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連載 樹脂用添加剤・配合剤ガイドブック
第 6回:ポリマーアロイ材
ポリマーテク研究所 葭原 法
1.ポリマーアロイ
2.相溶化剤
高分子多成分系と定義されるポリマーアロイにおいて,
相溶性を有するポリマーの組合せは稀で,多くのポリマー
改質のための副成分ポリマーは,配合材や添加剤のひとつ
の組合せは,部分相溶か非相溶である。期待する加成性か
といえる。ポリマーアロイは,その構造により,①ブロッ
ら逸脱した特異な性質は,部分相溶か非相溶系で発揮され
ク共重合体やグラフト共重合体のように化学結合されてい
る場合が多い。そのため非相溶系の分散構造の制御技術は,
る高分子間化合物,② PPE / PS のような高分子相溶体,
ポリマーアロイの主たる開発といえる。その制御に使用され
③相分離して微分散構造を有する非相溶体に区分される。
る相溶化剤の主な作用は,①界面張力を低減して,分散粒
これらの構造により,副成分の改質効果は全く異なる。副
子径の微細化,②分散粒径の均一化,③分散構造の安定化,
成分の本来の性質と共に,目標とする構造を想定し,ポリ
④界面接着力の向上,⑤界面相の厚みの増大などである。
マーアロイの材料設計をする必要がある。
表2に示したように,微分散し,その構造を安定化する
ところで,ユーザーのプラスチックへの要求は,多様化
界面活性剤的作用を有する相溶化剤は多数開発されてい
や高度化してきており,既存の単一ポリマーでは対応が困
る。相溶化剤は,反応型と非反応型に,また構造からラ
難になっている。また,高剛性と耐衝撃性や易成形性と
ンダムポリマー型とグラフト・ブロックポリマー型に分類され
耐熱性のように相反するような要求に応えた材料開発が
る。非反応型のグラフト・ブロックポリマーは,性質が異な
必要になってきている。これらの課題解決の方策のひとつ
る異種ポリマーを分子末端や側鎖に化学結合したポリマー
であるポリマーアロイの工業的目的も表1に示したように
で,各セグメントのそれぞれがアロイするポリマーと親和
多岐に渡っている。成形加工性,機械的性質改善,化学
性を有するものである。反応型に,ランダムポリマー中に
的性質改善,電気的性質改善,耐熱性改善,経済性改善
カルボン酸や無水酸やエポキシ基のような反応性官能基を
など種々の目的がある。改善目的から,まず相手材が一
有し,リアクティブプロセッシングにより,相溶化剤を自
次選定される。しかし,目的を達成することは大変難し
己生成し,相溶化を有効に推進するものも含まれている。
い。物理的な混練技術,化学的性質による相溶化剤,化学
表2 相溶化剤
反応を利用して相溶化剤を自己生成するリアクティブプ
ロセッシングなどを組み合わせて,技術開発が進められ
ランダムコポリマー
てきた。
分散構造を制御するために使用される相溶化剤と,ポリ
グラフトコポリマー
マーアロイを利用した改質のいくつか紹介する。
ブロックコポリマー
表1 ポリマーアロイによる改質目的
非反応型
反応型
EPR
St-MAH
EVA
E-GMA
E-MMA-MA-Na
EPR-MAH
PE-g-PS
E-GMA-g-AS
PP-g-AS
E-EA-MAH-g-PMMA
EEA-g-AS
EVA-g-GMA
SBS
SEBS-MAH
PS-b-PMMA
SEBS-GMA
PP-b-PE
物性改良
加工性改良
2次加工性改良
耐久性改良
経済性
耐衝撃性
流動性
塗装性
耐摩擦・摩耗性
低コスト
3.耐衝撃改質材
柔軟性
増粘
表面光沢
吸湿性
リサイクル材利用
寸法安定性
離型性
接着性
耐薬品性
プラスチックスは,他の材料と比較して耐衝撃性が高
荷重たわみ温度
結晶性
溶着性
耐候性
制振性
低ソリ
メッキ性
耐屈曲疲労性
ラミックスなどと比較して一般に耐衝撃性が高い。しかし,
耐環境応力亀裂性
塩化ビニルやポリアミドのようなタフな材料も,切り欠き部
燃焼性
く,落下しても割れないというイネージが強い。確かにセ
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やコーナー部のように鋭いエッジがあると耐
衝撃性は大幅に低下する。これは,図1に示
したように 1),成形品に応力集中部があると,
荷重
(kg)
弱い衝撃荷重でもクラックが発生し,そのク
ラックが殆ど抵抗なく伝播して破壊するから
である。前号で述べた強化材や適切なエラス
トマーを微分散すると,樹脂にクラックの伝
播抵抗性を与えることができる。図2は,ポ
リアミド6と,これに反応性官能基を有する
エチレン系共重合体をポリマーアロイした材
料の切り欠き曲げ試験の荷重—たわみ曲線を
示している。ポリアミド6は,
切り欠き部が,
見かけ非常に速い変形速度を受け,脆性的に
変位
(mm)
図1 耐衝撃性の応力集中依存性 1)
図2 切り欠き曲げ変位ー荷重曲線
クラックが発生し,
抵抗なく伝播している。一方,ポリマー
ることが重要であることが知られている。このようなアロ
アロイ品は,クラック発生後もマトリックス部が延性変形によ
イ品は,構成するどの単独成分よりも大変高い耐衝撃性を
り,クラックの伝播抵抗性を有し,大きな破壊エネルギーを
示す。これは,アロイによる相乗効果を示す一例である。
示している。この効果は,衝撃変形にも有効であり,応力
耐衝撃改質材が,ポリマーアロイされた分散相の中に第三
集中効果によるタフネス低下を抑制し,製品設計に大きな
成分として,微分散するサラミ構造をとっても改質効果は
自由度を与えることができる。応力集中により発生したク
有効であることが示されている。図4は,高い耐衝撃性を
ラックの伝播を受けたマトリックスを延性変形に導くには,
有するポリアミド/ PPE /ゴム系の分散構造を示している 3)。
図3に示したように 2),分散粒子間隔を臨界値より狭くす
このような構造をとることにより,高い剛性と高い耐衝撃性の
バランスをとることができる。耐衝撃改質剤には,ゴム成
分の粒径がアロイ前に調整され,この表面に相溶性のよい
ノッチ付きアイゾット衝撃強度
(ft-lb/in)
ポリマーが被覆されたコアシェル型のものも市販されている。
相溶化剤と改質材がセットになっており,取り扱いやすい
が,被覆材料により適応できるポリマー系は限定される。
4.ガラス転移点制御材
相溶系ポリマーアロイの場合,そのガラス転移点は1点
となる特徴がある。図5に示したように 4),成分の組成比に
粒子間距離(μ m)
図3 ノッチ付きアイゾット衝撃強度の粒子壁間距離依存性 2)
ゴム分率 A : 25wt% , B : 15wt% , C: 10wt%
対応して,成分ポリマーのガラス転移点間のある温度でガ
ラス状—ゴム状の転移を示す。相溶するポリマーとその成分
比を選択することにより,ガラス転移点を上下に調節できる。
非晶性プラスチックスにとって,ガラス転移点は,荷重たわ
み温度や流動開始温度を制御する重要な特性であるから,
ポリマーアロイ材によるガラス転移点の調節は,非晶性プ
ラスチックスにとってキーテクノロジーのひとつとなっている。
PPE / PS 系 は,PPE 側 か ら は, 成 形 性 や 経 済 性 が,
図4 PA / PPE /ゴム系
アロイの分散構造 3) 52
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PS 側からは耐熱性や機械的性質が改善される補完的なア
ロイの一例である。
―連載 樹脂用添加剤・配合剤ガイドブック―
熱性や高い強度・剛性を示す。PBT は,結晶化速度が大
変はやいので,樹脂は溶融状態から金型で急冷され,結
晶化すると,表面外観が低下した成形品となる。PBT に
PET を相溶アロイし,結晶化速度を抑制すると,金型転
写性が向上し,光沢度の高い成形品が得られる 5)。
このように,成形品外観向上にも応用されている。
・参考文献
1)Vincent; "Impact Tests and Service Performance of
Thermoplastics", The Plastics Inst., London(1971)
2)S. Wu; Polymer, 26(Nov.), 1855(1985)
3)千葉 ; プラスチックスエージ , 46(10), 153(1990)
4)高柳 ; プラスチックス,13, 1(1962)
5)L. M. Robseon ; Polym Eng. & Sci., 24, 587(1984)
図中数字:PVC/NBR 比率
図5 複素動的弾性率のPVC-NBRアロイ比率依存性 4)
5.硬度・弾性率調節材
A-B 型 や A-B-A 型 ブ ロ ッ ク
共重合体に,AポリマーやBポ
リマーをポリマーアロイした場
合,ハード相やソフト相の部分
相溶系のアロイ材が得られるこ
とが多い。ハード相やソフト相
のドメインや分率を制御するこ
とにより,硬度や弾性率をテ
イラーメイドした材料を提供で
きる。このように,ポリマーア
ロイを応用すると,多様化した
要求に対しても,重合するポリ
マーを集約することができる。
PS/SBS/PB 系が一例である。
6.金型転写性向上材
PBT と PET か ら な る ポ リ
マーアロイ材の場合,一般に
溶融状態では相溶系であるが,
結晶化し,固化した状態では,
PET と PBT がそれぞれ単独の
結晶相を形成し,本来の高い耐
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