食用バラ肉部位の肋骨三次元位置および形状推定手法

第 18 回画像の認識・理解シンポジウム
食用バラ肉部位の肋骨三次元位置および形状推定手法
西 卓郎1,a)
平川 敬幸2
吉見 隆1
高瀬 竜一1
河井 良浩1
1. はじめに
食肉の加工工程において,皮,内臓,頭部,四肢の先端
を取り除いた状態の骨付き肉(枝肉)から背骨や肋骨等を
除去する脱骨作業は,現在,多数の人手によって行われて
いる.この作業は高度な技能を要する重労働であり,省力
化や労働力確保の観点から,自動化が強く望まれている.
これまでに,枝肉からの背骨の除去 [1] や,豚もも肉や
鶏むね肉を対象とした脱骨 [2][3] については,自動システ
ムが開発,市販されているが,豚バラ肉からの肋骨の脱骨
は,対象物の目視の困難さと形状の多様さが主要因となり,
自動化がいまだ実現されていない [4].
このことから本研究では,豚肉に対する肋骨脱骨作業の
自動化を目的として,豚バラ肉での肋骨の位置および形状
を推定する手法を開発することとした.
本稿ではこの研究の中間成果を報告する.
2. 位置および形状推定アルゴリズム
図 1
Position and shape estimation algorithm
肋骨位置,形状推定アルゴリズムの概要を図 1 に示す.
豚肋骨の三次元位置および形状推定は,対象物を可視光
の位置,形状を正確に推定している.胸腔面の三次元形状
で計測して得られる表面三次元形状と,背骨と肋骨の形状
を子細に観察すると,肋骨が存在している付近の肉の形状
の変形範囲を確率モデルで表現する Active shape model
は他に比べて局所的に盛り上がっていることが多く,この
(ASM)[5] を組み合わせて行う.現時点においては,このう
凹凸情報を手がかりとし,経験則を加えて肋骨の位置,形
ち,表面三次元形状を用いた位置,形状推定(図 1-1.–3.)
状の推定を行っているものと推測できる.
および,ASM の構築(図 1-a.–b.)が完了している.
これらのことから本研究では,安価に構築でき運用管理
も容易なステレオビジョンシステムで三次元表面形状を計
2.1 表面形状特徴を用いた肋骨位置,形状推定
枝肉状態のバラ肉での肋骨は,肉の内部に埋没しており,
測し,肋骨の位置,形状推定に用いることとした.
2.1.1 三次元復元と再投影画像の作成
表面からその位置を直接観測することはできない.このよ
凹型をなす対象物の表面形状は,8 台のカメラからなる
うな物体を観測するためには,X 線などを用いた透視検査
4 セットのステレオビジョンシステムにより,背骨方向と
を行うことが一般的であるが,X 線透視撮像装置は非常に
平行に 250mm の範囲で 2 回に分けて撮像され,各カメラ
高価であり,放射線防曝対策など運用管理にかかる直接的,
セット,撮像箇所ごとに三次元復元される.(図 1-1.)
間接的な費用および労力も高くなりがちである.
一方,脱骨作業に際し,熟練者はほぼ目視のみで各肋骨
このように多視点から得られた三次元点群は,位置によ
り点の密度が異なり,また画素間の隣接構造も失われるた
め,ウィンドウ処理などを効率よく行うことが難しくな
1
2
a)
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 知能システム研究部門
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株式会社ニッコー システム部
〒 084–0924 北海道釧路市鶴野 110–1
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る.そこで本研究では,図 2 に示すように,対象物の点群
の三次元座標を中心位置と半径が可変な短冊状の円柱で近
似し,中心位置の移動距離 u と円筒上の一点からの弧長 v
をパラメータとする平面に再投影することで,点密度の均
1
第 18 回画像の認識・理解シンポジウム
表 1
Experimental results
状態
主原因
成功
-
失敗
サンプル数
%
874
89.6
終端(背側)欠落
19
1.9
中間補間位置ずれ
19
1.9
先端(腹側)位置ずれ
63
6.5
計
975
肋骨の位置,形状の変化を確率として表すことが可能なモ
デルを作成した.(図 1-b.)
図 2
Adaptive cylinder fitting
このモデルを用いて両端位置の連結および中間形状の推
一化と各画素間の隣接関係の構成を行い,後続の処理に用
定を行う手法の開発が現在進行中である.
いることとした.
3. 実験結果および考察
胸腔面の凹凸は,微細な形状変化に影響されることなく
安定的に取得できるよう,上述の平面上で大きさの異なる
2.1 節で述べたアルゴリズムを用い,975 体のサンプルに
2 種類のウィンドウを用いて画素ごとに式 (1) に示すパラ
対して肋骨の検出実験を行った結果を表 1 に示す.位置お
メトリック二次曲面へのあてはめを行い,円柱の中心から
よび形状推定の結果の判定は目視と触診により行った.
の 2 組のあてはめ結果の距離の差で表現するようにした.
が,いずれも前工程の不良により前提となる形状が崩れた
(図 1-2.)
Pi = Ai u2 + Bi v 2 + Ci uv + Di u + Ei v + Fi
先端(腹側)検出結果の位置ずれが 63 例発生している
ことが原因であり,これを除外した場合の推定成功率は
(1)
ここで,Pi {i|0, 1, 2} は各画素の三次元座標値を表す.
2.1.2 肋骨両端位置および中間形状の推定
95.8%となる.
それぞれ 19 例ずつ発生している終端(背側)の欠落お
よび中間形状の補間位置ずれに関しては,いずれも肋骨近
肋骨両端の検出は上述の再投影画像上の凹凸情報を用い
傍の凹凸差が小さく平坦な形状となっていたことが原因で
て行い,加えて,肋骨の間隔の周期性を利用して誤検出や
あった.この問題は 2.2 節で述べた ASM を用い,位置,形
欠落を低減する処理を行っている.
状の推定結果を大域的に評価および補正することで解決可
ただしこの手法でも両端の誤検出や欠落は発生しうるた
め,本研究では,両端の組み合わせと,対象物の頭側 1 本
目の肋骨との位置,長さおよび角度の関係について,およ
能であると予想できる.
4. おわりに
そ 100 体のサンプルから得られた統計値と比較し,対象物
食肉生産現場に自動脱骨システムを導入するには,肋骨
全体で統計値との差異が最小になるよう最適化すること
位置および形状推定に最低でも 98%程度の成功率が要求さ
で,肋骨両端位置を正しく推定できるようにした.
れる.今後,本稿にて開発中とした手法を完成させること
肋骨の中間形状は,経験則に基づき,肋骨の両端位置を
で要求水準以上の推定精度を目指し,別途開発した機構,
再投影平面上で結んだ直線が近傍の連続する凸部分の尾根
制御手法とあわせて,大規模実証試験を通して信頼性等の
線の形状になるべく沿うように屈曲させることで決定する
評価を行う予定である.
ようにした.(図 1-3.)
参考文献
2.2 X 線 CT 画像に基づく肋骨形状モデル
2.1.2 節で述べた両端位置の組み合わせ決定手法および中
間形状の決定手法は特徴量の局所的な関係に着目したもの
であり,対象物の品種や育生状況になどによる各パラメー
[1]
[2]
[3]
タの変動量が不明瞭となる欠点がある.
本研究ではこの問題を解決し,対象物の品種や育生状況
に変更が生じた場合においてもパラメータチューニングを
[4]
容易にするため,各肋骨の形状の関係を ASM を用いて大
域的に表現することを試みている.
サンプル 32 体の X 線 CT 画像から脊柱および肋骨を抽
出して 1 サンプルあたり 960 次元の特徴ベクトルを持つ幾
[5]
佐藤厚,食肉生産技術研究組合(出願人)
,“脊柱除去方法
および脊柱除去装置”, 特許 4126027 号, 2004.
始関修一,“全自動チキン脱骨システム”, 冷凍, vol. 80,
no. 936, pp. 849–852, 2005.
豊嶋勝美,海野達哉,松本浩輔,後藤修,木村憲一郎,“(2)
豚もも部位自動除骨ロボットの開発 (技術, 日本機械学会
賞〔2013 年度 (平成 25 年度) 審査経過報告〕)“, 日本機械
学会誌, vol. 117, no. 1146, p. 294, 2014.
S. Barbut, Review: Automation and meat quality-global
challenges., Meat science, vol. 96, no. 1, pp. 335–345,
2014.
T. F. Cootes, C. J. Taylor, D. H. Cooper and J. Graham, Active shape models-their training and application,
Computer vision and image understanding, vol. 61, no. 1,
pp. 38–59, 1995.
何モデルを作成し,これを主成分分析することで,脊柱と
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