こどもの病気【第6回】 麻疹(はしか) もともと、日本は麻疹(はしか)の発生が先進国の中では多く、世界的には 麻疹の輸出国といわれてきました。これは、日本における麻疹のワクチン接種 の接種率が他の先進諸国に比べ低く、先進諸国が2回接種を行っていたのに対 し、長年1回接種を行ってきたことが原因とされてきました。麻疹のワクチン 接種の効果(麻疹抗体価)は時間とともに低下します。そのため、日本では麻 疹ワクチン接種後8から 10 年以上たってから麻疹に罹患すること(異型麻疹) が他の先進諸国より多くありました。以前は、麻疹患者に知らない間に接触し、 自然にワクチンを複数回接種したような状態となり、しっかりとした抗体獲得 がなされました(ブースター効果)が、麻疹ワクチン接種の普及によりこの効 果が少なくなり、異型麻疹が起こります。このため日本でも平成 18 年4月から 麻疹風疹混合ワクチン(MR ワクチン)が生後 12 から 24 ヵ月と5から7歳未 満の2回接種で導入されました。しかし、平成 19 年と 20 年には首都圏を中心 に麻疹(はしか)が猛威を揮い、全国に広まりました。この時の流行の特徴と して、麻疹ワクチンを 1 回しか接種していない中学生や高校生そして成人にも 流行がみられたことでした。麻疹はもともと非常に感染力の強い病気で、医療 が発達した現在でも肺炎や脳炎などの合併症によって死亡する重篤な感染症で す。しかし、麻疹には①人から人以外の感染経路がないこと、②感染力が強く 不顕性感染がないこと、③有効かつ安全なワクチンが存在することなどから地 球上から根絶可能な感染症とも考えられており、ワクチン接種の重要性が叫ば れてきました。啓蒙活動により平成 13 年に約 50%であった 1 歳児の麻疹ワク チンの接種率は、平成 16 年には約 76%まで上昇し、平成 18 年の 2 回接種の開 始により 2012 年には 97%を超えました。そのため、昨年は昔から日本にいた 種類の麻疹ウイルスによる発症はなくなり、外来種のウイルスによる発症のみ となりました。しかし、麻疹患者が減少することは非常に良いことなのですが、 実際の患者様を見たことがない医師(小児科医でも)が増えてしまう事態とな り、診断が難しくなってきています。 では麻疹というのはどういう病気なのでしょうか。麻疹について解説します。 麻疹 原因ウイルス:麻疹ウイルス 感染様式:空気感染、飛沫感染、接触感染すべてであるが、人から人の感染に 限られる。麻疹ウイルスは、発疹出現の3から4日前から発疹出現4から5 日頃まで患者から排泄される。(ということは、症状が出現する 1 日前くら いから症状が出現して 10 日近くは感染力を持つということです) 潜伏期:10~12 日 症状:10 から 12 日の潜伏期のあとに、38.5℃以上の高熱、咳嗽、鼻汁、結膜 充血、眼脂などの上気道炎および結膜炎症状が出現し、次第に増強する(カ タル期、前駆期)。発熱3日目頃より頬粘膜に小さな白色斑点(コプリック 斑)が出現する。コプリック斑出現と同時に一時的に発熱は下降するが、12 ~24 時間後に再度発熱し 40℃の高熱が出現する(二峰性発熱)。コプリッ ク斑は出現後 3 日くらいで消失する。再度の急激な発熱と同時に皮疹が出現 する(発疹期)。皮疹は耳介後部・顔面から始まり、体感・四肢に拡大する。 出現当初の発疹は独立した斑丘疹で、次第に癒合する。皮膚の発疹は、発疹 出現 4~5 日後より消退し始め(回復期)、二峰目の発熱が消失する頃には 色素沈着を残して消退する。 合併症:中耳炎、肺炎、喉頭炎、下痢などがある。急性脳炎は 1000 例に 1 例、 呼吸性あるいは神経学的合併症による死亡が 1000 例に 1~3 例発生する。 また、麻疹罹患 8~10 年後に発症する亜急性硬化性全脳炎(SSPE) も忘 れてはならない。 治療:対症療法(解熱剤、鎮咳剤、補液など)。 予防:ワクチン接種 麻疹患者と接触後の発症予防: 麻疹接触後 72 時間以内に麻疹生ワクチンが摂取されるならば、感染を防止 できる可能性がある。また、免疫グロブリンを接触後 6 日以内に投与する (0.25ml/kg 最大 15ml 筋注・100~400mg/kg 静注)と麻疹を予防したり軽 症化できたりする。 学校保健法:出席停止期間の基準では「解熱した後 3 日を経過するまで」と ある。 当院では麻疹と診断されたり麻疹が疑われる患者様に対しては、他の患者様 から隔離する目的で他の場所で待っていただいたり、他の診察室で診療を行っ たり細心の注意はしています。しかし、麻疹の感染力は発症する前からあり、 また麻疹特有の症状が出現するのは発熱後3日目頃からのため病院での水平感 染を完全に防ぐことは不可能です。麻疹に対して特有の治療があるわけでもあ りません。発熱に対しては十分に冷やしていただき(方法はこどもの病気【第 1 回】に載せてあります)、鎮咳去痰剤や抗ヒスタミン剤などの風邪の薬を使用し てください。水分が取れない場合や意識がもうろうとしてきた、会話が成り立 たないなどの症状が強い場合やご心配な場合は、すぐに病院を受診されるので はなく病院にお問い合わせください。 行徳総合病院小児科 佐藤俊彦
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