1970 年代以降の建築家の言説にみる建築の歴史に関する認識

1970 年代以降の建築家の言説にみる建築の歴史に関する認識
Considerations of Historical Architecture and Its Terminology by Contemporary Architects
Based on a Review of the Japanese Architectural Press since the 1970s
奥山研究室 11M30144 北澤 悠樹(KITAZAWA , Yuki)
Keywords:建築の歴史、歴史的ターム、着目根拠、建築専門誌
historical architecture and its terminology , historical term , reason of focus , architectural press
1. 序
を構成する建築家の論説からは、なぜ歴史的タームに着目した
1.1 研究の背景と目的 1960 年代中葉において A. ロッシや
R. ヴェンチューリ等は、建築や都市の歴史への洞察
1)
か(以下、着目根拠)に関する言説を抽出することができ(図
を思想
1)、これらからは建築デザインや建築論を構想するうえで、建
の基盤に据えることで、モダニズムを相対化しうる新たな建築
築家が建築の歴史をどのように認識したかを読み取ることがで
論を展開した。このように、建築家
2)
が過去の建築やその思想
きる。そこで、2章では歴史関連記事において題材とされる歴
をどのように位置づけるかは、時代を切り拓く建築論を構想す
史的タームを、3章では歴史関連記事を構成する建築家の論説
る上で重要なテーマであると考えられる。しかし近年、建築家
における着目根拠をそれぞれ検討したうえで、4章でそれらの
3)
の歴史に対する意識の希薄化が指摘されており 、こうした状
内容および関連性を通時的に比較検討する。本研究では、231
況において、建築に対する思考が歴史的パースペクティブの中
の歴史関連記事とそれらに付随する 154 の論説を資料対象とし
でどのように位置づけられてきたかを把握することは、現代の
ている(図 2)。また、これらの論説を執筆する建築家の専門
建築的状況を捉える上で意義があるものと考える。そこで本研
分野を、建築や都市などの具体的な設計および計画を通して表
究では、モダニズムが相対化されたと考えられる 1970 年代以
現を行うことに比重をおく〔設計分野〕と建築の意匠に関する
降の主要な建築専門誌
4)
において発表された建築家の論説を資
文筆活動で表現を行うことに比重をおく〔言論分野〕とに整理
料とし、その内容を検討することで、建築の歴史に関する建築
した(表 1)。
家の認識の一端を明らかにすることを目的とする。
2. 建築専門誌における歴史関連記事の内容
1.2 研究の概要と資料対象 建築専門誌では建築の歴史に関
2.1 歴史的タームの内容 歴史関連記事のタイトルから歴史
5)
連する用語 (以下、歴史的ターム)がタイトルに含まれる記
6)
事 (以下、歴史関連記事)が掲載されてきた。そうした記事
SD1979年3月号
2-2 時代区分
モダニズム以前
2-3 場所区分
N o . D29 白いまどろみから醒める時 伊東豊雄
私もこれまで近代のスタイル確立直前のこの時代の建築への関
心について何度か述べてきた。しかし私の関心は近代のスタイ
出すことにあった。
・・・あの官能的な美をもたらした壁面の白さの
性格と限界を見きわめることにこそ、今日という時点での意味はあ
るように思われる。
図1. 研究の流れ
3-1着目根拠
建築をつくる
方法を抽出
★筆者の専門分野
設計分野
特集
連載
特別
記事
第3章
ルが確立してもなおそこに潜んでいる歴史的な建築の形式を見
欧米
近代以前の建築の歴史に
関連する用語をタイトル
に含む記事
記 事の形 式
ー水彩+ 家具+ 建築
人物
231
特定のテーマをもとに
複数人の論説によって
構成される記事群
73
建 築 家の論 説
連載
57
46
59
46
19
25
7
9
5
6
20
16
新建築
SD
建築
文化
住宅
特集
34
34
17
8
設計分野
言論分野
17
3
3
13
6
11
GA
JAPAN
4
5
2
都市
住宅
5
154
上 記 の 記 事 に 付 随 する 論
説 のうち 、記 事 タイトル に
含む着目根拠が明確に読
み取れるもの
図2. 雑誌別対象資料
表1. 筆者の専門分野
特集
特別記事
特定のテーマをもとに
号を跨いで掲載される
記事群
見開き2ページ以上
の同一内容によって
構成される記事
凡例
1
13
第3章
マッキントッシュ
歴史関連記事
第2章
芸 術家としての
史的タームは【人物】【建築・都市】【思潮】の3つの項目に分
第2章
2-1 歴史的タームの内容
的タームを抽出し、その内容を整理したものが図 3 である。歴
〔設計分野〕1 0 2
具体的な設計および計画
を通して表現を行うこと
に比重をおく分野
建築設計者(内2名海外) 93
都市計画家
3
構造家
3
環境・設備家
2
家具デザイナー
1
〔言論分野〕5 2
建築の意匠に関する文筆
活動で表現を行うことに
比重をおく分野
建築史家
9
28
13
43
62
30
42
建築評論家(内1名海外) 6
1
9
1
美術評論家
5
5
4
類した。【人物】は建築家などの人名、【建築・都市】は具体的
根拠とするものである。《方法を抽出》は、建築や周辺環境に
な建築や都市あるいはそれらの総称、【思潮】は特定の建築的
対するデザインの姿勢を学ぶ〈設計姿勢を学ぶ〉、建築の表現
思想および主義であり、これらのうち【思潮】が多くみられた。
に関する思考を発展させる〈建築表現を追求〉、および空間や
2.2 歴史的タームに関する時代区分と場所区分 歴史的ター
かたちに関する形式を抽出する〈建築の形式を抽出〉を根拠と
ムの対象としている時代区分を [ モダニズム以前 ][ モダニズム
するものである。《概念を明確化》は現代建築に用いられる概
7)
以降 ] に、場所区分を{日本}
{欧米}
{その他地域}
{区分なし}
念の意味や存在の根本へと立ち返る〈根源へ遡る〉、特定の概
に整理した(表 2)。さらに、{欧米}では細項目で " 西欧 " や "
念に対して新たな解釈を加える〈新たな視点を提示〉を根拠と
北欧 " などを設定した。これらの時代区分および場所区分と歴
するものである。
史的タームの内容との対応関係を図 4 に示した。まず時代区分
3.2 着目根拠と歴史的タームの対応関係 着目根拠と歴史的
では、[ モダニズム以前 ] に関しては【建築・都市】が多く、[ モ
タームの対応関係について筆者の専門分野毎に示したものが図
ダニズム以降 ] に関しては【思潮】が比較的多くみられた。次
6 である。まず、
〔設計分野〕の検討を行う。《現代を批評》では、
に場所区分では、
{日本}に関しては【建築・都市】が比較的多く、
歴史的タームにおける【思潮】、時代区分における [ モダニズ
{欧米}に関しては【人物】が比較的多くみられた。
ム以降 ] が多くみられた。このことは、現代の建築・都市の基
3. 建築の歴史に対する着目根拠
盤ともいえるモダニズム期から戦後にかけての建築的思想およ
3.1 着目根拠 建築家の論説から着目根拠を抽出し、通読し
たところ、それらの内容が多岐にわたっていたため、KJ 法
8)
び主義に着目することで、現代建築・都市を相対化する傾向が
あると考えられる。次に、《方法を抽出》では歴史的タームに
によって内容を相互に比較検討した。その結果、着目根拠は《現
おいて【人物】が多くみられた。このことは、特定の建築家と
代建築・都市を批評》《建築をつくる方法を抽出》《建築におけ
いう枠組みを通して、建築家に固有の設計姿勢や空間の形式な
る概念を明確化》
(以下、それぞれ《現代を批評》
《方法を抽出》
《概
どを抽出する傾向があると考えられる。さらに、時代区分では
念を明確化》)の3つの大枠で捉えることができた(図 5)。《現
[ モダニズム以前 ] と [ モダニズム以降 ] が同程度みられたこと
代を批評》は、現代における建築界全体の潮流や現代都市の問
から、建築をつくる方法を抽出する際には歴史に対する時間的
題などを理解する〈現代性を把握〉、それらの時流から異なる
な射程の長短によらない傾向があるといえる。また、《概念を
流れを指向する〈時流から逸脱〉、および建築家の思想や特定
明確化》では歴史的タームにおける【建築・都市】が多くみら
の作家による作品群の特徴などを批評する〈個別的な批評〉を
れた。このことは、建築における概念を明確化するために、具
【人 物】 6 9(5 6) 【思潮】 a1【国内建築家】 a2【海外建築家】55(51)
20
(10)
F.L.ライト
アドルフ・ロース
丹下健三
坂倉準三
土浦亀城
池辺陽
白井晟一
清家清
立原道造
平田篤胤
堀口捨己
前川國男
増沢洵
吉田五十八
A・レーモンド
日本モダニスト
アルヴァー・アールト
アントニオ・ガウディ
ジュゼッペ・テラー二
アンドレア・パラディオ
B.フラー
ブルーノ・タウト
C.R.マッキントッシュ
カルロ・スカルパ
G.B.ピラネージ
8 1(67) 【建 築・都市】 ヨジェ・プレチェニック
アルネ・ヤコブセン
リートフェルト
アルバート・シュペアー ルドルフ・シンドラー
M.J.ジュジョール
海外モダニスト
ヴァルター・ベンヤミン
E・G・アスプルンド
エドゥアルド・トロハ
C.K.シンケル
ファン・オゴルマン
シャルロット・ペリアン
コルビュジエ・ミース 16
(19)
ル・コルビュジエ
ミース・ファン・デル・ローエ
a3
【建築家以外の人物】(
6 6)
凡例 a1【国内建築家】19(12)
枠番号 歴史的ターム 歴史関連記事 着目根拠
の内容
の数
の数
ルイス・マンフォード
ヴァルター・ベンヤミン
ミヒャエル・トーネット
F . ヘーゲル 今和次郎
b1【住宅】34(30)
私の家
立体最小限住居
松風荘
カーロとリベラの家
メゾン・カレ
ドミノ
桂離宮
書院造り
まちや
数寄屋
戦後小住宅
数寄空間
戦前の住宅
ルネッサンス・パラッツォ 1950年代の住宅
同潤会アパート 近代住宅
江戸川アパートメント モダン住宅
九龍城
モダンハウス
近代住居
昭和住宅
近代数寄屋
昭和初期洋風住宅
アラブ建築
キクラデスの集落
イスラム建築
ダーダ・ハリ・ステップウェル
エチオピアの石窟建築 ネパールの王宮建築
カバビッシュ族のテント
b5【都市】7(2)
輝く都市
近代日本都市計画
軍艦島
田園都市
伊勢神宮
シェーカーの建築
スーフィーの建築
スラブ神話神殿
ロシア・ガレリアの木造教会
パルテノン
日本 65(34)
米 14(17)アメリカ
1914年以前の内容
158(105)
表2 凡例
モダニズム以前
74(71)
歴史関連記事
の数
着目根拠
の数
・ドイツ・オーストリア・
西欧 53(51)フランス
オランダ・イギリスなど
・スペイン・
南欧 25(23)イタリア
ギリシャ・スロベニアなど
スウェーデン・デンマーク・
北欧 10(14)フィンランドなど
東欧 6(2)
チェコ・ロシアなど
アジア・アフリカなどの
その他の地域
区分なし52(33)明確な場所の
区分がない内容
その他12(7)
場所区分
1914年以降の内容
場所区分
モダニズム
欧米
時代区分
74(71)
時代区分
モダニズム以前
21
モダ
以降
60 a1
日本
21
欧米
そ
の
他
区分
なし
57
1
1
c2【思想】20(23)
日本近代化遺産
近代都市
10
27
a2
a2
a1
b1
42
31
b3 b5 75
b1
図4. 歴史関連記事の内容
c3【主義】34(16)
戦後モダニズム
昭和初期モダニズム
アメリカン・モダニズム
ロスアンジェルス・モダニズム
木造モダニズム
ダッチ・モダニズム
【思 潮】
22
c2
c3
c1
c3
19 c1
b1
b3
43
モダン
メキシカン・モダン
モダン・ムーヴメント
モダンストラクチャー
機能主義
ラショナリスム
イタリア合理主義
シュルレアリスム
キュビスム
ダンディズム
古典主義
新古典主義
ドイツ表現主義
近代主義
モダニズム
日本モダニズム
b4
a2
11
b1
近代思想
近代小市民
近代日本
モダニティ
歴 史 的タームの内 容
【建 築・都 市】
【人 物】
モダ
以前
1950年代の建築表現
近代都市デザイン
近代
近代建築
ピクチャレスク
陰影礼賛
エコール・デ・ボザール CIAM
アメリカン・ボザール
ナチスドイツの建築
ウィーン古典派建築
アーツ・アンド・クラフツ
イタリア未来派
イタリア・アヴァンギャルド
ロシア・アヴァンギャルド
デ・ステイル
バウハウス
アール・デコ
アメリカン・アールデコ
パンテオン
バロック
ルネサンス
ロマネスク
ゴシック
図3. 歴史的タームの内容
表2. 時代区分と場所区分
戦後日本建築
1930年代建築
1940年代の建築
1910年代の建築
自由学園明日館
神奈川県立近代美術館
神奈川県立音楽堂
中央停車場「東京駅」
ナチスドイツのウィーン要塞
歌舞伎座
モダン・シアター
b4【宗教建築】14(13)
b3【土着建築 】7(6)
97(54)
c1【時代】43(15)
b2【公共建築 】7(5)
c1
19
b4
37
c3
c2
c3
2
c3
c1
体的な建築や都市に着目する傾向があると考えられる。このよ
に建築の歴史を通じて現代建築・都市を相対化していた傾向が
うに〔設計分野〕では、着目根拠毎に異なる歴史的タームとの
あったと考えられる。加えて、70 年代後半から 80 年代前半に
関連性があることから、目的に応じて着目する題材を選択する
かけて、歴史的タームにおける【建築・都市】が減少し、
【思潮】
柔軟な態度をとる傾向があるといえる。一方、
〔言論分野〕では、
が増加した。またこの期間では、時代区分における [ モダニズ
いずれも【人物】が大きな割合を占めていることから、一貫し
ム以前 ] が比較的多くみられた。これらのことから、建築界全
て建築家を中心に取り上げるという傾向があるといえる。
体で具体的な建築や都市から特定の建築的思想へと関心が推移
4. 建築の歴史に関する建築家の認識の変遷
したとともに、この期間では建築の歴史に関する認識の時間的
本章では、これまでに位置づけた歴史関連記事における歴史
な射程が長かったといえる。
的タームの内容、時代区分と場所区分、建築家の論説における
次に、90 年代前半から歴史関連記事の数が多くみられた 90
着目根拠、筆者の専門分野を通時的に比較することで、建築の
年代後半にかけて、歴史的タームでは【人物】が飛躍的に増加し、
歴史に関する建築家の認識の変遷を検討する(図 7)。
時代区分では [ モダニズム以後 ]、場所区分では{日本}およ
まず、歴史関連記事の数の推移をみると、70 年代から 80 年
び{欧米}における " 南欧 " と " 北欧 " が比較的多くみられた。
代前半にかけて増加傾向にあり、80 年代後半で減少するもの
このことは、建築界全体において、世紀末や戦後 50 年の節目に、
の、そこから 90 年代後半にかけて再び増加傾向となり、近年
北欧や戦後日本などのモダニズム期の建築家を整理する作業が
では極端に減少していることが分かった。また、建築家の論説
行われたことで、建築の歴史に対する関心が一時的に高まった
の数も同様の傾向を示すことから、80 年代前半と 90 年代後半
ことを示すものと考えられる。
では、建築界および建築家の双方において建築の歴史に対する
さらに、歴史関連記事の数が減少した近年では、特に着目根
関心が高まっていたといえる。そこで、80 年代前半と 90 年代
拠における《方法を抽出》と筆者の専門分野における〔言論分
後半を中心に、建築の歴史に関する建築家の認識の変遷を考察
野〕が減少したことが分かる。このことは、建築界全体の建築
する。
の歴史に対する関心が薄まる中で、特に〔言論分野〕の活動が
80 年代前半では、着目根拠における《現代を批評》、筆者の
鈍化し、また、建築をつくる方法に対する建築家の関心が薄まっ
専門分野における〔設計分野〕が多くみられた。このことを、
たといえる。そうした中で危機意識を抱き、再びモダニズムと
9)
1978 年に『ポストモダニズムの建築言語』 が発刊されたこと
の関連において現代建築の潮流を相対化しようとする〔設計分
と合わせて考察すると、80 年代前半では〔設計分野〕を中心
野〕の姿勢を示す内容もみることができた(図 7 の例Ⅴ)。
着目根 拠
《現代建築・都市を批評》87
β〈現代性を把握〉42
α〈個別的な批評〉12
現代建築家
の姿勢を批評
3
自身の建築
作品を相対化
4
建築の
構成を抽出
10
空間の
性格を抽出
5
〈
z 建築の形式を抽出〉26
《建築をつくる方法を抽出》66
図5. 着目根拠の関係図
日本的な表現
を思考
3
プロトタイプを抽出
7
p〈根源へ遡る〉38
建築の前衛
を理解
2
q〈新たな視点を提示〉15
《建築における概念を明確化》53
66
8
28 7
13
建築の概念
的性質を明確化
3
ビルディングタイプ
を相対化
1
28
時代
区分
《概念を明確化》
53
10
20
46
35
17
19
9
6
3
7
4
20 4
9
18
{区分なし}
y〈建築表現を追求〉20
デザインの
原点をみる
3
自身の建築
の見方を共有
4
140
具体例
かたちの
要素を抽出
4
空間をつくる
方法論を抽出
4
両義的な
表現を追求
2
概念の
根本を見直す
6
建築家像を提示
2
17
場所
区分
{その他}
x〈設計姿勢を学ぶ〉20
都市的
表現を追求
2
記号論による
表現を追求
3
概念の定義
を参照
6
59
モダニズム
以降
【建築・ 【人物】
【思潮】
都市】
古典・伝統に
対する姿勢を抽出
6
都市・環境に
対する姿勢を抽出
6
構築への
意志を抽出
3
有機・無機的な
デザインアプローチに学ぶ
3
私的な
表現を追求
2
近代建築に
新たな意味を付加
3
14
〔言論分野〕
建築家の
社会性を思考
1
人間性の回復
8
現代建築の
ルーツを辿る
3
モダニズム
以前
66
{区分なし}
{その他}
{欧米}
{日本}
{日本} {欧米}
建築の
イメージを解体
1
空間固有の
意味を回復
2
〔設計分野〕
閉塞感
ポストモダニズム
西欧主体の
からの脱却
4
からの脱却
歴史観から脱却
3
2
近代建築が排除
近代から脱却
したイコンを回収
4
5
筆者の専門分野毎の歴史的タームの内容
γ[時流から逸脱] 33
時代
区分
《方法を抽出》
87
【建築・
【人物】
【思潮】
都市】
海外現代建築
20世紀の建築
の背景を把握
を検証
4
5
ポストモダ
現代の建築的
現代の社会的
ニズムとの関連
状況を把握
状況を把握
10
10
5
建築作品
を批評
5
反時代的な
精神を訴える
1
《現代を批評》
現代建築の
問題を把握
5
11
モダニズム以前 モダニズム以降
No.D032・・・
「何故、今、新古典
主義か?」的な問いかけは、直ち
にポスト・モダニズムと新古典主
義との関係への言及を要求する
ものとなる。
図6. 着目根拠と歴史的タームの関係
No.D052・・・形態を模倣するこ
とは意味がない。それよりは自
然からモデルを導き出してくるガ
ウディ独特の方法に、多くを学ぶ
ということではないでしょうか。
No.D056・・・日本の木造建築に
おける"透く""透かす"ということ
を述べてきた。数寄屋の数寄と
は"透き"を根本としていると考え
ている。
5. 結
史関連記事が極端に少なくなったことから、建築界全体におけ
以上、1970 年以降の建築専門誌に掲載された歴史関連記事
る建築の歴史に対する関心が薄まっているという近年の状況を
とそれに付随する建築家の論説を対象に、歴史的タームおよび
見出した。このようなことから、建築を思考する共通の拠り所
着目根拠の内容とそれらの通時的傾向を検討した。その結果、
が見出しにくいといわれる現代において、改めて建築の歴史に
歴史的タームと着目根拠をそれぞれ3つの大枠で整理できた。
対する時間的な射程の長さを意識することで、新たな創作と評
さらに、それらの対応関係から、建築設計者や都市計画家は、
論の可能性を見出すことができると推察される。
建築の歴史に着目する根拠に応じて取り上げる歴史的な題材を
註 1) A. ロッシは、『都市の建築』(大島哲蔵、福田晴虔 共訳、大龍堂書店、1991 年)にて
イタリアの歴史的な都市を、また R. ヴェンチューリは、『建築の複合と対立』(松下一
之訳、美術出版社、1969 年)にてモダニズムの建築を対象とした洞察を述べている。
2) ここでいう建築家とは、主に建築作品あるいは建築論をジャーナリズムに発表するこ
とによって、建築の表現活動をしている人物とする。
3) 歴史に対する意識の希薄化は、八束はじめによる『建築文化 No.639 対談 日本モダ
ニズムのハード・コアをめぐって』(彰国社、2000 年)などで指摘されている。
4) ここでは主要な建築専門誌として新建築、住宅特集、GAJAPAN、建築文化、SD、及
び都市住宅を資料対象としている。
5) 本研究ではモダニズムが相対化されたと考えられる期間に着目しており、ここでの歴
史的タームとは 1960 年以前の歴史に関連する用語としている。
6) 歴史関連記事はその形式により、特集・連載・特別記事に分類している(図 2)。
7) ニコラス・ペヴスナーの『モダン・デザインの展開 モリスからグロピウスまで』(白
石博三 訳、みすず書房、1957 年)によると近代様式は 1914 年までに確立したと指
摘されていることから、これを境にモダニズム以前とモダニズム以降に分類している。
8) 川喜田二郎:『発想法』(中央公論社、1967 年)内の KJ 法を用いている。
9) チャールズ・ジェンクス 著 竹山実 訳:ポストモダニズムの建築言語、エー・アンド・
ユー、1978 年
変える一方、建築史家や評論家は、いずれの根拠においても人
物を取り上げる傾向を見出した。また、通時的傾向として、70
年代後半から 80 年代前半にかけて、建築界全体の関心が、歴
史上の具体的な建築や都市から建築的思想へと推移したとも
に、この期間では建築の歴史に関する認識の時間的な射程が長
かったことを見出した。そして、90 年代後半において戦後 50
年や 20 世紀という時代の節目に際して、建築の歴史に対する
建築家の関心が一時的に高まったのち、2000 年代後半から歴
建築家の論説
歴史関連記事
歴史的タームの内容
a1
人物
建築・都市
思潮
a2 a3 b1 b2 b3 b4 b5 c1 c2 c3
時代/場所区分
区分
日本 欧米 その他 なし
米
247
81
69
17
5
97
7
5
11
5
44
12 52
65 107
74
158
モダニズム以前 モダニズム以降
4
6
7
6
13
3
4
10
14
4
24 5
21
23
11 4
13
1 4
12
3
9
20
5
8
42
方法を抽出
γ
x
y
z
全
体
118
70
9
I
74
I
11
79
84
I
89
94
95
15 14
西 南北
欧 欧 欧1
26
5
7
39
ⅲ
27
11
30
9
10
ⅳ
5
2
1
Ⅴ
8
4
13
11 10
4
8
2
4
8
4
1
2
q
58 87
4
66
4
53
7
20
10
23
3
3
1
8
4
6
16
5
5 16
28
ⅰ
9
ⅱ
7 20
7
9
10
11 12
8
アールトの示したまとまりというのは、そこにいろいろ
入ってきていいというやり方だと思う。
・・・同じ環境と
いう言葉の意味も大分変わってしまうんですけど、ア
ールトの環境のまとまりの示し方は、考えるに値すると
思います。
4
00
I
17 14
ⅲ
8
8
I
3
1
10
6
04
05
09
I
14
図7. 1970年代以降の建築家の言説にみる建築の歴史に関する認識の変遷
6
16
ⅳ
9
18
8
4
3
Ⅴ
3
7
1
No.S52/JT0112/
日本の戦後小住宅について/木下嘉子
現在の'50年代の小住宅に対する関心の高まりは、半
世紀を経てようやく、当時の建築家たちのヴィジョン
が、様々な制約のあるなかで真に豊かな住生活を送
りたいと考える現代の住まい手に理解されつつある
ことを意味しているのかもしれない。
①戦後小住宅 ②モダニズム以後 ③日本
③言論分野 ④【現代を批評】
ⅴ No.D80/SK1209/
漂うモダニズム/槇文彦
5
2
①アルヴァー・アールト ②モダニズム以後 ③北欧
④設計分野 ⑤【方法を抽出】
ⅳ
40
20
近代建築 はウィリアム・モリスまで遡らないにしてもオ
ットー・ワグナーまでは遡るべきではなかろうか。
・・・
それらの建築ではつくる人と建築の間に肌離れがな
い。技術は人と一体なのである。今の技術は違う。魂を
科学に売り渡してしまっている。
26
8
I
99
No.D98/SK8305/近代建築をどうとらえるか その2
ⅱ 近代建築はこれからだ/西澤文隆
①近代建築 ②モダニズム以後 ③区分なし
④設計分野 ⑤【現代を批評】
No.D22/KB9809/アルヴァー・アールト
ⅲ
現在の設計からとらえ直すアールト建築の可能性/塚本由晴
10
8
5 10
建築家が意識的に組みたててきた方法に関心が移
ってきました。
・・・バロック的な空間に亀裂をいれ、
イメージの解体をおしすすめた18世紀がアクチュア
ルに響いてくるようにみえます。そのうちの一人が、
今日お話ししたいジョヴァンニ・バッティスタ・ピラ
ネージです。
39
26
14
No.D28/SD7708/G.B.ピラネージ/
ⅰ 幻視の建築家/磯崎新
①ピラネージ ②モダニズム以前 ③南欧
④設計分野 ⑤【方法を抽出】
85
10
29
23 15
12
53
p
32
90
11
概念を明確化
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I
2
β
I
20
8
α
80
ⅱ
9
5
現代を批評
言論
分野
75
ⅰ
11
設計
分野
具体例
着目根拠
筆者の専門分野
西欧 南欧 北欧 東欧
25
9
年
代
3
現在のモダニズムはもはや船ではない。大海原なの
だ。
・・・確かに大海原は船上と異なった新しい視点を
建築に要求している。
しかし歴史が必ず存在する以
上、過去との関連において現在を知る必要がある。
①モダニズム②モダニズム以後③区分なし
④設計分野 ⑤【現代を批評】
凡例
①歴史的ターム ②時代区分③場所区分
④筆者の専門分野 ⑤着目根拠
図7 註)表の数字と各バーの高さは、左は歴史関連記事、
右は着目根拠の数とその比率によって設定している。