25 昭和 28 年当時の風景

昭和 28 年当時の風景
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〈散策マップ〉
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大 門 界 隈
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大 門 界 隈
〈界隈めぐりレポート〉
かつて中村遊廓として世に知られた大門【写真①】。田
園地帯に突如うまれた楽園は、建物それぞれに意匠がこ
らされ、破格のお金が惜しみなくつぎこまれた名建築群
であった。
遊廓の売り上げは多い時には、当時の名古屋市の予算
の 4 割にまで上るほど。かつて栄華をきわめた大門は今
どうなっているのか?今回委員会のメンバーで見て歩い
てきた。
集合場所の区役所を出てから、大門までは歩いて約1
5分。昔の地図を片手に、キョロキョロしながら歩いて
いると、
(怪しい集団がきた!)と思われたか、特殊浴場
の隣から、怖そうなお兄さんがやってきて「何をやって
るの?」と尋ねられる。スーツ姿の集団は不思議にみえ
たのだろうか。
【写真①】大門町
【写真②】長寿庵
大門一帯の北側半分には、今も良好な状態で残ってい
る建築物がある。一行はまずこちらを散策。
①長寿庵【写真②】
建物の壁に美人画がかざられているのが特徴的。べん
がら塗りで、よくまとまったこぎれいな建物だ。上から
観ると、隣の病院とくっついているようだが、どうなっ
ているのだろうか?
【写真③】元料亭稲本
②元料亭稲本【写真③】
私は、料亭時代に一度だけ訪れた事がある。今は、料
亭をやめてしまい、道路側の建物だけをデイサービスの
業者が使っているようだ。中国風の特徴ある建築は、大
門の中でも一番見応えのある建物なので、今後、どう活
用して残って行けるのか気がかりである。
【写真④】デイサービスセンター
松岡健遊館(外観)
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③デイサービスセンター松岡健遊館【写真④】
こちらでは、建物内の見学をさせてもらった。外観は
写真の通り、当時の趣きを残している。建物内部は、現
在デイサービスセンターとして使われているという事で、
バリアフリーの改装がされている。また、入浴施設など
も作られている。
一方で、中庭【写真⑤】であったり、欄間やステンド
グラス、あるいは調度品など当時のものも、残せるもの
は残して活用されている。遊廓時代の流れをくむ格調あ
るインテリア【写真⑥】により、高級旅館へ遊びにきた
かのような雰囲気で、お年寄りが過ごす事ができる。
【写
真⑦】私が、事前の打ち合わせにうかがった時には「昔
ながらの建物の雰囲気があることで、利用者の方にはと
てもご好評をいただいている。課題は、建物の維持費が
かかること。修繕に毎年かなり費用がかかるので、こう
したところを行政がバックアップしてくれるとよいのだ
が…」というお話があった。
【写真⑤】デイサービスセンター
松岡健遊館(内観)
【写真⑥】デイサービスセンター
松岡健遊館(内観)
中村遊廓が出来上がると、その周りにも多くの店舗や
民家が立ち並ぶようになった。この日は、そうした建物
も見て回ってきた。
①寿湯【写真⑧】
石造りのようなファサードが独特。番台のおばちゃん
によると「100年ぐらいはやってるんじゃないかなぁ。」
との事。その間、一度も、建て替えはしてないそうだ。
まち歩き当日は、中には入らなかったが、浴場の壁には
見事なタイル絵があり、懐かしい感じのお風呂が楽しめ
る。
【写真⑦】デイサービスセンター
松岡健遊館(内観
【写真⑧】寿湯
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②廓温泉【写真⑨】
昭和12年、汎太平洋博覧会にあわせて発刊された名
古屋のガイドブック「歓楽の名古屋」
(なんとも魅力的な
名前!)にも紹介されている銭湯。近所の方に聞くと、
数年前まで銭湯として営業をされていたようだ。立派な
構えだが、よく見ると高欄がこわれていたりして、今後、
どうなるのか心配。
③起業支援ネットワーク大門庵【写真⑩】
こちらでも建物内部を見学させていただいた。この建
物は、飲み屋だった建物を、NPO団体“起業支援ネッ
トワーク”が改装し、オフィスとして使っていたもの。
【写真⑪】案内をしていただいた森さんには「昔からの
まちの中で仕事をしたいという事で、かなりの費用をか
けて改装したが、使い勝手がどうしても悪かった。手を
入れても、時間がたつと建物自体がゆがんできて、建て
つけが悪くなるなどの問題もある。また、風呂が無いと
いう事も、ここで住み込みで働くには難点。ここもオー
ナーの意向で24年には取り壊すことになった。」という
お話を伺った。建物再活用も、松岡健遊館のように成功
する事例もあれば、うまくいかない事例もあるという事
で、勉強になる。
大 門 界 隈
【写真⑨】廓温泉
【写真⑩】起業支援ネットワーク大門庵
【写真⑪】起業支援ネットワーク大門庵
(内観)
中村遊廓では、通常、お客は廓で食事をとる事はなか
った。そのためか、遊廓の周辺には飲み屋も多くあった。
まち歩きの終盤はそうしたところも見て回った。
①大門横丁【写真⑫】
太閤通からアーケードが伸びる横丁。居酒屋やスナッ
クが並んでいる。私たちが通った時には、まだお店は開
いていなかったが。見た感じは割ときれいなお店が多か
ったので、今も営業しているようだ。
【写真⑫】大門横丁
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②大門小路【写真⑬】
建物と建物の間のトンネルになった路地。3本のトン
ネルが中でくっついているワンダーゾーン。トンネルの
中に入っていくと、左右にスナックや居酒屋が。なかな
か入るには勇気がいるが、興味をそそられる場所だ。
③中村映劇【写真⑭】
今回のルートの最後に選んだ場所がここ。遊廓があっ
た頃から続く映画館。今ではめったに目の当たりにする
事がなくなった、ポルノ映画専門の映画館だ。それにし
ても、なぜ遊廓の近くにポルノ映画館?ここで勉強して
から出撃するのか、お金が無い時はここなのか(笑)ち
なみにシニア割引がきく。
≪番外編≫
①おやつ饅頭【写真⑮】
寒い中、歩きつづけた一行は、反省会という名の休憩
をとるため、近くのお菓子屋「おやつ饅頭」へ。こちら
も老舗。店のおばちゃんにうかがったところ、35年以
上の歴史があるという事だ。おやつ饅頭(今川焼)が8
0円。これを買って店内で食べていると、お茶もサービ
スで出してくれた。
【写真⑬】大門小路
【写真⑭】中村映劇
②萬珍軒
おやつ饅頭を食べただけでは反省不足な一行は、さら
なる反省会を開くために萬珍軒へ。玉子とじラーメンで
有名なこのお店は、実は、古民家(長屋)を改装した歴
史的建築物の再活用事例でもある。半日のまち歩きで使
ったエネルギーをビールと中華で十分補給し、家路につ
いたのであった。
【写真⑮】おやつ饅頭
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