C NSCA JAPAN Volume 16, Number 2, pages10-15 研究論文 この「研究論文」は投稿による原稿であり、NSCAジャ パン編集委員会の査読を経て掲載されています。 レジスタンストレーニングにおける セット間のストレッチングが筋力、 筋放電量、柔軟性に及ぼす影響 飯田祐士 1,2 CSCS, NSCA-CPT 岡田純一 2 CSCS 1 ウイダー・トレーニングラボ、2 早稲田大学スポーツ科学学術院 〔Key Words〕 緒言 対するSSの影響について言及したも スタティックストレッチング、等張性 近年、競技やレジスタンストレー のが多くを占めている。その一方で、 筋力発揮、大腿四頭筋 ニングの実施に伴い、ウォームアッ 一般的なスポーツ活動は主に等張性の プまたはクールダウンの一部として 筋活動で構成されているが(29)、等 抄録 ストレッチングが広く用いられてい 張性の筋活動中におけるSSの影響を 本研究は、間欠的な等張性筋力発 る。ストレッチングとは、柔軟性向上 検証した研究は非常に少ない(15,29)。 揮プログラムのセット間に行うスタ や疼痛緩和等(23)、種々の効果がある また、先行研究の多くは、SS実施後 ティックストレッチング (SS)が、筋 とされている筋を伸張する方法であ の 単 発 的 な 力 発 揮(4,7,15,19,20,24,29) 力、筋放電量および柔軟性に及ぼす影 る。その手法も様々であるが、中でも について検討したものである。 加えて、 響を明らかにすることを目的とした。 スタティックストレッチング(Static SSには上記で示したような柔軟性向 間欠的な等張性膝関節伸展運動におけ stretching:SS)は最も一般的な手法 上(23)や筋のパフォーマンスを回復さ るセット間に、30秒間のSSを実施す である。SSとは、対象となる筋群を、 せる効果(27)がある。こういった点を ることで、セット内における筋放電 反動を用いずにゆっくりと関節可動域 考慮し、間欠的な力発揮のセット間に 量の増加が抑制された。またこれに伴 の限界まで伸張させ、限界の肢位で20 SSを行った場合、それ以降の力発揮 いストレッチングを実施しなかった場 ~ 30秒間保持するもの(27)と一般的 中における柔軟性や筋のパフォーマン 合と比較して、5セット目の挙上回数 に定義されているが、先行研究(2)に スに影響が及ぼされると考えられる。 が増加するとともに、全試行後の柔軟 おいても関節可動域改善に最も効果的 間欠的な力発揮におけるセット間の休 性も維持されるということが示唆され なSSの所要時間は30秒間であると明 息時に実施するSSの影響については、 た。本研究の結果は、SSをエクササ らかにされている。また、数多くの研 間欠的な等速性筋力発揮(20回3セッ イズのセット間に実施することで、筋 究 (4,5,7,15,19,20,24,29,30)により、力発 トの膝伸展・屈曲動作)により顕著に の柔軟性低下を抑制し、トレーニング 揮中の諸要素に対するSSの影響につ 生じる筋力低下を抑制し、また筋力低 中の総仕事量を増加させる可能性があ いて検討がなされている。そしてこれ 下に伴う関節可動域低下を予防すると ることを示唆するものといえる。 らの研究では、等速性 (4,20,30)および いった傾向が認められている (30) 。し 等尺性 (7,19,24)筋力発揮中の諸要素に かしながら、レジスタンストレーニン 10 March 2009 Volume 16 Number 2 グプログラムのような実際に間欠的な 力発揮を用いる場合には、主に等張性 Knee Extension のエクササイズが実施されており、先 行研究 (30) では、間欠的な力発揮とし て等速性の筋収縮様式が使用されてい ること、例数が少ないことなどの課題 Flexibility Flexibility test(pre) W-up 20s SSが諸要素に及ぼす影響を検討する 25s set1 ことは、レジスタンストレーニングプ また、SSが筋活動に及ぼす影響に test(post) 75s 的な等張性筋力発揮のセット間に行う 要であると思われる。 MRP test SS 条件 を残している。以上の知見から、間欠 ログラムへの応用という観点からも重 Stretching(30s) set2 set3 set4 NS 条件 Flexibility Flexibility test(pre) ついては、筋放電量を低下させると test(post) 75s W-up いう報告(16)がなされている一方で、 Evetovichら (6)は筋放電量への影響は 認められないとしており、一定の見解 set1 set2 が得られていない。したがって、筋電 set3 set4 図1 実験プロトコル 図 1.実験プロトコル 図分析や柔軟性評価を実施すること で、SSが筋に及ぼす影響の要因を検 討する必要がある。 実験手順 プに続き、3)12回×4セットの膝伸 そこで本研究では、トレーニング現 本研究では、セット間の休息時にStatic 展動作を行った。その後休息を挟み、 場で主に用いられている間欠的な等張 Stretchingを行うSS条件と、対照とし 4)Maximum repetition performance 性筋力発揮プログラムのセット間に行 て安静を保つNS(Non-Stretching)条 test(MRP test) (3)を実施し、再び柔 うSSが、筋力、筋放電量および柔軟 件の2条件を設けた。各被検者は、両 軟性を測定した。なお、セット間を除 性に及ぼす影響を明らかにすることを 条件を無作為に実施するため、試行は 目的とした。 1日1条件とし、合計2日間にわたり 14 く各項目間については休息時間を設け ず、準備が整い次第直ちに次の項目を 実験に参加した。この2日間の間隔は 実施した。用いた運動条件は、実際の 方法 1~2週間であった。 レジスタンストレーニングプログラ 被検者 間 欠 的 な 等 張 性 筋 力 発 揮 と し て、 ムにおいて使用されているプロトコ レジスタンストレーニングを実施し 被検者に対し膝関節伸展動作 (対象: ル(11)を参考とした。MRP testとは、 た経験を有する健康な成人男子学生11 右 脚 )を 行 わ せ た。 測 定 に は ウ エ イ 動作速度および動作可動域を変えるこ 名( 年 齢:23±2.1歳、 身 長:174.8± トスタック式マルチステーション となく挙上が可能な最大反復回数を 6.7cm、体重:69.8±7.9kg)を本研究 (Universal社製)において膝伸展動作 測定する方法であり、レジスタンスト の被検者とした。実験に先立ち、被検 を行うレッグエクステンションを使用 レーニングのパフォーマンス評価とし 者は本研究の目的、方法および実験参 した。あらかじめ用意したベルトによ て用いられているものである(3)。12 加により起こりうるリスクについて文 り身体を固定し、上肢の貢献を制限す 回の膝伸展動作およびMRP testの動 書ならびに口頭で十分な説明を受けた るため、両腕は胸部付近で交差させる 作速度を2秒間に1回のペースとし、 上、実験参加承諾書に署名した。本研 こととした。 その規定にメトロノーム(SQ100-88、 究は、早稲田大学スポーツ科学学術院 実験プロトコルについては図1に示 セイコー社製)を使用した。 研究倫理委員会の承認を受けた。 すように、1)柔軟性の測定、2)軽負 負荷設定のため、被検者に対し実験 荷による測定動作でのウォ―ムアッ に先立ちnRMテスト(11)を実施した。 C National Strength and Conditioning Association Japan 11 そして、得られた推定1RM値の67% て、各セットにおける1~3回のピー (終末値)を用い、筋力変化率と同様 から2.27kgを減じ、その数値を12回× クトルク平均値(初期値)および10 ~ に、セット中の筋放電量変化率「{(終 4セットで使用する負荷とした。 通常、 12回のピークトルク平均値(終末値)か 末値-初期値)/初期値}×100」 を算出 12回に相当する負荷は67%1RMとさ らセット中の筋力変化率 「 { (初期値- した。 れているが (11) 、これは1セット実施 終末値)/初期値}×100」 (30)を算出し 時の設定であり、本研究では4セット た。 柔軟性 行うため、Earleら (8)の調節法を参考 MRP testに関しては、先行研究(3) 試行前後における右脚大腿四頭筋の にし、事前に負荷を調整した。一方 と同様に、動作速度ならびに動作可動 柔軟性測定には、腹臥位でのMuscle MRP testの負荷は、先行研究 (3)と同 域を変えることなく挙上が可能であっ tightness test(26)を 用 い た。 こ れ 様の65%1RMを採用した。 た回数を、検者が計測した。 は左脚伸展状態で、右脚の膝を屈曲 セット間の休息時間は、試行する運 させた際の踵部から殿部までの距離 動条件を考慮した場合60 ~ 90秒間が 筋放電量 を測定する方法である。ただ、本研 適当であるため (11) 、本研究では上記 被 検 筋 は、 右 脚 の 大 腿 直 筋(RF)、 究 で は、 よ り 正 確 な 測 定 を 行 う た の中央値である75秒間を採用した。こ 内側広筋 (VM) 、外側広筋 (VL)の 三 め、ゴニオメータ(KINETO-ANGLLE の休息時間中、NS条件ではストレッ 筋とした。筋電図導出には皮膚表面電 TRANSDUCER TM-511G、日本光電 チマット上に長座位の姿勢で安静を 極 (Vitrode F、日本光電社製)を使用 社製)を膝の関節軸と一致するように 保った。一方SS条件では、75秒間の し、 また電極貼付箇所の同定にあたり、 装着し、屈曲時の膝関節角度を記録す うち30秒間をSSに充て、長座位での 栢森 (13)の方法を参照した。電極の装 ることとした。ゴニオメータのアー 大腿四頭筋のストレッチングを実施し 着については、筋電図導出部位をアル ムは、膝関節をまたいで大転子なら た。ストレッチングの実施時間につい コール綿で十分に拭き、各電極間の抵 びに外顆の延長線上に固定用のバン ては、柔軟性改善に対し最も効果的で 抗を5kΩ以下、間隔を2cmとした。 ドを用い取り付けられた。電気信号 あり、加えて筋パフォーマンスの低下 電気信号は、マルチテレメータシステ は、筋放電量測定と同様の経路でサン を引き起こさない (28) という点を考慮 ム (WEB-5000、日本光電社製)および プリングしデータ処理された。なお し、30秒間とした。 A/D変換カード(キッセイコムテック マルチテレメータシステムの設定は、 また、12回4セットの膝関節伸展動 社製)を介し、パーソナルコンピュー 30 Hz(HICUT)、DC(LOCUT)およ 作中における筋力および筋放電量を測 タに入力された。そしてこのデジタ び50 deg/V(SENS)とした。そして、 定した。 ルデータをVital Recorder 2(キッセ 試行前後の膝関節角度から柔軟性変化 イコムテック社製)によりファイル化 率「(Flexibility test post/pre)×100」 測定項目および分析方法 し、ハードディスクに保存した。なお を算出した。 等張性筋力およびMRP test マルチテレメータシステムの設定は、 膝伸展動作を行った器具に張力計 100Hz(HICUT)、0.03秒(LOCUT) 統計処理 および1mV/V(SENS)とした。 各項目の測定結果は平均値±標準偏 させ、等張性筋力を測定した。得られ その後、得られた筋電図信号に対し 差で示した。得られた値の中で、柔軟 た電気信号は、A/D変換カード (キッ 全波整流を施した。分析区間は、膝伸 性変化率およびMRP testの挙上回数 セ イ コ ム テ ッ ク 社 製 )を 介 し、 パ ー 展動作におけるConcentric局面とし、 における2条件間の比較には、対応 ソ ナ ル コ ン ピ ュ ー タ に 入 力 さ れ た。 ゴニオメータとの同期により、各試行 のある t 検定を実施した。また、その そ し て こ の デ ジ タ ル デ ー タ はVital 動作におけるConcentric局面の積分筋 他の測定項目の比較には、2要因の Recorder 2(キッセイコムテック社製) 電 図 (integrated electromyography: 反復測定分散分析を行い、主効果が を用いファイル化され、ハードディス iEMG) お よ びRoot Mean Square 統計的に有意であったものに関して クに保存された。波形データに対し3 (RMS)値を算出した。そして各セッ は、Bonferroniの多重比較検定を実施 点移動平均による平滑化を行い、各動 トにおける1~3回のRMS平均値(初 し た。 統 計 処 理 に はSPSS(14.0J for 作中のピークトルクを抽出した。そし 期値)および10 ~ 12回のRMS平均値 Windows、SPSS社製)を使用し、いず (LTZ-100KA、共和電業社製)を連結 12 March 2009 Volume 16 Number 2 表1 筋放電量変化率 RF (%) VL (%) * set 1 set 2 set 3 set 4 SS NS 20.1 ± 17.9 23.8 ± 25.1 28.7 ± 28.0 30.6 ± 39.5 22.8 ± 28.8 38.6 ± 35.3 2.4 ± 19.5 27.0 ± 27.3 SS NS 11.6 ± 25.1 26.6 ± 15.8 21.6 ± 26.3 37.1 ± 20.3 16.3 ± 14.8 28.1 ± 16.0 11.6 ± 21.7 26.8 ± 20.2 19.2 ± 11.8 32.9 ± 19.2 6.3 ± 12.8 25.3 ± 12.1 * VM (%) ** SS NS 30.7 ± 16.3 29.6 ± 21.3 24.0 ± 11.8 33.1 ± 19.3 *p <0.05、**p <0.01 RF:Rectus Femoris(大腿直筋)、VL:vastus lateralis(外側広筋)、VM:vastus medialis(内側広筋) (回) 12 (%) * * 140 120 10 100 8 80 6 60 4 40 2 0 20 SS 0 NS 図2 MRP test 図 2.MRP test *p <0.05 SS NS 図3 柔軟性変化率 *p <0.05 図 3.柔軟性変化率 *p<0.05 *p<0.05 れも危険率5%未満をもって有意とし は、図2に示したとおりNS条件(6.6 で有意に低値を示した(p <0.05) 。ま た。 ±1.3回)と比較して、SS条件(8.5±2.3 たVMにおいても、NS条件と比較した 回) で有意に増加した(p <0.05)。 ところ、SS条件で有意に低値を示し (p 結果 <0.01) 、加えてセットの進行に伴い 筋力変化率およびMRP test 筋放電量変化率 筋力変化率については、条件間また 表1に各筋における筋放電量変化率 12.8%)、筋放電量変化率が有意に低 はセット間には、統計的に有意な差 を示した。RFにおいては、条件間な 下した(p <0.05)。 は認められなかった (set 1 SS:3.49 らびにセット間に有意な差は認めら ±4.17 % NS:3.52±7.72 %、set 2 れなかった。一方、VLでは、NS条件 SS:4.00±3.74% NS:6.14±6.53%、 (set 1:26.6±15.8%、set 2:37.1± (set 1:30.7±16.3 %、set 4:6.3± 柔軟性 図3は試行前後の柔軟性変化率を set 3 SS:5.88± 4.20 % NS:7.02 20.3%、28.1±16.0%、26.8±20.2%) 示したものである。変化率はNS条件 ±6.25 %、set 4 SS:6.18±4.80 % と 比 較 し て、SS条 件(set 1:11.6± (113.4±16.8 %)と 比 較 し た と こ ろ、 NS:7.67±6.96%) 。 25.1%、set 2:21.6±26.3%、set 3: SS条件(100.4±7.6%)で有意に低値を 16.3±14.8 %、set 4:11.6±21.7 %) 示した(p <0.05)。 15 またMRP testの挙上回数に関して 16 C National Strength and Conditioning Association Japan 13 考察 る。一方SS条件における筋放電量変 可能性が考えられる。したがってこう 本研究では、間欠的な等張性筋力発 化率は、NS条件と異なるものであっ いった点をより明確にするためには、 揮プログラムのセット間に行うスタ た。つまりSS条件では、NS条件同様 今後の研究により代謝系等について検 ティックストレッチング (SS)が、筋 の筋出力を発揮しながら、set 1から 証する必要があると思われた。 力、筋放電量および柔軟性に及ぼす影 set 4にかけての筋放電量変化率を低 一般的に、筋が強く収縮することで、 響を検証した。そして、各セット内、 値に保っていたため、筋放電量の増大 筋長は短縮する。また、疲労により筋 つまり12回の反復中における筋力変化 を抑制していると考えられるもので は拘縮し柔軟性が低下するため、関節 率には、ストレッチングの有無による あった。 可動域の低下につながる(14) 。 これは、 有意差は認められなかった。一方、筋 5 セ ッ ト 目 に 実 施 し たMRP test 筋損傷や、筋付着部および腱の炎症と 放電量の変化率において、VLで条件 の挙上回数に関しては、SS条件で有 いった傷害を引き起こす危険性がある 間に、VMで条件間およびセット間に 意 な 増 加 が 示 さ れ た。Nelsonら(21) とされている(14)。そして、こういっ 有意な差が確認された。また、セッ は、運動に利用できる運動単位数を た関節可動域の低下は一般的に高強度 ト間に安静を保つNS条件と比較して、 運動単位のプール(the pool of motor の持続的な力発揮後に生じるが、間欠 セット間にSSを実施した場合、5セッ units)とし、最大反復回数を測定した 的な力発揮 (等速性膝伸展・屈曲動作 ト目の挙上回数において有意な増加を パフォーマンステストにおいて、パ 20回×3セット)後にも同様の現象が 示したにもかかわらず、試行前後の柔 フォーマンス低下にはこの運動単位の 確認されている(30)。また本研究でも、 軟性変化率は有意に減少し、柔軟性の プールが漸減することが考えられると NS条件で柔軟性変化率が増加したこ 維持が認められた。 している。したがって、本研究で用い とから、間欠的な力発揮に伴う関節可 本研究では、挙上の動作速度をあら たMRP testにおけるオールアウトの 動域の低下が引き起こされたと思われ かじめ規定していたため、ストレッチ 要因も、この運動に利用できる運動単 る。一方、山本(30)は間欠的な等速性 ングの有無にかかわらずset 1からset 位のプールが、漸減することが示唆さ 筋力発揮におけるセット間にSSを実 4にかけての筋力変化率は同様のもの れる。それゆえ、利用可能な運動単位 施することによって、SSが筋の柔軟 であった。したがって、各被検者にお 数が維持されていれば、より多くの挙 性低下を抑制する効果を有することを いては、2条件の試行中における筋力 上が可能であると思われる。この点 確認した。この結果から、SSの実施 発揮に相違はなかったと考えられた。 から、セット間におけるSSの実施に は筋の柔軟性を高め、筋疲労による関 通常、最大下での持続的な筋力発揮 より、MRP testの開始時点で、その 節可動域の低下を予防する効果がある 時に、発揮筋力が一定もしくは低下し 後の筋力発揮に利用可能な運動単位数 と示唆している。そして、SSによる ても、疲労のため筋放電量は増大する がNS条件に比べ維持されていたため、 柔軟性改善および関節可動域増大の要 (17,22) 。筋疲労により運動単位の一 SS条件で挙上可能な回数が増加した 因としては、腱の伸長性増加 (12) 、筋 部で筋活動の停止 (筋放電の停止) が起 と推察された。 中血液循環の増大、神経シナプスでの こり (25) 、筋張力が低下するが、筋張 本研究においては、代謝系へのSS アセチルコリン分泌増加(18) 等が挙げ 力の低下を補う (筋張力を維持する) た の影響は考慮しなかった。SSが代謝 られている。本研究においては、NS めに代償的な運動単位の動員数増加 系に及ぼす影響について、福永ら(9) 条件と比較して、SS条件で柔軟性変 や、運動単位発火頻度の変化が生じる はストレッチング後に血流量が増大し 化率が有意に低値を示した。すなわ ことにより筋放電量が増大すると考 たと報告している。また、ストレッチ ち、5セットの等張性筋力発揮後にお えられている (1,22) 。本研究において ングは運動後において活動筋への血液 いても柔軟性が維持されたと考えられ NS条件では、SS条件と比較して筋放 循環を有意に増加させることで、局所 る。この際のセット間には、柔軟性改 電量変化率が高値を示し、筋放電量の 的な筋疲労回復に有効であると推察 善に最も効果的とされている30秒間の 上昇が認められた。これは、最大下で されている(10)。本研究においても、 SSを採用した (2) 。そのため、これは の1セット12回の筋力発揮によって、 SSを実施することで上記のような効 先行研究(30)で用いられたストレッチ 筋力低下を補うための筋放電量増大が 果が生じ、MRP testにおけるストレッ ング実施時間(90秒間)と比較して短時 引き起こされた結果であると考えられ チングの有無による差異につながった 間であるにもかかわらず、間欠的な力 14 March 2009 Volume 16 Number 2 発揮後の柔軟性に対して同様の効果を 有するものであったと思われる。 現場への応用 本研究において、間欠的な等張性膝 関節伸展運動におけるセット間に、30 秒間のSSを実施することで、セット 内の筋放電量変化率が抑制された。ま たこれに伴いストレッチングを実施し なかった場合と比較して、5セット目 の挙上回数が増加するとともに、全試 行後の柔軟性も維持されるということ が示唆された。レジスタンストレーニ ングプログラムへこの知見を応用する と、SS条件における挙上回数の増加 は、トレーニング中の総仕事量増加に つながると考えられる。これはコーチ や選手が、期分けしたトレーニング計 画において、より多くのトレーニング 量獲得を目的としている場合に有効で あると思われる。またトレーニング指 導において、挙上負荷の増加方法に2 for 2ルール (11)を採用していた際に は、次セッション以降での負荷増加を 比較的容易にすることが考えられる。 さらに、SSをエクササイズ間に実施 することが、筋の拘縮を抑制させるで あろう。◆ 参考文献 1. 浅井英典 筋疲労と筋電図 . 体育の科学 . 32 : 588-591. 1982. 2. 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