JAトップインタビュー 複合経営で「食農立国」確立へ 藤尾東泉 岩手県JAいわて中央 代表理事組合長 集落営農・法人を中心に、米、野菜、畜産による複合 経営で、JAオリジナルブランド「食農立国」確立を目 指します。 ◆米価下落で畜産・園芸に注力 ま飼料価格が高騰し、肥育農家が困っていま ――管内は米地帯、平成26年産の米価下落の す。そこで繁殖・肥育一貫経営を目指す畜産 影響が大きいのではありませんか。 農家を支援するため、簡易牛舎の建設費用を 販売高で見ると、合併当時160億円だった 助成しています。 ものが、昨年度に100億円を割りました。やは り全体の約半分を占める米価の下落が大きく ◆四国のスーパーと提携 影響しています。米農家の生産意欲が減退す ――地域農業の振興では、どのような取り組 る恐れがあり、昨年秋にJA独自で米価下落 みをしていますか。 の緊急対策として、平成27年産用の春肥や 目指すところはJAオリジナルブランド「食 種子、資材費を総額1億円助成しました。 農立国」の確立です。そのためには販売力の 農家の収入確保のため、これまで以上に畜 強化が不可欠で、平成21年に「食農立国」を 産、園芸に力を入れなければなりません。特 商標登録しました。それ以前にとった組合員 に畜産は所得向上を図りやすいのですが、い アンケートで、組合員がJAに一番望んでい ることは「販売対策」だということが分かり、 ブランド化による販路拡大が必要だと考えた わけです。 そのひとつが、愛媛県の松山市に本社を置 き、四国・中国地方に店舗展開するスーパー (株)フジとの提携です。リンゴの販売が契機に なり、いまでは米や野菜など、多くの農産物 で取引しています。人の交流も広がり、同社 JAいわて中央本所 12 月刊 JA 2015/11 の店長やバイヤーなどを招き、農家に宿泊し ふじお・とうせん 昭 和22年 生 ま れ。58年 岩 手 県 農協青年組織協議会会長。平成 2年JA岩手しわ町理事、11年 JAいわて中央理事、12年代表 理 事 副 組 合 長、15 年 同 専 務、 20年 同 組 合 長。26年 J A 岩 手 県中央会副会長に就任し、現在 に至る。 撮影・JAいわて中央企画管理部企画課 小方恵美 て野菜やリンゴの収穫作業を手伝ってもらい 取引先の信頼に応えるためには、安定供給 ます。こちらからも職員や生産者が愛媛県や が必須で、すなわち、生産者の経営が安定し 広島県に出かけ、販売促進として試食を行っ ていなければなりません。 たり、イベントで餅つきをしたりしています。 岩手県は昼夜の気温差が大きいため、野菜 ◆小規模でも可能な営農を やリンゴの品質、日持ちがいいと、消費者に ――それを複合経営で、ということですね。 も大変喜ばれています。 そうです。岩手県では戦後、農業の在り方 また、卸売市場を通さずに農産物を直接消 として「志和型複合経営」を推進してきた経 費地に届けることができるので、鮮度のよい 緯があります。稲作に畜産や野菜を組み合わ 状態で安定的に供給できる体制が最大の強み せ、小規模でも農業で生活できる経営を確立 となっています。 しようとしたものです。 このような交流を通じて消費者ニーズに見 いま管内では、水稲はほぼ集落営農や法人 合った農産物の栽培に取り組めることも同社 によって形ができています。そこでは組織の との提携による大きな成果となりました。J 構成員が中心となり、レタスやキャベツ、ズッ A管内の行政も協力的で、県の振興局長をは キーニなどの野菜も栽培しています。かつて じめ、管内の市長や町長にもトップセールス は個別経営の中での複合経営でしたが、いま に参加いただいています。 はこうした生産組織による複合経営が中心に 2015/11 月刊 JA 13 JAトップインタビュー トップセールスでは、組合長も店頭に立つ 「食農立国」でブランド展開 なっています。 のような食材を求めているかが分かるので、 畜産は若い生産者を中心とする集団が育っ 栽培する作目の参考にもなります。配達上の ています。例えばそのひとつ、農事組合法人 理由からセンター方式の学校給食でないと対 あづまね生産組合は10人ほどの組合員が家族 応が難しいのですが、これからも行政や教育 せっ さ たく ま ぐるみで付き合い、お互い切磋琢磨するとい 委員会に働きかけて、広げるつもりです。 ういい関係ができています。また、ホールク ロップサイレージ(WCS)にも挑戦し、地域 ――農業所得の増大のため、また複合経営の 農業のリーダー的存在になっています。同法 野菜の振興はどのようにしていますか。 人の組合員は、県の畜産共進会や各種枝肉共 キュウリをはじめとする果菜類やネギ、ズッ 進会などで多くの賞を受賞しています。 キーニなどに力を入れていますが、秋は遅く まで、春は早く出荷できるよう出荷期間を延 ◆学校給食で地産地消を拡大 ばすことが肝心です。そのために有効な手段 ――遠隔地だけでなく、地元での販売も必要 であるパイプハウスの導入をJA単独で支援 だと思いますが。 しています。積雪の補強付きで、購入費の2 もちろん地産地消にも力を入れています。 分の1を助成しています。これは米価下落の農 特に学校給食です。JAの子会社(株)JAシン 家支援策のひとつでもあり、平成26年度から セラが運営する直売所「サン・フレッシュ都 実施しています。 南」は管内の矢巾町、紫波町と契約し、学校 14 給食に農産物を提供しています。 ――農家の高齢化が進んでいますが、対応を まずは地元産、そうでなければ県内産、そ どうしていますか。 れが駄目なら国産という方針で運営されてお パイプハウス導入助成などの園芸支援対策 り、冬場の野菜は全て地元産というわけには でも、実際は積極的に利用しようという農家 いきませんが、米は完全に地元の紫波町産で が少ないのが悩みです。必要なことは、高齢 す。この取り組みで、矢巾町の給食センター 者でも農作業ができるような地域農業の仕組 は全国地産地消推進協議会から地産地消特別 みをつくることだと思います。特に集落営農 賞を受けたこともあります。 を組織したところでは、体力的な理由により 学校給食への提供は、子どもや学校が、ど 高齢者が農作業からリタイアするケースもあり、 月刊 JA 2015/11 集落営農における高齢者のバレイショ収穫の支援 高齢者が少ない労力で活躍できる野菜栽培の は思いません。ただ注文をつけると、小さな 仕組みづくりは大きな課題です。 ことでも、われわれの意見をよく聞いていた われわれJAは生産者の組織です。高齢の だきたいと思います。ただ、組合員からも「J 生産者の支援など、部会員やJAの職員によ Aが意見を聞いてくれない」といわれている る手助けなど、JAだからこそできることがた 面もあります。重要なことは、組合員懇談会 くさんあります。 を何度も開き、JAのことをオープンに、ざっ JAトップインタビュー 小学校の給食では、JA職員の出前授業も くばらんに話すことです。そうすると、組合員 ◆営農指導員の育成に全力 はJAの考えを理解してくれます。 ――職員教育には何が必要でしょうか。 また、これまでは組合員以外に向けての JAに望むことの組合員アンケートで、 「販 発信が弱かったのではないかと感じています。 売対策」の次に多かったのは「営農指導」で われわれは、組織の広報部署に任せるだけ した。それを受け営農指導員のレベルアップ ではなく、役職員ひとりひとりが農業やJA に努めていますが、JAグループの組織力を の価値を発信していく必要があるのではない 生かした教育ができていないと感じています。 でしょうか。 いまJAには59人の営農指導員を配置して (写真は全てJAいわて中央提供) います。営農指導員の資質向上のため、ひと つのテーマを研究し、発表する取り組みを続 けています。最優秀者には記念品を贈り、県 の営農指導員研究発表会に代表として出席さ せています。 ◎JAいわて中央の概況 平成11年、 1市2町の3JAの広域合併で発足、同19年JA 盛岡市が加わった。 岩手県 中央会や全農で、営農指導員を育てる教育 システムがあれば、半年でも1年でも送り出す 用意があります。それも全国組織の重要な役 割ではないでしょうか。 JAいわて中央 ――JA改革では、何をすべきでしょうか。 ▽組合員数 1万7,819人 (うち正組合員1万791人) ▽貯金残高 1,119億5,300万円 ▽長期共済保有高 5,482億5,330万円 ▽購買品供給高 43億2,790万円 ▽販売品取扱高 99億5,330万円 ▽職員数 506人(うち正職員340人) (平成26年度末) 全中の組織はいままでの形で問題があると 2015/11 月刊 JA 15
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