糸 健太郎 - Nagoya University

糸 健太郎
(いと けんたろう/ ITO, Kentaro)
研 究
室
理学部 A 館 425 号室
准教授
(内線 5594)
電子メール
[email protected]
ウェブページ
http://www.math.nagoya-u.ac.jp/~itoken/index.html
所属学会
日本数学会
研究テーマ
• 双曲幾何およびその周辺の幾何学
• クライン群の変形空間
研究テーマの概要
双曲幾何では負の定曲率を持つ多様体―双曲多様体―を扱う.その研究には様々な分野が関わって
くる.例えばリーマン面,低次元トポロジー(曲面の写像類群,3次元多様体,結び目),リーマン
幾何,ローレンツ幾何,等質空間,エルゴード理論などである.
一方でクライン群とは n (≥ 2) 次元の双曲空間 Hn に離散的かつ等長的に作用する群のことを指す.
双曲空間をクライン群の作用で割った空間は双曲多様体になり,逆に双曲多様体はクライン群による
商空間として得られるので,クライン群の研究は双曲多様体の研究と同値である.クライン群は双曲
空間 Hn の理想境界である n − 1 次元球面 S n−1 へも共形的に作用する.S n−1 におけるクライン群 Γ
の作用がカオス的な部分 ΛΓ は極限集合と呼ばれ一般にはフラクタル集合であり(下図はそれぞれ S 2
および S 3 における極限集合),その補集合 ΩΓ (= S n−1 − ΛΓ ) の商空間 ΩΓ /Γ には共形構造が入る.
特にクライン群 Γ が H3 に作用するときは双曲多様体 H3 /Γ の変形空間はリーマン面 ΩΓ /Γ の変形空
間(タイヒミュラー空間)と一致する.
私はいままで,主にクライン群の変形空間の境界の複雑さ(これもフラクタル構造を持つ)に興味
を持って研究してきた.また,クライン群の研究の主流は H3 に作用する群に関するものだが,私は
一つ次元の高い H4 に作用するクライン群についても研究している.さらに,最近はローレンツ幾何
的な視点からの双曲幾何の研究が盛んになってきた.私は今後その方面でも研究を行っていく予定で
ある.
主要論文・著書
[1] K. Ito, Exotic projective structures and quasi-Fuchsian space, Duke Math. J. 105 (2000), 185209.
[2] K. Ito, Exotic projective structures and quasi-Fuchsian space, II, Duke Math. J. 140 (2007),
85-109.
[3] Y. Araki and K. Ito, An extension of the Maskit slice for 4-dimensional Kleinian groups, Conform. Geom. Dyn. 12 (2008), 199-226.
[4] K. Ito, Convergence and divergence of Kleinian punctured torus groups, Amer. J. Math. 134
(2012), 861-889.
経歴
2000 年
2000 年
2007 年
東京工業大学理工学研究科博士課程修了
名古屋大学大学院多元数理科学研究科助手
名古屋大学大学院多元数理科学研究科准教授
学生へのメッセージ
私のセミナーでは双曲幾何およびその周辺の幾何学を学ぶ.必要な予備知識は位相,複素解析,群
論,位相幾何および微分幾何の初歩である.自分で面白いこと・やりたいことが見つけられる積極的
な学生を歓迎する.
以下に,この分野の主要な参考文献を紹介する.学部および修士の学生向けの双曲幾何の入門書と
しては [1], [2], [3], [4], [5] がある.大学院においてクライン群を学習・研究していく上では [6] が大
変参考になる.またクライン群を学ぶ上でリーマン面の変形理論(タイヒミュラー空間論)も必要に
なるが,その際は [7] を参考にするとよい.[8] はクライン群論の最新の話題までをバランスよく収録
しており,これが読みこなせれば研究者のレベルである.[9] はクライン群の極限集合上のエルゴー
ド理論についての良書である.双曲空間の一般化とみなせる等質空間への群作用に関しては [10] が
よい.ローレンツ幾何的な視点からの双曲幾何の研究に関しては Mess による画期的な論文 [11] があ
る.また [12] も参考になる.[13] は曲面の写像類群およびタイヒミュラー空間に関する良書である.
[14] は実際にコンピュータでクライン群の極限集合を描かせるときの手引き書である.このようなコ
ンピュータ画像に興味がある人も歓迎する.
[1] 中岡稔「双曲幾何学入門」サイエンス社
[2] 深谷賢治「双曲幾何」岩波書店
[3] 谷口雅彦・奥村善英「双曲幾何学への招待」培風館
[4] 河野俊丈「曲面の幾何構造とモジュライ」日本評論社
[5] S. Katok, Fuchsian Groups, The University of Chikago Press.
[6] 谷口雅彦・松崎克彦「双曲多様体とクライン群」日本評論社
[7] 今吉洋一・谷口雅彦「タイヒミュラー空間論」日本評論社
[8] A. Marden, Outer Circles, Cambridge University Press, 2007.
[9] P. J. Nicholls, The Ergodic Theory of Discrete Groups, Cambridge University Press.
[10] M. Bekka and M. Mayer, Ergodic Theory and Topological Dynamics of Group Actions on
Homogeneous Spaces, Cambridge University Press 2000.
[11] G. Mess, Lorentz spacetimes of constant curvature, Geom. Dedicata 126 (2007), 3–45.
[12] R. Benedetti and F. Bonsante,Canonical Wick Rotations in 3=Dimensional Gravity, Memoirs
of the American Mathematical Society, 2009.
[13] B. Farb and D. Margalit, A Primer of Mapping Class Groups, Princeton University Press,
2012.
[14] D. Mumford, C. Series and D. Wright, Indra’s Pearls, Cambridge University Press, 2002.