多粒子系の量子力学と第 2 量子化 兵庫県立大学 物質理学研究科 高橋 慶紀 [email protected] 平成 27 年 1 月 第2量子化 1 複数の同種粒子を含む系の量子力学的な取り扱いには、粒子の統計性についての配慮が必要であ る。つまり、系を記述する波動関数は、同種粒子の交換に対してある決まった対称性を持たなくて はならない。系に含まれる粒子数が増えるに伴い、粒子の統計性を考慮に入れた数学的な取り扱い が、より一層難しくなる傾向がある。第2量子化 (2nd Quantization) の方法を用いた場合、これら の系についての見通しのよい取り扱いが可能となる。そこで、以下ではこの第2量子化の方法につ いて簡単に説明する。 1.1 数表示 第2量子化は数表示の考え方に基づいている。例えば、相互作用のない2個の同種粒子がそれぞ れ、状態 ψα , ψβ の状態を占めていたと考えてみる。粒子が互いに区別できないということは、 「ど の粒子がどの状態にある」と考えることには意味がなくなる。むしろ、 「どの状態が何個の粒子に よって占有されているか」と考えることに意味がある。 数表示においては、多粒子系の状態を、それぞれの状態が何個の粒子によって占有されているか によって区別する。つまり、1 電子状態 ψα , ψβ , ψγ , · · · が完全系を成しているとしたとき、それ ぞれの状態を占有する粒子数、つまり nα , nβ , nγ , · · · を指定することによって多粒子系の状態が 決まると考える。 1.2 数演算子と生成、消滅演算子 それぞれの 1 粒子状態 i が、ni 個の粒子で占有された状態を、今後 |n1 , n2 , · · ·⟩ と表すことに する。任意の多粒子系の状態は、この数状態の重ね合わせで表すことができる。 Ψ= ∑ Cn1 ,n2 ,··· |n1 , n2 , · · ·⟩ (1.1) {n} 数状態に含まれる 1 粒子状態 i に作用して、その状態に含まれる粒子数 ni を取り出す演算子とし て、以下の式によって数演算子 n̂i を導入する。 n̂i |n1 , n2 , · · ·⟩ = ni |n1 , n2 , · · ·⟩ 1 (1.2) この演算子は、固有値が実数であることからエルミット演算子である。これ以外にも、数状態に作 用して状態の粒子数を変化させる演算子を導入する。つまり、それぞれの 1 電子状態を占有する 粒子の数を 1 個増加、または減少させる作用を有する生成、および消滅演算子を以下の式によって 定義する。 c† |n⟩ ∝ |n + 1⟩ c |n⟩ ∝ |n − 1⟩ , (1.3) ただし、ここでは粒子数が変化する状態だけに着目し、数状態を |n⟩ と簡略化して表した。上の式 の比例係数については後で説明する。式 (1.3) が成り立つことから、次の関係が成り立つこともわ かる。 n̂c† |n⟩ = (n + 1)c† |n⟩ = c† (1 + n̂) |n⟩ (1.4) n̂c |n⟩ = (n − 1)c |n⟩ = c(n̂ − 1) |n⟩ つまり、数演算子と生成、および消滅演算子との間に次の交換関係が成り立つ。 [n̂, c† ] = c† , [n̂, c] = −c (1.5) 上の (1.5) の最初の式のエルミット共役は、交換関係の符号が変わることから、第 2 式の消滅演算 子の交換関係と一致する。したがって、生成、および消滅演算子 c† と c は、互いにエルミット共 役の関係にあることがわかる。また、負の粒子数の状態の存在を避けるため、c |n⟩ = 0 が成り立 つ必要もある。 1.3 ボース粒子とフェルミ粒子 ある数状態 |ψ⟩ の異なる 2 つの 1 電子状態 α と β (α ̸= β) の粒子数を 1 個増加させるには、 この状態に生成演算子 c†α と c†β を作用させればよい。この作用の順序、つまり c†α c†β と c†β c†α の違 いによって 2 つの状態が定義できる。ただし、それらは同じ粒子数をもつことから両方とも同じ 量子状態を表すと考えられる。したがって、それらは互いに位相因子が違うだけである。したがっ て、一般に次の関係が成り立つ。 c†α c†β |ψ⟩ = eiϕ c†β c†α |ψ⟩ (1.6) 生成演算子の交換関係として、次の式が成り立つ。 c†α c†β = eiϕ c†β c†α (1.7) さらに (1.7) 式の右辺の 2 つの生成演算子を入れ替えることにより、次の関係が得られる。 c†α c†β = eiϕ c†β c†α = e2iϕ c†α c†β (1.8) この最初と最後の式が等しいための条件として、e2iϕ = 1、つまり位相の ϕ 値としては 0 または π だけが許される。交換関係としては、次の2つの可能性がある。 c†α c†β = ±c†β c†α (1.9) この + の符号が成り立つ粒子をボース粒子、− の場合はフェルミ粒子と呼ぶ。同様に α ̸= β の 場合の生成、消滅演算子の交換関係についても、次の式が成り立つ。 c†α cβ = ±cβ c†α (1.10) 次に、フェルミ粒子とボーズ粒子のそれぞれについて、α = β が成り立つ場合を考えてみる。 フェルミ粒子の場合、 2 • フェルミ粒子の場合 この場合、(1.9) で α = β と置くと次の式が得られる。 c†α c†α = −c†α c†α , ∴ c†α c†α = 0 (1.11) 状態 |0⟩ に 2 個の生成演算子を作用した結果は次のようになる。 c†α c†α |0⟩ ∝ c†α |1⟩ = 0 (1.12) この結果は、フェルミ粒子の場合は状態 |2⟩ が存在せず、状態を占有する粒子数は 0、また は 1 の値に限られることを意味する。 次に、状態 |0⟩ と |1⟩ のそれぞれに、生成、及び消滅演算子を作用した結果が次の式で表さ れると仮定する。 c |1⟩ = u |0⟩ , c† |0⟩ = v |1⟩ (1.13) ここで導入した係数 u, v を用いると、次のような期待値が求まる。 ⟨0|cc† |0⟩ = |v|2 ⟨1|1⟩ = |v|2 = v ⟨0|c|1⟩ = uv ⟨0|0⟩ = uv, (u = v ∗ ) (1.14) ⟨1|c† c|1⟩ = |u|2 ⟨0|0⟩ = |u|2 = |v|2 この他に c |0⟩ = 0, c† |1⟩ = 0 が成り立つことを考慮すると、(1.14) の結果は一般に反交換関 係 {c, c† } について、次の関係が成り立つことに等しい。 ⟨0|{c, c† }|0⟩ = |u|2 , ⟨1|{c, c† }|1⟩ = |u|2 (1.15) そこで、この反交換関係の値を |u|2 とすれば次の関係が成り立つ。 {c, c† } = cc† + c† c = |u|2 (1.16) その場合、数演算子 n̂ に関して次の代数的な関係が成り立つ。 n̂2 = c† cc† c = c† (|u|2 − c† c)c = |u|2 n̂ (1.17) これを代数方程式とみなした場合の解が、0 または |u|2 となることから、フェルミ粒子の数 演算子の期待値は 0 と 1 に一致するための条件から |u|2 = 1 が導かれる。その場合、数演 算子を n̂ = c† c と定義すれば、数演算子と生成、消滅演算子の交換関係が成り立つことが示 される。 • ボース粒子の場合 ボース粒子については、粒子数について制限はないので n 粒子状態に生成、消滅演算子を作 用させた結果として次の式を仮定する。 c† |n⟩ = vn |n + 1⟩ c |n⟩ = un |n − 1⟩ , c† c |n⟩ = vn−1 un |n⟩ , cc† |n⟩ = un+1 vn |n + 1⟩ (1.18) ⟨n|c† c|n⟩ = |un |2 = vn−1 un が成り立つことから、vn−1 = u∗n が成り立つことがわかる。生 成、消滅演算子の定義から演算子 cc† − c† c が粒子数を変えないことがわかる。したがって 上の結果を用いると、任意の状態 |n⟩ に対する交換関係の期待値として次の式が成り立つ。 ⟨n|cc† − c† c|n⟩ = |un+1 |2 − |un |2 3 (1.19) これが交換関係であることから、この値は n に依らない定数であると考えなくてはならな い。また、c |0⟩ = 0 が成り立つことから u0 = 0 である。これらの条件を満たすには、|un |2 の値が n に比例すると考えればよく、次の式が成り立つと仮定する。 [c, c† ] = cc† − c† c = λ (1.20) √ λn となり、⟨n|n̂|n⟩ = |un |2 = λn が成り立つ。フェルミ粒子の場合と同 様に、数演算子が n̂ = c† c で与えられるとすれば、λ = 1 が成り立つ。 このとき、un = 1.4 量子力学的な真空の定義 粒子数が負の値をとることは考えられない。そこで、どの状態にも全く粒子が存在しない状態 として、これを真空の状態 |0⟩ と定義する。この状態は、任意の消滅演算子に対して次の式が成り 立つ。 cα |0⟩ = 0 (1.21) 生成演算子を用いて真空の状態に粒子を付加すれば、任意の粒子数を持つ状態を定義することがで きる。 1.5 波動関数 簡単のために粒子が 1 個の場合をまず考えてみる。ある量子状態 α に粒子が 1 個存在する状態 は、次のように表すことができる。 |ψα ⟩ = c†α |0⟩ (1.22) 次に、座標表示でこの状態の波動関数が ψα (r) で表されると考えてみる。この関数は次式に示す 2つの状態の内積で与えられると考えられる。 ψα (r) = ⟨r|ψα ⟩ (1.23) ここで、状態 |r⟩ は、真空に対してある座標位置 r に粒子を 1 個付加した状態であると定義する。 このことについての説明のため、次式に示す粒子場の演算子を定義する。 ψ̂(r) = ∑ ψβ (r)cβ (1.24) β ただし、関数系 {ψβ (r)} は完全系を成すものとする。このように定義した場の生成演算子 ψ̂ † (r) を用い、状態 |r⟩ は次の式を用いて定義される。 |r⟩ = ψ̂ † (r) |0⟩ (1.25) その場合、状態 |r⟩ 同士についての次の内積が成り立つ。 ⟨r|r′ ⟩ = ⟨0|ψ̂ † (r)ψ̂(r′ )|0⟩ = = ∑ ∑ ψα (r)ψβ∗ (r′ ) ⟨0|cα c†β |0⟩ αβ ψα (r)ψα∗ (r′ ) = δ(r − r′ ) α 4 (1.26) このことから、ψ̂ † (r) が空間座標の位置 r に粒子を 1 個生成する演算子であることがわかる。ま た、ψ̂ † (r)ψ̂(r) は粒子数密度を表す演算子である。上の定義にしたがって内積を計算すると、1 粒 子系の波動関数を以下のように求めることができる。 ψα (r) = ⟨0|ψ̂(r)c†α |0⟩ (1.27) 粒子場の演算子については、フェルミ粒子の場合に下記のような反交換関係が成り立つ。 {ψ̂(r), ψ̂ † (r′ )} = ∑ ∑ ψα (r)ψβ∗ (r′ ){cα , c†β } = ψα (r)ψα∗ (r′ ) = δ(r − r′ ) (1.28) α αβ 同様に 2 粒子系の波動関数も定義することができる。空間座標 r と r′ に粒子を生成した状態が |r, r′ ⟩ = ψ̂ † (r)ψ̂ † (r′ ) |0⟩ で与えられることに注意すれば、状態 α, β に 1 個ずつ粒子が存在する状 態は次の内積で定義される。 ∑ ψα,β (r1 , r2 ) = ⟨0|ψ̂(r1 )ψ̂(r2 )c†α c†β |0⟩ = ψµ (r1 )ψν (r2 ) ⟨0|cµ cν c†α c†β |0⟩ µ,ν (1.29) = ψβ (r1 )ψα (r2 ) − ψα (r1 )ψβ (r2 ) 一般に、N 粒子系の波動関数は次のように定義できる。 ψ(r1 , r2 , · · · ) = ⟨0|ψ̂(r1 )ψ̂(r2 ) · · · ψ̂(rN )c†ν1 c†ν2 · · · |0⟩ (1.30) これが Slater 行列式となることは、容易に示すことができる。 上の説明から、任意の座標系で数演算子や生成、消滅演算子を定義することができる。ただし、 それぞれの系で同様な交換関係が成り立つ必要がある。 cα = ∑ c†α = ⟨α|β⟩ cβ , ∑ β ∗ ⟨α|β⟩ c†β (1.31) β cα が場の演算子 ψ̂(r) であると考えると、(1.24) によればこれを場の演算子の展開式と考えるこ とができる。ただし、⟨α|β⟩ は 1 電子状態の内積を表すものとする。 2 量子力学的な多体系のハミルトニアン 第2量子化の方法を用いた場合にハミルトニアンがどのように表されるかについて考えてみる。 フェルミ粒子の場合について考える。通常の N 粒子系のハミルトニアンは一般に次のように与え られると考えられる。 H = H0 + H1 ] ∑ [ p2 i + U (ri ) , H0 = 2m i H1 = 1∑ V (ri , rj ) 2 (2.1) i̸=j N 個の同種粒子が含まれていることは、任意の2粒子の交換、つまり i, j の入れ換えに対しハミ ルトニアンが不変であることを意味する。H0 は、あるポテンシャルの中の粒子の運動を表し、H1 は粒子間の相互作用を表すものとする。 5 2.1 1 粒子系のハミルトニアン 一般の場合を考える前に、まず簡単に1粒子の系の場合について考えてみる。すでに説明したよ うに、状態 µ が 1 個の粒子に占められる場合の波動関数は次のように与えられる。 ⟨0|Ψ̂(r)c†µ |0⟩ = ϕµ (r), Ψ̂(r) = ∑ ϕα (r)cα (2.2) α 1粒子系の問題は、次の Schrödinger 方程式を解き、固有値、固有関数を求めることである。 [ ] 1 2 p + U (r) ψ(r) = εψ(r) (2.3) 2m 固有状態 ψ(r) は、ある完全系 ϕµ (r) の線形結合として次のように表すことができる。 ψ(r) = ∑ uµ ϕµ (r) (2.4) µ これを利用すれば、問題は次のように表すことができる。 ∑ ∑ H0 ψ(r) = uν H0 ϕν (r) = ϕµ (r)H0µν uν ν =ε ∑ µν (2.5) uµ ϕµ (r) µ ただし、行列要素 H0µν は以下のように定義した。 [ ] ∫ 1 2 µν ∗ H0 = dr ϕµ (r) p + U (r) ϕν (r) 2m (2.6) つまり次のような固有値方程式を解くことができれば、固有値 ε と係数 uν が求まることにより固 有状態が求まる。 ∑ H0µν uν = εuµ (2.7) µ ここに現れる行列 H0µν は、基底関数 ϕµ (r) のハミルトニアンによる変換性を表すものである。 H0 ϕν (r) = ∑ ϕµ (r)H0µν (2.8) µ 一方、次のような第2量子化の形の演算子を考えてみよう。 Ĥ0 = ∑ c†α H0αβ cβ (2.9) αβ まず、1 粒子状態への Ĥ0 の作用について、次の結果が成り立つことに注意する。 Ĥ0 c†ν |0⟩ = ∑ αβ H0αβ c†α cβ c†ν |0⟩ = ∑ H0αβ c†α (δβν − c†ν cβ ) |0⟩ = ∑ H0µν c†µ |0⟩ (2.10) µ αβ これは、状態 c†ν |0⟩ のハミルトニアン Ĥ0 に対する変換性が、上に述べた基底関数の変換性と全く 等価であることを意味する。したがって、次のような第2量子化の形で表した状態を定義すれば、 |ψ⟩ = ∑ ν 6 uν c†ν |0⟩ (2.11) 第2量子化の表示での固有値問題, Ĥ0 |ψ⟩ = ε |ψ⟩, を解くことによっても全く同じ固有値、固有ベ クトル (つまり係数 {uµ }) を求めることができる。 ∑ ∑ ∑ uν c†ν |0⟩ uν c†ν |0⟩ = uν Ĥ0 c†ν |0⟩ = ε Ĥ0 ν (2.12) ν ν 2 粒子問題についても同様に考えることができる。異なる状態 µ, ν のそれぞれが粒子に占有さ れている状態に対する Ĥ0 の作用は次のように表される。 ∑ αβ ∑ αβ H0 c†α cβ c†µ c†ν |0⟩ = H0 c†α (δβµ − c†µ cβ )c†ν |0⟩ Ĥ0 c†µ c†ν |0⟩ = αβ = ∑ αβ H0αβ c†α (δβµ c†ν − δβν c†µ + c†µ c†ν cβ ) |0⟩ (2.13) αβ = ∑ αµ (H0 c†α c†ν + H0αν c†µ c†α ) |0⟩ α 1 電子問題の場合と同様に、2 粒子系の通常のハミルトニアン、 H0 (r1 , r2 ) = H0 (r1 ) + H0 (r2 ) (2.14) ϕµ,ν (r1 , r2 ) = ϕµ (r1 )ϕν (r2 ) − ϕν (r1 )ϕµ (r2 ) (2.15) の Slater 行列式 の作用は等価であることを容易に示すことができる。これらの結果は一般に任意の粒子数を含む系 についても成り立つことが示せる。 以上をまとめると、多粒子系のハミルトニアンのうち H0 の項は、第2量子化の数表示で表した 状態に対する 粒子場の演算子 Ĥ0 と等価であり、Ĥ0 は行列要素 H0νµ の定義から次のように表す ことができる。 [ ] 1 2 p + U (r) ϕβ (r)c†α cβ 2m αβ [ ] ∫ 1 2 † = drψ̂ (r) p + U (r) ψ̂(r) 2m Ĥ0 = ∑∫ drϕ†α (r) (2.16) もし、場の演算子を以下の固有値方程式を解いて得られる固有関数を用いて展開すれば、 ] [ 2 p + U (r) ϕα (r) = εα ϕα (r) (2.17) 2m Ĥ0 は簡単に次のように表すことができる。 Ĥ0 = ∑ εα c†α cα (2.18) α 結晶をつくる固体中に含まれる電子の状態は、よくブロッホ状態 ψkµ (r) を用いて記述される。 ブロッホ状態を用いて固体内電子の場の演算子は次のように展開できる。 ∑ Ψ̂(r) = ψkµ (r)ckµσ (2.19) kµσ ただし、k は波数ベクトルを表し、µ, σ はそれぞれバンドの指標、電子スピンを表す。相互作用 を無視すると、固体内電子を記述するハミルトニアンは次のように表すことができる。 ∑ Ĥ = εkµ c†kµσ ckµσ kµσ 7 (2.20) 2.2 フェルミ粒子系の真空 相互作用のないフェルミ粒子系の基底状態は、フェルミ準位 εF より低いエネルギーの状態だけ が電子によって占有されている場合である。このような場合、基底状態エネルギーが多粒子系のエ ネルギーの原点として選ばれることもある。その場合は、さらに真空としてフェルミ準位以下の 1 粒子状態が完全に占有された状態が選ばれることもある。 その場合、フェルミエネルギーより低いエネルギーの 1 電子状態の生成、消滅演算子の代わり に正孔に対する生成、消滅演算子が次のように導入される。 d†kµ = c−kµ , dkµ = c†−kµ (2.21) 正孔に対しても電子と同様の交換関係が成り立ち、数演算子の間には d†kµ dkµ = 1 − n̂−kµ の関係 が成り立つ。すると真空は dkµ |0⟩ = 0, ckµ |0⟩ = 0 として定義される。 2.3 相互作用のハミルトニアン ハミルトニアンの中の相互作用を表す項については、同様に次のように表すことができる。 ∫ 1 dr dr′ ψ̂ † (r)ψ̂ † (r′ )V (r, r′ )ψ̂(r′ )ψ̂(r) (2.22) Hˆ1 = 2 ブロッホ状態に対する生成、消滅演算子を用いて次のように表すこともできる。 1 ∑ Hˆ1 = V (k, k′ ; q)c†k+qµ′ σ c†k′ −qντ ck′ ντ ckµσ 2 ′ (2.23) k,k ,q 3 量子多体系の統計力学 統計力学によれば熱平衡状態にある量子力学系の性質は、密度行列 ρ̂ を用いて次のような状態 に関する対角和 (トレース) の操作により求めることができる。 ⟨A⟩ = Trρ̂A (3.1) 多粒子系の場合には、上の対角和は互いに異なるすべての数状態 |n1 , n2 , · · ·⟩ に関する和を意味す る。量子系のグランドカノニカルアンサンブルに対しては密度行列は、ρ̂ = e−β(Ĥ−µN̂ ) /Z で与え られ、分配関数 Z 、および自由エネルギー F は次のように求められる。 Z = Tre−β(Ĥ−µN̂ ) , F − µN = − 1 ln Z β (3.2) 第2量子化の方法を利用した熱力学的な性質に関する計算の簡単な例として状態の占有数の温度 ∑ † α εα cα cα 依存性を計算してみよう。ただし、粒子間の相互作用が存在せずハミルトニアンが Ĥ = で与えられる場合を考える。まず、交換関係、[Ĥ − µN̂ , c†α ] = (εα − µ)c†α が成り立つことから次 の関係が成り立つことがわかる。 e−β(Ĥ−µN̂ ) c†α eβ(Ĥ−µN̂ ) = c†α − β(εα − µ)c†α + = e−β(εα −µ) c†α 8 1 2 β (εα − µ)2 c†α + · · · 2! (3.3) つまり、e−β(Ĥ−µN̂ ) c†α = e−β(εα −µ) c†α e−β(Ĥ−µN̂ ) 。この結果を利用すると数演算子の期待値に関し て次のような関係が成り立つことがわかる。 Tr1e−β(Ĥ−µN̂ ) c†α cα = e−β(εα −µ) Trc†α e−β(Ĥ−µN̂ ) cα = e−β(εα −µ) Tre−β(Ĥ−µN̂ ) cα c†α (3.4) ここで、粒子のそれぞれの統計性に関して交換関係、 cα c†α = 1 ± c†α cα (3.5) (1 ∓ e−β(εα −µ) )Tre−β(Ĥ−µN̂ ) c†α cα = e−β(εα −µ) Z (3.6) の符号のそれぞれに応じて、 つまり、占有数の温度依存性 ⟨n̂α ⟩ = 1 1 Trc†α cα = β(ε −µ) Z e α ∓1 (3.7) が成り立つ。このそれぞれはボース分布関数、フェルミ分布関数として知られているものである。 分配関数についてもこの場合は次のように簡単に計算することができる。 Z = Tre−β ∑ α (εα −µ)n̂α = Πα Trnα e−β(εα −µ)nα (3.8) ここで、nα に関するトレースはとり得る可能な粒子数に関する和をあらわし、ボース粒子系、フェ ルミ粒子系のそれぞれに対して次のように求まる。 Π [1 − e−β(εα −µ) ]−1 , α Z= Π [1 + e−β(εα −µ) ], α 9 Boson の場合 Fermion の場合 (3.9)
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