[超音波バリ取り洗浄の現状] 柴野 佳英 1、[超音波バリ取り洗浄の 原理] 当社は、現在 周波数25KH,50KHz、80KHz、出力1200W~4800W の超音波発振器を使用し 超音波バリ取り実験を行っている。対象は、多岐に及び 各種金属の他 プラスチック、セラミックス、ガラスの他、プリント基板、各種電子部品 など複合部材が、増えているのも 最近の特徴である。 1日約4~5社、5~10件の対象物のバリ取り実験を行っているが、実験依頼数が、 急増しているため、土日もなくなり、社員の健康管理のためにも、お客様にお願いして、 有料化し、数を制限することを試みているが、減る様子は、ない。如何に バリ除去に お客様が、苦労されているか、ここからもよくわかり、期待に応えていきたいと、 考えている。毎日が、マイクロスコープで、バリを追いかけていると言うのが、最近の 当社の実験室の実態である。ちなみに 洗浄は、社員一同 自信を持っており、こち らは、問題はない。 バリ取り洗浄の実用、導入例も 増加しており、自動車部品の製造ラインに導入さ れる例が、多い。バルブボディーの他、各種噴射ノズルなど 実績を積んでいる。超 音波キャビティー応用の新しい時代が来たのを 肌で、感じている。 超音波バリ取り洗浄の原理を確認しよう。 液体(水、またはその他の洗浄剤)の中に 強力な超音波を発生させ、当社独自 の技術とノウハウで 球状の微小真空核群(これが 超音波で発生する本当の キャ ビティ)を無数に 生成させる。この微小真空核群=マイクロ・ギャラクシー=真正の キャビティ の生成と 消滅時に 正と負の衝撃力が 発生する。前者は微小真空核 群の中心部から見て、外側への 衝撃波、後者は核の中心部へ 吸引するような方 向の 衝撃波が 発生する。この[正と負]の衝撃波は、1秒間に 20000 回以上生成と 消滅を繰り返す。 気体の高速移動の ひとつの例が ガス爆発であるが 微小真空核群の生成と消 滅時に高速移動するものは はるかに密度の高い液体である。液体が秒速 50 から 100mで移動し(正の爆発)次に 今度はその逆方向に 秒速 50m から 150mで移動 (負の爆発)する。これを 1 秒間に 20000 回以上繰り返す。無数の数の 微小真空核 群が 同期しながら、この生成と消滅を繰り返す。 いまさら 言うまでもないが、超音波洗浄のキャビティーは、泡(球状)の崩壊現象 などではない。泡が崩壊した時のマイクロジェットによる衝撃で、汚れを取るのどと言 う現象は、もちろん存在しない。汚れが、うまく取れるような角度から都合良く衝撃波 が 発生するはずもない。(一度何故 超音波洗浄で、汚れが、除去できるか、高速カ メラで、確かめてもらいたい=もちろん 当社では、公開している。) バリの近くに発生した微小真空核群=キャビティは バリに 即ち 1秒間に 20000 回以上 正と負の 衝撃力 別な表現をすれば 押す、引くを 繰り返す。この結果 微小なヒゲバリは 一瞬で吹き飛んでしまう。つぶれて 本体にへばりついているバリ は、正より負 つまり引っ張りの方向に働く衝撃力の方が強いため(キャビティによる 汚れ除去の機構を 一方向の衝撃波=マイクロジェットとして 捉える技術者がいる が、それでは、汚れを食い込ませるだけに なりかねない。)徐々に引き起こされ、同 様の繰返し応力により,破壊(折られ)除去される。 後は 精密洗浄工程と、同様である。 [ 1200W バリ取り超音波発振状況 水面 ] [ バリ取り用キャビティー 振動板表面 発生状況 ] [ バリ取り用 キャビティー 高速写真 1000分の1秒 ] 超音波バリ取り装置の重要なポイントは、超音波振動子と洗浄槽にある。 超音波振動子は、強力なキャビティーを連続的に発生させるため、その振動板自身 が、激しい衝撃を連続的に受ける。そのため、振動子の表面に50μ のハードクロー ム鍍金と、さらに窒化チタンコート(写真参照)をする。そうしないと数ヶ月間で振動板 がキャビティーにより 破壊される。 さらに 見過ごされやすいのが 洗浄槽である。バリ取り対象物と同じように 洗浄槽も強力なキャビティーの衝撃を受ける。まともに受ければ、SUS304 3mm の洗浄槽でも 溶接部から容易に破壊される。従って、洗浄槽に 衝撃波、キャビティ ーの集中がないように キャビティーションのコントロールが的確な安全な超音波洗 浄槽の設計、製造が、必要である。 [窒化チタンコート 2400Wバリ取り超音波振動子] 2、[超音波バリ取りを 行うにあたっての留意点] 超音波バリ取り洗浄を 行うにあったって、バリの大きさ、付いている場所、 洗浄対象物の形状などにより、超音波の周波数、発振方式を変える。 超音波振動子の大きさは、対象物の大きさにより、変えて、対応する。 この時、超音波の衝撃力が、強すぎると 対処物表面に エロージョンを発生させ、 鏡面の破壊、対象によっては、製品破壊をも引き起こしかねない。 このために 次の対策を行っている。 超音波の周波数の変更 1、 25KHz 単一超音波発振 複雑でない形状のもっとも強力なバリ除去 2、 25KHz~535Khz 同時多重波広域発振 複雑な形状のバリ除去 3、50KH~535KHz 同時多重波広域発振 繊細な部品のバリ除去、電子部品、複合部品 4、80KHz~535KHz 同時多重波広域発振 特に繊細な表面を持つ金属、プラスチック、セラミックス。 さらに 超音波バリ取りが、自動車メーカーのラインの中に導入されるには、 その安定性も重要であるが、バリ除去条件が、常に 監視されていなければ ならない。 この超音波バリ取りの実用化に大きく役立ったのは、当社の超音波音圧計の 開発の成功である。 この U-Sonic Power Testerは、超音波の洗浄力(音圧+キャビティー) を デジタル測定するが、バリを除去するような激しい衝撃力にも連続的に耐え えるように設計してある。上下限警報接点を持ち、超音波を監視しモニターす る。この 実用化により ユーザーは、安心して、超音波バリ取り装置を 導入で きる。 以下 バリ取りの実用例の中から、紹介する。 [ 銅 基板 バリ取り前 バリ取り後 150倍 ] [ SUS [ 精密プレス部品 バリ取り前 バり取り後 150倍 ] 工具鋼 エンドミル バリ取り前、 バリ取り後 150倍 ] 主なほかのバリ取り手段と 比較してみた。 超音波バリ取りは 他にない多くの特徴を 持っている。 1, 材質を選ばない。 金属・プラスチック・ゴム・セラミックス・ガラスまたそれらの複合剤 難易度 は あるものの 基本的にほとんどの材質に対応できる。 2, 形状にとらわれない、バリの発生場所が多方向で、内面の公差穴なども対 象になる。 3, 数を制限されない。一から数万個まで、一度にまたは 連続で処理できる。 4, 有害物など、発生しない。危険物は使わない。水を使用する。 5, 6, 7, 洗浄物を汚さず、洗浄しつつ、バリがとれる。精密洗浄が可能である。 使用するのに、特殊技術、技能が不要である。また自動化が容易である。 管理がし易い。 最大に利点は、微小バリ(ミクロンの大きさ)が より早く、確実に除去できる。 これからの精密加工に 唯一対応できる手段である。 8, 9, 消耗品が尐ない、フィルター等。ランニングコストが小さい。 設備コストは、オンリーワンにつき、営業戦略上の問題であるが、いずれに しても、バリ取り後の、精密超音波洗浄を必要とする、他の競合手段と比較 すると、システムとしては、遙かに低い。 10, 乾燥もラインかできる。汚れの再付着が尐なく、精密部品加工気の処理に 適する。 11, 上述の利点は、クリーンルームなどの環境中に設置できることを意味し、他 の手段のように、隔離されたバリ取り、洗浄室を必要とせず、管理コストが 軽減される。 超音波バリ取りは、まだ発展途上の技術であり、超音波槽破壊防止など 乗り越えなくてはならない課題も多い。精密超音波洗浄も より強力より精密化 を追求しており、小型、高速洗浄の方向と 9600W~21000Wなど 集中、大 型化の方向と 二つに分化しつつある。超音波バリ取りは双方向の技術を組み 合わせ、バリ取りの新しい分野を 着実に築き上げようとしている。 以上
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