JAトップインタビュー 総合食料供給基地への布石着々 芳坂榮一 長野県JA信州うえだ 代表理事組合長 内陸性の気候を生かした地域ごとの農業ビジョンづく りを通し、 “全職員が営農相談員”構想の下、農業所得 の向上を目指します。 ◆内陸性気候を生かして ワインバレー構想の実現に取り組んでいま ――どのような地域農業のビジョンを描いて す。ワイン造りの後継者を育てるための研修 いますか。 制度が今年からスタートし、20人の研修生が この地域は典型的な内陸性気候で昼夜・年 栽培から醸造までのワイン造りを学ぶことに 間の気温差が大きく、降水量が少ない。果樹 なっています。 か き をはじめとして品質のよい野菜、花 卉 など、 今年 6 月には、管内 4 市町村を含む近隣 8 幅広い農産物の栽培に適しています。標高が 市町村が広域ワイン特区を取得しました。J 400m から1,200mと差が大きく、管内で野菜 Aとしては、(株)農林漁業成長産業化支援機 のリレー栽培ができるなど、農業の条件に恵 構(A-FIVE)の支援を活用している東御市の まれたところです。 ワイナリーに出資しています。今後、ワイン 果樹の主力はブドウです。水はけがよい南 振興プロジェクトを立ち上げるなど、ブドウ 面の傾斜地はブドウ栽培に最適です。管内の に付加価値をつけ、観光客を呼び込むこの構 ち くま 東御市がワイン特区で、県と連携した千曲川 想に積極的に参加していく考えです。 す が だいら ブドウのほか、菅 平 高原のレタス、ブロッ コリーにも力を入れています。西南暖地から 東北・北海道の端境期の出荷が可能で、地の 利を生かした農業の方向です。 ただ、気象条件に恵まれ多様な作目ができ るということは、特定の作物を何百億円も売 り上げるような大産地にはなりにくいというこ とでもあります。そこで、何でもできる強みを JA信州うえだ本所 12 月刊 JA 2015/10 生かし、農畜産物の総合食料供給基地を目指 ほうさか・えいいち 昭和41年上田市農協就職、平成 13年JA信州うえだ退職、同年 5 月同JA常務理事就任、平成 19年 5 月代表理事組合長就任、 23年 9 月よりJA長野中央会副 会長就任。 撮影・JA信州うえだ総務企画部組合員広報課 関 あゆみ そうと考えました。 こうした取り組みがその支えになったのだと 考えています。 ◆地区ごとに農業ビジョン 特に「農業支援プラン」は、平成26年 2 月 地域に適した農業に取り組んでいくため、 の豪雪被害の復旧に大きな役割を果たしまし 管内 7 地区ごとに「農業振興ビジョン」を樹 た。農産物被害に対し、地域農業ビジョンに 立しました。そしてそれを支援するのが平成 基づき、代替作物として導入したブロッコ 22年から始めた「農業支援プラン」の事業で リー、ズッキーニ、グラジオラス、コスモス、 す。 小菊などの栽培が増えました。 これは、農業生産に役立つ多種多様なメ ニューを用意し、活用してもらおうというもの ◆直売事業で地域を守る です。パイプハウス設置、収穫台車導入、ブ 総合食料供給基地を目指すには、大規模農 ドウの無核化など支援対象はさまざまな分野 家も小規模農家も必要です。大規模経営は専 に及び、経費の10分の 2 以内で助成します。 業として自立の方向に向かい、小規模農家に これまで5 年間で延べ957件、事業費で3 億円 は中山間地域を元気にするための役割を果た の投資がありました。うちJAは約6,500万円 してもらわなければなりません。 を助成しています。このところ、農産物の販 小規模・多様な農家は地域の 8 割を占めて 売の減少に一定の踏ん張りが利いていますが、 おり、高齢者の生きがい、農業・地域づくり、 2015/10 月刊 JA 13 JAトップインタビュー ワインバレー構想が進むブドウ畑 「農業支援プラン」を活用したハウスの建設 またJAと一緒になった地域の生活インフラ な農家を支援する必要が強まるでしょう。J 確立のために不可欠です。そのひとつとして Aは地域の支えがあってこそ成り立つもので 直売事業に力を入れています。 す。大規模の専業農家だけになり、地域に人 平成21年には「地産地消課」を新設し、直 がいなくなって、JAの存立基盤を危うくする 売所の充実に力を入れています。平成26年度 ようなことがあってはなりません。 にはJAが運営する直売所の売り上げが10億 円を超え、今も増え続けています。直売所運 ◆全員を営農の分かる職員に 営で重要とされる品ぞろえは、露地野菜が少 ――担い手への対応ではどのような取り組み なくなる冬がネックですが、これは「農業支 をしていますか。 援プラン」によるハウス栽培で対応していま 平成27年度事業計画で、 「食と農を通じた す。 コミュニケーション強化プログラム」の策定 こうした取り組みで、JAの販売品取扱高 を掲げました。地域農業を支える多様な担い 100億円突破という当面の目標の実現も不可 手に対して、営農部門職員はもとより、全職 能ではないと思っています。 員がJA職員として楽しく農業に触れ、関心 農業の現場では、農家の高齢化などで、畑 を持ち、食と農を通じた組合員や地域の人と を中心に荒廃農地が増えています。これを解 のコミュニケーションの充実を図ろうというも あっ せん 14 消するため、農地の流動化すなわち斡旋等を のです。それぞれのレベルに応じたプログラ はじめ、自らも生産活動を行い、自立経営の ムを策定しますが、特に自給的農家や家庭菜 モデルを示すとともに、農家の後継者や新規 園志向の人に働きかけます。それに応じるこ 就農者を研修生として受け入れています。 とができるよう、“全職員が営農相談員” の構 これがJA出資法人の(有)信州うえだファー 想を掲げました。 ムです。今後、さらに出資法人の機能を強化 つまり、職員の誰もが組合員からの営農に し、地域の重要な担い手として、また新規就 ついての相談に応えることができるようにする 農者の受け皿としての役割を強めていく方針 のです。この考えで営農資格の取得を促し、 です。 また今年から、女性職員を含む新採用の職員 米価が下がり、認定農業者のリタイアが増 全員を営農センターに配属しました。 えると、JAが直接農業経営に携わり、小さ 今年 4 月からは、営農センターの職員を講 月刊 JA 2015/10 JAトップインタビュー 信州うえだファームの研修の様子 新入職員の農業体験実習の様子 師に、全職員が農業について学ぶことを始め 献するには、体が達者で謙虚な気持ちが欠か ました。職員から提案されたのですが、うれ せません。そして職員には、失敗してもいい しかったですね。職員には業務のプロとして から、何かひとつ新しいことに挑戦するように は当然のこと、プラスアルファ地域の皆さん と言っています。その挑戦が自分の成長にも、 と一体感を持つように努めてほしい。職員の JAや組合員への貢献にもなります。 教育は、まず組合員から教えてもらうことから JA改革が唱えられていますが、小さなこ 始まるものだと考えています。 とでも、組合員や地域の人から「JAが変 わった」と言われるような取り組みが必要で ◆廃止店舗にも職員配置 す。平成27年度は中期 3 か年計画の最終年度 ――JAの自己改革では、特にどのような取 です。JA改革で言うところの農業所得の向 り組みに重点を置いていますか。 上は当然のこと。しかし多くの難しい問題が 地域に信頼され、地域に誇れるJAを目指 ありますが、これをプラスのチャンスと考えて し、今年 9 月から、金融窓口を集約する店舗 前進したいと思います。 再編成に取り組んでいます。現在の36店舗が (写真は全てJA信州うえだ提供) 19店舗に集約されますが、金融窓口を廃止し た店舗には最低 2 人の職員を配置し、旧村単 位での農業づくり、地域づくりの発信拠点に する方針です。つまり、ふれあいセンターと しての機能を持たせ、職員は現場に出向いて、 それを支援するのです。健康づくりや料理教 ◎JA信州うえだの概況 平成6年、上小地域の7JAが広域合併して誕生。 長野県 室などに活用することで、地域の活性化に、 今まで以上に施設を有効に使えるのではない かと期待しています。 ◆課題を見つけ挑戦を ――職員にはどのようなことを望みますか。 JA信州うえだ ▽組合員数 2万9,845人(うち正組合 員1万7,156人・法人) ▽貯金残高 3,254億円 ▽長期共済保有高 1兆473億円 ▽購買品供給高 57億6,400万円 ▽販売品取扱高 87億500万円 ▽職員数 780人(うち正職員504人) (平成26年度末) “質実剛健” でしょうか。特に組織運営に貢 2015/10 月刊 JA 15
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