2015年のJ-REIT市場回顧と 2016年の展望、提言

■レポート─■
2015年のJ-REIT市場回顧と
2016年の展望、提言
SMBC日興証券 株式調査部 シニアアナリスト
鳥井 裕史
2015年の東証REIT指数について、1月上
■1.2015年のJ-REIT市場概要
旬は好調な滑り出しで始まった。長期金利が
低下傾向であったことや物件取得と公募増資
2015年12月末の東証REIT指数は1,747.54ポ
の組み合わせで1口当たり分配金を上方修正
イントとなり、2014年12月末(1,897.92ポイ
する動きを好感したことが背景にあろう。た
ント)との比較で7.9%下落、配当込みのト
だし、1月下旬にかけては公募増資への対応
ータルリターンでは4.8%下落した。2014年
での換金売り等で需給環境が軟化し上値の重
の大幅上昇(価格指数:+25.3%、配当込み
い展開となった。2月から6月にかけては
指数:+29.7%)から一転し、2011年以来4
1,800~1,900ポイントのボックス圏での動き
年ぶりのマイナスパフォーマンスであった。
となった。
一方、2015年12月末時点のJ-REIT市場全体
その後7~9月にかけては厳しい展開とな
の時価総額は10兆5,603億円となり、2014年
り、9月8日には一時1,509.63ポイントにま
12月末時点の10兆5,784億円の比較で0.2%減
で下落した。同期間についてはギリシャの財
少するにとどまった。活発な公募増資により
政危機や中国経済の減速懸念を背景としたグ
投資口価格下落のわりには時価総額の減少幅
ローバルマーケット全体の調整やJ-REITに
は軽微であった。
よる度重なる増資での需給環境悪化等が要因
として考えられた。9月半ば以降はその調整
〈目 次〉
局面も一段落し、2015年末に向けては安定的
1.2015年のJ-REIT市場概要
2.2016年のJ-REIT市場展望と提言
62
に推移して2015年を終えた。長期金利が0.3
%前後で低位安定したこと、J-REITによる
月
2(No. 366)
刊 資本市場 2016.
2001/9
2002/3
2002/9
2003/3
2003/9
2004/3
2004/9
2005/3
2005/9
2006/3
2006/9
2007/3
2007/9
2008/3
2008/9
2009/3
2009/9
2010/3
2010/9
2011/3
2011/9
2012/3
2012/9
2013/3
2013/9
2014/3
2014/9
2015/3
2015/9
2001/9
2001/12
2002/3
2002/6
2002/9
2002/12
2003/3
2003/6
2003/9
2003/12
2004/3
2004/6
2004/9
2004/12
2005/3
2005/6
2005/9
2005/12
2006/3
2006/6
2006/9
2006/12
2007/3
2007/6
2007/9
2007/12
2008/3
2008/6
2008/9
2008/12
2009/3
2009/6
2009/9
2009/12
2010/3
2010/6
2010/9
2010/12
2011/3
2011/6
2011/9
2011/12
2012/3
2012/6
2012/9
2012/12
2013/3
2013/6
2013/9
2013/12
2014/3
2014/6
2014/9
2014/12
2015/3
2015/6
2015/9
2015/12
時価総額(億円)
J-REIT市場分配金利回り
国債利回り(10年)
2015/11
2015/10
2015/9
2015/8
2015/7
2015/6
2015/5
2015/4
2015/3
1,800
1,700
1,600
120,000
時価総額(億円;左軸)
銘柄数(右軸)
80,000
40
60,000
30
40,000
20
20,000
10
0
月
2(No. 366)
刊 資本市場 2016.
銘柄数
100,000
2015/2
2015/1
2014/12
東証REIT指数、東証不動産株指数、TOPIX
(図1)2015年の東証REIT指数推移
2,000
1,900
東証REIT指数
東証不動産株指数
1,500
TOPIX
1,400
1,300
(出所)東京証券取引所、SMBC日興証券
(図2)J-REIT市場全体の時価総額推移
60
50
0
(出所)ブルームバーグ、SMBC日興証券
(図3)J-REIT市場全体の分配金利回りと長期金利に対する分配金利回りスプレッドの推移
(%)
8
7
6
5
4
3
2
1
0
(出所)ブルームバーグ、SMBC日興証券
J-REIT分配金利回りスプレッド
63
公募増資の動きが一段落し需給面で落ち着き
成長を期待する展開を想定。③外部成長への
が見られたこと、好調なオフィスやホテル市
期待は高く持ちづらい一方、着実に外部成長
況を背景に各REITの賃料増額の動きが明確
を実現できる銘柄を個別にピックする必要が
になったこと等が好感されたと言えよう。
あろう。
2015年12月末時点のJ-REIT市場全体にお
本章では①、②のトピックを記述するとと
ける平均弊社予想分配金利回りが3.5%、長
もに、③に対する展望と提言を行いたい。
期金利に対する分配金利回りスプレッドが
3.2%であった。分配金利回りスプレッドに
⑴ 長期金利の低位安定とJ-REIT市場
関しては、2014年12月末~2015年6月までは
2013年12月末時点で0.74%であった長期金
概ね2.8±0.1%で安定推移。一方、2015年7
利(10年国債利回り)は低下傾向をたどり、
~9月についてはギリシャの財政危機問題や
2014年10月31日に日本銀行が追加緩和を発表
中国経済の不透明感等グローバルでのクレジ
して以降はさらに低下し、2015年1月には一
ット市場に悪影響を及ぼす材料によりリスク
時0.20%にまで低下した。その後は下がりす
プレミアムが拡大。それに連動するような形
ぎの反動等もあり2015年前半には一転上昇に
でJ-REIT市場の分配金利回りスプレッドも
転じ、2015年6月には0.5%を超える水準と
9月には一時3.5%超にまで拡大した。2015
なった。一方、2015年7月以降は再び低下に
年9月半ば以降はこのような問題も一段落し
転じ10月~12月は0.3%前後で低位安定した
たものの、2015年12月末時点の分配金利回り
状況となっている。
スプレッドは3.2%と3%超の状態が続いて
2013年後半~2015年末のJ-REIT市場全体
いる。なお、2015年12月末時点のJ-REIT市
の分配金利回りスプレッド(分配金利回り-
場全体におけるNAV倍率(鑑定評価額ベー
長期金利)は一時期を除き概ね3%前後で推
ス)は1.31倍、インプライド・キャップレー
移していたことから判断すると、J-REITの
トは4.0%。
分配金利回りは長期金利に連動して動いてい
たことになる。J-REITに要求される期待利
■2.2016年のJ-REIT市場展望
と提言
回りは「Rf(リスクフリーレート)+Rp(リ
スクプレミアム)-G(期待成長率)」で表さ
れるが、同期間について「Rf」である長期金
2016年のJ-REIT市場では①日本銀行の金
利の動きが重要な価格決定要素になっていた
融緩和により長期金利が非常に低い状況で、
と考えることができる。
②東京都心を中心としたオフィス賃料上昇が
長期金利動向についての国内要因は日本銀
J-REITの保有物件に本格的に波及する内部
行による力強い金融緩和姿勢を通じて上昇す
64
月
2(No. 366)
刊 資本市場 2016.
(図4)長期金利と東証REIT指数の推移
(%)
1.0
2,200
東証REIT指数
0.9
国債利回り(10年)
2,000
東証REIT指数
0.7
1,600
0.6
0.5
1,400
0.4
1,200
0.3
1,000
2015/8
2015/10
2015/6
2015/4
2015/2
2014/12
2014/8
2014/10
2014/6
2014/4
2014/2
2013/12
2013/8
2013/10
2013/6
2013/4
0.2
2013/2
2012/12
国債利回り(10年)
0.8
1,800
(注)東京証券取引所、ブルームバーグ、SMBC日興証券
る兆しは見つけにくい。一方、米国の利上げ
ると、2014年5~6月を除くと一貫して純資
等海外の長期金利の変動が国内長期金利に影
金流入はプラスで堅調である。2014年5~6
響を及ぼすという懸念を持っている意見が一
月は旺盛な需要により約2,700億円の資金流
部では見受けられる。ただし、欧州でも金融
入はあったものの、東証REIT指数が1,500ポ
緩和方針が継続しているため、米国の金融政
イント前後から1,600ポイント前後にハイピ
策のみに依存しているわけではなかろう。過
ッチで上昇して分配金利回りが低下し利益確
去3年程度の日米独の長期金利動向を見ると
定の資金流出が生じたことにより、一時的に
方向性は似たような動きになっているもの
純資金流入額はほぼゼロへと鈍化した。また、
の、各国の長期金利は各国の金融緩和政策や
2015年10~11月は日本郵政グループの大型新
その地域のソブリンリスクに依存するのでは
規上場があったため、個人投資家の資金がそ
ないかと筆者は考える。そのため、あくまで
ちらにシフトしたことにより資金流入は一時
も国内長期金利は日本銀行の動向に注視すべ
的に鈍化したものの、純資金流入がプラスで
きではないかと考える。いずれにしても2016
ある状況には変わらなかった。
年も国内長期金利は低位安定が期待され、
それ以外の局面に関しては堅調な資金流入
J-REIT市場にとっては良好な環境が続くと
超過の状況が続いている。同資金の主な出し
考える。
手は国内個人投資家であるが、主な投資目的
また、長期金利の動きはJ-REIT市場の需
はインカムゲイン獲得であると考える。超低
給環境にも大きな影響を及ぼす。2014年以降
金利の日本では国内個人投資家による高水準
のJ-REIT特化型投信への純資金流入額を見
なインカムゲイン商品への需要は根強い。長
月
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刊 資本市場 2016.
65
(図5)投資部門別売買動向(単位:億円)
800
銀行(除く日銀)
外国人
投資信託
→ 買い越し
600
400
200
2015/12
2015/11
2015/10
2015/9
2015/8
2015/7
2015/6
2015/5
2015/4
2015/3
2015/2
−400
2015/1
−200
2014/12
売り越し ←
0
(注)東京証券取引所、SMBC日興証券
(図6)J-REIT特化型投信への資金純流出入状況(単位:億円)
1,400
1,200
1,000
800
600
400
2015/11
2015/10
2015/9
2015/8
2015/7
2015/6
2015/5
2015/4
2015/3
2015/2
2015/1
0
2014/12
200
(注)投資信託協会、SMBC日興証券
期金利の低下はJ-REITの相対的な魅力度を
している状況において、J-REITの分配金利
向上させるものであると考える。
回りは地方銀行をはじめとする地域金融機関
また、2014~15年の銀行(除く日本銀行)
にとっては魅力的なアセットクラスである。
も投信と同様にJ-REITをほぼ一貫して買い
こ の よ う な 超 低 金 利 環 境 に お い て は、
越し続けた。2002年12月より銀行はJ-REIT
J-REIT投資は銀行にとって貴重な収益源で
から得られる収益を業務純益に計上すること
あると考える。2015年7~8月はJ-REIT市
ができる。国債の利回りや貸出し金利が低下
場の下落に伴い一部ロスカット売りも散見さ
66
月
2(No. 366)
刊 資本市場 2016.
れたが、長期金利が低位にとどまり、かつ
2006年9月末の1,696.72ポイントから2007年
J-REIT市場が安定的に推移する状況下では
5月末には2,612.98ポイントにまで急上昇し
今後も地方銀行によるJ-REITの買い越し姿
た。当時の状況から判断すると、J-REIT市
勢は継続しよう。
場の分配金利回りスプレッド及び東証REIT
このように、長期金利の低位安定は個人投
指数は市況賃料がボトムから5%程度上昇
資家からのJ-REIT特化型投信経由の買いと
し、かつ先行き見通しが明るくなった時点か
地方銀行を中心とした国内金融機関からの需
ら動意づいていることが見て取れる。
要を生み出し、J-REIT市場の需給環境を下
当時の状況についてはオフィスの市況賃料
支えさせることが期待できよう。
と実際の継続賃料との間には5~10%程度の
ギャップ(市況賃料<継続賃料)が生じてい
⑵ オフィスの賃料上昇がJ-REITの内
部成長に本格的に波及へ
た。一方、市況賃料の上昇に伴いこのギャッ
プが解消もしくは「市況賃料>継続賃料」と
2014年初より東京都心のオフィス賃料は着
いう状況に転じた段階から実際の継続賃料が
実に上昇しており、2015年も堅調な動きを見
増額改定できるような状況に入るとの見通し
せた。三鬼商事が公表する東京都心5区の平
が立ったことが分配金利回りスプレッドの縮
均 募 集 賃 料 は2013年12月 に ボ ト ム を 打 ち、
小の背景として考えられる。
2015年12月まで24ヵ月連続で前月比プラス、
筆者による各オフィス型REITへのヒアリ
2014年5月からは前年同月比でもプラスに転
ングや公表資料によると、2013年末時点で市
じている。2013年12月~2015年12月までの同
況賃料と継続賃料とのギャップも5~10%程
賃料上昇率は9.2%となり、着実に上昇トレ
度であった。足元では市況賃料が上述の通り
ンドを描いている。
9.2%上昇してきたことにより、「市況賃料>
過去のオフィス賃料が上昇トレンドに入っ
継続賃料」という状況になった。このような
た 局 面 と し て 2006 年 の オ フ ィ ス 市 況 と
こともあり、2015年後半の各J-REITが保有
J-REIT市場動向について振り返りたい。こ
するオフィスで賃料増額改定が実現してお
の局面に関しては、2005年末まで横ばいで推
り、同要因による1口当たり分配金の向上は
移して以降市況賃料は徐々に上昇し始め、
着実に進み始めている。
2006年 中 頃 か ら 本 格 的 に 上 昇 し た。 一 方、
例えば、ジャパンリアルエステイト(8952)
J-REIT市場全体の長期金利に対する分配金
が2015年11月に公表した15/9期決算及び見
利回りスプレッドは2006年中頃までは2.5%
通しによれば、15/9期に既存物件の賃料改
程度で安定的に推移した後、2006年9月頃か
定による要因が09/3期以来6年半ぶりにプ
ら 縮 小 ト レ ン ド に 入 り、 東 証REIT指 数 は
ラス転換。16/9期にテナントが入れ替わる
月
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刊 資本市場 2016.
67
22,000
2.5
21,000
2.0
20,000
1.5
19,000
1.0
18,000
0.5
2007/3
2006/9
2006/12
2006/6
2006/3
2005/9
2005/12
2005/6
2005/3
2004/9
2004/12
0.0
J-REIT分配金利回りスプレッド
平均募集賃料(円/坪)(東京都心5区)
2004/6
J-REIT分配金利回りスプレッド
(%)
3.0
17,000
16,000
平均募集賃料(円/坪)(東京都心5区)
(図7)J-REITの分配金利回りスプレッドと東京都心5区のオフィスの平均募集賃料(2004年後半~2007年前半)
(注)三鬼商事、ブルームバーグ、SMBC日興証券
19,000
3.5
18,500
3.0
18,000
2.5
17,500
2.0
17,000
1.5
16,500
1.0
16,000
15,500
15,000
2016/6
2016/3
2015/12
2015/9
2015/6
2015/3
2014/12
2014/9
2014/6
2013/9
2013/6
0.0
2014/3
J-REIT分配金利回りスプレッド
平均募集賃料(円/坪)(東京都心5区)
0.5
平均募集賃料(円/坪)(東京都心5区)
(%)
4.0
2013/12
J-REIT分配金利回りスプレッド
(図8)J-REITの分配金利回りスプレッドと東京都心5区のオフィスの平均募集賃料(2013年後半~)
(注)三鬼商事、ブルームバーグ、SMBC日興証券
際の新規貸付賃料単価が返室賃料単価を18.9
期が+12.0%に達する見通しを示した。
%上回ることを想定している。ケネディクス
一方、2013年後半~2014年末のJ-REITの
・オフィス(8972)が2015年12月に公表した
長期金利に対する分配金利回りスプレッドを
15/10期決算及び見通しでは16/4期及び16
見ると、3%前後で概ね横ばい推移をしてい
/10期に賃料改定を迎えるテナントに対し
る。海外のクレジット市場動向や需給環境要
て、減額改定はほぼゼロとなり、賃料増額で
因によるものもあるが、現状ではオフィス賃
の平均増額率は16/4期が+16.8%、16/10
料上昇期待を織り込んでいるようには思えな
68
月
2(No. 366)
刊 資本市場 2016.
い。 こ の ま ま オ フ ィ ス の 市 況 賃 料 と 各
すると20~30bps低下している。
J-REITの賃料増額トレンドが継続するので
J-REITを分析する投資尺度としてインプ
あれば、2016年は同賃料上昇期待を織り込む
ライド・キャップレートがある。これは投資
ことにより分配金利回りスプレッドは低下
家(現在の投資口価格)がREITに要求する
し、東証REIT指数は上昇トレンドを描くも
取得キャップレートと読み取ることもでき
のと期待する。
る。理論的には、資本構成を変えずに(LTV
水準は一定に)増資をして物件取得をする際、
⑶ エクイティファイナンスは義務で
インプライド・キャップレートよりも高いキ
はなく、1口当たり収益性を向上さ
ャップレートで物件取得をすれば1口当たり
せる手段である。安易な新規上場を
分配金を上昇させることができる。逆にイン
するくらいなら、既存REITに物件
プライド・キャップレートよりも低いキャッ
売却を
プレートで物件取得をすれば1口当たり分配
2015年もJ-REITは良好な資金調達環境を
金は希薄化してしまう。
背景に積極的に物件取得を進めた。2015年の
2015年前半までは各REITともにインプラ
J-REITによる物件取得実績は1兆5,893億円
イド・キャップレートよりも高いキャップレ
(優先出資証券等は除く、追加取得は含む)
ートで物件取得をすることができていた。一
と な り、2014年 の 1 兆5,753億 円 を 超 過 し、
方、足元での取得キャップレートとインプラ
2013年及び2006年に次ぐ過去3番目の高水準
イド・キャップレートとの乖離幅は縮小して
となり、J-REITによる物件取得は旺盛であ
おり、以前に比べると物件取得による1口当
ったと言えよう。また、2015年のJ-REIT市
たり分配金の向上は難易度が増している。
場におけるエクイティファイナンス実績は払
各REITは物件取得や資産規模拡大を総じ
込 ベ ー ス で7,629億 円。2014年 通 年 実 績 の
て「外部成長」という傾向が強い。一方、筆
7,748億円とほぼ同水準で過去から見ても高
者の視点からすると、1口当たり収益性を向
水準であった。
上させる物件取得やエクイティファイナンス
一方、J-REITや国内外私募ファンドが積
が「外部成長」である。1口当たり収益性を
極的に物件取得を進めてきたことが背景とな
向上させていなければ成長とは言えない。エ
り、都心部の不動産価格は上昇し、取得キャ
クイティファイナンスは1口当たり収益性を
ップレートは低下傾向が続いている。弊社が
向上させるための手段であり、それができな
集 計 し た デ ー タ に よ る と、2015年 後 半 に
いのであればするべきではない。物件取得競
J-REITが取得した東京23区内のオフィスや
争の激化に伴い、全てのREITが総じて外部
賃貸住宅のキャップレートは1年程前に比較
成長ができる環境ではなくなってきた。各
月
2(No. 366)
刊 資本市場 2016.
69
(図9)J-REITによる物件取得実績
25,000
その他
取得価格(億円)
20,000
シニア
インフラ
15,000
ホテル
物流施設
10,000
商業施設
住宅
オフィス
2015年
2014年
2013年
2012年
2011年
2010年
2009年
2008年
2007年
2006年
2005年
2004年
2003年
2002年
0
2001年
5,000
(注)優先出資証券等は除く
(出所)会社資料、SMBC日興証券
(図10)J-REITの取得キャップレート(オフィス/東京23区)
(%)
8
6
5
4
3
2001/1
2002/1
2003/1
2004/1
2005/1
2006/1
2007/1
2008/1
2009/1
2010/1
2011/1
2012/1
2013/1
2014/1
2015/1
取得キャップレート
7
(注)取得キャップレート:取得意思決定時の鑑定評価上のNCF/取得価格。
(出所)会社資料、SMBC日興証券
REITにとって投資主価値の向上に力点を置
却して終わり」と考えているものもいるよう
いているかどうかが問われる局面であると言
に感じられる。一方、J-REITの投資家の視
えよう。
点からすると、新規上場してくるREITが将
また、筆者は安易な新規上場に対しても危
来の外部成長や内部成長をいかに実現してい
惧している。一部のスポンサー企業は自らが
くのか、投資主価値の向上に資することを実
保有する物件の単なる出口の手段として
行するかに着目している。「単なる出口」手
「J-REITを新規上場させ、上場時に物件を売
段としてJ-REITを考えているのであればわ
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月
2(No. 366)
刊 資本市場 2016.
(図11)J-REITの取得キャップレート(住宅/東京23区)
(%)
8
6
5
4
3
2001/1
2002/1
2003/1
2004/1
2005/1
2006/1
2007/1
2008/1
2009/1
2010/1
2011/1
2012/1
2013/1
2014/1
2015/1
取得キャップレート
7
(注)取得キャップレート:取得意思決定時の鑑定評価上のNCF/取得価格。
(出所)会社資料、SMBC日興証券
ざ わ ざ 新 規 上 場 さ せ る の で は な く、 既 存
REITに物件売却すればよい。そうすれば既
存REITにとっても外部成長の材料となるの
でポジティブである。今後新規上場を考えて
いるスポンサー企業はREITの中長期的な成
長戦略を真剣に検討した上でそれを実行すべ
きかどうかを熟考してもらいたい。
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