エバラ時報 No.250 p.6 梅澤 幸一

〔藤沢工場 50 周年記念〕
藤沢工場ものづくり 50 年の歴史
藤沢工場は1965年に操業開始し,
今期50周年を迎えた。
し,19DA 型及び 19DF 型ターボ冷凍機の生産を開始した。
これを機に藤沢工場におけるポンプのものづくりの歴史
当時は高度成長期にあり,標準ポンプの需要は年々増
を振り返る。当時,藤沢工場は標準ポンプと標準冷凍機
加し生産も順調に伸ばしてきたが,更なる伸びに対応する
の生産工場として建設された。今回,工場建設,生産設
ため,
P1工場の増設(P14,
P15ライン)を1968 年に行った。
備(加工・組立)
,生産システム・生産性向上活動や自
冷凍機工場も生産機種増(HK 型ボイラ,YR 型ター
動化・無人化の取組について振り返ってみる。
ビン,16JA 型吸収冷凍機)と台数増加に対応するため
1970 年に工場増築(R3 ~ R5 ライン)を行っている。
1.工 場 建 設
1974 年には鋳造ライン設置のため P3 工場(P34,P35
1959 年に藤沢市から工場誘致の話があり,用地取得を
ライン)を新設し,また油圧ライン及び標準ポンプの新
決定した。この年に協力会社 9 社(中央機工,大岩機器
機種の VMS 型(立形多段渦巻ポンプ)加工・組立ライン
工業所,真田製作所,高砂運輸など)も藤沢への進出を
設置のため P2 工場(P21 ~ P23 ライン)を新設した。
決め,約 2 万 2 千坪の用地を取得しているが,当社が約
その後も機種・生産台数の拡大によって P2 工場は
17 万坪の用地を取得したのは 1962 年である。1964 年に
1978 年に,P3 工場は 1981 年に増設を行い,両工場共に
藤沢工場建設部が発足し,10 月には地鎮祭を行い,工場
現在の 5 スパンの工場となっている。
建設が開始された。翌 1965 年 5 月に事務所が完成,藤沢
また,製品倉庫として L 棟を 1971 年に建設したが,在
工場建設部は廃止され,
“藤沢工場”
(写真 1)が開設さ
庫量の増加に伴い 1982 年に P0 棟を建設した。さらに
れ初代工場長に建設部長の杉山正一氏が就任した。
1992 年には製品用の自動倉庫を導入した。
同年 7 月に P1 工場の 3 スパン(P11 ~ P13 ライン)が
2.加工設備の変遷
竣工し,ポンプの生産を順次開始し,7 月に S 型(単段遠
心渦巻ポンプ)
,11 月に LPD 型(単段インライン渦巻ポン
標準ポンプは,当初から高い生産性が求められ,大き
プ)
,
12 月に MS 型(多段渦巻ポンプ)の 1 号機が完成した。
なロット(大量生産)での加工を行うため,川崎工場生
冷凍機工場の 2 スパン(R1,R2 ライン)は 1966 年に竣工
産技術を中心に専用機を開発し,導入してきた。その後,
大量生産方式から在庫の保有数量を見直す流れのなか,
ロットが小さくなり段取替えの頻度が多くなる(多品種
社宅
M2工場
少量生産)につれ NC(数値制御)専用機や多種の製品
独身寮
が生産可能な NC 汎用機に置き換わっていった。
滑走路跡
2-1 川崎工場時代
P1工場
事務所
標準ポンプは,藤沢工場開設前まで川崎工場で生産さ
れ,当然ながら汎用機械で加工が行われていた。1958 年
冷凍機工場
頃から特殊専用機による加工の計画を進め,1961 年頃に
は MS 型ポンプなどの加工に専用機が導入されて生産性
が飛躍的に向上した。これらの専用機は 1965 年の秋に完
16-03 01/250
写真 1 1966 年頃の藤沢工場
成した藤沢工場に移設されている。
専用機導入に当たっては粗引き加工なしで,直接仕上
6
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エバラ時報 No. 250(2016-1)
藤沢工場ものづくり 50 年の歴史
げ加工を行うため,削り代を少なく(3 mm 程度)均一
クスマシンと呼ばれていた設備であり,90 度ごとに割出
にすること,型のズレも最少(0.5 mm 以内)に抑えるな
するターンテーブル上に取付具を 4 セット配置し,加工
ど,素材(鋳造品)に対して品質向上を図るため,外注
機械に引き込んで複数工程(中ぐり,面削り,穴あけ,
鋳物工場の指導も行ってきている。この思想は現在でも
ねじ切り)を一回のワークの取付けで加工できる優れた
不変である。
設備であった。
2-2 工場開設から KF 統合前まで
また,ジグへの取付けが容易にできるように S 型ポン
藤沢工場の生産ラインは,開設時から 1983 年頃まで機
プの胴体には“耳”を取り付けた(写真 3)
。図 1 に主要
械加工,中間ストック,組立,試験,塗装,梱包の一貫
な構成部分である胴体・吸込カバー・軸受胴体の完成ま
生産ラインであった。
での生産ラインを示す。これらの専用機は,川崎工場の
P1 工場建屋竣工後に,S 型ポンプの生産ライン(P11)
生産技術で開発したものである。なお,機械職場には,
から整備していった。この S 型ポンプの加工専用機(写
ローラコンベヤが設置され,部品を BOX パレットによっ
真 2)は,
MS 型ポンプの加工専用機より進化したインデッ
ギャングヘッド
(タップ)
ブッシュプレート
ギャングヘッド
(ドリル)
機械への取付を容易にするために“耳”を追加
16-03 02/250
16-03 03/250
写真 2 S 型専用機の例(SD11)
写真 3 S 型胴体
屋外切粉処理装置
4
3
SD11機
胴体加工 第3工程
SB11機
胴体加工 第1工程
通路
写真2
E
モノレールクレーン
E
E
H H H
チップコンベヤ
H H H
☆
H H H
E
☆
軸受胴体
☆
E H
E
E
E
E
H EH H
H
治具棚
☆
SBD12機
軸受胴体加工 第2工程
胴体
治具棚 治具棚
治具棚
☆
SBM11機
胴体加工 第2工程
軸受胴体加工 第1工程
E
H
H
吸込カバー
☆
吸込カバー
SBD11,13機
吸込カバー加工 全工程
注)ポンプ加工専用機の呼称
記号 S :専用機
記号 B :構成の中にボーリング(フェーシング機能付き含む)ユニットがある
記号 M :構成の中にフライス(ミーリング)ユニットがある
記号 D :構成の中にドリル,タップユニットがある
数字 2桁又は3桁の数字は生産ラインのライン番号と連番(下1桁)
図 1 S 型専用機ライン
7
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エバラ時報 No. 250(2016-1)
藤沢工場ものづくり 50 年の歴史
キー溝加工用
ブローチ盤
完成品
当社製
ハンドリングロボット
FC羽根車
旋削第2工程
FC羽根車
旋削第1工程
RCV
PB31
LA32
CLA32
CLA31
LA31
写真4
完成品
SH36
PB32
SH34
素材
SH35
SH33
素材
チップコンベヤ
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キー溝加工用
ブローチ盤
当社製
ハンドリングロボット
BC羽根車
旋削第2工程
BC羽根車
旋削第1工程
ローダ・アンローダ
図 2 P13 羽根車ライン
写真 4 P13 羽根車ライン
て搬送していた。
SQPB型自吸式ポンプの生産ラインとして,
P15ライン(図3)
この年の秋には,川崎工場から MS 型ポンプ部品の加
にこれまでの専用機よりも生産性の高い胴体加工用と軸
工設備が,P12 ラインに移設された。藤沢工場の P12 機
受胴体加工用のトランスファマシン(写真 5)を導入した。
械ラインでは,P11 ラインと同様に各設備間をローラコン
この設備は,サイクルタイムを短くするために工程分割
ベヤでつなぎ,搬送待ちのロスを防止していた。また,
を行い,ステーション数を多くしている。本設備におけ
生産台数の増加に対応するため 1966 年から 1968 年にか
るサイクルタイムは,胴体・軸受胴体共に約 2 分であり,
けて加工設備を増設している。
従来の専用機によるサイクルタイム約 3 分から比べると
P13 ラインの加工設備は,1967 年から設置が開始され,
1.5 倍生産性が向上した。ただし,欠点は,段取時間がか
ラインの中央から東側に LPD 型のケーシングとブラケッ
かる(1 台当たり 1 日~ 1 日半)ため,加工ロット数が少
トの加工専用機群,西側に羽根車の加工ラインが設置さ
なくなった 1980 年代前半で機種数の多い胴体加工用の設
れた(写真 4,図 2)
。羽根車の加工は 2 ライン設置され,
備は姿を消した。
ねずみ鋳鉄(FC)材と青銅鋳物(BC)材のそれぞれ材
1974 年には,P2 工場の第一期工事が竣工し,P21 ライン
料ごとの専用ラインとした。特筆すべきは,この羽根車
に VMS 型立形多段渦巻ポンプと BMS 型水中ポンプ部品
専用ラインでは 1973 年頃から自動化・無人化に取り組ん
の加工設備が導入された。このラインの特徴は,旋削用
でいたことである。素材ストッカをもち,ローダ・アン
に数値制御の汎用工作機械を初めて導入したことであ
ローダによって旋削機械へ取付け・取外しを行い,また,
る。穴あけ加工に関しては,従来どおり川崎工場の生産
当社の中央研究所で開発された円筒座標系油圧サーボロ
技術で設計した多方向多軸穴あけ専用機を採用した。
ボットによって,ブローチ盤へのワークの取付け・取外
1978 年の FS 型遠心渦巻ポンプの発売に向けて,P1 工
しを行っていたことである。
場内では生産のための現有設備の治工具類の整備を進め
1968 年に S 型 ポンプ の中 で 生 産 台 数 の 多 い 機 種と,
ていたが,量産設備導入のプロジェクトもほぼ同時期に
SBD52機
胴体加工 第2工程
SBD51機
胴体加工 第1工程
S型胴体
☆
H
SBD52
H H H H H H
EE E E E
治具棚
H
☆
治具棚
治具棚
E
E E E E
E
E
SBD51
H H H H H
SBD53
E
☆
E
☆
SDM51
E
16-03 05/250
S型軸受胴体
☆
H
棚
写真5
E
通路
SBD53機
軸受胴体加工 第2工程
PM51
H
MV51
棚
SDM51機
軸受胴体加工 第1工程
屋外切粉処理装置
図 3 P15 機械ライン
写真 5 P15 トランスファマシン(SBD53)
8
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エバラ時報 No. 250(2016-1)
藤沢工場ものづくり 50 年の歴史
始動し,1982 年に P2 工場増築部(P24,P25 ライン)に
い,ライナリングも自動圧入機で挿入し,穴あけ・タッ
FS 型ポンプ加工・組立の一貫生産ラインが導入された。
プ加工にはマシニングセンタを採用した。サイクルタイ
ケーシング加工には,NC トランスファマシン(SBD101,
ムは約 8 分で 4 時間の無人加工が可能であった。
2-3 KF 統合後の機械加工設備
SBD102)を導入した(写真 6)
。将来の多品種少量生産
を見据え,生産性(切粉率)を上げるために内段取時間
KF 統合に向けての藤沢工場再構築が行われ,P1 工場
30 分以内を目標とし,内段取時間を削減するため,加工
及び P2 工場内の P21 ラインに設置されていた加工設備は
中に外段取で次加工機種の取付具,ツーリングを準備し
老朽化もあり,全て撤去・廃却(一部は協力会社に貸与・
ておき,自動で一斉交換することでこの目標を達成して
売却)
された。統合後の P1 工場は標準ポンプの組立工場,
いる。
P2 工場は機械工場,P3 工場はカスタムポンプの組立工
加工のサイクルタイムは 1.5 分で,工程には切粉除去
場の位置付けとなった。
や加工寸法の自動計測・自動補正も含まれている。段取
P1 工場で加工していた S 型は,その加工を協力会社に
ステーションでは,ワークのクランプ,アンクランプも
移管し,MS 型の吸込・吐出し胴体の加工は P2 工場に新
自動化した。1983 年には LPD 型ポンプのケーシング加
規導入した FM セル(Flexible Manufacturing Cell)で
工も取り込み,夜勤(B 交替)で対応した。
加工することとした。この FM セルは,NC ターニング,
ケーシングカバーの加工には,ロボットを利用した無
横型・立型のマシンニングセンタの計 3 台の工作機械と
人加工システムを 2 システム(AMS101,AMS102)導
中央のインデックステーブルで構成されていた。イン
入した(写真 7)
。各々に 30 個の素材フィーダと完成品
デックステーブルには,第 1 工程と第 2 工程のジグが各々
フィーダをもち,旋削加工後に自動寸法計測・補正を行
2 セットあり,ワークは 2 回転して加工完成となる。加工
設備に汎用 NC 機を採用したため,他機種の加工も容易
に行える設備となった。
KF 統合では,川崎工場から移設する機械設備のほか
に新規設備も導入しているが,中でも写真 8 の小型ワー
ク FMS(Flexible Manufacturing System)が当時流行
した特徴的な設備となっている。
これは,APC(Auto Pallet Changer)付きの小型ター
ニングセンタ 4 台と,
段取ステーション,
立体自動倉庫(棚
数 81)で構成され,
ワークの取付けが完了したジグパレッ
トを立体倉庫に一旦格納し,そこから加工が完了して空
いている機械に自動で投入して加工を行い,加工完了後
に再び立体倉庫に戻すものである。作業者は,この加工
16-03 06/250
写真 6 NC トランスファマシン(SBD101,102)
完了したジグパレットを段取ステーションに呼び出し,
完成済みのワークを取り外して新しい素材を取り付けて
16-03 07/250
写真 7 無人加工ライン(AMS101,102)
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写真 8 小型ワーク FMS
9
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エバラ時報 No. 250(2016-1)
藤沢工場ものづくり 50 年の歴史
格納する。人による作業は日中だけだが,機械は 24 時間
ブレード供給装置
ブレード搬送ロボット
加工できる。加工機種数が多く,機械の NC 装置に全て
完成品搬送ロボット
のプログラムを記憶できないため,事務所に置いたサー
溶接機
バから高速の光通信でプログラムをブロック単位で機械
に 送 り な が ら 加 工 す る, 当 時 最 先 端 の DNC(Direct
同芯度検査機
NC)システムを採用していた。
P2 工場の機械加工設備は,1992 年に導入した三井精
機工業㈱製のマシニングセンタを最後にしばらく新規導
写真9
入設備がなかった。近年,設備全般に老朽化が進んでき
ブレード挿入装置
ワークの流れ
側板
画像処理
たため,2011 年から毎年新しい設備が導入されている。
2-4 プレス加工設備
側板マガジン
1973 年 5 月,当時の畠山専務が量産ポンプの将来を見
主板マガジン
搬送ロボット
図 4 羽根車自動溶接機“PC2/3”レイアウトとワークの流れ
据え,プレス製品・技術の基盤作りを提唱し,社長直轄
の全社的な加工開発プロジェクトが発足した。当時の試
作・開発は,P3 工場で行っていた。
プロジェクトは,設計開発,生産技術,業務,現業系
で構成され,製品開発~試作~生産までを独立して一貫
で行う体制であり,迅速な業務遂行を可能としていた。
翌年から 200 トン油圧プレスやプロジェクション溶接
機等の汎用設備を導入し,25LPD 型の羽根車の量産化を
開始した。当時,ブレードの抜き型製作では精度の良い
ワイヤ放電加工機がなく,川崎工場の治工具班が手仕上
げで製作していた。また,羽根車のプロジェクション溶
接は,前例や技術情報が少なく,技術確立までに多くの
トライアンドエラーを要した。
16-03 09/250
1976 年には,水中ポンプのポントスシリーズ P717 型
写真 9 羽根車自動溶接機“PC2/3”
を生産,販売開始した。主要部品は全て社内で試作から
量産までを行った製品である。
羽 根 車 に 関 し て は,S 型,MS 型,LPD 型,FSD 型,
の水平多間接型ロボット(三協精機製作所製スキラム)
SCD 型を順次量産化していった。1979 年に生産量の増加
など,当時の最先端技術を採用していた。
に伴い,生産性向上を目的としてプレス加工や溶接工程
1982 年に LPS 型インラインポンプのケーシングの溶接
の自動化に挑戦し,羽根車側板のプレス,スピニング加
設備“LPS ライン”
(図 5,写真 10)及び羽根車主板,
工の自動ライン“BS ライン”が稼動した。
側板を対象とした自動プレスライン“ABC200”を導入
1980 年には MS 型羽根車自動溶接設備“PC3”が完成
するなど次々に自動化設備を増強した。
した(図 4,写真 9)
。荏原初の自社製自動溶接・組立設
1986 年の KF 統合以降も P2 工場で生産性向上のための
備であり,細長いフィーダで羽根車を搬送し,末端で反
設備増強を行っていった。この時期,プレス職場は 2 シ
転させる様子から“コマネチ”の愛称で活躍した。この
フト体制でフル生産の状況で,自動機は,昼休みや 2 シ
設備は,夜間無人化にも挑戦し,生産技術スタッフが 24
フト終了後も無人運転を行っていた。1988 年に,200 トン
時間体制で 1 週間の間,交代で運転・監視し,停止原因
プレスにコイル供給装置(アンコイラ/レベラーフィー
の根本解決を行った。1981 年に生産増に対応し,PC3 と
ダ)を増強し,数量の多い部品は順送り型化し,飛躍的
同一機を増設し,LPD 型,FSD 型の羽根車の生産を開始
に生産性を向上させた(手動で多工程をプレス加工する
場合と比較して生産性は 20 ~ 40 倍)
。
(名称“PC2”
)した。
同年に設置した BHS 型深井戸水中ポンプの羽根車自動
1989年に600トン油圧プレスを導入した(図6,写真11)
。
溶接設備“PC1”は,FS 自動組立ラインと同じく日本初
多工程の絞り加工等が必要なケーシング類の搬送をロボッ
10
─ ─
エバラ時報 No. 250(2016-1)
藤沢工場ものづくり 50 年の歴史
LY部
写真10,
a
加工設備
内ケーシング
自動溶接設備
45KVA 85KVA
溶接機 溶接機
トで行い,最大 5 工程を自動で生産可能な設備とした(生
360KVA
溶接機
ボルト
溶接機
産性6 ~ 8倍)
。BHS 型,MDP 型 多 段 プレ ス製 ポンプ,
BMSP型水中ポンプの中間ケーシングやLPS 型のケーシン
グ等の生産を行っていた。
1989 年に主板+リテーナの自動溶接機“PC0”や BHS
型の羽根車,中間ケーシング自動溶接機“PC1N”
(PC1
ノズル
溶接機
ワークの流れ
画像処理技術を組み合わせ,複雑なジグがなくてもワー
写真
10,
b
気密
試験機
の更新機)を導入した。これらの自動機は,ロボットに
クのハンドリングを正確に行えるなど,当時の最新技術
外ケーシング
自動溶接設備
を採用した設備であった。
プレス職場は十数名の人員で,自動機の多台持ちや無
図 5 LPS ラインとワークの流れ
人運転によって,羽根車やケーシング等のプレス部品を
年間 40 万個以上の生産を行っていた。生産管理はトヨタ
生産方式と同様の思想で行っていた。
アイ
1987 年にイタリアプロジェクト(Iプロジェクト)が
発足し,1995 年から 2 年間で藤沢工場のプレス設備の移
設と技術指導を実施し,プレス加工部品のイタリア工場
への集約が完了し,藤沢工場でのプレス生産は 1996 年に
終了した。
(a)
藤沢から移設した,汎用・自動設備は現地スタッフの
(b)
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写真 10 LPS ライン
メンテナンスや改良・改善によって,現在も順調に稼動
し生産に寄与している。
3.組立ラインの変遷
ロボット4
搬出装置
ワークの流れ
600 tプレス
3-1 工場開設から TP システム稼働前
金型搬送装置
1983 年に TP 生産システムが稼働する以前の在庫形態
ロボット3
写真11,
a
は,製品在庫だけで,工場開設後しばらくの間は,営業
ロボット2
からの年間の売上目標に基づいて月割りにした生産計画
を立て,月 1 回のロット生産(5 ~ 300 台/ 1 ロット)を
行っていた。この生産計画に従い,部品台帳を基に使用
材料供給装置
b
ロボット1 写真11,
部品展開を手計算で行い,1 箇月分の機械加工を含めた
工程を作成して生産を行っていた。LPD 型は,生産台数
金型ラック
図 6 600 トン自動油圧プレスのレイアウトとワークの流れ
が増加するにつれ月 2 回に分けて生産するようになった。
現在では,組立前の準備作業は不要な状態で部品を購
入・在庫しているが,当時は準備工程から組立が開始さ
れていた。羽根車は,まず加工で発生したバリ取りを行
い,バランス測定・修正を行って組立メインラインに投
入され,ケーシング類の耐圧部品は水圧準備工程でバル
ブやプラグを取り付け,水圧試験完了後に組立を行って
(b)
プレス3工程
いた。
組立ラインにはコンベヤが敷設され,クレーンを極力
使用せずに流れるラインであった。MS 型多段ポンプの
(a)
16-03 11/250
写真 11 600 トン自動油圧プレス
組立(写真 12)は定盤上で行い,組立完成後は定盤から
スロープで試験場に送っていた。当時から標準ポンプの
11
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エバラ時報 No. 250(2016-1)
藤沢工場ものづくり 50 年の歴史
P3 工場では,1974 年に P35 ラインに川崎工場で生産し
ていた BC 羽根車の量産鋳物工場が,P34 ラインには冷
凍機の成型ラインが新設され,P3 工場は素形材工場の位
置付けとなっていった。
3-2 TP 生産システム稼働後,KF 統合前
多くの製品在庫をもって販売するビジネスモデルから,
製品在庫を少なくして部品で在庫をもち,売れた分だけ
作る,受注したポンプを短納期(受注後 3 日で出荷)で
生産するシステムを構築するため,1981 年に TP プロジェ
クトが発足し,1983 年に TP 生産システムが稼働した。
16-03 12/250
写真 12 MS 型ポンプの組立
ちなみに“TP”とは,
“天ぷら”の意味で,
天ぷら屋さん
は材料は仕込んでいるが,お客さんの注文があってから
揚げて,熱々の新鮮なものを提供する。ポンプも製品在
庫削減だけでなく,同じように作りたての製品をお客様
に届けるという発想でもあった。製品在庫補充も当初は
最低 5 台ロットであったが,現在は売れた分だけ(1 台
売れれば 1 台生産)補充するようになっている。
TP 生産システムの稼働と時を同じくして,川崎工場
の藤沢工場への統合計画(KF 計画)がスタートした。
藤沢工場では統合するための大掛かりなライン再構築が
行われた。P1 工場については,南側の専用機群を解体・
撤去,あるいは P2 工場に移設し,組立ライン全体を一
新して南側に移動させ,新設する部品の自動倉庫からの
アクセスを容易にした。組立ラインは,小ロット化に対
応できる設備を導入した。P1 工場の南側に新設された自
動倉庫は,オンラインで生産管理のコンピュータと結び,
16-03 13/250
写真 13 MS 型ポンプの性能試験
組立で使用するポンプ部品の出庫データを前日夜に受け
取り,出庫計画を立てて翌日朝から組立順に取りまとめ
て出庫する仕組みとした。
性能試験(写真 13)は抜き取りで行われていたが,直結
組立ラインでは,ベースの穴あけ・タップ加工を,そ
前の裸ポンプで行っていたため,試験用のモータで行わ
れまでポンチングジグを使用してボール盤で行っていた
れていた。
ため,ラインに多量のポンチングジグがあり,探すのに
特殊仕様(B グループ)品の対応は,1968 年頃から開
も一苦労していた。そこで,小ロット化に対応するため,
始され,それまでは裸ポンプを川崎工場に送付して対応
マシニングセンタを導入し,加工ジグを全ての機種に対
していた。
応できる段取レス構造とした。
P2 工場では,1974 年に P21 ラインに VMS 型,BMS 型
P2 工場は,機械加工工場とするため,組立ラインの全
の加工・組立ラインが,P23 ラインには川崎工場から油圧
てを撤去し,
組立設備の一部を P1 工場へ移設した。また,
モータの加工・組立ラインが移設・設置され,その後 P22
P2 工場で生産していたユニットや P1 工場へ生産移管で
ラインに給水ポンプ・消火ポンプユニット(M&E を含む)
きない機種は,協力会社へ生産委託した。P2 工場の P23
の組立ラインが設置された。油圧ラインは,1981 年 12 月
ラインでは,㈱荏原電産が水中ポンプのモータを生産し
まで生産を行った。1982 年には,P25 ラインに FS 型ポン
ていたが,冷凍機工場の R1,R2 ラインに移設した。
プの加工・組立ラインが新設され,組立ラインの一部の
P3 工場をカスタムポンプの組立ラインとするため,生
工程にロボットを使用した自動組立ラインや塗装ロボッ
産設備を全て撤去・移設した。P35 ラインの鋳物工場も
トを導入した(詳細後述)
。
1985 年 7 月に生産終業し,12 月に設備撤去が完了した。
12
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エバラ時報 No. 250(2016-1)
藤沢工場ものづくり 50 年の歴史
カスタムポンプの生産システムは,川崎工場で作成さ
化することで,リリーフも可能なラインとなっている。
れた EP 生産システムを,統合時藤沢へ移管し,現在も
(2)P11 小型単段ポンプ組立ライン(1993 年)
使用している。組立ラインのレイアウトも統合時とほぼ
自動倉庫の出庫口でケーシングとカバーを配膳した組
同じく,P32 ラインで産業ポンプ,P33 ラインで立型ポン
立用のパレットが,地下を通り組立ラインの先頭に供給
プ,P34 ラインで横型ポンプ,P35 ラインで大型ポンプ
され,そのままコンベヤ上を移動しながらポンプを組み
の組立・試験を行っている。
立てていく設備とした。
カスタムポンプの組立を行うP3 工場は,クレーンの容
(3)ベース加工セル(1994 年)
量が大幅に不足するため,統合に当たって主柱改造を含
P11,P12 ラインではベースの穴あけ加工は,多軸ボー
めた大掛かりな建屋の補強工事を行った。補強前の最大 5
ル盤 1 台,マシニングセンタ 4 台で作業者 2 名が行ってい
トンだったクレーン容量が,補強後には 20トンになった。
たが,本システム導入後はマシニングセンタ 4 台と作業
川崎工場の藤沢への移転に伴い,P1 工場と同様に部品用
者 1 名で運用可能となった。また,グラインダによるポン
の自動倉庫を新設し,保管容量確保と倉庫作業の効率化
プ・モータ座面のペンキ落としも機械化(マシニングセン
を図っている。
タによるワイヤブラシ加工)した。
(4)直結セル(1994 年)
3-3 生産性向上の歴史
生産性向上に取り組んできた歴史を振り返ってみる。
直結ステーションでは,3 台の芯出し装置を直列に配
置したが,それぞれがトラバーサ機構を有しているため,
3-3-1 P1-95 プロジェクト活動
KF 統合後も標準ポンプの生産台数は順調に増加し,
追い越しが可能な設備となっている。
1992 年には約 53 万台となった。P1 工場の生産能力増強
(5)試験セル(1994 年)
(60 万台の生産可能なラインの構築)
,体質改善を目標に,
作業者は,吸込,吐出し配管と電源の接続さえ行えば,
外部のコンサルタントを迎え,
“P1-95 プロジェクト”と
呼び水,ポンプ起動,バルブ操作・計測・合否判定まで
して工場長以下,生産部・生産技術を主体に 1994 年まで
が自動で行える設備となっている。
活動した。活動による導入設備(図 7)とその特徴は次
(6)塗装梱包セル(1994 年)
のとおりである。
塗装には,ロボットを導入したが,人による補修塗装が
(1)P12 多段ポンプ組立ライン(1992 年)
多く,残念ながら期待された効果は得られなかった。梱
MS 多段ポンプは,それまで定盤で組立を行っていた
包場は,カートン梱包,腰下付カートン梱包,木枠梱包の
が,パレットに調整可能な定盤を組み込み,流し生産を
3 種類の梱包形態が効率よく流れるレイアウトとした。
行った。工程分析を行い,各ステーションの作業を平準
大型単段ポンプ
組立ライン
多段ポンプ
組立ライン
ベース加工セル
塗装セル
梱包セル
部品用自動倉庫
AGVによる
部品供給
小型単段ポンプ
組立ライン
空中搬送
小型単段ポンプ用
空中搬送
大型単段ポンプ用
直結セル
試験セル
図 7 P1-95 活動による導入設備
13
─ ─
エバラ時報 No. 250(2016-1)
藤沢工場ものづくり 50 年の歴史
などの活動を行ってきた。
(7)大型単段ポンプ組立ライン(1994 年)
P14 ラインで裸ポンプから組んでいた大型ポンプの中
3-3-4 IT の導入
で,重量・サイズ的に試験セル以降の設備に流すことが
2010年から5年間でRFID
(Radio Frequency Identification)
可能な機種の組立ラインとして設置した。
を利用した生産管理システムを P1 工場の全組立ラインに
(8)空中搬送ポンプ移送システム(1994 年,1995 年)
導入し,品質の維持・向上,平準化生産,組立指示のペー
完成したポンプ単体をベースに載せる際に,つり上げ・
パレス化,工程のリアルタイム進捗把握など生産性向上
搬送・つり降ろし作業の自動化を図るため,小型用と大
に活躍している(図 8)
。
型用の 2 システムを導入した。
4.組立の自動化・無人化の取組
(9)AGV を利用した部品供給システム(1994 年)
4-1 FS 型ポンプ自動組立ライン
ポンプ工場で初めて AGV(無人搬送車)を導入し,
自動倉庫の出庫口から部品を組立ラインに運搬した。
1982年にFS型ポンプの量産ラインがP2工場第5ライン
に新設され,この時から自動組立の取組が始まっている。
3-3-2 N 研活動
1998 年には,中産連(社団法人中部産業連盟)の“N
FS 型ポンプ用自動組立ライン(写真 14)では,ライン
研(トヨタ自動車㈱出身のコンサルタントの指導)
”に
の先頭にケーシングカバーの水圧試験機があり,作業者
参加した。
は水圧試験完了後に自動組立コンベヤ上のジグパレット
活動の目的は,
“トヨタ生産方式(改善の考え方と実践)
にセットして自動組立がスタートする。組立工程は,ま
を学ぶに当たり,自社内だけではなかなかできないこと
ず第 1 工程で封水リングを,第 2 工程でグランドパッキン
も,他社の人が参加することによって,改善を推進し,
を挿入し,第 3 工程のロボットでスタッドボルト植え込
何でもすぐやり,すぐ結果を出すことによって改善の意
み,第 4 工程のロボットでパッキン押えを取り付けた後
欲向上,みんなのレベル UP を図る”である。当社及び,
にナットの取り付けを行った。また,軸受フレームの自
日本精工㈱,トキコ㈱=当時=,住友電装㈱の各企業が
動組立にも挑戦した。使用したロボットは日本で初めて
参加した。藤沢工場では,P1 工場の P11,P17 をモデル
ラインとして 2 年間活動を行い,ライン改善を行った。
3-3-3 EJ21(EBARA JIT 21 世紀)プロジェクト活動
各作業工程のRFIDシステム
作業者ID
ICタグ
ICタグ
JIT(Just In Time)生産方式の浸透を図ることを目
的に,1999 年に当時の島川工場長を委員長に,調達,生
産技術,生産,情通のメンバーで,N研と同じコンサル
作業者の登録
(1日1回)
タントの指導の下,主として P1 工場の P11,P17 ライン
を対象に 2 年間の活動を行った。その後は実行部隊で継
続して活動を行ってきている。具体的には下記の目標を
工程一覧 表示
(待機画面)
作業開始時
ICタグSet
作業画面表示
作業終了後
ICタグ外す
作業時間記録
グ
ICタ
ICタ
グ
前工程より
立てて活動し,ほぼ目標を達成した。
次工程へ
ポンプ1台に1枚
ICタグを添付
画面を参照して作業
ICタグを再び添付
図 8 RFID システム
・製品在庫半減以下
24 時間以内のリードタイムで出荷する
・部品在庫削減
在庫回転率 29%UP:24.4 回転→ 31.5 回転
在庫金額:23% 減
お店化,かんばん化の推進
・平準化生産の実施
1 個流し,Ag・Bg 混流生産,負荷の平準化
・生産性向上(P17 ライン)
ST 削減:120 分/台→ 80 分/台
EJ21 活動の水平展開として,P14 ラインの動線短縮の
ためのレイアウト変更,PNE の組立ラインではセル設置・
うさぎ追い方式トライ・多能工化・リリーフの仕組構築
14
─ ─
16-03 14/250
写真 14 FS 自動組立ライン
エバラ時報 No. 250(2016-1)
藤沢工場ものづくり 50 年の歴史
Compliance Assembly Robot Arm」の略で,水平方向
に動作するロボットであり,1980 年代から組立作業に多
く使用されている。
4-2 フレッシャー自動組立ライン
1990 年頃から将来の汎用ポンプ組立の無人化,省人化
の布石として,また技術の蓄積を目的に給水ユニット
(F1000 シリーズ)のロボット組立ライン計画がスタート
した(写真 15)
。ロボットによる組立で最も難しいのは
位置決めであった。この対応には,プレスラインで経験
16-03 15/250
写真 15 フレッシャー自動組立ライン
RB1
RB2
工程
測定して位置を補正した。また,2 台のロボットによる
②
刻印が完了したベースをコンベヤ上のパレット
に載せる
③
制御盤をジグにセット
⑤
制御盤と架台を固定(ナット締め付け)
④
RB4
⑦
RB6
RB7
RB8
が,全工程のロボット組立が可能になり,6 月 26 日の天
ベースを銘板レーザマーカ機に載せる
RB3
RB5
共同作業も行った。1991 年 6 月には試運転レベルである
作業内容
①
⑥
リングした際にボルト穴を画像処理し,またロボットに
取り付けたカメラで取り付ける相手側のねじ穴の位置を
表 ロボットの作業内容
ロボット
した画像処理技術で解決した。ロボットで部品をハンド
皇陛下行幸の際にこのラインをご視察いただいた。ロ
ボットは 8 台使用し,各ロボットの作業内容は表のとお
りである。なお,複数工程の作業を行うため,ハンドの
自動交換機能を有している。
【架台+制御盤】をベースに載せる
1992 年にはライン全てが完了し,数年間稼働していた
架台をハンドリングし,制御盤にセット
【架台+制御盤】をベースに固定(ボルト締め)
が,部品の改変でロボット作業が困難に,また故障が多
⑨
ポンプをベースに固定(ボルト締め)
くなるなどして,2003 年には全ての工程が人手による作
⑩
ポンプ吐出しフランジの上にパッキンを載せる
⑧
ポンプをハンドリングし,ベースを載せる
業に取って代わった。
⑪
圧力タンクを圧力調整装置にセット
⑫
ヘッダを圧力タンクにセット
5.お わ り に
⑭
【ヘッダ+圧力タンク】をユニットに載せる
本稿では藤沢工場操業 50 周年に当たり,標準ポンプを
⑬
圧力タンクとヘッダを固定(ボルト締め)
主体に,ものづくりの歴史を振り返ってみた。過去のエ
バラ時報 No.75(1970 年)
「藤沢工場の生産態勢について」
製品化されたスカラ型(水平多関節)ロボットで,メー
などや荏原だよりも参考にしたが,残されていた僅かな
カは複数社あったがプレスと同様に当時の㈱三協精機製
資料を基に,筆者を含め関係者の記憶や OB へのヒヤリン
作所製“スキラム”の発売を待って購入した。
グを行って紹介しているため,記憶違いや間違いなどが
スカラ型ロボットのスカラ(SCARA)とは「Selective
あれば,ご容赦いただきたい。
15
─ ─
[梅澤 幸一]
エバラ時報 No. 250(2016-1)