実は特別支援でも大切「メタ認知」

平成27年度
Special Needs Education
5月19日 No.5
発行特別支援教育係
岩見沢市立南小学校
教職員用資料
実は特別支援でも大切「メタ認知」
大津方人
はないかとも言われています。また、ADHD の疑
研修で触れられていた「メタ認知」。認知心
いが無いお子さんの中にも、思った事を口に出
理学でよく使われる用語であり概念です。私は
したり、思ったままの行動をしたりして周りの
認知心理学はさわりだけを学んだだけで、挫折
友だちを傷つけてしまうということがあると
をしているので十分に理解し解説できる力は
思います。そうしたお子さんに対して、私たち
無いのですが、特別支援教育に関わる部分で少
が「よく考えなさい!!」と繰り返し言っても
しだけ。(市川教授が来られた時に専門的なお
なかなか考えられないのは、このメタ認知の弱
話しが聞けると思います。)
さが大きく関わっていると思われます。
「メタ認知」の「メタ」って何?
学習におけるメタ認知
そもそもメタには「高次の~」という意味があ
これらは行動から見たメタ認知ですが、これ
ります。そうすると「メタ認知」は「高次の認
から研修で学んでいく学習におけるメタ認知
知」ということになります。言い換えると、
「認
でも同じことだと思います。自己をモニターし
知を認知」するということになります。このあ
ながら課題に対し問題解決のための方略を立
たりで私の頭から湯気が出始めます。私自身の
て、調整し実行、そして自己評価というメタ認
底の浅い理解では「自分の中にいる、自分を客
知の一連の働きは、色々な場面で使われていま
観的に見ている自分」というように考えていま
すね。でも「この問題を解く上で、自分はどん
す(図1)。
な力を持っているだろ?」「どんな方法でやろ
(図1)
う。」
「この方法でできそうだ。」
「いや、待てよ。
こっちが良いかな。」
「できた。」
「できなかった。」
今までの経
「なぜできなかった?」という思考のプロセス
験を踏まえ
は何も目新しい事ではありません。これまでの
ると…。
学習においても当然あったはずです。しかし、
あえてメタ認知に焦点をあてることで、こうし
た思考の流れに対し「こんな方法もある。」
「前
何か行動を起こす時、私たちは、これまでの
にやってるね。」
「ここまで合ってるから、この
経験や学習によって培ってきた自分の中の自
次を考えて。」等、適切な発問や声かけ、働き
分に問いかけます。
「この行動はいいの?」
「相
かけが何に対して行なわれるかという目的意
手はどう思うと思う?」「こうしたら良いのじ
識を持ってできるようになるのだと思います。
ゃないか?」そう語りかけて行動を決定します。 これも実はメタ認知の働きです。つまり、お子
さんのメタ認知を問うた時、同時に教師の側の
衝動性の強いいわゆる ADHD のお子さんはこの
メタ認知機能が弱いと考えられ、自分の中の自
メタ認知能力も問われているということにな
分との会話も無しに突発的な行動にでるので
ります。これからの研修でメタ認知について実
践的に明らかになってくるのではないかと思
しておき、振り返る(フィードバック)ことが
います。
できたりするようにしておくと良いと思いま
あらためて行動面でのメタ認知
す。ただし、文章化するにしても「〜しません。」
先ほども書きましたが、学習面でも行動面で
という語尾ではなく「〜します。」といった行
もメタ認知という精神の働きは共通している
動目標として残しておかないと、否定ばかりで
はずです。行動を起こす時「こうしたらどうな
は気が滅入ってしまいます。それこそ自己肯定
る?」と結果を予測し、もしその行動が失敗だ
感はどこへやら。
「〜します。」という行動目標
ったとしても「こうすれば良かったのかもしれ
であれば達成できた時にほめる視点にもなり
ない。」と行動を振り返ることができれば、同
ます。例えば「叩きません。」を目標にするの
じ失敗を簡単にはしなくなるでしょう。いわゆ
ではなく、叩かないために「ことばで気持ちを
る「反省」というやつですが、メタ認知が弱い
伝えます。」のほうが「どうやって伝えようか。」
ために自己をモニターできていないと反省は
「こうやって伝えたらいいのでは?」という方
反省として機能しません。「ゴメンナサイ。モ
略を一緒に考えられるのではないでしょうか。
ウシマセン。」と言うだけです。
そうすると未熟でもなんとか言葉で伝えよう
学級経営交流会で袖野先生が言っていた「他
律」「自律」ということが実はメタ認知のこと
を言ってるのではないかなと思いながら聞い
という様子が見られた時にほめてあげる事が
できます。
メタ認知が育ちにくく、なかなか自律できな
ていました。自分で自分を律するということは、 いお子さんには、「メタ認知を部分的に外に出
自己を客観的に捉えることができなければな
しし客観化させてから具体的な行動目標と方
りません。行動を自律させるためには、他者と
略を考えさせ、フィードバックさせる」という
のかかわりの中で自分を客観的に見る目を養
ことを繰り返しながら、徐々に「自分の中の自
うことが必要です。つまり他者によって律せら
分」を育てさせることが大事だと考えます。
れる段階(教えられる段階)から、自分の中に
文章があっちこっちに跳んでしまいました。
他者を内面化させ、自分で考えて行動するよう
これは私のメタ認知の弱さ!!痛感!!
になってくるのだと思います。失敗を繰り返す
HB の鉛筆はどこへ
お子さんたちの様子を聞くと、こうした自分の
先日 NHK の「所さん大変ですよ!」という番
中の他者(自分の中の自分)の存在が希薄であ
組で HB の鉛筆が児童用の文具からなくなって
る印象を強く受けます。
きているという内容を紹介していました。筆圧
こうしたメタ認知が弱く「自分の中の自分」
の問題と絡めていましたが、後半は子どもたち
が育ちにくいお子さんへの対応では、問題や課
の姿勢や身体の問題にまで話題が広がってい
題を一度お子さんの外に出し、客観的に見直さ
ました。今、「そだち」を書いていますが、丁
せる必要があります。特にこうした傾向のある
度姿勢について書いている最中で私にとって
お子さんは短気記憶や作業記憶(ワーキングメ
はタイムリーでした。指先の動きは体幹によっ
モリ)にも課題が往々にしてありますから、文
て支えられているんです。私が大学生の時、ゼ
章化や視覚化をしながら振り返ることがいい
ミの教授に「子どもの体に何がおきているか」
と思います。そして問題を明らかにした上で、
という内容の本を紹介されたことがあります。
問題解決の方略を考えさせ、声に出して復唱し
あれからおよ 30 年。その問題は現在進行形な
て記憶にとどめさせたり、約束事として書き残
んだと改めて思いました。