日経TEST 次回チャレンジへのポイント

日経TEST 次回チャレンジへのポイント
第 15 回日経TEST全国一斉試験(2015 年 11 月 8 日実施)を全国で受験いただいた皆様、あ
りがとうございました。本日 12 月 4 日、皆様への成績表(スコアの公式認定証)を発送いたしま
した。
日経TESTは経済・ビジネスを正しく理解する「基礎知識・実践知識」と、多様な社会現象
に幅広い関心を持つことによる「視野の広さ」に加え、知識に基づくビジネス思考力も問う 100
問で構成しています。時事的な知識のみを問うものではありませんが、毎日、経済ニュースに接
し、その背景や影響を考える習慣をつけることが、スコアアップの早道です。
前回の本欄でご提供した「出題内容について」では、経済の大きな流れ(トレンド)をつかん
で日々のニュースに接することの重要性を強調させていただきました。もう一つ、ニュースへの
感度を高めるコツは、「これから何が起きるのか」を先回りして考え、それが起きる背景をつか
んでおくことです。皆様への成績表に掲載した「アドバイス」の補足としてお読みください。
2016 年の世界経済・日本経済を読むためのポイントを 3 つ挙げると、以下になります。
① 世界経済は米国の政策金利引き上げと中国経済減速のリスクを乗り越えられるか
② 海外では確実に大統領が交代する米大統領選、国内では参院選という政治イベントの影響
③ 電力小売自由化など規制緩和と、IT によるビジネス機会拡大(特に金融分野)を巡る動き
① 米金利上げ・中国経済関連の動きに注目
本「ポイント」がホームページに掲載される 12 月 4 日金曜日の夜には米国の雇用統計が発表さ
れ、5 日の日経朝刊などでは 12 月 15~16 日に開くFOMC(連邦公開市場委員会)での金利引
き上げに関する多くの分析・観測記事が掲載されていると思います。いま米国がなぜ金利引き上
げに動いているかは前回「出題内容について」で触れましたので、ご参照ください。
2015 年の世界経済に起きたことを振り返ります。年前半、6 月ころまでは、原油安の影響など
はあるものの、世界経済は比較的落ち着いていました。米国が新興国経済へのショック緩和に配
慮しながら慎重に金利を引き上げていく一方、中国は「新常態」という新たなキーワードのもと、
経済の構造改革を進めながらやや穏やかな成長に軟着陸していくシナリオが描かれていました。
潮目を変えたのは 6 月後半から 7 月にかけてのギリシャの債務不履行危機と、上海株急落に始
まる中国経済の予想を上回る変調です。特に中国経済の急減速は、同国向け輸出への依存度合い
が大きい新興国経済を揺さぶり、米国の量的金融緩和縮小時に大きな影響を受けた「フラジャイ
ル5」(ブラジル、インド、インドネシア、トルコ、南アフリカ)の通貨は大きく下げました。
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2015 年
米国経済は新興国や欧州に比べ中国経済への依存度が低く、米連邦準備理事会(FRB)が最
も重視する雇用統計などの数字は利上げに踏み切る材料がそろっていましたが、9、10 月に開い
たFOMCでは世界経済への影響も配慮し、決定を見送りました。ここにきて中国経済もやや落
ち着きを取り戻し、本年最後のFOMCで利上げに踏み切るという観測が強まっています。
16 年に注目すべきは、利上げのペースです。米国が前回、金利を引き上げた局面(2004~06
年)では、金利 1%から 5.25%まで、年 8 回開くFOMCで 17 回連続して 0.25%ずつ金利を引
き上げました。今回の利上げペースはもともと緩やかになると予想されていましたが、15 年後半
の世界経済の動揺を受け、16 年の利上げは 2~4 回程度と極めて緩やかになる見方が有力です。
新興国側にとっては、昨年から織り込み済みの流れです。FRBも、バーナンキ前議長が量的
緩和縮小・引き締め開始を宣言した際の「バーナンキ・ショック」(13 年 6 月)などの教訓から、
極めて慎重に利上げを進めるとみられるため、一時予想されていたような「米利上げによる新興
国経済の動揺」は避けられるという見方が大勢です。ただしその分、米国経済の過熱など、「経
済の正常化が遅れるリスク」も考えおく必要があります。
◎2016 年の主な予定
国内
海外
1月
〇マイナンバー制度開始
〇通常国会(1/4~)
〇台湾総統選
3月
〇北海道新幹線開業(3/26)
〇日生が三井生命を子会社化
〇米「スーパーチューズデー」(3/1)
4月
〇電力小売り自由化
〇女性活躍推進法が施行
〇関空・伊丹が民営化
〇横浜銀・東日本銀が経営統合
5月
〇伊勢志摩サミット(5/26~27)
7月
〇参院選(18 歳から選挙権)
8月
〇山の日(8/11)創設
10 月
〇米共和党・民主党大会
〇フィリピン大統領選
〇リオデジャネイロ五輪(8/5~21)
〇仙台空港が民営化
〇常陽銀・足利 HD が経営統合
11 月
月未定
〇米大統領選投票(11/8)
〇JR九州が上場(16 年秋)
〇出光・昭和シェル合併(10 月以降)
〇米議会がTPP批准を審議(大統領選
後の可能性)
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2015 年
中国は 15 年 10 月に開いた共産党中央委員会第 5 回全体会議(5 中全会)で、今後 5 年間の経
済運営の目標として「中高速成長の維持」を掲げました。その目安は「年平均 6.5%以上」(習近
平主席)です。また、中国はGDP統計で足もと 7%の成長を維持していると発表していますが、
統計の信頼性の問題から実際はもっと低いのではないかという指摘もあります。
政権でマクロ経済を担当する李克強首相が以前、遼寧省のトップを務めていた際に用いていた
「李克強指数」で試算すると成長率は 5%台、という試算も注目されました。ただし、李克強指
数は貨物輸送量や電力消費量など製造業に関する指標で構成されており、統計が逆に、サービス
など第 3 次産業が大きく伸びている実態を反映していないという見方もあります。
中国経済の動きは、日本の産業全般に大きく影響します。中国での事業縮小に踏み切る会社も
相次ぐ半面、消費財やサービスの分野では、事業拡大を進める会社もあります。日本経済新聞で
は 15 年 11 月から「China Impact」と題した大型分析記事を1面などで随時掲載しており、こう
した記事をチェックすることは、大きな流れをつかむ上で、参考になると思います。
② 世界のリーダーが確実に交代する、米大統領選
政治の動きは日経TEST出題の直接の対象ではありませんが、16 年は米国の大統領選挙とい
う大きなイベントがあります。今回の大統領選は、現職のオバマ大統領が出馬しないため、世界
のリーダー国である米国のトップが確実に交代する、極めて大きな節目です。一方、日本国内で
も 7 月に参院選(7 月 25 日が現職議員の任期)がある国政選挙の年です。
米大統領選は、2~3 月に民主共和両党の候補者を決める「予備選」が集中する「スーパーチュ
ーズデー」(16 年は 3 月 1 日)があり、ここまでに両党の候補者が固まるのが通例でした。とこ
ろが今回は、民主党がヒラリー・クリントン前国務長官が有力なものの、共和党は有力視されて
いたジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事が世論調査で低迷、候補者決定まで長引きそうです。
現時点の世論調査で最も人気の高い共和党の候補者は不動産王、ドナルド・トランプ氏ですが、
キューバ系米国人で若いマルコ・ルビオ上院議員も有力で、混迷が続いています。戦後の米大統
領選は 1980 年代の「レーガン大統領→ブッシュ大統領」時の共和党を除き、「同一政党の 3 連勝
はない」というジンクスもあり、共和党有利の見方がありましたが、現時点では後退しています。
大統領選と経済との関係では、円・ドル相場への影響が考えられます。
16 年は米国が政策金利を引き上げる一方、日本は金融緩和を続けることになります。金利差が
生じると、一般に金利が高い国の通貨は強く(高く)なるため、円安・ドル高の基調は変わりま
せん。ただし、ドル高は米国の製造業にマイナスなので、米経済の勢いが弱まると、ドル高・円
安に対する政治的圧力が強まる可能性があります。
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一方、日本の参院選も、円・ドル相場に影響する可能性があります。円安は輸出産業には有利
ですが、輸出の恩恵が少ない中小企業や消費者の生活実感からみると、マイナスの面が大きいの
が実態です。選挙が近くなった時期の経済状況次第では、円安による生活関連商品の値上がりへ
の反発が強まり、政策に影響する可能性があります。
参院選との関係では、安倍首相が「新・3本の矢」を打ち出したのも、来年の選挙を意識して
のことと受け止められています。「GDP600 兆円、希望出生率 1.8、介護離職ゼロ」という数値
目標が打ち出されています。それぞれ重要な目標ですが、実現の道筋や財源の裏付けをめぐる議
論に注目する必要があります。
17 年 4 月には現行 8%から 10%への消費税引き上げが予定されており、その際、食料品に対し
て軽減税率を導入する案を巡る与党の調整が大詰めを迎えています。参院選の勝敗は今後の消費
税引き上げに影響します。15 年 4~6 月期、7~9 月期と 2 期連続マイナス成長となり足踏みして
いる経済の動きが上向くかどうかは当然、選挙に影響します。
12 年末の安倍政権発足以来、株価は大きく上昇、日経平均は 15 年 6 月、15 年ぶりに 2 万円を
超えました。その後 1 万 7000 円前後まで下落した後、堅調な米国経済への期待などから再び 2
万円台に戻しました。株価は内閣支持率との連動が指摘されてきましたが、家計への株高の恩恵
が乏しい中では、実質賃金(物価も考慮した給与)の動向にも政治は敏感になります。
11 月下旬に行なわれた政府と経済界の「官民対話」で、政府が法人税率の一段の引き下げ検討
を表明する一方、経団連が設備投資や賃上げの積み増しを行なうと表明したのも、こうした流れ
を踏まえた動きです。16 年にかけては政治を巡るニュースが多く出てきますが、経済がこのよう
に連動していることを意識して接することが、経済知力の鍛錬にもつながります。
③ 新制度・規制緩和で生まれるビジネスに注目
産業の動きでは、4 月から始まる電力小売りの全面自由化をはじめ、制度改革や規制緩和で生
まれる新たな市場や競争が注目点です。電力小売りは大口ユーザーについては既に自由化されて
おり、例えばヤマダ電機の東京の一部店舗が関西電力から電力を買う、セブン―イレブンが関西
の一部店舗が東京電力から電力を買う、といった動きは既に始まっています。
4 月からはこれが中小事業者や一般家庭向けにも広がります。インターネット通販の楽天は「楽
天市場」に出店する中小事業者などに丸紅が調達した電力を販売し、楽天のポイントも付与する
計画です。NTTドコモなど携帯電話 3 社もそれぞれ家庭向け電力販売に参入、料金設定も自由
化されるため、電話料金とセットでの割引などさまざまなサービスが展開されそうです。
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「官業」を民間開放して活性化する手法として注目されるコンセッション(所有権を国や自治
体に残したまま運営権を民間に売却する手法)も動き出します。関西空港・伊丹空港の運営権は
3 月末までにオリックスとフランスの企業連合に移ります。仙台空港も 10 月から東京急行電鉄な
どの企業連合に運営権が移り、高松空港、福岡空港などでも民営化方針が示されています。
15 年はあらゆるモノがインターネットにつながる「IoT」が産業を動かすキーワードとなり
ました。16 年も引き続きこの動きが広がりますが、日本で特に注目されるのは、海外に比べて開
発・投資が遅れ気味と指摘されるフィンテック(ITと金融の融合)です。フィンテックの担い
手は銀行など金融機関に限らず、海外では有力な「フィンテック企業」も台頭しています。
決済分野では米国で 15 年 11 月、スマホによる決済大手スクエアが上場。融資分野でも借り手
と貸し手をネット上で結びつける「クラウドファンディング」のレンディングクラブなどが成長
しています。決済と融資はこれまで金融機関がほぼ独占してきた機能ですが、ITの急速な進歩
が異業種からの参入を可能にしました。16 年は日本でもこうした動きが広がりそうです。
外国人観光客は 15 年、政府が目標とする年間 2000 万人に迫る勢いです。インバウンド消費は、
客数も1人当たり消費額も最も多い中国の動向次第ですが、引き続き大きな伸びが期待できます。
ホテル・レジャー関連などインバウンド関連企業の業績が好調です。ホテル不足で、個人が所有
するマンションや住宅の空き部屋に旅行者を有料で泊める「民泊」も解禁される見通しです。
④ マイナンバーなど新制度にもアンテナを
2016 年はこのほか 1 月早々からマイナンバー制度が始まります。当初は導入に伴う混乱がクロ
ーズアップされそうですが、行政簡素化のメリットに加え、民間での利用・活用を広げる道が開
けており、新たな市場・ビジネスが生まれるきっかけとなる可能性があります。17 年1月からは、
「マイナポータル」と呼ぶ個人サイトも開設される予定になっています。
働き方をめぐる制度については、4 月から「女性活躍推進法」が施行されます。従業員 300 人
を超す企業は管理職や採用者に占める女性比率など女性登用の数値目標を定めた行動計画をつく
ることが義務付けられました。
以上は 2016 年度に予定されていることのごく一部ですが、これから出てくるニュースへの感度
を高めるうえで、先回りして頭に入れておくべきポイントをあげさせていただきました。次回チ
ャレンジに向けた準備の参考になれば幸いです。
次回の日経TEST全国一斉試験は 2016 年 6 月中旬に開催する予定です。当ホ
ームページで近々、日程など概要を公表します。
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