講演者名: 要旨:人工知能・自動化によるライフサイエンスのパラダイムシフト 柳田 敏雄(理化学研究所生命システム研究センター(QBiC)・センター長) 生命は、DNA・RNA・タンパク質などの様々な部品が織り成す複雑なシステムである。分子生物学の 発展は、これらの部品の巧妙な仕組みとその相互の関連を明らかにしてきた。その総体として現れる生 命システムがどのように機能するのか、またどのように破綻して病気へとつながるのかは次世代の生命 科学における中心的な課題である。 生命のような複雑なシステムの動態を明らかにするために有効な方法として、細胞レベルのシミュレ ーションの進展など、モデル駆動型の計算科学への取り組みも進んでいる。しかし、生命の特徴はその 関与する部品の多様性にある。生命システムには数万の遺伝子が関与しており、タンパク質も含めた細 胞の状態や遺伝子の組み合わせを考えると膨大な自由度になる。これらに対処するためには、データ駆 動型のアプローチを取り入れることが必須である。また、データ駆動型の研究を実現するためには、実 験のロボット化を推進し、大量の系統的なデータの取得も必須である。十分なデータに基づき、人工知 能により解析を行うことで、膨大な自由度の中から低次元の本質的なダイナミクスを抽出することがで きるであろう。また、これらに基づき予測可能なモデル化を行うことも可能になる。 理研 QBiC では、このような研究推進の一環として、イメージング技術とオミックス技術を人工知能 で結合し、細胞の状態を推定するプロジェクト「DECODE (DEcoding Cell from Omics and Dynamic Expression) 計画」を提案している。超解像技術に代表される近年のイメージング技術の向上は凄まじく、 細胞の詳細な「表情」を動的に計測することが可能になってきた。また一方で、一細胞解析技術の進展 で、遺伝子の状態等一細胞レベルでの詳細なオミックス状態を計測できるようになってきた。こうした 細胞の「表情」と詳細なオミックス状態の対応付けを人工知能により行うことにより、イメージングで 「表情」を観測するだけでその詳細な状態を推測する技術開発を目指している。 こうした多様なデータを統合するためのデータ駆動型アプローチの重要性は、DECODE 計画に留まら ず、今後生命科学・医学・創薬の多くの階層で重要になるであろう。モデル駆動型アプローチによる予 測と組み合わせ、生命科学の大きな潮流となることが期待される。 DECODE 計画:データ駆動型の次世代生命科学のモデルケース
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