スクロール圧縮機における非対称ラップの挙動および漏れ特性に関する研究

SURE: Shizuoka University REpository
http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/
Title
スクロール圧縮機における非対称ラップの挙動および漏
れ特性に関する研究
Author(s)
李, 丙哲
Citation
p. 1-107
Issue Date
URL
Version
2003-09-29
http://doi.org/10.14945/00003255
ETD
Rights
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籔鑛
理工学研究科 9,
0003528338R
纒難
静岡大学博士論文
スクロS・・一一・一”ル圧縮機における非対称ラップの挙動
および漏れ特性に関する研究
静
契
薗
書
2003年6月
大学院理工学研究科
設計科学専攻
李丙哲
目
次
第1章序 論・・・・・・・・…一・…一・・・…一・一・・一・…
1
1.1研究の背景 ・一■… “一一“一一一t−一・・“一◆一一一一一一一一一一一一一一一一“一一一・・
1
1.2従来の研究 ・一一一一・−t“一一一一一一一e−一“・一一・・一一一一一t−一一一一一一tt−・・
3
1.3本研究の目的 一・… ∵一一一・一一・・一・一・一・一・・一・一一
5
1.4本論文の構成 一一・一一◆一一… 一一t−一一一一・… 一“一一一一一一一一一一一一・・t“
6
参考文献 一一一一一一・・一一一一一一一“一一一一・・一一・一一’一“”一一’◆”一一’”t−’’”
7
第2章 圧縮機の構造 ・−e−e・・… …・・…・・・… e−・・…・・・・…
16
2.1スクロール形圧縮機の構造 ………………一・一一……
16
2.2スクロール形圧縮機の漏れ防止機構 ・一一・一一“一一一一e−一・一一・…
19
2.2.1軸方向すきまの漏れ防止機:構 一一一一…・… 一一一一◆一一…一一
19
2.2.2半径方向すきまの漏れ防止機構 ・“t−一一一一e・… 一一・・“一一
22
2.3組込体積比 ………∴・…−t…・一一……一一一一・………
23
参考文献・一一一一t−・一一一一一e−一・一一・“一一・一一一・一一一一一一“t−一・一一・一一一一一・
24
第3章 非対称スクロール圧縮機の挙動解析 ・・一・一・・一… …・
26
3.1緒 言一一一一一一一一一・一一一一・・◆一一・一一一t−一・一一・−t−一一“・−e…一一
26
3.2非対称スクロール圧縮機 ・“te−一一一一一一一一一一・一一… 一一一一・・一・・
27
3.2.1スクロー一…ル圧縮機 ・一・… …………・6◆・………
27
3.2.2非対称スクロールラップ ー一“一・一一t“・一一一一・・一一一“・一一…・
28
3.3基礎方程式 ・一一・一一一e“一一一一一一・一一◆・et−一・一一一一・一一t−一一一一一一・・
29
3.3.1ガスカおよびその作用点の変化 一一一一・一一一一一一一一一一・一一一・
29
3.3.2旋回スクロールにかかるカ ー一・一一・一一一一t−一一・…一一・…・
31
3.4結果および考察 ・一一一一一t−一一一・t−一一“一・・◆一一・一一・・一一一t・……
35
3.4.1計算条件 ・・一・一一・一一・一・一・一◆一・一一一一一一一
35
3.4.2旋回スクロール鏡板の挙動安定性 “一一一・…一一…・・一一一一
36
3.4.3自転モーメントおよびオルダムキーに作用するカ……
37
3.4.4設計変数の検討 … … ・…・40
3.5結 言・・・・・・・・・・・・・・ ・・… 42
参考文献 一一一t−一一・・一一一一 42
第4章 非対称スクロ・一・…ル圧縮機の挙動計測 ・・・・… −e−e・・… e−
44
4.1緒 言一一一“一“一“・一一・一一・一一一“・…一““一“te−・・一一…一一・・“一・
44
4.2非対称スクロール圧縮機 …・………・…・……・・…一一
45
4.3実験装置および方法 一一一・一一一t−一・一一… 一一… 一一e−一一一一・“一“−
46
4.4結果および考察 ・一……一∴一…・一…一一…・…・・−
48
4.4.1騒音および振動 ・一一・……・……・一“・・一一一一一t−一… 一“
48
4.4.2オルダムリングの挙動 ・一・一一一一・一一一・・一一’’”
51
4.4.3吐出しリード弁の効果 … …………一一一t・・一一……
54
4.4.4リード弁の最適化 一一e−・・一一一“一一“一一e−一“一・一一・“一・一一一一一一
57
4.5結 言一“一一・一一・…一一・−e・一一・…“e・・“一一一一一一“…・一一・“一・
62
参考文献 一一一・一一一一・一一“一一e・一一・・一一…t−・e−“一一一一一一… 一一…一一
62
第5章 チップシール部における漏れ特性 ……… ……・・…
65
5.1緒 言・・一一一一一一・一一一一一“e−・…“−et−一・一一一一一e−一一t−一・◆“一・
65
5.2理論解析 ・一一・一一t−一一一e・・… “t… 一一・・◆一一一一“一◆・一一一tt・…
66
5.3実験装置および方法 ・一一・… 一一一一一・・一一・… 一一一
69
5.4結果および考察 一一・一一一一…一一…t−一一・・一一““……一一一“…・
71
5.4.1解析モデルの比較 一一…・一“…一一…一一・・一一…・…一一一一
71
5.4.2実験結果および等価すきま … 一““t−一…一…−t・一一一一
73
5.4.3測定および解析結果の比較 一一……・一一一一一一・…・一一…
76
5.4.4チープシール高さの影響 一一一“一一一一・一一一“一一一一一一… …一一
81
5.4.5バックアップスプリングの影響 ・一“一一一“・…一一… …・・
81
5.5結 言一一・−t−一一一・一一t−・・一一一一・・“一一一・一一一一・一一一一…一一・・“一
83
参考文献 一一一一t−・・一一・・一一一t・t−・−t−一一一一◆一一一一・一一一一一t・一一一e−−t
83
第6章 半径方向すきま部における漏れ特性 …… …………86
6.1緒 言一一一一∵・一一・一・一一一一一一・・−t−t−一一一・・一一・“一一一・“t◆一一…
86
6.2実験装置および方法 一一e−・一一““−t・一一一一一t−一・一一e−一一“一一◆∴・
87
6.3理論解析 ・一一一・・−t−一・一一一一・・一・一一一一一一一t“一一一tt−一一一一“◆・一一
88
6.4結果および考察 ・・…“一…一一…・一一… 一一t−一一一∵・一一…・
89
6.4.1等価流路長さの計算結果 一“一一一一・一一一一ee−一・一一一一・一一一一一一
89
6.4.2静的実験結果 …一一……一一…一… 一一一一“一一“一“…°一一
も
6.4.3静的および動的実験結果の比較 一一e−−e・… 一一・−t−t−e・・
90
6.5結 言・・e−t−・一一・・一一・一一・◆−e・e−一一・…“一一一・・一一一一…一一
95
参考文献 ・一一一一一一t−・一“・一一一一一一… 一一・“一“t−“一一・一一・一一一一・一一一一一一・
95
第7章 結』 論
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…
94
@ 98
記号の説明 一一・t−−e−一・・・… −e・… 一一・“一・一一… 一“・t−一一一・・…
102
謝辞 … ◆◆・・・・・・・・・・・・・・・・・・… ◆◆・・・・・・・・・・・・… ◆・・…・◆◆
106
論文目録・一“…一一… 一“一一・・一一・…一一一一・e−・一一・一一一一一一・……“一
107
t
第1章 序
論
1.1 研究の背景
近年空調機器について,性能や快適性の向上およびコストに対する消費者
の要求がますます高まっており,また,地球環境保護のための環境適合性が
非常に強く求められている.1987年モントリオv−一一・一ル議定書により,地球のオ
ゾン層破壊係数および地球温暖化係数が大きいR22のようなHCFC(Hydro−−
chlorofluorocarbon)系フロン冷媒は,2020年になって全廃される. HCFC系
の冷媒を代替するために,塩素を含まずオゾン層を破壊しないR401AやR407C
などのHFC(Hydrofluorocarbon)系の混合冷媒を適用した空調機器の開発が
精力的に行われている.さらに,1997年に開催された地球温暖化防止京都会
議の結果では,地球温暖化係数が依然として大きいHFC系冷媒の排出規制を
付加するように決定され,・v地球温暖化係数が小さい二酸化炭素,炭化水素,
プロパンやイソブタンなどのような自然冷媒の適用研究も活発に進行して
いる.
さらに,空調機器に対する規制の根幹が冷媒に関わるオゾン層破壊係数お
よび地球温暖化係数だけではなく,機器の運転に伴うエネルギー消費,すな
わち二酸化炭素の排出を増加させる電力消費と密接に関係する機器運転時
のエネルギー効率も考慮した地球温暖化因子(TEWI:Total Equivalent
Warming Impact)を用いて,地球温暖化への影響度を評価する必要がある(1).
すなわち,TEWIは,冷媒そのものがもたらす直接地球温暖化因子と,空調機
器の電力消費に伴い排出される二酸化炭素がもたらす間接地球温暖化因子
で構成される.従って,TEWIの観点からの規制に対応するためには, HFC系
冷媒を用いた空調機器の高性能化が極めて重要である.圧縮機,蒸発器,凝
縮器,膨張弁で構成される空調機器の性能向上を達成するためには,空調機
器の心臓部として重要な役割を果たしている圧縮機の高効率化が必須の課
題である.
中小形の空調機器には一般に容積形冷媒圧縮機が使われており,往復式お
よび回転式の2種類がある.なかでも回転式が主流であり,それにはロータ
一1一
り形,スクロール形,スクリュ形がある.この中で,高効率,低騒音,低振
動,小型軽量,さらに高信頼性などの特徴を持っているスクロール圧縮機が
好んで使用される傾向にあり,その適用範囲も広がっている.このようなス
クロール圧縮機の性能を向上するために,吸込みガスの過熱防止,しゅう動
部の摩擦による機械損失の低減,圧縮室間の圧力差による漏れ損失の低減,
圧縮過程中の熱伝達損失の低減,吸込みおよび吐出し過程中の冷媒ガスの流
動抵抗の低減,モータの銅損および鉄損の低減など様々な観点から研究開発
が進められており,着実に圧縮機の性能向上が図られている.
一方,高効率化のみならず低騒音,小型軽量化といった複合的なニーズを
充足する方策として,代数ら旋ラップ(2),ハイブリッド形ラップ(3),非対称
ラップ(4)∼(6),旋回ピストンラップ(7)などの高性能なスクロールラップ形状
に関する研究が行われている.その中で,従来の固定ラップと旋回ラップと
が同一形状の対称スクロールラップの代わりに,固定スクロールのラップの
終端角を旋回スクロールのラップ終端角より大きくすることより比較的簡
単に実現できる非対称スクロールラップを適用する研究が脚光を浴びてい
る.このような非対称スクロ 一一ルラップを適用すると,ラップへの吸込み位
置が一ヶ所にまとまるので,対称スクロールラップの場合に比べて吸込み通
路が単純になり,吸込みガスの過熱や圧力降下が低減され体積効率が上がる.
また両スクロールラップから形成された一対の部屋の吸込み過程に位相差
があり,吐出しも交互に行われるので,流体の脈動要因が低減する.さらに,
対称ラップの場合の外周吸込み流路部を圧縮室として利用できるので,圧縮
機の外径寸法を変更せずに行程容積を増加することができるなどの特徴を
有する.しかし,従来の対称スクロールラップとの長短所の比較,旋回スク
ロールやオルダムリングなどの運動部材の動的挙動に関して,具体的に調べ
た研究は見当たらない.
また,スクロー・一…一ル圧縮機の体積効率と図示効率に直接影響を及ぼす圧縮室
間の内部漏れを適切に抑えることは,スクロール圧縮機の高効率化のために
重要な課題である.スクロール圧縮機における圧縮室間の内部漏れとしては,
圧縮室を形成する旋回スクロールと固定スクロールの噛み合わせからなる
軸方向すきまにおける半径方向の漏れと半径方向すきまにおける接線方向
一2一
の漏れが存在する.前者の漏れを抑える方法として,チップシールを用いる
方法や両スクロールを軸方向に押し付けてすきまを調整する方法などがあ
る.一方,後者の漏れを抑える方法として,可変クランク機構によりすきま
ぐミ
を調整する方法や固定クランク機構により極小のすきま管理を行う方法な
どがある.このような微小すきまにおける漏れ特性を把握するために,モデ
ル流路を用いる多様な実験的および解析的な研究が行われている.しかし,
軸方向すきまにおける漏れを減らすために最も一般的に使われているチッ
プシールに関して,チップシール部の漏れ特性を詳細に調べた研究,また,
半径方向すきま部において,旋回スクロールの旋回運動が漏れ特性に及ぼす
影響を検討した研究は,その研究の難しさのためにほとんど見当たらない.
本研究では,このような背景に基づいて,非対称ラップを持つスクロール
圧縮機について,動力学的な解析モデルを提案し,その解析結果を対称スク
ロールラップのスクロール圧縮機の結果と比較する.また,圧縮機のケーシ
ングの振動およびオルダムリングの挙動を測定し,非対称スクロールラップ
を適用した場合の問題点を把握してその改善案を提示する.さらに,スクロ
ール圧縮機におけるチップシール部および半径方向すきま部での漏れ特性
について,漏れモデル流路を用いて解析的および実験的に究明する.
1.2従来の研究
本研究で対象とするスクロール圧縮機iの基本原理は,1905年に米国で特許
(8)が取得されたが,スクロール形状に対して高精度の加工および測定技術が
必要とされた.そのため,長らく実用化されず,ようやく1970年代に入っ
てから米国のADL(Arthur D. Little)研究所でスクロール圧縮機に関する幅
\
広い研究が始まり製品化に向けた研究開発が本格化した.1981年に自動車エ
アコン用スクロール圧縮機(9)(1°)が世界で始めて日本で製品化されたことを
筆頭に,1983年にはヒートポンプ式パッケージ形エアコンにスクロール圧縮
機(9)(11)が搭載され,実用化が促進された.近年では,このようなスクロール
圧縮機の適用は,’自動車用エアコンを始め,ビルや業務用エアコン,家庭用
エアコン,列車用エアコン,海上輸送用冷凍ユニトなど様々な分野に広がっ
一3一
ている.それに伴い,スクロール圧縮機に関する研究が活発に行われている.
スクロール圧縮機に関する研究として,まず佐藤ら(12),森下ら(13),
Yanagisawaら(14),平野ら(15)によりスクロール圧縮機の基本的な幾何理論お
よびスクロールラップの形状に関する研究が報告されている.石井ら(16)∼(18)
は,スクロール圧縮機の動的挙動を明らかにするために,機械力学的解析法
を提示し,一定速と可変速スクロール圧縮機において,ガス圧縮特性,クラ
ンク軸の回転挙動,圧縮機本体の振動および各部品のしゅう動部での機械損
失および圧縮機全体の機械効率などに関する解析計算を行っている.さらに,
スクロールラップの高さおよび基礎円半径を各々独立に変化させた場合,こ
れらが機械効率と速度変動率に及ぼす影響を検討した.スクロv・・一一・ル圧縮機の
機械損失を低減するために,軸受部の摩擦摩耗に関する研究として,小鮒ら
(19)のスラストリング形状,表面粗さ,油粘度などがしゅう動損失に及ぼす影
響の解明,渡辺ら(2°)のスラスト軸受部の油膜解析を用いた負荷容量の計算,
Tsubonoら(21)の実機運転時スラスト軸受の摩擦係数の測定などの研究が行わ
れており,小山ら(22)(23)は実機運転条件でのすべり軸受の摩擦トルクなどを
測定して軸受特性を評価した研究を行っている..
また,スクロール圧縮機の効率を向上させるためには,総合損失に寄与す
る各要素別の損失量を明らかにする必要がある.このような分析技法として
は,性能解析や損失分析実験などが主に適用される.これに関しては,Bush
ら(24),Caillatら(25)は,スクロール基本設計変数を最適化して効率予測がで
きる解析モデルを提示し,末藤ら(26)は総合的な性能シミュレーション技法を
開発した.また, DeBloisら(27)は,圧縮機内の損失を分析するためのオン
ライン計測技術, Wagnerら(28)は,エネルギーおよびエクセルギー分析理論
に基づいた損失分析方法などを報告している.それ以外に,スクロ・一ル圧縮
機に関する研究としては,吸込みおよび吐出し過程に関する解析モデル(29)∼
(36),吐出し過程の可視化(37), 圧縮室内部の圧縮ガスの流動および熱伝達解
ノ
析(38)(39),スクロールラップの温度計測(4°),背圧調節弁による性能向上(41),
高効率化(42)∼(49)などが挙げられる.
r方,前節で述べたように,空調機器に対する総合的なニーズに対応する
ために,高効率のスクロール形状に関する研究が活発に行われている.しか
一4一
し,この中で特に製品化が先行している非対称スクロール(4)∼(6)については,
従来の対称スクロールとの挙動安定性(5°)∼(54)の比較,旋回スクロールやオル
ダムリングなどの運動部材の動的挙動などに関する具体的な研究事例は見
当たらない.
さらに,本研究では,スクロール圧縮機における軸方向および半径方向す
きまを通る漏れ特性を明らかにすることもねらいとしている.圧縮室の内部
漏れ特性を把握することにより,性能解析シミュレーションによる高精度の
効率予測が可能であるため,設計変数の検討に基づいて体積効率および図示
効率などの向上が可能となる.このような圧縮機の内部漏れ特性に関しては,
圧縮機の形式にかかわらず,数多くの研究(55)∼(63)が報告されている.特に,
スクロール圧縮機における軸方向および半径方向すきまでの漏れ特性に関
する研究としては,‘Huang(64)の数値流体力学を利用した2次元流動解析,
Ishiiら(65)の非圧縮性,粘性流れで扱った漏れ解析があり,Younら(66), Cho
ら(67)は,実機運転条件で漏れ抑制機構としてチップシールおよび固定クラン
クの漏れ特性実験を行っている..しかし,軸方向すきまを通る漏れを抑制す
る機構の中で,構造が簡単でありかつ優れたシール性能を有するチップシー
ルについて,チップシール部の漏れ(68),チップシールの挙動(69)(70)などを測
定した研究などはあるが,チップシールの寸法およびチップシールの挙動な
どが漏れ特性に及ぼす影響,旋回スクロールの旋回運動によって壁面が移動
する場合の漏れ特性などを検討した研究はほとんどない.
1.3本研究の目的
空調機器に対する消費電力の低減,快適性,低コストなどの社会全般に渡
る消費者の要求,政府次元でのエネルギー規制の強化要求などがますます増
大しており,このような要求を満足させられる研究の一環として非対称スク
ロールラップなどの高性能スクロール形状に関する期待が高まっている.し
かし,対称スクロールでは,軸方向ガスカおよび半径方向ガスカの作用点が
常に一定であるのに対して,非対称スクロールの場合では,これらの作用点
が変化し,運転圧力比が大きくなるほどその変化の幅が大きくなるという問
一5一
題点が存在する.この作用点の変化により旋回スクロールとオルダムリング
の挙動が不安定になり,異常音の発生や信頼性の低下が予想される.
また,本研究で対象とするスクロール圧縮機は,圧縮室間の軸方向および
半径方向すきまによる漏れ流動が発生し,この漏れ流動を低減するために,
漏れを抑制するシールメカニズムが使用されている.しかし,従来のR22よ
りも高圧となるR410Aのような冷媒を適用した場合には,圧縮室間の圧力差
が一層大きくなり,微小すきまを通る漏れ流量の増加により圧縮機の体積効
率や図示効率などは低下する傾向となる.従って,スクロール圧縮機の効率
向上のためには,漏れ抑制メカニズムによる圧縮室間の漏れ様式および漏れ
特性を明らかにし,それに関わる問題点を把握した上で改善策を提示する必
要がある.
そこで本研究では,前述したスクロール圧縮機における非対称スクロール
ラップの挙動および漏れ特性を明らかにするために,まず,可変クランク機
構を有する非対称スクロールに対して,旋回スクロールおよびオルダムリン
グの挙動解析(71)(72)を行い,旋回スクロールにかかるガス作用点の変化によ
る逆方向の自転モーメントの発生現象を究明し,圧縮機ケーシングの振動お
よびオルダムリングの不安定な挙動を測定(71)(73)して対称スクロールと比較
すると共に,その逆自転モーメントを最小化する解決案を提示する.また,
このようなスクロール圧縮機の性能を向上するために,チップシールを持つ
軸方向すきまを模擬iしたモデル流路を用いて,チップシール部の漏れ特性(74)
∼(76)を明らかにするとともに,曲面を持つ半径方向すきまを模擬したモデル
流路を用いて,壁面間の漏れ特性および壁面が移動する場合の漏れ特性(77)
を明らかにする.
1.4本論文の構成
本論文は全7章で構成されている.第1章は序論として,本研究の目的お
よび従来の研究について記述する.
第2章では,空調用スクロv−一・・ル圧縮機の基本的な構造を示し,その圧縮原
理や基本的なシールメカニズムの分析を行っている.
一6一
第3章では,可変クランク機構を持つ非対称スクロール圧縮機について,
旋回スクロV−・・“ルおよびオルダムリングなどの運動部材に対する動的な解析
モデルを提示し,旋回スクロールにかかるガスカの作用点変化による逆自転
モーメントの発生現象を究明すると共に,その逆自転モーメントに影響を及
ぼすスクロールラップの設計変数について検討を行う.
第4章では,可変クランク機構を持つ非対称スクロール圧縮機について,
圧縮機のケーシングの振動およびオルダムリングの不安定挙動を測定し,そ
の問題点を明らかにする.ざらに,逆自転モーメントによる振動を最小化す
るために,リード弁の装着を提案し,そのリード弁形状の最適化を行う.
第5章では,スクロール圧縮機のシール機構として使われているチップシ
ールの漏れ特性を明らかにするために,モデル流路を持つ実験装置を製作し,
その実験結果を4つの解析モデルの計算結果と比較検討する.また,チップ
シール寸法の変化による漏れ量の変化およびチップシールの背面にバック
アップスプリングを設けた場合の漏れ低減効果などについて検討を行う.
第6章では,スクロール圧縮機の半径方向すきまにおける漏れ損失を調べ
るために,旋回スクロールの旋回運動による壁面の移動も考慮可能なモデル
流路を持つ実験装置を製作し,その実験結果を解析モデルの計算結果と比較
する.
第7章は結論として,本論文を総括する.
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損失,平成3年度日本冷凍協会講演論文集,(1991.11),141.
(20)渡辺・橋爪・福原・西脇,スクロールコンプレッサ用スラスト軸受の
油膜解析,日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集,
(1996.10ン, 84.
(21)Tsubono, 1., Terai, T., Inaba, K., Sekiguchi, K. and Shimada, A.,
b
In−situ Measuring of the Friction Coefficient at the Thrust
i
Bearings of Scroll Compressors, International Conference on
Compressors and their Systems at London, (1999), 697.
(22)小山・坪野・田村・関口,スクロール圧縮機での軸受摩擦トルク測定,
第33回空調・冷凍連合講i演論文集,(1999.4),109.
(23)小山・坪野・島田・関口,スクロール圧縮機の軸受特性に関する実験
的検討および理論解析,日本機械学会東海支部浜松地区講演論文集,
(1999.9), 130
(24)Bush, J.W.,Caillat,J−L, and Seibe1,S.M.7−Dimensiorlal Optimization
of Scroll Compressor, Proceedings of International Compressor
Engineering Conference at Purdue, (1986), 840.
(25)Caillat, J−L, Ni, S. andDaniels, M., AComputer Model for Scro11
−9一
Compressors, Proceedings of International Compressor Engineeri五g
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(26)末藤・椎林・東條,密閉形スクロv−・一・・ル圧縮機の性能解析,日本冷凍協
会論文集,10−・2,(1993),319.
(27)DeBlois, R. L. and Stoeffler, R. C., Instrumξ}ntation and Data
Analysis Techniques for Scroll Compressor, Proceedings of
International Compressor Engineering Conference at Purdue, (1988),
182.
(28)Wagner, T.C. and DeBlois, R.L., Energy and Exergy Analyses of the
Scroll Compressor , Proceedings of I『nternational Compressor
Engineering Conference at Purdue, (1994), 665.
(29)荒田・富田・椎林・村山,スクロール圧縮機の過圧縮現像とその低減
法,第22回空調・冷凍連合講i演論文集,(1988.4),25.
(30)鄭・柳沢・福田・清水,スクロール圧縮機における吐出しポートの性
能への影響,昭和63年度日本冷凍協会講演論文集,(1988.11),29.
(31)Nieter, J. J., Dynamic of Scroll Suction Process, Proceedings of
International Compressor Engineering Conf(江ence at Purdue, (1988),
℃
165.
(32)Nieter, J. J. andGagne, D.P.,Analytical Modeling ofDischarge Flow
Dynamics in Scroll Compressors , Irfternational Compressor
Engineering Conference at Purdue, (1992), 85.
(33)Myszka, D., AnAnalytical Model for theDischarge Process in Scroll
Compressors, International Cbmpressor Engineering Conference at
Purdue, (1998), 625.
(34)伊藤・藤谷・酒井,スクロール圧縮機の吐出圧力脈動解析,日本機械
学会論文集(B編),67−661,(2001),2166.
(35)伊藤・藤谷・酒井,スクロール圧縮機の吸入圧力解析,日本機械学会
論文集(B編),67−664,(2001),2977.
1
(36)伊藤・藤谷・酒井,複合メッシュを用いたスクロール吐出脈動の解析,
流体熱工学研究,37−1,(2002),33.
一10一
(37)Rodgers, R. J. and Wagner, T. C., Scroll Compressor Flow Modeling:
《 L
Experimental and Computational Investigation, International
Compressor Engineering Conference at Purdue, (1990), 206.
(38)Zhu, J. and Ooi, K.T., Prediction of Flow and Heat Transfer within
a Scroll Compressor Working Chamber, Proceeding of the ASME
Advanced Energy Systems Division, AES−Vo1.37, 463.
(39)Pietrowicz, S., Yanagisawa, T., Fukuta, M. and Gnutek, Z.,
Mathematical Modeling of Physical Processes in the Scroll
Compressor Chamber, International Compressor、 Engineering
Conference at Purdue, (2002), C20−6.
(40)Jang, K. and Jeong, S., Temperature and Heat Measurement inside
Variable−Speed Scroll Compressor, 20th International Congress of
Refrigeration IIR/IIF, Vo1.3, (1999), Paper109.
(41)坪野,早瀬,竹林,稲場,関口,島田,背圧制御機構によるエアコン
用スクロ}ル圧縮機の高性能化(第1報:背圧制御法の理論解析),日
本冷凍空調学会論文集,18−4,(2001),377.
s
(42)Hirao, T., Matsumura, N. and Takeda, K., Development of High
Efficiency Scroll Compressor for Air Conditioners, International
Compressor Engineering Conference at Purdue, (1988), 65.
(43)Bush, J.W. and EIson, J.P., Scroll Compressor Design Criteria for
Residential Air Conditioning and Heat Pump Applications, Part I:
Mechanics, Part II: Design Criteria, International Compressor
Engineering Conference at Purdue, (1988), 83.
(44)平野・関田・小林・平林・武田,ルームエアコン用高効率低騒音スク
ロール圧縮機の要素技術開発,三菱重工技報,30−5,(1993),395.
(45)石井・山本・山村・高橋・村松,インボリュート形スクロール圧縮機
の高機械効率化(寸法の最適値に関する一考察),ターボ機械,21−10,
(1993), 7.
(46)Hase, S., Sano, K., Yamamoto, S., Hirano, H., Kohayakawa, T. and
Ishii, N., Development of the High−Effigiency Horizontal−Type
一11一
Scroll Compr’essor, International Compressor Engineering
Conference at Purdue, (1994), 447.
p <
(47)Moromoto, T., Yamamoto, S., Hase, S., Yamada, S. and Ishii, N.,
Development of a High SEER Scroll Compressor, International
Compressor Engineering Conference at Purdue, (1996), 317.
(48)李丙哲・金善瑛・趙洋煕・李鎮甲,パッケージエアコン用高効率スク
ロール圧縮機の開発,平成8年度日本冷凍協会講演論文集,(1996.11),
1.
㏄
(49)Fushiki, T, Sano, F., Ikeda, K二, Nishiki, T., Sebata, T., Tani,
M. and Sekiya, S., Development of Scroll Compressor with New
Compliant Mechanism , International Compressor Engineering
Conference at Purdue,・ (2002), C18−3.
(50)荒田・内川,スクロール圧縮機スクロール駆動系の挙動解析,空調・
冷凍20周年記念大会講i論集,(1986.4),121.
(51)Morishita, E., Sugihara, M., and Nakamura, T., Scroll Compressor
Dynamics (1nd Report, The Model for the Fixed radius Crank),
Bulletin of JSME, 29−248, (1986), 476.
(52)Morishita, E., Sugihara, M., Inaba, T. and Kimura, T., Scroll
Compressor Dynamics (2nd Report, The Compliant Crank and the
Vibration Mode1), Bulletin of JSME, 29−248, (1986), 483.、
(53)椎林・東條・荒田・内川,指圧線図解析に基づく旋回スクロールに作
用する力と挙動の解析,日本冷凍協会論文集,5−2,(1988),53.
(54)森・柳沢・清水・田上,スクロv・一一・・ル圧縮機における旋回スクロールの
力学的挙動解析(自転運動の解析),日本機械学会論文集(B編), 61−−582,
(1995), 536.
(55)Yanagisawa, T. and Shimizu, T., Leakage Losses with a Rolling
Piston Type Rotary Compressor, International Journal of
Refrigeration, 8−2, (1985), 75.
(56)Caillat, J−L.’, Ni, S and Daniels, M., A Computer Model for Scroll
Compressor, International Compressor Engineering Conference at
ら
一12一
’.
Purdue, (1988), 47.
(57)Costa, C.M. F. N., Ferreira, R. T. S. and Prata, A. T.,
Considerations about the Leakage through the Minimal Clearance in
t (ぶ
aRolling Piston Compressor, International Compressor Engineering
Conference at Purdue, (1990), 853.
(58)Xiuling, Y., Zhiming, C. and Zhen, F., Calculating Model and
Experimental Investigat/ion of Gas Leakage, International
Compressor Engineering Conference at Purdue, (1992), 1249.
(59)上川・萩原,圧縮機内部漏れの研究,日本機会学会東海支部浜松地方
’言i静論集No933−2, (1993.7), 107.
(60)Zhen, F. and Zhiming, C., A Calculating Method for Gas Leakage in
Compressor, International Compressor Engineering Conference at
Purdue, (1994), 47.
(61)福田・柳沢・清水・伊達・小木,微小すきまを流れる冷媒一油混合物の
流動特性,日本冷凍協会論文集,13−2,(1996),175.
(62)Fragerli, B.,CO2 Compressor Development, Workshop Proceedings−−CO2
Technology in一Refrigeration, Heat Pump and Air Conditioning
Systems, (1997), 295.
(63)Prins, J. ,and Ferreira, C. A.1., Quasi One−Dimensional
Steady−−State Models for Gas Leakage, Interna・tional Compressor
Engineering Conference at Purdue, (1998), 571.
(64)Huang, Y., Leakage Calculation through Clearances, International
Compressor Engineering Conference at Purdue, (1994), 35.
(65)Ishii, N., B .ir d, K., Sano, K., Oono, M., Iwamura, S. and Otokura,
T, Refrigerant Leakage Flow Evaluation for Scroll Compressors,
International Compressor Engineering Conference at Purdue, (1996),
633.。
(66)Youn, Y., Cho, N.K., Lee, B. C. and Min, M.K., The Characteristics
of Tip Leakage in Scroll Compressors for Air Conditioners,
Proceedings of 2000 1nternational Compressor Engineering
一13一
二
Conference at Purdue, (2000), 797.
(67)Cho, N. K., Youn, Y., Lee, B. C. and Min, M. K., The Characteristics
of Tangential Leakage in Scroll Compressors for Air Conditioners,
International Compressor Engineering Conference at Purdue, (2000),
807.
(68)Inaba, T., Sugihara, M., Nakamura, T., Kimura, T. and Morishita,
E., AScroll Compressor with Sealing Means and Low Pressure Side
Shel1, International Compressor Engineering Conference at Purdue,
(1986), 887.
(69)Hirano, T., Matsumura, N. and Taketa, K., Development of High
Efficiency Scroll Compressor for Air Conditioners, International
Compressor Engineering Conference at Purdue, (1988), 65.
(70)Ance1, C∴Lam。ine, P. and Didier, F, Tip Sea1 Behavi。r in Scr。11
Compressor, International Compressor Engineering Conference at
Purdue, (2000), 691.
(71)LEE, B. C., Yanagisawa, T.,Fukuta, M., Cho, Y. H. and Lee, D. S.,
A Study on the Dynamic Characteristics of an Asymmetric Scroll
Compressor, Proceedings of Joint International Conference on the
Advanced Science and Technology at Hangzhou, China, (2001), 200.
(72)李丙哲・張英逸・趙洋煕・金賢振・柳沢,可変、クランク機構を有する非
対称スクロール圧縮機iの挙動解析,日本機械学会論文集(C編),67−664,
(2001), 3708.
(73)李丙哲・柳沢・李東沫・趙洋煕,可変クランク機構を有する非対称スク
ロール圧縮機iの挙動計測,日本機i械学会論文集(C編),68−672,(2002),
2286.
(74)LEE, B. C.,Yanagisawa, T.,Fukuta and Choi,S.,AStudy on the Leakage
Characteristics of Tip Seal Mechanism in the Scroll Compressor,
International Compressor Engineering Conference at Purdue, (2002),
663.
(75)LEE, B. C. , Yanagisawa, T., Fukuta and Choi , S. , Leakage
−14一
2
Ch ar acteristics of the Scroll Compressor Having Tip Seal as a
Sealing Mechanism, International Joint Symposium on Advance
Studies in Mechanical Engineering at Kyongju, (2002), 45.
(76)李丙哲・柳沢正・福田充宏・崔松,スクロール圧縮機におけるチップ
シールの漏れ特性,平成14年度日本冷凍空調学会講演論文集,
(2002.11), 205
(77)李丙哲・柳沢正・福田充宏・室野,スクロール圧縮機の半径方向すき
ま部における漏れ特性,第37回空調・冷凍連合講i演論文集,(2003.4),
83.
J
一15一
第2章圧縮機の構造
2.1スクロール形圧縮機の構造
本研究で対象とする空調用スクロール圧縮機の構造を図2.1に示すω.ケ
ーシング内部の上下部にメインフレームと下部フレームが設けられており,
この両フレームの間にモータ固定子がケーシングの内周面に圧入され,モー
タ回転子は固定子の内周面に挿入される.回転子の中央部をクランク軸が貫
通し,両フレームにより支持される.円のインボリュート曲線でラップ
(Wrap)が形成された旋回スクロールは,メインフレームの上面部に載せられ
て,偏心したクランク軸と結合して旋回運動を行う.旋回スクロールの上側
には,固定スクロールが載せられ,メインフレームとねじで締結される.こ
の両スクロ・一ルの噛合せによって圧縮室が形成される.また,メインフレー
’一一’、一ここ〉、、
@ \へ.Fixed scro‖
一繰・鴻診∨
\Dischar
蒙
Orbiting scrolI
Wrap
@ SIide bush
Oldham
z冊’%’
_Sucti。n
@Main frame
Casingノ
三
rtator
@ Crank shaft
qotor
kower frame
nil
rlli
=
@ A←一一一一一一一一一●
一
l l l
図2.1 スクロール圧縮機の構造
一16一
ムと旋回スクロールの間には,自転防止機構であるオルダムリングが挿入さ
れている.このようなスクロール圧縮機は,モータに電源を印加すると回転
子と共にクランク軸が回転し,このクランク軸の回転によって旋回スクロー
ルが駆動される.旋回スクロールはオルダムリングによって,軸中心から一
定の旋回半径を保ちながら旋回運動を行う.
吸込み管を通ってケーシング内に入った冷媒ガスは,仕切り板に衝突して
分流され,大半は直接吸込み口に流入するが,一部はモータ冷却後流入する.
吸込み口に入った冷媒ガスは,一対のスクロールラップの外周部から吸込ま
れたのち,旋回スクロールの旋回運動によってスクロールラップの中心部に
向かって圧縮されて高温高圧のガスになり,固定スクロールの吐出し孔を通
って吐出し室を経由して吐出し管からエアコンサイクルに吐出される.一方,
ケーシング下部の油貯めにある油は,クランク軸下端部のポンプから給油孔
を沿って吸い上げられ,圧縮機構部の各しゅう動部に給油される.その後,
油の大部分は油貯めに戻るが,一部は吸込みにガスに混入して圧縮室に入る.
d
⇒
Compression p
s
Chambers
Suction
gas
Orbiting scroll
Dis
θ=0°
倉
↓
φ
Fixed scro
θ=270°
図2.2 スクロールの作動原理
一17一
θ=180°
図2.2にスクロール圧縮機の作動原理(2)を示す.固定スクロールに対して,
旋回スクロールは一定の旋回半径を保ちながら180°の位相差を持ってかみ
合わされ,多数の三日月状の部屋を形成する.クランク軸が回転角度θ =
0°の時,両スクロールの最外周部に圧力P1を持つ一対の部屋が形成され,
クランク軸がθ =90°,180°,270°の順に回転するに従って,旋回スク
ロールが固定スクロールの周りを旋回すると,これらの部屋は両スクロール
の中心に向かって連続的に移動される.クランク軸がもっと回転して450°
付近になると,一対の部屋は一つに合わせ始まり,この部屋内部の圧縮ガス
は,固定スクロールの中心に設けてある吐出し孔を通って吐出される.この
ような吸込み過程から吐出し過程までは,クランク軸の2∼3回転が所要さ
れる.従って,スクロ・・一・一一・・ル圧縮機は圧縮過程が長く,冷媒ガスが徐々に圧縮
されるので,トルク変動が他の圧縮機に比べて非常に少ないという利点があ
る.
一方,図2.3に示すように圧縮過程中の中間圧力PIを持つ一対の圧縮室に
注目すると,吸込圧力Psを持つ低圧室への漏れは,スクロー一一・・一ルラップの先端
面と相対するスクロール底板からなる軸方向すきまを通る半径方向漏れと,
スクロールラップの高さに相対する両スクロールラップの側面からなる半
一Radial leakage through axial clearance
angential leakage through radial clearance
Fixed scrolI
/
rbitmg scroll
図2.3 スクロール圧縮機の漏れ流路
一18一
径方向すきまを通る接線方向漏れがある.
2.2スクロール形圧縮機の漏れ防止機構
スクロール圧縮機の性能向上を図るためには圧縮室の内部漏れを減らし
て図示効率や体積効率を上げることが重要である.スクロール圧縮機の圧縮
つ
室間の微小すきまにおける漏れを防止するためには漏れ防止機構と呼ばれ
るシールメカニズムが必要であり、その主な構造について以下に述べる.
2.2.1軸方向すきまの漏れ防止機構(Axial Sealing Mechanism)
旋回スクロールおよび固定入クロールをかみ合わせた時,ラップの先端と
底板によって形成される軸方向すきまにおける半径方向の漏れを防ぐため
に設ける漏れ防止機構である.特に軸方向すきまのシール長さは半径方向す
きまのシール長さに比べてかなり大きいために漏れ流量も多く,漏れ損失を
減らして圧縮機の性能を向上するために最も重要な機構である.
(1)チツプシール(Tip Seal)
図2.4に一般的なチップシールの構造(3)を示す.スクロールラップの先端部
に溝を加工し,その溝の中にチップシールを入れることによって軸方向の漏
Tip seaI
瀧捌’一一
纏》影/…li滋lili》…笏i霧1…1診…IX髪i/i
弓
さ’意
@ 蒙黙
…/…’・iペへ Low pressu
iミ・§/…§1…1・/‖i/…
@ 汰
@ i§i
@ ii/’ rbiti喰1ミミミISC「°lllli 蕊
ミl/
ミ、ミミiミミiミミミミiミ§§ミミミiきii…|・ミミミiiミ|華i…ミ,ミミi≒iミ〉ミ、ミ・ミ
ミミミ§§//i
Before the operation During the operation
図2.4 チップシール
一19一
れを防止する方法である.この方式を適用した場合,シールは比較的容易で
あるが,シール溝の加工時間がかかり、量産性が落ちたり,樹脂材のチップ
シールを適用した場合は高温高圧になる厳しい運転条件で溶けたり摩耗す
ることがある.この問題を解決するため,薄層の金属シールを重ねて入れて
シールする場合もあるが,組立上の難しさなどの課題が残っている.
(2)旋回スクロール背圧方式(Gas Loading of Orbiting Scroll)
図2.5に旋回スクロール背圧シール方式(4)を示す.圧縮されている中間圧の
圧縮室の冷媒ガスの一部を旋回スクロールの底板にあけられた小孔を通し
て背面に導いた中間圧と,油溜りから吸上げられた油の圧力の組合せによる
力で,旋回スクロールが固定スクロールに押し付けられ,軸方向のすきまが
縮められて漏れを低減する方法である.この方式は構造的に部品の点数が少
なく,スクロール部の大きさも小さくできるが,様々な運転条件でシールカ
が大きく変化したり,旋回スクロールの転覆モーメントが変化したりして,
性能に悪影響を与える.最近背圧調節機構という装置を取付けることによっ
て運転条件が変わっても押付け力,つまりシールカが一定になり,うまくシ
ールできる構造も提案されている(5).
ame
ft
図2.5 旋回スクロール背圧方式
一20一
(3)固定スクロール背圧方式(Gas Loading of Fixed Scroll)
図2.6に固定スクロール背圧シール方式(6)を示す.圧縮されている中間圧の
圧縮室の冷媒ガスの一部を固定スクロールの底板にあけられた小孔を通し
て背面に導いた中間圧と,吐出ポートから吐出された吐出ガスの吐出圧の組
合せによる力で,固定スクロールが旋回スクロールに押し付けられ,軸方向
のすきまを縮めて漏れを低減する方法である.この方式では固定スクロール
をばねで支えているので,旋回スクロール背圧方式に比べて押付け力が安定
し,良好なシールができて圧縮室間の漏れが最も少ない方式と言われている.
しかし背圧室を構成する部品が多く複雑になることと,シールカが旋回スク
ロールを支えるスラスト部にかかり,摩擦による機械損失か増えてくる短所
がある.
Fd
↓Fs
Th
ft
図2.6 固定スクロール背圧方式
一21一
2.22半径方向すきまの漏れ防止機構(Radial Sealing Mechanism)
(1)固定クランク (Fixed Crank)
図2.7(a)に固定クランク方式を示す.旋回スクロールの旋回半径が部品の
加工寸法と組立公差によって決まる方式で,半径方向のすきまは部品の加工
と組立精度によって変わってくi6.この方式ではラップの半径方向に一定の
すきまが存在し,可変半径の場合のように遠心力が旋回スクロールのシール
面に作用することもないので,広い回転数範囲で運転されるインバータ用圧
縮機によく使われる方式である.しかし半径方向のすきまが固定されている
ために,異物が圧縮室に入り込んだり,液圧縮したりするとラップが破損さ
れて信頼性の問題が起こる可能性がある.
(2)可変クランク (Variable Crank)
図2.7(b)に可変クランク方式を示す.
この方式では軸のクランクピンと旋
冗聯鷲絃線’薇態哀撚 v
?奄燕
羅
羅難灘
霧難鑛懸
灘 裟
頴 i灘灘
難 彩灘灘
灘灘鑛灘撚
講 灘灘
難
・ 蒙蕪
厘 鍵
叢羅
ぎ灘
撚 灘灘
慧一
蕪鑛灘難灘羅
継
湿x襟
渓灘灘灘
搏蜥ヤ
襟熟難
羅
繊欝
難瀞
羅難霧
灘藷
澄 w若詫ぐτ
6r=0
6r
声
\Cranksha廿/麟
(a)固定クランク方式
(b)可変クランク方式
図2.7 半径方向漏れ防止機構の概念図(7)
−22一
回スクロールとの間にスライドブッシュが設置ざれており,このスライドブ
ッシュがスライドすることにより旋回スクロールの旋回半径が変化する方
式である.旋回スクロー一ルは加工や組立⊂の誤差があっても固定スクロールラ
ップ壁面と常に接触して旋回運動することができるので,漏れにくく性能向
上が図られる構造である.しかし,インバータ用に適用した場合には低速域
で遠心力が小さくなってシールカが減り,半径方向すきまでの漏れが生じる.
また,逆に高速域では遠心力が非常に大きくなってラップ間の摩擦による損
失が増えて性能が落ちると共に,ラップの強度が問題になって信頼性が低下
する.
スクロール圧縮機の高効率を達成するためには,上記に述べたようなシー
ル構造を用いて圧縮室における内部漏れを抑制することが極めて重要とな
る.しかし圧縮機内部のすき間における漏れ特性は各々のシール機構によっ
て異なり,さらにハウジング内部の圧力,油と冷媒の種類,部品寸法によっ
ても漏れのパターンが変わってくるため,スクロール圧縮機の性能向上を達
成するためには,実験的および解析的に各々のシール構造における圧縮室の
漏れ特性を把握することが必要である.本研究で対象とするスクU一ル圧縮
機は,漏れ防止機構として,軸方向すきまにはチップシール,半径方向すき
まには可変クランク方式を用いる.
2.3組込体積比
一般に,円のインボリュートを用いるスクロールラップの形状によって形
成されたスクロv−一ル圧縮機の吸込み行程体積γsは,図2.2に示した回転角θ
が0°の時,一対の最外周圧縮室の容積で決まり,その値は次式で求まる(8).
(2.1)
Vs= 2zharα(2φe−3π)
ここで,aはインボリュートの基礎円半径, hはラップの高さ,r、は旋回半
径(=(p−2t)/2), tはラップの厚さ,p(=2π∋はピッチ,φ。はインボリュート
の終端角である.また,吐出し行程体積Vdは次のように表される.
一23一
(2.2)
Vd=2クrharα(2φa+π)
ここで,φ、は内側インボリュートの始端角である.吸込み行程体積γsと吐
出し行程体積γdの比を組込体積比とし,次のように表す.
λ一互=2φ・−3π
(2.3)
Vd 2φa+π
ここで,本研究に用いたスクロール圧縮機においては,インボリュートの基
礎円半径a ・=2.3mm,ラップの高さh=28.9mm,旋回半径ra:3.48 mm,
ピッチp=14.45mm,ラップの厚さt=3.75 mm,インボリュートの始端角
φ。=245°,インボリュ←トの終端角φ。=1045°,吸込み行程体積V、 ・ 39.3cm3,
吐出し行程体積Vd=17. O cm3である.従って,組込体積比λ=2.31となり,
この組込体積比は通常の運転圧力比(P。p/Pdn=3.4)に比べてかなり小さい値
である.
参考文献
(1)李丙哲・張英逸・趙洋煕・金賢振・柳沢,可変クランク機構を有する非
対称スクロール圧縮機iの挙動解析,日本機械学会論文集(C編),67−664,
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機への適用,日立評論,65−6,(1983),31・
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International Compressor Engineering Conference at Purdue, (1990),
425. .
ン
L
一25一
第3章 非対称スクロール圧縮機の挙動解析
3.1 緒
言
近年,空調機に対する性能および快適性の向上要求が高まっており,高効
率および低騒音の研究が活発に行われている.また低コストに対する市場二
v…一・
Yが増大しており,部品点数低減,小型軽量化などの低価格化研究にも拍
車がかかっている.空調機用の容積型冷媒圧縮機の中では,高効率,低騒音,
さらに低振動の特徴を有するスクロール圧縮機が好んで用いられる傾向にあ
り,その適用範囲も漸次広がっている.
スクロール圧縮機の高性能化に関して,今までに,圧縮室の漏れ防止機構
の最適化による図示損失の低減(1),実機運転状態で軸受摩擦トルクの測定に
よる機械損失の低減(2)および静音化のための放射音の低減(3)など多くの研
究が行われてきている.スクロール圧縮機の小型軽量化をめざしたスクロー
ルラップ形状については,従来のものよりラップ高さを10%ほど低減できる
代数ら旋形ラップ(4)や行程容積を20%ほど増加できるハイブリッド形ラッ
プ(5)などに関する研究が行われている.
一方,高効率や低騒音,小型軽量化といった複合的な空調機器に対する二
V・一一・
Yを充足する方策として,固定スクロールと旋回スクロールでラップの終
端角が異なる非対称スクロールラヅプの適用が研究されている(6)(7).しかし,
従来の対称スクロールラップとの長短所の比較および旋回スクロールやオル
ダムリングなど運動部材の動的挙動に対する具体的な解析モデルを提示した
研究は見当たらない.
本研究では可変クランク機構を持つ非対称ラップスクロール圧縮機につい
て,旋回スクロールとオルダムリングの挙動解析モデルを提示し,その動力
学的な解析に基づいて対称ラップスクロ 一一ルの場合と比較した.特に旋回ス
クロールにかかるガスカの作用点変化による逆方向の自転モーメントの発生
現象を究明するとともに,その逆自転モーメントに影響を及ぼす組込体積比,
スクロールの基礎円中心のずれ量,オルダムリングキーの角度位置などスク
一26一
ロールラップの設計変数について検討した(8).
3.2 非対称スクロール圧縮機
3.2.1 スクロール圧縮機
本研究で対象とするズグロール圧縮機(外径145.4mm,高さ316 mm)を図
3.1に示す.吸込み管を通ってケーシング内に入った冷媒ガスは一対のスク
ロールラップの外周部から吸込まれたのち,スクロールラップの中心部に向
かって圧縮されて高温高圧のガスになり,固定スクロールの吐出し孔を通っ
て吐出し室を経由して吐出し管から吐出される.圧縮室間のガス漏れを防止
するために,軸方向すきまにはチップシールが,半径方向すきまには可変ク
ランク機構のスライドブッシュが用いられている.
( 、\ 、
Fixed scroll
\ Discharge pipe
nrbiting scro‖
@ Slide bush
Oldham ring
\Sucti。n pipe
@Main frame
Casingノ
三
rtator
@Crank shaft
qotor
kower frame
’]、i
@ ー一一一一一一
l l l
図3.1 スクロール圧縮機の構造
一27一
3.2.2 非対称スクロールラップー 「
圧縮室を構成する旋回スクロールと固定スクロV−一一ルのラップ終端角が異な
る場合を非対称スクロールラップといい,普通は非対称性の最大の効果を得
るために固定スクロールのラップ終端角il。fが旋回スクロールのラップ終端角
φesより180°大きい非対称形状が用いられる(7).
図3.2に対称スクロールと非対称スクロールのラップ形状およびガスカの
作用点の相違を示す.図3.2(a)のインボリュート曲線からなる対称スクロー
ルの固定ラップ終端角を延長するとともに,一対の圧縮室の間で組込体積比
が同等となるように旋回ラップの始端角を若干増加して図3.2(b)の非対称ス
クロールラップが得られる.対称スクロールラップを非対称化することによ
ってラップへの吸込み位置が一ヶ所にまとまり,吸込み通路が単純化し,吸
Orbiting scroll
Orbiting scroll suction
wrap
B
A
B
A
Suction Fixed scro‖
wrap
Suction
Ft F
Fixed scro‖
wrap
(a)対称 (b)非対称
図3.2 スクロールラップおよびガスカの作用点の比較
一28一
込みガスの過熱が低減されるので,体積効率が上がる.またA,B一対の部屋
の吸込み過程に位相差があり,吐出しも交互に行われるので,吐出し脈動が
減り,脈動に伴う騒音が低減する.さらに,対称ラップの外周吸込み流路部
を圧縮室として利用するので,圧縮機の外径を変更せずに行程容積を増加す
ることができるなどの特徴を有する.
しかし,図3.2の下部に示すように,対称スクロールでは軸方向ガスカF、
と接線方向ガスカF,の作用点がいつも一定であるのに対して,非対称スクロ
ールでは作用点が変化し,運転圧力比が大きくなればその変化幅も一層大き
くなる.この作用点の変化によって旋回スクロールとオルダムリングの挙動
が不安定になり,異常音の発生および信頼性の低下などが予想される.従っ
て,動力学的な挙動解析を行い,非対称スクロール適用時の問題点について
詳細に検討する.
3.3 基礎方程式
3.3.1 ガスカおよびその作用点の変化
図3.3に非対称スクn一ル圧縮機iの半径方向接点(1,1’など)の位置関係
および圧縮室内部の圧力(PIA, P1βなど)の分布によって発生するガスカを示
す.半径方向および接線方向のガスカFr, F,は次式で表される(9)(1°).
F, ・2ah(Pd−P。) (3.1)
n−1
弄}=Σ」㌃=α乃(2φ,一π)(Pd−P。)+2nahΣ(・PiA+PiB 一 2P。) (3.2)
i=1
ここで,nは旋回スクロールと固定スクロールの半径方向接触点の数, Ftiは
各圧縮室内の圧力により発生する接線方向力,iP。 =φ。f一θ一2π(n−1)である.ま
た接線方向ガスカF,の作用中心点と旋回スクロール基礎円中心0、との距離
βは,Ftiとその作用点距離β∫より次式で与えられる.
β=ΣF,,β∫ 。、
一竺[(2¢・ 一πXPd −P・)−II’i’“27z’tLi((piA−po)ご⇒+i)2na + na)(3・3)
+(P、B−P。)(r・⇒+(n−i)2磁一功‖
一29一
この時,旋回スクロールに作用する接線方向ガスカによる旋回スクロー
ルの鏡板中心0、。まわりのモーメント即ち自転モーメントMsは次式で表
される.
M、・Ft{6 一一 re・c・s(δ。 一δs)} (3.4)
ここで,reは旋回スクロv・一一一ルのインボリュート基礎円中心0.と鏡板中心Os。
間の距離であり,δ。,6sは後述の図3.4(a)に示す角度である.両中心が一致
すると旋回スクロールに作用する自転モーメントMs=Fピβとなる.
旋回スクロールに作用する軸方向ガスカF。は各圧縮室内圧力による軸方向
ガスカF。pとラップチップ部の圧力による軸方向力F。tの和,即ちF。iの総和
で得られる(10).
P,2
ノ互
P,B P,B
2A
駕
’P。
図3.3 非対称スクロール圧縮機の圧力分布および作用カ
ー30一
、
Fa:ΣFa、=Σ悟p+Fat) (3.5)
旋回スクロールの基礎円中心Osを基準としたxヲ座標系での軸方向ガスカの
作用位置(Cx, Cy)は次のように表される.
ll:蕊㌶㌶螺麗θ (3・ 6)
ただし,
ΣF。i ’c。i
ΣF。i・c)7i
Xfa=−F−。“’“一一”γf・ = Fa
ここで,(c。i, Cyi)は各圧縮室の中心位置を示し,ラップチップ部に作用する圧
力はラップ両側圧縮室圧力の平均値と仮定する.
3.3.2 旋回スクロールにかかる力
固定スクロールの鏡板中心Of。に基づくX−y平面座標系および旋回スク
ロールの鏡板中心0、。に基づく仁》回転座標系での旋回スクロールに作用
する力を図3.4(a)に示す.また半径方向(£方向)断面および接線方向(2方向)
断面での旋回スクロー一ルに作用する力をそれぞれ図3.4(b),図3.4(c)に示す.
これらの力とそれらのモーメントから次のような旋回スクロールに関する釣
り合い式が得られる.まず図3.4(b),(c)に示す半径方向および接線方向ガス
カの釣り合いは次式で与えられる(11).
F,sin(δ、一θ)+・F, cos(θ.一θ)一」F, cos(δs一θ)一」Fs cos(δs一θ)−Fsbr
(3.7)
+(−sinθ+Pt cosθ)Fl+(sinθ+μcosθ)F2 :0
−−F,COS(δs一θ)+Fe sin(θ.一θ)−Fr Sin(δ、一θ)−Fs Sin(δs一θ)一一 Ptt ’Fa+Fsbt
(3.8)
+(−cosθ一μsinθ)Fl+(cosθ一μsinθ)F2=0
ここで,6s,e.は図3.4(a)に示す角度,μおよびμτはオルダムキ・一・一・・部および
旋回スクロ・一一・…ルを支えるスラスト軸受部の摩擦係数である.
旋回スクロール半径方向(訪向)断面内における碑由まわりのモーメントお
よび接線方向(2方向)断面内における強由まわりのモV−一・nyメントの釣り合いはそ
れぞれ次式で与えられる.
一31一
(a)X−Y平面座標系およびヂf回転座標
Z
}
〈 1
1 ’
可COS(6,一θ)
NCOS(;6s一θ)
1.i
@司sln(6, 一一θ)場q
・一 @ ・C°Si mi− 一
14麗6=
ち励θ一レμ膓coぷθ
→ ° .m
ψi! i
足
呪
ち
兵β,
ii
i’
陥coぷ俺一θノ
(b)半径方向縛向)断面
!《C
F2 cosθ
μ恥∫ηθ→〉
1寸ヤ _di、・sinθ
!甲司Fs「認「
b、b]。
(c)接線方向(2方向)断面
図3.4 旋回スクロ・一一一・・ルに作用する力
一32一
(d+〃2){(Fr+Fs)c・s(δ▽θ)一一 F, sin(δ、一θ)}
一ろ/2{(−sinθ+μc・sθ)Fl−(sinθ+μc・sθ)ち} (3.9)
+{ら一r。c・s(δ。一θ)悟一{ち一r。 c・s(δ.一θ)}F。 一一〃2・Fsゲz.F, c・s(θバθ)=0
一(4+〃2){(Fr+Fs)sin(6s一θ)+F、 C・s(6、一θ)}
一ゐ/2{(c・sθ+μsinθ)Fl+(c・sθ一μsinθ)ち}. (3.10)
一{ら一r, sin(6e一θ)}Fa+{玩sin(6。 一一θ)}Fa−〃2・F,b、+ZmF。 sin(Om一θ)一・
ここで,δ。,re, rr, rt,.Zmは図3.4(a)に示す角度および距離, bは旋回スクロー
ルオルダムキー溝の高さP’dは鏡板の厚さ,1は旋回軸受長さである.
旋回スクロールの基礎円中心Osに対する回転方向モーメントの釣り合いは
次式で与えられる.
β・F,一一 r, cos(δ,一θ)Fsbt−一一 r, Sin(δ,一θ)Fsbr+rrPtt」Fa+{r, Sin(δ,−e.)+r. Sin(δm+e.)}Fc
− {R. 一.(r, C・S6,+rpC・Sθ+lbC・Sσ+θ))拓伝。−r。C・Sδ。+rpC・Sθ+lbC・S(γ+θ)}F2
+Mb=0 (3.11)
ここで,6m,γは図3.4(a)に示すように角度, rm, rp, lbは距離, R。は旋回ス
クロール鏡板中心からオルダムリングキー・…中心までの距離である.またMb
yt→
iμ碗、
μ互2
Oldham
key
μ列
→LL巴
図3.5 オルダムリングに作用する力
一33一
は旋回軸受摩擦モーメント(=rbPtbF,bt, rb:旋回軸受半径,仇:旋回軸受部の
摩擦係数)である.
図3.5に示すように,オルダムリングに関しては次のx方向およびy方向
の力の釣り合い式,ならびにオルダムリング中心まわりのモーメントの釣り
合い式が得られる.
一ノ娼一一/di2+」F3−F4=0 (3.12)
Fl−」『2−一 p 17,一μ1㌦一一〃M o ra tO 2 sinθ=0 (3.13)
(Ro−wμ)Fl+(Ro+wμ)F2−(Ro−wμ)F3−(Ro+wμ)F4=0 (3.14)
ここで,M。はオルダムリングの質量,wはオルダムキー巾の半分である.
図3.6に示すように,可変クランク機構として旋回軸受およびクランク
ピンの間にかん合されるスライドブッシュに作用する力の釣り合いから
次式が得られる.
1 Orbiting scrol1
Slide
bush
Of−Os Sectた)η
図3.6スライドブッシュに作用する力
一34一
μ力COSα+sinα
(3.15)
F、bt+臨,+臨=O
COSα一μ力sinα
ここで,μbは旋回軸受部の摩擦i係数,F。bは旋回軸受の遠心力,αは図3.6
に示すようにクランクピンの滑り中心線とOfOs延長線のなす角度である.上
記の式(7)∼(15)を連立して解くと旋回スクロールおよびオルダムリングキ
ーにかかる力やモーメントなどを求めることができる.
3.4 結果および考察
3.4.1 計算条件
解析計算の基準とする対称スクロールの主な寸法は基礎円半径a=2.3mm,
ラップ厚さt ==3.75mm,旋回半径r。==3.48 mm,ラップ高さh’ :28.9mm,
固定および旋回のラップ終端角φ.=1045°,行程容積γs=39.3cm3,組込体積
比/ ・= 2. 31である.それに対して,非対称スクロールの場合は,ラップ高さ
h=25.9mm,固定および旋回のラップ終端角は各々φ。∫=1225°,φ。s=1045°,
行程容積V。Aニ21.7cm3, V。B=17.6cm3(合計行程容積V,=39.3cm3),組込
体積比石=,LB=2.31であり,ほかの寸法は対称スクロールと同じとする.
従って,同じ行程容積を有する対称スクロールと非対称スクロールとを比べ
ると,非対称の場合のほうがラップ高さが約10%小さくなる.
圧縮機の作動流体としてR22を選び,圧縮過程は断熱変化(圧縮指数k=
1.184)と仮定して圧縮室内の圧力変化を求める.冷房定格条件(ARI条件と表
示,P。=0.62 MPa[abs], Pd=2.15 MPa[abs])および高圧力比条件(HPR条件
と表示,P。=0.61 MPa[abs], Pd:2.89 MPa[abs])とし,吸込み加熱度は
11.1°C,回転速度は3,480rpmである.また,特に述べない限り,固定スク
ロールと旋回スクロールはどちらもスクロール鏡板中心と基礎円中心とが一
致しているものとする.
一35一
3.4.2 旋回スクロール鏡板の挙動安定性
旋回スクロールに作用する力によって発生する蹄由および陣由まわりのモー
メント即ち転覆モーメント(1°)により旋回スクロール鏡板が傾き,不安定な挙
動をする.旋回スクロールに作用するガス圧スラストカFaに対応してスラス
ト軸受が発生すべき軸受反力の合力の作用位置がスラスト軸受面内から外れ
なければ挙動は安定になる.従って,旋回スクロール鏡板の挙動安定性は,
固定スクロール鏡板の中心(クランク軸中心)Of。からスラスト軸受の軸方向
反力Faの作用点までの距離とスラスト軸受半径Rthとの比として次式で表さ
れる安定性係数εで判断され(11)(12),εが1を超えるほど旋回スクロール鏡
板の挙動が不安定になる.
ε ==(Rr−ra)2+R∼L (3.16)
Rth
図3.7に対称および非対称スクロールラップにおけるεの計算結果を示す.
対称ラップよりも非対称ラップの場合にεが約30%小さく,そのぶん安定性
が高い.これは非対称ラップになると圧縮室の断面積が増えて軸方向ガスカ
が大きくなるとともに,ラップ高さが減って半径方向ガスカが小さくなるた
_}HPR c・nditi・n
㌣1・o
}ARI c・ndit・n
亘
三
四
一c,)0.8
亘
8
2
9
0
,,一一一一一”
:i≡ 0.6
、∼一一____一_,,一一’一一一一
O.4
0
60 120 180 240
Crank angle,θ[deg]
図3.7旋回スクロールの挙動安定性
一36一
300
360
めである.
3.4.3 自転モーメントおよびオルダムキーに作用する力
図3.8に旋回スクロールに作用する接線方向ガスカの作用点距離βと自転
モーメント」仏の計算結果を示す.βは,対称スクロールラップではクランク
角や運転条件に関わらず一定であるが,非対称ラップの場合は回転角と運転
条件によって正と負の間で変化している.ここで,βの負の値は旋回スクロ
ールの基礎円中心Osに対する固定スクロールの基礎円中心Of方向の反対側
に作用点が位置することを意味する.
旋回スクu・一ルの自転モーメントM、についてみると,対称ラップの場合,
変動しながらも常に正の値を保っている.これは,対称ラップでは一対の圧縮
室の圧力が等しい状態で上昇して二つの圧縮室が同じ圧力で同時に吐出され,
圧縮室間の圧力差がバランスしているからである.しかし,非対称ラップの
場合には,一対の圧縮室の圧力上昇過程および吐出しタイミングが異なり,
しかも各々の圧縮室が吐出し過程に至るたびに不足圧縮による圧縮室内圧力
の急上昇が起こるので,自転モ・一・一一メントの急変および負となる区間が生じる.
またこの負の範囲,即ち逆自転モーメントの発生する範囲は,運転圧力比が
大きいほど広くなる.これは運転圧力比が大きいほど一対の圧縮室間の圧力
差が大きくなり,それに応じたβの変化が大きくなるためである.
図3.9に旋回スクロールとしゅう動するオルダムリングのキー部の間に作
用する力Fl, F2の計算結果を示す. F1, F2は対称ラップよりも非対称ラップ
のほうが複雑に変化している.旋回スクロールの自転モーメントはオルダム
リングに作用する力に直接影響を与えるので,対称ラップでは圧力比が大き
いHPR条件においてオルダムリングにかかる力も大きくなるが,非対称ラッ
プの場合には必ずしもそうではなく逆転している場合がある.オルダムリン
グの作用力が正負に変化するということは旋回スクロールキー溝の側面とし
ゅう動しているオルダムキー部がしゅう動面から離れたりi接触したりする不
安定な挙動をしていることを表す.このような挙動によって,オルダムキー
一37一
2
H
∈
∈
芭
\
1
ゴ
.⊆
o
Ω.
0
Asymmetric∼ハ・
⊂
.⊆∼
ち
一1
ARI and HPR conditions
Φ
HPR condition
ARI condition
一2
H v
E 4
2
㌦
1’一一一一一一∼一一一一一一________
Σ 2
Symmetric
冨
「●亀●匂D、鞠●
、q、亀D●日D■●
q−一)亀D亀●
5
匂」●■●、q」
Asymmetric
.⊆
お一2
}HPR c・nditi・n
ち
工
}ARI・c・nditi・n
藷一4
0
60
120 180 240
300
360
Crank angle,0[deg]
図3.8接線方向ガスカの作用点距離および自転モ・一メント
38一
100
ZH
80
9
40
M
20
LゴN
£
治
60
∈
£
コ
o
0
一20
一40
100
乙
80
60
ゴ
2
40
M
20
£
〉
Φ
∈
工
⊇
o
、一__
0
}HPR c・nditi・n
}ARI c・nditi・n
一20
一40
0
60
120 180 240
300
Crank angle,0[deg]
図3.9オルダムリングのキー部に作用する力
39
360
部が旋回スクロールおよびメーンフレームのキー溝の側面と衝撃し,摩耗や
異常音などが発生する.
3.4.4 設計変数の検討
非対称スクロールにおいて,旋回スクロールの逆自転モーメントの発
生ひいてはオルダムキー作用力の反転現象は圧縮機の設計変数によって
も大きな影響を受ける.そこで,前節までに扱った圧縮機をべ一スとし
て,組込体積比,旋回スクロールの駆動位置およびオルダムキー位置を変
化させて,それらがオルダムキー作用力に及ぼす影響を調べる.
図3.10のケース(1)に,非対称ラップの一方の圧縮室の組込体積比,LAをべ
一ス状態(2.31)から2.51に増加した場合のオルダムリングキーに作用する
力F1, F2の計算結果を示す.みが大きくなるとそのぶん圧縮が進み,吐出タ
イミングが遅れ,不足圧縮も緩和されるのでFl, F2の負の区間もずれてその
幅と大きさが減少する.しかし,実際には組込体積比の変更は圧縮機の効率
にも影響するので,そのことを考え合わせて検討する必要がある.
図3.10のケース(2)に,旋回スクロールの鏡板中心Os。に対する基礎円中
心O。の位置(距離re,角度δ。)をべ一ス状態(r。=δ。== O)からre=0.5mm,δ,
=27°に変更した場合のオルダムリングに作用する力Fl, F2の計算結果を示
す.上記の両中心が一致しているべ一ス状態と比べると作用力Fl, F2ともに
正の値となり,オルダムリングの挙動が安定してくる.
図3.10のケース(3)はオルダムリングキー部の位置を回転方向に70°移動
した場合の作用力Fl, F2の計算結果を示す.この変更によってF2の変化パタ
ーンが変わるとともにFlの負の領域が大きく減っている.オルダムリングキ
ーの位置を変えると合力Fl+F2はあまり変わらずに,力の幅が変わる.従っ
て,キー溝の位置によってオルダムリングに作用する力を調整することがで
きる.
一40一
100
Fr 80
Zロ
N
止 60
ゴ
9 40
皐
〉
皇 20
∈
巴 o
⊇
O .20
−40
100
− 80
乙
uご60
6
9 40
£
あ
皇 20
∈
」= 0
⊇
一一一一・
O .20
一・一・
base(1)
base(2)
−40
0 60 120 180 240 300 360
Crank angle,0[deg]
図3.10設計変数がオルダムキー作用力に及ぼす影響
一41
3.5 結 言
◇
スライドブッシュ式可変クランク機構を有する低圧ケーシング型の非対称
スクロール圧縮機について旋回スクロールおよびオルダムリングの動的挙動
解析を行った結果,次の結論が得られた.
(1)非対称スクロールラップでは同じ行程容積の対称ラップに比べてラッ
プ高さが低くなるので,旋回スクロール鏡板の挙動は安定し,本解析例では
安定化係数sは約30%小さくなった.
(2)対称ラップでは旋回スクロールにかかる接線方向ガスカの作用点距離
βは一定であるが,非対称ラップの場合に軸の一回転中に変化する.βが負
になると旋回スクロールの自転モーメントも負になり,負の範囲は運転圧力
比が大きいほど広くなる.
(3)オルダムキーに作用する力は,対称ラップよりも非対称ラップのほうが
複雑に変化し,しかも負となる区間がある.この正負間の変動はオルダムキ
ー部がしゅう動面と衝突接触を繰り返すことを意味する.
(4)非対称ラップにおける旋回スクロールの逆自転モーメントの発生即ち
オルダムリング作用力の反転を減らすためには,一対の圧縮室の組込体積比
の変更や旋回スクロール鏡板中心に対する基礎円中心位置の変更,オルダム
リングキー溝位置の変更などが有効である.
参考文献
(1) Tsubono, 1., Takebayashi, M., Hayase, 1., Inaba, K., Sekiguchi,
K. and Shimada, A., New Back−Pressure Control System Improving the
Annual Performance of Scroll Compressors, ASHRAE Transactions,
Vo1.104, Part1A, (1998), 410.
(2) Tsubono, 1., Terai, T., Inaba, K., Sekiguchi, K. and Shimada, A.,
In−situ Measuring of the Friction Coefficient at the Thrust
Bearings of Scroll Compressors, International Conference on
Compressors and their Systems at London, (1999), 697.
一42一
(3)佐野・河原・藤原・石井,密閉型圧縮機の低騒音化,低振動化のため
の研究(第2報,空間共鳴による騒音),日本冷凍空調学会論文集,
}
14−2, (1997), 137.
(4) Tojo, K. and Ueda, H., New Wrap Profile for Scroll Type Machines,
Proceeqings of 19th International Congress of Refrigeration,
(1995), 515.
(5) Bush, J. W., Beagle, W. P. and Housman, M. E., Maximizing Scroll
Compressor Displacement Using Generalized Wrap Geometry,
Proceedings of International Compressor Engineer,i ng Conference at
Purdue, (1994), 205.
(6) Hagiwara, S., Ueda, S., Shibamoto, Y., Yoshii, T., Toyama, T.,
0modaka, M., Jomura, S. and Hori, K., Development of Scroll
Compressor of Improved High− Pressure−Housing, Proceedings of
International Compressor Engineering Conference at Purdue, (1998),
495.
(7)吉村・黒岩・松葉・松川・加藤,代替冷媒対応高効率スクロール圧縮
機iの開発,HCFC代替冷媒国際シンポジウム,(1998),45.
(8)李丙哲・張英逸・趙洋煕・金賢振・柳沢正,可変クランク機構を有す
る非対称スクロール圧縮機の挙動解析,日本機械学会論文集(C編),
\
67−664, (2001), 3708.
(9)鄭・柳沢・福田・清水,スクロール圧縮機の最適運転圧力比,日本機
械学会論文集(B編),55−513,(1989),1318.
(10)椎林・東條・荒田・内川,指圧線図解析に基づく旋回スクロールに作
用する力と挙動の解析,日本冷凍協会論文集,5−2,(1988),53.
(11)Morishita, E., Sugihara, M., Inaba, T. and Kimura, T., Scroll
Compressor Dynamics (2nd Report, The Compliant Crank and the
Vibration Model), Bulletin of JSME, Vol. 29, No. 248, (1986), 483
(12)李丙哲・金善瑛・趙洋煕㌔李鎮甲,パッケージエアコン用高効率スク
ロール圧縮機の開発,平成8年度日本冷凍協会講i論集,(1996.11),1.
一43一
第4章 非対称スクロール圧縮機の挙動計測
4.1 緒
言,
近年,空調機に対する性能および快適性の向上要求が高まっており,高効
率および低騒音の研究が活発に行われている.また低コストに対する市場ニ
ーズが増大しており,部品点数の低減,小型軽量化などの低価格化研究にも
拍車がかかっている.空調機用の容積形冷媒圧縮機の中では,高効率,低騒
音,低振動の特徴を有するスクロール圧縮機が重宝して用いられる傾向にあ
り,その適用範囲も順次広がっている.
スクU一ル圧縮機は,固定スクロールと旋回スクロールのかみ合わせによ
り複数の圧縮室が形成され圧縮が行われる.この圧縮室中のガス圧力は旋回
スクロールの挙動に影響を及ぼし,スクロール圧縮機の性能および信頼性を
決定する重要な因子となるので,旋回スクロールの挙動に関する解析的なら
びに実験的な多くの研究が行われてきている(1)∼(4).
一方,高性能なスクロールラップの形状に関する研究(5)∼(7)も進んでおり,
従来の対称なスクロールラップの代わりに,固定スクロールのラップ終端角
を旋回スクロールのラップ終端角より大きくすることにより比較的簡単に実
現できる非対称スクロールラップに関する研究(8)(9)が注目を集めている.従
来の対称スクロールでは,接線方向ガスカおよび軸方向ガスカの作用点がい
つも一定であるのに対して,非対称スクロールでは一対の圧縮室間の圧力差
によってその作用点が変化し,旋回スクロールやオルダムリングの挙動が不
安定になることは3章(10)で述べている.
そこで本研究では,3章(1°)で扱った可変クランク機構を持つスクロs・一・一一ル圧
縮機に非対称スクロールラップを適用した場合における圧縮機ケーシングの
振動およびオルダムリングの不安定挙動を計測し,その問題点を実験的に明
らかにする.特に,ガスカの作用点変化に伴い旋回スクロールに作用する軸
回転と逆方向の自転モーメントを最小化するために,リード弁装着の効果を
調べ,直交配列表を用いた実験計画法(11)でリード弁形状の最適化を検討する.
一44一
4.2 非対称スクロール圧縮機
圧縮室を構成する旋回スクロールと固定スクロールのラップ終端角が異な
る場合を非対称スクロV−・・一一ルラップといい,通常は非対称性の効果を最大に得
るために固定スクロールのラップ終端角が旋回スクロールのラップ終端角よ
り180°大きい形状が用いられる.
図4.1に,非対称スクロール圧縮機における固定スクn−一ルと旋回スクロ
ールのかみ合い状態を示す.また,その時に形成される一対の圧縮室A,Bの
体積VA, VBの変化および圧力PA, PBの変化を模式的に図4.2に示す.ただ
し,その際の圧縮機の寸法および運転圧力条件は,4.3節および4.4節で述
べる値である.固定スクロールラップの内壁と旋回スクロールラップの外壁
で形成される圧縮室Aでは,クランク軸が一回転して回転角が360°になると
吸込み過程は終了し,圧縮過程が開始する.一方,固定スクロールラップの
外壁と旋回スクロールラップの内壁から形成される圧縮室Bでは,圧縮室A
の吸込みより180°遅れて吸込み過程が始まり,回転角が540°になると吸込
み過程が終了し,圧縮過程に移行する.この時点から圧縮室AとBでは,対
称な同一形状の室内で圧縮が進行するが,圧縮室Aでは,180°早く圧縮が始
まっているので,そのぶん圧縮室Aの圧力は圧縮室Bより高い.通常の場合,
圧縮室AとBは等しい組込体積比λ(=吸込み行程体積と吐出し行程体積の
Fixed scroll
wrap
Discharge
Chamber A耀xx
port
Suction
図4.1非対称スクロールラップのかみ合い状態
一45一
比)を持つようにラップ始端部および吐出しポート部が構成されるので,圧力
の高い圧縮室Aのほうが圧縮室Bよりも早く吐出し過程に移行する.
非対称スクロー・・一・・ルラップでは,ラップへの吸込み位置が一ヶ所にまとまっ
ているので,対称スクロールラップの場合に比べて吸込み通路が単純になり,
吸込みガスの過熱も低減され体積効率が上がる.またA,B一対の部屋の吸込
み過程に位相差があり,吐出しも交互に行われるので,流体の脈動要因が低
減する.さらに,対称ラップの場合の外周吸込み流路部を圧縮室として利用
できるので,圧縮機の外径寸法を変更せずに行程容積を増加することができ
るなどの特徴を有する.本研究では,このような圧縮原理と特徴を有する非
対称スクロール圧縮機の動的挙動を実験的に測定し,従来の対称スクロール
圧縮機の場合と比較する.なお,圧縮機のクランク機構としては,旋回スク
ロールの挙動が圧縮機の効率や騒音に影響を与えやすいスライドブッシュ式
可変クランク機構を有する圧縮機を対象とする.
4.3 実験装置および方法
本研究では冷房能力8.4kW級の空調機i用スクロール圧縮機を用い,作動流
30
3
■
〔
∈20
昔
20−
≧
㍗v
皇
9
房
1$
日10
江
0 0
0 360 720 1080 1440
Crank angle[deg]
図4.2体積および圧力の変化
一46一
体として冷媒R22を適用する.対称スクロールラップの場合の主な寸法は,
ラップ厚さt=3.75mm,旋回半径ra=3.48 mm,ラップ高さht=28. 9
mm,固定および旋回ラップの終端角φ,=1045°,吸込み行程容積V,=
39.3cm3,組込体積比,1=2.31である.それに対して,非対称スクロール
ラップの場合は,ラップ高さh=25.9mm,固定および旋回ラップの終端
角φ。∫=1225°(=φ。、+180°),φ。.=1045°,一対の行程容積V,A=21.7cm3,
V,B=17.6cm3(合計行程容積γ、=39.3cm3),組込体積比VA=VB=
2.31であり,ほかの寸法は対称スクn・一ルラップと同じである.圧縮機は,
2極誘導モータを備えており,60Hzの商用電源で運転されておよそ3,500 rpm
で回転する.
図4.3に,圧縮機の挙動を計測するためのセンサ取付け位置を示す.旋
回スクロールの旋回運動を司るオルダムリングの挙動は,メインフレー
Fixed scro
dy current sensor
Orbiting scro
measure
rotational angle
Oldham ring
Main frame
Accelerometer
Casing
Eddy current sensor
to measure the motion
αdham ring
ofαdham ring
Main frame
Oldham key
groove
Oldham key
図4.3センサの取付け位置
一47一
ムに設けられたオルダムキー溝の側壁に渦電流形変位計を取付けて測定
する.キー溝内を往復しゅう動するオルダムリングのキー壁面がキー溝
壁面から離れるほど変位計の出力電圧が増加する.スクロールの回転角
度位置は,固定スクロー一一・ルの外周壁に取付けた渦電流形変位計により旋
回スクロール壁の接近を検出して得る.また圧縮機構部の振動騒音と密
接な関係を持つ圧縮機ケーシングの振動を側壁に装着した圧電形加速度
計で測定する.さらに圧縮機の騒音を無響室にてマイクロホンで測定する.
マイクロホンの配置は,圧縮機の中心から吸込み管方向に890mm離れた位
置である.
4.4 実験結果および考察
4.4.1 騒音および振動
0.3
■
CL O.2
盲o.1
房
80.o
a
で一〇.1
こ
3−o.2
の
一〇.3
0.3
■
CL O.2
盲o.1
房
80.0
5
て)−0.1
ロ
8−o.2
の
一一〇.3
0 90 180 270 360
Crank angle[deg]
図4.4対称スクロール圧縮機の騒音
一48一
対称ラップおよび非対称ラップのスクロv−一一一一一ル圧縮機についての騒音測定結
果を以下に述べる.図4.4は,一対称スクロールラップの場合のクランク軸一
回転中の音圧変化である.なお,クランク角度の基準(0°)は圧縮室の圧縮開
始角度である.冷房標準運転条件(吸込み圧力Ps=0.62 MPa[abs],吐出し
圧力Pd=2.15 MPa[abs])および過負荷運転条件(P,=O.62 MPa[abs], Pd=
2.45MPa[abs])において,特徴的な音圧ピークは見られず,両者の条件での
違いも少ない.一方,図4.5に非対称スクロールラップを適用した場合のク
ランク軸一回転中の騒音を示す.クランク角度の基準はA室の圧縮開始角度
である.冷房標準運転条件では目立った騒音ピークが見られないが,吐出し
圧力の高い過負荷条件では,対称ラップの場合と異なり,クランク角20°∼70°
付近で騒音が大きくなっている.騒音の面では,全体として非対称圧縮機の
不利が見られる.
図4.6に,非対称スクn−一ル圧縮機の場合におけるケーシングの振動加速
0.3
■
0− 0.2
τ
i5 0.1
8
Φ 0.O
a
℃−0.1
5
0−0.2
の
一〇.3
0.3
■
0− 0.2
盲o.1
房
80.o
a
℃−0.1
に
8−−o.2
0う
一〇.3
0
90 180 270
Crank angle[deg]
図4.5非対称スクロール圧縮機の騒音
一49一
360
ご§講、耀噸
噺饒
く 27・ 罵轡燃 5
360
0
翻
』4.6非対称スク。一ノレ圧繊のケーシングの獺加速度
表4.1運転条件(20種類)
P∂MPa[abs]
Operating
モ盾獅р奄狽奄盾
一の
1.67
1.87
2.06
2.26
2.45
0.40
No.1
No.2
No.3
No.4
No.5
0.49
No.6
No.7
No.8
No.9
No.10
0.59
No.11
No.12
No.13
No.14
No.15
0.69
No.16
No.17
No.18
No.19
No.20
福ユ句臼嵩ぺ
一50一
度のクランク軸一回転中の変動を示す.同図には,表4.1に示す一般的な空
調用圧縮機の現実的な運転圧力範囲を網羅する20種類の運転条件(吸込み圧
力Ps,吐出し圧力Pd)下での測定結果がまとめられている.全体として振動
ピークは,クランク角度の180°,240°,330°,420°(60°)付近に見られ,運転
圧力比が大きい場合ほどピーク値が大きくなっている.特に,運転圧力比が
最大の運転条件5では,最大振動値は約150m/s2に達し,20種類の条件の中
で一番大きい.なお,図4.5の過負荷条件において20°∼70°で騒音が大きく
なっていたが,この角度位置は,騒音がマイクロホンに届くまでの時間遅れ
に相当するクランク角度の進み(54°)を考慮に入れると,図4.4の330°付近
での振動ピークに相当している.
以上のような騒音および振動の測定結果は,3章(1°)に述べられている非対
称ラップにおける圧縮室内の圧力のアンバランスに伴う旋回スクロー一ルおよ
びオルダムリングの不安定挙動と大きく係っているので,次節では,その測
定結果を考察する.
4.4.2 オルダムリングの挙動
図4.7に対称スクロールラップ圧縮機の場合のオルダムリングの挙動とケ
ーシングの振動加速度の測定結果を示す.運転条件は冷房標準条件(Ps=
0.62MPa[abs], Pd=2.15 MPa [abs]),過負荷条件(P。=0.62 MPa[abs],
Pd=2.45 MPa[abs]),高圧力比条件(HPR条件と表示, Ps=0.4MPa[abs],
Pd=2.45 MPa[abs])である.なお,図4.7では,オルダムリングの挙動は
キー変位センサの出力電圧で表されている.電圧が高いほどキー壁面がキー
溝面から離れていることを意味し,室温での予備校正では1Vの出力が33μ
mの変位に相当していた.冷房標準および過負荷条件では振動振幅は約10
m/s2以内であり,高圧力比条件でも20m/s2以下である.オルダムリングの
挙動は,運転条件に係らず非常に振幅の小さい正弦波状を呈しているが,こ
れはオルダムリングにかかるガスカが正弦波状に変化するからである.特に
出力の変動幅が小さいことから,オルダムキーは常時オルダムキー溝の側壁
にほとんど接触してしゅう動しているものと解釈される.
一51一
150
τ
逗∼100
displacement
且
⊆
.Ω
罵
旦
Φ
oo
<
3ヲ
2§
=
/
50
i』
0
°§
\
aCCeleratiOn
一50
−18
三
_2.9
口
一100
150
31i;;t,
=
ポ
・S{∼100
£
⊆
.Ω
届
皇
①
oo
<
2§
displacement
50
1£
°§
0
\
aCCeleratiOn
一50
−18
五
_2.9
口
一100
150
ポ
望
∈
一
に
.Ω
お
旦
①
oo
<
100
3,
2曇
=
displacement
/
50
1』
0
\
aCCeleratiOn
一50
oξ
Φ
一1呈
9
_2.9
一100
口
0
180 360 540
720
Crank angle【deg]
図4.7対称スクロール圧縮機のオルダムリング挙動とケーシング振動
一52一
⊃
150
35ご
『
望100
£
=
2喜
⊂
50
1』
0
°§
8−50
−18
−100
o
m9
お
里
①
宣
_2.望
<
35C
150
ポ
望
=
100
一
⊂
50
お
0
2喜
displacement
∈
/
1』
.9
ふ
\
aCCeleratiOn
旦
8−−50
2
08
Φ
一18
−100
五
_2.9
150
3\Σ
口
ポ
望100
且
2言
displacement
/
1§
⊆ 50
日
芒
巴 0
oξ
書
Φ
一18
8−50
<
L−
五
_2.9∼
P00
0
180 360 540
口
720
Crank angle[deg】
ノ
図4.8非対称スクロール圧縮機のオルダムリング挙動とケーシング振動
一53一
図4.8に,非対称スクロールラップを用いた場合のオルダムリングの挙動
とケーシング振動加速度の測定結果を示す.冷房標準条件ではクランク角
330°付近に20m/s2程度の振動ピ・一・一一・クが見られる.オルダムリングキーの変
位信号は,クランク角270°付近から大きくなり,330°くらいになると元に
もどっている.これはこの角度区間において,オルダムキーがキー溝面から
離れる,すなわちクランク軸の回転方向と逆の方向にオルダムリングが回転
変位することを表しており,その理由は,圧縮室A,B間の圧力差が大きくな
ってオルダムリングにかかる力が負となるからである.なお,オルダムキー
の変位が元にもどる角度位置と20m/s2の振動ピークの発生するタイミング
はおよそ一致しており,その振動はオルダムリングキーとキー溝側壁との衝
突によるものと予想される.過負荷条件になると,オルダムキーの変位ピー
クは大きくなり,オルダムキーのもどり時の衝突に伴う振動振幅値も大きく
なる.さらに高圧力比条件になると,オルダムリングの変位ピークは先の運
転条件で見られたピークの後にもう1つのピークが現れている.この2つ目
のピ←クの理由は今のところ定かではないが,1つ目のもどり衝撃の反動で
はないかと推定している.1つ目の変位のもどり時に対応して非常に大きな
振動ピーク(130m/s2)が発生しているが,2つ目のピークに対応した顕著な振
動ピークは見られない.衝撃により異常騒音の発生やオルダムキー部の摩耗
による信頼性の低下が懸念される.
4.4.3 吐出しリード弁の効果
前節で述べたような非対称ラップ圧縮機におけるオルダムリングの不安定
な挙動やケーシングの振動を抑制する目的で,固定スクロールの吐出しポー
ト部に逆止弁としてのリード弁を取付けた場合の非対称スクロール圧縮機に
ついての測定結果を図4.9に示す.リード弁としては,スクロ・一・・…ル圧縮機と
同容量のロータリ圧縮機用の吐出し弁をそのまま用いた.冷房標準および過
負荷条件では,弁のない非対称スクロールの場合(図4.8)と比べて,オルダ
ムリング変位が若干小さくなるとともにケ・一・一一・シング振動が多少大きくなって
一54一
150
35:
=
2§
『
竃1°°
£
⊂・50
1皇
口 0
゜§
8−50
−1量
−100
_2.望
岳
<
△
口
150
35ご
=
ポ
望100
£
2tB
displacement
/
⊆ 50
£
口 0
3
\
acceleration
8−−50
1』
08
Φ
一18
一一1 OO
五
_2.9
150
35ご
<
Q
『
望100
且
displacement
#
2喜
/
⊂ 50
£
歪 0
1』
°§
岳
\
aCCeleratiOn
8−50
−18
五
_2.9∼
<
−100
0
180 360 540
o
720
Crank angle[deg]
図4.9リード弁を取付けた非対称スクロール圧縮機のオルダムリング
挙動とケーシング振動
一55一
いるが,顕著な特徴の変化は見られない.それに対して,高圧力比条件では,
オルダムリング変位が一回に減るとともに,振動ピークも40m/s2以下くら
いまで顕著に減少している.これは,吐出しポート部に逆流防止目的のリー
ド弁を付けたことによって,不足圧縮に伴う圧縮室内の急激な圧力上昇が抑
制され,オルダムリングに作用する回転逆方向のモーメントが小さくなるた
めである.オルダムリングのもどり衝突による330°付近の振動ピ…一…クの他に
270°付近に新たな振動ピークが見られるが,これはオルダムリングの衝突挙
動によるものではなく,吐出しリード弁が固定スクロールの弁座面にぶつか
って発生しているものと解釈される(12)(13).吐出しリード弁は不足圧縮を緩和
して異常な衝撃振動を抑える効果があるが,弁の衝突に伴う新たな振動の発
生という問題も含んでいる. S
図4.10に,リード弁の付いた非対称スクロール圧縮機について様々な運転
条件でのクランク軸一回転中のケーシング振動加速度の変化を示す.運転条
件は表1と同じである.図4.6のリード弁のない場合と比べると,クランク
lim
、
ぴへ
Nv
図4.10リード弁を取付けた非対称スクロv・一一一一ル圧縮機の振動加速度
一56一
角330°付近で見られた振動ピークは顕著に減少しており,リ・一・一一・ド弁の衝突に
よると予想される240°∼270°付近の振動ピークが支配的となっている.
4.4.4 リード弁の最適化
非対称スクロール圧縮機では,吐出しリード弁を用いれば高圧力比運転条
件でのオルダムリングの不安定挙動による衝撃騒音を大幅に小さくできる.
しかし,リード弁を用いると弁の吐出し抵抗による効率低下が生じやすく,
また前述のようにリ・・一・・ド弁が固定スクロールの弁座面にぶつかって騒音を発
生しやすい.従って,リード弁装着時の圧縮機の効率降下および騒音発生を
減らすために実験計画法を導入し,リード弁の形状の最適化を検討する.
図4.11にリード弁の形状を示し,表4.2に選定した変更因子と因子の水準
を示す.因子数が多くなると実験回数が膨大な数となるので,比較的少ない
実験回数で主因子および最適値を選定するために,2水準2因子および3水
準4因子で18回の実験を実施するL18直交配列表を用いた実験計画法でリー
ド弁の最適化実験を行う.効率の測定評価は冷房標準運転条件で,また騒音
に直接的な影響を与える振動の測定評価は高圧力比運転条件で行う.
,1,:Built−in volume ratio
h:Retainer height
t:Valve thickness
」乙:Valve length
D:Valve diameter
〃ア:Valve width
図4.11リード弁の形状
一57一
表4.2実験因数および因子の水準
Factor
Level 1
Leve12
Leve13
λ
2.31
2.50
一
力 mm
4.0
5.0
一
τ mm
0,381
0,457
0,508
、L mm
32.7
34.7
36.7
1) mm
14.0
16.0
18.0
π mm
6.0
9.6
13.2
11.6
Standard condition
●,IL=2.50
◆1= 2.31
11.4
e\QN ●
● \●\∼
11.2
● 、、一一一
、\●s
℃「\\
\◇ \一●
山11.0
\、◆◆
山
◆\、
◇\\◆
10.8
\◆や
10.6
10.4
◆
0
500 1000 1500 2000 2500 3000
Valve stiffness[N/m】
図4.12EERと弁剛性との関係
一58一
図4.12に,18回の性能実験から得られた空調機としてのエネルギー効率比
EER(Energy Efficiency Ratio≡Btu/h単位で表した冷凍能力をW単位で表
した電気入力で割った値)と片持ちリード弁のばね剛性との関係を示す.EER
は圧縮室の組込体積比λに応じて二分される傾向にあり,λ=2.50の場合
の9個のデータの平均値は,1,=2.31の場合の9個のデータの平均値より
3.5%高い.この傾向は,λ=2.31の場合に比べて,L=2.50の場合のほう
が試験運転圧力比(Pd/P,・=3.47)に近く,不足圧縮損失が緩和されることに
よるものである.また,弁のばね剛性が大きくなると吐出しポート部ρ流動
抵抗が大きくなるので,効率が低下する傾向となる.またそれぞれの因子に
ついて実験計画統計ソフトウェアパッケージ(14)を使用して分析した結果を
図4.13に示す.図中の点線は18回の実験におけるEERおよび振動(RMS値)
h
λ
t
11.2
L
D
11.1
山 11.0
山
10.9
拓
10.8
Σ
20
望
18
一
⊂
16
∈
s11・’・一一・…=,el
i・・v{lh
.Ω
苫
14
る
12
6
o
o
<
1
21
Level
図4.13実験計画ソフトウェアパッケv−一一一一ジ(14)を使用した分析結果
一59一
の平均値を表す.EER,振動ともに組込体積比,1の影響が一番大きく,弁リ
テーナ高さhや弁厚さt,弁長さLの影響が比較的小さい.効率面での分析に
よる最適仕様は ,1,=:2.5,t=0.381 mm, L=36.7mm, D=14. O
mm, m=6. O mmである.しかし,弁の剛性は弁部の信頼性とも関係してい
るので,弁の剛性が同等容量の従来のロータリ圧縮機のリード弁の場合と同
等水準になるように,5種類の候補を選び,最終確認実験を行った.表3に
弁の寸法仕様を示し,図14に冷房標準条件でのEERの測定結果および実験計
画統計ソフトウェアパッケージ(14)によって図13の結果に基づいて分析算出
された予測値を示す.実験値が予測値より1∼3%下回っているが,弁の違
いによる効率の変化パターンは同じであり,L18直交配列表用いた実験計画
法によるリード弁の最適化が有効であることがわかる.
一60一
図4.3リード弁の仕様
(Unit mm)
Specimen
力
τ
L
、o
1
4.0
0,457
36.7
16.0
6.0
2
4.0
0,381
36.7
18.0
9.6
3
4.0
0,508 ・34.7
16.0
6.0
4
4.0
0,381
36.7
16.0
13.2
5
4.0
0,457
34.7
15.0
6.0
▽
11.5
Standard condition
11.4 ,1,=2.5
11.3 ・− P「edicti・n/●__
\●一一r●f
山11.2
山
11.1
11.0
10.9
1 2 3 4 5
Valve specimen
図4.14リード弁仕様による予測および実験結果
一61一
4.5 結
言
スライドブッシュ式可変クランク機構を有する非対称スクロール圧縮機に
ついて,オルダムリングの挙動および圧縮機ケーシングの振動を計測して対
称スクロール圧縮機の場合と比較するとともに,吐出しリード弁の装着効果
を調べ,次の結論を得た.
(1)対称スクロールでは運転条件に係らず特徴的な騒音ピークは見られな
いが,非対称スクロールの場合には過負荷運転になると騒音ピークが発生す
る.
(2)対称スクロールではオルダムリングの回転方向変位およびケーシング
の振動振幅値は運転条件に係らず非常に小さいが,非対称スクロールの場合
には軸の一回転中に特徴的なピークが見られ,運転圧力比が大きいほど大き
くなる.
(3)非対称スクロールでは,オルダムリングの変位ピークが元にもどる角
度位置とケーシングの振動発生ピークのタイミングはおよそ一致しており,
その振動ピークはオルダムーキーとキー溝側壁との衝突によるものと予想さ
れる.
(4)非対称スクロールに吐出しリード弁を取付けると,高圧力比運転条件
でのオルダムリングの回転方向変位が抑制されケーシングの振動ピー一一クも大
幅に減少する.しかし,弁の衝突による新たな振動が発生する.
(5)圧縮機の効率に対しては,リード弁のばね定数の影響が支配的であり,
弁の寸法形状の最適化実験の結果は実験計画法による予測結果と良い相関が
得られた.
参考文献
(1)椎林・東條・荒田・内川,指圧線図解析に基づく旋回スクロールに作
用する力と挙動の解析,日本冷凍協会論文集,5−2,(1988),53.
一62一
(2) Morishita, E., Sugihara, M., Inaba.、 T. and Kimura, T., Scroll
Compressor Dynamics (2nd Report, The Compliant Crank and the
⊃
Vibration Mode1), Bulletin of JSME, Vo1. 29, No. 248, (1986), 483
(3) Morishita, E. and Sugihara, M., Some Design Problems of Scroll
Compressor, Bulletin of JSME, Vo1. 29, No. 258, (1986), 4139
(4) Hirano, T., Matsumura, N. and Takada, K., Development of High
Efficiency Scroll Compressors for Air Conditioners, Proceedings
of International Compressor Engineering Conference at Purdue,
(1988), 65.
(5) ・Tojo, K. and Ueda, H., New Wrap Profile for Scroll Type Machines,
Proceedings of 19th International Congress of Refrigeration,
(1995), 515.
(6) Bush, J. W., Beagle, W. P. and Housman, M. E., Maximizing Scroll
Compressor Displacement Using Generalized Wrap Geometry,
Proceedings of International Compressor Engineering Conference at
Pur d’uej(1994),205.
(7) Kohsokabe, H., Kouno, T., Takebayashi, M., Oshima, K. and Hata,
H., Basic Design of New Orbiting−Type Fluid Machines,
International Conference on Compressors and their Systems at
London, (2001), 533.
(8) Hagiwara, S., Ueda, S., Shibamoto, Y., Yoshii, T., Toyama, T.,
Omodaka, M., Jomura, S. and Hori, K., Development of Scroll
Compressor of Improved High− Pressure−Housing, Proceedings of
International Compressor Engineering Conference at Purdue, (1998),
495.
(9)吉村・黒岩・松葉・松川・加藤,代替冷媒対応高効率スクロール圧縮
機iの開発,HCFC代替冷媒国際シンポジウム,(1998),45.
(10)李丙哲・張英逸・趙洋煕・金賢振・柳沢正,可変クランク機構を有す
る非対称スクロール圧縮機の挙動解析,日本機械学会論文集(C編),
67−664, (2001), 3708.
−63一
/
(11)田口,新版実験計画法(上),(1975),78,丸善.
(12)金榮基・金明均・李東沫・崔松・李丙哲,R410A用スクロール圧縮機の
吐出し逆止弁の騒音,日本冷凍空調学会論文集,18−3,(2001),341.
(1“”3)伊藤・藤谷・酒井,スクロール圧縮機の吐出圧力脈動解析,日本機械
学会論文集(B編),67−661,(2001),2166.
(14)Minitab Inc., MINITAB Statistical Softwate, USA, (2000).
ζ
一64一
L>
第5章チップシール部における漏れ特性
5.1 緒
言
近年,地球環境保護の観点から冷凍空調システムに対するエネルギー効率
の向上要求が増加している.主要部品の一つとして冷凍空調システムに使用
される圧縮機は,このようなシステムの効率に大きな影響を与えており,圧
縮機の効率を向上させることがシステムの効率向上のための重要な方策と
なる.空調用の冷媒圧縮機の中では,高効率,低騒音,さらに低振動の特徴
を有するスクロール圧縮機が多く使われている.このスクロール圧縮機の高
性能化のためには,圧縮室間の微小すきま部における内部漏れを適切な方法
で抑えることが極めて重要である.圧縮機の微小すきまを通る漏れ流量を明
らかにするために,様々な解析モデルが提案されており,さらに解析モデ
ルの妥当性を検証するために,数多くの実験が行われている(1)∼(9).
スクロール圧縮機における内部漏れは,圧縮室を形成する旋回スクロール
と固定スクロール間の軸方向すきまにおける半径方向漏れと半径方向すき
まにおける接線方向漏れとがある.このようなスクロール圧縮機の内部漏れ
を減らすためには,第2章で述べたように,微小すきまを調節するシールメ
カニズムが必要である.特に軸方向すきまは,半径方向すきまに比べてシー
ル長さが長いので,軸方向すきまによる漏れを抑制することが性能向上のた
めに重要である.軸方向すきまを通る半径方向漏れを抑える方法として,ス
クロールラップの先端に溝を加工しその溝の中にシール材を挿入するチッ
プシール方式が,簡単であることやシール性能が優れていることなどで多く
用いられている.
チップシール部における漏れ特性に関する研究として,Inabaら(1°)は,チ
ップシ・一・一一・ルをチップ溝にきつくまたは緩く入れた場合に,チップシールの上
面,側面および下面の漏れ流路による漏れ損失を明らかにしている.そして,
チップシール下部の漏れを減らすために,シップシールが溝の底面に充分入
ることができる組立て方法を紹介している.一方,Hiranoら(11)はスクロール
一65一
ラップの長さ方向に沿ってチップシール下部の溝の圧力を測定し,チップシ
ールを相対するスクロールの底板に押し付けるシール圧力を明らかにする
とともに,渦電流形変位計を用いてチープシー一・・ルの挙動も測定している.ま
た,Ancelら(12)はマルチブレードおよびモノブロックの2種類のチップシール
について,動的な挙動特性と効率との関係を究明している.Younら(13)は,実
機運転圧力状態でチップシール部における漏れが測定できる実験装置を開
発し,その漏れ量を検討している.しかし,チップシール部の漏れ流路が複
雑であることなどで,チップシール部における漏れ特性に関する研究は必ず
しも十分とは言えない.
そこで本研究は,チップシールを有するスクロール圧縮機の漏れ特性を理
論および実験的に明らかにする.特に,微小すきまを通る漏れ流れを評価す
るために,4つの漏れ流れの解析モデルについて検討する.そして,軸方向
すきまをモデル化した漏れ流路を用いて,チップシールの仕様および上流圧
と下流圧を変更しながら,チップシール下部の溝圧,軸方向すきま,漏れ流
量を同時に測定する.測定された漏れ流量は解析モデルによる計算流量と比
較する.さらに,漏れ流れが低減できる対策案を提示する.
5.2 理論解析
本研究では,チップシール部の軸方向すきまを通る漏れ流量を評価するた
めに,4つの漏れ流れの解析モデルについて検討し,その結果を比較する.
初めに,最も一般的に使われているのがノズル流れモデル(1°)である.これは
流れを摩擦のない先細ノズルを通る圧縮性・等エントロピー流れと仮定して
漏れ質量流量imを次式で求める.
痂一鋼蒜当κ一㍗}
t
ぱ/P・P願3}
一66一
(5.1)
ここで,Cfは流量係数, Aは漏れ流路の断面積, P。pは上流圧,Pdnは下流圧,
Zpは臨界圧力比, T。pは上流側の温度, Rは気体定数,κは断熱指数(空気:κ
=1.4)である.
しかし,漏れ流路は狭く,すきまの高さに比べて長さが非常に長いので,
粘性効果を考慮せずに解析するこの方法は必ずしも適切とは言えない.従っ
て,二番目として断面積一定の流路における摩擦のある断熱流れであるファ
ノ流れモデル(1)(14)を用いて漏れ流量を計算する.図5.1に示すように,解析
モデル流路は,圧力P。p,温度T。pを持つ上流側の部屋,先細ノズル,断面
積一定の直線摩擦流路,圧力Pdnを持つ下流側の部屋で構成される.流路出
口断面②にて音速状態となる場合に,入口断面①におけるマッハ数M1と摩
擦流路長さlfとの間には,次の関係式が成立つ.
元∫き一1嵩㌔bg2葺畿
(5.2)
万一
Re=2ρuδ/μ
ここで,ρは密度,uは流速,δはすきま,μは粘度, Zfは平均管摩擦係
数である.この時,摩擦流路の圧力比Pl/P2,先細ノズルの圧力比P。p/Piは,
次のように表される.
◎
⑦
Pdn
丁些一→
一+e−>Mi
図5.1 解析モデル流路
一67一
f
号一誌+(歳r
(5.3)
警一〔1+:バ/(K−1)
(5.4)
上流側の部屋と摩擦流路出口間の臨界圧力比λ、,{≡.P。p/、P2=(P。p/P1)・(P,/
P2)}が上流側と下流側の圧力比P。p/Pdnより小さければ,流れは臨界状態とな
る.流れが臨界となっている場合には,摩擦流路出口断面にて,出口圧力P,
=P。p/P、,,マッハlft M, ==1となる.そして,出口における温度T2,流速u2,
漏れ質量流量mbは,それぞれ次のように表される.
ち一脇/も+k−1)M9/2}
(5.5)
u2 一」lf2Pt
(5.6)
痂=唖ち/(RT2)
(5.7)
しかし,流れが臨界に達していない場合には,摩擦流路の入口断面①にお
けるマッハ数M1の値を仮定して与えると,摩擦流路の長さlf.は式(5.2)を用
いて計算され,摩擦流路の臨界圧力比P1/、P・および先細ノズルの圧力比
P。p/Piは,それぞれ式(5.3),(5.4)で求められる.流路出口断面②における
マッハlk M,は次式から得られる.
万1∫三L1芸+÷bg
(κ+1)M22
(5.8)
2+(κ一1)Wt22
式(5.3)でのM,をM2に変えれば,臨界圧力比、P2/P・が求まり,圧力比P。p/P2
は次式で与えられる.
㌦/P2=(Pup/Pl)(Pl/P・)/(P2/P・)
(5.9)
定式より得られる圧力比P。p/P2が圧力比P。p/Pdnと等しければ,マッハ数M、
とM2の値は妥当であり,T2, u2, mはそれぞれ式(5.5)∼(5.6)により求め
られる.
一68一
三番目は,石井ら(7)が提案した非圧縮性・粘性流れモデルであり,これは
流れを完全に発達した乱流と仮定して,次式で与えられる.
竿一万嘉 (5・1・)
万=α35/Re °・25
、Re = 2i・u.δ/μ
ここで,ρは上流側の密度,Lは流路の長さ, Umは漏れ流れの平均流速であ
る.式(5.10)から流速Umを求めると,漏れ質量流量mは次式で得られる.
沈=ρδ励“2 (5.11)
ここで,vaは流路幅である.
四番目は,Fagerli(8)が提案したモデルであり,漏れ流れを平行平板間の摩
擦がある一次元定常状態の層流と仮定すると,質量漏れ流量mは次式のよう
に与えられる.
πδ3(1ψ一場)
mb =
(5.12)
24PtZRT。pL
ここで,Zは空気の圧縮係数である.
5.3 実験装置および方法
実験に用いた軸方向すきまのモデル流路を持つ実験装置を図5.2に示す.
モデル流路は円筒状ラップの先端面と研磨したガラス面で構成され,ラップ
の先端に加工された溝には軸方向すきまを調整するチップシールが挿入さ
れている.組立すきまδaがラップの先端面とガラスの下面の間に存在する
が,このモデル流路を流れる漏れ流れの特性は,δ、より遥かに小さいチッ
プシールの上面とガラスの下面からなる軸方向すきまに支配される.それは
チップシールが高圧の上流側圧力P。p(以後,上流圧と称する)と低圧の下流
側圧力Pdn(以後,下流圧と称する)の差による力によって,ガラス面に押し
付けられるためである.円筒ラップの主な寸法は,内径γ∫=21mm,外径r。
=25mm,シール溝外径rg。=23.975 mm,溝幅Lg=1.95 mm,溝深さHg
=1.52mmである.それに対して,チップシールの寸法は,厚さL,=1.9
一69一
き
mm,高さH,=1.1,1.3,1.5mmある.軸方向の組立すきまはδa=83μm
である.
本研究では作動流体として空気を使用する.モデル流路装置を空気圧力源
に接続し,空気圧力源から高圧の空気をモデル流路に供給する.供給された
高圧空気は,モデル流路の微小すきまを通って大気中に放出される.上流圧
1)upと下流圧Pdnはそれぞれ上流側と下流側に設置した圧力調整器とコント
ロール弁で調整し,その時の漏れ流量nt,上流圧P。pとチップシール背部の
溝圧Pg。との差圧△P,軸方向すきまδ、を同時に測定する.流路前後の圧力
と温度はそれぞれブルドン管圧力計と銅一コンスタンタン熱電対により測
定し,上流圧とチップシールの溝圧との差圧はベローズ式差圧計により測定
する.漏れ流量は浮き子式流量計により測定する.チップシール表面に粗さ
があるので,軸方向すきまは,レーザ変位計によりチップシール上面の11ヶ
Circular wra
eal
Tip seal
\
■
Air source
tく∼o
1
懇紗雛
⑥
○
Laser
Regulator
㎏
閣
Ti
翁
l“A”
Detail“A”
P
pl
Glass Plate
,i,ノ
△P
’
! ‖ 、
垂馨
1難
ノ 簿
、
、
!
FIowmeter
Piup
Pdη T
Circular wrap Pgy
図5.2 実験装置
一70一
r
所を測定して平均する.
5.4 結果および考察
5.4.1 解析モデルの比較
解析モデルの特徴を比較するにあたり,計算の基準となるモデル流路の主
な寸法は,微小すきまδ=20μm,長さL←L,)=1.9mm,幅m←2π(rg。
一一
@Lg/2))=144.5mmである.上流側温度T。pは25°Cとし,上流圧と下流
圧P。p,’ Pdnはそれぞれ0.101 MPa[abs]から0.984 MPa[abs]まで変化する.
流量係数(]fは1とし,作動流体として空気(断熱指数κ=1.4)を用いる.
上流圧P。pを0.984 MPaに設定して下流圧Pdnを変化した場合に,漏れ流
量の解析結果を図5.3に示す.すきまが20μmの場合,下流圧が0.8MPa(圧
力比Pdn/P。p=0.81)より大きい圧力条件では,粘性効果が支配的となり,粘
性効果を考慮した3つのモデルの結果はほとんど同じであるが,粘性を考慮
しないノズルモデルの結果だけが大きい.下流圧が減少すると,上流圧と下
流圧の差が大きくなるので,粘性効果に比べて慣性効果が次第に大きくなる.
従?て,粘性効果だけを考慮した石井モデルとFagerliモデルは漸次増加し
ていくが,圧縮性流れと仮定したノズルモデルとファノモデルでは,下流圧
が臨界圧力(ノズルモデル:0.52MPa,ファノモデル:0.344 MPa)より低く
なると,漏れ流量は臨界状態に達して下流圧を下げても漏れ流量は増加しな
い.解析モデルの中でファノモデルの計算結果が最も低い値を示し,下流圧
が0.101MPaでのレイノルズ数は3,500程度である.
下流圧Pdnを0.101MPaに設定して上流圧P。pを変化した場合に,漏れ流
量の計算結果を図5.4に示す.Fagerliモデル以外に,3つの解析モデルの計
算漏れ流量は,P。p ’の増加とともにほぼ直線的に増加する.、P。pが0.45 MPa(圧
力比Pdn/P。p・=0.22)より小さい条件での解析モデルの漏れ流量は,ノズルお
よび石井モデルのほうが他のモデルよりも大きい.しかし,P。pが0.45 MPa
より大きくなると,ノズルおよびファノモデルに比べて粘性効果だけを考慮
したFagerliモデルの漏れ流量は急激に増加する.
一71一
’20
i,
Model
Air
・・一一一一一 Fagerli
δ=20μm
Ishii
’一一一
`・
`、 Nozzle
∼N−一.s、一一一 Fanno
L=1.9mm
W=144.5mm
Tup=250C
Pup=0.984 MPa
宣・
』⊇10
・∈
5
0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
Pdn[MPa]
図5.3 下流圧を変した場合の計算漏れ流量
20
15
Air、
Model
δ=20μm
…一一一・・t・−
@Fagerli
Ishii
L=1.9mm
W=144.5mm
Tup=250C
Pdn=0.101 MPa
望
呈10
・∈i
5
O
O.O
0.2
0.4
0.6
0.8
Pup[MPa]
図5.4
上流圧を変化した場合の計算漏れ流量
一72一
1.0
5.4.2 実験結果および等価すきま
図5.5に,上流圧P。pを0.984 MPaに設定し,下流圧を0.101 MPaから0.964 MPa
に増加させた場合(以後,ケース1と称する)と,0.964MPaから0.101 MPa
に減少させた場合(以後,ケース2と称する)について,漏れ質量流量mb,
差圧△P←Puグξg。),相対上部すきま△6,の測定結果を示す.チップシール
の高さは1.5mmである.ケース1では,下流圧の増加とともに漏れ流量と差
圧が若干増加しその後減少するが,ケース2では,下流圧の減少とともに漏
れ流量と差圧はケース1の場合よりも大きな値をとり,その後徐々に減少す
る.差圧は10∼17kPaで上流圧と比べて非常に小さいので,チップシール
背面の溝圧Pg.はほぼ上流圧P。。と同等である.一方,レーザ変位計で測定し
た軸方向すきま△6,は,下流圧Pdnが0.101 MPaでの値(△6,:0)からの相対
値で表す.この相対すきまは,下流圧Pdnを0.4MPaまで増加しても変わら
ないが,それ以上に上げると徐々に増加する.下流圧が0.964MPaになると,
その時の相対すきまは9μm増加している.逆に下流圧を減少するとすきまは
小さくなる.
一方,測定漏れ流量を4っの解析モデルの解析結果と比べると,下流圧の
増加とともに臨界状態から徐々に減少する測定漏れ流量の特徴がノズルモ
デルの解析結果と類似しているので,ノズルモデルを適用して測定漏れ流量
に相当する等価すきまδを求めた.ケース1の下流圧が0.101MPaでは,等
価すきまが0.7μmであるが,0.964MPaになると2μmに増加する.それは,
上流圧と下流圧の差によってチップシールをガラス板に押し付ける力が,下
流圧の増加に伴う差圧の減少で小さくなるためである.ケース2の漏れ流量
がケv…一・ス1より大きくなるのは,下流圧を下げてもすきまは直ぐには縮まら
ずシール能力がもどらないからである.しかし,もっと下流圧を下げていく
と漏れ流量は,徐々に減少してケース1と同じになる.
図5.6に,下流圧P。pを0.101MPaに設定し,上流圧を0.984 MPaから0.121MPa
に減少させた場合(以後,ケース3と称する)と,0.121MPaから0.984 MPa
に増加させた場合(以後,ケース4と称する)について,漏れ質量流量im,
差圧△P,軸方向すきまの変化△δiの測定結果を示す.ケース3で上流圧を下
一73一
\
0.6
Exp. CaI.(Nozzle Flow)
宣o・4
8:叢1}二=1:;:1蒜
・E O.2
0.0
30
己
o−
10
<
0
20
官
ユ
<
10
0
一1も.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.O
Pdn[MPa]
図5.5 ケース1とケース2条件での測定漏れ流量および等価すきま
一74一
0.6
Exp. Cal.(Nozzle Flow)
”E75”0・4
夏c::i}二=1:1:;㍑
遠
・∈0.2
0.0
・30
Pdn=0.101[MPa]
ト
止
10
<
0
20
官10
弓
一i%.o
0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
Pup【MPa]
図5.6 ケース3とケース4条件での測定漏れ流量および等価すきま
一75一
げると漏れ流量は,ほぼ直線的に減少し,等価すきま約0.7μmの計算流量と
ほぼ一致する.しかし,差圧が小さくなると押し付け力が減少してすきまは
増加するので,漏れ流量は0.7μmの計算流量より少し大きくなる,測定した
相対すきまの変化は8.6μmである.等価すきまと測定すきまの違いは流量係
数や測定方法などに関係するのでもう少し調べる必要がある.ケース4の結
3
果はケース2と同じように説明できる.
5.4.3 測定および解析結果の比較
図5.6に示した測定漏れ流量mは,チップシールの上面とガラス板の下面か
らなる上部すきま6,を通る上面漏れおよびチップシール溝の外壁面とチッ
プシールの外側面からなる側部すきまδsを通る側面漏れで構成される.従っ
て,上面漏れ流量咋を明らかにするために,ケース1とケース2条件につい
て,追加実験を行う.上部すきまによる上面漏れ流れを防止するために,ガ
ラス板の代わりに0リングが設けてある鋼製平板を用いた追加実験の測定結
果を図5.7に示す.測定された側面漏れ流量Msは漏れ流量mと比べて全般的
にずっと小さく,特に,下流圧1)dnが大きい,すなわち,上流圧と下流圧の差
が小さい条件では,非常に減少する.漏れ流量mbから側面漏れ流量醜を差し
引けは,上面漏れ流量吻が得られる.
図5.8に,ケース1について上部すきまを通る漏れ流量の測定および解析
結果を示す.漏れ流量の解析結果を得る方法として,まず,それぞれ解析モ
デルに対して,下流圧Pdnが0.101 MPaでの上面漏れ流量吻に相当する基準
すきまを計算する.計算されたノズルモデルの基準すきまは,0.5μm,ファ
ノモデルは,5.9μm,石井モデルは,1.9μm,Fagerliモデルは,4.5μm
である.各解析モデルに対する上部すきまの変化は,図5.5に示した相対上
部すきま△δiにそれぞれの基準すきまを足して得られる.従って,各解析モ
デルの計算漏れ流量M。alは,この上部すきまに基づいて計算される.粘性効
果を考慮しないノズルモデルは,粘性を考慮した3つのモデルと比べて,計
算流量を非常に大きく評価している.また,3つのモデルの計算流量は,ほ
一76一
0.6
Exp. Cal.(Nozzle Flow) \、
_ 0.4
望
・EiO.2
\
\l
N
0.0
0.6
Pup=0.984[MPal
O−ring
宣o・4
弓
・∈ 0.2
0
0.6
宣o・4
号
・∈ 0.2
もo
0.2
0.4
0.6
0.8
Pdn[MPa]
図5.7 上面漏れ流量と側面漏れ流量
一77一
1 .0
1.5
冨1・0
遠
言
・∈
D
・∈0.5
0.0
0.0
0.2
0.4
0.8
0.6
1.0
Pdn[MPa]
図5.8 上部すきまを通る漏れ流量の測定および解析結果(ケース1)
Peak
Pdn
Pup
Tip seal
図5.9 チップシール表面の粗さ
一78一
ぼ同じであり,あらゆる圧力条件において測定流量より少し上回っている.
下流圧が0.8MPaより大きい圧力条件では,粘性の影響が非常に大きくなる
ので,Fagerliモデルの計算結果が測定結果と良く一致している.一方,図
5.9に示すよう、に,チップシールの表面は,多数のピークで構成される粗さ
を持っている.このピークが漏れ流量にどれくらい影響を与えるかを調べる
ために,微小すきまにおけるピーク間に数多くの一連のノズルで構成される
ラビリンス流れ(15)と仮定し,漏れ流量を計算してみると,ピーク数が多くな
るにしたがって,漏れ流量が極めて減少することがわかる.従って,ノズル
モデルについて下流圧Pdnが最小(0.101 MPa)と最大(0.964 MPa)の2つの圧
力条件で計算流量と測定流量が一致するようにすれば,流量係数(]fは0.13,
基準すきまは4μmが求められる.これらを用いたノズルモデルの計算結果は,
1.5
Pdn=0.101[MPa]
一一一
−一一一
−一一一一一
’“
tii・i 1・0
遠
撃唐?奄
eanno
eagerli
−一一一 mozzle((ミ=4μm,Cf=O.13)
O Experiment
言
・∈
D
・Eo.5
\\\
言毛ぞ逮凄
0.O
O.O
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
Pup[MPa】
図5.10 上部すきまを通る漏れ流量の測定および解析結果(ケ・・一・一・ス3)
一79一
全圧力条件に渡って測定結果と比較的良く一致する.
図5.10に,ケース3について上部すきまを通る漏れ流量の測定および解析結
果を示す.上流圧P。pの減少とともに,上面漏れ流量咋は直線的に減少す
る.ノズルモデルと石井モデルの計算流量は,測定流量と比べて非常に大き
.J
く,ノズルモデルの方が漏れ流量を最も大きく評価している.ファノと
Fagerliモデルの計算結果は,ほぼ同等であり,上流圧、P。pが0.4∼0.8MPa
条件では,測定結果より少し上回っている.また,上流圧P。pが0.3MPaよ
り小さくなると,Fagerliモデルの計算結果は測定結果より小さくなる.ケ
ース1の結果と同じように,流量係数()fを0.13,基準すきまを4μmを用い
たノズルモデルの計算結果は,測定結果と良く一致している.
0.8
Ht mm
1.1
1.3
t5
Casel
▲△
◆◇
●○
P、p=0・984[MPa】
base2
O−ring
0.6
ナ.
芸溺、)
簗← i華1・溺
灘欝謬
@ ・P㊧
P4.
望
嚇
90.4
ゆ
・∈
念会念2
0.2
0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
Pdn[MPa]
図5.11 チップシv−一一一・・ル高さの変化による側面漏れ流量の変化
一80一
5.4.4 チップシール高さの影響
ケース1およびケース2条件でチップシール高さH,が異なる場合, 図5.7
中に示すようにチップシール上方の鋼製平板に0リングを設けて上部すきま
を通る漏れ流れを防いで追加実験を行った測定結果を図5.11に示す.チップ
シールの高さが1.5mmから1.3,1.1mmと減少すると,側面漏れ流量醜は
次第に増加する.結局,チップシール高さの変化は,チップシールの外径面
とチップ溝の外径壁面からなるすきまを通る漏れ流量に直接影響を与える
ことがわかる.従って,スクロ 一一ル圧縮機のチップシール部における漏れ流
量を減らすためには,チップシールの厚さだけではなく,高さも最適化する
こと重要である.
5.4.5 バックアップスプリングの影響
上流圧P。pと下流圧Pdnの差が小さい条件での漏れ流量を減らすために,
チップシー一一・ルをガラス板に押付けるバックアップスプリングをチップシー
ル背面のシール溝内に挿入する.バックアップスプリングは厚さ0.05mmの
鋼薄片で作られる.チップシN・・一・一・ル溝内の空間が限られているので,この実験
では高さは1.1mmのチップシールを用いる.図5.12に,ケース1とケース2
について,バックアップスプリングがある場合とない場合,上面漏れ流量mt
と相対上部すきま△6,の測定結果を示す.下流圧Pdnが0.4MPaより低い条件
では,2つの場合ともに漏れ流量はほとんど同じであるが,Pdnが増加すると
バックアップスプリングがある場合の漏れ流量は,スプリングがない場合よ
り小さくなる.それはバックアップスプリングを入れることより,上流圧と
下流圧の差が小さい条件でも,上部すきま6,が大きくならないためである.
従って,バックアップスプリングは,スクロール圧縮機の軸方向すきまを通
る漏れ流量を減らす対策の一つとして有効である.
一81一
”E75”
、
=
・∈
0.4
Spring
w/owith
Case l
base 2
● ◆
宦@◇
○Oo(Q)O
0.2
0.0
40
∈ 20
Pup=0.984[MPa】
ゴー ・
=
一2%tb
0.2
0.4 0.6
0.8
1.0
Pdn[MPa】
図5.12 バックアップスプリング有無による上面漏れ流量の比較
一82一
5.5 結
言
スクロール圧縮機の軸方向シール機構として用いられるチップシールの
漏れ特性を調べるために,モデル流路における漏れ質量流量,上流圧とシー
ル溝圧の差圧,相対上部すきまを同時に測定できる実験装置を製作した.ま
た,漏れ流量が予測できる4つの解析モデルを検討し,その計算結果を実験
結果と比較した.臨界状態から徐々に減少する測定漏れ流量の変化は,ノズ
ルモデルの解析結果と類似であるが,上流圧と下流圧の差が小さくなると,
むしろ測定漏れ流量は大きくなる.それはチップシールを押し上げる力が減
少し,チップシール上部のすきまが増大するためである.また,ノズルモデ
ルについて,流量係数0.13を用いた場合の計算流量が,測定漏れ流量と最
も良く一致する.チップシール高さが減少すると,チップシール部を通る漏
れ流量が大きく増加し)tチップシール高さの変化は,チップシール部の側部
すきまを通る側面漏れ流量に大きな影響を与える.従って,スクロール圧縮
機の効率を向上するためには,上部すきまを通る上面漏れ流れだけではなく,
側部すきまを通る側面漏れ流れを減らす必要がある.さらに,バックアップ
スプリングをチップシー・一・・ル背面のシール溝内に挿入すると,上流と下流間の
差圧が小さい条件でもチップシールを押し上げる力が保持できるので,上面
漏れ流れが減少する.従って,バックアップスプリングは,スクロール圧縮
機の上部すきまを通る漏れ流量を減らす対策の一つとして有効である.
参考文献
1
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一83一
J
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W4一
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(14)Gerhart P. M. and Gross R. J., Fundamentals of fluid mechanics,
(1985), 725, Massachusetts: Addison−Wesley Publishing Company.
(15)日本機械学会編,管路・ダクトの流体抵抗,(1979),151,日本機械学
会.
一85一
第6章半径すきま部における漏れ特性
し
6.1 緒
言
冷凍空調機器に幅広く使われているスクロール圧縮機の性能向上を図るた
めには,圧縮室間の内部漏れを抑制することが重要である.
スクロール圧縮機における内部漏れは,図6.1に示すように,圧縮室を形
成する旋回スクロールと固定スクロール間の軸方向すきまδ。における半径方
向漏れと半径方向すきまδ,における接線方向漏れとがある.前者の漏れを抑
制する方法として,第5章で述べたように,チップシールを用いる方法や両
スクロールを軸方向に押しつけてすきまを調整する方法などがある.一方,
後者の漏れを抑制する方法として,可変クランク機構によりすきまを調整す
る方法や固定クランク機構により極小のすきま管理を行う方法などがある.
半径すきま部における漏れに関しては様々な研究(1∼9)が行われているが,旋
回スクロールの旋回運動の影響を検討した研究はほとんど見当たらない.
そこで本研究では,スクロール圧縮機の半径方向すきま部をモデル化した
漏れ流路を作製し,曲率を有する微小すきま壁面間の漏れ特性,およびその
壁面が移動する場合の漏れ特性を実験的に検討する.また,簡単な理論モデ
ルを用いて漏れ流量の解析を行い,その結果を測定結果と比較する.
Fixed scrolI
/Orbiting scroll
wra
wrap
図6.1 スクロール圧縮機の内部漏れ
一86一
6.2 実験装置および方法
本研究では,図6.1の半径方向すきまδ。における接線方向漏れに注目する.
両スクロールラップ壁間の接線方向漏れ流路は,曲率半径の異なる二円筒面
間の漏れで近似され,さらに本研究では,単純化するために外側の曲率半径
が無限大と見なし,円筒面と平面とで構成される等価流路(1°)に置き換えて検
討する.
図6.2に本研究に用いたモデル流路と実験装置の概略を示す.すきま流路部
は円筒状のセパレータの前端平面とローラの外周曲面とで構成されており,
半径すきまδrはセパレ・・一・一・‘タの後端部に取付けた1μm精度のマイクロメータに
より調整される.旋回スクロールの旋回運動による壁面移動の影響はローラ
の回転により模擬される.本装置におけるローラ半径Rは45mm,セパレー
タ外径(流路幅に相当)は26mmである.
モデル流路装置を空気圧力源に接続し,高圧空気をすきま流路部に供給す
Regulator
O
Air source
T P
Micrometer・Pup
To atmosphere
T
Flowmeter
Roller
Separator
図6.2 実験装置
一87一
る.所定圧力に調整された空気は,流路の半径すきまδrを通って下流側に流
出する.マイクロメータによりすきまを順次変更しながら,上流圧力P。pと下
流圧力Pdnをそれぞれ上流側と下流側に設置した圧力調整器とコントロv・一一一一ル
弁で調整し,その時の漏れ流量を測定する.
ローラを回転させない状態において,ローラの外径寸法のばらつきによる
影響を調べるために,ローラを18°間隔で移動させて静止し,外周上20ヶ所
で漏れ流量を測定する静的な実験を行う.次に,ローラをモータで回転させ,
曲面が移動状態での漏れ流量を測定する動的な実験を行う.ローラの回転速
度は,旋回半径4mm,回転数3,500 rpmで運転されるスクロール圧縮機に
おける壁面移動速度を模擬するように,約300rpm(周速1.4m/s)とする.
その際,ローラを時計方向(正回転)と反時計方向(逆回転)に回転させて,ロ
S…一一・
奄フ回転による影響を調べる.
漏れ流量は浮き子式流量計により測定し,流路前後の圧力と温度はそれぞ
れブルドン管圧力計と銅一コンスタンタン熱電対により測定する.
6.3 理論解析
本研究では,半径方向すきまを通る漏れ流量を評価するために,5章で記述
した4つの漏れ解析モデルの中で,二つの解析モデルについて検討し,その
結果を比較する.一つ目は,圧縮機内の漏れの見積もりに一般的に使われて
いるノズル流れモデル(11)である.これは流れを摩擦のない先細ノズルを通る
Roller
(1)1
Pdn
・Pup
,・・s:
Separator
図6.3 摩擦漏れ流路
一88一
圧縮性・等エントロピー流れと仮定し適当な流量係数を与えて漏れ流量を計
算する.二つ目は,摩擦を伴う圧縮性流れとしての解析である.ただし,図
6.3に示すように断面積の変化する摩擦流路での圧縮性流れを解析すること
は必ずしも容易ではないので,本研究では,断面積一定で摩擦を伴う圧縮性
流れ(ファノ流れ)に近似して解析する.その際,すきま高さh,が流れ方
向に変化する流路は,すきまが最小すきまδrに等しく長さが次式のような摩
擦損失の観点から見たときに等価となる長さlfの流路に置き換えられる(12).
1∫一δ鰺一δ〔δ芸書ψ)
一十±㎞司一岩呉]1 (6’ 1)
ここで,sは平面に沿った距離である.また,式(6.1>に流路の断面積変化に
伴う流速の変化を考慮すれば,lfは次式で表される.
1∫一δ3
ヨ一δ3転+鴇:ψψ)}3
一下蒜一α2ピご)−2鷲)㎞→・慧”
なお,ファノ流れにおける摩擦を考慮するための管摩擦係数は,層流状態で
は二次元溝の値(=96/Re[Reはレイノルズ数]),乱流状態ではブラジウス
の式(=0.3164/ReO’ 25)で与える.
6.4 実験結果および考察
6.4.1 等価流路長さの計算結果
図6.4に,ローラ面上の角度qとそれに対応した等価摩擦流路長さ1fの計
算結果を,半径すきまδ,をパラメータとして示す.いずれの線図においても
角度が10∼20°で一定値に達する傾向にあり,流速変化を考慮した式(6.2)
の計算結果は,式(6.1)の計算結果に比べて40%程度小さい値である.これ
は最小すきま部近傍での摩擦に比べて他の部分の摩擦の影響が相対的に小さ
く見積もられるためである.本研究における後述の計算結果では,式(6.2)を
一89一
用いて計算した解析結果のほうが実験結果により近かったので,等価流路長
さとして式(6.2)を用いる.
6.4.2 静的実験結果
ローラを回転させない静的状態において,下流圧力Pdnを0」99 MPa[abs]
に設定し上流圧力1)upを0.494から0.248 MPa[abs]まで段階的に設定した
場合について,マイクロメータ読みの変化△δ,(基準位置からの変化)に対
する漏れ流量の測定結果を図6.5に示す.△δrは,大きいほどそのぶん半径
すきまが小さいことに相当する.漏れ流量は,マイクロメータの読みAδrの
増加,即ち半径すきまの減少とともにおよそ直線的に減少する.△δrが47μ
mになると最小流量を示し,その後若干の増加傾向となっている.
各圧力条件での最小漏れ流量が0とならないのは,半径すきまδ。以外にロ
ーラ周囲や端面などでの漏れがあるためである.そこで本研究では,各圧力
条件での最小漏れ流量を半径方向すきま以外での漏れと見なし,測定流量か
10
R=45mm
8
δr[μm]
一一一 @30
一一一一
_ 6
@20
10
Equ.(1)
∈
∈
__一一一一一一一一一一 一一一一一
P’
//
ロ
上 4
V/
〃
Equ.(2)
2
_ 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一 一
@ 一 一 一 一
@/’
V一’一一一一一一 一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一
チ
0
0
45
90 135
Φ【deg]
図6.4 等価摩擦流路長さの計算結果
一90一
180
らその最小流量を差し引いた値を半径すきまにおける実効的な漏れ流量と
する.また測定流量が最小となる位置(A 6。 = 47μm)を半径方向すきまが0
の位置と見なす.
図6.6に,上述のようにして求めた実験漏れ流量と解析モデルから得られ
た計算流量との比較を示す.ノズル流れモデルの解析結果(最大流量点での
実験値と解析値とが一致するように流量係数を0.76一定値とした)は,半
径すきまδrの変化とともに直線的に変化する.その解析結果は,すきまが大
きいところでは実験結果と近いが,すきまが小さくなるとともに実験結果か
ら離れてしまう.これはすきまが小さくなるほど効いてくる粘性摩擦の影響
を無視しているためである.一方,粘性の影響を考慮したファノ流れモデル
の解析結果は,今回の上流圧力P。pおよび半径すきまδrの範囲において実験
結果とよく一致している.
ローラを回転させない静的状態において,上流圧力P。pを0.494 MPa[absユ
に設定し下流圧力Pdnを0.199から0.474 MPa[abs]まで段階的に設定した
1.5
Pdn=0.199[MPa]
Pup【MPa]
1.0
OO.494
▲0.396
口0.297
●0.248
ト
望
迎
・∈
0.5
0.0
0
10
20 30
△δr [PtM]
図6.5 漏れ流量の測定結果
一91一
40
50
1.5
1.0
ロ
望
呈
・∈
0.5
0.0
0 10 20 30 40 50
δr【μm]
図6.6 上流圧の変化による実験流量と計算流量の比較
1.5
1.0
O.297
0.396
r゜−−−−゜゜1
望
0.474
・∈
0.5
0.0
0 10 20 30 40 50
δr[μm]
図6.7 下流圧の変化による実験流量と計算流量の比較
一92一
場合について,漏れ流量と半径すきまの関係を図6.7に示す.実験値は,下
流圧力Pdnが0.199および0.297 MPaの時にほぼ等しい値を示しており,お
よそ臨界状態であることがわかる.ノズル流れとしての解析結果は,Pdnが
臨界圧力(0.261MPa)近傍の0.297 MPaおよびそれ以下の0.199 MPaの時に
ほぼ等しい状態である.しかし,それらの値はすきま変化に対して直線的に
変化しており,すきまの小さい範囲では実験値の傾向とは異なっている.一
方,ファノ流れとしての解析結果は,全体として実験値の変化傾向と一致し
ている.しかし,下流圧力Pdnが高くなると実験値よりも下回る傾向となっ
ており,上流圧力P。pを変化させた図6.6の場合のような良好な一致は見ら
れない.この相違の理由ははっきり分かっていないが,実験においてロ…一・・ラ
中心部空間の圧力を上流圧力と等しくしていることが影響しているかも知
れない.また,図6.8に示すように,ファノ解析モデルにおいて,層流状態
での管摩擦係数を二次元溝の値(=96/Re)から通常の値(=64/Re)に変
更してみると解析値は実験値に近づいてくるので,摩擦係数の観点からの考
1.5
Pup=0・494[MPa]
Pdn[MPa]Exp.
0.396 ■
1.0
0.474 0
/■//
ロ
望
所/
・E
プ//
シ〃 。
0.5
悟グンレ1ジ/
廷多呈妾二/
0.0
0
10
20 30
40
50
δr [PtM]
図6.8 管摩擦係数の変化による計算流量の違い
一93一
察も必要である.
6.4.3 静的および動的実験結果の比較
ローラを回転させない静的状態および回転させた動的状態において,下流
圧力Pdnを0.199 MPa[abs]に設定し上流圧力P。pを変化させた場合の漏れ流
量の測定結果を,半径すきまδrをパラメv・一一一Tタとして図6.9に示す.静的実験
の結果では,ロv・一一・・ラの外周20ヶ所の位置で測定した漏れ流量に,ローラ外
径のばらつきに起因すると思われる最大・最小の変化が見られ,20ヶ所の平
均値は最大と最小の中間値よりも少し小さい値となっている.一方,ローラ
の回転する動的実験の結果では,ローラの回転方向によらず,漏れ流量は静
的実験の平均値より小さ目になっている.これはロ 一一ラ外径寸法のばらつき
1.5
1.0
ロ
望
・∈
0。5
6r=2μm
0.0
0.4
0.6
0.8
λP【=Pdn/Pup]
図6.9 静的と動的状態での実験結果の比較
一94一
の特性が影響していると考えられるが,現時点では明確な理由は不明である.
ローラの回転方向(正回転:ローラ壁が漏れ流れと逆方向に移動する場合
であり,実際のスクn 一一ル圧縮機での旋回方向と同じ)と漏れ量の関係に注
目すると,全体的にほとんど差が見られないが,圧力比λpが1に近くかつす
きまが小さい場合に正回転のほうが逆回転よりもわずかに小さくなってい
る.これは実験範囲の大部分において漏れ流速が壁面速度(1.4m/s)に比べて
十分に大きく,漏れ流速の小さい範囲でのみ壁面移動の影響が現れるためで
ある.実用的なスクロール圧縮機において,漏れ流体が気体の場合には旋回
スクロールの壁面移動の影響はほとんど考慮しないで良いであろう.しかし,
冷媒圧縮機のように漏れ気体中に油が混じっている場合には状況が異なる
ことが予想され,本装置を用いて今後の実験が必要である.
6.5 結
言
スクロール圧縮機の半径方向すきま部における漏れ特性を調べるために,
スクn 一一ルの旋回運動に伴う壁面移動の影響も考慮できるモデル流路を持
つ実験装置を製作した.また,漏れ流量を予測する解析モデルとしてノズル
モデルとファノモデルを検討し,その計算結果を実験結果と比較した.上流
圧力を変化させた場合の静的漏れ流量は,モデル流路の面積の変化に伴う流
速の変化を考慮した等価摩擦長さを用いたファノ流れの計算流量とよく一
致した.しかし,下流圧力を変化させた場合には,必ずしも良好な一致は得
られなかった.旋回スクロールの壁面移動を模擬したローラ回転時の漏れ流
量には,その影響がほとんど見られなかった.今後,油の混入状態での実験
が必要である.
参考文献
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ノ
一97一
第7章 結
論
空調用のスクロール圧縮機において,高性能なスクロールラップ形状の中
で,非対称スクロールラップは,従来の対称スクロールラップに比べて,比
較的簡単に性能向上やコスト低減などが実現できる構造となっている.しか
し,対称スクロールではガスカの作用点がいつも一定であるのに対して,非
対称スクロールでは作用点が変化している.この作用点の変化によって運動
部材の挙動が不安定になり,それらは圧縮機の運転特性に影響を及ぼしてい
る.さらに,このようなスクロール圧縮機の効率を向上するためには,圧縮
室間の内部漏れを適切に抑える必要がある.内部漏れを抑えるためには,圧
縮機の微小すきま部における漏れ特性を詳細に把握することが重要である.
本研究では,このようなスクロール圧縮機の高性能化と関連させて,スライ
ドブッシュ式可変クランク機構を有する低圧ケーシング型のスクロール圧
縮機において,非対称ラップの挙動および漏れ特性について究明してきた.
それらの結果を総括すると以下のようになる.
まず,非対称スクロールラップについて旋回スクロール及びオルダムリン
グの動的挙動解析を行った結果,以下のことが明らかになった.
非対称スクロールラップでは同じ行程容積の対称ラップに比べてラップ
高さが低くなるので,旋回スクロール底板の挙動は安定し,本研究の解析例
では安定化係数は約30%小さくなっている.そして,対称ラップでは旋回ス
クロールにかかる接線方向ガスカの作用点距離は一定であるが,非対称ラッ
プの場合に軸の一回転中に変化している.また,作用点距離が負になると旋
回スクロールの自転モーメントも負になり,負の範囲は運転圧力比が大きい
ほど広くなっている.オルダムキーに作用する力は,対称ラップよりも非対
称ラップのほうが複雑に変化し,しかも負となる区間がある.この正負間の
変動はオルダムキー部がしゅう動面と衝突接触を繰り返すことを意味する.
非対称ラップにおける旋回スクロールの逆自転モーメントの発生すなわち
オルダムリング作用力の反転を減らすためには,一対の圧縮室の組込体積比
一98一
の変更や旋回スクロール底板中心に対する基礎円中心位置の変更,オルダム
リングキー溝位置の変更などが有効であることが明らかになった.
さらに,非対称スクロールラップについて,オルダムリングの挙動および
圧縮機ケーシングの振動を計測して対称スクロール圧縮機の場合と比較す
るとともに,吐出しリ・一一・一・ド弁の装着効果を調べた.その結果,対称スクロー
ルでは運転条件にかかわらず特徴的な騒音ピークは見られないが,非対称ス
クロールの場合には過負荷運転になると騒音ピークが発生することが明ら
かになった.対称スクロールではオルダムリングの回転方向変位およびケー
シシグの振動振幅値は運転条件にかかわらず非常に小さいが,非対称スクロ
ールの場合には軸の一回転中に特徴的なピークが見られ,運転圧力比が大き
いほど大きくなっている.また,非対称スクロー一ルでは,オルダムリングの
変位ピークが元にもどる角度位置とケーシングの振動発生ピークのタイミ
ングはおよそ一致しており,その振動ピークはオルダムキー一とキー溝側壁と
の衝突によるものと予想された.非対称スクロールに吐出しリード弁を取付
けると,高圧力比運転条件でのオルダムリングの回転方向変位が抑制されケ
ーシングの振動ピークも大幅に減少しているが,弁の衝突による新たな振動
が発生している.圧縮機の効率に対しては,リード弁のばね定数の影響が支
配的であり,さらに,弁の寸法形状の最適化実験の結果は,実験計画統計ソ
フトウェアパッケv・一・一・ジによって実験結果に基づいて分析算出された予測結
果と良い相関がみられた.
また,スクロール圧縮機の軸方向シール機構として用いられるチップシー
ルの漏れ特性を調べるために,モデル流路における漏れ質量流量,上流圧と
シール溝圧の差圧,上部すきま変化を同時に測定できる実験装置を製作した.
また,漏れ流量が予測できる4つの解析モデルを検討し,その計算結果を実
験結果と比較した.臨界状態から徐々に減少する測定漏れ流量の変化は,ノ
ズルモデルの解析結果と類似であるが,上流圧と下流圧の差が小さくなると,
むしろ測定漏れ流量は大きくなっている.それはチップシールを押し上げる
力が減少し,チップシ…一一一・ル上部のすきまが増大するためである.また,ノズ
ルモデルについて,流量係数0.13を用いた場合の計算流量が,測定漏れ流
量と最も良く一致している.さらに,チップシール高さが減少すると,チッ
一99一
プシールを通る漏れ流量が大きく増加するので,チップシール高さの変化は,
チップシール部の側部すきまを通る側面漏れ流量に直接影響を与えること
が明らかになった.従って,スクロール圧縮機の効率を向上するためには,
上部すきまを通る上面漏れ流れだけではなく,側部すきまを通る側面漏れ流
れを減らす必要がある.さらに,バックアップスプリングをチップシール背
面のシール溝内に挿入すると,上流と下流間の差圧が小さい条件でもチップ
シ・・一一・ルを押し上げる力が保持できるので,上面漏れ流れが減少する.従って,
バックアップスプリングは,チップシールの上部すきまを通る漏れ流量を減
らす対策の一つとして有効である.
最後に,スクロール圧縮機の半径方向すきま部における漏れ特性を調べる
ために,スクロ・一・一・ルの旋回運動に伴う壁面移動の影響も考慮できるモデル流
路を持つ実験装置を製作した.また,漏れ流量を予測する解析モデルとして
ノズルモデルとファノモデルを検討し,その計算結果を実験結果と比較した.
その結果,上流圧力を変化させた場合の静的漏れ流量は,モデル流路の面積
の変化に伴う流速の変化を考慮した等価摩擦長さを用いたファノ流れの計
算流量とよく一致している.しかし,下流圧力を変化させた場合には,必ず
しも良好な一致は得られなかった.さらに,旋回スクロールの壁面移動を模
擬したローラ回転時の漏れ流量には,その影響がほとんど見られなかった.
今後,油の混入状態での実験を行う必要がある.
以上が本研究の結論である.本研究では,スクロール圧縮機の高性能化と
関連させて,非対称スクロールラップを用いた場合における旋回スクロール
及びオルダムリングの挙動解析およびチップシール部と半径方向すきま部
における漏れ特性の究明を行ってきた.非対称スクロールラップにおいて,
ガスカの作用点変化によって旋回スクロールの逆自転モーメントの発生お
よびオルダムキー作用力の反転現象などが圧縮機の耐久性および騒音問題
など,圧縮機の運転特性への影響を評価した.さらに,スクn・一ルラップの
設計変数を変えることやリード弁を装着することによる運動部材への影響
を検討し,より安定となる圧縮機の設計指針も示した.また,本研究では,
圧縮室間の微小すきまにおける漏れ流量の解析モデルや定量的な評価方法
一100一
などを提案したが,これらについては,他の冷媒圧縮機においても十分適用
可能なものである.最後に,本研究で提案した非対称ラップの挙動および漏
れ特性の究明結果は,今後より良いスクロール圧縮機を開発および設計して
いく上で極めて有用なものとなる.
一101一
記号の説明
a :インボリュートの基礎円半径
A :漏れ流路の断面積
b :旋回スクロールオルダムキー溝の高さ
Cf :流量係数
d :鏡板の厚さ
F、 :軸方向ガスカ
、Fb :スクロール鏡板背面に作用する中間圧による軸方向ガスカ
F, :旋回スクロールの遠心力
F。b :スライドブッシュの遠心力
Fd :スクロール鏡板背面に作用する吐出し圧による軸方向ガスカ
Fr :半径方向ガスカ
Fs :シールカ
F、bt :接線方向の軸受反力
、F。br :半径方向の軸受反力
F, :接線方向ガスカ
F1∼、F4:オルダムリングのキー部作用力
h :ラップの高さ
hc :すきま高さ
Hg :チップシール溝の深さ
H, :チップシールの高さ
1 :旋回軸受の長さ
lf :摩擦流路の長さ
L :流路の長さ
五g :チップシV・・一・・}ル溝の幅
L, :チップシールの厚さ
m :質量流量
m。 :オルダムリングの質量
M :マツハ数
一102一
Mぷ
:旋回スクロールの自転モーメント
0∫
:固定スクロールの基礎円中心
0∫。
:固定スクロールの鏡板中心(クランク軸中心)
Om
:旋回スクロールの重さ中心
Oク
:クランクピンの中心
0∫
:旋回スクロールの基礎円中心
05。
:旋回スクロ・…一・・ルの鏡板中心(駆動中心)
」P
:圧力
Po
:吸込圧力(5章)
P1,」P2
:圧縮室の圧力
、Pd
:吐出圧力
、P吻
:下流側の圧力
Pgv
:チップシール溝の圧力
・Pぶ
:吸込圧力(2章,6章)
・Pup
:上流側の圧力
△」P
:差圧(=P。p 一 Pg。)
ra
:旋回半径
re
:旋回スクロールの基礎円中心と鏡板中心間の距離
rgo
:チップシール溝の外径の半径
ri
:円形ラップ内径の半径
γO
:円形ラップ外径の半径
R
:ローラの半径 、
Rθ
:レイノルズ数
Rth
:スラスト軸受の半径
ぷ
:セパレータの平面に沿った距離
t
:ラップの厚さ
T
:温度
Tup
:上流側の温度
:流速
Um
:平均流速
一103一
Vd
:吐出し行程容積
Vs
:吸込み行程容積
“lxs・’
:オルダムキー幅の半分
:流路の幅
α
:インボリュートの始点角
β
:旋回スクロールの基礎円中心から接線方向ガスカの
作用点まで距離
δ
:すきま
δa
:軸方向のすきま
δr
:半径方向のすきま
:チップシール部における側部すきま(3章),角度(5章)
6,
:上部すきま
△δr
:基準位置からのマイクロメータ読み
△6,
:チップシール部における相対上部すきま
ε
:安定性係数
φ
:インボリュート角
φ。
:スクロールラップの内側インボリュートの始端角
φ,
:スクロールラップのインボリュートの終端角
ψ
:最小すきま点を中心にqなる角度
K
:断熱指数
,JL
:組込み容積比
,ILcr
:臨界圧力比
λf
:管摩擦係数
/p
:圧力比←Pdn/P。p)
μ
:オルダムキー部の摩擦係数
μ力
:旋回軸受部の摩擦係数
μ’
:スラスト軸受部の摩擦係数
θ
:クランク軸回転角
ρ
:作動流体の密度
一104一
添え字
1
流路の入口断面
2
流路の出口断面
A
固定スクロール内側の部屋
B
固定スクロール外側の部屋
i
i番目の圧縮室
一105一
謝
辞
本研究は著者が韓国のLG電子株式会社を休職して,留学生として静岡大
学大学院理工学研究科(博士課程)に在学し,柳沢正教授のご指導のもとに
行ったものであります.ここに深く感謝の意を表します.研究の遂行にあた
って有益な助言,ご教示をいただいた静岡大学工学部の福田充宏助教授,
小木康博教務員に心から御礼申し上げます.
本論文の作成にあたり,貴重なご意見,ご教示をいただいた静岡大学工学
部の中山顕教授,森田信義教授,野飼享教授に厚く御礼申し上げます.
著者に休職により留学の機会を与えて下さったLG電子株式会社・Digital
Appliance研究所の任亨彬所長,圧縮機グループの李衡国グループリーダ
ー,ならびに朴畑郁元所長に深く感謝致します.また,終始暖かいご支援
を賜りました同グループの崔松責任,申東求責任,趙洋煕責任,李東沫責
任,崔世憲先任,張英逸先任,ならびに同グループの皆様に深く感謝致し
ます.
本研究を進めるにあたり,実験,解析ならびにデータ整理などにご協力い
ただいた大学院生の室野孝義君,当時卒研生の山田宗範君,ならびに流体工
学研究室の学生諸君に感謝致します.
最後に,妻や子ども,両親など,私を励まし応援してくださった皆様に深
く感謝致します.
一106一
(
論
1.
文
目 録
目本機械学会論文集(C編),67−664,(2001),pp.3708∼3714.
可変クランク機構を有する非対称スクロール圧縮機の挙動解析
李丙哲・張英逸・趙洋煕・金賢振・柳沢正
2.
日本機械学会論文集(C編),68−672,(2002),pp.2286∼2292.
可変クランク機構を有する非対称スクロール圧縮機の挙動計測
へ
李丙哲・柳沢正・李東深・趙洋煕
3.
Proceedings of Joint International Conference on the Advanced Science and
Technology at Hangzhou, China, (2001), pp. 200 ∼ 203.
A Study on the Dynamic Characteristics of an Asymmetric Scroll Compressor
Byeong−Chul LEE, Tadashi YANAGISAWA, Mitsuhiro FUKUTA, Yang−Hee CHO and
Dong−Soo LEE
4.
Proceedings of 16th International Compressor Engineering Conference at Purdue,
USA, (2002),’C20−3.
AStudy on the Leakage Characteristics of Tip Seal Mechanism in the Scroll
Compressor
Byeong−Chul LEE, Tadashi YANAGISAWA, Mitsuhiro FUKUTA and Song CHOI
5.
Internat ional Joint Symposium on Advance Studies in Mechanical Engineering at
Kyongju, Korea, (2002), pp. 45 ∼ 48. ’ 〈
Leakage Characteristics of the Scroll Compressor Having Tip Seal as a Sealing
Mechanism
㍍
Byeong−Chul LEE, Tadashi YANAGISAWA, Mitsuhiro FUKUTA and Song CHOI
’ x
6.
平成14年度日本冷凍空調学会学術講i演会講演論文集,(2002),pp.205∼208.
スクロール圧縮機におけるチップシールの漏れ特性
李丙哲・柳沢正・福田充宏・崔松
7.
第37回空気調和・冷凍連合講演会講i演論文集,(2003),pp.83∼87.
スクロール圧縮機の半径方向すきま部における漏れ特性
李丙哲・柳沢正・福田充宏・室野孝義
一107一