〈日本軍慰安婦〉に関する三国と欧州連合の決議 長谷川 了一(FC事務局長) アジア・太平洋戦争中の〈日本軍慰安婦〉に関し て、日本政府の公式謝罪や歴史事実の国民教育を求 める決議が、昨年一年の間に世界で 4 つも採択され ました。7 月 30 日にアメリカの下院本会議で採択さ れた【注1】のを皮切りに、11 月 8 日にはオランダ の下院で、11 月 28 日にはカナダの下院であいつい で採択されました。ついで、12 月 13 日には、フラ ンス東部のストラスブールで開かれた EU(欧州連 合)の欧州議会本会議で、『慰安婦女性たちのため の正義 Justice for the‘Comfort Women’』という 名称で上程されていた決議案が、出席議員 57 人中 54 人という圧倒的多数(棄権 3 人)で採択されまし た【注2】。 米の決議は性奴隷への公式の謝罪を求める アメリカ下院で採択された決議は、アジア・太平 洋戦争中に「日本帝国軍隊が強制的に若い女性たち を〈慰安婦〉として世界に知られる性的奴隷にした ことを、事実として明瞭であいまいさのないやり方 で、公式に認め、謝罪し、歴史的な責任を取らなけ ればならない」とし、日本軍によって性奴隷にされ た元〈慰安婦〉たちに対し日本政府が公式な謝罪を 行うよう求めています。また、日本政府に対して、 〈日本軍慰安婦〉などの「事実はなかったというい かなる主張に対しても、明確かつ公式に反駁しなけ ればならない」、「この恐るべき犯罪について現在 と将来の世代を対象に教育しなければならない」と 具体的行動を強く求めています。 本会議では、ラントス外交委員長が「非人道的な 振る舞いについて全面的に認め、真実のすべてに光 が当てられなければならない。このことは国家間の 和解に不可欠だ」と発言しています。さらに、〈靖 国〉派国会議員による〈慰安婦〉強制を否定した、 ワシントン・ポスト紙の全面広告【注3】に改めて 言及し、「すべての〈慰安婦〉は喜んで強制され合 意の上だったと断じる者は、〈レイプ〉という言葉 の意味を理解していないだけだ」と厳しく非難しま した。決議案を発議したマイケル・ホンダ議員も「歴 史には時効がない。日本政府は反人倫的人権侵害に 対して明確な謝罪を行うべきだ」と述べました。 府が、女性を性奴隷にするという目的だけで若い女 性の獲得を公式に指令した」ものだと指摘。〈慰安 婦〉制度は、犠牲者を死や自殺へと追い込んだ「20 世紀最大の人身売買の一つ」だったと批判していま す。そのうえで決議は、日本政府が「明確な形で歴 史的、法的責任を正式に認め、謝罪し受け入れるこ と」を要求し、生存するすべての犠牲者および遺族 に対する補償を求めました。 決議は、「〈日本軍慰安婦〉という服従や奴隷化 は決してなかったといういかなる主張に対しても、 日本政府が公然と反論することを求める」としてい ます。また、決議は「日本国民と日本政府が自国の 歴史への全面的な認識をさらに進めること」を促 し、日本政府が〈慰安婦〉問題を含む 1930 年代か ら 40 年代にかけての日本の行為を、「現在と将来 の世代に教育すること」を求めています。 この決議は、EU に加盟している 27 カ国、計約 4 億 9 千万人の民意を代表したものです。〈日本軍慰 安婦〉問題の対応に関する日本政府への不信感が、 国際社会で拡大していることが浮き彫りになって います。 この問題の謝罪と補償は終わっていない これらの決議、さらに国際世論は、日本国政府に 日本が過去に起動してきた侵略戦争に対する正確 な認識と反省、さらには戦争責任および戦後責任を 果たすことを求めています。これらにこたえること は、わが国が 21 世紀の一員として共存していくた めには避けることのできない責務です。 日本政府は「これまで何度も謝罪した」と言って いますが、それは被害女性たちの納得を得る謝罪と はなっていません。その理由は、①これらの謝罪が 国の責任を明確かつ公的に表明したものではなか ったこと、②〈慰安婦〉問題に対する国の責任を否 定する言説が、閣僚を含めて繰り返されたことによ り謝罪の信頼が失われたこと、③事実に基づいた認 識を培うべき教育への取り組みがなされてこなか ったこと、④謝罪が全地域の被害者個人に直接届け られなかったこと、賠償がなされてこなかったこ と、などにあります。 20 世紀最大の人身売買とEUの決議 日本政府に実行を求めたいこと EU の決議は、〈日本軍慰安婦〉制度は「日本政 この〈日本軍慰安婦〉問題に関して、民間研究団 体の《日本の戦争責任資料センター》は、日本政府 に対して、次のことを実行するよう求めています。 私はこれに共感するとともに、この要求に全面的に 賛同します。(1)旧日本軍および日本政府が、満州事 変開始からアジア太平洋戦争の終結までの間、植民 地や占領地などの女性を本人の意思に反して〈慰安 婦〉にし、強制的に性奴隷状態においたこと、及び こうした行為が当時の人権水準に照らしても違法 なものであったことを明確に認めること。(2)政府ま たは国会は、閣議決定や国会決議などの公的な形を もって、日本国家としての責任を明確にした謝罪を 表明すること。(3)被害を与えた全ての地域の女性た ち一人ひとりに、謝罪の手紙を届けること。(4)この 謝罪の意を示すため、被害者に対して新たな立法を もって賠償金の支払をおこなうこと。 【注 1】 アメリカ下院での〈日本軍慰安婦〉に 関する決議(要旨) 日本政府による強制的な軍隊売春制度である〈慰 安婦〉制度は、身体損傷や死、自殺をもたらした集 団強姦、強制中絶、恥辱、性的暴行等の残虐性や規 模においても、前例のない 20 世紀最大の人身売買 の一つである。 日本の学校で使用されているいくつかの新しい 教科書は、こうした〈慰安婦〉の悲劇や第 2 次世界 大戦中の日本の戦争犯罪を軽視しようとしている。 日本の官民の関係者は最近、〈慰安婦〉の苦難に対 して政府の真摯な謝罪と反省を表明した 1993 年の 河野洋平官房長官の〈慰安婦〉に関する声明を薄め、 あるいは無効にしようとしている。 以下が下院の意思であることを決議する。 (1)日本政府は、1930 年代から第二次世界大戦中 を通じてアジア諸国および太平洋諸島の植民地 支配と戦時占領の期間において、日本帝国軍隊が 強制的に若い女性たちを〈慰安婦〉として世界に 知られる性的奴隷にしたことを、事実として明瞭 であいまいさのないやり方で、公式に認め、謝罪 し、歴史的な責任を取らなければならない。 (2)日本国首相が公式声明を通じてこのような謝 罪をするなら、誠実さと、これまでの声明〔注= 河野談話のこと〕をめぐって繰り返されてきた疑 惑を解くことに貢献するだろう。 (3)日本政府は、日本帝国軍隊が〈慰安婦〉を性 の奴隷にしたり、人身売買をした、などの事実は なかったといういかなる主張に対しても、明確か つ公式に反駁しなければならない。 (4)日本政府は、〈慰安婦〉に関する国際社会の 勧告に従うとともに、この恐るべき犯罪について 現在と将来の世代を対象に教育しなければなら ない。 【注2】 EU(欧州連合)の欧州議会が採択 した〈日本軍慰安婦〉決議(要旨) ▽事実認定など 一、第2次大戦終戦まで日本政府は軍に対する性 的労働のため、慰安婦徴用に関与。 一、20 世紀最大の人身売買の1つ。 一、1993 年の河野洋平官房長官、94 年の村山富 市首相の談話を歓迎。 一、日本の一部政治家が談話を希薄化、無効化す る意見を表明。 一、日本の一部学校教科書が慰安婦問題を矮小 化。 ▽対日要求 一、公式な被害認定、謝罪を行い、明確な形で歴 史的、法的な責任を負うことを日本政府に要 求。すべての元慰安婦、遺族らへの賠償を要求。 一、慰安婦問題が存在しないとする主張に対する 公式な否定を要求。 一、日本国民と政府に、自国の歴史を十分に認識 することを奨励し、将来にわたる教育を要求。 【注3】米紙ワシントン・ポスト(6 月 14 日付)の 〈靖国〉派国会議員らの意見広告 『事実』と題する意見広告は、米下院の〈慰安婦〉 決議案が日本軍による「若い女性への性奴隷の強 要」や、「20 世紀最大の人身売買の一つ」などと指 摘しているのは、〈故意の歪曲〉だと主張していま す。そして、「日本軍による強制を示す歴史資料は 見つかっていない」「慰安婦は〈性奴隷〉ではなく 公娼である」などと述べています。 意見広告には、ジャーナリストの櫻井よしこ氏、 元駐タイ大使の岡崎久彦氏のほか、これまでも〈慰 安婦〉問題で、日本軍による強制と関与を認めた河 野官房長官談話の撤回を強く主張してきた、日本会 議国会議員懇談会会長の平沼赳夫氏(無所属)ら自 民、民主、無所属の 44 人の〈靖国〉派国会議員が 勢ぞろいしています。 『朝鮮日報』社説「日本の知識人の道徳水準をさ らした慰安婦広告」(6 月 16 日付):「日本は首相 や外務相をはじめとする不道徳な日本政府関係者 に、不道徳な国会議員、さらには知識人までが加わ り、犯罪の歴史を闇に葬り去ろうとあがいている。 だが彼らがそうした行動をとればとるほど、日本国 民の誇りが地に墜ちるばかりだということにもは や気づくべきだろう」と、この意見広告について痛 烈に批判しています。
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