電池の劣化把握と有効活用を 実現する充電曲線解析技術

充電容量
3.0
2.8
組電池
電圧
3.2
3.4
4
100
90
80
充電容量
電圧
電池の劣化は,機器の使用時間やEVの航続距離の減
少につながるため,劣化状態の検査方法が必要になります。
データベース
・活物質の
OCV カーブ
など
正極と負極の
状態を推定
実線:充電曲線 破線:OCV カーブ
電極電位
東芝は,市販の電池を用いた蓄電システムにおいて,
正極
電池が劣化しても
OCV カーブの形状は
変化しない
充電容量
技術を確立しました。そして蓄電システムの,内部状態に
0.5
容量(任意単位)
1.0
にわたって有効活用できます。
3C サイクル試験
60 ℃
満充電保持試験
40
様々な形態で CCA 技術を提供
20
0
CCAは電池を使 用する機器であれ
内部抵抗増加率
−20
100
80
70
90
容量維持率(%)
60
⒝ CCA による負極容量維持率と
内部抵抗増加率の推定結果
ば,モバイル機器からEV,更に定置用
蓄電システムまで,幅広く適用して電池
の利便性を向上できます。搭載システム
やユーザーによって,求められる機能や
システムへの組込み方法などが異なるた
EV+ 定置用蓄電
システム
EV だけ
120
フィッティング計算
パラメータ値推定
・正極・負極容量
・内部抵抗
・SOC ずれ
劣化した電池 新品の電池 OCV カーブ
負極
組電池内の各電池の内部状態を推定する充電曲線解析
CCA のフロー
新品の電池
充電容量
より詳細に劣化状態を把握することが重要になります。
0
1.0
EV
入力データ(充電曲線)
正極と負極の状態
また,蓄電システムの制御や安全性の維持においても,
60
60
るリユースを行うことで,電池を長期間
め,当社ではCCA技術を様々な形態で
電池の充電曲線
を計測
劣化した電池
SOC 0 %
70
80
図 3.劣化試験中の市販電池における充電曲線の変化と負極容量の推定結果 ̶ 電池の使用条件
が異なると,同じ容量でも負極材料の劣化速度が異なることが CCA 評価でわかります。
電池状態を推定
電池容量維持率(%)
電池電圧
環境によって,電池の劣化が進行します。
応じた高精度な制御の実現に取り組んでいます。
0.5
容量(任意単位)
電池の充電曲線
源として広く用いられています。しかし使用条件や保存
80
熱源に近いほど,劣化が激しい
図1.電池の劣化 ̶ 使用条件によって,電池内の材料の劣化や組電池での
各電池の劣化度合いが異なります。
機器や,電気自動車(EV),定置用蓄電システムなどの電
90
⒜ 劣化試験中の充電曲線の変化
充電容量
容量小 抵抗大
リチウムイオン二次電池(以下,電池と略記)は,モバイル
100
2.6
6
0
熱源
3.0
0
負極容量維持率
100
EV では残り寿命がわずかな
電池でも,定置用蓄電システム
では長期間の利用が可能
リユース
× 寿命に到達
負極劣化の検出時点で,使用条件を変更
110
使用条件の変更で,
長期間にわたって有効活用
90
80
50
40
90
80
70
70
60
110
100
100
60
急速に劣化
電池容量維持率(EV だけ)
電池容量維持率(EV+ 定置用蓄電システム)
負極容量維持率の推定値(EV だけ)
負極容量維持率の推定値(EV+ 定置用蓄電システム)
50
40
30
20
30
提供していくことを目指しています。
劣化状態の評価を行うソフトウェア
の開発,及び既存の電池制御系にアド
オンできるIC の開発を進めています。
また将来的には,CCAで得られる情
報をフルに活用できるバッテリーマネジ
メントシステムの提供や,電池データの
クラウドシステム 上での解 析と評 価も
視野に,システム検討を進めています。
サイクル期間
SOC:State of Charge(充電状態)
図 2.電池の内部状態の CCA による推定 ̶ 正極と負極の OCVカーブを
基準として充電曲線にフィッティングを行うことで,材料の劣化を含む内部状
態を推定します。
定置用蓄電システム
負極容量維持率の推定値(%)
劣化した
電池
充電データから電池の
劣化状態を詳細に把握
温度高
3.2
2
2.8
8
2.6
負極容量維持率の推定値(%),
内部抵抗増加率の推定値(%)
温度低
120
60 ℃
満充電保持試験
験
容量維持率(%)
新品の
電池
容量維持率(%)
電圧
抵抗小
3.6
6
3C
サイクル試験
3.4
電池電圧(V)
電池の劣化把握と有効活用を
実現する充電曲線解析技術
容量大
3.6
組電池の劣化度合いは不均一
(個体差,使用環境)
電池電圧(V)
電池は劣化する
(内部抵抗の増加,充電容量の減少)
図 4.CCAによる電池劣化加速の予兆検出と,使用条件緩和による電池有効活用の模擬試験 ̶ 定
期的な CCA 評価により,急速に劣化する前に電池をリユースし適切な条件で運用することで,電池を
有効活用できます。
今後の展望
今後,再生可能エネルギーの活用や
電池の劣化把握の必要性
電池は高いエネルギー密度と長寿命
⑴
定します 。また組電池の場合には,充
機器に搭載されている電池の劣化状
電時の各電池の電圧データにCCAを
繰返し充放電に伴い,性能が劣化して
態を評価するには,計測器などの追加
適用すればよいため,コストを掛けず
いきます。
コストが掛からず,電池の取外しなどの
に電池を個別に評価できます。
は,図1に示すように電池の劣化度合い
手間がなく,簡便で高分解能かつ信頼
性の高い方法が望まれます。
ことがわかります。
負極の組合せ状態を含む内部状態を推
特性を持っていますが,時間の経過や
更に多数の電池を接続した組電池で
52
負極材料のそれぞれの劣化,及び正極と
充電曲線解析による
電池内部状態の推定
電池には様々な正極・負極材料の組
CCAによる電池の
利便性向上と有効活用
化を知ることで,電池の劣化が急加速
EVの普及など持続可能な社会を実現
して寿命に到達する予兆を捉えること
するうえで,電池の重要性はますます
ができます(図 4)。
高まっていくと考えられます。電池の有
残り寿命の制御では,CCAで得た電
効活用に向けて,他の電池制御・診断
CCAを適用することで,電池の劣化
池状態に基づいて充電状態を高精度に
技術との組合せを含め,CCA 技術の更
状態の可視化,及び残り寿命の予測と
推定できます。ノートPC(パソコン)の
なる高機能化に取り組んでいきます。
制御の三つの有用な情報が得られます。
残り使用時間やEVの航続距離を正確
合せがあり,それぞれ特性や適した用
電 池の 劣化 状 態の可視化では,ス
に提示できます。
また,劣化状態の可視化と高精度な
は一様ではなく,温度分布によって一部
そこで東芝は,充電時の電池の電圧
途が異なります。CCAでは,主要な電
マートフォンの電池交換時期の通知や,
の電池が劣化するなどの性能分布が発
挙動(充電曲線)を解析して,電池の劣化
極 材料系に対応したアルゴリズムを構
EVの中古車の価格査定における電池
制御により,劣化に応じて使用条件を
生します。また電池の使用条件によっ
状態を推定する充電曲線解析(CCA)
築しており,現在市販されている電池の
診断の活用などが想定されます。また,
調整することで,できるだけ電池を劣化
て,劣化する材料に違いが生じます。
技術を開発しました。
約 95 %に対応できます。
組電池内で異常劣化が発生した電池の
させずに急速充電を行うことも可能に
検出もできるため,安全性の確保にも
なります。
このように,ユーザーの使用条件に
CCAでは図 2に示すように,電池の
依存して,個々の電池と組電池のそれ
充電曲線が充電中の正極電位と負極電
ぞれのレベルで様々な劣化が起こりま
位の差分であることを利用して,正極・
CCAを適用すると,3Cレート(1C:
残り寿命の予測では,電池内のどの
ことで,電池の有効活用を図れます。例
す。このため,電池の劣化状態を把握
負極材料の結晶構造に由来する開回路
2 A)でのサイクル試験と60 ℃満充電
材料が劣化しているかを知ることで,寿
えば図 4に示すように,劣化状態の可視
することは,電池の安全かつ有効な活
電位(OCV)カーブを基準として充電曲
保持試験のように電池の使用条件が異
命予測がより正確にできるようになり
化と残り寿命の予測により,適切な時
用のために非常に重要となります。
線にフィッティングを行うことで,正極・
なると,負極材料の劣化速度が異なる
ます。特に,キーとなる特定材料の劣
期に電池を負荷の小さい用途へ転用す
市販電池の負極材料劣化を CCAで
解析した例を,図 3 に示します。
東芝レビュー Vol.71 No.2(2016)
つながります。
文 献
⑴
森田朋和 他.内部状態の推定により電池
の健全性を可視化する充電曲線解析法.東芝
レビュー.68,10,2013.p.54 − 57.
更に,これらの情報を組み合わせる
電池の劣化把握と有効活用を実現する充電曲線解析技術
森田 朋和
研究開発統括部
研究開発センター
機能材料ラボラトリー主任研究員
53