PVA の塩析に用いる塩の研究 東京都立本所高等学校 ○須藤雅也 ○白石遼太郎 本橋裕翔 鈴木巧 化学部 ○相原遼汰 牛島信太郎 齊藤大知 香取茉奈実 布川茉奈 岡島智直 塩田啓斗 畑山遥 神宮寺励 1.はじめに PVA 洗濯のりに食塩(NaCl)を加えると PVA が塩析を起こし、スーパーボールができる。しか し、NaCl 以外の塩で塩析させることができるかは未解明であった。そこで本研究では、PVA 洗濯 のりに様々な塩を加え、塩析が起きるかどうかを調べるために実験を行った。また、塩の違いに よる塩析の起こりやすさについても検討を行った。 2.実験方法 ① 100 mL ビーカーに PVA 洗濯のりを 10 mL 測り入れた。 ② メスフラスコを用い、表1・表2に示す各濃度の陽イオンを塩化物の塩でそれぞれを調 製した。 ③ ①に②で調製した水溶液をビュレットで加え、何 mL で塩析が起きるか、もしくは塩析が 起きないか調べた。※薄く白濁した点を塩析とした。 ④ これらの操作を3回行い、平均値を記録した。 3.結果 1価の陽イオンの滴定結果を表1に示す。NH4+では塩析を起こさなかったものの、1族の陽イ オンについてはすべて塩析を起こした。塩析を起こした1族の陽イオンについて、滴下量[mol] を比較すると、周期が上がるごとに小さくなることがわかった。 2価の陽イオンの滴定結果を表2に示す。2価の陽イオンについては、すべて塩析を起こさな かった。 表1.1価の陽イオンの滴定結果 陽イオン 濃度 [mol/L] 滴下量 [mL] 滴下量 [mol] Li + 6.00 7.63 0.0458 Na+ 4.00 6.03 0.0241 3.00 6.80 0.0204 Rb+ 4.00 3.34 0.0134 Cs + 4.00 3.68 0.0133 NH4+ 4.00 >40.00(※) >0.1600(※) + K ※測定条件では塩析を起こさなかった。 表2.2価の陽イオンの滴定結果 陽イオン 濃度 [mol/L] 滴下量 [mL] 滴下量 [mol] Mg2+ 2.00 >40.00(※) >0.0800(※) Ca 2+ 3.00 >40.00(※) >0.1200(※) Sr2+ 2.00 >40.00(※) >0.0800(※) ※測定条件では塩析を起こさなかった。 4.考察 一般に、高分子溶液に一定量以上の塩を加えると塩析が起きる。塩析を起こすのに必要な塩の 量は塩の種類によって異なり、塩析を起こしやすいイオンを順に並べたものをホフマイスター系 列と呼ぶ 1。 今回の結果をこのホフマイスター系列と比較すると、1価の陽イオンの順列は Cs+>Rb+>K+ >Na+>Li+となり、文献と一致する 2。この滴下量を周期にしたがってプロットしたものを図1 に示した。滴下量は周期が上がるにつれて小さくなっているが、その下がり具合は一定でなく、 周期を増すごとに小さくなっている。この原因については水和のしやすさが関係していると考え られるが、詳細を明らかにすることができなかった。 滴下量[mol] 0.050 0.040 0.030 0.020 0.010 0.000 LiCl NaCl KCl RbCl CsCl 図1.1族の塩化物の滴定結果 陽イオンで唯一塩析を起こさなかったのは、NH4+である。この結果は、NH4+が多原子イオンで あるために、水と水和する能力が低かったからではないかと考えている。更なる解明のため、今 後は他の多原子イオンについても実験を行う予定である。 また、2価の陽イオンについてはどれも塩析を起こさなかった。文献によると1価よりも塩析 能力は低いとされるが 2、今回の測定条件では十分に検討ができなかった。今後、濃度を高めて 再度実験を行いたい。 参考文献 1) Y. Zhang, P. S. Cremer, Current Opinion in Chem. Biol. 10, 658 (2006). 2) 「Hofmeister Series の機構解明」 (2015/2/9 閲覧) http://www.op.titech.ac.jp/polymer/lab/satoh/ja/lab/theme/Hofmeister.html
© Copyright 2024 ExpyDoc