メランコリックな獅子 ∼ジュリアン・ドレ ∼ 大野修平(シャンソン評論家)

精悍で、メランコリックな獅子 ∼ジュリアン・ドレ ∼ 大野修平(シャンソン評論家)
フランスの若きシンガー・ソングライター、ジュリアン・ドレ Julien Doré。
サード・アルバムのジャケットを飾る獅子は何を意味するのだろうか。そのまなざしの
先にアルバム・タイトルがある。《Løve》。デンマーク語で ライオン を意味するとい
う。その字面から、英語の ラヴ を想い浮かべる人も多いだろう。
そう、すべての作品が描いているのは愛だ。ダンサブルで、ノリのいいリズムに満ちて
いる曲でも、語られているのは傷つき、失われた愛の物語。そこに僕たちが聴くのは、獅
子の咆哮というよりは、メランコリックなモノローグと言っていいだろう。
本アルバムには世界各地の地名がタイトルや、歌詞に散りばめられている。ジュリア
ン・ドレの旅日記はデンマーク、ユトランド半島にある都市ヴィボーから始まる。しか
し、歌詞にこうある。「太陽はヴィボーとローマの間で消える」。幸せな愛とは呼べな
い。
2曲目「パリ=セーシェル」は、フランス南西部の都市アングレームから、インド洋に
浮かぶ島々に至る長い旅だ。このバラード ballade は、病める心のバラード balade(逍
遥) とも言えよう。
ジュリアン・ドレは1982年7月7日、フランスのガール県アレスに生まれた。ニームの
美術学校に5年間通った。サード・アルバムのブックレットに掲載された数々のデッサン
を見れば、イラストレーターとしてのジュリアンの才能をうかがうことができる。
音楽にも興味を持ったジュリアンは、ディグ・アップ・エルヴィスを結成する。後に
ザ・ジーン・オルメッソン・ディスコ・スーアサイドというバンドを組み、往年のディス
コサウンドをパンク・ロック風に演奏した。 ビッグ・チャンスは2007年にやって来
る。TVの勝抜き歌謡ショー、「ヌーヴェル・スター」に出演し、視聴者たちからの絶賛
を受けた。さらに同年、ファッション誌『ELLE』によって「今年最もセクシーな男」に
選出された。
2014年、フランスのグラミー賞に匹敵するヴィクトワール・ド・ラ・ミュジークで、
本年度ヴォーカル・アルバム L'album de chansons de l'année に選ばれた。さらにその
授賞式で、キャリア50周年祝賀を受けたサルヴァトーレ・アダモと「夢の中に君がい
る」をデュエットしている。
フランスの若獅子ジュリアン・ドレが今年、「ヌーヴォーパリ祭」で歌う。新しい才能
を受けとめるこのチャンスを見逃すことはできない。