政策的な後押しも期待できず、当面景気の減速が続く公算大

Feb 25, 2016
No.2016-007
Economic Monitor
伊藤忠経済研究所
主任研究員 河合良介
03-3497-3655 [email protected]
マレーシア経済:民需の力強い回復を見込み難い中、政策的な後
押しも期待できず、当面景気の減速が続く公算大
 2015 年 10~12 月期の実質 GDP 成長率は前年同期比+4.5%と、個人消費が比較的堅調に推
移したものの、民間投資や政府部門の支出の伸びが鈍化したことなどから、前期(+4.7%)
と比べて低下した。2015 年通年でも+5.0%と、前年(+6.0%)から大きく減速し、リーマン
ショックでマイナス成長(▲1.5%)を記録した 2009 年以降で最も低い成長率にとどまった。
 先行きに関しては、消費者心理の冷え込みや雇用情勢の悪化を背景とした個人消費の低迷、
資源関連の開発投資の延期・先送りなど民需の力強い回復は見込み難い状況にある。政府は
油価下落に伴う歳入減から公的支出の削減が不可避なうえ、中銀も昨年大きく下落した通貨
リンギへの配慮から利下げには動き難い。政策的な後押しを期待できない中、2016 年の成長
率は 2015 年を下回る 4%台前半まで一段と減速する公算が大きい。
2015 年の実質 GDP 成長率は+5.0%と、2014 年(+6.0%)から鈍化
マレーシアでは、資源価格下落の影響などから景気減速が続いている。2015 年 10~12 月期の実質 GDP 成
長率は前年同期比+4.5%と、7~9 月期の同+4.7%と比べて若干ながら伸びが低下した。結果、2015 年の
成長率は+5.0%と、前年実績の+6.0%を下回り、リーマンショックでマイナス成長(▲1.5%)を記録し
た 2009 年以降で、最も低い成長率にとどまった。ただ、前期比(季節調整済)では+1.5%と、1 年ぶり
に伸びが高まる(前期は同+0.7%)など、景気減速に歯止めがかかる兆しも見られる。
10~12 月期は、投資が低調となる中で、個人消費が下支えの役割を果たした。需要項目別に見ると、個
人消費は前年同期比 4.9%増と、前期(同 4.1%増)から伸びを高めた。後述のように一部メーカーが 1
月から自動車価格の値上げを発表したことで年末にかけて駆け込み需要が発生し、同期間中の消費を押し
上げたと見られる。他方、民間投資(民間総固定資本形成)は同 5.0%増と、前期の同 5.5%増から鈍化
した。また、政府部門についても、政府消費が同 3.3%増(前期は同 3.5%増)、公的投資(公的総固定資
本形成)が同 0.4%増(前期は同 1.8%増)と、いずれも前期から鈍化している。
実質GDP(支出側)成長率の推移(前年同期比、寄与度、%)
実質GDP(供給側)成長率の推移(前年同期比、寄与度、%)
12
7
10
6
8
農林水産業
建設業
鉱業
サービス業
製造業
実質GDP成長率
5
6
4
4
2
3
0
2
-2
民間消費
総固定資本形成
純輸出
-4
-6
政府消費
在庫増減
実質GDP成長率
-8
Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4
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(出所)Depa rtment of Sta ti s ti cs 〈CEIC〉
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1
0
▲1
Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4
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(出所)Depa rtment of Sta ti s ti cs 〈CEIC〉
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠経済研
究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告
なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。
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輸出については、同 3.7%増と前期の同 3.2%増から加速、他方で輸入も同 3.6%増と前期の同 3.2%増と
比べて伸びが高まった。その結果、純輸出の寄与度は前期と同じ+0.3%pt と、2 期連続でプラスとなった。
供給サイドを見ると、主力の製造業とサービス業が堅調に推移する一方で、農林漁業や鉱業の不振、建設
業の伸び鈍化が全体の足を引っ張った。製造業は前年同期比+5.0%(前期は同+4.8%)と 2 期連続で加速
したが、2 ケタ増の続く電気・電子機器がけん引役となった。サービス業も同+5.0%と、前期の同+4.0%
から加速。内訳は、金融(▲1.3%)が 2 期連続でマイナスとなったものの、通信(+9.2%)、卸売(+9.2%)
、
不動産・事業所サービス(+6.2%)などが相対的に高い伸びとなった。
2015 年 10~12 月期の輸出はリンギ安を反映して前年同期比 8.1%増
10~12 月期の貿易動向(通関ベース)を見ると、輸出金額(リンギ)は前年同期比 8.1%増と、前期(同
5.5%増)と比べて伸びが高まった。また、リンギ安に伴う競争力の高まりを反映して、輸出数量も同 4.0%
増(前期は同 3.3%増)と、2 期連続の増加となっている(季調済前期比でもプラスを記録)。
輸出金額について品目別に見ると、2015 年輸出額の 16.5%を占める原油や天然ガスなど鉱物性燃料が同
16.4%減と、6 四半期連続で大幅なマイナスを記録したものの、4 割強を占める主力の電気・電子機器な
どの機械類が同 15.4%増(前期は同 15.2%増)と、2 期連続で高い伸びとなり、全体を押し上げた。相手
国別には、シンガポール向け(2015 年シェア 8.9%)が同 6.2%増、中国向け(シェア 8.3%)が同 10.8%
増、米国向け(シェア 6.0%)が同 23.2%増と拡大する一方で、日本(シェア 6.1%)は同 2.9%減、6 四
半期連続のマイナスと、主要国の中で出遅れがひときわ目立っている。
主要品目別輸出増減の推移(前年同月比、%)
輸出数量指数の推移(季節調整済、2005年=100)
60
石油及び石油製品
115
50
事務機器・計算機
110
40
通信・録音機器
105
30
20
100
10
95
0
90
▲ 10
85
▲ 20
80
▲ 30
▲ 40
75
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3Q
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1Q
3Q
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1Q
3Q
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1Q
3Q
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1Q
3Q
1Q 3Q 1Q 3Q 1Q 3Q 1Q 3Q 1Q 3Q 1Q 3Q 1Q 3Q 1Q 3Q 1Q 3Q
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(出所)Mi ni s try of Commerce 〈CEIC〉
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(出所)Mi ni s try of Commerce 〈CEIC〉
他方、輸入金額(リンギ)については同 3.7%増と、輸出同様、前期(同 2.9%増)から伸びが高まって
いる。品目別に見ると、2015 年輸入額の 16.0%を占める石油製品など鉱物性燃料が同 21.5%減(前期は
同 13.1%減)と、5 四半期連続の減少となったものの、4 割強を占める機械類が同 5.2%増(前期は同 5.8%
増)となったほか、衣料品などの工業製品も同 31.8%増(前期は同 23.8%増)と、高い伸びとなった。
輸入相手国別に見ると、シンガポールから(2015 年間シェア 12.0%)が同 2.7%減、日本から(シェア
7.8%)が同 2.9%減と減少する一方で、中国から(シェア 18.9%)が同 14.0%増、米国から(シェア 8.1%)
が同 16.7%増、タイから(シェア 6.1%)が同 21.8%増と大きく伸び、全体の増加をもたらした。
生産活動は、前述のように電気・電子機器など機械類の輸出が高い伸びとなっていることを反映して、堅
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調な拡大が続いている。10~12 月期の製造業の生産指数は前年同期比 4.8%増と、前期(同 4.7%増)と
比べてわずかながら伸びを高めた。機械類のほかにも、繊維・衣服など輸出向け製品が大きく伸びている。
ただし、10~12 月における設備稼働率は 75%と、7~9 月の 77%からさらに低下。2010 年 7~9 月以来の
低水準となっており、そうした状況下では、設備投資の増勢にもなかなか弾みがつかない。前述の GDP
統計ベースの設備投資を見ると、10~12 月期の固定資産投資(総固定資本形成)は前年同期比 2.8%増と、
前期の同 4.3%増から再び減速している。主体別の内訳を見ると、公的部門(同 0.4%増)、民間部門(同
5.0%増)ともに、前期(それぞれ同 1.8%増、同 5.5%増)から鈍化。また、内容別には土木建設が同 5.1%
増と、堅調な拡大が続く一方で、機械設備については同 0.1%減と、わずかながら 2 四半期ぶりのマイナ
スに転じている。
設備稼働率の推移(%)
固定資産投資の推移(前年同期比、寄与度、%)
85
30
80
25
その他
機械設備
20
75
土木建設
15
実質固定資産投資
70
10
65
5
60
0
▲5
55
Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3 Q1 Q3
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3Q
1Q
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(出所)Depa rtment of Sta ti s ti cs 〈CEIC〉
家計部門は比較的堅調に推移
他方、家計部門は物価の落ち着きもあって、10~12 月期には比較的堅調に推移した。2015 年 4 月の財・
サービス税(GST:税率 6%)導入前の駆け込み需要に伴う反動減の影響はすでに薄れている。例えば、
10~12 月期の小売販売額は前年同期比 7.5%増と、前期の同 6.1%増と比べて加速した。主要品目別に見
ると、飲食料品(同 9.4%増)
、教養娯楽用品(同 7.5%増)や情報通信機器(同 7.0%増)など、軒並み
前期(それぞれ同 9.2%増、同 5.5%増、同 5.2%増)と比べて伸びが高まっている。
また、足元 12 月の乗用車販売台数は前年比 10.1%増と、前月の同 1.5%増と比べて大きく伸びが高まっ
小売販売額の推移(前年同期比、%)
小売販売
情報通信機器
自動車
18
16
自動車販売台数の推移(季調済年率換算、台)
飲食料品
教養娯楽用品
750,000
700,000
商用車
12
650,000
乗用車
10
600,000
14
8
6
550,000
4
500,000
2
450,000
0
▲2
400,000
1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q
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1Q 3Q 1Q 3Q 1Q 3Q 1Q 3Q 1Q 3Q 1Q 3Q 1Q 3Q 1Q 3Q
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(出所)Depa rtment of Sta ti s ti cs 〈CEIC〉
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(出所)Ma l a y s i a n A utomoti v e A s s oci a ti on 〈CEIC〉
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た。リンギ安に伴う部品などの輸入コスト上昇を理由に、一部メーカーが 1 月から販売価格引き上げを発
表。値上げ観測の広まりから年末にかけて駆け込み需要が発生したと見られる。駆け込み相当分を割り引
いて見る必要はあるものの、当社で季節調整を施した季調済系列では 2015 年 10~12 月に年率換算 69.1
万台と、2015 年 4~6 月の 62.0 万台を底に、着実に水準が切り上がっている。
足元の物価動向については、落ち着いた状態が続く。12 月の消費者物価上昇率は前年比+2.7%と、前月(同
+2.6%)からわずかな上昇にとどまった。2015 年は 4 月の GST 導入や 11 月のたばこ税増税、さらに後
述のように通貨リンギが対ドルで大きく下落するなど、物価を押し上げる要因が重なったにもかかわらず、
油価の大幅下落がそうした押し上げ効果を打ち消した格好となっている。
消費者物価指数の推移(前年同月比、%)
6
耐久財
半耐久財
5
サービス
総合
非耐久財
外貨準備高(百万ドル)と対ドル・リンギレート(リンギ/ドル)の推移
150,000
2.900
140,000
3.100
130,000
3.300
2
120,000
3.500
1
110,000
3.700
0
100,000
3.900
90,000
4.100
▲3
80,000
4.300
▲4
70,000
2009/01 2010/01 2011/01 2012/01 2013/01 2014/01 2015/01
4.500
4
3
▲1
▲2
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(出所)Depa rtment of Sta ti s ti cs 〈CEIC〉
(出所)B a nk N eg a ra Ma l a y s i a s 〈CEIC〉
通貨リンギは 2015 年中アジアで最大の下落となったが、足元では底堅く推移
昨秋までアジア主要国で最大の下落幅を記録したリンギ相場は、通貨当局によるドル売り・リンギ買い介
入もあって下げ止まり、足元では底堅く推移している。対ドル・リンギレートは、2014 年秋頃までは 3.2
~3.3 リンギ/ドルのレンジの中で安定的に推移していたが、2014 年末以降の原油価格急落を受け、3.7
リンギ/ドル程度まで下落。その後 2015 年春頃にはいったん下げ止まるも、油価のさらなる下落から再
び低下を始め、同年 9 月には 4.5 リンギ/ドル近くまで下落した。
リンギがこれほどまでに大きく下落した要因としては、①主要輸出品である原油をはじめ一次産品価格の
下落に伴い貿易収支が悪化したこと、②外国人投資家による資本流出の動きが強まったこと、並びにリン
ギを買い支える原資となる外貨準備高が減少したことが指摘されている。外貨準備高については、2014
年 9 月末までは 1,200~1,300 億ドルをキープしていたが、2015 年 8 月の中国・人民元の大幅引き下げを
機に新興国通貨への下落圧力が強まる中、大規模なドル売り・リンギ買い介入を実施したため、同年 9 月
末には 1,000 億ドルを割り込んだ。対外短期債務残高に対する倍率も警戒水準と言われる 2 倍を大きく下
回る 1.10 倍まで低下した。さらに、③政府系投資会社ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)
を巡る不正会計疑惑がナジブ首相を巻き込んだ政治スキャンダルにまで発展。政治リスクの高まりに対す
る懸念も、リンギ売りに拍車をかけたと見られる。そうした中、格付け会社のムーディーズ・インベスタ
ーズ・サービスは 1 月 11 日、マレーシアのソブリン債格付けの見通しを「A3」の「ポジティブ(強含み)」
から「ステーブル(安定的)」に引き下げた1。
1
S&P(2015 年 12 月)
、Fitch(2 月)ともに「シングル A マイナス/安定的」で変更なしと発表。
4
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もっとも、足元でリンギ相場が堅調に推移しているのは、前述の下落要因それぞれが改善に向かっている
ことを示している。すなわち、①油価下落が一服するとともに、リンギ安によって工業製品の競争力が高
まり、前述のように輸出が持ち直しつつあり、貿易収支・経常収支ともに底打ちしている。また、②外国
人投資家による短期債の保有高が減少し、急激な資本流出が起こり難くい債務構成になっている。2014
年には約 50%に達していた対外債務残高に占める短期債務の割合は、2015 年 9 月末には 40%を割り込む
までに低下した。さらに、③法務局が 1MDB を巡る一連の疑惑に関する捜査終了を宣言し、政治的混乱
はひとまず終息している。こうして見ると、リンギ相場はなお脆弱な基盤の上にあるものの、売り圧力が
強まる状況からはひとまず脱したものと考えられる。
経常収支(内訳)の四半期推移(百万ドル)
15,000
第二次所得収支
第一次所得収支
貿易収支
経常収支
期間別対外債務残高と短期比率の推移(百万ドル(左)、%(右))
250,000
サービス収支
50
10,000
200,000
5,000
150,000
0
100,000
20
(5,000)
50,000
10
(10,000)
40
対外中長期債務
対外短期債務
短期比率(右)
30
0
1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q
2010
2011
2012
2013
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0
1Q2Q3Q4Q1Q2Q3Q4Q1Q2Q3Q4Q1Q2Q3Q4Q1Q2Q3Q4Q1Q2Q3Q4Q
2015
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(出所)Depa rtment of Sta ti s ti cs 〈CEIC〉
2011
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(出所)B a nk N eg a ra Ma l a y s i a 〈CEIC〉
2016 年は成長スピードが一段と減速する公算大
景気の先行きに対する不透明感の強まりを反映して、企業や消費者のマインドが悪化している。企業の景
況感を表す景気動向指数は直近 12 月調査時点で 87.1 と、9 月時点の 86.4 から若干持ち直したものの、景
気が良い・悪いの境目を示す 100 を 3 四半期連続で下回っている。
消費者心理はさらに悪化が顕著である。
消費者信頼感指数は 2014 年 6 月調査の 100.1 をピークに低下傾向が続いており、直近 12 月調査では 63.8
まで下落。この 63.8 という水準はリーマンショック直後の 2008 年 6 月に記録した 70.5 を下回り、1988
年の調査開始以来の最も低い水準である。
当面の需要動向を見通せば、個人消費については、製造業雇用者数が 8 か月連続で前年割れとなるなど雇
用情勢の悪化が続いていることに加え、名目 GDP 比 9 割近くにまで積み上がった巨額の家計債務が引き
続き足かせとなることから、力強い回復は見込み難い状況にある。また、資源価格の低迷長期化が予想さ
れる中、石油・ガス関連の開発投資の延期・先送りは避けられず、固定資産投資にも景気のけん引役は期
待できない。また、輸出に関しては、リンギ安に伴う競争力向上を背景に電気・電子機器の堅調な増加が
見込まれるものの、一次産品の世界的な需給改善の遅れから、全体としては伸び悩むことが予想される。
そうした中、連邦政府は 2016 年度予算において、石油・ガス関連企業からの歳入(税収、配当)が大幅
に減少する見込みであることから、歳出(公共投資や政府消費)削減を余儀なくされている。財政再建路
線の堅持は、現状の A 格付けを維持するうえでの必須条件のひとつであり、当面、財政面からの景気テコ
入れには全く期待できない状況と言える。
5
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伊藤忠経済研究所
景気動向指数と消費者信頼感指数の推移(良い悪いの分岐点=100)
家計債務残高の推移(%(左)、億リンギ(右))
130
95
120
90
85
110
80
5,000
住宅ローン(億リンギ)
個人ローン(億リンギ)
家計債務残高GDP比(%)
4,500
4,000
3,500
100
75
3,000
90
70
2,500
80
65
2,000
消費者信頼感指数
60
1,500
景気動向指数
55
1,000
50
500
70
60
50
45
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
0
2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
(出所)Ma l a y s i a n Ins ti tute of Economi c R es ea rch 〈CEIC〉
(出所)B a nk N eg a ra Ma l a y s i a 〈CEIC〉
同時に、金融政策も動き難い。マレーシア国立銀行(BNM)は 1 月 21 日の政策会合で市場の予想通り政
策金利(3.25%)を据置いたが、この先も大きく水準を下げたリンギ相場への配慮から景気刺激のための
利下げに踏み切ることは容易ではないと考えられる。
このように、財政・金融いずれも政策的な後押しを期待できない状況を勘案すると、2016 年の経済成長率
は 2015 年の+5.0%をさらに下回る+4.0%台前半まで、スピードが一段と減速する公算が大きい。
以上
6