自己免疫疾患及び感染防御に於けるIL-17A、IL-17F

受賞研究課題概要
自己免疫疾患及び感染防御に於ける IL-17A、IL-17F の役割の解明
受賞者 理学博士
いわくら よういちろう
岩倉 洋一郎
特定の遺伝子を人為的に欠損させた遺伝子欠損マウスは、生体に於ける遺伝子の役割を
解析するための有用な手段となります。岩倉博士は免疫応答に関与するサイトカインと
よばれる蛋白質の一つである IL-17A が、関節リウマチや多発性硬化症などの自己免疫
疾患の発症に重要な役割を果たしている事を、この遺伝子を欠損させたマウスモデルで
明らかにしました。また、同博士は IL-17A と同じ受容体に結合する IL-17F を欠損させた
マウスも作製し、IL-17A、IL-17F が共に黄色ブドウ球菌や病原性大腸菌などに対する感染
防御で重要な役割を果たしている事を示しました。しかも、この時、炎症応答に関与する
のは専ら IL-17A であり、IL-17F は感染防御で重要な役割を果たしている事を示しました。
さらに博士はデクチン1、デクチン2とよばれる受容体型膜蛋白質が、それぞれ真菌の細胞壁
構成成分のβグルカン、およびαマンナンの受容体である事を示し、これらの受容体が真菌の
感染防御に対して重要な役割を担っている事を初めて明らかにしました。興味深い事に、
これらの受容体シグナルは活性酸素種を誘導して病原体を殺す他、IL-17A を産生する
T 細胞を優先的に分化させ、これらの細胞が産生する IL-17A/F が真菌の感染防御に対して
重要な役割を果たす事を見いだしました。また、食物中の過剰なβグルカン刺激を抑制する
事で、腸管に於ける IL-17F 産生を抑制し、その結果、乳酸桿菌の増殖を促進して腸内に
炎症抑制性の T 細胞を増やし、炎症性大腸炎を予防できる事を示しました。
このように、岩倉博士は炎症性疾患の発症、および細菌や真菌の感染防御に於ける IL-17A、
IL-17F の役割について遺伝子欠損マウスを用いた独自の研究を展開し、これらの分子の
発症病理への関与を明らかにすると共に、
治療法の開発に大きく貢献しております。
最近、
乾癬に対する画期的な治療薬として、IL-17A に対する抗体が開発されましたが、同博士の
これらの研究成果はこの治療薬開発の重要な根拠の一つとなっております。今後、IL-17A、
IL-17F を標的とした治療法は乾癬にとどまらず、他の自己免疫疾患、炎症性疾患の治療にも
広がるものと考えられます。岩倉博士が最初に IL-17 欠損マウスを用いた研究を 2002 年に
Immunity 誌に報告したときは、IL-17 関連の報告は 200 報程度でしたが、現在では 11,000
報を超える報告があり、免疫学の中できわめて重要な研究分野となっています。その中で、
岩倉博士はこの分野で最多の論文(128 報)を発表し、2011 年には免疫学分野で著名な
国際誌である Immunity 誌から依頼を受け、IL-17 ファミリー分子に関する総説を執筆して
いる他、論文の被引用回数も多く(2014 年高被引用研究者、トムソン ロイター社)
、この
分野の研究者の第一人者の一人として世界的に認められております。また、独自に作製した
これらの遺伝子改変マウスを世界の 1,000 以上の研究グループに配布し、この分野の
研究発展に寄与しております。この様に、岩倉博士の研究は自己免疫、感染症分野の研究
発展に大きく貢献しており、野口英世記念医学賞に相応しい研究であります。
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