エタノールアミンの肝細胞増殖促進作用並びにコレステロール代謝調節

SURE: Shizuoka University REpository
http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/
Title
エタノールアミンの肝細胞増殖促進作用並びにコレステ
ロール代謝調節に関する分子細胞生物学的研究
Author(s)
粂, 久枝
Citation
p. 1-101
Issue Date
URL
Version
2007-03-22
http://doi.org/10.14945/00003306
ETD
Rights
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理工学研究科;
DOO7507445
静岡大学博士論文
エタノ・・一一一・・…ルアミンの肝細胞増殖促進
作用並びにコレステロ・・・…一一・・−Lル代謝調節に
関する分子細胞生物学的研究
静
薗
平成18年12月
大学院理工学研究科
粂 久 枝
目次
頁
1.
要旨
・・
P
ll.
略語
・・
S
皿.
緒言
・・
U
IV. 第1部:ラット初代培養肝細胞における
エタノ“ルアミンの肝細胞増殖促進作用とその作用機構
IV−1. 背景・目的
・・
IV−2.方法
・・
IV−3.結果
・・
IV−4.考察
・・
P4
P5
P9
Q4
V.第2部:エタノールアミンの肝再生促進作用とその作用機構
V−1. 背景・目的
・・
V−2.方法
・・
V−3.結果
・・
V−4.考察
・・
R6
R7
R9
S3
VI.第3部:周産期における血清エタノールアミン濃度と肝細胞のDNA合成の関係
VI−1.背景・目的
・・
VI−2.方法
・・
VI−3.結果
・・
VI−4.考察
・・
T3
T4
T5
T8
W.第4部:エタノールアミンの高コレステロール血症改善作用
66
67
69
72
VII−1.背景・目的
W−2. 方法
vn−3.結果
. vn−4.考察
V皿.
総論
・・
W1
D(.
謝辞 」
・・
X2
X.
参考文献
・・
X3
」
ノ
1.
要旨
肝臓は解毒作用をはじめ、脂質、タンパク質および糖質の合成と分解を司る重要な
代謝臓器であると同時に、再生能力に富む臓器である。成体の肝細胞は高度に分化し
ており、ほとんど分裂しないが、周産期から成長期には盛んに分裂し増殖する。また、
肝臓を部分的に切除すると、上皮増殖因子(EGF)や肝細胞増殖因子(HGF)などの細胞増
殖因子の働きにより肝細胞は増殖し、肝臓は元の重量まで回復する。他方、乳腺細胞
や口腔角化細胞などの細胞増殖因子として、エタノールアミンが見出されている。エ
タノールアミンはホスファチジルエタノールアミン(PE)の合成に利用されるとともに、
肝臓特異的なリン脂質合成経路を介して、PEからホスファチジルコリン(PC)の合成に
も利用される。これらリン脂質は細胞膜の脂質二重層の主要成分であり、膜に存在す
るEGF受容体などを介して外界から情報の伝達を調節し、また血中脂質成分として、
コレステロールやトリグリセリドの輸送に関わっている。
本研究では、ウシ小腸粘膜上皮組織から肝細胞の増殖を促進する因子の探索を行い、
活性物質がエタノールアミンであることを発見した。第1部ではエタノールアミン発
見の経緯を記し、ラット成体肝臓に由来する初代培養肝細胞を用いてエタノールアミ
ンの作用機序を解析した。その結果、EGF存在下で、エタノールアミンの添加濃度に
依存して、肝細胞におけるDNA合成は促進され、 PE量も増加した。しかし、 PC量に変
化はなかった。エタノールアミン無添加ではPE量は正常量の60%まで低下した。さ
らに、エタノールアミンはEGF存在下で、細胞膜のEGF受容体の数を増加させ、かっ
同受容体のチロシンのリン酸化を充進させることが受容体結合解析とウエスタンブロ
ッテイング法により明らかになった。このように、エタノールアミンはPE量の増加と
EGF受容体のチロシンのリン酸化の充進等を引き起こし、肝細胞のDNA合成を促進す
る。しかし、このDNA合成促進作用にはEGFなどの細胞増殖因子が必要であることか
ら、エタノールアミンは細胞増i殖因子の作用を増強するco−mitogenとして作用するこ
とが明らかになった。
従来のエタノールアミンの細胞増殖に関する研究は初代培養細胞や細胞株を用いて
行なわれており、生体内での機序は不明である。そこで、第2部および第3部では、
1
生体内の肝細胞の増殖におけるエタノールアミンの作用機序を解析した。先ず、70%
肝切除ラットの肝再生過程における、肝細胞のDNA合成に及ぼす腹腔内に投与したエ
タノールアミンの効果を、プロモデオキシウリジンを用いて免疫組織化学的に検討し
た。その結果、エタノv−・・ルアミン投与により、肝切除24時間後のDNA合成が有意に促
進された。またPE量も増加し、 PEからのPCの合成も促進された。このように、生体
内においても、エタノールアミンは肝細胞の増殖を促進する働きがあることが明らか
になった。
次に、肝切除後と周産期を含む成長期の血清中のエダノー・・一‘ルアミン動態と肝細胞の
DNA合成との関係を解析した。血清エタノールアミン濃度は肝切除4時間後に切除前
の約2倍(45.9±3.9μM)に上昇し、24時間後も高い値を維持していた。また、周産期
の19日胎児(76.8±4.9μM)と1日齢(72.3±5.5μM)では、成獣の約3倍のエタノー
ルアミン濃度を示し、4日齢以降、急激に低下したが、生後2週までは40μM台の値
を維持しており、周産期の血清エタノールアミン濃度とS期の肝細胞数との間には正
の相関が認められた。エタノールアミンは胎児では胎盤から、新生児では母乳から供
給されて血清中のエタノールアミン濃度が高濃度に維持されていることが分かった。
このように、生体内で、肝細胞の増殖期にはエタノールアミン濃度の上昇が誘導され
て肝細胞のDNA合成を促進し、増殖が終息に向かうと、その濃度は低下して肝細胞の
増殖を制御していることが明らかになった。
さらに、食物リン脂質由来のPEやエタノールアミンが脂質代謝に関与していること
が、正常ラットを用いた研究により報告されている。そこで、第4部では、高脂肪/
高コレステロV−…ル飼料摂取により誘発した高コレステロール血症ラットに、エタノー
ルアミン溶液を摂取させ、血清および肝臓中脂質を測定し、脂質代謝に及ぼすエタノ
ールアミンの役割について解析した。その結果、エタノS−・・…Lルアミン摂取により、血清
中の超低密度リポタンパク質(VLDL)、低密度リポタンパク質(LDL)コレステロール濃度
の有意な低下が認められ、高コレステロール血症を改善する作用があることが明らか
になった。また、肝臓において、VLDLの成分であるアポリポタンパク質B(apoB)のmRNA
発現量の低下が認められたことから、血清中のコレステロール濃度の低下にapoBが関
与している可能性が示唆された。
2
以上、本研究では、エタノールアミンは肝細胞の増殖に重要な細胞増殖因子である
EGFのco−mitogenとして作用し、PE量の増加とEGF受容体のリン酸化の充進などを引
き起こして、肝細胞の増殖を促進することを明らかにした。肝細胞ではエタノ・…−Lルア
ミンはPEとPCの合成に利用されているが、エタノールアミンは特にPE量を調節して
いることが判明した。本研究で初めて、生体では血清中のエタノールアミン濃度は一
定に調節されているカ㍉肝切除や周産期のような肝細胞の増殖が活発な状態ではエタ
ノールアミン濃度が上昇し、肝臓でのPE量の増加やPC合成の促進を誘導することで
細胞の増殖を制御している機序を明らかにした。そして、これらリン脂質組成の変化
が細胞膜環境や脂質代謝を変化させ、肝細胞の増殖のみならずコレステロール代謝な
ど広範な生体反応の調節に関与していることを見出した。
3
皿.
略語
ApoA−1:. apolipoprotein A− 1 アポリポタンパク質A− I
ApoB:apolipoprotein B アポリポタンパク質B
ApoC:apolipoprotein C アポリポタンパク質C
ApoE:apolipoprotein E アポリポタンパク質E }
Bf:bezafibrate ベザフィブレート
BrdU:5−bromo−2’−deoxyuridine 5一プロモデオキシウリジン
CE:cholesterol ester コレステロールエステル
CDP−choline:cytidine.5’−diphosphate choline シチジンニリン酸コリン
CDP−Etn:cytidine 5’−diphosphate ethanolamine シチジンニリン酸エタノ
ールアミン
Cho: cholesterol コレステロール
E−19,:
eMbryo−19 19日月台!HL
EDTA:
ethylenediaminetetraacetic acid エチレンジアミン四酢酸
EGF: epidermal growth factor 上皮増殖因子
Etn: ethanolamine エタノールアミン
FCS: fetal calf serum 牛胎児血清
GAPDH :glyceraldehydephosphate dehydrogenase グリセロアルデヒドリン酸
デヒドロゲナーゼ
HB−EGF :heparin−binding epidermal growth factor−1ike growth factor
リン結合性EGF様細胞成長因子
局密度リポタンパク質
山
HDL :
high density lipoprotein
HF/HC : high−fat/high−cholesterol 高脂肪/高コレステロール
HGF: hepatocyte growth factor
LDL :
low density lipoprotein
PBS: phosphate buffer saline
Met :
肝細胞増殖因子
低密度リポタンパク質
リン酸緩衝液
methionine メチオニン
4
ヘパ
PC:phosphatidylcholine ボスファチジルコリン
PDBu:phorbo112,13−dibutyrate ホルポv・・一・ル12,13一ジブチラート
P−Choline:phosphocholine コリンリン酸
PE:phosphatidylethanolamine ホスファチジルエタノールアミン
PEMT:phosphatidylethanolamine methyltransferase ホスファチジルエタノー
ルアミンメチルトランスフェラーゼ
P−Etn:phosphoethanolamine rpタノv・一一・ルアミンリン酸(ホスホエタノールアミ
ン) ’
部分肝切除
PH. partial hepatectomy
Pi:
phosphorus リン
ホスファチジルイノシトール1
PI: phosphatidylinosito1
protein kinase C プロテインキナーゼC
PKC:
PLC :
phospholipase C ボスホリパーゼC
PLD :
phospholipase D ホスホリパーゼD
PS :
phosphatidylserine ボスファチジルセリン
S−adenosy1−methionine S一アデノシルメチオニン
SAM:
:sodium dodecyl sulfate ドデシル硫酸ナトリウム
SDS
triglyceride トリグリセリド
TG:
TGF一α:transforming growth factor一α 形質転換成長因子一α
VLDL:very low density lipoprotein 超低密度リポタンパク質
5
皿.
緒言
肝再生機構と細胞周期
肝臓は食物から吸収した栄養素の同化や異化に関係する代謝臓器である。その中心的
な役割を担っている肝細胞は高度に分化した細胞であり、正常な状態ではほとんど分
裂をしないが、周産期などの成長期の肝細胞は盛んに分裂する。正常肝細胞は細胞周
期からはずれて静止期(GO期)に存在していると考えられている。しかし、その増殖能
は失われているのではなく、たとえばラットの肝臓を70%程度切除しても10日前後で
元の重量まで回復することや劇症肝炎でみられるような広範な肝細胞壊死によりその
数が減少すると、残存した肝細胞は増殖を開始して細胞周期に復帰し、H約24時間後に
はS期に到達して複製そして細胞分裂を開始する。このような残存肝細胞が増殖し、
機能を回復していく肝再生の仕組みについては古くから関心が持たれており、細胞生
物学の重要な課題である。近年、生体肝移植や再生医療の観点からも肝再生のメカニ
ズムについては注目を集めている。
肝再生にはFig.1に示すようにGO期からG1へのプライミングの過程を経た後、 s
期への移行過程を経て、G2→M期で分裂し、再びG1→GO期に戻る一連の細胞周期の過
程が関わっている。肝細胞の分裂の最初におこるプライミングの過程は肝切除や肝障
害などにより誘導される。その際、肝細胞と肝細胞を取りまくマトリックスタンパク
との接触の解除などによって、プライミングが引き起こされるという説(Kiso et a1.,
1995)があるがその仕組みの詳細は明らかではない。また、IL−6ノックアウトマウス
では肝再生が非常に悪く、1レ6を外から投与すると肝再生が可能になることから、プ
ライミングの時期にIL−6が重要な役割を担っていることも分かってきている
(Cressman et a1.,1996)。 DNA合成期(S期)への移行には上皮増殖因子(EGF)(McGowan
et a1.,1981)、形質転換成長因子一α(TGF一α)(Luetteke et a1.,1988;Mead and Fausto,
1989)、肝細胞増殖因子(HGF)(Gohda et a1.,1988;Nakamura et a1.,1987;Zarnegar
and Michalopoulos,1989)、ヘパリン結合性EGF様細胞成長因子(HB−EGF)(Kiso et a1.,
1995)などの存在が必須であり、このような細胞成長因子は肝再生を単独で促進するこ
6
とができる。その他に、生体内には単独では細胞の分裂を促進する作用は無いが、そ
れらの作用を増強したり減弱したりする働きを有するco−mitogenの存在も知られて
い6。EGFの作用を増強する作用を有するco−mitogenとして、アンジオテンシンーII、
インシュリン様成長因子一1、ノルエピネフリンおよびバソプレシンなどが報告されて
いる(Mitaka et a1.,1993)。
エタノールアミンの細胞増殖促進作用
Kano−Sueokaら(1979)は脳下垂体由来のホスホエタノールアミンにラット乳腺由来
良性腫瘍細胞の増殖を促進する作用があることを見出した。その後、エタノールアミ
ンにも同様の作用があることが示された。エタノールアミンによって増殖が促進され
る細胞は乳腺細胞だけでなく、ヒト乳癌細胞(T47T)(Kano−Sueoka and Errick,1981)、
ケラチン生成細胞(Tsao et al.,1982).ヒト肺癌細胞(Minna et a1.,1982)、 ヒト気
管支上皮細胞(Lechner et a1.,1982),ヒト食道上皮細胞(Babcock et a1.,1983)、ヒ
トロ腔角化細胞(Kano−Sueoka et a1.,2001)等上皮系の細胞株である。また、細胞株
だけでなく、初代培養乳腺細胞もエタノールアミンによって増殖が促進されることが
確認された(Errick and Kano−Sueoka,1983)。エタノールアミンの細胞増殖促進作用
について、最も研究されているのは乳腺細胞を用いた研究であり、その作用機構につ
いてもよく検討されている。エタノールアミンはリン脂質であるホスファチジルエタ
ノールアミン(PE)の合成に使用されており(Fig.2)、エタノールアミン無添加で培養
すると細胞膜のリン脂中PE量がコントロールの半分に減少し、ホスファチジルコリン
(PC)量が30%増加する。このような細胞膜のリン脂質組成の変化は、最終的に細胞の
増殖の停止を誘導する(Kano−Sueoka et a1.,1983;Kano−Sueoka and King,1987)。
エタノールアミンの無添加ではEGF受容体の結合定数の増加や受容体数の低下を引き
起こしており(Kano−Sueoka et a1.,1990)、 EGFなどの細胞増殖因子に対する反応性
の低下が細胞の分裂が誘導されない理由である可能性がある。また、シグナル伝達を
誘導するホルボール12,13一ジブチラート(PDBu)を用いた実験で、PDBu添加後のホスホ
リパーゼC、D(PLC、 PLD)によるPCとPEの加水分解が促進されないこと(Fisk and
7
Kano−Sueoka,1992)、さらに、プロテインキナs−一一・・ゼC(PKC)の活性化や活性化後の細胞
膜への移動が正常に誘導されないなど(Fisk and Kano−Sueoka,1992;Kano−Sueoka and
King,1988;Kano−Sueoka and Nicks,1993)、リン脂質組成の異常により細胞膜を介
するシグナル伝達系が正常に機能していないことが示されている。
以上の結果から、エタノールアミンは細胞膜のリン脂質組成を正常に保つために必
要な因子であり、細胞膜を介する生体反応を正常に維持する働きをしている。
肝臓でのリン脂質合成と脂質代謝
肝臓は栄養素(脂質、タンパク質、糖質)の合成、分解、貯蔵をっかさどる重要な臓
器である。エタノールアミンは肝細胞に取り込まれた後、リン脂質合成に利用されて
おり、リン脂質を介して、増殖や脂質代謝を調節していると考えられる。そこで、こ
こでは肝臓でのリン脂質合成経路と脂質代謝について説明する。哺乳類一般のリン脂
質合成経路と肝臓特異的なリン脂質合成系についてFig.2に示す。哺乳類の細胞では
PEの合成はエタノールアミンからの合成経路とホスファチジルセリン(PS)からの脱
炭酸により合成されており、PCはコリンからシチジンニリン酸コリン(CDP一コリン)を
経由して合成される(Kenny−pathway)。しかし、肝臓ではPC合成に独自の経路が存在
し、ホスファチジルエタノー一ルアミンメチルトランスフェラーゼ(PEMT)によって、 PE
にメチル基が転移してPCが合成される経路(PEMT経路)が存在し、 PCの約30%はこの
経路から合成されている(DeLong et a1.,1999;Reo et a1.,2002;Sundler and Akesson,
1975)。これらリン脂質は細胞膜の脂質二重層の主要成分であり、細胞膜は膜に存在す
るEGF受容体などのタンパク質を介して、外界からの細胞機能にとって重要な情報の
伝達を調節している。
次に、月刊蔵での脂質代謝について説明する。食事から摂取した脂肪は小腸から吸収
されカイロミクロンとして肝臓に運ばれる。肝臓では取り込まれた脂肪を分解すると
同時に脂肪の合成を行っている。肝細胞で合成された脂肪は、肝細胞の粗面小胞体内
でアポリポタンパク質B(apoB)、 PC、トリグリセリド、コレステロ…−sルおよびコレス
テロールエステルとともに複合体超低密度リポタンパク質(VLDL)を形成し、その後、
8
血中に分泌される(Fig.3)。血中に分泌されたVLDLは、脂肪組織をはじめ、他の組織 ・
に移送される。そこで、脂肪を受け渡したVLDLは、小さくなってコレステロール含量
の高い低密度リポタンパク質(LDL)になる。 LDLはコレステロールの運搬体であり、
apoB受容体をもつ細胞に取り込まれる。高密度リポタンパク質(E肌)は末梢組織から
余剰のコレステロールを引き抜き、その後、LDLにコレステロv・・…ルを移送する。血中
に残ったLDLはLDL受容体(apoB・E受容体)を介して肝細胞に取り込まれ処理される。
このように、血中のコレステロール、トリグリセリド濃度は月刊蔵からのVLDLの分泌、
. また、血中から月刊蔵へのLDLの取り込みにより調節されている。 VLDLの形成にはアポ
タンパク質の合成、リン脂質の供給、小胞体でのアポタンパク質、リン脂質、コレス
テロールおよび脂肪の四者の組織的集合、および細胞の開口分泌作用などの段階があ
り、それらの:複雑な調節によって、肝臓からのVLDLの分泌は調節されている(田川、
1993)。
研究の目的
我々はウシ小腸粘膜上皮組織から肝細胞の増殖を促進する因子を単離したところ、
活性物質がエタノールアミンであることを見出した(Sasaki et al,1997)。これを受
け、本研究は、ラット初代培養肝細胞を用いて、エタノールアミンの肝細胞の増殖促
進作用とその作用機構の解析、並びに、生体内におけるエタノールアミンの肝細胞増
殖と脂質代謝に及ぼす効果について明らかにすることを目的として行なった。
第1部では、ラット初代培養肝細胞を用いて、エタノールアミンの肝細胞増殖に及
ぼす効果およびその作用機構について検討した。さらに、PEMT経路の阻害剤であるベ
ザフィブレートを用いて、PEMT経路と肝細胞の増殖との関係についても検討した。
エタノ…一一sルアミンの細胞増殖促進作用に関する研究は初代培養細胞や株化細胞を用
いて行なわれており、生体での肝細胞の増殖におけるエタノールアミンの作用につい
ては研究されていない。そこで、第2部では、70%肝切除ラット動物モデルを用いて、
エタノールアミンを腹腔内に投与した場合の肝再生に及ぼす効果について検討した。
さらに、第3部では、肝細胞の増殖が盛んな周産期のラットを用いて、血清中エタノ
9
一ルアミン動態と肝細胞のDNA合成の関係について調べた。
第4部では、高脂肪/高コレステロール飼料摂取により誘発された高コレステロV…一・‘ル
血症ラットに、エタノールアミン溶液を摂取させた際の、血清および月刊藏中脂質に及
ぼすエタノールアミンの作用について検討した。また、ベザフィブレート(PEMT経路
の阻害剤)を用いて;PEMT経路と脂質代謝の関係についても検討した。
10
Priming
Pania1 hepatectomy,
Hepatic disorder,
Gl Phase
IL−6, etc.
\一
Growth stimulators
HGF, TGF一α,EGF,
HB−EGF, etc.
M Phase
Co−mitogen
SPhase IGF, Angiotensin皿,
ikth
Nicotinamide, etc.
G2 Phase
Fig.1 Cell cycle of hepatocyte on liver regeneration・
11
Choline
Etn
↓
Kenny
P−Etn
P−Choline
↓
Pathway
CDP−Etn
CDP−Choline
↓
PEM
C
Serine
PE
Serine
PS
Fig.2 Phospholipid biosynthesis pathway in hepatocytes of mammals. The synthesis
pathway of phosphatidylcholine(PC)by methylation of phosphatidylethanolamine(PE)is
hepatocyte specific. Bf bezafibrate, CDP−Choline:cytidine 5’−diphosphate choline,
CDP−Etn:cytidine 5’−diphosphate ethanolamine, Etn:ethanolamine, Met:methionine, P−cho:
phosphocholine, P−Etn: phosphoethanolamine, PC: phosphatidylcholine, PE:
phosphatidylethanolamine, PEMT:pho sphatidyl−N−methy−transferase, P S:Phosphatidylserine.
SAM:S−adenosylmethionine
12
Small■ntestine
Chylomicron
㊧⑳
Liver
●
⑪響』
●
Adipose
tissue
ApoB
●
■
●
■
ApoE
Apoc
ApoA・1,n
匝〕
Other tissues
Fig.3 The scheme of lipid transport. Very low density lipoprotein(VLDL)is synthesized
in hepatocytes and secreted into blood. Some part of VLDL changes to low density
lipoprotein(LDL)after releasing TG at adipose tissue. High density lipoprotein(HDL)pulls
out surplus cholesterol from peripheral tissues and the cholesterol in HDL is transported to
LDL. LDL is taken into cells having apoB receptor by endocytosis. The remaining LDL is
taken into hepatocyte by LDL receptor.
13
IV. 第1部:ラット初代培養肝細胞における
エタノールアミンの肝細胞増殖促進作用とその作用機構
IV−1.
背景・目的
細胞分裂の盛んなウシ小腸粘膜上皮組織およびラット小腸粘膜上皮組織中に肝細胞
の増殖を促進する生理活性物質が含まれることが報告されていた(Takahashi et a1.,
1989;Takah已shi and Ohomori,1991)。しかし、未だ、この生理活性物質が何か特定
されていなかった。そこで、我々はウシ小腸上皮粘膜組織から肝細胞の増殖を促進す
る生理活性物質の探索を開始した。その結果、肝細胞の増殖を促進する因子が、エタ
ノールアミンであることを発見した(Sasaki et a1.,1997)。エタノールアミンはさま
ざまな細胞の増殖に関与していることはこれまでに報告されているが、これにより肝
細胞においてもエタノールアミンが増殖に関与していることが明らかになった。
エタノールアミンの細胞増殖促進作用について、これまでに最も研究がなされてい
るのは乳腺細胞を用いた研究である。エタノールアミンを無添加で培養すると、細胞
のリン脂質組成は添加した場合と比べ、リン脂質のうち、PE量が半分に減少し、 PC
量は30%増加する(Kano−Sueoka et a1.,1983;Kano−Sueoka and King,1987)。この
ようなリン脂質組成の異常により、PKCやEGF受容体が関与する膜を介するシグナル
伝達が正常に機能しないため、細胞増殖は停止してしまうことが報告されている(Fisk
and Kano−Sueoka, 1992; Kano−Sueoka and King, 1988; Kano−Sueoka et a1., 1990;
Kano−Sueoka and Nicks, 1993)。
以上のようなこれまでの報告を踏まえ、第1部ではウシ小腸粘膜上皮からエタノー
ルアミンを単離した経緯と初代培養肝細胞を用いて、エタノールアミンの肝細胞増殖
促進作用とその作用機構について検討した結果を示した。その詳細は、エタノールア
ミン濃度を変えて培地に添加した際のDNA合成とリン脂質組成について調べた。また、
EGF受容体の結合解析とウエスタンブロッテイング法による解析により、EGF受容体の
変化と同受容体のチロシンのリン酸化について調べ、肝細胞でのDNA合成に及ぼすエ
タノールアミンの作用機構について検討した。
14
肝臓には肝細胞特異的に存在するPC合成経路(PEMT経路)が存在する。ラットヘバ
トーマ(McA−RH7777)やヒトヘバトーマ(HepG2 cell lines)などの肝癌細胞、そし
て、周産期や部分肝切除後など肝細胞が増殖している場合に、PEMT経路を調節してい
る酵素であるPEMT2の発現が抑制されていることが確認されており(Cui et a1.,1994;
Cui et a1.,1997;Houweling et a1.,1997)、増殖とPEMT経路とには何らかの関係
があるのではないかと考えられている。しかし、この経路と肝細胞の増殖との関係は
未だはっきりした結論は得られていない。そこで、第1部では、この経路を阻害する
ことが知られているベザフィブレートを用いて(Nishimaki−Mogami et a1.,1996a)、
’
PEMT経路と肝細胞の増殖との関係について調べるとともに、エタノールアミンとの関
係についても同時に検討した。また、PEMT経路を阻害することでリン脂質組成がどの
ように変化するのかを調べ、作用機構についても言及する。
lV−2.
方法
肝細胞の初代培養と[3H]一チミジンの取り込み
6週齢のSD系雄ラット(日本チャールズリバ・・一一一‘(株))を購入し、飼料としてCRF−1(オ
リエンタル酵母工業(株))を与え、飼育維持した。ラットはアメリカの動物実験の維
持と使用に関するガイドライン(NRC 1996)に従い、明治乳業食機能科学研究所の作製し
たプロトコールに従い飼育した。飼育は21.0±2.0℃、湿度55.0±15.0%、12時間ご
との明暗(明期:7−19時)切り替えで行った。飼育期を通じて飼料と飲料水は自由摂取
とした。1∼3週間の馴化後、ペントバルビタールで麻酔し、灌流法により、肝臓をコ
ラーゲナーゼ処理した後、肝細胞を調製し初代培養に用いた(Takahashi et a1.,1989)。
肝細胞の初代培養は24穴のコラv・…ゲンでコートされたプレートを用いて行い、ウエル
あたり8,000個/0.4m1で播種した。培養液はRPMI 1640に30μ1カナマイシン
(Sigma−AIdrich Corp.)と5%ウシ胎児血清(FCS:三菱化学(株))を加え、37℃、5%CO2
で培養を開始し、4時間後に培養液を交換し、0−100μMのエタノールアミン(エタノー一
ルアミン塩酸塩,Sigma−Aldrich Corp.)と0−200μMのべザフィブレート(Bf:
げ{ −
15
Sigma−Aldrich Corp.)の片方あるいは両方を培地に添加した。20時間の培養後、培養
液を交換し、エタノールアミンとべザフィブレートの片方あるいは両方を含んだ培地
に0−20ng/ml EGF(Becton Dickinson Lab.)を添加した液に交i換した。24時間後、血
清を除いた培地に[3H]一チミジン(Amersham Biosciences Corp.)をウエルあたり2μCi
(1μCi=37kBq)加え、2時間培養した(Sasaki et a1.,1997)。最後に、細胞をリン
酸緩衝溶液(PBS)で3回洗った後、5%トリクロロ酢酸で固定し、95%エタノー一ルで再
度洗って乾かしてから、0.5N KOHを加えて溶解した後、液体シンチレーションカウン
ター(CARB2700TR:Hewlett−Packard Ltd.)で細胞に取り込まれた[3H]一チミジン量を
測定した。すべてのデータは2検体の平均値で示した。同様の実験を数回繰り返し、
結果に再現性があることを確認した。
リン脂質組成分析
肝細胞はコラーゲンコートプレート(100x15㎜)に2x106cellsを播種し、上記と同様
の培養液で培養を開始し、4時間後に0−100μMエタノールアミンを含んだ培地に交換
し、さらに、20時間あるいはEGFを添加してさらに24時間培養した。細胞はPBSで2
回洗浄し、0.2%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)で溶解してサンプルとした。また、培
養開始4時間後に、100μMエタノールアミンと50μMベザフィブレートの両方あるい
は片方を含んだ培地に交i換し20時間あるいは44時間培養し、同様の方法で細胞を回
収した。リン脂質の抽出方法は末岡ら(Kano−Sueoka et a1.,1983)の方法に従い行っ
た。リン脂質の抽出方法はサンプル0.1m1に対し、メタノール:クロロホルム溶液(2:1
体積比)を1.6m1加え、ボルテックスにかけた後、2000rpmで5分間遠心し、上清を新
しいチュ・一…一ブに移した。再度、メタノール:クロロホルム溶液(2:1体積比)を0.8m1
加え、ボルテックスにかけた後、2000rpmで5分間遠心した。上清を新しいチューブ
に移し、クロロホルム2.4m1、0.84%生理食塩水1.2m1を加え、ボルテックスにかけ
てから、2000rpmで5分間遠心した。遠心後の溶液は2層を形成し、上層は水層で、
下層は有機層である。上層を丁寧にバキュームで吸い取った。その際、中間層の沈殿
物もきれいに取り除いた。さらに、このチューブにメタノール0.6m1と0.84%生理食
16
塩水0.6m1を加え、同様の操作を繰り返した。有機層を新しいチューブに移し、一一20℃
で一晩放置し、翌目、2000rpmで5分間遠心後、ふたたび水層をきれいに取り除いた。
有機層を窒素ガスで完全に留去した後、薄層クロマトグラフィーを使って、2次展開
を行った。1次元展開溶媒はクロロホルム:メタノール:28%アンモニア(65:35:5体
積比)を使用し、2次元展開溶媒はクロロホルム:アセトン:メタノール:酢酸:水
(10:4:2:2:1体積比)を使用した。プレートを完全に乾かしてから、密閉した容器内で
ヨウ素の気体中に置き、リン脂質のスポットが現れてから、各リン脂質のスポットを
掻き取り、Ames(1966)の方法に従いリン脂質量を測定した。タンパク質含量はBCAア
ッセイ溶液(Pierce Biotechnology Corp.)で測定し、リン脂質量は最終的にタンパク
質あたりのリン(Pi)量として算出した。
[3H]一エタノールアミンのホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジル
コリンへの取り込み
エタノールアミンのPEとPCへの取り込みは、肝細胞の培養開始20時間後に、培養
液を[3H]一エタノールアミン(1μCi[3H]−Etn/10μMEtn at 29Ci/㎜01(Amersham
Biosciences Corp.))を含む無血清培地に交換し、2時間培養した。またべザフィブ
レートのPC合成阻害作用を調べる実験では同様に培養開始20時間後に、1−100μMの
べザフィブレート、100μMエタノー一ルアミンそして1μCi/ml[3H]一エタノールアミ
ンを含んだ培地に交換し、2時間培養した。その後、PBSで3回洗った後、0.2%SDS
で溶解した。前述した方法でリン脂質を抽出し、薄層クロマトグラフィーで分離し、
各リン脂質のスポットを掻き取り、各スポットに含まれる[3H]一エタノールアミン量
を液体シンチレーションカウンターで測定した。すべてのデータは2検体の平均値で
示した。
EGF受容体結合解析
肝細胞の培養開始4時間後に、エタノールアミンを50あるいは100μM添加した培
17
地あるいは添加しない培地に交i換した。24時間後にRPMI1640で2回洗い、15mM
HEPES(N−2−hydroxylpiperazine−N’−2−ethanesulfonic acid)、1mg/m1ウシ血清アル
ブミン、さらに各濃度の[1251]−EGF (Amersham Bios’ciences, Corp.)を加えたRPMI 1640
に交換し、4℃で2時間反応した。非特異的な結合を検出する場合は、1μg/ml EGFを
加えて、同様に反応した。反応後、細胞は4℃に冷やしたPBSで4回洗い、0.5N KOH
を(に5㎡L加客て溶解し、ガンマカウンター(ARC370M:Aloka Ltd.)を使って放射活性を
「
測定した。EGFの特異結合は総結合量から非特異結合を差し引いた値とした。 EGF受容
体との親和性はScatchard分析法(1949)によって評価した。同じ実験を3回繰り返し
行った。
ウエスタンブロッテイング法によるEGF受容体量とリン酸化チロシンの検出
肝細胞の培養開始4時間後に100μMエタノールアミンと50μMベザフィブレートの
両方あるいは片方を添加した培地に交i換し、一晩培養した。EGF受容体量を調べるた
めのサンプルは培養開始4時間後と、24時間後に回収した。チロシンのリン酸化を調
べるためのサンプルは20ng/mLのEGFを添加して0、5、10、30分後の細胞を使用した。
サンプルは20mM・Tr i s−HC l、2mMエチレンジアミン四酢酸ニナトリウム(EDTA2Na)、1mM
ペファブロック(Merk Corp.)、0.2mMオルトバナジン酸ナトリウム、エチレングリコ
ールビス(2一アミノエチルエーテル)四酢酸四ナトリウム(EGTA4Na)さらに50μg/ml
ロイペプチン(pH7.6)を含んだ溶液でPotter−Elvehjem型ホモジェナイザーでホモジ
ェナイズしてから、膜画分を調製するため、4℃、10,000Gで10分遠心後、上清を4℃、
100,000Gで60分遠心した。沈殿画分に0.3%TritonXを含んだ溶解液を加え溶解した。
4−8μgのタンパク質を8%SDS一ポリアクリルアミドゲル電気泳動した後、イミュンー
プロットPVDFメシブレン(日本バイオ・ラッドラボラトリーズ(株))に転写した。 EGF
受容体量を調べるために、抗EGF受容体ポリクローナル抗体(Santa Cruz
Biotechnology Corp.)を使用した。また、チロシンのリン酸化を調べるために、抗チ
、
ロシンリン酸モノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology Corp.)を使用し、室温
で1時間反応した。2次抗体として、horseradish peroxidase−conjugated goat
18
/、
ヒ〆(dhemic・n ・nternati・nal Ltd・)或いはh・rseradi・h
anti−rabbit i一卿
peroxidase−conjugated donkey anti−mouse immunoglobulin G(Chemicon Inter
national Ltd.)をブロックエース(大一日本製薬(株))で希釈し、室温で1時間反応し、
ECLキット(Amersham Biosciences Corp.)で検出し、 X線フィルムに感光した。検出さ
れたバンドの強さはNIH−lmageで解析した。
統計解析
データは平均値±標準誤差で示した。統計解析はStatView(SAS Institute Inc.)を
使用した。2群間の比較はStudentのt一検定で行った。多群の比較はANOVA検定の後、
Fisher−PLSD検定で行った。有意水準を危険率5%未満とした。
IV−3.
結果
エタノールアミンの単離
高橋らは細胞分裂の盛んなウシ小腸粘膜上皮組織およびラット小腸粘膜上皮組織に
注目し、それら小腸上皮組織に細胞分裂を促進する物質があるのではないかと考え探
索を行なったところ、肝細胞の増殖を促進する生理活性物質がふくまれていることを
発見した(T永ahashi et a1.,1989;Takahashi and Ohomori,1991)。しかし、その生
理活性物質は特定されていなかった。そこで、ウシ小腸上皮粘膜組織から肝細胞の増
殖促進物質を探索する試みを開始した。肝細胞の増殖促進物質を探索する際に、ラッ
ト初代培養肝細胞を使って、チミジンの取り込みにより、DNA合成を測定し、ウシ小
腸上皮粘膜組織から活性成分の単離を行った。最初にメタノール抽出を行い、メタノ
ール可溶画分から得られた活性因子は分子量が1000以下で、プロテアーゼKで処理し
ても活性を失わないため、ペプチド性の分子ではない(低分子因子)、一方、メタノー
ル不溶画分から得られた活性成分は熱処理すると失活する高分子であるため、タンパ
ク質性の分子(高分子因子)であること見出した(Sasaki et a1.,1998)。さらに、低
19
分子因子と高分子因子はDNA合成を相乗的に促進することが分かった。分子量数万の
タンパク質性の分子で、細胞の増殖の制御に関係するということであれば、一般的に
思い浮かぶのは細胞増殖因子と呼ばれる因子群であり、その中で低分子因子との相乗
作用が認められたEGF、 HGFに注目し、それら細胞成長因子と相乗的にDNA合成を促進
する物質の精製をおこなった。低分子因子をゲルろ過、次いで、C18シリカカラムに
より分離した。この方法では単一の物質の特定には至らなかったが、活性を示す分画
に、強いニンヒドリン陽性が認められたため、低分子因子はアミノ基を有することが
分かった。そのため、活性を示す分画を、アミノ基修飾試薬であるフェニルイソチオ
シアネート(PTC)で処理し、逆相HPLCで分離し、得られたピークをNMRおよびLC−MS/MS
で構造解析を行い、低分子因子がエタノールアミンであることを見出した(Sasaki et
a1.,1997)。再確認のため、 PTC化した低分子因子をアミノ酸分析法により分離し、
他のPTC化したアミノ酸のピークと比較したところ、エタノールアミンのピークと一
致していることを確認した(Fig.4)
DNA合成とリン脂質合成に及ぼすエタノールアミンの効果
エタノールアミンが肝細胞の増殖を促進する作用があることが初代培養肝細胞を使
った実験から明らかになった。そこで、どのような作用機構でDNA合成を促進してい
るのかについて検討することとした。最初に、初代培養肝細胞を使って、培地にエタ
ノールアミンを0−100μMの濃度で添加した場合に、添加濃度によりDNA合成がどのよ
うに変化するか、また、その際、PE、 PC量がどのように変化するかを調べた。その結
果、EGFを20ng/mlの濃度で添加した場合、0−50μMの範囲でエタノールアミンの濃度
依存的に[3H]一チミジンの取り込みが上昇し、50μMでプラトーに達し、その後は一定
の値を示した(Fig.5A)。また、 DNA合成はEGFの濃度に依存して[3H]一チミジンの取
り込みが上昇し、5ng/mlでプラトーに達したが、エタノールアミンを添加していた場
合は、さら取り込みが上昇した(Fig.5B)。次に、 o、10、20、50、100μMとエタノー
ルアミン濃度を変えて培地に添加した場合の肝細胞中のPEとPC量を測定した。結果
をFig.6に示した。 Fig.6Aの結果は正常肝臓中のPE、 Pc量に対する相対値で示し
20
∂
ミ)
た。エタノールアミンを添加しないで培養した場合(エタノールアミン欠乏細胞)、肝
細胞でのPEの相対量は正常肝臓の約60%まで減少した。20μMのエタノールアミンを
添加して培養するとほぼ正常な値まで上昇し、50−100μMでは正常値よりも有意に高
廷
い値を示した。エタノールアミンを充分与えた肝細胞はエタノールアミン欠乏細胞の
約2倍のPEを合成していた。一方、 PC量はエタノールアミンの添加量たよる顕著な
変化は示さなかった。EGFの有無にかかわらず、エタノールアミンを添加して培養し
た細胞では添加しなかった細胞よりもPE量は有意に高い値を示した(Fig.6B)。
EGFとEGF受容体との結合解析
これまでの結果から、肝細胞中のPE量はエタノールアミンを添加しないで1日培養
すると正常肝臓の約60%まで低下してしまうことから、肝細胞にとって充分量のPE
を合成するためにはエタノー一)Vアミンの供給が必要であることが示された。さらに、
培地に添加したエダノールアミン濃度に依存して、PE量が増加するとともに、 DNA合
成も促進されることが明らかとなった。このようなエタノールアミンのDNA合成促進
作用はEGF存在下で顕著に誘導されることから、肝細胞をエタノールアミン添加の有
無で培養した場合、肝細胞でEGF受容体の量や質になんらかの変化が起こっているの
ではないかと考え、EGF受容体の結合試験を行った。 Scatchardの方法に従い、 Kd(解
離定数)と結合部位の数を調べた(Fig.7)。その結果、結合部位数は50μMエタノール
アミンを添加した場合は4.7x102fmol/106cells、エタノールアミンを添加しなかった
場合は3.6x102fmol/106cellsであった(Fig.7A)。3回の実験結果を総合すると、結合
部位の数はエタノールアミンを添加した場合は(1.81±0.59)x105/ce11、添加しなかっ
た場合は(1.29±0.49)x105/ce11であった。これらの結果から、50μMエタノールアミ
ン添加でEGF受容体の数が約30%多くなっている可能性が示唆された。培養開始24
時間後では高親和性結合部位は失われており、低親和性結合部位のみが残っているこ
とが報告されているが(Wollenberg et a1.,1989)、今回の実験においても同様に高親
和性結合部位の消失が確認された。 3回の実験の結果から低親和性結合部位のKd値
はエタノールアミンを添加した場合1.99±0.2nMで、添加しなかった場合2.19±
21
〕
r\昏
0.51nMであった(Fig.7B)。 Kd値はエタノールアミン添加の有無で有意な違いがない
ことから、エタノールアミンのDNA合成促進作用はEGF受容体の数の違いが影響して
いる可能性が示唆された。
EGF受容体量とEGF受容体のチロシンリン酸化
EGF受容体の結合解析の結果から、EGF受容体の数がエタノールアミンの添加の有無
により異なっている可能性が示唆されたため、ウエスタンブロッテイング法により
EGF受容体量を調べた。また、 EGF受容体はEGFの添加後の、 EGF受容体のリン酸化に
二 1〆
影響している可能性があるため、ウエスタンブロッテイング法によりEGF受容体のチ
ロシンのリン酸化について検討した。その結果、初代培養開始4時間後では24時間培
養した場合に比べ、受容体のタンパク質量は高かった。培養24時間後を比較すると、
エタノールアミンを添加した肝細胞では、エタノールアミン無添加に比べ、EGF受容
体量が約30%多いことが示された(Fig.8A)。次に、 EGFを添加後、30分間の同受容
体のチロシンのリン酸化の程度をウエスタンブロッテイング法で測定した(Fig.8B)。
EGF添加後にEGF受容体のリン酸化が誘導される。本実験で検出されるチロシンリン
酸化タンパク質はリン酸化されたEGF受容体と同じ分子量の位置に検出されており、
その他には検出されなかった。このことから、このバンドはEGF受容体である可能性
が高く、エタノールアミン添加では無添加に比べ、受容体のリン酸化が促進された。
この結果はEGF受容体の結合解析の結果を再確認するものであった。 EGF受容体の数
の増加は培養系でEGF受容体タンパク質のリン酸化を促進し、最終的にDNA合成が促
進された可能性が示唆された。
[3H]一エタノールアミンのPE、 PCへの取り込み
エタノールアミンは肝細胞でPEの合成に使用され、 PEMT経路を介してPCの合成に
利用される。そこで、3Hで標識されたエタノールアミンを使って、実際PE、 PCの合
成に使われているかどうか調べた。PEとPCに取り込まれた放射活性を調べた結果を
22
Fig.9に示した。エタノー一ルアミンの添加濃度に依存してPEとpcへの取り込みは増
加し、EGFの有無に関係なく100μMでプラトーに達した(Fig.9A、 B)。しかし、[3H]一
エタノールアミンのPEへの取り込みに対するPCへの取り込み量の割合は濃度依存的
に10−50μMで低下し、100−500μ止そプラトーに達しだ6これらの結果から、エタノ
ールアミンは細胞に取り込まれてPEやPCの合成に利用されており、エタノv・・一ルアミ
ンの添加濃度に依存して、PEとPCに取り込まれるエタノールアミン量は増加した。
また、PEに取り込まれた量に対するPCに取り込まれた量を計算すると、EGFを添加し
た方がPEMT経路を介して合成されるPC量の割合が高く、エタノールアミンの添加量
に依存してPEMT経路が阻害された(Fig. gc)。
DNA合成、リン脂質組成およびEGF受容体に及ぼすエタノールアミンとべザフィブ
レートの影響
Cuiら(Cui et a1.,1994;Cui et a1.,1997)は肝細胞増殖にPEMT経路が関与して
いることを報告している。第1部では、PEMT経路の阻害とDNA合成の促進とはどのよ
うな関係にあるのかについて調べるために、PEのメチル化を阻害して、 PC合成を阻害
する試薬として使われているベザフィブレート、クロフィブレートを用いて解析を行
った(Nishimaki−Mogami et a1.,1996a)。最初に、ベザフィブレートの濃度を変えて
添加し、PEからPCの合成経路を阻害するベザフィブレートの最適濃度を調べた。ベ
ザフィブレートを20μMで添加するとPEからPCの合成は50%阻害され、100μMで添
加するとPEからPcの合成は80%阻害された(Fig.10A).一方、 PEへの取り込みは
o−50μMでは濃度依存的に増加した(Fig.10B)。 DNA合成はべザフィブレートの濃度依
存的に上昇し、50μMでプラトーに達した。さらに、エタノールアミン欠乏状態より
もエタノールアミンを添加した方がDNA合成は促進された(Fig.11)。クロフィブレー一
トでも同様にDNA合成が促進されることが示された(デv・一‘タは示していない)。リン脂
質量とEGF受容体量にっいて次に調べた(Fig.8A、12A、12B)ところ、 PE量の多い時
にはEGF受容体量も多いことが分かった。培養24時間後のリン脂質量はエタノールア
ミン無添加でもベザフィブレートを添加しておいた場合は、エタノールアミンを添加
23
しているあるいはエタノールアミンとべザフィブレートを添加している場合とリン脂
質量とEGF受容体量に変わりはなかった(Fig.8A、12A)。 DNA合成もまた、 EGF受容体
レベルと相関していた(Fig.12)。1目の培養ではべザフィブレートによるPEのメチ
ル化の阻害はPE量の増加とDNA合成の促進をもたらすが、2日間の培養ではエタノー
ルアミン無添加では一定のPE量の維持ができなかった。一定のPE量を維持するため
には単にPEのメチル化を阻害するだけでは不十分で、エタノールアミンの供給が必須
条件であることが示唆された。
IV−4. 考察
エタノールアミンは上皮細胞において、必要量のPEを合成するために必要不可欠な
因子である(Kano−−Sueoka et a1.,1983)。第1部において、エタノールアミンを無添
加で肝細胞を培養すると、PE量は正常値よりも顕著に低下することが分かった。正常
なラットの血清濃度である20μMエタノールアミンを培地に添加した場合、細胞中の
PE量は正常ラットの肝臓に存在する量とほぼ同じ量となった。さらに高濃度(50−100
μM)のエタノールアミンを添加すると、PE量は正常値よりも高くなった。このような
PE量の変化と比較して、 PC量はエタノールアミンの濃度の上昇に伴い、増加する傾向
にあるが有意な違いではなかった。これらの結果は、エタノールアミンは肝細胞にお
いてPE合成に使われており、エタノールアミン濃度がPE量を調節している可能性が
示唆された。さらに、[3H]一チミジンの取り込みは、 EGFの存在下でエタノールアミン
の濃度依存的に増加した。しかし、EGFを添加しなかった場合は[3H]一チミジンの取り
込みは変化しなかったことから、エタノールアミンはPE合成に必要な栄養因子であり、
EGFなどの増殖因子の働きをさらに増強するco−mitogenの働きを有していると考えて
いる。
添加するエタノールアミンの濃度を変えて肝細胞を培養すると、生体膜のPE量は濃
度依存的に増加し、この増加と相関してDNA合成が上昇した。同じような現象がPEMT
経路の阻害剤であるベザフィブレートを使った実験からも得られた。これらの事から、
PE量の増加あるいはPC/PEの比の低下がDNA合成の上昇に何らかの関与をしていると
24
考えられる。しかし、PEの増加がどのようにDNA合成を促進するのかは明らかではな
かった。乳腺細胞ではPE量の変化により、EGF受容体の質と量が変化したことから、
肝細胞での変化を調べるためにEGF受容体の結合解析を行った。その結果、エタノー
ルアミンの添加によりEGF受容体の数の増加が認められた。初代培養開始直後にEGF
受容体の結合解析を行った場合、高親和性結合部位と低親和性結合部位が存在するが、
一晩培養している間に、高親和性結合部位は消失し、低親和性結合部位のみが残る
(Wollenberg et al.,1989)。本実験の結果からも、培養開始7時間後にはすでに高親
和性結合部位は失われていた(データを示さない)。さらに、培養開始4時間後のEGF
受容体の量は24時間培養後の量よりも明らかに多かった。これらの結果から、培養開
始直後に比べ、培養時間が長くなると高親和性結合部位は消失し、EGF受容体量も減
少する。エタノールアミン添加の有無でEGF受容体の量が変わることから、エタノー
ルアミンがEGF受容体の合成と分解に何らかの影響を及ぼしている可能性が考えられ
る。
これらの結果からDNA合成を促進するためには、 PEの増加、あるいはPC/PE比の低
下が重要であり、PEの増加がEGF受容体の数を変化させ、 EGF添加後のチロシンのリ
ン酸化を充進した結果、最終的にDNA合成が促進されたと推察される。また、初代培
養細胞を使って実験する場合には正常な肝細胞の機能を理解するためにエタノールア
ミンを添加することが重要である。しかし、培養期間中にEGF受容体が減少している
ことや高親和性結合部位が消失してしまうことからも、肝細胞の機能を維持した状態
で初代培養肝細胞を培養するためにはまだ分かっていない栄養因子が必要であると思
われる。
次にエタノールアミンとPEMTの阻害剤であるベザフィブレートを使って、 PEMT
経路とPE量とDNA合成の関係について調べた。エタノールアミンを添加しなくてもベ
ザフィブレートによってPEからPCへのメチル化が阻害され、 PEの量が増加し、それ
と相関してDNA合成が促進された。これらの結果から、 PEMT経路によってPE量が調
節されていることが示唆された。エタノールアミンとべザフィブレ・…一一トを共に添加し
て培養した場合は、さらに顕著にDNA合成が促進された。エタノールアミンを添加し
ないでベザフィブレートを添加した場合とエタノールアミンのみ添加した場合では一
25
晩培養後のPE量は同じであり、エタノールアミンを添加しなくてもホスファチジルセ
リン(PS)からPEが合成されたからだと考えられる。しかし、2日以上の培養ではべザ
フィブレートを添加していても、エタノールアミン無添加で培養した場合はPE量の低
下が著しく、PSからの供給だけでは十分量のPEが供給できなかった。肝細胞は単に
PEMT経路を阻害するだけでは増殖に必要なPE量を合成できないため、エタノールア
ミンの供給が必須である。
以上のようにベザフィブレートによるDNA合成の促進はPEMT経路を阻害したこと
により、PE量が増加した結果である可能性が示唆された。
26
0.3
Glu Gly
0.2
Thr
Val Leu Lys
▼ ▼
▼
▼ ▼ ▼
Asp Ser His
▼ ▼ ▼
Arg Aia Pro
Tyr Met lle Phe
▼ ▼ ▼
▼ ▼ ▼ ▼
Etn Cys2
▼ ▼
E
0.1
⊂
寸
Ut
N
0.0
Φ
o
⊂
0.4
Ao
A
<
0.3
切
0.2
0.1
0.0
0
5
10
15 20
25
30
35
Elution time(mir1)
Fig.4 Analysis of the purified phenylthiocarl)amoyl derivative of the low molecular weight
factor(LMW factor)by the phenylthiocarbamoy1−amino acid method(Sasaki et a1.,1997).
When comp ared with phenylthiocarbamoy1−amino acid standards(lnmo l of each, Upper), the
purified substance(Lower)eluted at the position o f phenylthiocarbamoyl−ethanolamine・
27
A
120
100
o
〔
昼 ‘080
曳
笥
皐
E
ご60
6≧40
盲
合 20
0
0
20 40 60
80 100
)−Etn(pM)
B
o
曽
200
富16°
合 曇12°
笥
皐
E
18°
°4
F
0
10 20 30 40
50
EGF(ng/ml)
Fig.5 Stimulation ofDNA synthesis in hepatoc)rees in primary culture by a combination of
ethano lamine(Etn)and EGF. Etn was added to the culture between O−100 “AM with 20 ng/ml
EGF(A). EGF was added to the culture between 1−40 ng/ml with and without 100μM Etn
(B).DNA synthesis was monitored by examining the radioactivity of incorporated
[3H}thymidine(TdR)into the cells. B:一●一;+Etn,一〇一;−Etn. All points are the mean of
duplicate assays. The same experiment was repeated more than three times.
28
A 140
e120
§1・・
18。
十PE
§6。
−O−PC
白 40
0 20 40 60 80 100 120
Etn(μM)
B 800
貧
舗600
コ ら
舞4・・
語2。。
0
’w(多
舗
Fig.6 Effect of ethanolamine on phospholipid composition. Hepatocytes were cultured
with Etn betWeen O−100 IAM for 24 hrs(A)and with a combination of 100 IAM Etn and 20
+
ng/ml EGF fbr 48 hrs(B). The lipids were extracted from the cells and the phospholipid
composition was analyzed as described in W−2. The data are shown as the relative amo皿t
of PE and PC(pi ng/mg protein)in hepatocytes per in normal rat liver respectively(A).一■一;
PE,一ロー;PC. Average±SEM, n=3,*;P<0.05 vs. O pM Etn(A).
29
A ヱ
冠
500
o
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百
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0
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Concentration ofEGF(nM)
250
82°°
1冒15°
目ご100
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o
唱50
Φ
)
0
0
0
100 200 300 400 500
Bo皿d(fmoles/106cells)
Fig.7 EGF receptor binding assay. Dose saturation binding ofEGF in hepatocytes
incubated with various amounts of[1251]−EGF at 4°C for 2 hrs after cultUring with and without
50 pM Etn for 24 hrs in EGF−free medium as described in IV−2(A). A Scatchard plot of the
dose saturation binding ofEGF according to Scatchard(1949)used to obtain apparent Kd
values and the number ofbinding sites(B).一●一;+Etn,−o−;−Etn. The same experiment was
repeated three times.
30
A
Hrs
4
24
Bf
一 一 十 十 一 一 十 十
Etn
一 一 一 一 十 十 十 十
噸齢獅織幽礪轍繍驚縁d蒲響
B
EGF
十 十
十 十 一
Etn
十 一 十
十 一 十 一
Min
1 5
10 30
綴 麹
影 {
Fig.8 EGF receptor protein level and tyrosine phosphorylation ofthe EGF receptor. EGF
receptor protein levels were examined 4 and 24 hrs after starting primary culturing with 100
pM Etn and/or 50 pM bezafibrate(Bf)by Werstern blot analysis(A). Tyrosine
phosphorylation ofthe EGF receptor fbr 1−30 min after adding 20 ng/ml EGF was examined
in hepatocytes cultured with and without Etn fbr 24 hrs(B).
31
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已
冨4
sl
Etn(pM)
Fig.9 Dose response kinetics of[3H]−ethanolamine incorporation into PE and PC.
Freshly isolated hepatocytes were plated in 100x 15mm plates in 5%fetal calf serum−
containing medium without Etn ovemight. The medium was changed to血esh serum−free
medium containing various amo皿ts of[3H]−Etn(1μCi[3H]−Etn/101AM cold−Etn)with and
without EGF and cultured fbr 2 hrs. The lipids were extracted from the cells and
incorporation of[3H]−Etn into PE and PC was measured as described in][V−2(A, B). The
ratio of[3珂一Etn in PC(A)to[3H]−Etn in PE(B)is sho㎜(C). 一●一;+EGF,一〇一;−EGF. All
points are the average of duplicates.
32
A
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円
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100 125
85
‖ ㎡へ80
b
旦75
皐
冨
る
ξ7°
号65
60
Bf(μM)
Fig.10 1ncorporation of[3H]−ethanolamine into PE and PC synthesized via PE methylation
after addition ofbezafibrate(B f). The hepatocytes were cultured with various concentrations
ofBf(0−100μM),100μM Etn and 1μCi/ml[3H]−Etn for 2 hrs. The lipids were then
extracted from the cells and incorporation of[3H}Etn into PC(A)and PE(B)was measured
as described in W−2. All points represent the mean of duplicate assays.
33
40
皇
全
田
臼30
遥
82・
≡ セ1。
一●一十Etn
L
−O−−Etn
0
0
50
100 150 200 250
Bf(輌D
Fig.11 Stimulation of DNA synthesis by a combination of bezafibrate with and without
ethanolamine. Various concentrations ofBf(O to 200 pM)with and without Etn were added
to the culture with 20 ng/ml EGF as described in W−2. DNA synthesis was monitored by
the radioactivity o f incorporated[3H]−thymidine(2μCi/m1,2 hrs pulse)into the cells.一●一;
+Etn,一〇一;−Etn. All points are the mean ofduplicate assays. The same experiment was
repeated more than three times.
34
tf
A 750
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一Etn −Etn/Bf Etn
Etn/Bf
Fig.12 Effect of bezafibrate on phospholipid composition. Hepatocytes were cultured by a
combination of 50 pM B f and 100 IAM Etn without EGF for 24 hrs(A)and 48 hrs(B). The
lipids were extracted from the cells and the phospholipid composition was analyzed as
described in IV−2.一■一;PE,一ロー;PC. Average±SEM, n=3. Values with different
superscripts are significantly different at」P<0.05.
35
V.第2部: エタノv・・一・一ルアミンの肝再生促進作用とその作用機構
V−1. 背景・目的
第1部で示したように、ラット初代培養肝細胞を用いた実験で、エタノールアミン
はO・・−50 ,u Mの濃度で濃度依存的に肝細胞のDNA合成を促進する働きがあることが示さ
れた(Kume and Sasaki,2006)。また、エタノールアミンは肝細胞に取り込まれた後、
リン脂質である、PEやPCの合成に利用される。培地に添加したエタノールアミンの
濃度に依存して、肝細胞内のPE量が変化しており、エタノールアミンは肝細胞のPE
量を調節していると考えられる。このようなリン脂質組成の変化が肝細胞の増殖と深
く関わっている。エタノールアミンの細胞増殖促進作用に関する研究は、初代培養細
胞や細胞株を用いた実験から得られたものであり、生体での肝細胞増殖に関与するエ
タノールアミンの作用は不明である。Houwe l ingらはラットを用いて、肝切除後のリ
ン脂質合成について研究しており、肝再生に伴い、血清中エタノールアミン濃度が29
から50μMに上昇すること、また、PEやPC合成が充進されていることを報告してい
る(Houweling et a1.,1991,1992)。このような肝切除後のエタノールアミン濃度の
上昇は、エタノールアミンが肝細胞に取り込まれた後のリン脂質組成に影響を与え、
肝切除後の肝再生に何らかの作用を示す可能性がある。また、ウシ小腸粘膜上皮組織
由来の低分子画分(エタノールアミンを含む画分)に肝再生を促進する作用があること
も分かっている(Sasaki et a1.,1998)。そこで、70%肝切除後に腹腔内にエタノール
アミンを投与した場合に、肝再生を促進する働きがあるかどうかについて、免疫組織
化学的に5一プロモデオキシウリジン(BrdU)の核への取り込みを調べ、 DNA合成に及ぼ
す効果を検討した。また、肝重量も同時に測定し、DNA合成だけでなく、肝再生に及
ぼすエタノールアミンの効果についても検討した。その際、血清中のエタノールアミ
ン濃度を経時的に測定した。また、リン脂質組成の経時的変化、さらに、[32P]一リン
酸と[3H士S一アデノシルメチオニンを用いて、リン脂質代謝について調べ、エタノール
アミンの肝再生促進作用について作用機構の解析を行なった。
36
V−2.
方法
動物と飼育方法
7週齢のSD系雄ラット(日本チャールズリバー(株))を購入し、CRF−1(オリエンタル
酵母工業(株))を飼料として、IV−2の方法に従って飼育維持した。飼育期を通じて
飼料と飲料水は自由摂取とした。1週間の馴化後、70%肝切除の実験に使用した。
70%肝切除後のDNA合成と肝臓重量の測定
肝切除は50mg/kgペントバルビタール麻酔下でラットの肝臓を70%切除後、直ちに
生理食塩水に溶かした0.1mMあるいは1mMのエタノールアミン(エタノ・一一・ルアミン塩酸
塩、Sigma−−Aldrich Corp.)、対照には生理食塩水を1m1腹腔内に投与した。その後、
24時間おきに各濃度のエタノールアミンを腹腔内に投与した。70%肝切除の対照とし
て、開腹するが肝切除は行わない群(sham−operated rats)も用意した。また、肝切除
前、肝切除2、4、8および24時間後にエーテル麻酔下で解剖を行い、腹部大動脈から
血液を採血し、肝臓を摘出し、血清中のエタノールアミン濃度と肝臓中リン脂質量を
調べた。DNA合成はBrdU溶液(10mg/ml BrdU(Sigma−Aldrich Corp.)と1mg/m1フルオ
ロデオキシウリジン(Sigma−Aldrich Corp.)をPBSに溶解した溶液を22、46、70およ
び166時間後に腹腔内に投与し、2時間後にエーテル麻酔下で腹部大動脈から採血す
るとともに、肝臓を摘出し、肝細胞への取り込みを以下に示した方法で調べた。肝臓
はメタノールで一晩固定後、通常の方法でパラフィン包埋し、4μmの厚さに薄切し、
プレパラートの作製を行った。組織標本は脱パラフィンを行った後、内因性のペルオ
キシダ・一一“ゼ活性をブロックするために、無水メタノールに0.3%過酸化水素を添加した
溶液で30分反応させ、蒸留水で2回洗浄してから、2Nの塩酸で30分処理し、その後、
0.1N Na2B407で3分中和した。 PBSで3回、各3分洗浄後、 Cell Proliferation
Kit(Amersham Biosciences, Corp.)を用いて、免疫組織化学的にS期の細胞を検出し
た。BrdUを取り込んだ細胞は茶色∼黒に核が染まる。結果は観察した総細胞数(4,000
37
個以上)あたりのBrdUを取り込んだ細胞数を%で示した。この際、正常ラットにエタノ
ールアミンを投与した場合のBrdUラベリングインデックスについても調べた。
また、同時に、肝切除後の各時間に、剖検時の体重と肝重量についても測定し、体
重当たりの臓器重量の割合(%)を調べた。
アミノ酸分析
上記の剖検時に採血した血液は5000rpmで10分間遠心し、血清を採取し、分析する
まで一20℃に保存した。タンパク質を除くために、血清1に対し、5%トリクロロ酢酸
を2の割合(v/v)で加え、遠心し沈殿を除いた。上清を0.45μmフィルターに通した後、
L−8800日立アミノ酸分析装置でエタノールアミンとホスホエタノールアミンを含む
アミノ酸の分析を行なった。
リン脂質分析
正常ラット肝臓、70%肝切除2、4、8および24時間後の肝臓を摘出し、直ちに、150rnM
NaC1、10MM Tris−HC1(pH7.4)、1. OmM EDTA、10mM NaFを含んだ溶液でPotter−Elvehjem
型ホモジェナイザーを用いてホモジェナイズした。リン脂質組成の分析方法はIV−2.
のリン脂質組成分析の方法に従い行った(Kano−Sueoka et a1.,1983)。
肝切除後のリン脂質代謝測定
肝切除前、肝切除後o、2、6および22時間後に20μci[32P]一リン酸(20mci/㎜01、
Amarsham Biosciences Corp.)を腹腔内に投与し、2時間後に剖検を行い、肝臓を摘出
した。摘出した肝臓からIV−2の方法に従い、リン脂質を抽出し、薄層クロマトグラフ
ィーに展開した後、Bas 2000(富士フイルム(株))で、各リン脂質に取り込まれた[32P]一
リン酸を測定した。結果は全リン脂質に取り込まれた32Pに対する各リン脂質に取り
込まれた量を%で示した。
38
[3H]−S一アデノシルメチオニンのPCへの取り込み
PcはPEのメチル化によって合成される(Fig.2)。10μci s一アデノシルーL一メチル
ー[3H]一メチオニン(500mCi/㎜01、 Amersham Biosciences, Corp.)と100nmolのメチオ
ニンを肝切除の2時間後に腹腔内に投与した。投与2時間後に上記に示した方法で剖
検し、リン脂質を抽出後、薄層クロマトグラフィーでリン脂質を分離後、PC中に含ま
れる3H一メチル基量を液体シンチレーションカウンタ・一・・…で測定した。
統計解析
データは平均値±標準誤差で表した。統計解析にはStatView(SAS Institute Inc.)
を使用した。2群間の比較は分散の等しくない場合はMann−Whitney検定、分散の等し
い場合はStudentのt一検定で行った。多群の比較はANOVA検定の後、 Tukey−Kramer
検定で行った。有意水準を危険率5%未満とした。
V−−3.
結果
70%肝切除後の血清中エタノールアミン濃度の変化
肝切除後は肝細胞の増殖が急激に起こっており、肝臓がもとの大きさに戻るまで増
殖は続く。その際、増殖を促進するために、増殖に必要な成分が血清中に増加してい
る。エタノールアミンはそれら成分の一つである可能性がある。この可能性を確かめ
るために、肝切除後のエタノールアミン濃度を調べたところ、肝切除後のエタノール
アミン濃度は肝切除前の31.4±1.1μMから2時間後に40.9±0.9μM、4時間後に45.9
±3.9μMと増加しており、24時間後もこの高い濃度を維持していた(Fig.13A)。この
結果はHouwelingら(1992)の結果と一致している。 DNA合成の開始が肝切除後12−24
時間におこることから(Bucher and Swaffield,1964;Lieberman and Kane,1965)、
39
これはそれよりも早い時期に血清中のエタノールアミン濃度が上昇していることを意
味しており、このエタノールアミンの上昇がDNA合成の開始に関与している可能性が
ある。
肝切除後のリン脂質組成の変化
肝臓は体の他の器官にPCやその他のリン脂質を供給するために重要な器官である
(Vance,1989,2002)。肝臓の一部を切除した後、肝臓が元の重量まで回復する際も、
肝臓は他の器官にリン脂質の供給を行なわなくてはならない。肝切除後に肝臓のリン
脂質組成がどのように変化するかを調べるため、肝切除前、肝切除後、2、4、8およ
び24時間後の肝臓中の各リン脂質量を調べた(Fig.13B)。特にここではPEとPc量
の変化を示した。肝切除2時間後にPC量が約60%まで減少した。その後、急激にPC
量は増加し、24時間後には正常値まで回復した。PE量は肝切除2時間後の変化は認め
られず、4、8時間後にPEの有意な増加が認められ、その後24時間後でも正常肝臓よ
りも高い値を示した。肝切除後のPEの増加は血清中エタノールアミン濃度の上昇が原
因である可能性が高いと考えられる。乳腺細胞などの株化細胞を用いた実験では、リ
ン脂質の比(PC/PE)が細胞増殖と関係していることが分かっており、肝切除2時間後
のPC量の減少は、 PC/PE比の低下を意味する。その後、4、8時間でもPC/PE比は低下
した状態を維持していた。24時間ではPE量が高いためにPC/PE比は有意な差ではな
いが、低い傾向を維持していた。
肝切除2時間後にどうして急激にPCが減少するのかについてははっきりした説明は
得られていないが、肝臓はPCの供給場所であり、全身に脂質を輸送するためにたえず
PCを供給しているためと考えられる。 PE量の増加は部分的にはPEからのメチル化に
よってPCの合成が促進されて、もとのPCレベルに戻すことを助けているかもしれな
い。その他のリン脂質である、PS、ホスファチジルイノシトール(PI)やスフィンゴミ
エリンは肝切除後に大きな変化を示さなかった。
40
エタノールアミン腹腔内投与による肝再生促進作用
ラット成獣の血清中エタノールアミン濃度は肝細胞が増殖をするには十分な濃度で
はないと言う仮説を支持する結果がこれまで得られている(Sasaki et a1.,1997;Kume
and Sasaki,2006)。生体は高濃度のエタノN−・一一ルアミンを必要としており、エタノール
アミン濃度の上昇がPEの合成を促進する。もしこの考えが正しいとすると、高い要求
性を示す時期、特に肝再生時にエタノールアミンを供給すると肝細胞の増殖が促進す
るのではないかと考えた。そこで、肝切除後に生食あるいは0.1mmo 1エタノールアミ
ンを7日間腹腔内に投与し、その後のBrdUの取り込みと肝重量の測定を10日間おこ
なった。
最初に、肝切除1、2、3および7日目のBrdUラベリングインデックスを調べた結果
を示した(Fig.14、15)。肝切除1日目でBrdUを取り込んだ細胞の割合は生理食塩水
を投与した場合に33.2±5.9(%)であるのに対し、エタノールアミンを腹腔内に投与
した場合に43.9±5.1(%)と有意に高い値を示し、エタノv−一“ルアミン投与により肝切
除1日目でDNA合成が促進された。2、3日目にはDNA合成は急激に低下し、7日目で
はほとんどの細胞でBrdUの取り込みが認められなかった(Fig.14、15)。2、3および
7目目についてはエタノ・一…一・ルアミンの投与の有無で有意な違いは認められなかった。
肝切除後の肝細胞の増殖のピークは肝切除24時間後であり、1日目におけるBrdUを
取り込んだ細胞数の増加はS期の細胞数の増加を意味しており、DNA合成が促進され
たことを示している。さらに体重当たりの肝重量についても調べた。Fig.16に示し
たように、エタノールアミンを投与した群は手術後1日目で肝重量は有意に増加して
おり、2日目、3日目でも有意に肝重量が重く、3日目には正常肝重量近くまで増加し
た。これらの結果はエタノールアミンの投与によって、DNA合成だけでなく、タンパ
ク質合成や細胞の分裂も促進されたことにより、肝重量が増加していたのではないか
と考えられる。
また、正常ラットに上記と同量のエタノールアミンを腹腔内に投与した場合にっい
ても調べたが、BrdUのラベリングインデックスの結果はエタノールアミンの投与の有
無による違いはなく、ともに1.2±0.3(%)であった。増殖期でない場合にはエタノー
41
ルアミンは肝細胞の増殖を誘導することはないことが示された。
肝切除後の肝臓における、エタノールアミンのリン脂質組成およびリン脂質代謝に
及ぼす影響
先に述べたように、肝切除後にエタノールアミンを腹腔内に投与すると、肝再生が
促進され、この時の血清中エタノールアミン濃度を調べると、Fig.13Aに示すように
血清中のエタノV・・一・ルアミン濃度は顕著に上昇していた。この結果はエタノー一ルアミン
がリン脂質の前駆体であるので、肝臓におけるリン脂質代謝が変化した結果、肝再生
が促進された可能性がある。そこで、肝切除後の腹腔内に0.1mmo 1あるいは1㎜o lの
エタノールアミンを投与した場合の肝臓のリン脂質組成を調べた。PCとPEの比
(Pc/PE)を正常ラット肝臓のリン脂質と比較した(Fig.17)。肝切除後のPc/PE比は生
食投与群では正常に比べ、わずかに減少したが、0.1mmo lエタノールアミン投与群で
はさらに減少し、1mmo 1エタノールアミン投与群では有意にPC/PE比の低下が認めら
れた。このPC/PE比の低下はPE合成量の増加によるものであった。
次に、肝切除後のリン脂質代謝について、肝切除0、2、6および22時間後から2
時間の[32P]一リン酸の取り込み実験を行なった。 Fig.18に示すように、生理食塩水を
投与した場合は、PCへの[32P]一リン酸の取り込みの割合は肝切除4時間後まで変化が
なく、その後、増加した。PEへの取り込みの割合は肝切除8時間後まで変化がなく、
その後、低下した。一方、エタノールアミンを腹腔内に投与した場合は、PC、 PEへの
取り込みの割合が変化するのが早く、肝切除2時間後にはすでにPEへの取り込みの割
合は低下し始めており、4時間後にはPEへの取り込みの割合の低下とPCへの取り込
みの割合の増加が顕著に認められた。以上の結果から、肝切除後初期に、血中のエタ
ノールアミン濃度が増加し、PE量の増加もおこってから、その後に、 PCの合成が促進
されたと思われる。肝切除後、エタノールアミンを腹腔内に投与することで、PEの合
成が早い時期に起こり、その結果、PCの合成も早い時期に促進されたのではないかと
考えられる。このように、エタノールアミンを投与することで、PEとPCの合成が充
進されたと推察される。ホスファチジン酸、PIの変化はPE、 PCの変化ほど顕著では
42
ないが、肝切除後2−一一4時間後で違いが認められた。この変化が何を意味するかは明ら
かでないが、PIはシグナル伝達に重要な役割を担っており、肝切除初期におこるPI
の増加も何か増殖と関わっている可能性も考えられる。
次に、実際PEからPCの経路が促進されていたかどうか[3H]−S一アデノシルメチオニ
ンを使って、特に変化が認められると思われる肝切除2時間から4時間後の変化を調
べた。Fig.19に示すように、肝切除によりPEからpcの合成が促進された。エタノ
ールアミンを投与することにより、さらにPC合成が促進されており、PEMT経路を介
するPCの合成が促進されていることが確認された。
V−4. 考察
エタノールアミンの研究はほとんど細胞株あるいは初代培養細胞を用いて行われて
おり、生体でエタノールアミンはどのような働きをしているのかについて、研究が行
われていない。そこで第2部では1)70%肝切除後の肝細胞の増殖がさかんな時期には
血清中エタノールアミン濃度は上昇するのか、2)70%肝切除後にエタノールアミンを
腹腔内に投与すると肝再生を促進するのか、3)70%肝切除後のエタノールアミンの投
与は肝細胞のリン脂質組成やリン脂質代謝にどのような影響を及ぼすのかという観点
から本研究を行った。
まず、最初に70%肝切除後の血清中のエタノールアミン濃度の変化を調べたところ、
肝切除4時間後をピークにエタノールアミン量は増加し24時間後でも高い値を維持し
ていた(Fig.13A)。この時、血清中エタノールアミン濃度の増加だけでなく、リン脂
質合成を調べると肝切除2時間目以降にPE量が増加していることが確認された(Fig.
13B)。このような肝切除後の変化は、第1部で示したように、培地に添加したエタノ
ールアミンの濃度に依存してPE量は増加し、 PE量の増加に伴って、 DNA合成が促進さ
れたという培養系で得られた結果と同様なことが生体内でも起こっている可能性を示
唆するものであった。おそらく、肝切除後の血清中エタノールアミンの上昇は肝細胞
の増殖期に必要なPE量の増加と肝臓での脂質代謝に必要なPCの合成を促進するため
に生体が調節しているのではないかと考えられる。さらに、それを裏付けるために、
43
エタノ・一・・一・ルアミンを腹腔内に投与して、DNA合成の促進、さらに肝再生の促進忙及ぼ
す効果を検討した。その結果、エタノールアミンの投与により、肝切除24時間後の肝
細胞のDNA合成が促進されるとともに(Fig.15)、肝切除1、2、3日目の肝重量はエタ
ノールアミンを投与した事により有意に増加し、エタノールアミンを投与しなかった
場合よりも早くに元の大きさまで戻った(Fig.16)。これらの結果から、エタノールア
ミンは肝細胞の増殖を促進するとともに、それに伴うタンパク質の合成などを促進し
た結果、肝重量の増加が起こったと推察される。このように、エタノールアミンは生
体内でも肝細胞の増殖を促進する作用があることが示された。
次に、肝切除後のリン脂質量の変化について調べたところ、肝切除2時間後に月刊蔵
中のPC量が減少し、その後4、8、24時間と増加し正常値まで回復した。また、 PEは
肝切除の4時間後に有意に増加し、その後も高い値を維持し、24時間後には低下した
が、まだ正常値よりも高い値を維持していた(Fig.13B)。肝切除の2時間後のpc量の
減少はこれまでにも報告されているが(Houweling et a1.,1991)、その理由は明らか
になっていない。肝切除後のPCの減少はPLC、 PLDの活性化によって促進されること
が報告されている(Exton,1990,2000;Jamil et a1.,1993)。培養系ではPCの分解
によって生じるジアシルグリセロールやボスファチジン酸が肝細胞の増殖に関与して
いることも分かっている。おそらく、肝切除後のPC量の低下は、 PCが肝臓から他の
組織への脂質の運搬に使用されたか、あるいは、肝切除初期のPCの分解によるジアシ
ルグリセロールの産生が肝細胞の増殖に関与している可能性がある。さらに、PC/PE
比を比べると正常に比べ肝切除2時間後ですでに低下が観察され、その後、4、8時間
後もこの低下が続いていることから、このようなリン脂質組成の変化が肝細胞の増殖
に関与している可能性がある。
エタノールアミンを腹腔内に投与した場合の、リン脂質組成、リン脂質代謝につい
ても調べた。肝切除2、4および8時間後のリン脂質組成はエタノールアミンを投与し
ない場合と投与した場合で有意な変化を示さなかった(データを示していない)。しか
し、Fig.16に示したように、肝切除24時間後のPc/PE比はエタノールアミンを投与
することで低下する傾向を示し、1mmo1添加すると有意な低下を示した。また、Fig.18
に示したようにエタノールアミンを投与した方がPE合成は促進され、早い時期にPE
44
からPC合成も促進されていたことから、リン脂質の代謝が充進されていることがわか
った。実際[3H]−S一アデノシルメチオニンの取り込みを調べても、肝切除後のPEか
らPCの合成が促進されていることから、おそらく、肝切除初期にはPCの合成が活発
におこっていると考えている。上記に述べた肝臓での肝切除初期におこるPCの低下や
PEの増加によるリン脂質の変化は肝切除の18時間後から開始するDNA合成の開始よ
りも早い時期におこっており(Bucher and Swaffield,1964;Lieberman and Kane,
1965)、DNA合成の開始前に細胞膜のリン脂質組成が変化していることがDNA合成の促
進と何らかの関係があるのではないかと考えている。
45
A
200
160
,*
120
(
5
@*
80
**
@1 \
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磨@ *
40
0
0
4 8 12 16 20 24
Hours after partial hepatectomy
B官 1
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£o.8
oo
§o.6
㌃
言゜・4
暑・.2
量。
ニ
24
エ 0
Hours after hepatectomy
Fig.13 A:Concentrations of ethanolamine in serum after 70%partial hepatectomy(PH).
Serum samples were prepared O,2,4,8, and 24 hrs after PH or ffom sham−operated animals,
and analyzed fbr Etn concentration as described in V−2.−o−,sham operated;一●一, saline
inj ection after PH;一ロー,0.1mmol Etn inj ection after PH. Values represent means土SEM, n
=4. *,P<0.05 vs. sham−operated. B:Phospholipids in rat liver after PH. The liver was
excised O,2,4,8, and 24 hrs after PH. Phospholipids were extracted, and analyzed as
described in V−2.一〇一, PC;一●一, PE. Values represent means土SEM, n=3−5.*,」P<0.05 vs.
Ohrs.
46
A
B
C
Fig.14 Effect of ethanolamine administration on nuclear labeling index 24 hrs(A, B)and
10days(C, D)after 70%partial hepatectomy. Nuclear labeling index was monitored by
immunohistochemically detecting BrdU incorporation into the nuclei of hepatocytes as
described in V−2. A, C:Saline injection after PH. B, D:0.lmmol Etn injection after PH.
47
60
S50
喜
.日
40
bO
.日
電
£
雲
30
お
20
2
呂
10
0
1 2 3 7
Days after hepate ctomy
Fig.15 Enhancement of the rate of hepatocyte proliferation in the regenerating liver by the
intraperitoneal administration of ethanolamine. The rate of hepatocyte proliferation was
monitored by imm皿ohistochemically detecting BrdU incorporation into the nuclei of
hepatocytes. The O.1mmol Etn was intraperitoneally inj ected every 24 hrs into rats after 70%
PH. Saline was intraperitonially inj ected into the control group. 一ロー, saline;一■一, Etn. The
numbers ofrats in each group are indicated at the top of the bars. **,」P<0.01.
48
》
\つ
84.o
)
§
*
*
葛3・o
’曇
*
菅2・o
塁1.。
’『
』°°
1 2 3 7
Days a丘er hepatectomy
Fig.16 Effect of ethanolamine administration on l iver weight after 70%partial hepatectomy.
)
Liver and body weights were determined 1,2,3 and 7 days after PH. Etn(0.1mmol)or
physiological saline was given once a day by peritoneal inj ection. The relative weight(%)of
the liver over the whole body was obtained and plotted. 一ロー, saline;一■一, Etn. Values
represent means±SEM, n=3.*,」P<0.05 vs. saline.
49
)
3
2.5
2
国
き1.5
Pt
1
0.5
0
Normal
Saline O.lmmol lmmol
Etn Etn
Fig.17 Effect・feth孤・lamine・administrati・n・n the rati・・fPC t・PE 24 hrs a丘er 70%
panial hepatect・my. Animals were given either O・1mm・I Etn・1mm・I Etn・r saline in the
perit・neal cavity .at the time・fPH, and 24 hrs later, their livers were excised and the am・unt
・fph・sph・lipids was dete㎜ined. Rati・s・fPC t・PE were c・mpared with that・fthe n・㎝al
liver. Values present means土SEM, n=3. Values with a and b are significantly different
(」P<0.05).
50
A
B
70
70
60
60
50
50
40
40
30
30
20
20
10
10一
0
0
0
4812162024
0
Hours after hepatectomy
4812162024
Hours after hepatectomy
Fig.18 Effect・f ethan・lamine administrati・n・n inc・叩・rati・n・f[32P}ph・sph・ric acid
(20p.LCi)into’phospholipids after 70%partial hepatectomy. Animals were given either(A)
saline or(B)0.1 mmol Etn at the time of PH, and【32P]−phosphoric acid was given by
intraperitoneal inj ection 2,4,8, and 24 hrs after surgery・ Two hours after addition of the
radioactive material, animals were sacrificed, and the amount of radiolabeled phospholipids
was analyzed as described in v−2. The percentage on the Y二axis showed the amount of
32P taken int・each ph・sph・1ipid, such as PE and PC, t・the t・tal am・皿t・f 32P taken int・
whole phospholipids. 一●一, PE;一▲一, PC;一■一, phosphatidic acid;一ロー, PI. Values represent
means±SEM, n=3−4, and average and range, n=2.
51
35
u
b
el9
a
、βr
fi
.自
§2・
Σ
<
咋
§1;
a
一
L㌔
Etn
Saline
Sham
PH
Fig.19 1nco彗)oration of[3且}S−adenosyl−methionine(SAM)into PC a我er 70%partial
hepatectomy. Animals were given saline or O.1 mmol Etn at the time ofPH, and 2 hrs later
[3H]−S−adeno syl−methionine(10μCi)was given by intraperitoneal ir∂ection. Two hours
after the addition ofthe radioactive material, animals were sacrificed, and radioactive methyl
group incorporated into PC in livers was detemlined as described in V−2. The values are
means±SEM, n=3. Values with different superscripts are significantly different with
t
1)<0.05.
52
W.第3部: 周産期における血清エタノールアミン濃度と
肝細胞のDNA合成の関係
VI−1. 背景・目的
エタノールアミンの肝細胞増殖促進作用について第1部で示したが、生体における
エタノールアミンの働きについてはほとんど明らかになっていない。そこで、肝切除
後の腹腔内にエタノールアミンを投与し、肝再生に及ぼす効果を調べたところ、肝再
生を促進する作用を示した(第2部参照)(Sasaki et a1.,1997;Kume et a1.,2006)。
また、エタノールアミンを投与しない場合にも、肝切除2時間後にすでに血清中のエ
タノールアミン濃度は上昇しており、4時間後には肝臓内PE量も増加した。これらの
結果は、生体内のエタノールアミンが肝再生初期の肝細胞の増殖に関与している可能
性を示唆するものである。そこで、肝細胞の増殖の盛んな周産期に注目することとし
た。Dickinsonらはヒトの大人と新生児の血漿中のエタノールアミン濃度をアミノ酸
濃度とともに分析している(Dickinson et a1.,1965, 1970)。平均のエタノールアミ
ン濃度は大人で1.6μM(最大11μMまで存在した)、一方、新生児は平均52.5μM(26−92
μM)であった。これと比較し、遊離のアミノ酸濃度は大人と新生児で大きな違いはな
かった。この結果は大人に比べ、増殖の盛んな新生児期に血中エタノールアミン濃度
が上昇していることを意味している。また、エタノールアミンやホスホエタノールア
ミンは牛乳、ヒトやその他の動物の母乳にも多量に含まれている(Jensen,1995)。し
かし、なぜ、母乳にエタノールアミンが含まれているのか明らかではない。そこで、
胎児から成獣(7週齢)までの血清中のエタノールアミン濃度を調べると同時に、各週
齢の肝臓でのDNA合成についても調べた。その結果、血清中のエタノールアミン濃度
と肝細胞のDNA合成に相関が認められ、特に、胎児期にエタノールアミン濃度が高い
ことが分かった。そこで、エタノールアミンはどこから供給されるのかについて調べ
るとともに、各週齢の月刊蔵のリン脂質組成についても調べ、周産期の肝細胞の増殖に
及ぼすエタノールアミンの役割について検討した。
53
V卜2. 方法
動物と飼育方法
妊娠雌SDラットおよび7週齢雄SDラット(日本チャールズリバー(株))を購入し、
飼料としてCRF−1(オリエンタル酵母工業(株))を与え、 IV−2の方法に従い飼育維持し
た。飼育期を通じて飼料と飲料水は自由摂取とした。妊娠ラットおよび妊娠ラットか
ら生まれた子ラットを7週齢まで上記の方法で飼育した。19日胎児(E−19)、0、1、2、
4、7、14、28および49日齢ラットから採血し、週齢による血清中のエタノールアミ
ン濃度を調べた。4日齢以前は外観から雄・雌の区別が付かないため、また、採血量
が少ないので、雌雄の区別無く何個体かプールした血液を使用した。4日齢以降は雄
雌別々に、かつ個体別に血液を採血し、測定に使用した。なおエタノールアミンの血
清中濃度は性別での違いは認められなかった。
肝細胞におけるDNA合成
DNA合成を行っている細胞の検出方法は5一プロモデオキシウリジン(BrdU)溶液
(10mg/ml BrdU(Sigma−Aldrich Corp.)と1mg/mlフルオロデオキシウリジン
(Sigma−Aldrich Corp.)をPBSに溶解した溶液)を19日胎児の場合は母親ラットに、2、
6、14、28および49日齢ラットの場合はそれぞれ腹腔内に投与した。2時間後にエー
テル麻酔下で腹部大動脈から採血するとともに、肝臓を摘出した。個体数は各日齢で
4個体ずつとした。肝臓はV−2の方法に従い、BrdUのラベリングインデックスを調べ
た。結果は観察した総細胞数(2000個以上)に対する、BrdUを取り込んだ細胞の割合を%
で示した。
エタノールアミン投与後の妊娠ラットと胎児の血清中エタノールアミン濃度
妊娠ラット(妊娠19日あるいは20日目:3匹)の皮下に、0.5Mエタノールアミン(エ
54
タノールアミン塩酸塩、Sigma−Aldrich Corp.)をlml投与し、エタノールアミンが母
親ラットから胎児に移行するかどうか調べた。エタノールアミン投与2、4および6
時間後に妊娠母体の腹部大動脈ならびに胎児の心臓から採血した。対照群には生理食
塩水を投与した。また、妊娠ラットを5匹使用し、妊娠ラットの腹部大動脈、胎盤、
、月齊帯から採血を行い、エタノールアミン濃度がどのように変化しているかを調べた。
さらに、2、7および14日齢の幼ラットを哺乳中の母親3匹から母乳を搾乳し、母乳
中のエタノールアミン、ボスホエタノールアミンの濃度を測定した。
各週齢ラットの肝臓中リン脂質量の測定
19日胎児、1、4、7、14、28および49日齢ラットから肝臓をi摘出し、直ちに、150mM
NaC1、10mM・Tris−HCI(pH7.4)、1. OmM・EDTA、10mM・NaFを含んだ溶液でP・tter−Elvehjem
型ホモジェナイザーを用いて、ホモジェナイズし、リン脂質量を測定した。リン脂質
組成の測定方法はIV−2のリン脂質組成分析方法に従い行った(Kano−Sueoka et al.,
1983)。
統計解析
データは平均値±標準誤差で表した。統計解析にはStatView(SAS Institute Inc.)
を使用した。検定方法はV−2の方法に従い行なった。
V卜3.
結果
週齢による血清中エタノールアミン濃度の変化
肝切除後などの肝再生の盛んな時期に血清中のエタノールアミン濃度が上昇してい
ることから、肝細胞の増殖が盛んな時期に血清中の濃度が上昇している可能性がある
と考えた。そこで、週齢の違いによるエタノールアミン濃度の変化を調べた。0、1、2、
55
4、7、14、28、49H齢のラットおよび19日胎児から血清を採取した。血清中のエタ
ノールアミン濃度は19日齢の胎児で最も高く76.8±4.9μM、次に1日齢で72.3±5.5
μMと高く、4日齢で41.5±2.5μMと低下し、14日齢までほぼ同じ濃度を維持し、そ
の後21、28日齢と徐々に低下し、49日齢で胎児の約1/3まで低下した(Fig.20A)。
各週齢で個体間によるばらつきは少なかった。ラットは生後4週間で離乳するが、そ
の際の血清エタノールアミン濃度は成獣よりもわずかに高い値を示しており、授乳期
にエタノールアミンが供給されているのではないかと思われる結果であった。妊娠中
のラットあるいは授乳中の母親ラットの血清中エタノールアミン濃度は妊娠していな
いラットと同じレベルであった。
母親から胎児、新生児へのエタノールアミンの供給
胎児期の血清中エタノールアミン濃度は母親よりも約3倍高いことが分かった。胎
盤は母親から胎児への選択的なバリア機能を有していることから、妊娠ラットの腹部
大動脈、胎盤および胎児の脾帯血中のエタノv・一…ルアミン濃度を測定した。Fig.21に
示すように、母親ラットの血中濃度は25.4±3.5μMであったが、胎盤では49.8±10.7
μMと高く、膀帯血中のエタノールアミン濃度は63.6±7.4μMであり、母親の腹部大
動脈中のエタノールアミン濃度よりも約2倍高い値を示していた。膀帯血中の濃度は
胎児の心臓とほぼ同じ濃度であったことから、エタノールアミンは胎盤から胎児に選
択的に取り込まれている可能性が示唆された。
胎盤がエタノールアミンを母体から選択的に取り込んでいるかどうか調べるため、
さらに実験を行なった。0.5mmo 1のエタノールアミンを妊娠ラットの皮下に投与し、
尾静脈と胎児血中濃度を経時的に調べた。Fig.22に示すように、エタノールアミン
投与2時間後に、母親の尾静脈中濃度は264.4±62.4μM、胎児の濃度は739.5±123.0
μMと、一時的に投与前の約10倍に上昇した。その後、時間とともに低下した。しか
し、このように多量のエタノールアミンを投与した場合でも、エタノールアミンの濃
度は母親と胎児で約1:3に保たれており、母親の血中濃度に比例して、胎盤は母親と
胎児の間で一定の濃度勾配を維持していると考えられる。
56
次に、Fig.20Aに示すように生後間もないラットでも血清中のエタノールアミン濃
度は高く、特に、生後2週間までは成獣よりも有意に高く(約1.5倍)、離乳まではま
だ高い濃度が維持されていたことから、エタノールアミンは母乳から供給されている
可能性が考えられた。そこで、母乳中のエタノールアミンとホスホエタノールアミン
の濃度を調べた。産後2日目の母乳中の濃度はエタノールアミンが206.3±8.9μM、
ホスホエタンノv−−sルアミンが749.8±37.6μMがあり、産後7日目の母乳もほぼ同じ濃
度であり、産後14日目の母乳中のエタノールアミン濃度は91.3±3.0μM、ホスホエ
タンノールアミンが376.2±17.2μMと高い値であるが産後日数が経ると低下するこ
とが示された(Fig.23)。
週齢による肝臓でのBrdUラベリングインデックスの変化
19日胎児、2、6、14、21、28および49日齢のラットを用いて、血清エタノールア
ミン濃度を調べた結果をFig.20Aに示した。また、19日胎児、2、6、14、21、28お
よび49日齢のラット肝臓を用いて、全肝細胞中のs期に存在する細胞の割合をFig.
20Bに示した。19日胎児では21.2±1.1%の肝細胞がS期であった。その後、生後6
日以内に、S期にある細胞の割合は5%以下に急激に低下し、7週齢までに2%以下ま
で低下した。胎児期の肝臓の重量が急激に増加しているという報告(Cuieta1.,1997)
があり、今回おこなった19目胎児よりも若い胎児の方がさらに増殖が盛んであると思
われる。Fig.20Aに示したように血清のエタノールアミン濃度は生後4日までに急速
に低下しており、その後は徐々に低下する。S期に存在する細胞の割合とエタノールア
ミン濃度との相関関係を調べると、相関係数は0.97であり、エタノールアミンの濃度
と肝細胞の分裂には相関があることが示された(Fig.20c)。
週齢による肝臓リン脂質組成の変化
肝細胞の増殖とエタノールアミン濃度とに相関があることが示された。エタノール
57
アミンはPE、 PCの合成に利用されていることから、19日胎児、2、7、14および49日
齢の肝臓からリン脂質を抽出し、各リン脂質の量をタンパク質当たりのリン量(Pi)と
して計算し、週齢による変化を調べた(Fig.24)。胎児期および生後2日齢までは総
リン脂質量は低い値を維持しており、その後、7目齢と14日齢と上昇した。生後1∼2
週間以内に総リン脂質量は胎児期の約30%増加した。肝重量が増加していることを考
えるとリン脂質量は3倍以上増加していたことになる。個々のリン脂質も全て週齢に
従い増加した。PC量に関しては生後2日齢で低下が認められ、その後、生後1週間で
19日胎児のレベルよりもさらに増加した。19日胎児のPC/PEの割合は約2.00であっ
たが、2日齢ではPCの低下により、その後はPEの増加により、PC/PEの割合は1.6−1.7
に低下し、2週齢までこの値を維持していた。PC/PEの割合の低下は主にPEの増加に
よる結果であり、肝細胞の増殖が盛んな19日胎児から2目齢の間(Fig.20B)、成獣の
約3倍に血清のエタノールアミンが増加したこと、さらに2週齢まではエタノールア
ミン濃度が成獣よりも高いことが、PE量の増加した原因であると考えられる。
V卜4. 考察
第3部で示した結果から、生体内においてもエタノールアミンは肝細胞の増殖を促
進する作用を示すと考えられる。また、血清中のエタノールアミン濃度は肝切除後に
上昇しているという結果も得られている。そこで、さらに生体内のエタノールアミン
の生理的な役割を明らかにする目的で、胎児期、乳児期、離乳期および成獣における、
肝細胞の増殖と血清中エタノールアミン濃度との関係について検討した。その結果、
特に、肝細胞の増殖の盛んな周産期である、胎児期と生後2∼4日齢までの血清中エタ
ノールアミン濃度が高く、S期にある肝細胞の割合と血清中エタノールアミン濃度の
間に相関関係があることが示された。血清中エタノールアミンの上昇が肝細胞の分裂
の促進に何らかの作用をしていると考えられる。Dickinsonら(1965、1970)によれば
ヒトの血中エタノールアミン濃度は大人と新生児では30倍以上違っていることが示
されている。彼らのデータは生後3日以内に1/3に低下し、それでもまだ大人よりも
10倍高いことを示している。ラットでは19日胎児と生後2日齢で、血清中エタノー一
58
ルアミン濃度は生獣の2倍から3倍のレベルを維持しており、0日齢では一時的に濃
度は減少する。今回の実験では生後数時間以内に採血を行なっており、授乳前に採血
を行なったことがこの0日齢での低値に繋がったと考えている。また、19日胎児でエ
タノールアミン濃度が高いことから、母親、胎盤、膀帯血のエタノールアミン濃度を
調べたところ、胎盤は母親と胎児で異なるエタノールアミン濃度を維持する選択的バ
リアとして働いていた。出産直後の母乳濃度はエタノV・…ルアミンとホスホエタノール
アミンが2週間後の母乳よりも顕著に高く、授乳期の個体の血清中エタノ…一‘ルアミン
濃度と相関していた。これらの結果は胎児でエタノールアミン濃度が高かったのは胎
盤での調節が行われていたために、母親から選択的に胎児にエタノールアミンが供給
されていた事を示しており、生後幼ラットは母乳からエタノールアミンとホスホエタ
ノールアミンが供給されたために、その血清中濃度を高く維持できたと考えられる。
肝切除後の血清中エタノールアミン濃度と肝臓中リン脂質量を調べた結果から、肝
切除2時間後から血清中エタノールアミン濃度は増加し、それに伴って、PE量の増加
も認められ、血清中エタノールアミン濃度と肝臓中PE量には相関がある可能性が示唆
されている。そこで、週齢の異なる肝臓中のリン脂質量を調べた。初代培養肝細胞や
肝切除後の結果と違い、血清中のエタノールアミン濃度が最も高い胎児期において、
タンパク質あたりのリン脂質量は予想よりも低い値を示した。また、19日胎児のPC/PE
の比も約2.00であり予想よりも高い値を示した。それが何を意味するのかはっきりし
た理由はわからない。胎児期の肝臓は造血器官であり、肝細胞の増殖も認められるが
造血細胞の分裂も多数認められる。このことが、培養肝細胞や肝切除後に認められた、
エタノールアミン濃度とPE量の相関が、胎児期のリン脂質組成に認められなかった理
由である可能性がある。生後のリン脂質組成の変化は2日齢でPCの低下により、その
後はPEの増加により、PC/PEの割合は1.6−1.7に減少し2週齢までこの値を維持して
いた。PC/PEの割合の低下はPEの増加による結果であり、肝細胞の増殖が盛んな生後
∼2日齢の間、生体の約3倍に血清中のエタノールアミンが増加していたこと、生後2
週齢まではエタノールアミン濃度が成獣よりも高いことが、PE量の増加した原因であ
ると考えられる。このように生後のリン脂質組成の変化は肝切除後に起こった変化と
類似のパターンを示した。
59
以上の様に、生体では肝細胞の増殖の盛んな時期の血清中のエタノールアミン濃度
が増加しており、特に胎児期には母親から胎盤を通して積極的に胎児に供給されてお
り、生後は母乳から供給されていることから、胎児および新生児期には自分で作るエ
タノールアミン量だけでは不十分であり、積極的に栄養として供給されている可能性
が示唆された。
60
A(90
邑
自6・
;
§30
§
§o
o
−7 0 7 14 21 28 35 42 49
Days befbre/after birth
B
825
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§ iO
冨5
£
80
z ,
−7 0 7 14 21 28 35 42 49
Days befbre/after birth
C(25
メ∀20
葛15
§10
. 目5
£
呂O
z
O 30 60 90
Concentration of Etn(μM)
Fig 20 A:Concentrations of ethanolatnine in serum of rats of various ages. Semm
samples were prepared from E・・19,0−,1−,2−,4−,7−,14−,28−, and 49−d−old animals, and
analyzed fbr Etn, as VI−2. Values represent means±SEM, n=6−10.*,」P<0.05 vs. E−19.
B:Rates of proliferation of hepatocytes in animals of different ages. Hepatocyte
proliferation was determined by immunohistochemistry detecting BrdU, which was
incorporated into cell nuclei of hepatocytes, as described in VI−2. E−19,2−,6−,14−,24−,
28−,and 49−d−old animals were analyzed. Values represent means土SEM, n=4. C:
Correlation of Etn concentrations with the nuclear labeling index.
61
日
E
8
.fi
s
80
60
も
S40
.9
こ…20
冒
§
o
0
artery
placenta
umbdical
cord
Fig.21 Concentrations of ethanolamine in serum taken from an artery, placenta, and
umbilical cord ofpregnant rats that had E−190r E−20ドWlues represent means±SEM, n=5.
*,P<0.05 vs. the artery ofthe pregnant rat.
62
・鰐
1000
:El
5
日
目
800
8
.…ヨ
600
国
℃
5
§
§
8
400
200
0
0 2 4 6
Hours after administration ofEtn
Fig.22 Concentrations of ethanolamine in serum of pregnant mothers and fetuses after
administration of Etn. Concentration of senlm Etn was analyzed at O,2,4, and 6 hrs in
pregnant rats and E−19 fetuses after administering O.5mmol Etn to the intraperitoneal cavity
of the mother.一〇一, E−19;一●一, pregnant mother. Values represent means土SEM, n=3.*,
P<0.05vs. control pregnant mother.
63
ノ
臣1。。。
カ
自 800
11 26・・
e
o 400
§2。。
8
3 0
2 7 14
Days after binh
Fig.23 Concentrations ofethanolamine and phosphoethanolamine(P−Etn)in milk 2,7, and
14days a丘er pafturition.一■一, Etn;一ロー, P−Etn. Values represent means±SEM, n=3.
Values with different superscripts are significantly different with 1)<0.05.
64
貧2
菖
婁1・5
蔦
ユ 1
冨
ヨ
冒o・5
8
0
Weeks after b i th
Fig.24 Amount of phospholipids in rat livers of different ages. Livers from E−19,2,7,14,
and 49 d−old animals were excised, and phospholipids were extracted and analyzed. Values
are expressed as per mg protein.一■一, total phospholipids;−o−, PC;一●一,PE;一△一, PI+
sphingomyelin;一▲一;PS. Values represent means±SEM, n=5.*P<0.05 vs. E−19.
65
W.第4部: エタノールアミンの高コレステロール血症改善作用
V皿・1.
背景・目的
第1部および第2部より、エタノールアミンにはin vivoとin vitroの実験から
肝細胞の増殖を促進する作用があることが明らかになった(Kume et al.,2006;Kume
and Sasaki,2006;Sasaki et a1.,1997;Sasaki et a1.e’1998)。また、エタノール
アミンが肝細胞の増殖促進作用を示す際に、肝細胞のリン脂質組成、特に、PEの増加
あるいはPEとPCの割合が重要であることも分かった。肝臓ではPEからPCを合成す
るPEMT経路が知られており(DeLong et a1.,1999;Reo et a1.,2002;Sundler and
Akesson,1975)、この経路は肝細胞の増殖だけでなく、血液や肝臓中の脂質や脂肪酸
組成の調節と深く関わっている(Noga and Vance,2003;Shimada et a1.,2003;Watkins
eta1.,2003)。そのため、エタノールアミンは肝細胞の増殖だけでなく、血液や肝臓
中の脂質濃度を調節する働きを有している可能性があると考えられる。今泉ら
(lmaizumi et a1.,1983;Imaizumi et al.,1989)は低脂肪でコレステロールを含ま
ない精製飼料を用いた実験で、食品由来のPEに血中のコレステロール濃度を低下する
作用があること、さらにPEの塩基であるエタノールアミンがその活性本体であること
を報告している。また、エタノールアミンの摂取によりミクロソーム中のPE量の増加、
あるいはPC/PE比の低下、またリン脂質の脂肪酸組成も変化することが確認されてお
り、このような変化が血清コレステロール濃度の低下に関与している可能性がある
(Shimada et a1.,2003)。さらに、我々は高脂肪/高コレステロール飼料を摂取させた
高コレステロール血症ラッ‘トにPC、 PE、スフィンゴミエリンを主要成分とするミルク
由来のリン脂質を摂取させた際に、血清中コレステロール濃度と肝臓中コレステロー
ル量の低下が起こることを見出した(粂ら、2004)。しかし、エタノールアミン単独で
高コレステロール血症の改善が認められるかどうかは明らかになっていない。
ベザフィブレートはヒトおよびラットで高脂血症や高コレステロール血症の改善効
果があることが報告されている(Desideri et a1.,2003;Mordasini et a1.,1981)。
また、ベザフィブレートはPEMT経路を阻害する働きがあり、初代培養肝細胞を用いた
66
実験で、肝細胞からのVLDLの分泌を低下させた(Nishimaki−Mogami et a1.,1996a;
Nishimaki−Mogami et a1.,1996b)。さらに、肝細胞から分泌されたVLDLの組成を調
べるとトリグリセリドやPCの低下に加え、 apoEやapoBの低下が認められた。おそら
く、ベザフィブレートはPEMT経路を阻害して血清脂質を調節しており、apoBやapoE
などのアポリポタンパク質の合成を介して肝細胞からのVLDLの分泌を調節している
可能性がある。
第4部では、高脂肪/高コレステロール飼料を摂取させた高コレステロール血症ラッ
トに、飲水としてエタノールアミン水溶液を摂取させた際の、血清および肝臓中脂質
に及ぼす効果を明らかにするとともに、合わせてベザフィブレートの効果も検討した。
さらに、月刊蔵および小腸でのapoA−1、 apoBおよびapoEのmRNA発現量を調べ、血清
中脂質濃度と肝臓および小腸でのapoA−1、 apoBおよびapoEのmRNA発現量との関係
について考察した。
W−2.
方法
動物と飼育方法
5週齢SD系雄ラット(チャールズリバー(株))を購入し、 CRF−1(オリエンタル酵母
工業(株))を飼料として飼育した。飼育方法はIV−2に従い行なった。高脂肪/高コレス
テロール飼料の組成はカゼイン14、コーンスターチ50.87、砂糖10、セルロース5、
ラード10、大豆油4、コレステロール1、ミネラル混合物3.5、ビタミン混合物1、コ
ール酸ナトリウム0.2、重酒石酸コリン0.25、L一シスチン0.18(%)(Table 1)。この
組成はAIN−93M(オリエンタル酵母(株):精製飼料)中のコーンスターチの代わりに、
ラード、コレステロール、コール酸ナトリウムを添加した飼料である。ラットを7日
間この飼料で飼育した後、血清コレステロール濃度と体重により5群に群分けした。1
群は対照群とし、エタノールアミンを含まない水を与えた。2∼4群は実験群で、それ
ぞれ0.25、0.5、1mg/m1濃度のエタノールアミン(エタノールアミン塩酸塩:
Sigma−Aldrich Corp.)を水に溶かして飲水として8日間与えた。5群は陽性対照とし
67
て、ベザフィブレート(Sigma−Aldrich Corp.)を0.1%になるように添加した高脂肪/
高コレステロール飼料で飼育した○実験開始6日目に尾静脈から採血し、血清コレス
テロール濃度を調べた。最終日にはエーテル麻酔下で腹部大動脈から採血し、肝臓中
の脂質及びノーザンプロッテイング法による解析のために肝臓と小腸を摘出した。血
液は5000rpmで10分遠心し、その上清を血清脂質の分析用に使用した。
血清及び肝臓中脂質の測定
血清中の総コレステロール、トリグリセリド、リン脂質は酵素法(和光純薬工業(株))、
LDL一コレステロールは酵素法(第一化学薬品(株))、そしてHDL一コレステロールは選
択阻害法(第一化学薬品(株))で測定した。肝臓中の脂質は、最初に肝臓からFolch
らの方法(Folch et al.,1957)に従いクロロホルム:メタノール=2:1液で脂質を抽
出した。その後、溶媒を留去し、イヤトロスキャン(三菱化学ヤトロン(株))を用いて、
肝臓中の総脂質量を測定した。その際、内部標準としてコレステロールアセテート、
一次展開溶媒としてクロロホルム:メタノール:水二50:20:25(V/V/V)溶液・二次展開
溶媒としてヘキサン:ジエチルエーテル;蟻酸=65:5:0.15(V/V/V)溶液を使用した
(Vandamme et a1.,1978)。
ノーサンプロッテイング法
一肝臓と小腸におけるapoA−1、 apoBおよびapoEのmRNA発現量の変化一
上記の方法で肝臓と小腸をi摘出し、Isogen(ニッポンジーン(株))を用いて、 Total
RNAを抽出、精製した後、 Oligo−dt30〈Super> (宝酒造(株))でmRNAを精製した(粂
ら、2004)。次に、apoBの検出には1μgmRNA、 apoA−1、 apoEおよびGAPDHの検出に
は5μgt−RNAを用いた。アガロースゲル電気泳動を行なった後、トランスファー膜
(Hybond−N+, Amersham Biosciences, Corp.)に転写した。 ApoA−1:5’−AAG GAC AGC
GGC−3, ,5, −GTG AGG CGC CCG−3’ , apoB:5, −TCT CGA CTT CCA−3, ,5’ −CTG GAG TTG
AAG;and apoE:5’−CGG AGG CTA AGG−3’,5’−TAC GCC CTG CCG−3’のプライマーを
68
用いて、ジゴキシゲニン(Dig)で標識したプローブを作製した。次にトランスファー
膜(RNAを含む)とプローブをハイブリダイズさせた後、アルカリフォスファターゼ
標識抗ジゴキシゲニン抗体(anti−Dig−ne−fragment、ロシュ(株))とCDP−Star
@Amersham Biosciences, Corp.)を用いて検出した。 X線フィルムに露光後現像し、ス
キャナーで画像をデジタル化した後、NIH Imageを用いて解析した。
アミノ酸分析
肝臓は切除後、150 mM NaClと10 mM Tr i s−HCI(pH 7.4)と1. OmM EDTA、さらに10醐
NaFを含む溶液の中でPotter−Elvehjem型ホモジェナイザーを用いてホモジェナイズ
した。肝臓の破砕液は5000rpmで10分遠心してから上清に2倍量の5%トリクロロ酢
酸を加え、除蛋白を行った。血清も同様の方法で除蛋白を行い、サンプルは遠心して
沈殿を除き、0.45μmのフィルターにかけてから、アミノ酸分析に使用した。アミノ
酸分析はL−8800日立超高速アミノ酸アナライザーでエタノールアミンとホスホエタ
ノールアミンの濃度を測定した。
統計解析
数値は平均±標準誤差で表した。統計解析はStatView 5・OJ(SAS Institute Inc・・
Cary, NC, USA)を用いた。2群間の比較はStudentのt一検定、多群間の比較は
Fisher−PLSD検定を用いて行なった。有意水準を危険率5%未満とした。
V卜3.
結果
高コレステロール血症ラットにおけるエタノールアミンとべザフィブレートの効果
第4部では、高脂肪/高コレステロール食の摂取により高コレステロール血症を呈し
たラットに、エタノールアミンを含んだ水を与えて飼育した際の血清中の脂質濃度お
69
よび肝臓中の脂質量に及ぼす効果を検討した♂また、ベザフィブレートの効果との比
較も行った。
Table 2に示すようにエタノールアミン摂取群は体重、食餌の摂取量に違いはなく、
水の摂取量、月刊蔵重量にも違いは認められなかった。一方、ベザフィブレート摂取群
は肝重量の増加が認められた。エタノールアミン摂取により血清の総コレステロール
濃度が低下し、高コレステロール血症の改善が認められた(Fig.25、 Table 2)。この
総コレステロール濃度の低下はVLDLコレステロールとLDLコレステロール濃度の低下
によるものであった。血清中のHDLコレステロールやトリグリセリド、また、肝臓中
コレステロールやリン脂質濃度は変化しなかった。一方、ベザフィブレートを摂取し
た場合は血清の総コレステロールとトリグリセリド濃度を低下させ、同時に、肝臓で
のコレステロールエステルと遊離コレステロール量も低下させた。さらに、血清中の
HDL一コレステロール濃度を上昇させ、月刊蔵中のPEとPCの濃度も上昇させた(Table 2、
3)。しかし、肝臓中のトリグリセリド量はべザフィブレートを摂取した時よりもエタ
ノールアミンを与えた時に低下する傾向が認められた。
血清および肝臓におけるエタノールアミンとホスホエタノールアミン濃度
肝細胞を含むさまざまな細胞はエタノー一ルアミンの供給なしに、充分量のPEを合成
することができない。生体内ではエタノールアミンはPEからホスファチジルセリンへ
の塩基交換反応によって供給されているが、それだけで生体に必要なエタノールアミ
ンが十分供給されているとは考えにくい。おそらく、食餌からエタノV・・q・pルアミンやボ
スホエタノールアミンおよびPEという形態で供給されていると考えられる。もし、多
量にエタノv−…ルアミンあるいはPEを摂取した場合、血清中のエタノールアミン濃度が
上昇するのだろうか、また、エタノールアミンはどこに蓄積されるのだろうか。これ
らの疑問を解決するために血清と肝臓中のエタノールアミンとホスホエタノールアミ
ン濃度を調べた。第2部で示したようにCRF−1で飼育した場合と比べ、 HF/HC飼料で
飼育した場合に、血清中エタノールアミン濃度に違いはなかった。HF/HC飼料で飼育
した高コレステロール血症ラットの血清中のエタノールアミン濃度は対照群で25.0
70
±1.2μMであったのに対し、飲水として1mg/m1のエタノールアミンを摂取させた場
合、31.3±1.1μMに上昇した。この動物の肝臓中のエタノールアミンとボスホエタノ
ールアミン量をFig.26に示した。 AIN−93M(コレステロv・…一ルを含まない/低脂肪の精製
飼料)で飼育した場合に比べ、HF/HC飼料で飼育するとホスホエタノールアミン量は増
加する傾向にあり、さらにエタノールアミンを摂取した場合はAIN−93M摂取群に比べ
約2.5倍増加した。エタノールアミン量も同様にエタノールアミン摂取群で1.47倍増
加した。これらの結果から、血清と肝臓中ではエタノールアミン量はホメオスタシス
により安定に保たれており、多量にエタノールアミンを摂取した場合は、肝臓にホス
ホエタノールアミンとして蓄積する可能性が示唆された。
肝臓、小腸におけるapoA−1、 apoB、およびapoEのmRNAの発現量の変化
エタノー一一・ルアミンおよびベザフィブレートはラットの高コレステロール血症を改善
する作用を示した。この作用は特に肝臓からのVLDLコレステロールの分泌の低下が関
与している可能性がある。一方、apoA−1、 apoB、 apoEのようなアポリポタンパク質の
産生量と血清中の脂質レベルとには相関関係があることが報告されている(Huang et
a1.,1995;Shimano et a1.,1992)。そこで、月刊蔵と小腸におけるapoA−1、 apoB、 apoE
のmRNAの発現量を調べ、血清中のコレステロール濃度との関係について調べた。 F i g.
27に示したように、肝臓でのapoBのmRNA発現量はエタノールアミンの摂取により約
50%低下した。しかし、肝臓でのapoEや小腸でのapoA−1やapoBのmRNA発現量は変
化しなかった。一方、ベザフィブレートを摂取した場合は、肝臓と小腸でのapoA−1
とapoBのmRNA発現量が低下した。また、 apoEのmRNA発現量は小腸で高かった。肝
臓でのapoBのmRNA発現量の低下は最も顕著な変化であり、エタノールアミンとべザ
フィブレート摂取で同時に起こった変化であった。対照として用いたGAPDHのmRNA
発現量は各飼料間で違いは認められなかった。これらの結果から、肝臓でのapoBの
mRNAの発現量の低下が肝臓からのVLDLの分泌低下に関与している可能性が示唆され
た。
71
V皿一4.
考察
第4部で得られた結果から、エタノールアミンの摂取により、血清の総コレステロ
ール濃度の低下、特にVLDLコレステロール、 LDLコレステロールの低下が認められ、
高コレステロール血症の改善が確認された。しかし、月刊蔵中のコレステロール量の低
下と血清中のHDLコレステロールの増加は認められなかった。ベザフィブレートはエ
タノールアミンよりも顕著な効果を示した。
このようなエタノールアミンの高コレステロー一ル血症改善作用はどのようなメカニ
ズムで作用しているかについて興味のもたれるところである。エタノールアミンは栄
養因子であり、小腸から吸収された後、門脈を経由して、肝臓に達する(lkeda et al.,
1987;Imaizumi・et・al.,1989)。吸収されたエタノールアミンは肝細胞に存在するPEMT
経路を介してPEあるいはPCの合成に利用される(Kume and・Sasaki,2006)。エタノー
ルアミンとべザフィブレートは共にPEMTを阻害し、 PEからPCの合成を阻害して、ラ
ット生体や培養細胞でPE量の調節を行っている。さらに、この阻害は100%の阻害で
はなく、エタノー一ルアミンが充分存在する場合はPE量を増加させるだけでなく、PC
合成にも利用される(lmaizumi et a1.,1983;Kume and Sasaki,2006;
Nishimaki−Mogami et a1.,1996b)。これまでに、肝臓中のミクロソーム中のPCとPE
量はコレステロールを含まない飼料で飼育したラットよりも、高脂肪/高コレステロー
ル飼料で飼育したラット肝臓で顕著な低下が認められており(データは示していない)、
肝臓からのVLDLの分泌に多量のPCが使われたためであろうと考えている。このまう
なリン脂質組成の変化が生じると細胞膜機能を正常に維持できていない可能性がある。
ベザフィブレートを摂取したラットでは、肝臓中のPCおよびPEが増加しており、正
常レベルまで回復していた。このことは、ベザフィブレートの摂取により、PEMT経路
が阻害され、PE量が増加したことと、血清中コレステロv−一・ル濃度の低下により、PC
の供給が低下したことにより生じた可能性がある。しかし、エタノールアミン摂取群
ではそのようなリン脂質の増加は認められなかった。エタノV…一ルアミンを摂取したラ
ットの肝臓でホスホエタノールアミン量が増加していたことから、おそらく、エタノ
ールアミンはPEとPCの合成に利用されており、過剰のエタノールアミンを摂取した
72
場合、肝臓でホスホエタノールアミンとして蓄積されたと推察される。高脂肪/高コレ
ステロール飼料で飼育した場合は、肝細胞のPEとPC量を正常に維持するために、さ
らに高濃度のエタノールアミンの摂取が必要であるのかもしれない。
初代培養肝細胞を用いた実験で、エタノールアミンを添加した場合、ベザフィブレ
ートは肝細胞からのVLDLコレステロールの分泌を低下させた。その際、 VLDL中の
apoB48の低下も起こっていた(Nishimaki−Mogami et a1.,1996a)。 PEMTのノックアウ
トマウスでは野生型マウスに比べ、肝臓から分泌したVLDL、 LDL中のトリグリセリド
やapoB100の低下が確認されている(Noga et a1.,2002)。さらにPEMTのノックアウ
トマウスを高脂肪/高コレステロv・・・…ル飼料で飼育すると、野生型雄マウスに比べ、血清
コレステロV・・一・・ル濃度は低いのに対し、肝臓におけるコレステロールエステルとトリグ
リセリドの量は有意に高かった(Noga and Vance,2003)。これらの結果はPEMT経路を
阻害することによって、コレステロールやトリグリセリドの代謝、特に肝臓からの
VLDLの分泌を抑制し、血清中コレステロール濃度を低下させた可能性を示している。
エタノ・一・…ルアミンの作用も同様にPEMT経路を阻害して、血清や肝臓中脂質の量を調節
している可能性がある。
次に、肝臓や小腸でのapoA−1、 apoBおよびapoEのmRNA発現量について調べた
結果について考察する。エタノールアミン摂取により肝臓ではapoBのmRNA発現量の
みが低下した。また、apoA−I mRNAの発現量は小腸と肝臓で変化していなかった。こ
れらの結果は、血清中のVLDLコレステロv・…‘ル濃度が低下したことと、HDLコレステロ
ールが変わらなかったことを説明するものである。一方、ベザフィブレートにより肝
臓と小腸でapoA−1、apoB mRNAの発現量が低下し、小腸でapoE mRNAの発現量が増加
した。これらの結果はVLDLコレステロール濃度の低下を説明するものであり、さらに
小腸でのカイロミクロン産生の低下を示唆し、小腸からのコレステロールの吸収低下
の可能性を示している。ApoBのmRNA発現量はエタノールアミンとべザフィブレ・…−Sト
を摂取したラットの肝臓で顕著に低下した。ApoBに関する研究がこれまで多数報告さ
れている。肝臓と小腸でのapoB mRNA発現量はapoBのノックアウトマウス(apoB+/一)
で低下しており、このことがLDLの低下に繋がっている(Huang et a1.,1995)。マウ
スの肝臓はapoB−100とapoB−48の両方を合成する(E1・vson et a1.,1981)。そして、
73
高脂肪食あるいは高脂肪/高コレステロール食で飼育すると、肝臓のapoB−IOO mRNA
発現量の変化よりもap・B mRNA editingによる調節が優位となる(Srivastava et al.,
1992)。ApoBの総分泌量は絶食で低下するが、 apoB mRNA発現量は一定であり、転写後
のeditingなどによってapoBの分泌が調節されている(Leighton et a1.,1990)。こ
れらの研究結果から、月刊蔵からのVLDLの分泌の低下はmRNA発現量で調節されている
かどうかについて明確な答えは得られていないと考えられる。しかし、肝臓でapoB
量の産生が低下していることは確かである。PEMT経路の阻害とリン脂質組成の変化は
直接説明できる現象であるが、apoBの合成がどのように調節されているかについては
明らかではない。少なくともエタノールアミンを摂取したラット肝臓でapoBの発現が
mRNAレベルで低下しており、 apoB100あるいはeditingを介して生産されるapoB48
の低下が月刊蔵からのVLDLの分泌の低下に関与している可能性が示唆された。
74
Table l Compositioll of the high−fat/high−cholesterol diet.
Casein
14.00
L−Cystin
0.18
Mineral mixtUre*
3.50
Vitamin mixture**
1.00
Cho line bitartrate
0.25
Cellulose powder
5.00
α一Com starch
15.50
Com starch
35.37
Sucrose
10.00
Soy oil
Lard
4.00
10.00
Cholesterol
1.00
Sodium cholate
0.20
*:A】N−93M,**:A】N−93(Oriental Yeast)
75
百 500
お
2 400
§
1喜3°°
も)200
一●−Control
口
.9
−◎−Etn
冒 100
曽
§ 0
8
+Bf
0
2
4
6
8
10
days
Fig.25 Change in serum cholesterol in rats given a high−fat/high−cholesterol diet during
feeding with l mg/ml ethanolamine or l mg/g bezafibrate. Values represent mean±SEM,
n=6. Value s with different superscripts are significantly different with P<0.05.
76
Table 2 Effects of ethanolamine and・ bezafibrate on body weight, food intake and serum
lipids in rats fed a high−fat/high−cholesterol diet fbr 7days fbllowed by experimental diets fbr
fUrther 8 days. .
Contro1
E血(mg/ml)
0.25
0.5
Bf(mg/9)
1.0
1.0
Final body weight(g) 326.2土10.9
336.9士12.0 327.1土9.5
313.8士11.2
318.6土4.4
Food intake(9/day/rat) 20.8
215 20.8
20.1
18.9
Water intake(mYday/rat) 22.8
28.2 24.1
23.6
22.8
Se㎜(mg/100m1)
Total cholesterol(D 316.5土27.7a
284.2土26.8ab 269.0圭20.7ab
223.2土9.3b
107.7±9.6c
VLDL・cholesterol(①一②+③)203.8土18.8a
183.7土18.8ab
174.5±17.oab
135.7士6.8b
52.8土6.4c
LDL・cholesterol② 92.3圭10.5a
80.8士8.5ab
75.3土5.6ab
66.7±4.5b
18.8±1.6c
HDL cholesterol③ 20.3±2.1a
19.7±1.la
19.2±:2.4a
20.8土2.oa
36.0±2.8b
Free cholesterol 53.2圭5.9
45.0土4.7
46.7土4.5
37.0土1.9
37.3土3.0
Triglyceride 80.0±24.0
61.5土4.6
79.0土24.9
60.8土13.8
39.2土5.7
Values represent mean±SEM, n・ 6.
Values with different superscripts are significantly
different with 1)<0.05.
77
Table 3 Effects of ethanolamine and bezafibrate on liver weight and liver
lipids in rats fed a high−fat/high−cholesterol diet・
Control
Etn
Bf
1.Omg/ml
1.Omg/9
21.4土1.3
20.0土1.2
25.3±0.8
Total lipid
191.0土17.7a
188.4±:22.ga
155.2土17.5b
Cholesterolester
82.2土11.5a
81.5土7.3a
b
5.9土0.3a
5.2±0.2b
Liver weight(9)
Liver(mg/g Liver weight)
CholesterQl
Triglyceride
5.9土0.2a
54.7±11.5
48.8±7.8
43.7土8.7
50.6±17.0
10.2土0.3b
Phosphatidylethanolamine
8.3±0.4a
8.2土0.2a
PhQsphatidylcholine
8.2土0.3a
8.2±0.07a
11.8土0.8b
Values represent mean±SEM, n=6. Values with different superscripts are
significantly different with P<0.05.
78
A
日
§ 40
ゆ
゜力
.日
@ 35
曇一19
鑑20
§)15
召 10
ゆ
呂 5
3 0
十
Etn
B
遭 7・o
ロ
宅 6・o
口 (
口 お5.0
鷲4・
自こ3.0
.9 0
龍2.・
8 1.0
9
0 0.0
AIM−93M
十
Etn
HF/HC djet
Fig.26 A:Concentration of ethanolamine in serum in rats fed high−fat/high−cholesterol diet
with and without l mg/ml ethanolamine fbr 8days. Values represent mean±SEM, n ・6.*,
P<0.05.B:Concentration of ethanolamine and phosphoethanolamine in liver in rats fed
AIN−93M or a high−fat/high−cholesterol diet with and without lmg/ml ethanolamine.一■一,
Etn;一ロー, P−Etn. Values represent mean士SEM, n=6. Values with different superscripts are
significantly different with」P<0.05.
79
B
A
Control
Etn
Conmo1
Bf
Etn
Bf
apoB
灘
irpoA−1
叩oE
GAPDH
Fig.27 Northem blot analysis of apoA−1,apoB, apoE mRNA expression in the liver(A)
and small intestine(B)in rats fed a high−fat/high−cholesterol diet with l mg/ml ethanolamine
or l mg/g bezafibrate. MRNA at 5μg per lane for apoB and tRNA at l p g per lane for apoA−1,
apoE and GAPDH isolated from the rat liver and small intestine was used for Northern blot
analysis as described in Vn−2.
80
珊. 総論
エタノールアミンの肝細胞増殖におけるco−mitogenとしての働き
ウシ小腸上皮粘膜組織から肝細胞の増殖促進物質の探索を行った結果、エタノール
アミンが肝細胞の増殖を促進する物質であることを見出した(Sasaki et a1.,1997;
Sasaki et a1.,1998)。初代培養肝細胞を使った実験から、エタノールアミンは単独
では肝細胞の増殖を促進する作用はないが、EGF、 HGFなどの細胞増殖因子と共存する
ことで、これらの細胞増殖因子の作用を増強する働きがあることが分かった(Kume and
Sasaki,2006)。さらに、エタノールアミンはDNA合成だけでなく、cyclinBを介する
細胞の複製やPKCβllの細胞質から細胞膜への移動を誘導し、細胞増殖因子の存在下
でG2/M期への細胞分裂を促進する働きをしている(Ajioka et a1.,2002)。このよう
な結果から、エタノールアミンにはEGF、 HGFなどの細胞増殖因子の作用を増強する
co−mitogenの働きがあることが示された。
このような初代培養肝細胞で起こっている現象が生体でも起こっているかどうか肝
切除後の肝再生に及ぼすエタノールアミンの効果を調べた。その結果、エタノールア
ミンを腹腔内に投与した場合、DNA合成の促進が観察された。 DNA合成に関してはBrdU
の細胞内への取り込みで調べたところ、細胞周期のS期へ移行している細胞数が増加
した。同時に肝重量が増加していたことから、G2/M期への細胞分裂も促進されたこと
を示している(Kume et a1.,2006;Nelson et a1.,1996;Sasaki et a1.,1997)。お
そらく、肝細胞の増殖期には生体内で細胞増殖因子が多量に生産されており、エタノ
ールアミンの投与はそれらの働きを増強していると考えられる。成長期でない正常ラ
ットにエタノールアミンを腹腔内に投与しても、肝細胞の増殖に変化がなかったこと
から、エタノールアミンの作用は細胞増殖因子として働くのではなく、あくまでも細
胞増殖因子の働きを助ける役割(co−mitogen)をしていると思われる。
81
リン脂質の役割
エタノールアミンは肝細胞でPEやPCの合成に利用されていることが分かったが、
それらが生体でどのように働いて、肝細胞の増殖や脂質代謝を調節しているのかにつ
いては興味の持たれるところである。ここではリン脂質の生体での役割とリン脂質、
特にPEの新たな機能について述べる。
リン脂質は生体で膜脂質二重層の構成成分として、また、血清脂質成分の構成成分
として重要な役割を演じている。生体膜が生物の生命活動のさまざまな局面で極めて
重要な役割を担うことは言うに及ばぬ事実であるが、生体膜の基本骨格であるリン脂
質二重層の形成・維持に関しては、現在でも解明されていない問題が多く残っている。
生体膜リン脂質はその親水性部分と疎水性部分の構造が異なる多くの種類の分子から
構成されている。哺乳動物細胞の場合、微量な分子を含めると1000種類以上のリン脂
質分子が生体膜に存在する。生体膜はリン脂質の二重層から構成されており、PC、ス
フィンゴミエリンは外側に位置し、PE、 PSは内側に位置していることはすでに明らか
なことであるが、このようなリン脂質の配列も、静的なものではない。膜内反転輸送
(脂質二重層の片側層から他方の層への移動、フリップ・フロップとも言う)や受容
体活性化時には種々なシグナル伝達に関与するタンパク質を集積する基地という役割
を担っている脂質ラフトという構造が膜上に存在するなど、生体膜はダイナミックに
変化しつつ、細胞機能にとって重要なシグナルを発信していることが明らかになって
きている(花田ら、2006)。
リン脂質中のPIとPCはシグナル伝達系に関与していること、また、 PCは脂質輸送
に重要であることが分かっているが、PEについての研究は少なく、その重要性はこれ
まで明らかになっていなかった。最近、PEに特異的に結合する放線菌由来の抗菌物質
であるRoO9−0198(Ro)/シンナマイシン、さらに、無毒化して細胞毒性がなくなった無
毒化Ro(SA−Ro)が発見されたことにより、PEの研究は急展開を示している(Emotg et
al.,1996)。 PEは細胞膜の内側に存在しているが、細胞分裂の際、内側から外側へ移
行する、この変化がアクチン骨格の再編を進行させ、G2−M期へと細胞分裂が誘導され
る(Emoto and Umeda,2000;Emoto et a1.,2005)。さらに、 PE量が低下している場
82
合には分裂溝でのアクチン繊維の脱重合が阻害され、分裂終期で分裂が停止してしま
う(Emoto・et・al.,1999;Emoto and Umeda,2000)。このような結果は本研究で行った、
エタノールアミン濃度に依存して起こるPE量の変化が生体膜上で、様々な生命現象を
調節している可能性を示唆するものである。
エタノールアミンの作用機構
本研究で行なった実験とそれら実験から分かったことをFig.28にまとめた。これ
らの結果から、初代培養肝細胞のみならず、生体においても、エタノールアミンは細
胞膜の主要な構成成分であるPE量を調節して、細胞増殖や脂質代謝を調節しているこ
とが明らかになった。そこで、エタノールアミンの肝細胞における細胞増殖や脂質代
謝に関する作用機構(仮説)をFig.29に示した。一般に、 PEは小胞体に存在するps
の一部がミトコンドリアに輸送され、合成される。しかし、乳腺細胞やその他の上皮
細胞では、小胞体からミトコンドリアへの輸送がおこらないか、あるいは、ミトコン
ドリアでの合成が充分でないために、PSからの合成だけでは細胞の機能を維持するの
に充分量のPEを合成することができないことが分かっている(Kano−Sueoka and King.
1987)。肝細胞でも、同様のことが起こっていると考えられる。そこで、肝細胞は必要
量のPEを合成するためにエタノ・一一一一ルアミンの供給を必要としている。培地に添加した、
あるいは血中に存在するエタノールアミンは、肝細胞に取り込まれ、小胞体に運ばれ、
そこで、PEが合成される。また、 PEMT経路を介して、 PEからPCも合成される。合成
されたPEはさまざまな生体膜の構成成分となる。また、 PCは生体膜成分や脂質の輸
送に利用される。リン脂質のオルガネラ間の輸送やリン脂質やコレステロ・・一・・ルなどの
輸送経路や方法は複雑iで不明な点が多いが、PE、PCおよびPSの輸送にABC(ATP−Binding
Cassette)タンパク質が関与しているなどの新事実も明らかになってきている(植田ら、
2006)。このような運搬体によって、細胞膜に運ばれたPEは、通常は細胞膜の内側に
位置し、PCは外側に位置している。エタノールアミン添加や血清エタノ・・一一‘ルアミン濃
度上昇によるPE量の増加は、細胞膜の流動性の充進やEGF受容体の数の増加をもたら
した。このような細胞膜の変化がEGF添加後のEGF受容体の二量体形成の促進やEGF
83
受容体を介するタンパク質のリン酸化を充進した結果、肝細胞の増殖が促進されたと
考えられる。脂質代謝に関しては1小胞体やゴルジ体膜のリン脂質組成(PC/PE比)、
また、VLDL、 LDLなどの表面に存在する脂質輸送に関与しているPCの量や脂肪酸組成
の違いがVLDLの分泌に大きく関わっていることが報告されている。これらのことから、
エタノールアミン添加による生体膜のPE量の増加、 PCの代謝回転の冗進、および脂
肪酸組成の変化、さらにapoBの産生量の減少などが関わって、肝細胞から分泌される
VLDLの分泌が低下したのであろうと推察される。
生体におけるエタノールアミンの調節機構
生体液中のエタノールアミンはどのように調節されているのだろうか。多量にエタ
ノールアミンを摂取した場合や絶食などを行った際も血中のエタノールアミン濃度は
ほぼ一定の値を維持していたことから、血中のエタノールアミン濃度は生体内で一定
に調節されていると思われる。しかし、肝切除後や胎児期などの肝細胞の増殖期に血
清エタノールアミン濃度が高いことから、肝細胞の増殖期や周産期にエタノールアミ
ン濃度を上昇させているのではないかと思われる。肝細胞の増殖期の血清エタノール
アミン濃度は培養系で行った実験結果と一致しており50∼100μMであり、正常ラット
の血中濃度よりも高かった。乳腺細胞の増殖に必要なエタノールアミン濃度である
2.5∼5μMと比べ高い濃度であった。なぜこのように細胞によって適正濃度が異なる
のか、血清エタノールアミン濃度がどのように調節されているのかについてははっき
りした答は得られていない。理由の一つとして、食餌から摂取したエタノールアミン
は門脈を経由して肝臓に運ばれており、そこでリン脂質合成に利用されることから、
肝細胞が最も高濃度のエタノールアミンにさらされる可能性が高く、このことが感受
性の違いを反映しているのではないかと考えられる。多量にエタノールアミンを摂取
した場合はエタノールアミンの一部はホスホエタノールアミンとして肝臓に蓄えられ
ていること(Fig.26)、また、トリチウム標識したエタノールアミンを投与して、エタ
ノールアミンの代謝動態を調べる実験を行ったところ、投与30分後には肝臓に約
13.5%、小腸に約4%検出されるものの、80%以上が排泄され、血中やその他の臓器
84
にはほとんど検出されなかったことから、肝臓はエタノールアミンの蓄積場所である
可能性が高く、血中のエタノールアミン濃度を一定に保つために働いている可能性が
ある。
以上の結果から考えられるラット(ヒト)におけるエタノ…一・Lルアミンの役割と調節機
構(仮説)を図30に示した。一般にエタノールアミンは餌(食品)中のリン脂質、エタノ
ールアミンあるいはボスホエタノールアミンから供給されている。そして、肝臓でPE、
PCの合成に利用されており、合成されたPEとPCの割合は生体膜リン脂質組成や脂肪
酸組成に影響して、脂質代謝を調節している。多量にエタノールアミンを投与した場
合に、ホスホエタノールアミンとして肝臓に蓄えられていたことから、肝臓はエタノ
ールアミンの貯蔵場所であり、PE合成が充分できない上皮細胞などのために、全身に
エタノV・・−4ルアミンを供給している可能性がある。肝切除後に血清エタノールアミン濃
度が上昇したが、どこから供給されているのかはっきりとはわかっていない。しかし、
前述したように標識したエタノールアミンが肝臓と小腸に取り込まれたこと、また、
ウシの小腸粘膜上皮からエタノールアミンか精製されたことから、小腸から供給され
ている可能性が最も高い。胎児期や新生児のような肝細胞の増殖期には母親や母乳か
らエタノールアミンやホスホエタノールアミンが供給され、血中エタノールアミン濃
度が上昇し、肝細胞のPE量の増加(PC/PE比の減少)が誘導されることが肝細胞の増殖
促進に寄与していると考えられる。エタノールアミンは生体の生理機能を調節しうる
重要な栄養素であることが示唆された。
細胞によるエタノールアミン依存性の違い
肝細胞は自ら合成するPE量だけでは正常な細胞の機能を維持するのに充分でない
ため、必要量のPEを合成するためにエタノールアミンの供給が必要であることが分か
った。これまでの報告から、肝細胞だけではなく、乳腺細胞、ヒト乳癌細胞
(T47T)(Kano−Sueoka and Errick,1981)、ケラチン生成細胞(Tsao et a1.,1982)、ヒ
トロ腔角化細胞(Kano−Sueoka et a1.,2001)などの上皮系の細胞はエタノールアミン
の供給が必要であることが分かっている。エタノールアミンの供給が必要な細胞は、
85
初代培養細胞、もしくは正常に近い株化細胞、もしくは腫瘍細胞であっても良性腫瘍
由来であり、上皮系の細胞であり、発生学上は外胚葉や内胚葉に由来する細胞である。
このような細胞とは違って、エタノールアミンがなくても、充分量のPEを合成するこ
とができる細胞は悪性肝癌細胞(HTC)(Kano−Sueoka et al.,1983)や繊維芽細胞
(Kano−Sueoka T,1982)やニューロンやグリア細胞(Kano−Sueoka et al.,1983)など
であり、中胚葉由来の細胞か悪性に癌化した細胞である。良性乳腺細胞ではPSから
PEが充分合成されないために、充分量のPEを合成することができない。一方、繊維
芽細胞などはPSからPEが合成できるために、エタノー・…Lルアミンの供給がなくても増
殖することができる(Kano−Sueoka and King,1987)。悪性腫瘍も同様に、正常なリン
脂質合成系が異常となり、自己の細胞でPEを充分合成できるように変異を起こしてい
た。なぜこのように細胞の違いによって、エタノールアミンの依存性が変わるのだろ
うか。その意味は何も明らかになっていない。すべての細胞でエタノールアミンの依
存性について調べられてはいないが、発生学上の細胞系譜の違いで細胞の性質に違い
が認められることから、何か生物の合目的性がそこにはあるのではないかと思われる。
肝臓特異的なPEMT経路の役割とエタノールアミンとの関係
肝臓は再生能力に富む臓器であるが、どのようなメカニズムで再生が行われている
のかについてははっきりとした結論は得られていない。肝再生に関与していると考え
られているものの一つにPEMT経路が存在する。なぜならPEMT経路は他の臓器にはな
い肝臓独自の経路であるからである。この経路はこれまでにも述べてきたようにリン
脂質であるPEのメチル化により、PCを合成する経路である。 Cuiらは(Cui et a1.,
1994;Cui et a1.,1997)この経路に関与しているPEMT2の酵素の発現を調べており、
肝切除後2時間から4時間にそのmRNAの発現量が低下すること、生体では胎児期に
PEMT 2のmRNAおよび蛋白が発現していないことを確認しており、PEMTの阻害と肝細胞
の増殖との間には関係があるのではないかと報告している。PEMT経路を阻害した場合、
何が起こっているのであろうか。この疑問から、ベザフィブレートを使ってPEMT経路
を阻害することによって、どのような変化が起こるのかを初代培養肝細胞で調べた。
86
その結果、ベザフィブレート添加により、肝細胞のDNA合成が促進され、また、リン
脂質中のPC量には変化がないが、 PE量は増加した。初代培養系において、ベザフィ
ブレートを使ってもPEMT経路を100%阻害していないが、少なくとも、PEMTをある程
度阻害することで、細胞膜のPE量の増加あるいはPC/PE比の低下が誘導され、このこ
とがDNA合成の促進に関与しているのではないかと考えられる。この際、エタノール
アミン無添加で培養すると充分なPEが合成されないことから、エタノv・…一ルアミンの添
加が重要であることも示された。
PEMT経路のもう一つの重要な役割として脂質代謝に関与していることがPEMT遺伝
子のノックアウトマウスの作製により明らかになっている(Kulinski et a1.,2004;
Noga and Vance,2003;Watkins et a1.,2003)。 PEMT遺伝子のノックアウトマウス
は表現型に異常はなく、肝細胞の形態も正常で、血清脂質組成や胆汁酸組成にも影響
は認められなかった。PEMT遺伝子欠損(一/一)マウスを一般マウス飼料で飼育した場合
には一見正常であったが、コリン欠乏飼料や高脂肪/高コレステロール飼料で飼育した
場合、正常マウスと比べ、血清や肝臓の脂質組成が明らかに違っていた(Kulinski et
a1.,2004;Noga and Vance,2003;Watkins et a1.,2003)。コリン欠乏食で飼育し
た場合、肝機能不全をおこした。また、高脂肪/高コレステロール飼料で飼育した場合、
野生型マウスでは血漿中のコレステロール濃度は上昇したが、欠損型ではこの上昇が
抑制された。これにより、PEMT経路は脂質代謝に関与しており、PEMTを阻害すること
により血中コレステロール濃度の低下がおこる可能性が示唆された。
高脂肪/高コレステロール飼料で飼育したラットにベザフィブレートを摂取させ、
PEMT経路を阻害した場合も、肝臓でのコレステロー一ル量の低下と血清中のコレステロ
ール濃度の低下が確認された。さらに、ベザフィブレートを摂取させなくても、エタ
ノールアミンを摂取させただけでも、同様に血清中コレステロールが低下することか
ら、エタノールアミンを摂取したことがPEMT経路を阻害し、 PE量の増加を誘導して
いた可能性がある。
以上の結果を総合して考えると、PEMT経路の生体における役割は何であろうか。肝
臓は高度に分化した器官であり、アミノ酸代謝、脂質代謝などの中心的役割を担って
いる重要な臓器である。その中でPCは特に血中のVLDL、 LDL、 HDLコレステロールの
87
成分として働いており、正常の場合はもちろんであるが、特に何か異常があった場合、
たとえばコリンの摂取が低下した場合にPEから供給され、コレステロール代謝を調節
するという重大な役目を担っているのであろう。また、ひとたび肝切除や肝臓に障害
を負った場合には肝細胞の増殖が誘導されるが、同時に肝臓の機能も一定に保たなく
てならない。そのためにPEMT経路は阻害され、 PEの増加を誘導すると同時にPCの合
成も促進されるのではないかと考えられる。PEMT(酵素)が全く合成されないのは胎
児期や癌化した肝細胞であり、肝細胞の機能がまだ働いていない状態(未分化状態)
かそれとも癌化して増殖が活発な状態(脱分化状態)の時だけである。このことから、
PEMT経路は肝臓の増殖と脂質代謝の調節に関与しており、分化、脱分化の指標となり
うるかもしれない。
エタノールアミンのその他の機能と今後の展開
本研究からエタノールアミンは肝細胞の増殖の促進および血中コレステロール濃度
の低下作用があることが分かった。その他の機能として、四塩化炭素誘発肝障害モデ
ルやジエチルニトロソアミン肝障害モデルを使った実験結果から、エタノールアミン
にアスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)、アラニンアミノ基転移酵素(ALT)の上昇抑
制および偽小葉を伴う繊維化の改善が認められ、肝障害抑制作用があることを見出し
た。また、アルツハイマー病患者の脳、特に側頭皮質、前頭皮質および海馬中のPE
が正常の40−60%に低下している事が報告され(Ellison et a1.,1987)、アルツハイ
マー病におけるエタノールアミンの役割についても注目されている(Marshall et a1.,
1996)。
以上のようにエタノールアミンは生体内で様々な働きをしていることが明らかにな
ってきている。本研究の結果からも、肝細胞の増殖や周産期におけるエタノールアミ
ンの重要性、また、高コレステロール血症の改善が明らかになったことから、今後、
生体内での働きとその作用機構について詳細な検討を行っていくとともに、このよう
な研究結果が、栄養食品や粉ミルクなどの商品開発や栄養学的基礎研究に役立つこと
を望んでいる。
88
Resul偽
Experiments
・Stimulation of DNA synthesis
ln vitro
・lncrease of PE amounts
Rat primaly hepatocytes
・lncrease of EGF receptors and
stimulation of tyrosine phosphorylation
・StimuEation of liver regeneration
ln viVO
Ethanolamine
・lncrease of PE amounts
70%partial hepatectomy
administration
・Stimulation of PC synthesis through
PEMT pathway
Po6itive correla目66 between Etn concentra.「’
ln viVO
tlon in serum and the number of S・phase celb、
Pe酋natal p}‖ase
難Supply。f・Etn・fr−。ther・t。fetus
l驚魚蚤a髄er Pi托勲
and infant
In viVO
・lmprovement of hypercholesterolemia
Hypercholesterelemia
治Dec「ease of VLDL, LDl」choleste「ol
器・Decrease of apoB mRNA expression
Fig.28
Summary ofthis study.
89
VLDL
Etn
EGF
Hepatocyte
CE, Ch
PC,TG
apoB
\
メ⑬
∀
41PC
PE:‖
pc:n
proliferation
Endoplas■nic retiCU■U■情ro
Nucl●us
Fig.29 Proposed mechanism of ethanolamine on hepatocyte proliferation and lipid
metabolism. ApoB:apolipoprotein B, CE:cholesterol ester, Cho:cholesterol, Etn:
ethanolamine, EGF:epidermal groWth factor, EGFR:epidermal groWth factor receptor, PC:
phosphatidylcholine, PE:phosphatidylethanolamine, PKC:protein kinase C, PLC:
phospholipase C, PS:phosphatidylserine, TG:triglyceride, VLDL:very low density
lipoprotein.
90
SUP回y of ethanolamin●
Foods蓋ngestion★
Partial he
Small lntestine
nolamine to the
★:Many foods contain
PE, ethanolamine and
・Regulation of ethanolamine
phosphoethanlamine・
Liver
COnCentratiOn in SerUm
Milk:62・83mg∫1(P・Etn)
Fig.30
Roles and regulation mechanism of ethanolamine in vivo.
91
IX: 謝辞
本研究はコロラド大学末岡多美子教授の御指導、御鞭捷の基に行なわれたことを記
し、心より暑く感謝の意を表します。
また、本論文の執筆にあたり、御懇意な御指導を賜りました静岡大学理学部生物科
学科の野口基子教授、塩尻信義教授ならびに山内清志教授に心より厚く感謝の意を表
します。
さらに、本研究の遂行に多大な御協力と御助言をいただきました佐々木一博士、金
子哲夫博士、粂晃智博士、山地健人博士なちびに川島昭浩氏に深く感謝致します。
本研究はすべて明治乳業(株)栄養研究所および食機能科学研究所で行なわれまし
た。本研究に対し、終始御指導、御支援を賜りました明治乳業(株)本社研究本部長
桑田有博士に深く感謝の意を表します。
また、常に熱意と優れた実験技術を以って、本研究の遂行を支えてくださった岡崎
恵子氏、塚原恵子氏に感謝いたします。
本研究の遂行にあたり、御助言、御協力くださった栄養研究部の皆様に厚く御礼申
し上げます。
92
X.
参考文献
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