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平成 27 年度
第 2 回学術交流会
平成28年2月24日(水)
18:00~19:00
都庁第一本庁舎 25 階 103 会議室
第Ⅴ因子インヒビターが認められ、クロスミキシングテストが判定
に有用であった一例
荏原病院 検査科
山本 淑子
【はじめに】
凝固因子欠乏とインヒビターの存在が疑われる場合の検査法として、クロスミキシング
テスト(以下 MT)が有用であると言われている。今回我々は、第Ⅴ因子インヒビターを獲
得した症例において MT を行い、即時型と遅延型で異なる結果を呈した症例を経験したの
で報告する。
【症例】
70 代 女性
既往歴:心房細動(Af)、心不全、僧房弁置換術後
【経過】
初回の凝固検査結果は、PT-INR2.33,APTT36.9 秒であり、この PT-INR の延長は、Af の
ため以前から服薬していたワーファリンの影響であった。今回大腸内視鏡検査のために、
抗凝固薬を一時ワーファリンからヘパリンカルシウムへ変更した。変更後 5 日目には
PT-INR5.92、トロンボテスト(TT)37%となり、ワーファリンの効果は消失しているはずで
あるが PT-INR が延長していた。さらにその 5 日後には PT-INR4.39、APTT75.2 秒、TT102%
となり PT-INR と TT の乖離がみられた。これにより第Ⅴ因子の異常を考え、即時型の MT
を施行した。その結果、下に凸のグラフとなり、第Ⅴ因子欠乏を考えた。しかし翌日、2
時間インキュベートした遅延型の MT を施行したところ、上に凸のグラフとなった。以上
によりインヒビターの存在が示唆され、その後、検査データでも第Ⅴ因子活性値は 3%以
下、第Ⅴ因子インヒビターは 4BU/ml でインヒビターの存在が認められた。
【結語】
インヒビターを疑う場合の検査方法として MT を施行する場合、即時型のみでは判断を誤
る可能性がある。遅延型では、2 時間インキュベートさせることによってインヒビター
が凝固因子に作用して凝固活性を低下させる。凝固因子欠乏とインヒビターの存在では
治療方法が異なるため、その鑑別をするためには即時型と遅延型を両方実施する必要が
あると痛感した。
乳腺 pleomorphic adenoma の 1 例
がん・感染症センター都立駒込病院病理科
〇小池 昇(CT)、小岩井英三(CT)、浅見英一(CT)、小川真澄(CT)、
宮田清美(CT)、堀口慎一郎(MD)
、元井 亨(MD)、比島恒和(MD)
乳 腺 の pleomorphic adenoma は 稀 な 、 通 常 は 良 性 の 腫 瘍 で 、 識 者 に よ っ て は
adenomyoepithelioma の一亜型ともされる。組織学的には唾液腺に発生するものと同様
であり、腺管上皮や筋上皮の増生、および軟骨あるいは粘液腫様成分などからなる。そ
のため細胞診上、化生癌や粘液癌との鑑別が問題となる。今回我々は切除材料の組織学
的検索により確認されたこの1例を経験し、若干の知見を得たのでここに報告する。
【症例】
症例は 80 歳、女性。左乳頭部近傍にしこりを触知し受診。臨床的には左 ED 領域に約
1cm の腫瘍、MMG では粗大石灰化、US では内部不均一な腫瘍であり、悪性を否定できず
穿刺細胞診が施行された。
【細胞像】
細胞成分は豊富で、大小の集団や孤立性に多彩な細胞がみられる。乳管上皮細胞は大
型集団をなすが異型に乏しく、一部アポクリン化生を伴っている。また粘液産生を伴う
上皮細胞もみられる。間葉系と思われる紡錘形細胞は比較的小型均一で、孤立性や不規
則な集団としてみられ、時に上皮細胞と区別が困難である。視野によっては軟骨基質や
軟骨細胞を認め、混合性腫瘍を考えたが、良悪性も含め確診には至らなかった。
【組織像】
切除生検材料では、多彩性のある乳管の密な増生があり、腺管の間には紡錘形~星芒
状の細胞が chondromyxoid な基質産生を伴いながら増生している。間質では明瞭な軟骨
あるいは骨への移行がみられる。紡錘形細胞は免疫染色により SM actin 陽性を示す。以
上より pleomorphic adenoma に相当する所見と判断された。
【結語】
細胞材料が限られていた場合、悪性と誤診される可能性は充分あり、乳腺にこの種の
腫瘍が発生することを認識しておく必要がある。
病理分野における標準化の取組み
東京都立小児総合医療センター検査科
市川智士
【はじめに】
都立病院検査科技師長会では、都立関連施設における臨床検査精度管理の一環として、
病理部門の染色技術の向上および施設間差縮小を図るため、平成4年から第一分科会・
病理分野別検討会が中心となり年1回、統一精度管理として染色サーベイを実施してい
る。
【参加施設】
都立施設として広尾、大塚、駒込、墨東、多摩総合、神経、小児総合、松沢、監察医
務院の9施設。公社施設として東部地域、多摩南部、大久保、多摩北部、荏原、豊島、
都がん検診センターの7施設と独立行政法人である健康長寿医療センターの計17施設
が参加している。
【担当施設、染色項目の決定】
都立施設、公社施設から参加した12名で構成される病理分野別検討会で次年度に実
施するサーベイ担当施設、染色項目を決定している。担当施設は、都立施設の総合病院
が輪番で行っていたが、平成26年度からは公社施設も加わり、2施設担当制に改めた。
染色項目は、10月の会議で候補を2~3選び、各施設に持ち帰って意向調査をすると
同時に、担当施設が標本を準備できるか確認した上で12月の会議で決定する。
【担当施設の役割】
サーベイに使用する材料を選択し、未染色標本の作製を行う。標本作製に用いる検体
は、個人情報保護を順守し研究や教育目的として予め患者の同意が得られ、倫理委員会
の承認を受けている。6月の会議で未染色標本と施設情報を得るためのアンケートを配
布し、8月に回収する。回収された染色標本は、アンケート結果とともに9~12月に
かけて郵便や宅配便を利用して回覧される。標本回覧が終了し、評価結果が回収される
と分析を行う。結果報告書は2月に開催する染色検討会で配布される。染色項目の選択
から染色検討会での結果報告まで、約1年4か月を要している。
【病理分野別検討会の役割】
標本配布から染色検討会での結果報告まで、サーベイの進捗状況を把握し、問題が発
生した場合には、第一分科会と連携して迅速に解決策を講じるなど円滑なサーベイ運営
のために全体を統括する。
【二次精度管理】
サーベイでの低評価施設の技術改善を目的として、平成23年度から実施している。
対象となる施設の選定基準は、総合評価において全評価人数の40%以上が C 評価とし
た施設を対象とする。染色は、病院(医師)ごとに好みがあり、その評価は難しいもの
の、一定数以上「C:診断に支障をきたす標本」という評価を受けることは問題であると
いう考え方から基準を設けている。
【染色検討会】
毎年2月に開催され、サーベイ担当施設の検査科医師、技師による「染色サーベイ結
果報告」と都立病院内外の臨床医、病理医を講師とした「教育講演」を行っている。
【まとめ】
サーベイでは、病理検査担当者全員が他施設の染色標本を鏡検することにより自施設
の問題点が明らかになる。二次精度管理を実施することで染色液の改善や変更など染色
方法の見直しが行われ、染色精度の向上と病理検査業務の改善が進められている。医師、
技師が参加する染色検討会では、染色標本を提示して評価結果の検証を行うため、都立
関連施設全体の染色技術の標準化、施設間差縮小が図られている。
【最後に】
サーベイを担当する施設の医師、技師は日常業務終了後に準備、結果分析を行うため
負担が大きくなっている。しかし、ほとんどの病理検査担当者が使命感に燃えながら積
極的に取り組んでいる。
エボラ出血熱等1類感染症受け入れに向けた検査科の取り組み
その 1
東京都立墨東病院 検査科
○細矢睦子
工藤洋子
汐谷陽子
長谷川静夏
加藤みよ子
石濱裕美子
奥秋記子 佐藤芳雄
【はじめに】
当院は、第一種感染症指定医療機関であり、エボラ出血熱等受け入れのための準備、
訓練を行い実施に至った。今回は検査室の整備および機器選定を中心に報告する。
【検査室の整備】
検査室はマイナス 40 パスカルの圧格差が設定できる外来診察室内に設置。備品:安全
キャビネット 2 台、冷凍冷蔵庫、実験台、検査 2 次システム、ラベラー、プリンター、
顕微鏡、安全キャビネット付き冷却遠心機。高圧蒸気滅菌器、耐薬品保管庫。
【機器選定基準】
1) 安全キャビネット2台の中にすべての機器が設置でき、測定作業ができること。
2) 2次感染を避けるため、廃液等汚染物は最小限にすること。
3) 防護服(以下PPE)を装着した状態で検査をするため、作業が容易で短時間で
終了すること。
4) オンラインが可能なこと。
【検査実施項目および機器等】
1) 血算&血液像:血球計数装置 MYTHIC 22CT(J)
2) 凝固検査:PT、APTT、FIB(血液凝固分析装置 CG02N)
3) 生化学(材料-血漿)
:TP、Alb、UN、Cre、T-BiL、D-BiL、Ca、iP、CK、AST、ALT、
LD、Alp、ChE、Amy、CRP、
(材料-血漿・髄液)Glu(富士ドライケムアナライザー
FDC4000 )
4) 血液ガス:Na、K、CL、pH、PO2、PCO2、他(ABL90FLEX システム)
5) 用手法:FDP、D-ダイマー、尿定性・沈査、マラリア原虫、インフルエンザ抗原、A
群β溶連菌、RPR、TPLA、HBs 抗原、HCV 抗体、HIV 抗体、血液型&交差試験
【運用】
生化学項目は精度を優先し全血を避け血漿を選択した。電解質は血液ガスのデー
タを使用した。1~3 はルーチン帯とは機器、測定方法が違うため新たに項目を作成しメ
ーカー推奨の基準範囲を設けた。機器使用の結果は自動登録にした。
【まとめ】
診察室内に設けた検査室ではあるが、これらの機器整備を行ったことで、日常検査と
は異なる環境(PPE装着で、安全キャビネット内での機器操作、測定等)でも定期的
な訓練後、検査を実施することができた。
エボラ出血熱等1類感染症受け入れに向けた検査科の取り組み
その2
東京都立墨東病院 検査科
○工藤洋子
細矢睦子
汐谷陽子
長谷川静夏
加藤みよ子
奥秋記子
石濱裕美
佐藤芳雄
【はじめに】
当院は平成 26 年 8 月に 1 種感染症診察室・検査室(以下検査室)を開設し、エボラ出
血熱等を受け入れるための準備、訓練を行った。今回は運用方法を中心に報告する。
【システム設定】
1) 検査室に設置した機器はルーチンで使用している機器とは測定原理や検体種別が
異なっており新たに項目を設定した。
2) 電子カルテに専用依頼画面を作成した。
3) オンライン対応項目は自動登録とした。
【検査体制】
3 人 1 チームとし、検査者 2 名は個人防護用具(以下 PPE)を装着し他は補助員として検
査室外で待機する。
【流れおよび運用】
患者搬送依頼により職員参集後の流れは 5 段階である。
1) 検査前準備:診察前に検査室、検査機器、試薬、消毒液の準備を行う。
2) PPE 装着後入室:診察、採血(エボラ出血熱疑い症例は血算・EDTA-2K、生化学・
ヘパリン Li、血液ガスの3本-バーコードラベル使用)終了の連絡を受けてから移
動する。
3) 検査:採血容器の周囲を消毒し到着確認。生化学検体は遠心分離し、その間に試
薬をセットする。血算、血液ガス、生化学検査を行う。
4) 退室:検体は安全キャビネット内に保管し、機器、設備、検査者自身の消毒等を
行い退室。
5) PPE 脱衣:専用区域に移動し PPE 脱衣。
【訓練による改善点】
1) 当初は検査者 2 名がそれぞれ検査を実施していたが検体暴露の危険性を考慮し主担
当 1 名での実施とする。
2) 生化学は項目確認の煩雑さを避けるため17 項目の試薬を 1 セット 1 名分として準
備しておき、依頼内容にかかわらず全て測定する。
3) PPE 装着での検体希釈作業を避けるため CRP は直線性の範囲外は「以上」として報
告する。
4) 操作マニュアルを機器周辺に掲示する。
【まとめ】
動作が制限される PPE 装着や 2 次感染回避のための煩雑な消毒など日常検査とは異な
る環境だが定期的な訓練と改善により検査を実施することができた。今後は訓練者を増
やし、カバー体制を強化したい。