 祐治氏、前田 典彦氏の6名の方をお招きして講演をいただいた。聴講者 は会員企業・団体から70名を超える参加があった。 講演の内容は①サイバー空間の全体像、②最近のサイバー事例とサイバー攻撃の現状、 ③設計思想の本質にかかわる米国での自動車の乗っ取り事例の紹介など多岐にわたった。 1.講演内容 ・最初に、2000年頃の情報セキュリティから ・年金機構を攻撃した標的型サイバー攻撃を 例に最近のサイバー攻撃の状況について 近年のサイバーセキュリティへの変遷につ 様々な観点から広く解説をいただいた。 いて説明いただき、現在では国家レベルで 標的型攻撃は第一段階となる外部からのな サイバーセキュリティへの対応に軸足が置 りすましメール等による侵入、第二∼三段 かれている状況について説明された。国に 階の攻撃基盤の構築、システム調査段階、 おいてはサイバーセキュリティ基本法制定 最終段階となる、情報漏えいの4段階から に伴い、組織的にも内閣官房情報セキュリ なる。この攻撃を防止するために重要なの ティセンターから内閣サイバーセキュリ は秩序あるシステムの構築であり、それこ ティセンターへと変わり、サイバーセキュ そがセキュリティ対策の要である。具体的 リティ戦略の取り纏めを行う形となった。 には、通信の流れを明確にし、各段階での 時代もサイバー領域問題の時代へと変化し 攻撃とそれに対する対処を明確にするとと ており、問題の焦点は①国家の秘密の搾取 もに重要なシステムへのアクセスを限定す ②航空業界も含まれる基幹的な社会インフ ることが必要である。注目すべきは、年金 ラシステムの破壊③軍事システムの妨害を 機構への攻撃は一例に過ぎず、攻撃事例は 意図したサイバー攻撃等へと変化してい 減少することなく現在も継続的に行われて る。脅威は意図と環境と技術の融合であり、 いる事実である。この事実から、守る側は どの種の攻撃が重要な脅威につながる特別 IPA(独立行政法人 情報処理推進機構) な攻撃であるのかを“識別”することが重 等が発刊している各種マニュアル等に基づ 要となる。先般の年金機構の事象を契機と いて組織的な対処を継続的かつ適切に行う して、政府機関では、独立行政法人、特殊 ことが必要である。 法人までを含めたサイバーセキュリティ対 策の抜本的な強化を図ることとした。 ・最後に、ハッカーによる自動車の制御シス テムへの侵入事例を取り上げ、サイバー攻 1 トピックス 撃の現状を解説した。外部インターネット 2.おわりに から制御用のネットワークへ接続可能と 今回、セキュリティの広い範囲に渡って講 なっているにも係らず、設計者がそれを認 演を頂いた。何れの話題も最近の話題を中心 識せず侵入防止の対策を講じなかった結 に興味深いものであった。特に、電子化が進 果、外部からの侵入を許したのであった。 む航空機においてもサイバー攻撃に晒される 航空機もコンピュータ化された結果、自動 可能性がある。今後、航空機分野でのICT利 車と同様に、サイバー攻撃にさらされる可 用はさらに拡大し、それにつれてソフトウェ 能性が高くなっており十分な注意が必要で アの信頼性向上と認証を含む低コスト化、サ ある。複数の機能を1つに纏める場合ある イバー攻撃耐性の強化が重要な課題となるの いは1つのCPUを複数の制御モジュールで で、設計段階から十分な注意が必要であるこ 使用する場合等には、安全確保とコンパク となど示唆に富む内容であった。 ト化のバランスを保って設計を進める必要 がある。 〔(一社)日本航空宇宙工業会 EDIセンター事務局 部長 土橋 俊夫〕 2
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