2014年のJ-REIT市場回顧と 2015年の展望

■レポート─■
2014年のJ-REIT市場回顧と
2015年の展望
SMBC日興証券株式会社 株式調査部 シニアアナリスト
鳥井 裕史
公益社団法人 日本証券アナリスト協会検定会員
一般社団法人 不動産証券化協会認定マスター
のTOPIXは8.1%上昇、配当込みのトータル
■1.2014年のJ-REIT市場概要
リターンで10.3%の上昇となり、東証REIT
指数はTOPIXをそれぞれ17.2ppt、19.4pptア
2014年12月末の東証REIT指数は1,897.92ポ
ウトパフォーム。2014年の東証REIT用途別
イントとなり、2013年12月末(1,515.01ポイ
指数を見ると、オフィス指数が18.6%上昇、
ント)との比較で25.3%上昇、配当込みのト
住宅指数が43.6%上昇、商業・物流指数が
ータルリターンでは29.7%上昇した。同年末
27.8%上昇し、用途別では住宅指数が相対的
の東証REIT指数は2007年12月以来の高値水
に堅調であった。同期間における東証不動産
準にまで回復、同配当込指数は同年末に過去
業指数は15.7%の下落であり、東証REIT指
最高値を更新した。また、2014年12月末時点
数は東証不動産業指数を41.0pptアウトパフ
のJ-REIT市場全体の時価総額は10兆5,784億
ォームした。2014年12月末時点のJ-REIT市
円となり、過去最高水準を更新した。同期間
場全体における平均弊社予想分配金利回りが
3.1%、長期金利に対する分配金利回りスプ
〈目 次〉
レ ッ ド が 2.8% で あ っ た。 同 月 末 時 点 の
1.2014年のJ-REIT市場概要
2.2014年のJ-REIT市場における需給動向
3.J-REITによる資金調達状況
4.J-REITによる物件取得
5.2015年のJ-REIT市場展望
24
J-REIT市場全体における鑑定評価額ベース
のNAV倍率は1.61倍、インプライド・キャッ
プレートは3.7%。
2014年の東証REIT指数について、1月か
ら5月中頃までは1,450〜1,500ポイントでの
月
2(No. 354)
刊 資本市場 2015.
0
2001/9
2001/12
2002/3
2002/6
2002/9
2002/12
2003/3
2003/6
2003/9
2003/12
2004/3
2004/6
2004/9
2004/12
2005/3
2005/6
2005/9
2005/12
2006/3
2006/6
2006/9
2006/12
2007/3
2007/6
2007/9
2007/12
2008/3
2008/6
2008/9
2008/12
2009/3
2009/6
2009/9
2009/12
2010/3
2010/6
2010/9
2010/12
2011/3
2011/6
2011/9
2011/12
2012/3
2012/6
2012/9
2012/12
2013/3
2013/6
2013/9
2013/12
2014/3
2014/6
2014/9
2014/12
0
2001/9
2001/12
2002/3
2002/6
2002/9
2002/12
2003/3
2003/6
2003/9
2003/12
2004/3
2004/6
2004/9
2004/12
2005/3
2005/6
2005/9
2005/12
2006/3
2006/6
2006/9
2006/12
2007/3
2007/6
2007/9
2007/12
2008/3
2008/6
2008/9
2008/12
2009/3
2009/6
2009/9
2009/12
2010/3
2010/6
2010/9
2010/12
2011/3
2011/6
2011/9
2011/12
2012/3
2012/6
2012/9
2012/12
2013/3
2013/6
2013/9
2013/12
2014/3
2014/6
2014/9
2014/12
時価総額(億円)
280
260
240
220
120,000
100,000
時価総額(億円;左軸)
銘柄数(右軸)
80,000
40
60,000
30
40,000
20
20,000
10
J-REIT市場分配金利回り
国債利回り(10年)
月
2(No. 354)
刊 資本市場 2015.
銘柄数
60
2009/12/30
2010/2/28
2010/4/30
2010/6/30
2010/8/31
2010/10/31
2010/12/31
2011/2/28
2011/4/30
2011/6/30
2011/8/31
2011/10/31
2011/12/31
2012/2/29
2012/4/30
2012/6/30
2012/8/31
2012/10/31
2012/12/31
2013/2/28
2013/4/30
2013/6/30
2013/8/31
2013/10/31
2013/12/31
2014/2/28
2014/4/30
2014/6/30
2014/8/31
2014/10/31
2009年12月30日=100
(図表1)2009年末以降の東証REIT指数の推移
東証REIT指数(配当込)
東証REIT指数
TOPIX
東証不動産業指数
200
180
160
140
120
100
80
(出所)東京証券取引所、SMBC日興証券
(図表2)J-REIT市場全体の時価総額推移
60
50
0
(出所)ブルームバーグ、SMBC日興証券
(図表3)J-REIT市場全体の分配金利回りと長期金利に対する分配金利回りスプレッドの推移
(%)
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
J-REIT分配金利回りスプレッド
(出所)ブルームバーグ、SMBC日興証券
25
ボックス圏での推移となっていたが、その後
続しての買い越しであった。国債の利回りや
は長期金利の低位安定や東京都心におけるオ
貸出し金利が低下している状況において、
フィス空室率及び賃料の着実な改善を好感し
J-REITの分配金利回りは地方銀行をはじめ
ながら1,500ポイントを上抜け、8月下旬に
とする地域金融機関にとっては魅力的なアセ
は1,650ポイント前後にまで上昇した。9月
ットクラスであり、買い意欲は旺盛であった。
から10月下旬にかけては消費増税の反動から
また、2013年4〜5月に見られたような長期
の国内消費等の回復が鈍く、国内景況感の改
金利の大幅上昇局面がなかったことも
善が足踏みするとの懸念から東証REIT指数
J-REITへの売りニーズの少なさと旺盛な買
は伸び悩み、10月17日には1,600ポイントを
い意欲の継続をもたらしたと言えよう。
下回った。一方、10月31日に日本銀行が「量
2014年の投資信託は銀行に次ぐ買い手であ
的・質的金融緩和」の拡大を発表したことが
った。弊社が集計したデータによると、2013
ポジティブサプライズとなったこと、2015年
年12月末時点のJ-REIT特化型投信の残高は
10月に予定されていた消費再増税の延期、衆
2兆2,645億円であった一方、2014年12月末
議院解散・総選挙で自民党政権が圧勝したこ
時点では3兆2,785億円と前年同月比+45%
とを手掛かりに長期金利が0.3%台へ低下し
と大幅増加。また、投資信託協会のデータに
たこと等により東証REIT指数は再び上昇基
よれば、2014年におけるJ-REIT特化型投信
調へ回復。2014年末の東証REIT指数は高値
への純資金流入額は4,968億円であった。同
引けとなった。
資金流入額の一部は新規上場や公募増資とい
うプライマリー市場へと流れたと思われる
■2.2014年のJ-REIT市場にお
ける需給動向
が、J-REIT市場の需給環境に大きな影響を
及ぼした。同資金の主な出し手は国内個人投
資家であるが、長期金利が非常に低水準にあ
東京証券取引所が公表している2014年1〜
る状況下で同投資家層のインカムリターンの
12月の累計投資部門別売買状況によると、銀
ニーズにJ-REITが選好されたこと、日本銀
行が1,893億円の買い越し(除く日本銀行。
行の買入れによる下値の固さが好感されたこ
日本銀行を含むと2,265億円の買い越し)
、投
と等により同特化型投信への資金流入が旺盛
資信託が1,073億円の買い越し、外国人が532
であったと考えられる。
億円の買い越しとなった一方、個人が3,435
外国人は1〜10月では141億円の売り越し
億円の売り越しであった。
でありほぼニュートラルスタンスであった
銀行は最大のJ-REITの買い手であった。
が、11月は一転515億円の大幅買い越しであ
同投資主体は2013年8月以降月次ベースで連
った。10月末に発表された日本銀行による追
26
月
2(No. 354)
刊 資本市場 2015.
(図表4)投資部門別売買動向(単位:億円)
→ 買い越し
1,500
投資信託
1,000
銀行(除く日銀)
日本銀行
外国人
500
−500
事業会社
銀行(除く日銀)
証券会社等
個人
投資信託
−1,000
−1,500
生損保
日本銀行
外国人
事業法人
生損保
個人
証券会社等
2011/12
2012/1
2012/2
2012/3
2012/4
2012/5
2012/6
2012/7
2012/8
2012/9
2012/10
2012/11
2012/12
2013/1
2013/2
2013/3
2013/4
2013/5
2013/6
2013/7
2013/8
2013/9
2013/10
2013/11
2013/12
2014/1
2014/2
2014/3
2014/4
2014/5
2014/6
2014/7
2014/8
2014/9
2014/10
2014/11
2014/12
売り越し ←
0
(出所)東京証券取引所よりSMBC日興証券作成
(図表5)日本国内で販売されているJ-REIT投信の残高推移
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
2006/5
2006/11
2007/5
2007/11
2008/5
2008/11
2009/5
2009/11
2010/5
2010/11
2011/5
2011/11
2012/5
2012/11
2013/5
2013/11
2014/5
2014/11
J-REIT特化型ファンド合計(億円)
35,000
(出所)QUICK、SMBC日興証券
加緩和を好感したこと、それに付随する円安
による新規上場や公募増資が活発となる中、
により海外投資家から見て日本の不動産価格
これらを配分された個人投資家が取引所経由
が割安に映ったことも背景にあろう。2014年
で売却したことが売り越しの主な要因と思わ
のJ-REIT市場は米国や豪州、シンガポール
れる。J-REITはインカムゲインを獲得する
等他のREIT市場よりもパフォーマンスが高
ことに主眼を置いた金融商品である。新規上
かったが、米ドルベースで見ると突出したパ
場や公募増資に参加する個人投資家の長期投
フォーマンスではなかったこともグローバル
資を促すような環境を作る必要があろう。こ
比較で見たJ-REITの割高感の抑制にもつな
れは証券会社の営業姿勢が大きな役割を果た
がったと考えられる。
すと引き続き考える。2014年より始まった
投信、銀行が買い越し姿勢である中、2014
NISA等の活用により長期保有目的をもつ個
年も個人は大幅売り越しとなった。J-REIT
人投資家の発掘に努めるべきであろう。
月
2(No. 354)
刊 資本市場 2015.
27
(図表6)J-REITによるエクイティファイナンス実績
12,000
資金調達額(億円)
10,000
8,000
第三者割当(OA分除く)
による資金調達額
PO資金調達額
IPO資金調達額
6,000
4,000
2,000
0
2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014(年)
(注)PO(公募増資)資金調達にはOA(オーバーアロットメント)による第三者割当増資分を含む
(出所)会社資料よりSMBC日興証券作成
2015年のJ-REIT市場における需給環境に
ファイナンス実績は払込ベースで7,748億円。
関して、
全体としては引き続き良好と考える。
過去最高額であった2013年の1兆1,079億円
2015年も日本銀行による強力な金融緩和によ
に は 及 ば な か っ た も の の、2005年 の 水 準
り長期金利が低位安定するとの見通しから
(6,994億円)を超過、2006年に次ぐ過去3番
J-REITの相対的な分配金利回りの高さは一
目の水準であった。2014年1〜12月の増資発
定程度確保されるだろう。これを背景に個人
表日ベースでの内訳は新規上場に伴う公募増
投資家からのJ-REIT特化型投信への資金流
資が6件で2,288億円(OA分含む、以下同様)、
入や地域金融機関等の銀行からの買い需要は
既存REITによる公募増資が30件で5,473億円
継続基調であろう。また、オフィス賃料の上
であった。
昇がJ-REITの保有物件にも実際に波及し始
2014年もJ-REITによる物件取得意欲が強
めることによる分配金上昇期待から外国人の
い中、NAV倍率が余裕をもって1倍を超過
買い需要も期待できよう。つまり、「オフィ
した良好な資金調達環境を生かして積極的に
ス賃料上昇」と「長期金利の低位安定」が共
エクイティファイナンスが実施された。2015
存する環境となったことに伴い、「インカム
年に関してもJ-REITによる物件取得ニーズ
ゲイン重視」と「キャピタルゲイン重視」の
は強いものと思われ、物件取得が可能となれ
双方の投資家層が「J-REITを買える」状況
ばエクイティファイナンスは実施されよう。
であると考える。
スポンサーサポートが充実していたり、独自
の物件取得力が強いREITは引き続き資金調
■3.J-REITによる資金調達状況
達を実行するものと思われる。
J-REIT市場におけるデット調達環境は引
2014年のJ-REIT市場におけるエクイティ
28
き 続 き 非 常 に 良 好。2014年12月 末 時 点 の
月
2(No. 354)
刊 資本市場 2015.
4.0
3.0
2.5
2.0
1.5
平均調達金利(%)
1.0
2014/7
2014/10
2014/4
2014/1
2013/7
2013/10
2013/4
0.5
2013/1
2012/7
2012/10
2012/4
2012/1
2011/7
2011/10
2011/4
平均残存年数(年)
平均残存年数(年)
3.5
2011/1
1.70
1.65
1.60
1.55
1.50
1.45
1.40
1.35
1.30
1.25
1.20
1.15
1.10
1.05
1.00
2010/10
平均調達金利(%)
(図表7)J-REIT市場全体の有利子負債コストと残存年数の推移
0.0
(出所)会社資料よりSMBC日興証券作成
J-REIT市 場 全 体 の 有 利 子 負 債 残 高 は 5 兆
8,327億 円 と2013年12月 末( 5 兆1,948億 円 )
■4.J-REITによる物件取得
に比較して6,378億円(+12%)増加。金融
機関による貸し渋りの様子は引き続き見受け
2014年のJ-REITによる物件取得実績は387
られず、残高は増加傾向を維持している。ま
物件で1兆5,753億円(優先出資証券等は除
た、2014年12月末時点におけるJ-REIT市場
く、追加取得は含む)。暦年ベースで過去最
全体の有利子負債調達コストは1.03%であ
高額であった2013年の2兆2,268億円には及
り、2013年12月末の1.15%に比較して12bp低
ばなかったものの、2007年の1兆4,671億円
下、2010年以降低下傾向が続いている。平均
を超過し、2006年に次ぐ過去3番目の水準で
残存年数も長期化傾向が続いており、2014年
あり、物件取得は活発であったと言えよう。
12月末時点では3.8年。
また、2014年中に発表し、2015年に取得する
各REITはまとまった物件取得の際にはエ
予定の物件は15物件で849億円ある。2014年
クイティファイナンスを実施している。今後
も2013年と同様に、J-REIT市場全体のNAV
もこのような状況が続く環境であれば、各
倍率が余裕をもって1倍を超過し、資金調達
REITのデット返済能力やLTVの引き下げ力
環境が良好であったことに加え、今後の不動
が向上すると言える。そうなれば、各レンダ
産価格上昇、賃料上昇が期待されていること
ーはREITに対して融資をしやすくなり、今
が、取得が活発であったことの背景にあろう。
後も継続的にデットを供給できる状況が続く
2014年の用途別取得実績は、オフィスが92
と考えられる。
物件(7,613億円)、住宅が134物件(2,516億円)、
商業施設が34物件(1,675億円)、物流・倉庫
等が38物件(2,083億円)、ホテルが48物件(830
月
2(No. 354)
刊 資本市場 2015.
29
(図表8)J-REITによる物件取得実績
25,000
その他
取得価格(億円)
20,000
シニア
インフラ
15,000
ホテル
物流施設
10,000
商業施設
住宅
オフィス
5,000
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
0
1
2
3
4
5
200 200 200 200 200 200 200 200 200 201 201 201 201 201 201 (年)
(注)優先出資証券等は除く
(出所)会社資料、SMBC日興証券
億円)
、その他(インフラ、シニア、底地等)
取得価格、取得価格加重平均)はオフィスが
が41物件(1,037億円)であった。2013年は
4.6%、住宅が5.2%、商業施設が4.5%、物流
新規上場銘柄であった日本プロロジスリー
施設が5.1%、ホテルが5.9%であった。2013
ト、GLP J-REIT、イオンリート、野村不動
年の同地域における平均取得キャップレート
産マスターファンド等の登場で物流施設と商
はオフィスが4.8%、住宅が5.3%、商業施設
業施設の取得額が高水準であった。2014年に
が5.3%、物流施設が5.5%、ホテルが5.8%で
関しては全物件取得に占めるオフィスの割合
あった。これらは実際の取得事例であるため、
が48%と最も多く、2013年のオフィス取得実
取得キャップレートにはばらつきがあるこ
績(5,440億円)を40%上回った。オフィス
と、質の違い等がある点は留意すべきである
市況の改善への期待の高まりが背景にあると
が、各用途ともに取得キャップレートは低下
言えよう。また、宿泊特化型ホテルを中心に
傾向となっている。特に、首都圏の物流施設
ホテルの取得が増加している。同期間におけ
は2011〜2012年に比較して足元では100bps
る地 域 別 の 取 得 実 績 は 東 京23区 が170物 件
程度の低下が確認されている。オフィス及び
(8,851億円)
、首都圏が55物件(2,391億円)、
住宅に関しては2012年との比較で30〜50bps
名古屋市・大阪市・福岡市が66物件(2,383
程度低下。これは不動産価格の上昇を示唆し
億円)
、その他地域が96物件(2,128億円)で
て お り、J-REITが 保 有 す る 不 動 産 価 値 や
あり、東京23区及び首都圏の比率は全体の71
NAVの改善につながっているものと言えよ
%を確保した。
う。商業施設に関しては取得物件のタイプが
2014年の東京23区及び首都圏における平均
郊外型施設から都市型店舗にシフトしている
取得キャップレート(鑑定評価上のNCF/
ことがJ-REIT取得物件のキャップレート低
30
月
2(No. 354)
刊 資本市場 2015.
(図表9)長期金利と東証REIT指数の推移
(%)
1.0
東証REIT指数(配当なし)
国債利回り(10年)
1,900
東証REIT指数
1,800
0.9
1,700
0.8
1,600
0.7
1,500
1,400
0.6
1,300
0.5
1,200
0.4
2012/12
2013/1
2013/2
2013/3
2013/4
2013/5
2013/6
2013/7
2013/8
2013/9
2013/10
2013/11
2013/12
2014/1
2014/2
2014/3
2014/4
2014/5
2014/6
2014/7
2014/8
2014/9
2014/10
2014/11
1,100
1,000
国債利回り(10年)
2,000
0.3
(出所)東証、ブルームバーグ、SMBC日興証券
下の要因であると思われる。
たプレミアム増資での1口当たり分配金及び
一方、2014年の全地域における平均取得キ
NAVの向上、が挙げられる。
ャップレート(取得価格加重平均)はオフィ
2013年12月末時点で0.74%であった長期金
スが4.7%、住宅が5.4%、商業施設が5.1%、
利(10年国債利回り)は低下傾向をたどり、
物流施設が5.3%、ホテルが6.2%であり、同
2014年10月31日に日本銀行が追加緩和を発表
5用途の平均取得キャップレートは5.0%で
して以降はさらに低下、2014年12月末時点で
あった。直近決算期ベースのJ-REIT市場全
0.33%となった。J-REIT市場全体の分配金利
体のNOI利回りは5.2%であり同水準を若干
回りは長期金利の低下に連動するように低下
下回ったものの、2014年通年のJ-REIT市場
し、その結果として東証REIT指数は堅調に
全体の平均インプライド・キャップレート
推移した。
(4.1%)を上回る水準で取得できていた。
基本的な理論式から述べると、2014年初か
ら11月上旬頃までの分配金利回りスプレッド
■5.2015年のJ-REIT市場展望
は3%前後で安定的に推移していたことから
判断すると、J-REITに要求される期待利回
2015年のJ-REIT市場は2014年の流れを引
り「Rf(リスクフリーレート)+Rp(リス
き継ぎ堅調なパフォーマンスで推移すると予
クプレミアム)−G(期待成長率)」はリス
想する。背景には、①日本銀行の金融緩和に
クフリーレートである長期金利が低下したこ
よる長期金利の低位安定、②東京都心を中心
とにより低下したと言えるだろう。そのため、
としたオフィス賃料の上昇がJ-REITの保有
弊社では同期間の東証REIT指数が堅調であ
する物件にも波及、③高NAV倍率を活用し
った要因はあくまで長期金利の低下であり、
月
2(No. 354)
刊 資本市場 2015.
31
22,000
2.5
21,000
2.0
20,000
1.5
19,000
1.0
18,000
0.5
16,000
2007/3
2006/9
2006/12
2006/6
2006/3
2005/9
2005/12
2005/6
2005/3
2004/9
2004/12
0.0
17,000
J‐REIT分配金利回りスプレッド
平均募集賃料(円/坪)(東京都心5区)
2004/6
J‐REIT分配金利回りスプレッド
(%)
3.0
平均募集賃料(円/坪)(東京都心5区)
(図表10)J-REITの分配金利回りスプレッドと東京都心5区のオフィスの平均募集賃料(2004後半〜2007年前半)
(出所)三鬼商事、ブルームバーグ、SMBC日興証券
19,000
3.5
18,500
3.0
18,000
2.5
17,500
2.0
17,000
1.5
16,500
16,000
1.0
15,500
2015/6
2015/4
2015/2
2014/12
2014/8
2014/10
2014/6
2014/4
2014/2
平均募集賃料(円/坪)(東京都心5区)
2013/12
2013/6
0.0
J‐REIT分配金利回りスプレッド
2013/10
0.5
15,000
平均募集賃料(円/坪)(東京都心5区)
(%)
4.0
2013/8
J‐REIT分配金利回りスプレッド
(図表11)J-REITの分配金利回りスプレッドと東京都心5区のオフィスの平均募集賃料(2013年後半〜)
(出所)三鬼商事、ブルームバーグ、SMBC日興証券
リスクプレミアムの低下や期待成長率の上昇
着実に上昇トレンドを描いている。
を織り込んだものではないと考えている。
過去のオフィス賃料が上昇トレンドに入っ
2014年初より東京都心のオフィス賃料は着
た 局 面 と し て 2006 年 の オ フ ィ ス 市 況 と
実に上昇を続けている。三鬼商事が公表する
J-REIT市場動向について振り返りたい。こ
東京都心5区の平均募集賃料は2013年12月に
の局面に関しては、2005年末まで横ばいで推
ボトムを打ち、2014年12月まで12ヵ月連続で
移して以降市況賃料は徐々に上昇し始め、
前月比プラス、2014年5月からは前年同月比
2006年 中 頃 か ら 本 格 的 に 上 昇 し た。 一 方、
でもプラスに転じている。2013年12月〜2014
J-REIT市場全体の長期金利に対する分配金
年12月までの同賃料上昇率は4.6%となり、
利回りスプレッドは2006年中頃までは2.5%
32
月
2(No. 354)
刊 資本市場 2015.
程度で安定的に推移した後、2006年9月頃か
と、2014年11月前半頃までは3%前後で安定
ら 縮 小 ト レ ン ド に 入 り、 東 証REIT指 数 は
的に推移していたが、11月中頃から徐々に低
2006年9月末の1,696.72ポイントから2007年
下トレンドを描き始める局面に入った。2015
5月末には2,612.98ポイントにまで急上昇し
年はオフィスの賃料上昇期待を織り込むこと
た。当時の状況から判断すると、J-REIT市
により分配金利回りスプレッドは低下し、東
場の分配金利回りスプレッド及び東証REIT
証REIT指数は上昇トレンドを描くものと期
指数は市況賃料がボトムから5%程度上昇
待する。
し、かつ先行き見通しが明るくなった時点か
一方、リスクファクターについても意識を
ら動意づいていることが見て取れる。
持っておきたい局面と考える。目先について
当時の状況でもオフィスの市況賃料と実際
は海外のクレジット市場の混乱に伴うリスク
の継続賃料との間には5〜10%程度のギャッ
プレミアムの上昇が挙げられる。同リスクは
プ(市況賃料<継続賃料)が生じていた。一
J-REITのファンダメンタルズに直接影響が
方、市況賃料の上昇に伴いこのギャップが解
あるとは考えづらいものの、投資口価格に対
消もしくは「市況賃料>継続賃料」という状
しては変動要因となる。また、2〜5年程度
況に転じた段階から実際の継続賃料が増額改
での中長期的な視点では日本銀行の金融緩和
定できるような状況に入るとの見通しが立っ
の終了に伴う長期金利の上昇とオフィス賃料
たことが分配金利回りスプレッドの縮小の背
上昇期待の変動である。
景として考えられる。
現段階で具体的な時期は明言できないが、
弊社による各オフィス型REITへのヒアリ
日本銀行による金融緩和が終了して長期金利
ング等によると、2013年末時点で市況賃料と
が上昇する状況となった場合、どの程度のダ
継続賃料とのギャップも5〜10%程度であっ
ウンサイドリスクを見ておけばよいのか、も
た。足元では市況賃料が上述の通り5%程度
しくは東証REIT指数が下落しないためには
上昇してきたことから同ギャップは概ね解消
どの程度のオフィス賃料上昇期待を持つ必要
したと考えることができる。2015年のオフィ
があるのか、という点については中長期的な
ス市況賃料が着実に上昇トレンドを描けば、
目線として認識しておきたい。
「市況賃料>継続賃料」という状況になり、
1
各J-REITは保有するオフィスで賃料増額改
定を着実に実現し、1口当たり分配金を向上
させることができるだろう。
2013年後半以降のJ-REITの長期金利に対
する分配金利回りスプレッドの推移を見る
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刊 資本市場 2015.
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