研究員の視点 〔研究員の視点〕 シームレス移動と複合的輸送サービス 運輸調査局研究員 米崎 克彦 ※本記事は、『交通新聞』に執筆したものを転載いたしました 2010 年以降、日本は本格的なオープンス に複数のモードを利用した輸送サービスの カイ政策を推し進めている。特に 2013 年 〝AIRail Service〟(「 エ ア レ ー ル・ サ ー ビ ス 」) 夏の発着枠拡大後首都圏空港も対象となり、 がある(同様のサービスはドイツ・フランクフル 本格的な日本の空の自由化が推し進められて ト空港とフランス・シャルルドゴール空港、それぞ いる。そして昨年末の時点で 27カ国・地域 れで提供されているが、ここではフランクフルトの とオープンスカイで合意し、日本発着の総旅 ケースを取りあげる)。 客数の 94%を占めるまでになっている。 このサービスは、航空と高速鉄道を組み合 そして、空の自由化政策に伴って「観光立 わせて旅客を運ぶ(複合的輸送サービス)とい 国」を掲げた政策の影響もあり(最近の円安傾 うもので、ルフトハンザドイツ航空、ドイツ 向、観光ビザの緩和も影響を与えている) インバ 鉄道そしてフランクフルト空港が協力して運 ウンド観光も急速に増えている。また、世界 営しており、現在ではフランクフルト空港か 全体の航空需要は、経済のグローバル化が進 らカールスルーエ、カッセル、ケルン、ボ 展し、過去 20 年、平均で 5%増加しており、 ン、シュツットガルト、マンハイムそして これからさき 20 年も同じペースで拡大する デュッセルドルフにネットワークが存在する。 という予想もある。 エアレール・サービスの基となっている 東京国際空港や成田国際空港は日本におけ のは、〝Lufthansa Airport Express〟(「ル る主要な玄関口として、日本人だけでなく、 フトハンザ・エアポート・エクスプレス」 )という これよりさらに増える訪日外国人に対応する サービスである。これは、1982 年より始 ことが必要となってくる。 まった。当時ルフトハンザの近距離ドイツ それに伴う大きな問題の一つに、入国後の 国内路線(たとえばフランクフルト~デュッセル 空港から先の移動があげられる。空港連絡鉄 ドルフ、フランクフルト~ケルン・ボンなど) で 道(成田国際空港には「成田エクスプレス」、「スカ 200 キロ前後の距離の場合、搭乗率がかな イライナー」、関西国際空港には「はるか」、 「ラピー り高くても利益の出ない構造となっていた。 ト」など) や空港連絡バスなどがあるが、多 そのためサービスの効率化のためルフトハン くの訪日外国人がどの手段で目的地に行けば ザが国内線用にドイツ国鉄より車両を借り上 よいのかに迷う例を見つけるのは難しくな げ専用列車として走らせていた。また、鉄道 い。 に代替され、余剰となる機材や人材は、他の その対策の一つとして注目されていること 高収益路線に投入され、ルフトハンザのネッ 研究員の視点 トワークの強化に貢献した。 相手)として考えられることが多い。最近の このサービスは、1990 年代に利用して 日本でも、北陸新幹線金沢延伸に関して、新 い た 車 両 の 老 朽 化 も あ り、ICE(InterCity 幹線開業後小松空港等への飛行機の搭乗率な Express =ドイツ国鉄の高速鉄道) を利用する どが新聞をにぎわせているが、このエアレー エアレール・サービスとして形を変えた。先 ル・サービスは相互の補完を考えた関係と にも挙げたが空港連絡鉄道という意味では、 なっている。 日本でも同じであるが、エアレール・サー 飛行機は長距離における速達性という点で ビスの最大の特徴は航空会社との共同運行 は優位であるが、ある一定の距離を下回る (コードシェア) にある。これによって、フラ 輸送は鉄道やその他のモードの方が効率良 ンクフルト空港まで来た航路(またはフランク く、飛行機が最適な選択とならないケースが フルト空港から出国する航路)のボーディング・ ある。そして、ハブアンドスポーク型のネッ パスにエアレール・サービス分の鉄路も表示 トワークを構築しているフルサービス航空会 され、購入もルフトハンザのウエブサイトか 社(FSC) にとって、長距離の国際間移動の ら購入できる=図=。 先にあるスポーク部分にあたる短距離移動 元来、航空と高速鉄道は、代替機能(競争 は、自社によるサービスではなく、代替モー ※ QDU:デュッセルドルフ中央駅の IATA 空港コード ※ LH3507:航空便名がついた ICE の列車名 研究員の視点 ドサービスが選択肢となる可能性がある。顧 携し羽田空港国際ターミナルから直接目的地 客にとっては他モードも全体の移動の一部で に向かうバスに誘導するサービスを提供する ある。よって航空会社がマイレージサービス ことが考えられる。 などのフリークエントフライヤープログラム 一枚のボーディング・パスにバス路線も組 (FFP)に組み込めば、サービスの質は向上す み込むことによって、顧客にとって空港から るため、航空会社がそれを考えることに違和 の複雑な経路を検索する必要なく、また空港 感はない。 での混雑を回避できる可能性もある。また成 また、現在ドイツにおけるサービスでは、 田空港であれば空港連絡鉄道により横浜や大 鉄道だけでなくバスもこのような複合的輸送 宮といった都市だけでなく、その先の首都圏 サービスに組み込まれており、時間や価格な エリアの観光地などを目的地として組み込め ど、様々なバリエーションを提供し、顧客の ば旅行客に対して利便性とバラエティーを提 選択肢を増やすことによってサービスの改善 供することになる。 に努めている。 このようなサービスを導入することにより 日本の首都圏空港においても、他モードと 入国時の混乱を避けることができ、さらに の複合輸送サービスはシームレス移動という 我々日本人だけでなく訪日外国人客の満足度 面で、利点が存在する。羽田空港から首都圏 向上にも貢献することにつながるのではない 内に移動する場合、航空会社はバス会社と提 だろうか。
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