過酸化水素水による土及び岩石の酸性化可能性試験方法

地盤工学会基準 JGS 0271-2015
過酸化水素水による土及び岩石の酸性化可能性試験方法
Test method for acidification potential of soils and rocks by using hydrogen peroxide solution
基準(案)
1
適用範囲
この基準は,地盤材料の酸性化可能性を判定するために,過酸化水素水で前処理した地盤材料
及び水が懸濁した状態の液体としての pH を測定する試験方法を規定する。本基準で対象とする
地盤材料は,粒径 2 mm 以上の粒子等を取り除いた土,及び粒径 2 mm 以下になるように破砕した
岩石破砕試料とする。
注記
JGS 0051 に基づく大分類で有機質土〔O〕
,高有機質土〔Pt〕に分類される地盤材料につい
ては,有機物の酸化による pH 低下が生じる可能性があるため適用外とする。
2
引用規格及び基準
次に掲げる規格及び基準は,この基準に引用されることによって,この基準の規定の一部を構
成する。これらの引用規格,及び基準は,その最新版(追補を含む)を適用する。
3
JIS A 1201
土質試験のための乱した土の試料調製方法
JIS K 0557
用水・排水の試験に用いる水
JIS K 8230
過酸化水素(試薬)
JIS R 3503
化学分析用ガラス器具
JIS Z 8802
pH 測定方法
JGS 0051
地盤材料の工学的分類方法
JGS 0211
土懸濁液の pH 試験方法
用語及び定義
この基準で用いる用語及び定義は,次による。
3.1 酸性化可能性
土試料又は岩石破砕試料を過酸化水素水と接触させることによって強制的に酸化させたときの
pH から評価できる,鉱物組成に由来する地盤材料の酸性化の可能性をいう。
注記
この基準では実環境における酸化作用と比較して非常に強い酸化作用を試料に与える
ため,得られた pH が実環境で生じる酸性化の程度を示すものではない。
3.2 岩石破砕試料
試験に使用する岩石試料をハンマー,破砕器具等によって最大粒径が 2 mm 以下になるように
破砕したものをいう。
4
試験器具及び試薬
試験器具及び試薬は次による。
4.1 ガラス電極式 pH 計
JIS Z 8802 に規定する最小読取値 0.1 以下のもの
4.2 はかり
0.01 g まではかることができるもの
4.3 水
JIS K 0057 に規定する A2 の水
4.4 トールビーカー
JIS R 3503 に規定する容量 200 mL~500 mL のもの
注記 1 試験者の安全性の確保のため,溶媒量の 10 倍体積以上の容量のものを使用する。突沸
等が懸念される場合は更に大きな容量のものを使用する。
注記 2 トールビーカーの例を図 1 に示す。
図 1-トールビーカー(容量 200 mL)
4.5 過酸化水素水
JIS K 8230 に規定する過酸化水素水(30%)
注記
過酸化水素水(30%)は劇物であるので,使用に当たって安全性データシート(Safety
Data Sheet: SDS)に記載の事項を遵守する。特に,保護眼鏡・保護手袋の着用,大気へ
の開放部分が少ない装置・機械又は局所換気装置内で作業を行う。
4.6 水酸化ナトリウム水溶液
10 mmol/L(0.04%)程度の濃度の水溶液としたもの
4.7
pH 標準液
JIS Z 8802 に規定するもの
a)
pH6.86 中性りん酸塩標準液
b)
pH4.01 フタル酸塩標準液又は pH9.18 ほう酸塩標準液など
注記
pH 標準液には,しゅう酸塩,フタル酸塩,中性りん酸塩,ほう酸塩,炭酸塩があり,
通常中性りん酸塩ともう一つの標準液による二点校正を行う。もう一つの標準液はフ
タル酸塩を用いることが多い。
4.8 ふるい
網ふるい目開き 2 mm のもの
注記
JIS Z 8801-1 に規定する金属製のものに加えて,非金属製の網ふるいを使用してもよ
い。
4.9 その他の器具
a)
破砕器具(金属製乳鉢,ハンマー,破砕機等)
b)
時計皿
c)
ホットプレート又は湯せん器具等の加熱器具
d)
かくはん棒
注記
時計皿の例を図 2 に示す。
図 2-時計皿
5
試料
試料は次の 5.1 土試料,5.2 岩石破砕試料のいずれかによる。
5.1 土試料
a)
JIS A 1201 土質試験のための乱した土の試料調製方法の 6.3 空気乾燥法によって得られた
ものを使用する。
b)
木片及び破砕困難な約 2 mm 以上の無機質粒子を可能な範囲で取り除いた後,乳鉢等で土塊,
団粒をときほぐして目開き 2 mm ふるいを通過させる。
c)
JIS A 1201 土質試験のための乱した土の試料調製方法の 5.1 分取方法によって少なくとも
2 g 以上分取し,試料とする。
5.2 岩石破砕試料
a)
供試する岩石を大形のハンマー,破砕機等で粒径 10~20 mm 以下まで粗砕する。水分を含む
場合は空気乾燥させる。
b)
試料を更に破砕して 2 mm ふるいを全量通過させる。
注記 1 ハンマー・金属製乳鉢による人力破砕,破砕機等による機械破砕など破砕方法は問わ
ない。
注記 2 人力破砕を行う場合は保護具を使用し,安全に作業を行う。
c)
JIS A 1201 土質試験のための乱した土の試料調製方法の 5.1 分取方法によって少なくとも
2 g 以上分取し,試料とする。
6
試験方法
試験方法は次による。
6.1 過酸化水素水による処理
試料の過酸化水素水による処理は次による。
a)
試料の質量 ms (g) をはかり,トールビーカーに入れる。
b)
試料及びトールビーカーの合計質量 mt (g) をはかる。
注記
c)
0.01 g まで読み取る。
10 mmol/L 程度の濃度の水酸化ナトリウム水溶液を用いて過酸化水素水を pH 6 に調製し,こ
れを溶媒とする。
d)
ms×10 mL の溶媒をトールビーカーに静かに加え,ビーカーの口を時計皿で速やかに覆う。
注記
激しい反応が起こり内容物が吹きこぼれるおそれがある場合は,溶媒を少量ずつ時間
をおいて加える,トールビーカーを流水中で冷却する,容量の大きいトールビーカー
を使用する,等を実施する。
e)
激しい反応が終了した後,もしくは激しい反応が生じない場合,ホットプレート,湯せん用
具等を用いて時計皿で覆ったトールビーカーを内容物が沸騰しない程度に加温する。加温中
は適宜,かくはん棒等を用いて内容物をかくはんする。
f)
試料から微細な気泡の発生がみられなくなったら加温を終了し,内容物が室温になるまで冷
却する。
注記
加温中に内容物が沸騰すると試料からの微細な気泡の発生が確認できないので注意す
る。
6.2 ガラス電極式 pH 計の調整
JGS 0211 土懸濁液の pH 試験方法の 6.1 pH 計の調整による。
6.3
a)
pH の測定
冷却後,水をトールビーカーに加えかくはんしたものを測定用の試料液とする。加える水の
量は加水後の試料及びトールビーカーの質量の和が (mt+ms×10) g になる量とする。
注記
加温によって減少した溶媒を加水して補充することを意図している。
b)
試験管等に試料液を移して,pH 計の電極を図 3 に示す程度の深さまで浸せきする。
c)
pH 計の指示値が安定した後に pH 値を読み取る。
注記 1 長時間使用していなかったガラス電極はあらかじめ 12 時間以上,水に浸せきしてから
使用する。
注記 2 pH 標準液の温度は室温に近いものを使用する。また,pH 計に温度補償機能が付加され
ている場合は,pH 標準液の温度に設定する。
注記 3 試料液の pH が 2 以下の場合はフタル酸塩の代わりにしゅう酸塩を,pH が 10 以上の場
合はほう酸塩又は炭酸塩の pH 標準液を使用する。
注記 4 別の pH 標準液又は試料液に電極を浸せきする場合には,その都度電極を水で十分に洗
浄し,ろ紙などの紙で水滴を吸い取る。
注記 5 測定は室温で行い,pH 標準液及び試料液の温度差をできるだけ小さくする。
注記 6 pH 計の電極を図 3 に示す程度の深さまで浸せきしない場合,pH 値が±0.1 の繰返し性
が得られないことがあるので十分に留意する。なお,a) の状態で pH 計の電極を図 3
に示す程度の深さまで浸せきできる場合は,トールビーカーから試料液を移さずに測
定してもよい。
注記 7 試験管等に試料液を移すとき,土試料,岩石破砕試料がトールビーカーに残留しても
よい。
注記 8 緩衝性の低い試料は,容易に pH 値が変化するため pH 値が±0.1 の繰返し性が得られな
い場合がある。この場合は,pH 値が±0.2 で一致する値を平均して pH 値を算出する。
図 3ーpH 測定の例
7
報告
試験結果について,次の事項を報告する。
7.1 試料に関する事項
試料に関する事項については,次による。
a)
試料の採取地点(地点名,採取深度等)
b)
土,岩石の種類
注記
例えば,安山岩,泥岩等と記す。
7.2 試験方法に関する事項
試験方法に関する事項については,次による。
a)
試料の調製方法
注記
b)
5
試料に記載のいずれの方法で試料を調製したかを記す。
試料の質量 ms (g)
7.3 試験結果に関する事項
試験結果に関する事項については,次による。
a)
試料液の pH
注記
小数点以下第 1 位までとする。小数点以下第 2 位まで測定した場合,又は複数の測定
結果を平均する場合は小数点以下第 2 位を四捨五入する。
b)
本基準と部分的に異なる方法を用いた場合は,その内容
c)
その他,特記すべき事項