Conference J-MONEYカンファレンス グローバルM&A時代の財務管理 ―合併後の経理、財務の課題― 海外企業のM&Aにより市場拡大を目指す日本企業にとって、トレジャリー・マネジメントやグローバル・キャッシュ・マネジメン ト体制の強化が大きな課題になっている。本誌は2 0 1 5 年 4月1 4日、東京でJ-MONEYカンファンレンス「グローバルM&A 時代の財務管理―合併後の経理、財務の課題―」を開催した。 (主催:J-MONEY/ 後援:Reval ) 抵の場合、敗北感、買収側への不信、 細かなコミュニケーション」が重要だ。 将来への不安が募るものだ」 と話す。 同社がクロスボーダー M&Aを行っ Reval CEO 大河内 時郎氏 済産業省の「伊藤レポート」の提言に代 にとっての利益となる 買収プレミア 表されるよう、 ROE(自己資本利益率) ム を背負った状態で企業を買うことに が重視されはじめている。 「買収後の なる」 と前置きしたうえで、利益の最大 ROE向上は、M&Aにおいても、企業 化を図るためには「シナジー効果」を拡 EY アドバイザリー パートナー 髙見 陽一郎氏 重要だという。 「PMIには経営管理や業務の統合だ くわえて「PMI(買収後の統合と管 けでなく、他にも隠れた複数の側面が それでは、M&A後のROEを戦略的 理) 」についてはデューデリジェンス(資 あり、状況に合わせて、最適のPMIを に向上させるにはどうすればいいのか? 産査定)を行う段階から取り組むことが 実現する必要がある」 (髙見氏) 1500 超の銀行口座を可視化 最適な運転資金管理を可能に の理解にあたり、財務担当者が資金フ 手企業に理解してもらうため、意思疎 ローを把握しやすくすることの意義は シンガポールに本社を構えるグロー 国ごとの資金状況を捕捉でき、最適な 通を深める時間を多く割いた。時には、 大きい。大河内氏は「買収後のビジネ バル・ロジスティック・プロパティー 運転資金管理につながった」と同社の 被買収企業に敢えて自社の人間を出向 ス成果を測るのに、経営陣による月次 ズ(GLP)は、日本、中国、ブラジル、 副社長執行役員CFO 堤一浩氏はシス させず、相手への強い信頼を示すこと レポートを待ってはいられない。財務 米国で賃貸事業を展開する。特定目的 テム導入の効果を語る。 もM&Aの成功に繋がる。 GLPでは総額100億ドル規模のM&A グローバル・ロジスティック・プロパティーズ 副社長執行役員 CFO(最高財務責任者) グローバル・トレジャラー 堤 一浩氏 資金管理システムの導入で、企業は資 会社を通じた物件投資も多く、管理す 資金とモノの流れを一元的なシステ 金の流れを俯瞰することができる。自 実績があり、財務チームの重要性も増 ムで管理することも重要だ。オペレー 社の包括的管理を達成し、変革を促す る銀行口座は1500超におよぶ。 「Reval 社のTRM( トレジャリー・ している。 「資金の準備や投資スキーム 上げと標準化に取り組むことで、強固 ションの統合や新たな資金調達ニーズ きっかけが生まれるだろう」 と訴えた。 リスク・マネジメント) により、現金の の構築など買収案件に直接関与するほ な企業財務の構築を図っている」と強 把握だけではなく、個別物件の収益や か、統合後のトレジャリー機能の立ち 調した。 【M&Aとテクノロジー】 経営統合のためのクラウド技術 EBITDAで企業価値を評価 求められる 「日本型バイアウト」 基調講演では、インテグラルの佐山 件を変更すると、全く異なる結果が出 展生氏がM&Aを行う際の「企業価値の るため「減価償却前の営業利益を示す 評価」方法のポイントと、 「日本型バイ EBITDAという指標を用いるべき」と 話す。 クラウドの単一プラットフォーム 買収・統合の段階に合わせ財務支援 インテグラル 代表取締役パートナー 佐山 展生氏 「経営統合では、デューデリジェンス 一プラットフォーム ②取引量増加に対 の確認と財務・資金管理のギャップを 応可能 ③銀行・会計システムとの接続 解消しなければ、企業価値の向上は期 ④モジュールの追加 ⑤クラウドによる 待できない」と、Reval Japan の長 一 利用 ⑥グローバルサポート──を特徴 男氏は指摘した。被買収企業の銀行口 として挙げ、企業財務が買収・統合の 段階に合わせて支援できると強調した。 「最終的な目的は、本社や地域ごとに TRMの活用で、被買収企業の資金 銀行機能を持たせること。これにより 佐山氏は、借入金や余剰資金が考慮 そのうえで佐山氏は、ファンドの出 行わず、 「共に いい会社 を作る」こと されていない指標や、多くの事業会社 資金だけでなく運営会社の自己資金も を目標に「会社が幸せなEXIT」を目指 が企業評価に用いるDCF(ディスカウ 出資する「日本型バイアウト」が、これ す点が特徴だ。 「企業のパートナーとし 座の残高を短期間で把握するには、専 ント・キャッシュフロー) では、企業の からのM&Aに求められると訴える。 て信頼関係が醸成されることで、中長 用のソリューションが欠かせない。 正確な生産価値が測れないとする。特 過剰なリストラや資産売却、会社の意 期的に投資家へ利益を還元することが にDCFは、評価時に設定する前提条 向を軽視したEXIT(出口戦略)などは できる」 (佐山氏) Summer 2015 大させることが不可欠だと強調する。 た際には、自社の戦略と統合方針を相 【M&A基調講演】M&Aと日本型バイアウト 32 髙見氏は「買収企業は、被買収企業 【M&Aのケーススタディ】グローバル・ロジスティック・プロパティーズ 的な問題が生じる。被買収企業には大 企業文化の違いを念頭においた「きめ アウト」 の重要性について語った。 JPX日経インデックス400の登場や経 アドバイザリーの髙見陽一郎氏は話す。 財務資金の一元的な管理と きめ細かな対話がカギ Reval の大河内時郎氏は「買収には感情 シナジー効果で利益を最大化 PMIの早期実施で ROE を向上 のIR上避けられない課題となる」とEY 開会の挨拶 M&Aを成 功に導くにあたっては、 【M&Aのプロセス】M&A後のROE戦略 長 氏は自社のTRM (トレジャリー・ 可視化はもとより、統合後の資金予測 リスク・マネジメント) について、①単 や運転資金の管理、グループ企業内で Reval Japan 代表取締役 長﨑 一男氏 の運転資金の最適化も可能だという。 資金の効率化が達成できる」 と語った。 Summer 2015 33
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