高齢者医療において 看護師に期待すること

い!
ておきた
っ
知
は
これだけ
表 求められる医療のパラダイムシフト
護
看
高齢者
て
い
お
に
療
医
高齢者 期待すること
に
師
護
看
医療の主要対象者
医療の主要疾患
教授
葛谷 雅文先生
我が国の高齢化率は2012年(平成24年)には24%を越し、75歳以上の割合も11.9%に到達する時代となってい
ます。
また、
さらに高齢化率は進み、恐ろしいことに今後日本で人口が増える唯一の年代は75歳以上であると予測さ
れています。
すでに高齢者はマイノリティーではなく、マジョリティーと言ってもよい時代になっています。
その反面、高齢者の疾病・症候は特異的なものが多く、若年・成人とは異なる病態が存在します。
その意味で看護を
する際も高齢者の特殊性を十分理解する必要があります。
ポイント1 医療の主な対象者が後期高齢者になっていく中で、求められる医療(目的・医療従事者の関わり方)
も変わりつつあります
ポイント2 高齢患者の多くは認知機能障害、身体機能障害、摂食嚥下障害・栄養障害などを抱えているが、
医師教育には取り込まれていないものが多く存在します
ポイント3 地域高齢者医療における看護師の役割は、看護するという本来の目的を超えて多職種連携の
中での中核的役割を期待されています
若年者・前期高齢者
後期高齢者・超高齢者
慢性期疾患
疾患(治療可能)
障害(治療不能)
機能障害・後遺症
なし
あり
認知機能障害
なし
あり
主要な医療の場
病院(医療)
地域・在宅(医療)
医療の主要目的
治療・根治(キュア)
維持医療・支える医療(ケア)
求められる医師
臓器別専門医
老年・総合内科・在宅医
予防医学の視点
生活習慣病予防
介護予防・虚弱予防
外傷・脳卒中
虚弱・廃用
リハビリテーションのターゲット
在宅医療
軽視
重要視
命に対して
延命
緩和・満足度・QOL
看取り場所
病院
在宅・介護施設
多職種連携
不要
必要
提供:葛谷雅文先生
期高齢者であり、その時代の医療が目指すものは疾病の診
い暮らしを人生の最後まで続けることができる。そんな、
断であり治療であって、医師が大学で習うのは診断学であ
住まい、医療、介護、予防、生活支援の取り組みが、日常生
り治療学でした。そこには障害医療、看取りなどの授業はあ
活の場で一体的に提供できる地域での体制作り
(地域包括
りません。
しかし、今や上述した通り医療が関わる主な対象
ケアシステム)
として進んでいます。
この中で地域・在宅で
者は高齢者となり、特に75歳以上の後期高齢者になってき
多職種が連携して高齢者を支えることの重要性が強調さ
ました。そのような対象者の疾病は若年者のそれとは大き
れています。
く異なります(表)。診断されたとしても治療に至らない、治
種々の調査によると、職種間の連携の中で医師とケア
老年内科を標榜している病院は、大学病院を含めまだま
支える医療の重要性・医療の
パラダイムシフト
療法がない病態が多く存在します。 マネジャー、介護職との連携が不十分であると言われて
だ少なく、
まして老年内科医と名乗っている医師は、大変限
我々の病棟患者さんは約8割が救急で入院される高齢
高齢患者の多くは認知機能障害、身体機能障害、摂食嚥
います。その溝は深いため、お互いが理解し意見交換を行
られているのが現状です。我々のような医師は高齢者を総
者であり、平均年齢は80代後半です。高齢者医療を行って
下障害・栄養障害などを抱えています。そしてその対処法
うことが今後も必要ですが、
この連携を円滑に進めるため
合的に、急性期から慢性期、終末期、看取りまで一貫して診
いる病棟での3大プロブレムは、1)ADL障害、2)認知機能
は、
まだまだ医師教育の中に取り込まれていないものが多
の看護師の役割は重大です。医師は臨床の現場で看護師と
療することを使命としています。高齢者医療の場はバラエ
障害、3)摂食嚥下障害・栄養障害、だと思っています。
これら
く存在しているのが現状です。
また、医学教育の中に緩和ケ
研修医時代から協働してきました。
また、介護サイドも看護
ティーに富んでおり、現在私が所属している病院のように、
が原因で急性期疾患を発症して来院される場合もあれば、
アは少しずつ取り込まれていますが、多くはがん患者を想
師とは連携を取りやすいと考えています。看護師は、地域で
ほぼ高齢者救急を扱うような診療から、亜急性期、回復期リ
新たな急性期疾患に罹患して3大プロブレムを抱えてしま
定しており、高齢者を想定しているわけではありません。看
の医師と介護職との間を取り持つ要のような位置づけになり
ハビリテーション、療養病床、介護施設、また在宅診療に至
う方々もおられるからです。
護教育の中には老年看護という分野があり、高齢者の看護
つつあるようです。今後も地域高齢者医療の中で看護師は
るまで大変幅広いのが特徴です。
しかしどこをとっても医師
老年内科医から
2
超高齢社会
急性期疾患
医療の関わり
名古屋大学大学院医学系研究科
地域在宅医療学・老年科学教室
以前
これらの問題を抱えたままでは治癒、根治というゴール
に関しては学生の時から教育がされていると聞きました。
看護での役割は言うに及ばず、多職種連携の中での中核的
と看護師の協働作業は欠くことができないことは言うまで
にはなかなか到達しませんし、高齢者を住み慣れた地域に
ですから、看護師さんたちの方が高齢者に対する教育は充
役割を期待されている職種だと思います。
もありません。
お返しするには医療と看護、介護、福祉との連携という作業
実しているのかもしれません。
医療もわかるし、介護・福祉に関しても理解ある職種と
我々老年内科医は医師と看護師は情報を共有し合う
が介在します。つまり高齢者医療は、医師だけでは、医療だ
パートナーであるとの認識が強く、看護師からの情報が無
けでは解決できないのです。
地域包括ケアの重要性
ければ高齢者医療を行うことができないとまで感じてい
時代は明らかに変わりました。高齢化率がまだ一桁で
超高齢者社会に対応するため、高齢者が尊厳を保ちな
ます。
あった時代は、医療の主な対象者は若年・成人、せいぜい前
がら、要介護状態となっても、住み慣れた地域で自分らし
いうことで、在宅医療、地域包括ケアを支えるのは看護師
だ、
との意気込みをもって取り組んでいただきたいと思い
ます。
3
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高齢者 期待すること
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医療の主要対象者
医療の主要疾患
教授
葛谷 雅文先生
我が国の高齢化率は2012年(平成24年)には24%を越し、75歳以上の割合も11.9%に到達する時代となってい
ます。
また、
さらに高齢化率は進み、恐ろしいことに今後日本で人口が増える唯一の年代は75歳以上であると予測さ
れています。
すでに高齢者はマイノリティーではなく、マジョリティーと言ってもよい時代になっています。
その反面、高齢者の疾病・症候は特異的なものが多く、若年・成人とは異なる病態が存在します。
その意味で看護を
する際も高齢者の特殊性を十分理解する必要があります。
ポイント1 医療の主な対象者が後期高齢者になっていく中で、求められる医療(目的・医療従事者の関わり方)
も変わりつつあります
ポイント2 高齢患者の多くは認知機能障害、身体機能障害、摂食嚥下障害・栄養障害などを抱えているが、
医師教育には取り込まれていないものが多く存在します
ポイント3 地域高齢者医療における看護師の役割は、看護するという本来の目的を超えて多職種連携の
中での中核的役割を期待されています
若年者・前期高齢者
後期高齢者・超高齢者
慢性期疾患
疾患(治療可能)
障害(治療不能)
機能障害・後遺症
なし
あり
認知機能障害
なし
あり
主要な医療の場
病院(医療)
地域・在宅(医療)
医療の主要目的
治療・根治(キュア)
維持医療・支える医療(ケア)
求められる医師
臓器別専門医
老年・総合内科・在宅医
予防医学の視点
生活習慣病予防
介護予防・虚弱予防
外傷・脳卒中
虚弱・廃用
リハビリテーションのターゲット
在宅医療
軽視
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命に対して
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看取り場所
病院
在宅・介護施設
多職種連携
不要
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提供:葛谷雅文先生
期高齢者であり、その時代の医療が目指すものは疾病の診
い暮らしを人生の最後まで続けることができる。そんな、
断であり治療であって、医師が大学で習うのは診断学であ
住まい、医療、介護、予防、生活支援の取り組みが、日常生
り治療学でした。そこには障害医療、看取りなどの授業はあ
活の場で一体的に提供できる地域での体制作り
(地域包括
りません。
しかし、今や上述した通り医療が関わる主な対象
ケアシステム)
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者は高齢者となり、特に75歳以上の後期高齢者になってき
多職種が連携して高齢者を支えることの重要性が強調さ
ました。そのような対象者の疾病は若年者のそれとは大き
れています。
く異なります(表)。診断されたとしても治療に至らない、治
種々の調査によると、職種間の連携の中で医師とケア
老年内科を標榜している病院は、大学病院を含めまだま
支える医療の重要性・医療の
パラダイムシフト
療法がない病態が多く存在します。 マネジャー、介護職との連携が不十分であると言われて
だ少なく、
まして老年内科医と名乗っている医師は、大変限
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高齢患者の多くは認知機能障害、身体機能障害、摂食嚥
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者であり、平均年齢は80代後半です。高齢者医療を行って
下障害・栄養障害などを抱えています。そしてその対処法
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合的に、急性期から慢性期、終末期、看取りまで一貫して診
いる病棟での3大プロブレムは、1)ADL障害、2)認知機能
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まだまだ医師教育の中に取り込まれていないものが多
の看護師の役割は重大です。医師は臨床の現場で看護師と
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く存在しているのが現状です。
また、医学教育の中に緩和ケ
研修医時代から協働してきました。
また、介護サイドも看護
ティーに富んでおり、現在私が所属している病院のように、
が原因で急性期疾患を発症して来院される場合もあれば、
アは少しずつ取り込まれていますが、多くはがん患者を想
師とは連携を取りやすいと考えています。看護師は、地域で
ほぼ高齢者救急を扱うような診療から、亜急性期、回復期リ
新たな急性期疾患に罹患して3大プロブレムを抱えてしま
定しており、高齢者を想定しているわけではありません。看
の医師と介護職との間を取り持つ要のような位置づけになり
ハビリテーション、療養病床、介護施設、また在宅診療に至
う方々もおられるからです。
護教育の中には老年看護という分野があり、高齢者の看護
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超高齢社会
急性期疾患
医療の関わり
名古屋大学大学院医学系研究科
地域在宅医療学・老年科学教室
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これらの問題を抱えたままでは治癒、根治というゴール
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看護での役割は言うに及ばず、多職種連携の中での中核的
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ですから、看護師さんたちの方が高齢者に対する教育は充
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お返しするには医療と看護、介護、福祉との連携という作業
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医療もわかるし、介護・福祉に関しても理解ある職種と
我々老年内科医は医師と看護師は情報を共有し合う
が介在します。つまり高齢者医療は、医師だけでは、医療だ
パートナーであるとの認識が強く、看護師からの情報が無
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地域包括ケアの重要性
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時代は明らかに変わりました。高齢化率がまだ一桁で
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いうことで、在宅医療、地域包括ケアを支えるのは看護師
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