節分を楽しく、そして安全に! 2 月 3 日は節分ですね。節分には「鬼は外 福は内」と唱えながら 豆をまく習慣があり、楽しい年中行事になっています。 しかしこの「豆」、怖い面もあることをご存じですか? 節分の豆が気管支に入る? 【事例】1歳5カ月の男児 平成 26 年 2 月 4 日の朝、私のクリニックを受診したお子さんの事例をご紹介します。 「2 月 3 日の午後 7 時ころ、節分の豆を口の中に詰め込んでいて、オエッとした。その 後、しばらくむせていた。以後、ときどきむせる。これまでゼーゼーしたことはなか ったが、むせた後、ゼーゼーするようになった。顔色が悪くなったことはない。」 2 月 4 日午前 9 時半にクリニックに来られました。聴診すると、肺に喘鳴がありましたの で、気管支異物を強く疑い、小児の専門医療機関に紹介しました。耳鼻科に入院し、豆を取 りだしました。入院期間は 3 日間でした。 気管支異物とは? 「誤飲」とは、口を経て消化管に異物が入ることをいいますが、気管のほうにものが入っ てしまうこともあります。これを「気管支異物」「気道異物」、あるいは「誤嚥(ごえん)」 といいます。これには2種類あり、外から口を経て気管支に入る場合と、一旦胃の中に入っ たものが食道を逆流して気管支に入る場合があります。後者の例としては、石油を飲んだ場 合などがあります。 なぜ気管支に豆が入るの? ピーナッツなどの豆類を食べる時、大人は奥歯(臼歯)ですりつぶし、唾液と混ぜて飲み こんでいます。しかし、乳幼児では奥歯が生えていない場合があり、前歯で噛むことが多く、 豆類は口の中で小さなかけらになっています。 物を食べている最中でも、子どもは、突然泣いたり笑ったりすることがよくあります。お 母さんがそばを離れた、食べながら歩いていて転んで頭を打った、兄弟とけんかした、など で泣き始めます。強く泣き切ったあと、息を大きく吸い込んだ時、口の中にあった豆類のか けらが気管の中に吸い込まれてしまうのです。 気管支に豆が入ると、 どういう症状が出るの? 豆類は口から食道、胃に入れば何ら問題はありませんが、気管支に入るとむせて苦しがり ます。気管支の奥深くに入り込むと、あまり症状が出ないこともあります。気管支の太いと ころに詰まると、ゼーゼーしたり、苦しくて肩で息をしたり、顔色が悪くなることもありま す。一度、気管の中に入ってしまうと、せき込んでも出てきません。のどに物が詰まった場 合は、背中を強く叩くと出てくることがありますが、豆類の小さなかけらは背中を叩いても 出てきません。 肺の中に入った豆類からは化学物質が溶け出て、重症の肺炎を起こします。中には、死亡 するお子さんもいます。とくに、乳幼児が豆類を食べたところを見ていない場合には、気管 支異物と診断するまでに時間がかかり、重症化する場合があります。 気管支に豆類が入ったと思われる場合は、大至急、医療機関を受診して下さい。 気管支異物の原因となるものは? 気管支異物は乳幼児に多く、3歳以下で約8割が占められています。異物として最も多い のはピーナッツで3∼8割を占め、その他にアーモンド、カシューナッツ、枝豆などの豆類、 小さな食物片、玩具の破片、パウダーなどがあります。離乳食の中に入っていた大豆による 気管支異物の報告もあります。 節分の翌日は、乳幼児の気管支異物が多発する日としてよく知られています。異物が気管 に入った現場を保護者が見ていないことも多く、突然はじまった咳、長期にわたる咳、治り にくい肺炎などでは気管支異物を疑う必要があります。また乳幼児では、自分で口に入れな くても、上の子どもが下の子どもの口に入れてしまう場合もあります。 気管支異物の予防のためには? 3歳未満の乳幼児には、ピーナッツなどの乾いた豆類、ピーナッツを含んだせんべいやチョ コレートは食べさせないようにしましょう。また、寝ころんだ姿勢や歩きながらものを食べ させないこと、急停車する可能性のある車や揺れる飛行機の中で豆類は食べさせないこと、 小さな食物やおもちゃなどを放りあげて口で受けるような食べ方や遊びをさせないこと、食 事中に幼児がびっくりするようなことは避けることなどが大切です。そして、乳幼児が食べ ているときは、なるべくそばにいて観察しましょう。かつて「お行儀よく食べる」ことは大 切なしつけのひとつとされていましたが、安全性の確保という意味もあったのだと思います。 乳幼児がいる家では、節分の豆を家の中にはまかないほうがいいでしょう。まく場合は、豆 の数をチェックして、豆まきが終わったら拾い集めておきましょう。あるいは、豆が小分け に包装されている袋ごとまくといいでしょう。 社会の対策も必要です。飛行機の中のスナックサービスとして、乳幼児にはピーナッツは 出さないこと、子どもがまねをしますので、食べ物を放りあげて口で受けるようなテレビコ マーシャルは禁止すべきです。 NPO 法人 Safe Kids Japan 理事長、緑園こどもクリニック 院長 山中龍宏
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