第15回日経TEST全国一斉試験(11月)の出題内容を解説

日経TEST第 15 回全国一斉試験の出題内容について
第 15 回日経TEST全国一斉試験を受験いただいた皆様、ありがとうございました。日経TE
STは出題した問題を公開していませんが、今回から出題のベースとなった題材に関する情報を
提供させていただくことにしました。
日経TESTの出題範囲は幅広いうえ、対象となる「生きた経済」が変化するスピードも増し
ており、対策が立てにくいという感想をよくいただきます。しかし、経済の大きな流れ(トレン
ド)をつかんで毎日のニュースに接すると、異なる分野の情報の多くが一つのテーマでつながっ
ていることがわかります。大きな流れをつかむことは、間接情報として得た「知識」を、直面す
る問題を解決する「知恵」に変える、日経TESTの目指す「経済知力」(ビジネス知力、ビジ
ネス思考力)の向上に結びつきます。
以下では、大きな流れに関連した題材をいくつかピックアップしました。今回の受験の振り返
りと、次回チャレンジへの学習の参考にしていただければ幸いです。
① 「少子高齢化」を正しく理解
日本の経済・ビジネスが直面する最大の課題は何でしょうか。いくつか浮かびますが、共通す
るのは人口減少です。今回のTESTでもこの課題を背景にした問題が多く出題されました。
今年は 5 年ごとの「国勢調査」の年でした。文字通り、人口・世帯の動向は国の勢いの指標で
す。前回 2010 年調査時点の日本の人口は 1 億 2806 万人でしたが、これをピークに翌年から人口
は減少時代に入り、2014 年は 1 億 2708 万人となっています。
人口は、1人の女性が生涯に産む子どもの数(合計特殊出生率)の平均が「2」をやや超えない
と、減少していきます。この出生率は 2005 年を底にやや上昇していましたが、2014 年は 1.42 と、
再び前年比マイナスとなりました。
国立社会保障・人口問題研究所の推計(中位推計)によると、日本の人口は 2060 年には 8674
万人になります。
「生産年齢人口」といわれる 15~64 歳の人口の実数でみると、2010 年に約 8200
万人だったところが、2060 年には約 4400 万人と、約半数に減ってしまう計算です。
経済の規模(GDP=国内総生産)は大きくみると、労働力人口と 1 人あたりの労働生産性で
決まります。人口の減少を補う生産性の上昇がなければ、経済は縮小していきます。このような
事態に対応する政策としては、大きく分けて、①人口減少を食い止める、②1人あたりの生産性
を上げる、の 2 つの方法が考えられます。
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2015 年
まず、①はいわゆる「少子化対策」で、安倍晋三首相が「新・三本の矢」の1つとして打ち出
した「出生率 1.8 の実現により、50 年後も人口 1 億人を維持する」という目標にもつながります。
保育所を整備して安心して子どもを出産する環境を整えることは、出生率の上昇のほか、出産を
機に仕事を辞める女性を少なくする効果も期待できます。現在既に活躍されている方も多い 65 歳
以上の高齢者が働くインセンティブ(意欲)を高める政策も有効です。
また、②のキーワードとして、政府の産業競争力会議や経済財政諮問会議が 6 月にまとめた成
長戦略で掲げたのが「生産性革命」です。ロボットや情報技術(IT)を活用して生産性を引き
上げることは飛躍的な上昇につながる可能性があります。
目を世界に転じると、国連は、世界人口は現在の約 72 億人が 2050 年には 96 億人に拡大する
と予測してします。世界の人口トップ国は 2020 年代後半に中国からインドに交代、ナイジェリア
などアフリカ諸国の人口が大きく増加します。少子高齢化が進むのは日本だけでありません。中
国の出生率は日本をやや上回る程度、韓国の出生率は日本を下回ります。中国が 10 月に開いた共
産党中央委員会第 5 回全体会議(5 中全会)で、人口抑制のため 30 年あまり続けてきた「一人っ
子政策」を撤廃する方針を打ち出したのは、この流れの中のニュースです。
「人口と経済規模の関係」を頭に入れておくことも重要です。GDPの総額は人口の規模が大
きな要素となるので、米国や中国、東南アジアではインドネシアなどの順位が高くなります。一
方、「1 人当たりGDP」は、生産性が高く、人口が少ない国や、石油などの資源が豊富な国が
上位となります。日本のGDPの直近の順位は表のとおりです。ドル換算なので急激な円安が進
んだため順位が下がっている面もありますが、世界経済における日本のポジションを考える目安
になります。
世界のGDPと人口の順位
順位
GDP総額
1 人当たりGDP
人口(2014 年)
2050 年の人口予測
1位
米国
ルクセンブルク
中国
インド
2位
中国
ノルウェー
インド
中国
3位
日本
カタール
米国
ナイジェリア
4位
ドイツ
スイス
インドネシア
米国
5位
英国
オーストラリア
ブラジル
インドネシア
6位
フランス
デンマーク
パキスタン
パキスタン
7位
ブラジル
スウェーデン
ナイジェリア
ブラジル
8位
イタリア
サンマリノ
バングラデシュ
バングラデシュ
9位
インド
シンガポール
ロシア
コンゴ民主共和国
10 位
ロシア
米国
日本
エチオピア
GDPは 2014 年、名目、ドルベース、IMF統計。日本の 1 人当たりGDPは 27 位。人口は国連、2050 年は 2015
年 7 月公表の「国連世界人口予測」から、日本は 2050 年時点 17 位と予測。
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② 米利上げ・中国経済の行方は?
2016 年にかけての世界経済で最も注目されるのは、米金利上げ(米国の政策金利引き上げ)が
いつ始まるのかと、その決断を鈍らせる背景にもなっている中国経済の動向です。
金融政策は景気の過熱が懸念される際には金利を引き上げ、景気を刺激する必要がある際は金
利を下げることにより通貨供給量を調整する金利政策(政策金利の上げ下げ)が基本でした。08
年のリーマン・ショック後は、中央銀行が国債などの金融資産を市場から大量に買い入れて資金
供給する「量的緩和」策もとられるようになっています。
米国の中央銀行である米連邦準備理事会(FRB)は 08 年 12 月から政策金利を事実上ゼロ(0
~0.25%)に定め、さらに 09 年 3 月から国債などを購入して市場に出回るお金を増やす量的金融
緩和策(QE)をとっていましたが、量的緩和は 14 年 10 月に終了し、次の段階として金利引き
上げが検討課題となっています。米国の景気が順調に拡大し、過熱が懸念されるためです。
一方で欧州はギリシャ金融危機などもあって金融緩和を継続、欧州中央銀行(ECB)のドラ
ギ総裁は 15 年 12 月にさらに追加金融緩和策をとることを示唆しています。中国も 14 年 11 月以
降、6 回の利下げを実施。日銀も 14 年 10 月に追加緩和を実施しました。10 月 30 日に開いた金
融政策決定会合での実施は見送られましたが、さらに追加緩和する可能性は残しています。現在、
世界の主要国で金融緩和を最初に手じまおうとしているのが、米国です。
米国が金利を引き上げると、低利のお金が集まっている新興国から資金が流出して世界経済が
不安定になる懸念があります。そのうえ今夏から株価、不動産価格の急落やGDP成長率の急減
速など中国経済の変調が明らかになり、他の新興国経済にも影響が広がっています。FRBは 10
月 28 日開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)で金利引き上げを見送りましたが、次回 12 月
15~16 日のFOMCで利上げに踏み切るかどうかに世界の注目が集まっています。
経済の減速が目立つ中国ですが、中央アジアを経て欧州との関係を深める一帯一路政策や、ア
ジアインフラ銀行(AIIB)の創設をインフラ輸出の拡大などにつなげる戦略をとっています。
英国が中国製の原発を購入するなど欧州は中国経済との親密度を増しています。中国の通貨「元」
が国際通貨基金(IMF)の準備通貨である特別引き出し権(SDR)に採用される方針が固ま
るなど世界経済への影響力を強めており、こうした動きも押さえておく必要があります。
③ 産業の大きな流れをつかむ
産業の大きな流れを理解しているかどうかも、出題の大きなテーマの一つです。特に、あらゆ
るモノがインターネットにつながるIoT(インターネット・オブ・シングス)の動向や、iP
S細胞などバイオ技術の発達は、先にあげた人口減少などの制約による経済成長の壁をブレーク
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スルー(突破)する手がかりとなる可能性があります。こうした技術は「破壊的技術」とも呼ば
れ、大企業より、ベンチャー企業や大学などとのオープンイノベーションと呼ばれる手法から生
まれることが多いのも最近の傾向です。
IoTでは、ドイツがインダストリー4.0を官民で展開する一方、米国では同国を代表する企
業であるゼネラル・エレクトリック(GE)が「インダストリアル・インターネット」陣営づく
りを進めるなど、規格を巡る国際的な主導権争いが始まっています。
金融分野では 1990 年代、金融工学を駆使した金融ハイテク商品ブームが起きましたが、このと
ころブームになっている、フィンテック(ITと金融の融合)を活用した決済や資金調達は、担
い手がネット企業など従来の金融機関に限らないのが大きな特徴です。
iPS細胞は、神経や心臓など体のあらゆる組織に成長できる性質を持つ細胞、ゲノム編集は
生命の設計図と例えられる遺伝子を操る新技術で、ともに医療や薬品の分野で、従来の概念を変
える技術を開発しつつあります。
エネルギー分野では、硬い岩盤を掘る必要がある技術的制約など高コストの克服が課題とされ
ていたシェールオイル・シェールガスの開発が急速に進み、米国が 2014 年、「最大の産油国」に
返り咲くニュースも生まれました。
日本では、東電福島第一原発事故以降、エネルギー構成が大きく変わりました。次世代エネル
ギー資源としては水素が注目を集めています。水素を活用した燃料電池車(FCV)はトヨタ自
動車がいちはやく市販、ホンダもゼネラル・モーターズ(GM)と組み、近く市販を始めます。
④ 米西海岸発の新ビジネスにも注目
消費者やサービスの分野では、シェアリングエコノミーと呼ばれる個人と個人(CtoC)の
取引市場が広がっています。米ウーバーテクノロジーズが展開する自家用車の相乗り(ライドシ
ェア)や、米Airbnb(エアビーアンドビー)が展開する空き部屋を持つ人と泊まりたい人
をネットで仲介する宿泊サービスは日本にも上陸、とくに後者は最近のホテル不足もあって、
「民
泊」として急速に広がっています。
それぞれ日本では道路運送法、旅館業法などの制約を受けますが、政府が地域限定で規制を緩
める「国家戦略特区」で解禁する方針を固めるなど、大きく成長する可能性が出ています。
コンテンツ配信でも新しいビジネスが急速に成長しています。米アップルなどによる音楽配信
に続き、2015 年に大きく展開したのは動画配信です。「動画配信の巨人」と呼ばれ、世界に 6200
万人の会員を持つ米ネットフリックスが 9 月から日本でサービスを開始し、NTTドコモとエイ
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ベックス通信放送が共同運営するdTVや日本テレビ放送網が米社の日本事業を買収したHul
u(フール-)などと動画配信市場で競っています。
ウーバー、エアビーアンドビーはシリコンバレー、ネットフリックスはロサンゼルスに本拠を
置く企業です。こうした米西海岸発の新しいビジネスにも視野を広げておくことも必要です。
日本国内では外国人観光客に対応したインバウンド需要への対応が、流通・サービス業界での
大きなトレンドになりました。外国人観光客は 2015 年、年間 2000 万人に迫る勢いで、円安によ
る出国日本人観光客の減少もあって、訪日客数が出国日本人の数を上回っています。日本を訪れ
た外国人が使ったお金から日本人が海外で使ったお金を差し引いた「旅行収支」も 2014 年度、55
年ぶりに黒字となりました。
外国人観光客をひきつける日本の文化などソフトパワーを発信するクールジャパンの動きでは、
ラーメンなど日本食の発信や、米誌「タイム」に世界を代表する 100 人の1人に作家の村上春樹
氏とともに選ばれた近藤麻理恵さんの著書『人生がときめく片づけの魔法』が世界 30 数カ国で出
版契約が結ばれるなど、「日本の実用書」が注目されるといった現象も起きています。
⑤ 考える力を測る問題
日経TESTは「知識」を問うだけでなく、「知識に基づき考える力」も測るのが特長です。
代表的には複数の個別事例(選択肢)から共通のルールに該当するもの・しないものを探すなど
の「知識を知恵にする力」を問う問題と、ルールや知恵(一般論)を個別の事象(選択肢)にあ
てはめて結論を見出す「知恵を活用する力」を問うパターンの問題があったと思います。
「共通のルール」はたとえば次のようなものです。2015 年に大きく売り上げを伸ばした商品の
一つに、セブン—イレブン・ジャパンやローソンがレジ横で売る「コンビニドーナツ」がありま
す。マーケティング戦略からみるとこの商品は、先行してやはりヒットした入れたてコーヒーと
の「ついで買い」を狙った、「クロスセル商品」です。こうした戦略は流通業に限らず、金融機
関などでもみられます。
また、市場に商品が行き渡り売り上げの拡大が頭打ちとなった商品を成熟商品と呼びますが、
新しい需要を開拓し掘り起こすことで、再び成長する商品もあります。これは花粉カットなど機
能性を重視した新しい用途を開発したメガネなどの商品でもみられた戦略です。ある業界がとっ
た対策がこうした戦略に沿っているかどうかを問う問題も出題されました。
以上は実際のビジネスに近い事例ですが、経済・財政など国の大きな政策についても、冒頭に
あげた少子高齢化にどう対応すべきかといった知恵を応用して個々の選択肢の妥当性を考えると、
正解を選択することができます。
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直接、その知識を持っていなくても、「知恵」を応用して正解を導き出していただくのが、「考
える問題」の出題のねらいです。たとえば日銀の金融政策の目標の一つとして重視している消費
者物価指数は、5 年ごとに対象品目を見直しています。少子高齢化、ペット市場の拡大、消費の
主役に躍り出たコンビニエンスストアのヒット商品などは採用されるだろう(落ちることはない)
といった思考プロセスでも、正解が得られることを想定しています。
こうした大きな流れに関する知識・知恵に基づき個別の事柄を考える思考を身に付けることは、
普段のビジネスで企画を立てる際の基礎力にもなります。
⑥ 先を読む重要性
経済知識を身に付ける際、重要なのは過去の経済の大きな流れを数字や用語で把握することと、
これから起きる出来事のスケジュールに注意を払うことです。
過去については世界と日本の経済のメインプレーヤーである企業の成り立ちや、過去の経済指
標の数値の把握もあります。日本経済は最近やや足踏みしていますが、東証1部企業の株式の発
行数と株価をかけた時価総額や、日本の企業、個人や政府が海外に持つ資産から負債を引いた対
外純資産は過去最高を記録しています。ただアベノミクスによる株高でも、日経平均株価はバブ
ル経済期の 1989 年末につけた最高値(3 万 8915 円)には届きませんでした。
2016 年は日本では 1 月からマイナンバー制度の導入、4 月からさまざまな企業にビジネスチャ
ンスを開く電力小売りの完全自由化(都市ガスは1年後の 2017 年 4 月から)など、経済で大きな
イベントが予定されています。7 月に予定される参院選は、2017 年 4 月を予定する消費税の引き
上げや軽減税率導入の動きと関係します。やや視野を広げると、7 月の参院選では選挙権を持つ
年齢が 18 歳に引き上げられますし、8 月に新しい祝日(山の日)が創設されることなども、消費
に影響を与えるイベントです。
大きな流れとともに、2015 年に行なわれたビジネスに関連の深い制度の改正や新制度の導入、
労働者派遣法の改正や知的財産権分野では商標登録制度の改正などの知識、職場におけるストレ
スチェック制度の導入などは、ビジネスパーソンとして押さえておくべき知識です。
以上は出題の意図と内容の一部を紹介したものですが、皆様の受験の手ごたえはいかがだった
でしょうか。12 月中旬に成績をお知らせしますので、その時期に改めて本コーナーで、次回全国
一斉試験(2016 年 6 月予定)へチャレンジいただく際の学習の指針となる情報を提供させていた
だきたいと思います。
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