CCRC 事業の本格化と課題

PPPニュース 2015 No.22 (2016 年2月 25 日)
CCRC 事業の本格化と課題
CCRC(Continuing Care Retirement Community)事業が地方経済活性化支援機構の地方創生等
の取組とともに、2016 年は本格展開となる。地域経済活性化支援機構は、平成 20 年秋以降の金融経
済情勢の急速かつ大幅な悪化等により有用な経営資源を持ちながら過大な債務を負っている事業者
の事業再生を支援する目的で平成 21 年 10 月に設立された株式会社企業再生支援機構を前身として、
さらに平成 25 年3月の法改正で事業再生支援に係る決定期限を更に5年間延長する等の改正が行わ
れ、従前からの事業再生支援に加えて地域経済活性化事業活動に対する支援に係る業務を担う組織に
改組となり、株式会社地域経済活性化支援機構に変更されている。さらに、平成 26 年 10 月に出資機
能の強化、貸付債権等の信託引受け等、事業再生や地域活性化の支援が一層効果的に進められること
を目的とするさらなる法改正が施行されている。以上の事業活動を展開するため、①事業再生支援業
務=有用な経営資源を有しながら過大な債務を負っている事業者で当該事業の再生を支援することに
より地域経済の活性化が図られるような中小企業者等に対して、事業の見直しや再構築による十分な
事業利益の確保、過大債務の削減等による財務の再構築等を図る事業再生計画に基づき事業再生を支
援する事業、②地域経済活性化事業活動支援業務=金融機関の事業再生子会社、信託引受先等への専
門家派遣及び出融資、事業再生ファンド・地域活性化ファンドへの専門家派遣及び出資、金融機関へ
の専門家派遣、非メイン金融機関が有する貸付債権の特定信託引受等を通じて、金融機関等の地域の
関係者が行う中小企業者等の事業再生に向けた取組や新事業・事業転換等を支援する事業等を展開す
る。具体的には、事業再生子会社への出融資と特定信託引受の決定が平成 30 年3月 31 日(予め主務
大臣認可を得た金融機関等については同年9月 30 日)までに、事業再生・地域活性化ファンドへの
出資は、機構が設立するファンド運営子会社を通じて行うこととなっている。
こうした政府系ファンドが、地方のまちづくりや商店街活性化等を担う民間企業に出資することで
地方創生を後押ししている。具体的には、2015 年夏に政府がまとめた日本版「CCRC」の推進にあ
る。CCRC は、高齢者が健康な間に地方に移住し生涯学習や社会貢献を通じて展開する共同体を形成
するもので、介護や医療施設を併設し地域として様々なケアを行う仕組みであり、米国が先行して取
り組んでいる仕組みで米国全体において 2,000 箇所程度、75 万人規模となっている。日本では、支
援機構が CCRC 事業に先行的ノウハウを持ち 20 年程度の経験を有する株式会社コミュニティネット
(http://c-net.jp/)に出資し、全国 60 自治体程度で高齢者施設を核とするまちづくりを展開すると同時
に、空家・廃校、老朽化団地等の改装・改築等を展開する。先行 CCRC 事業としては、栃木県那須
市(ゆいま〜る那須)が挙げられる。同市には都市部から移住した 80 人程度の共同体が展開されて
いる。2016 年には北海道厚沢部町、埼玉県越生町等での CCRC 展開に向けた施設整備等が予定され
ている。地方財政面では、CCRC の受入地方自治体はいわゆる「住所地特例」の活用により、介護老
人保健施設・特別養護老人ホーム等入所者の介護保険・後期高齢者医療の保険者を引越前の居住地か
ら変更しないことが可能である。これまでの介護保険施設と軽費老人ホーム・養護老人ホーム・有料
老人ホームに加え、サービス付き高齢者住宅も住所地特例の対象施設となったことから活用範囲は広
がっている。高齢者の地方移住による移住対象地方自治体の保険財政悪化は、住所地特例の活用を適
切に行うことで回避可能ではある。
日本での CCRC を展開・促進するうえで、地方自治体も含めた地域の公共空間としての総合的な
ガバナンス機能の充実が不可欠であるほか、CCRC の事業内容と運営の透明性・継続性の充実と確保、
地域メッシュ情報の蓄積と活用、機会コストも含めた住民コストの明確化等が重要となる。日本が導
入モデルとしている米国の CCRC には、高いコストによる高い質のサービス提供を基本とする高級
有料施設も少なくないことにも留意すべきである。加えて、CCRC が柱とする地域との協働等の取組
について、既存の地域コミュニティと一体化するには、新住民と既存住民間の協働参加の段階的プロ
セスが重要であり、地域と隔絶した一定の協働であれば持続性に問題が深刻化する。CCRC に限らず
新住民と既存住民のコミュニティ融合は従来から大きな課題となっており、CCRC の展開がこうした
課題に対して如何に取り組めるか重要な戦略的ポイントとなる。
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