日本マンガのドイツ語翻訳テクストの比較研究 大塚萌 1.問題と目的 日本のサブカルチャーへの注目が海外でも高まっている中、数多くのマンガ・アニメ作品 が輸出・翻訳されている。マンガが翻訳されるときには、日本語独特の表現や語彙をどのよ うに翻訳するのかが問題となる。主にマンガにおけるテクストは、吹き出しや枠の中の限ら れたスペースの中におかれている為、絶対量に制限がある中、そのテクスト内容は説明や置 き換えが行われる場合がある。また、マンガの画面上に存在するテクストだけでは情報が補 いきれないと判断された時には、注が付けくわえられることもある。こうしたマンガのテク スト翻訳における特徴は、文学作品などのテクスト翻訳とは異なったものであり、その中で 最大のものはイラストとともに読むというものである。 本研究では、こうした文学作品などの文字のみのメディアとは異なる特徴を持ったマン ガにおけるテクスト翻訳を、実際の翻訳例の分析を通し考察するものである。主にドイツ語 翻訳版のマンガを対象とするが、英語圏やフランス語圏においてもそれぞれドイツ語圏と は異なった翻訳マンガとその翻訳方法がみられるため、対象を徐々に広げていきたいと考 えている。 2.方法 ①マンガ翻訳を翻訳達成度から考える 元の日本語版のテクストに日本的文化や価値観が含まれているとき、それをドイツ語翻 訳する際にはイラストや文脈を考慮し、説明や置き換えが積極的に行われる場合がある。こ のような内容に変更の行われる翻訳が、どのような要素を元に行われ、またその変更がどの 程度妥当かについて分析する。 分析の方法として、翻訳方法や目的、理解可能性や忠実性を元にした翻訳達成度パラメー ターを提案したい。その際、イラストとともに読む、読みやすさの考慮などのマンガテクス トの特徴を反映した評価項目を新たに提案したい。 ②マンガにおけるイラストとテクストの結びつきを考える マンガテクストにおいて、他メディアと比べた時に最も特徴的なのは、イラストとともに 文字テクストを読むということである。この特徴から、マンガにおける文字テクストがどの 要素を担い、イラストともに読んだときに理解可能性が生まれるのかについて分析したい。 また、マンガテクストをドイツ語翻訳したときにテクスト内容が増減・変更される場合があ るが、そのようなテクスト変更がイラストとどのように関係して行われているか、また変更 された後の理解可能性はどのように変化するかを分析したい。 分析の方法として、原作小説が存在するマンガを対象とし、一場面の中からテクストを取 り出し、原作小説とテクストを比較する。さらに、ドイツ語翻訳版マンガのテクストとも比 較し、どのような翻訳が起こっているかを分析する。 3.今後の課題 方法①については、修論で扱ったあずまきよひこ『よつばと!』(株式会社アスキー・メ ディアワークス)における言葉遊びを含む翻訳例を使って、先行研究における翻訳達成度パ ラメーターを使った分析を行い、さらにマンガ翻訳テクストにおける翻訳達成度に必要な 要素を探る。 方法②については、川上弘美原作、谷口ジロー『センセイの鞄』(双葉社)を使い、マン ガ版と原作小説版、及びドイツ語翻訳版マンガと小説版のテクストを比較し、分析を行う。 11
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