﹁図書館 奉仕 ﹂ vs.﹁サ ー ビ ス 経 済 ﹂

心であった国々でも、市民生活において
料保存機能を重視し学術専門書提供が中
かったのかについてはいろいろ議論があ
なぜ貸出し中心の狭い発展しか示せな
総 合 的 な 発 展 を 示 す べ き で あ っ た の に、
図書館は地域の文化機関としてもっと
が大きな問題とされる。
職制度をつくることができなかったこと
利用しやすい図書館サービスの構築の方
イタリアやドイツのように、かつて資
り仲介者である。
向に向かっている。世界的な景気後退の
るところである。ここでは日本では、図
﹁図書館奉仕﹂﹁サービス経済﹂
なかでも、このような公共セクターに属
のではないかとの仮説を立ててみよう。
書館でやるべきことを自ら制限してきた
彰
根本
タによるマルチメディア編集を可能にし
引き寄せることで都市を活性化させるだ
するサービス施設はたくさんの利用者を
二十世紀後半の日本の図書館のモデルは
ラ ン ド の 図 書 館 を 訪 れ る 機 会 を も っ た。
提供していることである。インターネッ
ト上で流れるフローの知へのアクセスを
ネット端末が自由に使えることで、ネッ
知の提供の場であると同時に、インター
から分かるように、図書館は文化の生産
貸与権︵公貸権︶が導入されていること
たしている。また、これらの国々に公共
の消費財購入を公共的に支える役割も果
けでなく、冷え込みがちな文化セクター
となく、無私の労働を行うという意味が
葉で、そこから報酬や見返りを求めるこ
入っているように宗教的な起源をもつ言
れている。奉仕は﹁奉る﹂という漢字が
す る サ ー ビ ス は﹁ 図 書 館 奉 仕 ﹂と 表 現 さ
書 館 法︵ 1 9 4 8︶で も、図 書 館 が 提 供
図 書 館 法︵ 1 9 5 0︶で も 国 立 国 会 図
第三に、図書館がパッケージ化された
東京大学
たりということも含まれる。
英米にあるとされ、これまでそれらの国
ト端末を館内に多数並べることも普通に
者である著作者に対する公的な助成制度
月にニュージー
の図書館を見ることが多かったが、ある
の担当機関になっている。
そして、最後に、カウンター越しに提
日本の図書館サービスは、国民一人あ
伴 っ て い る。 お そ ら く、
﹁奉仕﹂は﹁サー
で無償労働を行うというニュアンスを
されそうもないこと、また、図書館員の
書館未設置町村が残っておりすぐに解消
んどいない。これは量的に言えばまだ図
世界レベルに達しているという人はほと
達している。だが、日本の公共図書館が
の主要国と比較しても遜色ないレベルに
措置を伴うような活動の展開を自ら制限
あるいは、それを口実にして新たな予算
ることを妨げてきたのではないだろうか。
導き、サービスをダイナミックに展開す
たものを提供すればよいとする考え方を
︶﹂ で あ る と し た 戦 後 の 考 え 方
servant
と対応している。だが、それが要求され
う理解は、
公務員は国民の﹁公僕︵
図書館法の翌年にできた博物館法
public
専門職的な地位が確立されていないこと、
してきたのではないだろうか。
どの点からくるものだろう。とくに司書
図書館サービスの幅が狭く図書を中心と
図書館が﹁奉仕﹂を行う場であるとい
和感がなかったのであろう。
ビ ス ﹂の 訳 語 で あ り、英 語 の
に
service
も宗教的な意味があるから最初はそう違
た り の 年 間 貸 出 資 料 点 数︵ 2 0 0 8 年
書館の活動には図書館職員が奉仕の精神
ティア﹂の言い換えである。こうして図
出てくる。奉仕活動といったら﹁ボラン
なっている。︵写真1︶
供される専門的な人的サービスがあるこ
る と の 確 信 を も つ よ う に な っ た。 以 来、
世界各国の図書館の発展パターンを確認
とは以前と変わりがない。図書館員はこ
うした多様化したサービスの企画者であ
し、日本の図書館のありようを考えてみ
これらの国々の最近の図書館に共通し
たいと思っている。
た特徴としては、第一に都市空間として
・ 点︶のような量的側面だけをみれ
ばすでにアメリカ︵2007年 ・ 点︶
、
4
点︶やドイ
7
のアクセス性を向上させ、建物・内装を
イギリス︵2007年 ・
0
ツ︵2008年 ・ 点︶といった欧米
5
5
オープン化し、ユニバーサルデザインを
1
した資料提供にとどまっていること、な
4
採用するなど利用しやすさと建築に配慮
するなどの﹁場所としての図書館﹂を強
く意識している。これはデジタル図書館
に対するアンチテーゼとも言える。
第二に、活字メディアが中心であるこ
とには変わりないが、同時に音楽や映像
などのマルチメディア化を指向している
ことが挙げられる。単にCDやDVDを
提供しているというのではなく、芸術文
化活動への幅広い対応ということである。
楽譜や演劇台本を提供していたり、館内
写真1 タンペレ市立中央図書館(フィンランド)のメインフロア (インターネット端末を使用する利用者)
■
﹁奉仕﹂と﹁サービス﹂
時期から日本は独自の道を歩み出してい
ア と フ ィ ン ラ ン ド、
一昨年2月にドイツ、昨年8月イタリ
■ 外国の公共図書館を訪ねて
vs.
が上演・演奏の場になったり、
コンピュー
5
12
4
丸善ライブラリーニュース 第 9 号
︵ 195 1︶の 第 三 条 は 図 書 館 法 第 三 条
と同様に活動事項が列挙されているのだ
が、奉仕という言葉でなく博物館の﹁事
業﹂という言葉を使っている。
﹁奉仕﹂と
﹁ 事 業 ﹂ で は ず い ぶ ん と ニュ ア ン ス が 異
なる。サービスは経済活動の一環におか
れ、何がしかの対価の支払いを前提とす
る概念に変わってきている。行政サービ
スもすべてコストがかかるものであるか
は、利用料金が財
の利用者負担論で
る。公共サービス
かを考えるのであ
仕﹂という概念は、そういう閉鎖性に対
規定ができたのである。最初に述べた﹁奉
するような利用がふつうの状況のなかで
閉架書庫に納められたものを館内で閲覧
需要をコントロー
めて開放的で誰もが気軽に利用できる施
それから歳月が過ぎて、図書館はきわ
を行うといった意味合いだったのだろう。
源 の 一 部 に な り、 してできるだけ利用者に寄り添って支援
を防止する効果が
ルする効果や濫用
する信頼を与えた
サービスの質に対
料金をとることが
館が提供するものは、利用者を支援する
きサービスも一般的になっている。図書
また複本の提供やネットでの予約取り置
て 大 量 に 貸 出 す こ と は 当 た り 前 に な り、
あ る だ け で な く、 設になった。ポピュラーな資料を用意し
り、利用を増加させたりする効果が指摘
ら、行政が直接やるべきことと民間にゆ
ろで行われるものであるとの理解がま
が要求されるようになるわけである。行
だねられるべきことを﹁仕分ける﹂こと
政サービスを事業としてとらえる方が近
されている。
選択すべきサービス群のひとつに転換し
ルサービスやネットでの検索などともに
﹁ 奉 仕 ﹂ で あ る よ り も、 利 用 者 が レ ン タ
ず あ る。 ま た 無 料 で 提 供 す る と 市 場 に
対 す る 影 響 が 大 き い と 考 え ら れ て い る。
年の考え方にふさわしいものと思われる。
さ ら に は、 資 料 返 却 の 遅 れ に 対 す る 延
料制サービスがアメリカの公共図書館で
筆者は1990年代初頭の時点で、有
も含めて、こうした政治経済学的議論を
今後、図書館法の枠組み自体の見直し
つつあるわけである。
却が遅れることは他の利用者の利用を
■サービスの政治経済学的な検討
妨 げ る こ と に な る か ら、 課 金 に よ っ て
深めることによって、図書館サービスあ
滞 料 徴 収 も 一 般 的 で あ る。 こ れ も、 返
ここで、外国の図書館をみてみるとそ
広く採用されていることを報告した︵根
■サービス経済の意識
のあたりの切り分けが明確である。行政
予防しようということである。
日本の図書館が提供するサービスで課
の有料サービスについて議論があったが、
房 20 0 2︶。 日 本 で も
ば、私は図書館法十七条を改正して積極
が担当する図書館サービスの範囲を明確
金されているのはコピー料金くらいであ
的に有料制サービスを導入すべきと考え
るいは事業の性格をはっきりさせること
にした上で、市場的な経済原理も取り入
り、それ以外に従量制料金がかかるもの
一般的には図書館法一七条を広く適用し
て い る の で は な く、 図 書 館 サ ー ビ ス を
本彰﹃情報基盤としての図書館﹄勁草書
れながら運営している。サービス提供に
は提供しない方針を採用することが一般
見が大勢を占めた。有料制は新自由主義
できるだけ無料サービスを守るという意
もっとダイナミックに転換するには、﹁お
なお、誤解なきよう最後に付け加えれ
が必要であるだろう。
市場原理を導入することは財の適正な配
的である。これが奉仕の考え方の典型で
年代に図書館
分のために必要であるという考え方がそ
あ ろ う。﹁ 公 僕 ﹂ は 出 し ゃ ば ら ず、 黙 々
た と え ば、 資 料 の 予 約 と は 利 用 者 が
的な風潮に染まった誤まれる商業主義の
金﹂がもつ大きな力をもっと取り入れる
が、課金できないという考え方はとらな
公平で負担を少なくするのが望ましい
とはない状況を前提にしていたと考える。
その活動が市場に影響を与えるようなこ
を集め、その利用も適度なものであって、
前にできたもので、図書館は稀少な資料
開発に図書館が駈り出される時代の図書
あろう。これが、ビジネス支援や駅前再
十七条に関しては柔軟な解釈をすべきで
と っ て も 有 効 だ と 考 え て い る の で あ る。
ことが図書館運営にとっても利用者に
ま た、 ベ ス ト セ ラ ー 書、 C D や D V D
い。それを行うのにどれくらいの費用が
年
の貸出し、従量制課金の商用データベー
つまり、地域の一部の人たちが文化教養
だが、筆者は、図書館法の規定が
こ れ を サ ー ビ ス に 転 換 す る た め に は、 適用と考えられていたのである。
と要求に応えればよいと。
こにはある。
資料を取り置いてもらい優先的な利用
権を確保するサービスであると理解さ
その財政的な構造を考える必要があるだ
ス の 提 供、 イ ン タ ー ネ ッ ト 接 続 も 有 料
かかり、そのうち公的にどの程度を支出
︵大学院教育学研究科教授︶
館のあり方である。
に な る こ と が 多 い。︵ 写 真 2︶ こ れ ら は
的な書物や専門的な資料、それも多くは
60
し、また利用者にどの程度負担して貰う
で あ り 有 料 と さ れ る の が 一 般 的 で あ る。 ろう。公共サービスとしてはできるだけ
れ、通常の資料利用に対して付加価値的
90
基本的な資料利用の範囲を超えたとこ
丸善ライブラリーニュース 第 9 号
5
写真2 ダニーデン市立中央図書館(ニュージーラ
ンド)のレンタルコレクション
(1 週間で 5 ドル(300 円程度)というラベ
ルが貼ってある)