老年期うつ病と認知症 見分け方とケア

特集1
老年期うつ病と認知症 見分け方とケア
老年期うつ病と
認知症の見分け方
大森晶夫
福井県立大学 看護福祉学部 教授
医学博士。福井大学医学部附属病院神経科精神科講師を経て現職。
専門分野は,精神医学,臨床神経生理学,脳機能画像。日本精神神経
学会精神科専門医・指導医,日本老年精神医学会専門医・指導医,日
本臨床神経生理学会認定医,精神保健指定医。特定非営利活動法
人・福井ARC(Fukui Addiction Rehabilitation Center)理事長を兼任。
小坂浩隆
か,心因性や反応性,または薬剤性など,
ほかの原因によるうつ状態なのかを鑑別
することは,治療方法の選択や反応性に
もかかわるため重要である。薬剤性や器
質性など,ほかの原因にはよらないうつ
病でも,若年~中年の典型的なうつ病と
は異なる点が多いため,
「老年期うつ病」
と呼ばれてきた。
福井大学 子どものこころの発達研究センター 特命教授
福井大学 医学部附属病院 神経科精神科 外来医長
ただし,老年期うつ病自体も症状が多
彩である。そのため,経過や治療・援助
を考える上では,老年期うつ病を臨床的
老年期うつ病とは
2
のうつ病と呼んでいた本来のうつ病なの
亜型に分類して論じた方が理解しやすい
うつ病は,最も広く知られている精神
であろう。
疾患の一つである。世界保健機関(WHO)
古茶ら 4) は,老年期うつ病について
のICD-101)による「うつ病エピソード」
①定型うつ病,②焦燥性うつ病,③仮面
と,アメリカ精神医学会のDSM-52) に
うつ病,④躁うつ病の4つの臨床的下位
よる「うつ病(大うつ病性障害)」の診
分 類 を 提 示 し た。 そ の 後, 上 田 5) は,
断基準を表1に示す。DSMのような診
①制止型,②不定愁訴型(仮面うつ病)
,
断マニュアルを使い,症状によって操作
③焦燥型(身体感情中心型,退行期メラ
的に診断されるようになって以降,うつ
ンコリー,うつ病性混合状態)と,3つ
病は多様な病態を含む抑うつ症候群の一
の分類に大別した。
面を持っている。
本稿では,これらの分類を参考に,老
特に,高齢者では身体疾患の合併や社
年期うつ病を①定型うつ病(制止型うつ
会的立場,環境の変化などによりうつ状
病)
,②焦燥型うつ病,③仮面うつ病(不
態が現れやすく,高齢者の1.8%に大う
定愁訴型うつ病)の3つに分類し,その
つ病,9.8%に小うつ病(大うつ病性障
特徴を解説する4,5)。
害の診断に必要な症状が5項目未満のも
◆老年期の定型うつ病
(制止型うつ病)
の)
,そして13.5%に臨床的に明らかなう
抑うつ気分,悲哀,興味と喜びの喪失,
つ状態が認められるとの報告もある3)。
精神運動制止,罪責感,希死念慮など,
その病態は複雑であるが,従来,内因性
まさに診断基準に合致したうつ症状を伴
臨床老年看護 vol.23 no.1
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