時間依存密度汎関数理論に基づいた 励起状態計算と高精度化への試み

時間依存密度汎関数理論に基づいた
励起状態計算と高精度化への試み
Excited-state calculation based on
time-dependent density functional theory and
its theoretical development for high accuracy
2007 年 2 月
早稲田大学大学院理工学研究科
化学専攻 電子状態理論研究
中田 彩子
目次
第1章
序論
第2章
研究背景
2.1 密度汎関数法
2.1.1 Kohn-Sham 方程式
2.1.2 交換相関汎関数
2.2 時間依存密度汎関数法
2.3 結合演算子法
2.4 Improved virtual orbital 法
第 2 章の参考文献
5
7
7
9
12
16
21
23
第3章
ソラレン化合物の三重項励起状態と DNA 残基への光付加反応
3.1 序
3.2 計算方法
3.3 結果と考察
3.3.1 ソラレン化合物単分子の T1 状態
3.3.2 フランモノ付加体の T1 状態
3.3.3 単官能性ソラレン化合物の予測
3.4 結論
第 3 章の参考文献
25
25
26
27
27
33
38
43
44
第4章
ソラレン化合物の一重項励起状態と DNA 残基への光付加反応
4.1 序
4.2 計算方法
4.3 結果と考察
4.3.1 ソラレン化合物単分子の基底状態
4.3.2 ソラレン化合物単分子の励起状態
4.3.3 モノ付加体の基底状態
4.3.4 モノ付加体の励起状態
4.4 結論
第 4 章の参考文献
46
46
48
48
48
51
55
60
63
64
1
-i-
第5章
高精度な内殻励起状態計算のための新しい密度汎関数の開発:
Core-Valence B3LYP
66
5.1 序
66
5.2 従来の交換相関汎関数の精度検証
67
5.3 理論:Core-Valence B3LYP (CV-B3LYP)
69
5.3.1 CV-B3LYP のエネルギー表式
69
5.3.2 CV-B3LYP に対する Kohn-Sham 方程式
70
5.3.3 CV-B3LYP に対する TDDFT の表式
72
5.4 結果と考察:CV-B3LYP の精度検証
75
5.4.1 軌道エネルギーと標準生成エンタルピー
75
5.4.2 励起エネルギー
78
5.5 結論
82
第 5 章の参考文献
83
第6章
内殻、価電子及び Rydberg 励起状態を高精度に記述するための新しい
密度汎関数の開発:Core-Valence-Rydberg B3LYP
85
6.1 序
85
6.2 理論:Core-Valence-Rydberg B3LYP (CVR-B3LYP)
86
6.2.1 CV-B3LYP
86
6.2.2 CVR-B3LYP
89
6.3 結果と考察:CVR-B3LYP の精度検証
93
6.3.1 二次モーメント
93
6.3.2 軌道エネルギー
95
6.3.3 励起エネルギー
98
6.4 結論
104
105
第 6 章の参考文献
第7章
Core-Valence-Rydberg B3LYP 汎関数の第三周期元素への拡張
7.1 序
7.2 従来の交換相関汎関数における第三周期元素を含む
分子の内殻励起エネルギー計算の精度検証
7.3 CVR-B3LYP を用いた第三周期元素を含む分子の
内殻励起エネルギー計算
7.3.1 第三周期元素を含む系に関する CVR-B3LYP の表式
7.3.2 第三周期元素を含む系に関する CVR-B3LYP の
精度検証
7.4 結論
- ii -
107
107
108
116
116
119
124
第 7 章の参考文献
第8章
125
総括
127
謝辞
130
研究業績
131
- iii -
第1章
序論
近年の計算機能力の進歩や電子状態理論の発展に伴い,量子化学計算によ
る生体分子など大規模系の励起状態計算が可能となってきている。これまでの
代表的な励起状態計算手法として,Hartree-Fock (HF)法に基づいた一電子励起配
置間相互作用(CIS)法や多参照擬縮退摂動(MCQDPT)法,symmetry adapted clusterconfiguration interaction (SAC-CI)法が挙げられる。しかし,CIS 法には「低計算コ
ストだが低精度」,MCQDPT 法や SAC-CI 法には「高精度だが高計算コスト」と
いう難点があった。一方,密度汎関数理論(DFT)に基づく励起状態計算手法であ
る時間依存密度汎関数理論(TDDFT)は,比較的少ない計算コストで定量的な結果
を与えることから近年幅広く応用されるようになってきた。本論文では,DFT
法及び TDDFT 法を用いた生体分子の高精度計算の一例として,ソラレン化合物
の励起状態ダイナミクスに関する理論的研究について報告する。また,TDDFT
法による励起状態計算の高精度化を図るために開発した新しい交換相関汎関数
について報告する。
本論文は,本章を含め 8 章より構成されている。各章の概要は以下のとお
りである。
第 2 章では,本研究の理論的な背景として DFT 法,TDDFT 法について述べ
る。また,交換相関汎関数の開発の基盤となった Roothaan の結合演算子法や
Huzinaga の improved virtual orbital (IVO)法について述べる。
第 3, 4 章では,量子化学計算を用いた生体分子の励起状態ダイナミクスの
研究の一例として,ソラレン化合物の DNA 残基への光付加反応ダイナミクスの
理論的研究について述べる。ソラレン化合物は乾癬などの皮膚病の治療薬であ
り,DNA 中のチミン残基と 2 段階光付加反応を起こして DNA の異常増殖を抑
制する働きを持っている。1 段階目の付加反応では,UV-A (300∼400 nm)光を照
射することによってソラレンの光活性部位であるフラン環,ピロン環のうちの
一方がチミン残基に付加し,モノ付加体を形成する。それらがさらに UV-A 光を
吸収すると,もう一方の環が別のチミン残基と 2 段階目の付加反応を起こして
-1-
ジ付加体を形成することにより,DNA 間を架橋する。しかし,ジ付加体は副作
用の原因となるため,光反応を 1 段階目で抑制する必要がある。本論文では,
光治療に特に効果的である 8-メトキシソラレン(8-MOP)の励起状態をソラレン
及び 5-メトキシソラレン(5-MOP)と比較することにより,8-MOP の特異性につ
いて検討した。また,単体,フランモノ付加体,ピロンモノ付加体の励起状態
に関しても検討し,2 段階目の付加反応を防ぐ要因を探った。
第 3 章では,三重項励起(T1)状態におけるソラレン化合物の構造や性質につ
いて DFT 法を用いて検討した結果を述べる。T1 状態において,ソラレン及び
5-MOP では基底状態の安定構造に近い閉環構造とピロン環の一部が開裂した開
環構造の 2 種類の安定構造が存在することを明らかにした。一方,8-MOP では
開環構造のみが安定に存在することがわかった。また,結合長の変化や電荷分
布,スピン密度分布から,開環構造では開環に伴って結合交替が起こっている
こともわかった。ピロン環への付加反応は T1 励起状態を経由して起こることが
実験的に示されているが,開環構造では付加反応部位であるピロン環の C3-C4
結合が単結合化するため,この反応が起こらなくなっていることを理論的に示
した。さらに,8-MOP でメトキシ基のついている部位を数種類の置換基に置換
して電子状態を比較した結果から,8 位に電子供与性の置換基を付加することで
T1 状態での開環構造が誘導できることを理論的に予測することができた。
第 4 章では,一重項励起状態におけるソラレン化合物について TDDFT 法を
用いて検討した。単体,フランモノ付加体,ピロンモノ付加体の一重項励起エ
ネルギーを TDDFT 法により計算した結果,単体での UV スペクトルを極めて高
精度に再現することに成功した。また,実験では測定されていないモノ付加体
の UV スペクトルを予測することができた。さらに最低励起一重項状態への励
起エネルギーに関して,単体,フランモノ付加体,ピロンモノ付加体の順にブ
ルーシフトすることを確認した。特に,ピロンモノ付加体は UV-A 光の範囲では
励起しないためピロンモノ付加体を経由したジ付加体の生成は起こらないこと
を明らかにした。第 3 章の結果とあわせ,8-MOP の場合にはどちらのモノ付加
体からもジ付加体が生成されにくいことを示した。
第 5 章から第 7 章では,TDDFT 法による高精度な励起状態計算のための新
しい交換相関汎関数の開発とその応用について述べる。
-2-
第 5 章では,内殻励起状態計算の高精度化のための新しい交換相関汎関数
について述べる。内殻励起状態は高エネルギー領域に存在するため,その計算
には価電子励起状態よりはるかに多くのコストが必要となる。そのため低計算
コストで定量的に励起状態を計算することのできる TDDFT 法は内殻励起状態
計算に適していると考えられるが,実際にはほとんど適用されてこなかった。
そこでまず,TDDFT 計算を行う際に用いる交換相関汎関数を様々な種類に関し
て調査し,汎関数における HF 交換項の割合と内殻励起状態計算の精度との関係
を調べた。その結果,内殻励起エネルギーは HF 交換項の割合が少なすぎると著
しく過小評価され,逆に HF 交換項が多すぎると過大に見積もられることがわか
った。同時に,今回用いた汎関数の中では HF 交換項を 50%含む Becke’s
half-and-half (BHH)交換 + Lee-Yang-Parr (LYP)相関汎関数が最も適切であること
を示した。次に価電子励起エネルギーや原子化エネルギーなどの価電子の寄与
する物性に関しても同様に調査したところ,Becke’s three-parameter (B3)交換 +
LYP 相関汎関数が最も高精度であることがわかった。上記の結果を踏まえ,本
研究では,内殻軌道に関しては BHHLYP,価電子軌道に関しては B3LYP の挙動
を再現するような汎関数 core-valence-B3LYP (CV-B3LYP)を開発した。その際,
Roothaan の結合演算子法を用いることにより,内殻軌道と価電子軌道の直交性
が保証されるようにした。その結果,内殻→価電子励起,価電子→価電子励起
どちらの励起状態に関しても高精度な記述が可能となった。また生成エンタル
ピーに関しても,B3LYP と同程度に高精度に求めることができた。
第 6 章では,Rydberg 励起状態計算の高精度化のための新しい交換相関汎関
数について述べる。TDDFT 法の欠点として,Rydberg 励起状態の記述の精度が
低いという問題がある。この Rydberg 励起状態の高精度な記述には HF 交換項の
割合が重要であることが知られている。そこで,第 5 章での CV-B3LYP 汎関数
を 拡 張 し , 内 殻 , 価 電 子 励 起 に 加 え Rydberg 励 起 状 態 の 記 述 も 改 善 し た
core-valence- Rydberg B3LYP (CVR-B3LYP)汎関数を開発した。CVR-B3LYP では,
仮想軌道に関しても価電子軌道,Rydberg 軌道を区別し,それぞれに適切な HF
交換項の割合を決定した。その結果,従来の汎関数では記述の困難だった内殻
→Rydberg 励起や価電子→Rydberg 励起に関しても,極めて高精度に記述するこ
とに成功した。CVR-B3LYP は従来の汎関数の弱点を克服し,内殻,価電子及び
-3-
Rydberg 励起状態の全てを高精度に記述することを可能にした。
第 7 章では,CVR-B3LYP の応用例を示す。第二周期元素の内殻励起状態計
算は広く行われているが,ここでは第三周期元素に関しても CVR-B3LYP 汎関数
を用いて内殻励起状態について検討した。その結果,内殻になるほどより大き
な HF 交換項の割合が必要であることを明らかにした。そこで,第三周期元素の
K 殻と L 殻に関して異なる HF 交換項の割合を用いることができるように
CVR-B3LYP を改良した。その結果,第三周期元素を含む系に関しても,K 殻,
L 殻からの内殻励起及び価電子励起の三種類の励起状態を同時に高精度に計算
することに成功した。
第 8 章では,本研究で明らかとなった結果を総括する。
-4-
第2章
研究背景
近年の電子状態理論の発展と計算機性能の向上により,量子化学計算は小さ
な反応系に限らず,生体分子のような大規模分子や内殻励起状態計算のように
莫大な計算コストを要する系に関しても利用できるようになってきた。また,
分子生物学の進歩に伴い分子レベルでの実験が可能となり,生物の分野におい
ても分子レベルでの反応機構の解明が重要視されるようになってきている。こ
のような背景のもと,量子化学計算は,実験で得られる物理量を高精度に記述
するだけでなく,実験では得られない量に関しても計算できる手法として今や
化学や物理,生物の研究に欠くことのできない手段となっている。
量子化学計算のそもそもの目標は,原子・分子系の Schrödinger 方程式を厳
密に解くことであった。しかし,現実には Schrödinger 方程式は水素原子系に対
してしか厳密に解くことができないため,できる限り正確な近似解を求める手
法が考案されてきた。具体的には,現在の量子化学計算では,核の運動の取り
扱い・基底関数・多電子問題の取り扱いの大きく分けて三点において近似がな
されている。これまでの量子化学計算では,主に非経験的分子軌道(ab initio MO)
法が用いられてきた。これは,MO に基づいた多電子波動関数によって電子状態
を記述する方法である。MO 法の基盤となるのが,ある電子が他の電子から受け
るポテンシャルを平均場として取り扱う Hartree-Fock (HF)法である。この HF 法
によって分子の全エネルギーの 99.5%以上を再現することができるが,実験で
得られるような物理量を化学的精度で取り扱うためには,残り 0.5%の記述が重
要となる。そこで,HF 法では考慮されていない電子相関を取り扱うことによっ
て計算を高精度化する手法が開発されてきた。配置間相互作用(CI)法や多参照
(MR)理論,クラスター展開(CC)法,摂動法などはその代表的なものである。し
かし,これら波動関数に基づく電子相関理論では莫大な計算コストが要求され
る。系に含まれる基底の数 N に対する計算オーダーは,HF 法が N4 であるのに
対し,例えば二次の Møller-Plesset (MP2)法では N5,coupled cluster singles and
doubles (CCSD)法では N6,摂動により CCSD に 3 電子励起の効果を取り込んだ
CCSD(T)法では N7 といった具合である。一方,波動関数理論に代わる手法とし
-5-
て,密度汎関数理論(DFT)が近年盛んに用いられている。この方法では,全エネ
ルギーは全電子密度を用いて記述することができるという考えのもと,電子相
関を全電子密度の汎関数として近似している。この DFT 法の計算コストは HF
法と同じ N4 のオーダーであり,効率的に電子相関を取り込むことができる。DFT
法はもともとは固体計算のために開発されてきた手法であるが,現在では生体
分子など幅広い系に応用されており,大規模系の量子化学計算の主流となりつ
つある。
このような電子状態理論は,開殻分子や励起状態の計算にも適用されている。
励起状態計算手法としては,波動関数に基づいた手法として一電子励起配置間
相互作用(CIS)法,摂動論に基づく多参照擬縮退摂動(MCQDPT)法,クラスター
展開法に基づく symmetry adapted cluster-configuration interaction (SAC-CI)法[1]な
どがある。しかし,CIS 法は低計算コストだが低精度,MCQDPT 法や SAC-CI
法は高精度だが高計算コストであるという難点がある。一方,DFT 法を励起状
態に拡張した時間依存密度汎関数理論(TDDFT)は,CIS 法と同程度の少ない計算
コストで定量的な結果を与えることから,近年急速に用いられるようになって
きた。上記のどの手法においても,励起状態の適切な記述のためには,占有軌
道だけでなく電子の励起先である仮想軌道も適切に記述されていることが望ま
れる。そのため,仮想軌道の記述を改善する手法も開発されている。
また,開殻系に関しては,一つの電子のみによって占有される半占軌道を取
り扱う手法として,非制限 HF(UHF) 法・非制限 DFT(UDFT)法や制限開殻
HF(ROHF)法・制限開殻 DFT(RODFT)法が開発された。ROHF 法では,占有軌道
と半占軌道という種類の異なる軌道をどのように矛盾なく取り扱うかが焦点と
なっている。この取り扱いのための手法の一つに結合演算子法があり,これは
開殻系に限らず様々な場合においても拡張可能である。本論文第 5 章以降で議
論 さ れ る core-valence B3LYP (CV-B3LYP) 及 び core-valence-Rydberg B3LYP
(CVR-B3LYP)法[2,3]も,この結合演算子法に基づいて開発されている。
本章では,まず 2.1,2.2 節で DFT 法及び TDDFT 法を概説する。また,2.3
節では結合演算子法について,2.4 節では仮想軌道の記述を改善する手法の一つ
である improved virtual orbital (IVO)法について紹介する。
-6-
2.1 密度汎関数法[4,5]
2.1.1 Kohn-Sham 方程式
波動関数理論では,電子エネルギーE は波動関数Φ=Φ(x1,x2,…,xN)のハミルト
ニアン H に関する期待値として与えられる。
E=
ΦHΦ
(2-1-1)
ΦΦ
x はスピン座標である。特に HF 法の場合には,EHF は
N
1 N
EHF = ∑ H i + ∑ (J ij − K ij )
i
2 ij
(2-1-2)
となる。ここで,Hi は一電子積分,Jij 及び Kij はクーロン及び交換積分である。
添字 i, j は占有軌道を表す指標であり,全電子数を N とする。HF 法では電子相
関が考慮されていないため,厳密な波動関数から得られるエネルギーE と EHF
との差が電子相関エネルギーに相当する。
Ecorr = E − EHF
(2-1-3)
一方,電子密度とは系の単位体積あたりの電子の個数であり,
ρ (r1 ) = N ∫ L∫ Φ( x1 , x2 ,L xN ) ds1dx2 L dxN
2
(2-1-4)
と表される。r は空間座標,s はスピンを表している。電子密度を全空間で積分
すると,系の全電子数となる。
∫ ρ (r )dr = N
(2-1-5)
DFT 法では,N 電子波動関数の代わりに電子密度ρ(r)を用いて電子状態を記
述する。DFT 法における基本原理 Hohenberg-Kohn の定理[6]は以下のようなもの
である。
第 1 定理…v 表示可能なとき,電子密度は外部ポテンシャル v(r)と一対一
対応する。
第 2 定理…N 表示可能なとき,ρで表されるエネルギーE[ρ]はエネルギー
最小となる点を持ち,E ≤ E[ρ]である(変分原理)。
ここで言う v 表示可能性[7]とは,ある v(r)を含むハミルトニアンに関する基底状
-7-
態の反対称波動関数から電子密度を求めることができるか否かのことである。
また,N 表示可能性[8]とは,ある密度がなんらかの反対称波動関数から導出で
きるか否かのことである。N 表示可能条件は v 表示可能条件の必要条件である。
数式的には N 表示可能条件は以下のように表される。
2
ρ (r ) ≥ 0, ∫ ρ (r )dr = N , ∫ ∇ρ (r )1/ 2 dr < ∞
(2-1-6)
基底状態の性質に関しては全電子数 N と v (r)から決定することができる。電子
密度ρから N を決定することができるので,第 1 定理より,ρのみで基底状態の
電子状態を決定することができる。E[ρ]は具体的には,
E [ρ ] = Vne [ρ ] + T [ρ ] + Vee [ρ ] = ∫ ρ (r )v(r )dr + T [ρ ] + Vee [ρ ] = ∫ ρ (r )v(r )dr + F [ρ ]
(2-1-7)
と書くことができる。ここで,T は運動エネルギー項,Vne は電子-核相互作用,
Vee は電子間相互作用である。Vne は電子が核から受ける外場として扱うことがで
きる。第 2 定理より,基底状態のエネルギーは E[ρ]の最小値として変分的に得
られ,(2-1-7)式に対するオイラー方程式は
µ = v(r ) +
∂F [ρ ]
∂ρ
(2-1-8)
となる。
上記の密度汎関数理論に対し,Kohn と Sham は軌道の概念を導入した[9]。
Kohn-Sham (KS)軌道ϕを用いると,(2-1-4),(2-1-5)式で定義される電子密度は
ρ (r1 ) = ∑ ∑ ϕi (r1 , s )
N
i
2
(2-1-9)
s
∫ ρ (r )dr = ∑ ∑ ∫ ϕi (r , s ) dr = N
N
i
2
(2-1-10)
s
と書き直せる。電子密度ではなく KS 軌道を用いて見積もった運動エネルギーを
Ts とすると,(2-1-7)式の F[ρ]から運動エネルギーTs 及びクーロン反発エネルギー
J[ρ]を分離して(2-1-12)式のように書くことができる。
N
1
Ts [ρ ] = ∑ ϕi − ∇ 2 ϕ j
ij
2
(2-1-11)
F [ρ ] = Ts [ρ ] + J [ρ ] + Exc [ρ ]
(2-1-12)
-8-
Exc は F[ρ]から古典項を差し引いた非古典項であり,交換相関エネルギーと呼ば
れる。
Exc [ρ ] = T [ρ ] − Ts [ρ ] + Vee [ρ ] − J [ρ ]
(2-1-13)
Exc は Ts 及び Vee 双方に対する補正を含んでいる。Exc を用いて(2-1-7)式を
E [ρ ] = Ts [ρ ] + J [ρ ] + Exc [ρ ] + ∫ ρ (r )v(r )dr
(2-1-14)
と書き直すことができる。すると,(2-1-8)式のオイラー方程式は
µ=
∂Ts [ρ ] ∂J [ρ ] ∂Exc [ρ ]
+ v(r )
+
+
∂ρ
∂ρ
∂ρ
(2-1-15)
となる。基底状態を求めるためには,Lagrange の未定乗数法を用いて
L[ϕ ] = E [ρ ] − ∑ ε ij ϕi ϕ j
N
(2-1-16)
ij
を極小化することを考えればよい。KS 軌道の規格直交条件
ϕi ϕ j = δ ij
(2-1-17)
のもと,(2-1-16)式の極小問題は(2-1-15)式を介して KS 方程式
⎡ 1 2
⎤
∂E [ρ ]
ρ (r ')
+ v(r )⎥ϕi = ε iϕi
dr '+ xc
⎢− ∇ + ∫
∂ρ
r − r'
⎣ 2
⎦
(2-1-18)
を与える。(2-1-18)式で与えられるϕによってρは更新されるので,実際の DFT
計算では(2-1-18)式を自己無撞着的に解くことになる。この KS 方程式は,交換
エネルギーに関する変分の項の代わりに Exc に関する項が入っていることを除
けば HF 方程式と同じ形をしている。つまり,多電子相関問題は Exc の中に押し
込められ,(2-1-18)式自体は一体問題に帰着している。そのため,HF 方程式を解
くのと同じ計算オーダーで KS 方程式を解くことができ,さらに Exc を介して電
子相関を考慮することができる。
2.1.2
交換相関汎関数
HF 法が常に電子相関が欠落している近似理論であることと比べ,KS 法には
真の Exc の形がわかれば厳密なエネルギーを近似なしに得ることができるとい
-9-
う特徴がある。しかし,現在のところ真の Exc の形はわかっていないため,Exc
を交換相関汎関数として近似して計算を行わねばならない。
交換相関汎関数は交換部分と相関部分の二つに分けることができる。それら
の汎関数に関して,「(交換相関正孔を正しく表現できるか等の)基本的な物理的
性質の記述の適切さ」及び「(分子構造や反応熱などの)物理量の高精度な再現」
の二つを根底に,様々な種類が考案されてきた。それらの基本となるのは,密
度ρの一様な電子ガスを仮定する局所密度近似(LDA)である。LDA 汎関数として
は,交換汎関数では Slater 汎関数[10],相関汎関数では Vosko-Wilk-Nusair 汎関数
[11]が有名である。LDA 汎関数では交換相関エネルギーは以下のように表され
る。
Exc = ExLDA + EcLDA
(2-1-19)
しかし,LDA は交換相関汎関数を密度ρ(r)だけで表す荒い近似であるため,物理
量を化学的精度で記述することができない。そこで,密度勾配∇ρを用いて LDA
汎関数を補正した一般化勾配近似(GGA)汎関数が開発された。代表的な GGA 汎
関数としては,Becke の B88 交換汎関数[12]や Lee-Yang-Parr 相関汎関数[13]が挙
げられる。また,Perdew と Wang による PW91 交換,相関汎関数[14,15]や Perdew,
Burke と Ernzerhof による PBE 交換,相関汎関数[16,17]なども提案されている。
GGA 汎関数では,交換相関エネルギーは
Exc = ExGGA + EcGGA
(2-1-20)
である。ここで,EGGA は ELDA に補正分を加えたものとする。さらに,密度の二
次勾配∇2ρや運動エネルギー密度τを用いて GGA 汎関数を補正した meta GGA 汎
関数として,Tao,Perdew,Staroverov 及び Scuseria による TPSS 汎関数[18]など
が開発されている。また,HF 交換項を用いて GGA 交換汎関数を補正する hybrid
汎関数も考案された。Hybrid 汎関数に対して,HF 交換項による補正を行わない
汎関数は pure 汎関数と呼ばれる。 Hybrid 汎関数の代表的なものに Becke’s
three-parameter (B3) hybrid 交換汎関数と LYP 相関汎関数を組み合わせた B3LYP
汎関数[19]が挙げられる。この B3LYP は生成エンタルピーを平均誤差 3 kcal/mol
の精度で再現することができる高精度な汎関数で,現在最も広く用いられてい
る汎関数である。Hybrid 汎関数には他にも Becke の half-and-half (BHH)交換汎関
数と LYP 相関汎関数を組み合わせた BHHLYP 汎関数[20]や,Perdew,Burke,
- 10 -
Ernzerhof らによる PBE1PBE 汎関数[21]などがある。これら hybrid 汎関数の基本
的な作りは
Exc = ExcGGA + a (ExHF − ExGGA )
(2-1-21)
である。 E xHF は HF 交換エネルギーである。(2-1-21)式は E xGGA が厳密な交換エネ
ルギー ExHF を高精度に再現しているという前提のもとで編み出されたものだが,
hybrid 汎関数による計算精度が極めて高いことはこの前提の適切さを保証して
いるといえる。係数 a の値は PBE1PBE では摂動法によって理論的に 0.25 と導か
れている。BHHLYP では a = 0.5 であり,その名のとおり ExHF と ExGGA が半分ずつ
混ざっている。B3LYP では(2-1-21)式をさらに
Exc = aExHF + bExLDA + cExGGA + dEcLDA + eEcGGA
(2-1-22)
と分割する。このとき,a+b+c = 1,d+e = 1 であり,汎関数で与えられるエネル
ギーは GGA 補正を行う cExGGA , eEcGGA と行わない bExLDA , dEcLDA の二種類を用いて表
されている。
(2-1-22)式の係数 a∼e は G2 セット分子に関する原子化エネルギー,
イオン化ポテンシャルなどの誤差を最小にするように経験的に決められており,
(a, b, c, d, e) = (0.2, 0.08, 0.72, 0.19, 0.81)である。
以上のように hybrid 汎関数では高精度化に伴い経験的パラメータが増える
傾向がある。このようなパラメータの増加を極力避けながら高精度化を目指し
た pure 汎関数として parameter-free 汎関数[22]や one-parameter progressive (OP)汎
関数[23]などが報告されている。
- 11 -
2.2
時間依存密度汎関数法[24]
2.1 節の密度汎関数理論は基底状態のみに対する理論であるが,時間依存す
る系に発展させることによって励起状態に拡張できる。時間依存の Schrödinger
方程式は,
H (t )Φ (t ) = i
∂Φ (t )
∂t
(2-2-1)
と書かれる。このハミルトニアンは
H (t ) = T + Vee + v(r , t )
(2-2-2)
であり,時間に依存する外部ポテンシャル v(r,t)を含んでいる。
Runge と Gross によって,時間依存の系においても Hohenberg-Kohn の定理
が成り立つことが示された[25]。時間依存外部ポテンシャル v(r,t)は初期外部ポ
テンシャル v(r,t0)の近傍で Taylor 展開できる,つまり v(r,t)は v(r,t0)と時間依存部
分 vperturb に分けることができるという仮定のもとで,v 表示可能なとき時間依存
電子密度ρ(r,t)は時間依存外部ポテンシャル v(r,t)と一対一対応することが示され
た。これは Hohenberg-Kohn の第 1 定理に対応する。また第 2 定理の変分原理に
相当するものとして,作用積分 A
A = ∫ t01 Φ(t ) i
t
∂
− H (t ) Φ(t ) dt
∂t
(2-2-3)
が厳密解でエネルギー最小となる点を持つことを示した。さらに,A はρの汎関
数 A[ρ]として表すことができる。A[ρ]は外場に依存する項と依存しない項に分け
ることができ,依存しない項を B[ρ]とする。
A[ρ ] = B[ρ ] − ∫ t01 ∫ v(r , t )ρ (r , t )drdt
t
(2-2-4)
2.1 節と同様にして A の変分を考えることによって,時間依存する場合の KS 方
程式は
⎡ 1 2
⎤
∂A [ρ ]
ρ (r ' , t )
∂
dr '+ xc
+ v(r , t )⎥ϕ i (r , t ) = i ϕ i (r , t )
⎢− ∇ + ∫
r − r'
∂ρ (r , t )
∂t
⎣ 2
⎦
(2-2-5)
として与えられる。ここで Axc は B[ρ]の(つまり A[ρ]の)交換相関部分である。こ
のとき,Axc を時間に依存しない交換相関汎関数 Exc を用いて
- 12 -
Axc [ρ ] = ∫ t01 Exc [ρ t ]dt
t
(2-2-6)
と断熱近似する。ρ t はある時刻 t における電子密度である。すると,(2-2-5)式の
左辺第 3 項は
∂Axc [ρ ] ∂Exc [ρt ]
=
∂ρ (r , t ) ∂ρt (r )
(2-2-7)
と表すことができる。
ここで,時間依存 KS 方程式に対し,外場を加えた場合の応答を考える[24,26,
27]。ここでは,スピンを無視し,電子密度ρの代わりに密度行列 P を用いる。
ρ (r ) = ∑ ϕi (r ) = ∑ Pµν φµ (r )φν* (r ) = ∑ Pij ∑ Ciµ C jν φµ (r )φν* (r )
N
i
N
2
µν
ij
µν
(2-2-8)
φは基底関数であり,µ, νはその指標である。また,i, j は占有軌道,a, b は仮想
軌道,p, q, r, s はそれらを区別しない一般的な軌道の指標とする。MO 基底の密
度行列では
∑ Ppq Pqr =Ppr
(2-2-9)
q
が成り立っている。(2-2-5)式の時間依存 KS 方程式は,KS-Fock 行列を F とする
と
∑ (Fpq Pqr − Ppq Fqr ) = i
q
∂Ppr
∂t
(2-2-10)
と書くことができる。初期状態の KS-Fock 行列,密度行列を F(0),P(0)と表すと,
Fpq( 0 ) = δ pqε p
(2-2-11)
Pij( 0 ) = δ ij
(2-2-12)
Pia( 0 ) = Pai( 0 ) = Pab( 0 ) = 0
(2-2-13)
が成り立っている。ここで,Fourier 成分が
g pq =
1
[
f pq exp(− iω t ) + f qp* exp(iω t )]
2
(2-2-14)
で表される摂動 g に対する一次の応答を考える。f は摂動の情報を含む 1 電子演
算子である。密度行列の一次応答 P’は
- 13 -
Ppq = Ppq( 0 ) + P' pq = Ppq( 0 ) +
1
[
d pq exp(− iω t ) + d qp* exp(iω t )]
2
(2-2-15)
と表される。KS-Fock 行列の一次応答は,1 電子部分に関しては(2-2-13)式,2 電
子部分に関しては密度行列 P を介して,
Fpq = Fpq( 0 ) + g pq + ∑
rs
∂Fpq
∂Prs
(2-2-16)
P'rs
となる。ここで,
∂Fpq
⎡ 1
δ 2 Exc ⎤ *
= ∫ ϕ *p (r )ϕ q (r )⎢
+
⎥ϕ s (r ')ϕ r (r ')drdr '
∂Prs
⎣ r − r ' δρ (r )δρ (r ')⎦
(2-2-17)
である。(2-2-17)式右辺には密度汎関数の二次微分の項が含まれており,その詳
細な形はスピン対称性を満たす場合に関しては参考文献[29],そうでない場合に
関しては[27,28]に示されている。(2-2-14)式を(2-2-16)式に代入し,(2-2-15)式を用
いて(2-2-10)式を書き直し exp(−iωt)の項についてまとめると,
⎡
⎛
⎣
⎝
∑ ⎢ Fpq( 0 ) d qr − d pq Fqr( 0) + ⎜⎜ f pq + ∑
q
st
∂F
∂Fpq ⎞ ( 0 )
⎞⎤ ∂F
⎛
d st ⎟⎟ Pqr − Ppq( 0 ) ⎜⎜ f qr + ∑ qr d st ⎟⎟⎥ pq = ω d pr
st ∂P
∂Pst
st
⎠⎦ ∂Prs
⎝
⎠
(2-2-18)
となる。このとき,摂動後の P が(2-2-2)式を満たすためには,
d ij = 0, d ab = 0
(2-2-19)
でなければならないので,d の非零の項だけを
d ai = xai , d ia = yai
(2-2-20)
と書き直す。すると,(2-2-12), (2-2-13), (2-2-19)式より,(2-2-18)式は p = a, r = i
のとき
⎞
⎛
∂F
∂F
Faa( 0 ) d ai − d ai Fii( 0 ) + ⎜⎜ f pq + ∑ ∑ ai dbj + ∑ ∑ ai d jb ⎟⎟ Pii( 0 ) = ω d ai
b
j ∂P
j b ∂P
bj
jb
⎠
⎝
(2-2-21)
p = i, r = a のとき
⎞
⎛
∂F
∂F
Fii( 0 ) d ia − d ia Faa( 0 ) − ⎜⎜ f ia + ∑ ∑ ia d bj + ∑ ∑ ia d jb ⎟⎟ Pii( 0 ) = ω d ia
b
j ∂P
j b ∂P
bj
jb
⎠
⎝
(2-2-22)
となる。ここで f が無視できるほど小さいと仮定すると,(2-2-21), (2-2-22)式は
ε a xai − xaiε i + ∑
bj
∂Fai
∂F
xbj + ∑ ai ybj = ω xai
bj ∂P
∂Pbj
jb
- 14 -
(2-2-23)
− ε i yai + yaiε a + ∑
bj
∂F
∂Fia
xbj + ∑ ia ybj = −ω yai
bj ∂P
∂Pbj
jb
(2-2-24)
と書き直せる。
Aai ,bj = δ ijδ ab (ε a − ε i ) +
Bai ,bj =
∂Fai
∂Pbj
(2-2-25)
∂Fai
∂Pjb
(2-2-26)
と定義すると,(2-2-23), (2-2-24)式より
⎛A
⎜ *
⎜B
⎝
B ⎞⎛ X ⎞
⎛ 1 0 ⎞⎛ X ⎞
⎟⎜ ⎟⎟ = ω ⎜⎜
⎟⎟⎜⎜ ⎟⎟
* ⎟⎜
A ⎠⎝ Y ⎠
⎝ 0 − 1 ⎠⎝ Y ⎠
(2-2-27)
が得られる。この固有方程式の固有値が励起エネルギーに相当する。占有軌道
の数を NOCC,仮想軌道の数を NVIR とすると,(2-2-28)式は 2(NOCC×NVIR)次元の
計算となる。(2-2-27)式はエルミートではないが,A 及び B が実数であれば
(A − B )(A + B ) X + Y
= ω2 X + Y
(2-2-28)
と書き直して(NOCC×NVIR)次元問題へ減らすことができる。さらに(A−B)が正で
あるときには,
(A − B ) (A + B )(A − B )
T = (A − B ) X + Y
1/ 2
1/ 2
T = ω 2T
−1 / 2
(2-2-29)
の形に変換してエルミート行列問題として取り扱うことができる[30]。実際の
TDDFT 計算では(2-2-29)式を用いることが多い。また,d に関して,dai は xai と
して取り扱うが dia は無視する Tamm-Dancoff 近似(TDA)を用いると,(2-2-27)式
は
AX = ω X
(2-2-30)
と簡略化される[26]。(2-2-30)式では,占有軌道から仮想軌道への励起は考慮さ
れているが,仮想軌道から占有軌道への脱励起は考慮されていないことになる。
しかし,TDA 近似を用いた場合でも励起エネルギーは近似なしの場合とほぼ同
精度の結果を与えることが報告されている。
- 15 -
2.3 結合演算子法
MO が 2 個の電子で埋まっている閉殻電子構造に関する電子状態計算では,
異なるスピンを持つ 2 個の電子が組となって一つの MO に入っているとする
RHF 法,RDFT 法が用いられている。一方,ラジカル,励起状態,多重項状態
など開殻系の計算では,電子 1 個のみの軌道をもつことになる。このような場
合には,全ての電子に対して 1 電子あたり一つの軌道をもつとする UHF 法,
UDFT 法及び閉殻部分に関しては 2 個の電子が一つの軌道,開殻部分に関しては
1 電子に一つの軌道を持つとする ROHF 法,RODFT 法の二通りの手法がある。
この ROHF 法,RODFT 法では,閉殻部分と開殻部分とで異なる形の Fock 演算
子が得られるが,これらから得られる閉殻軌道と開殻軌道は直交していなけれ
ばならない。この直交性を満たすための様々な手法が報告されている[31-34]が,
この節では,その中でも最も一般的な Roothaan の結合演算子法[31,35,36]につい
て述べる。
(2-1-1)式で与えられる全エネルギー期待値に関する変分が
OCC
Fiϕi = ∑ ϕiθ ji
(2-3-1)
θ ji = θ ij
(2-3-2)
j
*
のようなオイラー方程式を与えるとする。ここで,(2-3-1),(2-3-2)式を形式的に
書き換えて,
OCC
Fi ϕi = ∑ ϕ j ϕ j Fi ϕi
(2-3-3)
ϕ j Fi − Fj ϕi = 0
(2-3-4)
j
としておく。(2-3-4)式から
ϕ j Fi ϕi = λ ji ϕ j Fj ϕi + (1 − λ ji ) ϕ j Fi ϕi
= ϕ j λ ji Fj + (1 − λ ji )Fi ϕ i
と書くことができる。ここで,結合演算子Θを
- 16 -
(2-3-5)
Θ ji = λ ji Fj + (1 − λ ji )Fi
(2-3-6)
と定義する。
軌道の組{ϕi}が複数の組{ϕi}1, {ϕi}2, …{ϕi}A に分割される場合を考える。各
組の中でユニタリー不変性が成り立っている場合,オイラー方程式は,
I
J
FI ϕ k = ∑ ϕl ϕl FI ϕ k + ∑ ∑ ϕ n ϕ n FJ ϕ k
J ≠I n
l
I
J
J
l
J ≠I n
J ≠I n
= ∑ ϕl θ lk + ∑ ∑ ϕ n θ nk = ϕ k ε k + ∑ ∑ ϕ n θ nk
(k ∈ I ; I = 1, 2,L A)
(2-3-7)
となる。θji がエルミートとなるための条件は次式となる。
ϕ n FI − FJ ϕ k = 0
(k ∈ I , n ∈ J )
(2-3-8)
結合演算子
Θ JI = λJI FJ + (1 − λJI )FI
(2-3-9)
を導入し,(2-3-7)式を
(k ∈ I ; I = 1, 2,L A)
J
FI ϕ k − ∑ ∑ ϕ n ϕ n Θ JI ϕ k = ϕ k ε k
J ≠I n
(2-3-10)
のように書き直す。ここで,(2-3-10)式の左辺のエルミート性を保証するために
⎡ F − J {ϕ ϕ Θ ) + (Θ ϕ ϕ }⎤ ϕ = ϕ ε
∑ n n JI
JI
n
n
k k
⎢⎣ I ∑
⎥⎦ k
J ≠I n
(k ∈ I ; I = 1, 2,L A)
(2-3-11)
と書き直す。結合演算子 RI を
RI = − ∑ ∑ {ϕ n ϕ n Θ JI ) + (Θ JI ϕ n ϕ n }
J
J ≠I n
(k ∈ I ; I = 1, 2,L A)
(2-3-12)
と定義しなおせば,(2-3-11)式は
FI ' ϕ k = [FI + RI ] ϕ k = ∑ ϕl θ lk = ϕ k ε k
I
l
(k ∈ I ; I = 1, 2,L A)
(2-3-13)
となる。以上が一般的な結合演算子法である。
以降は,ROHF 法や第 5 章における CV-B3LYP などのように,A=2 の場合に
ついて考える[35]。k, l は集合 1 に,m, n は集合 2 に含まれる軌道とする。(2-3-13)
- 17 -
式に関して,I=1, 2 の二つの演算子を一つにまとめるには,統一演算子を形式的
に
F = ∑ F1 ' ϕ k ϕ k + ∑ F2 ' ϕ m ϕ m
k
(2-3-14)
m
とすればよい。これは一般には Roothaan の二重 Fock 演算子法と呼ばれる。この
段階では仮想軌道には任意性が残されているが,後述の条件を満たす場合には,
以下の手続きによって具体的に統一演算子を決定することができる。
F1, F2 から任意の実数 f1, f2 を括り出して
F1 = f1 F1 ' ,
F2 = f 2 F2 '
(2-3-15)
と書けるとき,(2-3-13)式は
⎡ F1 R1 ⎤
⎛θ
ϕ k ⎜⎜ lk
⎢ + ⎥ ϕk = ∑
l
⎣ f 1 f1 ⎦
⎝ f1
⎛θ ⎞
⎞ ⎡ F2 R2 ⎤
⎟⎟, ⎢ + ⎥ ϕ m = ∑ ϕ m ⎜⎜ nm ⎟⎟
n
⎝ f2 ⎠
⎠ ⎣ f2 f2 ⎦
(2-3-16)
と書き直せる。また,(2-3-12)式から,
1
1
1
R2 ϕ k = − ∑ ϕl ϕl Θ12 ϕ k − Θ12 ϕ k ,
f2
f2 l
f2
1
1
1
R1 ϕ m = − ∑ ϕ n ϕ n Θ 21 ϕ m − Θ 21 ϕ m
f1
f1 n
f1
(2-3-17)
である。すると,(2-3-16),(2-3-17)式より
⎛ θ lk
⎞
⎜ − ϕl Θ12 ϕ k ⎟ = ∑ ϕl ζ lk ,
⎜ f1
⎟ l
f2
⎝
⎠
⎛θ
⎞
Θ
= ∑ ϕ n ⎜ nm − ϕ n 21 ϕ m ⎟ = ∑ ϕ n ζ nm
⎜ f2
⎟ n
n
f1
⎝
⎠
⎡ F1 R1 R2 Θ12 ⎤
ϕl
⎢ f + f + f + f ⎥ ϕk = ∑
l
1
2
2 ⎦
⎣ 1
⎡ F2 R2 R1 Θ 21 ⎤
⎢ f + f + f + f ⎥ ϕm
2
1
1 ⎦
⎣ 2
(2-3-18)
となる。ここで,
F1 Θ12 F2 Θ 21
+
=
+
f1
f2
f2
f1
(2-3-19)
となれば,(2-3-18)式は,
F ϕ k = ∑ ϕl ζ lk , F ϕ m = ∑ ϕ n ζ nm ,
l
n
(2-3-20)
F R R Θ
F = 1 + 1 + 2 + 12
f1 f1 f 2
f2
として一つの Fock 行列で表現できる。(2-3-19)式が成り立つ条件は以下のように
- 18 -
なる。
λ12
f2
=−
λ21
(2-3-21)
f1
具体的な例として,Roothaan の ROHF 法[31,35,37]について述べる。開殻系
のエネルギー期待値は,
E = 2∑ H k + ∑ (2 J kl − K kl ) + f ⎡2∑ H m + f ∑ (2aJ mn − bK mn ) + 2∑ (2 J km − K km )⎤
⎢⎣ m
⎥⎦
k
kl
mn
km
(2-3-22)
として表される。i, j は占有軌道の指標であり,さらに閉殻軌道には k, l,開殻軌
道には m, n の指標を用いて区別する。f は開殻軌道の占有率(0 < f < 1,f = 1 のと
き 2 個の電子が入る),a, b は対象とする電子状態によって決まる定数である。
(2-3-22)式を変分すると,閉殻及び開殻軌道に対する Fock 演算子 FC,FO はそれ
ぞれ
FC = h + 2∑ J k − ∑ K k + f ⎛⎜ 2∑ J m − ∑ K m ⎞⎟,
k
k
m
⎝ m
⎠
FO = f ⎛⎜ h + 2 fa ∑ J m − fb∑ K m + 2∑ J k − ∑ K k ⎞⎟
m
m
k
k
⎝
⎠
(2-3-23)
となる。ここで,
JC = ∑ Jk ,
k
JO = f ∑ Jm,
m
JT = JC + JO,
KC = ∑ Kk , KO = f ∑ Km , KT = KC + KO
k
(2-3-24)
m
と定義すると,
FC = h + 2 J C − K C + 2 J O − K O = h + 2 J T − K T ,
FO = f (h + 2 J C − K C + 2aJ O − bK O )
(2-3-25)
と書き表すことができる。この場合 f1 = 1,f2 = f である。このとき,結合演算子
Θは
Θ = ΘCO = ΘOC = − f (2αJ O − βK O )
α=
(1 − a ) ,
(1 − f )
β=
(1 − b )
(1 − f )
(2-3-26)
(2-3-27)
となる。さらに,(2-3-12)式より
- 19 -
RC = f ∑ {ϕ n ϕ n (2αJ O − βK O ) + (2αJ O − βK O ) ϕ n ϕ n },
n
RO = f ∑ {ϕl ϕl (2αJ O − βK O ) + (2αJ O − βK O ) ϕl ϕl
l
}
(2-3-28)
となる。ここで,
Li = ϕi ϕi J O ) + ( J O ϕi ϕi ,
(2-3-29)
M i = ϕi ϕi K O ) + (K O ϕi ϕi
LC = ∑ Lk , LO = f ∑ Lm , LT = LC + LO ,
k
m
MC = ∑ Mk , MO = f ∑ Mm, MT = MC + MO
k
(2-3-30)
m
と定義すると,(2-3-28)式は
RC = 2αLO − β M O ,
(2-3-31)
RO = f (2αLC − β M C )
と書き直せる。よって(2-3-20)式より,統一演算子は
F = (h + 2 J T − K T ) + (2αLO − β M O ) + (2αLC − β M C ) − (2αJ O − β K O )
= h + 2 J T − K T + 2α (LT − J O ) − β (M T − K O )
として得られる。
- 20 -
(2-3-32)
2.4
Improved virtual orbital 法
CI 法や摂動法などで電子相関を取り扱う場合や,CIS 法や TDDFT 法で励起
状態計算を行う場合,仮想軌道の記述が適切か否かは重要な問題となってくる。
通常では仮想軌道{ϕa}は,占有軌道{ϕi}に関するエネルギー表現から得られた
Fock 演算子 F によって副産物的に得られるものである。
Fϕ a = ε aϕ a
(2-4-1)
よって,この仮想軌道そのものには物理的な定義があるわけではない。また,
(2-4-1)式の定義より,仮想軌道は占有軌道にある N 個の電子全てからの影響を
反映することになるので,仮想軌道の記述は実質上 N+1 電子系に対するものに
なっていることになる。そこで,N 電子系に対して仮想軌道を適切に記述するた
めには工夫が必要となる。
今,開殻系の場合も含めて HF 方程式を
R ϕi = ε i ϕi
(2-4-2)
と書くとする。ここで,以下のような演算子を導入する。
V = (1 − P )Ω(1 − P )
(2-4-3)
OCC
P = ∑ ϕi ϕi
(2-4-4)
i
P は HF 空間内の射影演算子であり,Ωは任意のエルミート演算子とする。この
ように設定した V をもともとの演算子 R に足した場合には,V は占有軌道には
作用しないため,もとの占有軌道を保つことができる。
R' = R + V
(2-4-5)
R ' ϕi = R ϕi = ε i ϕi
(2-4-6)
また,仮想軌道に関しては,
R' ϕ a = (R + Ω − PΩ ) ϕ a = ε a ϕ a
(2-4-7)
となるので,仮想軌道のエネルギーは
ε a = ϕa R + Ω ϕa
(2-4-8)
となり,演算子Ωの影響を受けていることがわかる。このΩを適切に選ぶことに
より仮想軌道の記述を改善させる方法を,improved virtual orbital 法[38,39]と呼ぶ。
- 21 -
例えば,先述の N+1 電子系の問題を解決するためには,Ωを
Ω = − J i + 2Ki
(2-4-9)
と設定することによって,仮想軌道を占有軌道 i から 1 電子一重項励起した状態
に対するものに補正することができる。また,
Ω = −Ji
(2-4-10)
とすれば,i からの 1 電子三重項励起状態に補正することができる。仮想軌道は
任意であるので,上記の例の他にも,Ωを適切に選ぶことによって様々な場合に
応用することが可能である。
- 22 -
第 2 章の参考文献
[1] H. Nakatsuji and K. Hirao, Chem. Phys. Lett. 47, 569 (1977).
[2] A. Nakata, Y. Imamura, T. Ostuka, and H. Nakai, J. Chem. Phys. 124, 094105
(2006).
[3] A. Nakata, Y. Imamura, and H. Nakai, J. Chem. Phys. 125, 064109 (2006).
[4] R. G. Parr and W. Yang, in Density-Functional Theory of Atoms and Molecules
(Oxford University Press, New York, 1989).
[5] W. Koch and M. C. Holthausen, in A Chemist's Guide to Density Functional Theory,
ed. 2 (Wiley-VCH, Weinheim, 2002).
[6] P. Hohenberg and W. Kohn, Phys. Rev. B 136, 864 (1964).
[7] W. Kohn, Phys. Rev. Lett. 51, 1596 (1983).
[8] T. L. Gilbert, Phys. Rev. B 12, 2111 (1975).
[9] W. Kohn and L. J. Sham, Phys. Rev. A 140, 1133 (1965).
[10] J. C. Slater, Phys. Rev. 81, 385 (1951).
[11] S. H. Vosko, L. Wilk, and M. Nusair, Can. J. Phys. 58, 1200 (1980).
[12] A. D. Becke, Phys. Rev. A 38, 3098 (1988).
[13] C. Lee, W. Yang, and R. G. Parr, Phys. Rev. B 37, 785 (1988).
[14] J. P. Perdew, in Electronic Structure of Solids ‘91, edited by P. Ziesche and H.
Eschrig (Akademie Verlag, Berlin, 1991), p. 11.
[15] J. P. Perdew, J. A. Chevary, S. H. Vosko, K. A. Jackson, M. R. Pederson, D. J.
Singh, and C. Fiolhais, Phys. Rev. B 46, 6671(1992).
[16] J. P. Perdew, K. Burke, and M. Ernzerhof, Phys. Rev. Lett. 77, 3865 (1996).
[17] J. P. Perdew, K. Burke, and M. Ernzerhof, Phys. Rev. Lett. 78, 1396 (1997).
[18] J. M. Tao, J. P. Perdew, V. N. Staroverov, and G. E. Scuseria, Phys. Rev. Lett. 91,
146401 (2003).
[19] A. D. Becke, J. Chem. Phys. 98, 5648 (1993).
[20] A. D. Becke, J. Chem. Phys. 98, 1372 (1993).
[21] J. P. Perdew, K. Burke, and M. Ernzerhof, Phys. Rev. Lett. 77, 3865 (1996).
[22] T. Tsuneda and K. Hirao, Phys. Rev. B 62, 15527 (2000).
- 23 -
[23] T. Tsuneda, T. Suzumura, and K. Hirao, J. Chem. Phys. 110, 10664 (1999).
[24] M. E. Casida, in Recent Advances in Density Functional Methods Part I, edited by
D. P. Chong (World Scientific, Singapore, 1995), p. 155.
[25] E. Runge and E. K. U. Gross, Phys. Rev. Lett. 52, 997 (1984).
[26] S. Hirata and M. Head-Gordon, Chem. Phys. Lett. 314, 291 (1999).
[27] S. Hirata, M. Head-Gordon, and R. J. Bartlett, J. Chem. Phys. 111, 10774 (1999).
[28] S. Hirata and M. Head-Gordon, Chem. Phys. Lett. 302, 375 (1999).
[29] R. Bauernschmitt and R. Ahlrichs, Chem. Phys. Lett. 256, 454 (1996).
[30] R. E. Stratmann and G. E. Scuseria, J. Chem. Phys. 109, 8218 (1998).
[31] C. C. J. Roothaan, Revs. Modern Phys. 32, 179 (1960).
[32] M. F. Guest and V. R. Saunders, Mol. Phys. 28, 819 (1974).
[33] E. R. Davidson, Chem. Phys. Lett. 21, 565 (1973).
[34] C. F. Jackels and E. R. Davidson, Int. J. Quant. Chem. 8, 707 (1974).
[35] S. Huzinaga, 分子軌道法, (岩波書店, Tokyo, 1980) (in Japanese).
[36] K. Hirao and H. Nakatsuji, J. Chem. Phys. 59, 1457 (1973).
[37] T. Yonezawa, T. Nagata, H. Kato, A. Imamura, and K. Morokuma, 量子化学入門
(下)第 3 版, (化学同人, Kyoto, 1983) (in Japanese).
[38] S. Huzinaga and C. Arnau, Phys. Rev. A 1, 1285 (1970).
[39] S. Huzinaga and C. Arnau, J. Chem. Phys. 54, 1948 (1971).
- 24 -
第3章
3.1
ソラレン化合物の三重項励起状態と DNA 残基への
光付加反応
序
ソラレン(7-H-furo[3,2-g][1]benzopyran-7-one)化合物(図 3-1)は乾癬,白斑など
の皮膚病の光治療薬の一種である。光治療における主な反応は,ソラレン化合
物と DNA 内のチミン残基との間の二段階光環化反応であることがわかっている
[1-4]。この反応では,まずソラレン化合物が DNA らせん内に入り込むインタカ
レーションが起こる。そこに UV-A 光(300∼400 nm)を照射することによって,
ソラレン化合物と DNA 残基との間で[2+2]環化付加反応を起こし、モノ付加体が
作られる。ソラレン化合物はフラン環内の C4’-C5’ 二重結合とピロン環内の
C3-C4 二重結合の二ヶ所の光反応部位を持っているため,DNA 残基に付加する
ことによってフランモノ付加体,ピロンモノ付加体の二種類のモノ付加体を作
り得る[1-4]。モノ付加体がさらに UV-A 光を吸収することによって、ソラレン骨
格内のもう一方の反応部位と別の DNA 残基とが環化付加反応を起こして、ジ付
加体が生成される。これらの光付加反応は逆反応可能でありソラレンに修飾さ
れた DNA はいずれ修復されるが、ジ付加体が生成されると DNA 間が架橋され
るため修復に時間がかかるため、皮膚ガンや突然変異などの副作用の原因とな
る恐れがある[1-3]。それゆえ,二段階目の付加反応を起こさない単官能性ソラ
レンの開発が望まれている。
いくつかの実験的研究によって,C4’-C5’結合による付加反応は最低励起一
重項(S1)状態,C3-C4 結合による付加反応は最低励起三重項(T1)状態を経由して
起こることが報告されている[1,2]。また、ソラレン化合物が付加する DNA 残基
に関しては、シトシン残基と反応する例も見られるが、その確率はチミン残基
と比べると小さく、ソラレン化合物と付加反応を起こす残基はほとんどがチミ
ンであることが実験的に明らかにされている[1,4,5]。
ソラレン,5-methoxypsoralen (5-MOP)及び 8-methoxypsoralen (8-MOP)の過渡
吸収スペクトル及び共鳴ラマンスペクトルの測定により,8-MOP の T1 過渡種は
- 25 -
ソラレンや 5-MOP と比べて寿命が短いことが判明している[6]。また、ソラレン
化合物単体での T1 状態における水溶媒内での量子収率はソラレン及び 8-MOP
では 0.12 及び 0.06、5-MOP では 0.01 以下と小さいが、フランモノ付加体になる
とソラレンでは 0.08 であるのに対し 8-MOP では 0.18 とやや大きくなることが
報告されている[2]。しかし, これら 8-MOP の挙動が他と異なる原因は実験的
手法によっては解明されていない。また,ソラレン化合物に対する理論的研究
はこれまでにも行われているが[7-11],8-MOP の特異性について言及したものは
なかった。
そこで本研究では,ソラレン,5-MOP 及び 8-MOP に関して単体及びモノ付
加体の T1 状態における電子状態について密度汎関数理論(DFT)を用いて検討す
る。ピロンモノ付加体からはジ付加体が生成されないことが示されているので
[5,12,13 及び第 4 章],ここではフランモノ付加体に関してのみ議論する。また、
ソラレン化合物が付加する DNA 残基としてはチミンを用いた。
3.2 節では計算方法の詳細について述べる。3.3.1 節及び 3.3.2 節では,単体
及びフランモノ付加体における構造やスピン密度分布に関して考察する。それ
らの考察に基づき 3.3.3 節では,副作用の原因となるジ付加体を生成しない単官
能性ソラレン化合物の予測を行う。3.4 節は本章のまとめである。
3.2
計算方法
ソラレン,5-MOP 及び 8-MOP の単体及びフランモノ付加体の一重項基底(S0)
状態及び T1 状態における電子状態を DFT 法を用いて計算した。また,5 位及び
8 位の置換基を付け替えた 20 種類の化合物に関しても DFT 計算を行った。交換
相関汎関数には B3LYP [14-19],基底関数には Dunning の correlation-consistent
polarization plus valence double zeta (cc-pVDZ)基底関数[20]を用いた。S0 及び T1 状
態における各化合物の構造は全自由度を最適化した。上記計算は全て Gaussian
03 [21]プログラムを用いて行った。
- 26 -
X
O1’
C7
C8
C9
O1
C5’
C4’
C6
C5
O2”
C2
C3
C10
C4
Psoralen: X=H, Y=H
5-MOP: X=H, Y=OCH3
8-MOP: X=OCH3, Y=H
Y
図3-1 ソラレン化合物の構造式
結果と考察
3.3
3.3.1
ソラレン化合物単分子の T1 状態
ソラレン化合物単体での S0 及び T1 状態のエネルギーダイアグラムを図 3-2
に示す。S0 安定構造における S0 状態から T1 状態への垂直励起エネルギーは,ソ
ラレン,5-MOP 及び 8-MOP でそれぞれ 3.00,2.98 及び 2.99 eV であり,どれも
同程度である。
ソラレンと 5-MOP に関しては,T1 状態において閉環構造と開環構造の二種
類の安定構造が得られた。これらの構造の詳細は後に述べるが,閉環構造では
ピロン環は閉じたままであり,開環構造では O1-C2 結合が開裂している。そし
て,S0 状態での安定構造における T1 状態のエネルギーからの安定化エネルギー
は,閉環構造ではソラレンが 0.37 eV,5-MOP が 0.40 eV であるのに対し,開環
構造ではソラレンが 0.24 eV,5-MOP が 0.13 eV であり,閉環構造の方が開環構
造より安定であることがわかる。また T1 状態において,閉環構造と開環構造の
間には遷移状態が存在し,閉環構造から見た障壁の大きさはソラレンで 0.16 eV,
5-MOP で 0.30 eV であった。このことは,ソラレンと 5-MOP では T1 状態で閉環
及び開環構造の両方をとり得るが,より閉環構造をとりやすいことを示してい
る。
一方 8-MOP の T1 状態では,開環構造のみが安定構造として得られた。AIMD
シミュレーションによる研究でも,8-MOP は T1 状態では閉環構造を保つことが
- 27 -
できず,すぐに開環構造へと変化することが確認された[22]。T1 状態における
8-MOP の開環構造の安定化エネルギーは 0.48 eV であり,ソラレンや 5-MOP と
比べて大きい。また,8-MOP の場合には S0 状態での安定構造と開環構造の間に
遷移状態が発見されなかった。このことから,8-MOP はソラレンや 5-MOP と比
べて開環構造を取りやすいといえる。
ソラレン,5-MOP 及び 8-MOP の S0 状態での安定構造,T1 状態での閉環及
び開環構造における各原子間の結合長を表 3-1 にまとめる。T1 状態での閉環及
び開環構造に関しては,S0 状態での安定構造との差分を括弧内に示してある。
S0 状態での安定構造における C3-C4 及び C4’-C5’間距離は約 1.35 Å であり,こ
れは C=C 二重結合に相当している。また,メトキシ基からの電子供与の影響で,
5-MOP では C5-C10 及び C5-C6 結合,8-MOP では C7-C8 及び C8-C9 結合がソラ
レンと比べて長くなっているのがわかる。ソラレン骨格上の原子及びメトキシ
基内の酸素原子 Omethoxy,炭素原子 Cmethoxy は同一平面上にある。S0 状態での安定
構造に関する詳細な議論は第 4 章において行う [12]。
T1 状態における閉環構造では,C3-C4 結合はソラレン,5-MOP どちらに関
しても 0.1 Å 以上伸長している。また,C10-C9 及び C10-C5 結合も 0.04 Å ほど
長くなっている。その結果 C3-C4,C10-C9 及び C10-C5 間距離は約 1.46 Å とな
り,これは C-C 単結合に相当している。逆に,C2-C3 及び C4-C10 結合はソラレ
ンでは 0.041 及び 0.057 Å,5-MOP では 0.032 及び 0.057 Å ほど短くなっている。
残りの結合に関する変化は小さく,なかでもフラン環の結合長の変化は 0.003 Å
以下と小さい。
T1 状態における開環構造では,O1-C2 結合が開裂しており,O1-C2 間距離
はソラレン,5-MOP 及び 8-MOP でそれぞれ 2.219,2.222 及び 2.215 Å である。
それに伴い C2-C3 及び C9-O1 結合は約 0.1 Å 短くなっており,二重結合化した
といえる。C4-C10 及び C2-O2”結合も 0.02 Å,0.04 Å ほど短くなっている。開環
構造における C3-C4 結合の伸長は約 0.065 Å であり,これは閉環構造における変
化に比べて非常に小さい。他に,C10-C9 結合が約 0.06 Å,ベンゼン環内の C5-C6
及び C8-C9 結合がそれぞれ 0.04,0.05 Å ほど伸びている。また,閉環構造では
C4’-C5’ 間距離には大きな変化はなかったが,開環構造では約 0.2 Å 伸びている。
- 28 -
3.5
3.0
(a) Psoralen
T1
0.24
0.37
0.16
Energy [eV]
2.5
1.23
2.0
3.00
1.5
2.25
1.0
1.53
0.5
0
S0
0.38
S0
T1closed
T1open
TS
3.5
3.0
(b) 5-MOP
T1
0.40
0.30
Energy [eV]
2.5
0.13
1.33
2.0
2.98
1.5
2.22
1.0
1.52
0.5
0
S0
0.36
S0
T1closed
TS
3.5
3.0
(c) 8-MOP
T1
0.48
2.5
Energy [eV]
T1open
0.96
2.0
2.99
1.5
1.0
1.55
0.5
0
図3-2
S0
S0
T1closed
TS
T1open
ソラレン化合物の単体におけるS0及びT1状態のエネルギーダイアグラム
- 29 -
- 30 -
T1
1.412
1.419
1.458
1.386
1.469
1.366
1.222
1.440
1.387
1.423
1.400
1.382
1.360
1.448
1.357
1.382
T1
2.219 (+0.819)
1.357 ( -0.103)
1.416 (+0.063)
1.425 ( -0.018)
1.487 (+0.065)
1.257 ( -0.109)
1.167 ( -0.037)
1.394 ( -0.011)
1.433 (+0.038)
1.413 ( -0.003)
1.379 ( -0.009)
1.446 (+0.051)
1.376 (+0.013)
1.420 ( -0.027)
1.380 (+0.024)
1.358 ( -0.021)
open c
T1状態での閉環安定構造における結合長. 括弧内はS0状態での安定構造との差
(+0.012)
( -0.041)
(+0.105)
( -0.057)
(+0.047)
( 0.000)
(+0.018)
(+0.035)
( -0.008)
(+0.007)
(+0.012)
( -0.013)
( -0.003)
(+0.001)
(+0.001)
(+0.003)
closed b
Psoralen
T1
1.409
1.425
1.457
1.383
1.454
1.370
1.218
1.464
1.408
1.411
1.412
1.372
1.359
1.445
1.357
1.374
1.353
5-MOP
(+0.006)
( -0.032)
(+0.102)
( -0.057)
(+0.036)
(+0.007)
(+0.013)
(+0.045)
( 0.000)
( -0.010)
(+0.025)
( -0.021)
( -0.004)
( -0.011)
(+0.003)
( -0.001)
( -0.006)
closed b
T1
2.222 (+0.819)
1.354 ( -0.103)
1.420 (+0.065)
1.420 ( -0.020)
1.471 (+0.053)
1.257 ( -0.106)
1.169 ( -0.036)
1.410 ( -0.009)
1.449 (+0.041)
1.417 ( -0.004)
1.387 ( 0.000)
1.448 (+0.055)
1.375 (+0.012)
1.427 ( -0.029)
1.379 (+0.025)
1.352 ( -0.023)
1.363 (+0.004)
open c
1.422 1.423 (+0.001) 1.418 ( -0.004)
S0
1.403
1.457
1.355
1.440
1.418
1.363
1.205
1.419
1.408
1.421
1.387
1.393
1.363
1.456
1.354
1.375
1.359
a
a
8-MOP
T1open c
2.215 (+0.819)
1.356 ( -0.105)
1.418 (+0.065)
1.424 ( -0.020)
1.477 (+0.061)
1.256 ( -0.110)
1.168 ( -0.037)
1.394 ( -0.010)
1.430 (+0.037)
1.401 ( -0.016)
1.408 (+0.007)
1.465 (+0.053)
1.378 (+0.005)
1.429 ( -0.018)
1.370 (+0.016)
1.363 ( -0.013)
1.352 1.336 ( -0.016)
1.428 1.431 (+0.003)
S0
1.396
1.461
1.353
1.444
1.416
1.366
1.205
1.404
1.393
1.417
1.401
1.412
1.373
1.447
1.354
1.376
S0及びT1状態でのソラレン化合物単体の安定構造における結合長 [Å]
T1状態での開環安定構造における結合長. 括弧内はS0状態での安定構造との差
c
b
S0状態での安定構造における結合長
a
O1-C2
C2-C3
C3-C4
C4-C10
C10-C9
C9-O1
C2-O2"
C10-C5
C5-C6
C6-C7
C7-C8
C8-C9
C7-O1'
C6-C4'
C4'-C5'
C5'-O1'
C5-Omethoxy
C8-Omethoxy
Omethoxy-Cmethoxy
S0
1.400
1.460
1.353
1.443
1.422
1.366
1.204
1.405
1.395
1.416
1.388
1.395
1.363
1.447
1.356
1.379
a
表3-1
ソラレン,5-MOP 及び 8-MOP に関して,S0 状態での安定構造,T1 状態での
閉環及び開環構造の三種類の構造における T1 状態での各原子のスピン密度を表
3-2 に示す。S0 状態での安定構造において T1 状態に垂直励起した場合には,ソ
ラレンと 5-MOP では C3 及び C4 上に大きなスピン密度を持っている。C3 及び
C4 のスピン密度は,ソラレンでは 0.536 及び 0.369,5-MOP では 0.487 及び 0.215
である。このことは垂直励起したことによって C3-C4 部位の反応性が増したこ
とを表している。また,ソラレンの O2”及び C7 が 0.308 及び 0.257,5-MOP の
C5 及び C8 が 0.455 及び 0.270 と大きなスピン密度を持っている。C3-C4 部位と
並ぶもう一方の光反応部位である C4’-C5’部位に関しては,ソラレン,5-MOP と
もスピン密度は小さく,0.1 以下である。一方 8-MOP では,C3 及び C4 のスピ
ン密度は 0.167 及び 0.093 であり,ソラレンや 5-MOP の場合と比べて小さい。
逆に C4’,C5’に関しては,0.076 及び 0.200 と大きくなっている。このことから,
8-MOP ではソラレンや 5-MOP と比べて C4’-C5’部位の反応性が増加しており,
逆に C3-C4 部位の反応性が減少していることがわかる。また,5-MOP と同様に,
8-MOP の場合にも C5,C8 のスピン密度は大きい。
T1 状態での閉環構造に関して,C3 及び C4 のスピン密度はソラレンでは
0.638 及び 0.414,5-MOP では 0.665 及び 0.383 であり,S0 状態での安定構造の場
合よりも大きくなっている。これは,T1 状態への励起後の構造緩和によって
C3-C4 部位が単結合化し,より反応性が増したためであると考えられる。O2”,
C5 及び C7 のスピン密度も 0.2 以上であり大きい。C8 に関しては,S0 状態での
安定構造では大きなスピン密度を持っていたが,T1 状態での閉環構造では 0.1
以下と小さくなっている。
T1 状態での開環構造においては,C4 のスピン密度は 0.5 以上と大きいのに
対し,C3 のスピン密度は 0.025 以下であり小さい。同様に,C7 のスピン密度も
ほぼ零まで激減している。C8 のスピン密度はソラレン,5-MOP 及び 8-MOP で
0.329,0.397 及び 0.300 と大きい。C5 のスピン密度は 0.2 以上であり,閉環構造
における値と同程度である。開環構造では O1 及び C5’のスピン密度も大きくな
っている。このスピン密度分布は,O1-C2 結合の開裂は C3-C4 部位の反応性を
減少させ C4’-C5’部位の反応性をやや増加させることを示している。
- 31 -
- 32 -
S0
+0.075
-0.010
+0.308
+0.536
+0.369
+0.197
+0.026
+0.257
-0.085
+0.188
+0.123
-0.009
-0.019
+0.098
Psoralen
T1closed b
+0.053
-0.052
+0.332
+0.638
+0.414
+0.267
-0.035
+0.267
-0.106
+0.186
+0.050
+0.004
+0.006
+0.035
c
open c
T1
+0.296
+0.168
+0.125
-0.004
+0.481
+0.265
+0.184
-0.008
+0.329
+0.002
-0.025
+0.017
-0.028
+0.259
T1状態での閉環安定構造におけるスピン密度
T1状態での開環安定構造におけるスピン密度
b
S0状態での安定構造におけるスピン密度
a
O1
C2
O2"
C3
C4
C5
C6
C7
C8
C9
C10
O1'
C4'
C5'
Omethoxy
Cmethoxy
a
S0
+0.012
-0.003
+0.137
+0.487
+0.215
+0.455
-0.072
+0.134
+0.270
-0.083
+0.188
+0.052
+0.081
+0.030
+0.136
-0.010
a
5-MOP
T1closed b
+0.034
-0.049
+0.253
+0.665
+0.383
+0.340
-0.107
+0.224
-0.012
+0.086
+0.089
+0.029
+0.058
-0.035
+0.086
-0.006
T1
+0.274
+0.162
+0.110
-0.024
+0.491
+0.254
+0.198
-0.022
+0.397
-0.007
-0.088
+0.029
-0.018
+0.247
+0.048
-0.004
open c
a
8-MOP
S0
T1open c
+0.077
+0.287
+0.024
+0.167
+0.097
+0.118
+0.167
-0.014
+0.093
+0.493
+0.641
+0.306
+0.037
+0.122
-0.005
-0.008
+0.350
+0.300
+0.114
+0.048
-0.014
-0.064
+0.045
+0.035
+0.076
-0.015
+0.200
+0.159
+0.144
+0.109
-0.010
-0.008
表3-2 ソラレン化合物単体での
ソラレン化合物単体でのT
T1状態におけるスピン密度
以上の結合長やスピン密度分布の変化は,T1 状態における閉環及び開環構
造では図 3-3 に示すような結合交替が起こっていることを表している。C3-C4 部
位の反応性は閉環構造では大きいが開環構造では小さく,このことは開環構造
では C3-C4 部位への光付加反応が起こりにくいことを示している。
X
X
O
O
O
X
O
O
O
O
O
Y
Y
Y
S0
T1closed
T1open
C
O
図3-3 S0状態での安定構造,T1状態での閉環及び開環構造
におけるソラレン化合物の結合様式
3.3.2
フランモノ付加体の T1 状態
モノ付加体には図 3-4 に示すようなフランモノ付加体とピロンモノ付加体
の二種類がある。ピロンモノ付加体からはジ付加体が生成されないことが報告
されているため[5,12,13],この節ではフランモノ付加体に関して議論する。
図 3-5 にソラレン化合物のモノ付加体に関するエネルギーダイアグラムを示
す。8-MOP に関しては厳密な遷移状態が発見されなかったので,O1-C2 間距離
を 0.005 Å ずつ変化させて作成したポテンシャル曲線から障壁の高さを見積も
った。このポテンシャル曲線の作成においては O1-C2 間距離以外の全ての自由
度を最適化した。
- 33 -
X
O
N
O1’
N
O
H3 C
O1’
C7
C6
C8
C9
O1
C5’
C4’
X
C8
C9
O1
C5’
C4’
C7
C5
O2”
C2
C5
Y
C3
C10
C4
O
N
C3
C10
C6
O2”
C2
N
C4
Y
O
Furan monoadduct
CH3
Pyrone monoadduct
図3-4 ソラレン化合物のフランモノ付加体の構造式
T1 状態における安定構造として,ソラレン及び 5-MOP のフランモノ付加体
では閉環構造と開環構造の両方が得られた。この閉環構造は S0 状態での安定構
造における T1 状態のエネルギーと比べて 0.35 eV 安定化しているが,単体のと
きとは異なり開環構造は 0.16 eV 不安定化している。また,閉環構造と開環構造
の間の障壁はソラレンでは 0.51 eV,5-MOP では 0.63 eV であり,単体のときと
比べて 2 倍近く大きくなっている。
8-MOP の T1 状態に関しては,単体の場合には開環構造しか存在しなかった
が,フランモノ付加体の場合には閉環構造と開環構造の双方が安定構造として
得られた。ソラレンや 5-MOP の場合とは異なり,8-MOP ではフランモノ付加体
の場合にも開環構造が安定化している。閉環構造及び開環構造の安定化エネル
ギーはそれぞれ 0.36 及び 0.19 eV である。これらの結果から,単体だけでなくフ
ランモノ付加体においても,8-MOP はソラレンや 5-MOP より開環構造を取りや
すいことが示された。
- 34 -
3.5
3.0
(a) Psoralen
T1
0.35
0.51
Energy [eV]
2.5
0.16
2.0
2.90
1.5
2.21
1.0
1.36
0.5
0
S0
0.34
T1closed
S0
T1open
TS
3.5
3.0
(b) 5-MOP
T1
0.35
0.63
Energy [eV]
2.5
0.16
2.0
2.91
1.5
2.21
1.0
1.42
0.5
0
S0
0.35
T1closed
S0
T1open
TS
3.5
3.0
(c) 8-MOP
T1
0.36
0.39
0.19
Energy [eV]
2.5
1.11
0.83
2.0
2.90
1.5
1.0
1.60
1.71
0.5
0
S0
S0
T1closed
TS
T1open
図3-5 ソラレン化合物のフランモノ付加体におけるS0及びT1状態の
エネルギーダイアグラム
- 35 -
フランモノ付加体のソラレン骨格部分の結合長及びスピン分布を表 3-3 及
び 3-4 に示す。フランモノ付加体では C4’-C5’結合はチミンの C5-C6 結合と環を
形成しているため,約 1.56 Å まで伸長している。C6-C4’及び C5’-O1’結合も約
1.51 及び 1.44 Å まで伸びている。
T1 状態における閉環構造では,C3-C4 結合は約 0.1 Å 長くなっており,また
C3 及び C4 のスピン密度は約 0.64 及び 0.35 である。この結合の伸長と大きなス
ピン密度は C3-C4 部位の反応性が増加していることを表している。
T1 状態における開環構造では,O1-C2 結合は開裂し,その距離は 2.2 Å 以上
となっている。C3-C4 結合の伸長は 0.06 Å 程度であり,閉環構造の場合と比べ
て小さい。また,閉環構造では C3,C4 とも大きなスピン密度を持っているのに
対し,開環構造では C4 は 0.5 と大きなスピン密度を持っている一方で C3 のス
ピン密度は 0.04 と非常に小さい。これらのことから,開環構造では C3-C4 部位
の反応性が減少していることがわかる。フランモノ付加体における閉環構造と
開環構造のスピン密度分布の差の傾向は,単体のときと同様である。以上の結
果から,8-MOP は安定な開環構造を持っているためソラレンや 5-MOP と比べて
副作用の原因となるジ付加体の生成が起こりにくいことが予想される。
- 36 -
- 37 -
c
T1状態での閉環安定構造における結合長. 括弧内はS0状態での安定構造との差
T1状態での開環安定構造における結合長. 括弧内はS0状態での安定構造との差
b
5-MOP
T1closed b
1.413 (+0.002)
1.425 ( -0.029)
1.454 (+0.097)
1.383 ( -0.054)
1.453 (+0.043)
1.369 (+0.011)
1.218 (+0.014)
1.468 (+0.039)
1.388 ( -0.010)
1.419 (+0.003)
1.401 (+0.018)
1.379 ( -0.020)
1.366 ( -0.002)
1.514 ( 0.000)
1.555 ( 0.000)
1.433 ( -0.001)
1.352 ( -0.003)
T1open c
2.255 (+0.844)
1.358 ( -0.096)
1.414 (+0.057)
1.437 ( 0.000)
1.478 (+0.068)
1.262 ( -0.096)
1.168 ( -0.036)
1.400 ( -0.029)
1.421 (+0.023)
1.406 ( -0.010)
1.376 ( -0.007)
1.445 (+0.046)
1.377 (+0.009)
1.493 ( -0.021)
1.557 (+0.002)
1.441 (+0.007)
1.372 (+0.017)
1.428 1.427 ( -0.001) 1.444 (+0.016)
S0a
1.411
1.454
1.357
1.437
1.410
1.358
1.204
1.429
1.398
1.416
1.383
1.399
1.368
1.514
1.555
1.434
1.355
8-MOP
T1closed b
1.415 (+0.007)
1.426 ( -0.031)
1.452 (+0.096)
1.383 ( -0.057)
1.460 (+0.045)
1.370 (+0.009)
1.218 (+0.014)
1.450 (+0.038)
1.371 ( -0.012)
1.416 (+0.009)
1.416 (+0.021)
1.390 ( -0.021)
1.361 ( -0.005)
1.506 ( -0.002)
1.555 ( -0.002)
1.436 (+0.001)
1.361 ( -0.001)
T1open c
2.328 (+0.920)
1.350 ( -0.107)
1.422 (+0.066)
1.424 ( -0.016)
1.472 (+0.057)
1.264 ( -0.097)
1.168 ( -0.036)
1.399 ( -0.013)
1.420 (+0.037)
1.375 ( -0.032)
1.422 (+0.027)
1.460 (+0.049)
1.373 (+0.007)
1.507 ( -0.001)
1.560 (+0.003)
1.436 (+0.001)
1.331 ( -0.031)
1.440 1.440 ( 0.000) 1.442 (+0.002)
S0a
1.408
1.457
1.356
1.440
1.415
1.361
1.204
1.412
1.383
1.407
1.395
1.411
1.366
1.508
1.557
1.435
1.362
S0及びT1状態におけるソラレン化合物モノ付加体の結合長 [Å]
Psoralen
T1closed b
T1open c
1.417 (+0.009) 2.234 (+0.826)
1.422 ( -0.035) 1.360 ( -0.097)
1.452 (+0.096) 1.412 (+0.056)
1.383 ( -0.056) 1.437 ( -0.002)
1.464 (+0.049) 1.481 (+0.066)
1.365 (+0.006) 1.262 ( -0.097)
1.219 (+0.015) 1.167 ( -0.037)
1.448 (+0.035) 1.395 ( -0.018)
1.373 ( -0.010) 1.415 (+0.032)
1.418 (+0.008) 1.408 ( -0.002)
1.402 (+0.015) 1.378 ( -0.009)
1.383 ( -0.018) 1.441 (+0.040)
1.367 (+0.001) 1.376 (+0.010)
1.507 ( -0.001) 1.499 ( -0.009)
1.555 ( -0.002) 1.557 ( 0.000)
1.435 ( 0.000) 1.431 ( -0.004)
S0状態での安定構造における結合長
a
O1-C2
C2-C3
C3-C4
C4-C10
C10-C9
C9-O1
C2-O2"
C10-C5
C5-C6
C6-C7
C7-C8
C8-C9
C7-O1'
C6-C4'
C4'-C5'
C5'-O1'
C5-Omethoxy
C8-Omethoxy
Omethoxy-Cmethoxy
S0a
1.408
1.457
1.356
1.439
1.415
1.359
1.204
1.413
1.383
1.410
1.387
1.401
1.366
1.508
1.557
1.435
表3-3
表3-4
ソラレン化合物モノ付加体でのT
ソラレン化合物モノ付加体での
T1状態におけるスピン密度
Psoralen
T1
T1open b
+0.056 +0.342
-0.050 +0.188
+0.294 +0.153
+0.633 +0.033
+0.354 +0.499
+0.206 +0.087
-0.020 +0.364
+0.295 -0.014
-0.104 +0.211
+0.193 -0.001
+0.090 +0.141
+0.092 +0.013
-0.002 -0.028
-0.006 +0.002
closed a
O1
C2
O2"
C3
C4
C5
C6
C7
C8
C9
C10
O1'
C4'
C5'
Omethoxy
Cmethoxy
5-MOP
T1
T1open b
+0.053 +0.345
-0.051 +0.189
+0.269 +0.145
+0.655 +0.016
+0.367 +0.513
+0.196 +0.081
-0.097 +0.376
+0.305 -0.023
-0.076 +0.239
+0.182 -0.002
+0.110 +0.111
+0.079 +0.009
+0.005 -0.031
-0.006 +0.005
+0.046 +0.002
-0.004 +0.010
closed a
8-MOP
T1
T1open b
+0.052 +0.344
-0.048 +0.177
+0.272 +0.111
+0.637 -0.040
+0.345 +0.518
+0.225 +0.264
-0.043 +0.112
+0.319 +0.073
-0.083 +0.306
+0.177 +0.053
+0.092 -0.075
+0.103 +0.023
-0.000 -0.008
-0.007 -0.001
-0.001 +0.152
-0.002 -0.008
closed a
a
T1状態での閉環安定構造におけるスピン密度
b
T1状態での開環安定構造におけるスピン密度
3.3.3
単官能性ソラレン化合物の予測
3.3.1 節及び 3.3.2 節の結果から,T1 状態において安定な開環構造を持つソラ
レン化合物は単官能性ソラレンとなり得ることがわかった。単官能性ソラレン
は副作用を誘発する可能性が低いため,どのようなソラレン化合物が開環構造
において安定化しやすいかを調査することは重要である。そこで本節では,開
環構造の安定性と置換基の関係を調べるため,8 位または 5 位の置換基を付け替
えた 20 種類のソラレン化合物に関して,T1 状態で得られた安定構造における安
定化エネルギーを計算した。具体的には,8 位の置換基 X を OCH2CH3, NH2,
OCH2CH2CH3, OH, SH, SCH3, OCF3, CHO, F, CN, COOH, CH3, CF3, 及び NO2 に付
け替えた 14 種類(8-X),5 位の置換基 Y を CH3, OH, OCH2CH3, NO2 及び CN に付
け替えた 5 種類(5-Y),及び 5 位と 8 位を双方とも OCH3 に付け替えた
- 38 -
5,8-dimethoxypsoralen (8-X-5-Y; X = Y = OCH3)に関して計算を行った。各分子に
おける T1 状態での閉環構造と開環構造の安定化エネルギーを表 3-5 に示す。比
較のため,ソラレン(8-H-5-H),5-MOP(5-OCH3)及び 8-MOP(8-OCH3)に関しても
再度示した。表中には閉環構造と開環構造の安定化エネルギーの差も示す。こ
れは閉環構造と開環構造の相対的な安定性に対応しており,正であるほど開環
構造の方が閉環構造より安定である。置換基効果を示す指標として Hammett 定
数σp を示す。また、σR は置換基効果のうちの共鳴効果の大きさを表す。σが負で
あるほど電子供与性が大きい。
表 3-5 で,8 位に電子供与置換基 X = OCH2CH3, OCH3 (8-MOP), NH2 及び
OCH2CH2CH3 をもつ 8-X 化合物では,T1 状態において開環構造だけが安定構造
として得られ,閉環構造は得られなかった。これらの置換基は強い電子供与性
置換基であり,特にπ電子供与共鳴効果を持っている。X = OH, SH, SCH3, OCF3
及び CHO をもつ 8-X 化合物に関しては,
閉環及び開環構造の両方が存在するが,
開環構造の方がより安定である。8-F 及び 8-CN では閉環構造と開環構造のエネ
ルギー差は 0.005 eV 以下であり,どちらも同程度に安定である。8 位に電子吸引
性置換基 X = COOH, CF3 及び NO2 をもつ 8-X では閉環構造の方が開環構造より
安定化している。例外的に,電子供与性置換基である CH3 の場合も閉環構造の
方が安定である。
5-Y や 8-X-5-Y に関しては,どの置換基の場合でも開環構造より閉環構造の
方が安定である。5 位の置換基が Y = CH3, OH, OCH3 (5-MOP)及び OCH2CH3 の場
合には,閉環構造が開環構造より 0.2 eV 以上安定化している。強い電子吸引性
置換基 NO2 または CN を 5 位にもつ 5-Y では,閉環構造のみが安定構造として
得られ,開環構造は得られなかった。5 位,8 位の双方を OCH3 で置換した
8-OCH3-5-OCH3 では,5-MOP と比べて閉環構造と開環構造のエネルギー差が小
さくなっており,
5 位と 8 位の OCH3 の効果が打ち消しあっていることがわかる。
8-X 及び 5-X に関して,置換基の電子供与性の程度を表す Hammett 定数と
T1 状態での閉環及び開環構造の安定化エネルギーの関係を図 3-6 にまとめる。
図 3-6(a)は 8-X 及び 5-Y における閉環構造での安定化エネルギーを X 及び Y の
Hammett 定数σp を横軸にとってまとめたものである。図中の 8-X 及び 5-Y の分
- 39 -
置換ソラレン化合物のT1状態での安定化エネルギー [eV]
表3-5
X
Substituent
Y
σp
a
σR
a
T1
closed b
Stabilization energy
open c
open
closed d
T1
− T1
)
∆(T1
8-X
OCH2CH3
OCH3
NH2
OCH2CH2CH3
OH
SH
SCH3
OCF3
CHO
F
CN
COOH
CH3
CF3
NO2
H
H (8-MOP)
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
H
-0.24
-0.27
-0.66
−
-0.37
0.15
0.00
0.35
0.42
0.06
0.66
0.45
-0.17
0.54
0.78
-0.44
-0.43
-0.48
−
-0.43
-0.15
-0.17
-0.04
0.24
-0.34
0.13
0.29
-0.11
0.10
0.15
−
−
−
−
0.404
0.378
0.368
0.399
0.320
0.401
0.389
0.337
0.370
0.375
0.325
0.530
0.476
0.471
0.468
0.508
0.464
0.419
0.449
0.341
0.405
0.388
0.312
0.324
0.295
0.243
−
−
−
−
+0.104
+0.086
+0.051
+0.049
+0.022
+0.004
-0.001
-0.026
-0.046
-0.081
-0.082
5-Y
H
H
H
H
H
H
CH3
OH
OCH3 (5-MOP)
OCH2CH3
NO2
CN
-0.17
-0.37
-0.27
-0.24
0.78
0.66
-0.11
-0.43
-0.43
-0.44
0.15
0.13
0.374
0.392
0.397
0.372
0.313
0.371
0.200
0.201
0.132
0.106
−
−
-0.173
-0.191
-0.266
-0.266
−
−
H (Psoralen)
-0.27 -0.43
−
−
0.339
0.371
0.254
0.244
-0.085
-0.127
8-X-5-Y OCH3
H
a
参考文献[23]
b
T1状態での閉環安定構造における安定化エネルギー
c
T1状態での開環安定構造における安定化エネルギー
d
閉環構造と開環構造の安定化エネルギーの差
- 40 -
布は安定化エネルギーの大きさに関して 0.3∼0.4 eV の範囲に集中しており,置
換基の電子供与性の変化に対する安定化エネルギーの変化は小さい。また,8-X
と 5-Y の分布の挙動は共通しており,置換基の電子供与性が大きいほど閉環構
造の安定化エネルギーが大きいことがわかる。図 3-6(b)には 8-X 及び 5-Y におけ
る開環構造での安定化エネルギーを X 及び Y の Hammett 定数σp に対して図示し
た。閉環構造と比べ開環構造では安定化エネルギーが広範囲に分布している。
特に,8-X は 0.2∼0.55 eV,5-Y は 0.1∼0.2 eV の範囲に分布しており,8-X と 5-Y
では 8-X の方が安定化エネルギーが大きいことがわかる。また,8-X と 5-Y では
分布の挙動も異なっており,8-X では置換基の電子供与性が大きくなるにつれ開
環構造の安定化エネルギーが増加するが,5-Y では明確な傾向は見られない。
閉環構造と開環構造の相対的な安定性と置換基の電子供与性の大きさの関
係を調べるため,閉環構造と開環構造の安定化エネルギーの差を Hammett 定数
σp 及びσR に対してプロットしたものを図 3-6(c1)及び(c2)に示す。図 3-6(c1)及び
(c2)での各化合物の分布は図 3-6(b)と同様であり,閉環構造と開環構造の相対的
な安定性は,開環構造の安定性にのみ大きく依存することがわかる。これは,
閉環構造の安定性は置換基の電子供与性にあまり依存しないのに対し,開環構
造の安定性は置換基の電子供与性の大きさによって大きく変化するためである。
図 3-6(c1)及び(c2)中で縦軸が零以上の範囲に位置している化合物では開環構造
の方が閉環構造よりも安定であり,
その全てが 8-X 化合物である。
特に、
図 3-6(c2)
においては、その多くが第二象限に属している。以上の結果から,開環構造の
安定性は置換基の付く位置や電子供与性の大きさと相関があり,8 位に電子供与
性共鳴効果の大きい置換基をもつ化合物では開環構造の方が閉環構造より安定
になる傾向があることが明らかとなった。よって,8 位に電子供与性共鳴効果の
大きい置換基を付加すれば,T1 状態において開環構造が安定化し,副作用を引
き起こす可能性の高いジ付加体を生成しない単官能性化合物となり得ることが
示唆された。
- 41 -
(a) Closed-ring structure
(b) Open-ring structure
0.6
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
-0.6
8-X
5-Y
0.5
Stabilization energy [eV]
0.5
Stabilization energy [eV]
0.6
8-X
5-Y
0.4
0.3
0.2
0.1
-0.4
-0.2
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
0.0
-0.8
1.0
-0.6
-0.4
Hammett σp
-0.2
0.0
0.2
Hammett σp
0.4
0.6
0.8
1.0
(c) Differences between closed-ring and open-ring structures
(c1) vs. σp
(c2) vs. σR
0.15
0.15
8-X
5-Y
0.10
0.05
Stabilization energy [eV]
Stabilization energy [eV]
0.05
0.0
-0.05
-0.10
-0.15
-0.20
-0.25
-0.30
-0.6
8-X
5-Y
0.10
0.0
-0.05
-0.10
-0.15
-0.20
-0.25
-0.4
-0.2
0.0
0.2
Hammett σp
0.4
0.6
0.8
1.0
-0.30
-0.6
-0.4
-0.2
0.0
0.2
0.4
Hammett σR
図3-6 8-X 及び5-Y化合物におけるT1状態での閉環,開環構造の安定化エネル
ギー及びそれらの差とHammett定数の相関図
- 42 -
3.4
結論
この章では,ソラレン,5-MOP 及び 8-MOP の単体及びフランモノ付加体に
関する T1 状態の電子状態を DFT 法により検討した。その結果,T1 状態ではピロ
ン環の O1-C2 結合が開裂した特異な開環構造が存在することが明らかとなった。
この開環構造に関して結合長やスピン密度分布を調べた結果,C3-C4 部位の反応
性が減少していることが示され,開環構造では C3-C4 部位への付加反応が起こ
りにくいことが示された。特に,T1 状態において,ソラレンや 5-MOP では閉環
構造と開環構造の二種類の安定構造があるのに対し,8-MOP では開環構造のみ
が安定に存在することがわかった。以上の結果から,ソラレンや 5-MOP と比べ
て 8-MOP は副作用の原因となるジ付加体を生成しにくいことが示唆された。さ
らに,8-MOP 以外にもジ付加体を生成しない単官能性ソラレン化合物を予測す
るため,5 位及び 8 位に様々な置換基を付加した化合物に関して T1 状態での安
定構造を計算した。その結果,開環構造の安定性は置換基の付く位置及び電子
供与性の大きさと相関があることが示され,8 位に電子供与性共鳴効果の大きい
置換基を付加すると開環構造が安定化する傾向があることがわかった。以上の
結果から,8 位に電子供与性共鳴効果の大きい置換基を付加した化合物は単官能
性化合物である可能性が高いことが示唆された。
- 43 -
第 3 章の参考文献
[1] T. Otsuki, J. Synthetic Org. Chem., Japan 49, 809 (1991).
[2] R. V. Bensasson, E. J. Land, and T. G. Truscott, in Excited States and Free Radicals
in Biology and Medicine (Oxford University Press, New York, 1993).
[3] P. S. Song and K. J. Tapley, Jr., Photochem. Photobiol. 29, 1177 (1979).
[4] D. Bethea, B. Fullmer, S. Syed, G. Seltzer, J. Tiano, C. Rischko, L. Gillespie, D.
Brown, and F. P. Gasparro, J. Dermatol. Sci. 19, 78 (1999) (and references therein).
[5] D. Kanne, K. Straub, H. Rapoport, and J. E.Hearst, Biochemistry 21, 861 (1982).
[6] Y. Uesugi and H. Takahashi, Symposium on Structure Dynamics and Control of
Excited States, Hawaii, 1995.
[7] J. J. Serrano-Pérez, L. Serrano-Andrés, and M. Merchán, J. Chem. Phys. 124,
124502 (2006).
[8] J. Tatchen, M. Kleinschmidt, and C. M. Marian, J. Photochem. Photobiol. A: Chem.
167, 201 (2004).
[9] C. M. Estévetz, A. M. Graña, M. A. Ríos, and J. Rodríguez, J. Mol. Struct.
(Theochem) 231, 163 (1991).
[10] R. Boggia, M. Fanciullo, L. Finzi, O. Incani, and L. Mosti, Il Farmaco 54, 202
(1999).
[11] A. D. S. Marques, Y. Takahata, J. R. L. Junior, M. C. Souza, S. S. Simoes, W. M.
Azevedo, and G. F. de Sa, J. Lumin. 97, 237 (2002).
[12] A. Nakata, B. Takeshi, H. Takahashi, and H. Nakai, J. Comput. Chem. 25, 179
(2004).
[13] H. P. Spielmann, T. J. Dwyer, J. E. Hearst, and D. E. Wemmer, Biochemistry 34,
12937 (1995).
[14] A. D. Becke, J. Chem. Phys. 98, 5648 (1993).
[15] P. J. Stevens, F. J. Devlin, C. F. Chabalowski, and M. J. Frisch, J. Phys. Chem. 98,
11623 (1994).
[16] J. C. Slater, Phys. Rev. 81, 385 (1951).
[17] A. D. Becke, Phys. Rev. A 38, 3098 (1988).
- 44 -
[18] S. H. Vosko, L. Wilk, and M. Nusair, Can. J. Phys. 58, 1200 (1980).
[19] C. Lee, W. Yang, and R. G. Parr, Phys. Rev. B 37, 785 (1988).
[20] T. H. Dunning, Jr., J. Chem. Phys. 90, 1007 (1989).
[21] M. J. Frisch, et al., Gaussian 03, Revision C.02, Gaussian, Inc., Wallingford, CT,
2004.
[22] H. Nakai, Y. Yamauchi, A. Nakata, T. Baba, and H. Takahashi, J. Chem. Phys. 119,
4223 (2003).
[23] S. L. Murov, L. Carmichael, and G. L. Hug, in Handbook of Photochemistry
(Marcel Dekker, Inc., New York, 1993), 2nd ed.
- 45 -
第4章
ソラレン化合物の一重項励起状態と DNA 残基への
光付加反応
4.1 序
ソラレン(7-H-furo[3,2-g][1]benzopyran-7-one)化合物は乾癬,白斑などの皮膚
病の光治療薬の一種である[1]。 これらの疾病では,DNA 合成のコントロール
に障害が生じ,その結果として細胞の増殖にも障害を生じる。ソラレン化合物
は図 4-1 のような構造を持っており,一般にはピリミジン塩基を介して DNA 鎖
に結合することにより DNA の異常増殖を抑制すると考えられている。ソラレン
化合物を用いた光治療では近 UV-A 光(300∼400 nm)を用いるため,PUVA
(Psoralen-UV-A)療法と呼ばれている。PUVA 療法では,DNA らせん内の隣接し
ているチミン残基の間にソラレン化合物が入り込み,UV-A 光照射下で二つのピ
リミジン塩基と光反応を起こして DNA 鎖間を架橋する。
この光付加反応過程は図 4-1 に示すような二段階反応であると考えられて
いる[1]。一段階目では,ソラレン化合物が一光子を吸収し,チミン残基の C5-C6
二重結合に付加することによって,モノ付加体を形成する。モノ付加体にはフ
ラン環の C4’-C5’二重結合部位が付加したフランモノ付加体と,ピロン環の
C3-C4 二重結合部位が付加したピロンモノ付加体の二種類がある。二段階目では,
モノ付加体がもう一光子吸収することによって,残ったもう一方の光反応部位
が向かいの DNA 鎖のチミンに付加する。こうして,二段階目でジ付加体が生成
され,DNA 間が架橋されることとなる[1-3]。しかし,ジ付加体の生成はしばし
ば DNA を損傷させ,その修復には長い時間を要する。それゆえ,ジ付加体は副
作用を引き起こし発ガンや突然変異の原因になると考えられている[1-3]。
これまでの研究で,フランモノ付加体からはジ付加体が生成されるがピロ
ンモノ付加体からは生成されないことが実験的に示されている[4,5]。これら二つ
のモノ付加体の反応メカニズムの違いを考察するには,それらの基底及び励起
状態での電子状態,加えてソラレン化合物単体での電子状態を知ることが重要
である。しかし,これまでの励起状態における実験及び理論計算のほとんどが
- 46 -
単体に関するもののみであった。
本 研 究 で は , 時 間 依 存 密 度 汎 関 数 理 論 (TDDFT) を 用 い て ソ ラ レ ン ,
5-methoxypsoralen (5-MOP)及び 8-methoxypsoralen (8-MOP)の単体,フランモノ付
加体及びピロンモノ付加体の励起状態計算を行った。その結果から,単体の UV
スペクトルに関して新たな帰属を行った。またモノ付加体に関して,チミン残
基への付加が基底及び励起状態での電子状態に与える影響について調べ,二つ
のモノ付加体の違いについて議論した。
Thymine Re sidue
{
N
NH
X
NH
H3C
Psoralen Compounds
1
X
1O
’ O7 8 9 O
5’
{
Psoralen : X=Y=H
5-MOP : X=H, Y= OCH 3
8-MOP : X=OCH3 , Y=H
O
N
O
4’ 6 5
Y
10 4
O
H3 C
2”
O
O
O
O
NH
2
3
N
O
Y
Step-I
H3C
N
Step-II
HN
O
O
O
O
Y
X
pyrone- Y
monoadduc t
O
O
N
HN
O
O
O
O
N
HN
O
CH 3
Monoadduct
ソラレン化合物とDNAの光付加反応スキーム
- 47 -
X
CH3
NH
CH 3
Inte rcaltio n
O
O
O
N
H 3C
図4-1
O
N
O
HN
O
fur anmo noa dduct
Diadduct
CH3
4.2 計算方法
ソラレン化合物の基底及び励起状態での電子状態を DFT 法及び TDDFT 法
で計算した。チミン残基の付加していない単体でのソラレン,5-MOP,8-MOP
及びそれらの C3-C4 または C4’-C5’部位がチミン残基に付加したピロン及びフラ
ンモノ付加体を対象とした。DFT 及び TDDFT 計算での交換相関汎関数には
B3LYP [11-15]を用いた。基底関数には Dunning の correlation-consistent polarization
plus valence double zeta (cc-pVDZ) [16] を 用 い た 。 基 底 状 態 で の 構 造 は
B3LYP/cc-pVDZ レベルで最適化した。計算は全て Gaussian98 プログラムを用い
て行った[17]。
4.3 結果と考察
4.3.1
ソラレン化合物単分子の基底状態
表 4-1 にソラレン,5-MOP 及び 8-MOP の基底状態における結合長を示す。
ベンゼン環は共鳴しているため,C-C 間結合(C5-C6,C6-C7,C7-C8,C8-C9,
C9-C10 及び C10-C5)の長さはどれも 1.39∼1.42 Å であり,これは一般の共役結
合の長さと同程度である。一方,ピロン環,フラン環は共鳴構造ではないため,
C3-C4 及び C4’-C5’結合は約 1.35 Å であり,これは C=C 二重結合に相当する。
また,C2-C3,C4-C10 及び C6-C4’結合は約 1.45 Å であり,通常の C-C 単結合よ
りやや短い。
また,ソラレンと比べて 5-MOP では C5-C10 及び C5-C6 結合がそれぞれ
0.014 Å,0.013 Å,8-MOP では C7-C8 及び C8-C9 結合がそれぞれ 0.013 Å,0.014
Å 伸びていることから,メトキシ基は隣接する結合をわずかに伸長させること
がわかる。これらの伸長はメトキシ基からベンゼン環へのπ電子供与の影響だと
考えられる。
- 48 -
表4-1
ソラレン,5-MOP及び8-MOPの単体の結合長
ソラレン,
5-MOP及び8-MOPの単体の結合長 [Å]
O1-C2
C2-C3
C3-C4
C4-C10
C10-C9
C9-O1
C2-O2"
C10-C5
C5-C6
C6-C7
C7-C8
C8-C9
C7-O1'
C6-C4'
C4'-C5'
C5'-O1'
Psoralen
1.400
1.460
1.353
1.443
1.422
1.366
1.204
1.405
1.395
1.416
1.388
1.395
1.363
1.447
1.356
1.379
5-MOPa
1.403 (+0.003)
1.457 ( -0.003)
1.355 (+0.002)
1.440 ( -0.003)
1.418 ( -0.004)
1.363 ( -0.003)
1.205 (+0.001)
1.419 (+0.014)
1.408 (+0.013)
1.421 (+0.005)
1.387 ( -0.001)
1.393 ( -0.002)
1.363 ( 0.000)
1.456 (+0.009)
1.354 ( -0.002)
1.375 ( -0.004)
8-MOPa
1.396 ( -0.004)
1.461 (+0.001)
1.353 ( 0.000)
1.444 (+0.001)
1.416 ( -0.006)
1.366 ( 0.000)
1.205 (+0.001)
1.404 ( -0.001)
1.393 ( -0.002)
1.417 (+0.001)
1.401 (+0.013)
1.412 (+0.017)
1.373 (+0.010)
1.447 ( 0.000)
1.354 ( -0.002)
1.376 ( -0.003)
a
括弧内はソラレンの結合長との差
図 4-2 にソラレン,5-MOP 及び 8-MOP の最高占有 Kohn-Sham (KS)軌道を含
む四つの占有軌道,最低非占有 KS 軌道を含む三つの非占有軌道を等高線図によ
り示す。図中の軌道の番号は軌道エネルギーの低い順に振られている。次節で
述べるが,ソラレン化合物の低エネルギー励起状態は主にこれら七つの占有,
非占有 KS 軌道間の電子移動によって記述することができる。KS 軌道及びそれ
らの軌道エネルギーの物理的,化学的解釈は KS-DFT 法において長く議論され
ている問題ではある。しかし,「KS ポテンシャルはクーロン孔ポテンシャルや
運動相関ポテンシャルなどの重要な項を取り込んでいるため,KS 軌道は物理的
に意味がある」という説は広く論じられているところである[19-21]。最近では
イオン化ポテンシャルの近似としての KS 軌道エネルギーの解釈に関しても議
論されている[22]。
ソラレンの#45,#47 及び#48 の占有軌道は結合性π軌道であり,#46 の占有
軌道は非結合性軌道である。非占有軌道に関しては#49,#50 及び#51 とも反結
- 49 -
LUMO+2
π*
51
59
59
ε=0.001
LUMO+1
π*
50
ε=0.008
58
58
ε=-0.034
LUMO
π*
49
ε=-0.025
57
ε=-0.028
57
ε=-0.072
48
ε=-0.009
ε=-0.063
56
ε=-0.065
56
HOMO
π
ε=-0.230
47
ε=-0.219
55
ε=-0.214
55
HOMO-1
π
ε=-0.246
46
ε=-0.230
54
ε=-0.235
54
HOMO-2
n
ε=-0.277
45
ε=-0.270
53
ε=-0.270
53
HOMO-3
π
ε=-0.301
ε=-0.298
ε=-0.279
psoralen
5-MOP
8-MOP
図4-2 ソラレン,5-MOP及び8-MOPのKS軌道の等高線図(線間隔0.02)と
軌道エネルギーε [hartree]
- 50 -
合性π軌道である。最高占有分子軌道(HOMO)である#48 の軌道は C4’-C5’部位に,
最低非占有分子軌道(LUMO)である#49 の軌道は C3-C4 部位に,最も大きな係数
を持っている。5-MOP や 8-MOP でも KS 軌道の順番はソラレンと同じだが,メ
トキシ基の影響で軌道の形は多少変化している。メトキシ基のπ電子供与性によ
って 5-MOP と 8-MOP の KS 軌道エネルギーは変化しており,ソラレンより高く
なっている。
4.3.2
ソラレン化合物単分子の励起状態
(a)ソラレン,(b) 5-MOP,(c) 8-MOP の吸収スペクトルを図 4-3 に示す。各
図において,上に示すスペクトルはシクロヘキサン溶媒中で測定された実験ス
ペクトル[23]であり,下のスペクトルは TDDFT 計算によって得られた理論スペ
クトルである。理論スペクトルは半値幅 10 nm のローレンツ関数で作成した。
理論スペクトルにおける図中の白丸は n-π*励起の位置を示している。各化合物
の具体的な励起エネルギー,遷移強度及び励起主配置は表 4-2 に示してある。
実験でのソラレンの吸収スペクトルでは,330 nm (A),290 nm (B),260 nm
(C),250 nm (D)及び 210 nm (E)付近に 5 つのピークが見られる。A バンドは強度
が弱く広がっており,このピーク位置と強度を計算結果と比較すると,フラン
環の C4’-C5’π軌道からピロン環の C3-C4π*軌道への 21A’励起に帰属することが
できる。UV-A 光の範囲では 21A’励起だけが起こり得るので,PUVA 療法のメカ
ニズムを解明するために 21A’状態の電子状態は特に興味深い。
B バンドは強度が大きく,鋭く尖っている。実験では,B バンドはさらに
296,285 及び 275 nm の 3 つに分解される。TDDFT 計算では,この領域には 31A’
31A’状態はπ-π*励起であるため強度も大きい。
と 11A”の二つの状態が得られた。
一方,11A”状態は n-π*励起であるため,強度もほぼ零である。それゆえ,強度
の強い B バンドは 31A’状態に帰属される。極性溶媒であるジオキサン,メタノ
ール及びアセトニトリル溶媒中ではこのバンドの尖った形が消えることから
[23],このバンドは振動励起であることがわかる。
- 51 -
(a) Psoralen
D
248
241
C
B
experimental
A
262 285 295
275
332
237
theoretical
223
215
250
284
211
329
282
200
250
300
[nm]
350
400
(b) 5-MOP
D
E
222 242
215
220
250
C
267
B
experimental
301
242
255
208
340
278
200
theoretical
296
250
300
350
400
(c) 8-MOP
D
E
220 245
250
C
265
B
293 305
experimental
A
340
256
221
248
235
210
200
図4-3
theoretical
294
356
282
250
300
350
400
ソラレン,5-MOP及び8-MOPの実験及び理論スペクトル
- 52 -
表4-2 ソラレン,5-MOP及び8-MOPの励起エネルギー,遷移強度及び
主励起配置
Calc.
Excitation Oscillator
Main
Compound State configuration
strength
energya
1
Psoralen X A'
0.000
1
48 → 49
3.770 (329) 0.0746
2 A'
5-MOP
8-MOP
31A'
47 → 49
4.363 (284) 0.1958
11A"
41A'
51A'
61A'
1
7 A'
21A"
46 → 49
48 → 50
47 → 50
45 → 49
48 → 51
46 → 50
4.400
4.966
5.237
5.560
5.760
5.888
(282)
(250)
(237)
(223)
(215)
(211)
0.0000
0.0824
0.4509
0.0216
0.1276
0.0000
56 → 57
55 → 57
54 → 57
56 → 58
55 → 58
53 → 57
55 → 59
54 → 58
0.000
3.650
4.191
4.460
4.867
5.131
5.633
5.761
5.958
(340)
(296)
(278)
(255)
(242)
(220)
(215)
(208)
0.0231
0.2551
0.0000
0.1964
0.2612
0.1923
0.1478
0.0000
56 → 57
0.000
3.479 (356) 0.0230
3 A'
1
55 → 57
4.219 (294) 0.1390
11A"
41A'
51A'
1
6 A'
71A'
21A"
54 → 57
56 → 58
55 → 58
53 → 57
56 → 59
54 → 58
4.401
4.846
5.005
5.269
5.621
5.917
1
X A'
21A'
31A'
11A"
41A'
1
5 A'
61A'
71A'
21A"
X1A'
21A'
(282)
(256)
(248)
(235)
(221)
(210)
0.0000
0.4709
0.0679
0.0021
0.3058
0.0000
a
括弧内は励起エネルギーをnm単位に換算したもの
b
シクロヘキサン溶媒中での測定値[24]
HFP溶媒中での測定値[24]
c
- 53 -
Exptl.b
Excitation
energya
Band
Oscillator
strength
3.734
4.509
4.350
4.189
(332)
(275)
(285)
(296)
A
B
B
B
weak
shoulder
middle
middle
4.732
4.999
5.145
5.904
(262)
(248)
(241)
(210)
C
D
D
E
weak
strong
shoulder
4.119 (301)
B
strong
4.644
4.959
5.123
5.585
(267)
(250)
(242)
(222)
C
D
D
E
weak
strong
shoulder
strong
3.647 (340)
4.065 (305)
4.232 (293)
A
B
B
very weak
shoulder
middle
4.679
4.959
5.061
5.636
C
D
D
E
shoulder
strong
shoulder
strong
(265)
(250)
(245)
(220)
c
C バンドは,より波長の長く強度の強い D バンドのショルダーとして観測
されている。D バンドは強いピーク 248 nm と弱いピーク 241 nm の 2 つから成
っている。220∼270 nm の範囲には,41A’,51A’及び 61A’の 3 つのπ-π*励起状態
が TDDFT 法により得られている。D バンドの 248 nm のピークが,最も大きな
強度を持つと計算された 51A’状態に帰属される。51A’状態より一桁小さい強度を
もつ 41A’及び 61A’状態は,C バンド及び D バンドの 241 nm のピークにそれぞれ
帰属できる。
E バンドは 1,1,1,3,3,3-hexafluoro-2-propanol (HFP)溶媒中で,長波長側のきわ
めて強いピークのショルダーとして 210 nm 付近に観測されている。このバンド
はシクロヘキサン溶媒中では観測されていない。210 nm 付近には 71A’と 21A”状
態の 2 つが計算されたが,21A”状態は n-π*励起であり強度は零なので,E バン
ドは 71A’状態に帰属される。
5-MOP の実験スペクトルでは A バンドは観測されていないが,TDDFT 計
算では 340 nm に 21A’状態に対応する非常に弱いバンドが計算された。ソラレン
の場合と同様に,21A’状態はフラン環の C4’-C5’結合からピロン環の C3-C4 π*軌
道への励起である。この結果から,より高精度の測定がなされれば,21A’状態へ
の遷移による広がったバンドが観測されると予測される。メトキシ基はπ電子を
供与するので,5-MOP の B,C,D 及び E バンドはソラレンと比べてレッドシ
フトしている。5-MOP では B バンドは鋭くなく,B,C,D 及び E バンドは全
てπ-π*励起に帰属される。
8-MOP では,A∼E の 5 つのバンドが観測されている。これらのバンドもソ
ラレンと比べてレッドシフトしている。340 nm の弱く広がった A バンドは 21A’
状態に帰属され,これはソラレンなどと同様に,C4’-C5’結合から C3-C4 結合へ
のπ-π*励起である。
B バンドは,293 nm のピークのショルダーとして 305 nm の位置に観測され
ている。この 293 nm のピークは 31A’状態に帰属され,305 nm のピークは振動状
態あるいは 11A”状態に帰属され,強度はほぼ零である。
C,D 及び E バンドは 41A’∼71A’状態に帰属される。励起エネルギーから考
えると,265 nm の C バンド及び 250 nm の D バンドは 41A’及び 51A’状態に帰属
される。しかし,41A’ 状態の強度は 51A’状態の強度より一桁大きいので,強度
- 54 -
から考えると帰属は先ほどとは逆になる。D バンドの 245 nm のピークと E バン
ドの 220 nm のピークはそれぞれ 61A’及び 71A’状態に帰属される。
モノ付加体の基底状態
4.3.3
フラン及びピロンモノ付加体の構造最適化を行い,その構造におけるエネ
ルギーを用いて各モノ付加体が生成される際の反応熱を計算した。表 4-3 に示す
ように,これらの反応は基底状態では吸熱反応であり,フランモノ付加体生成
時の反応熱の方がピロンモノ付加体生成時の反応熱よりも小さいことがわかっ
た。
モノ付加体の詳細な構造に関してはこれまでほとんど報告されておらず,
8-MOP とチミン残基との面外角が 44∼53 度である[3]という報告がある程度で
ある。今回計算されたこの面外角は 53 度であり,実験での報告とよく一致して
いる。
表4-3 ソラレン化合物とチミンの付加反応における反応熱[kcal/mol]
Psoralen
5-MOP
8-MOP
Reaction heat
Furan monoadduct Pyrone monoadduct
8.58
12.06
8.48
11.03
7.86
11.84
- 55 -
フラン及びピロンモノ付加体の基底状態における結合長の計算結果を表
4-4 に示す。表 4-4 では,モノ付加体はソラレン部分,チミン部分及びそれらの
結合部分の 3 つに分けて示されている。また,単体時の結合長との差を括弧内
に示す。フランモノ付加体はソラレン化合物の C4’-C5’結合とチミンの C5-C6 結
合間のペリ環化反応によって形成されるため,これらの結合はどちらも 0.2 Å 以
上伸長している。また,ソラレン化合物の C4’-C5’結合に隣接した C6-C4’及び
C5’-O1’結合,チミンの C5-C6 結合に隣接した C4-C5 及び C6-N1 結合も約 0.06 Å
伸長している。同様にピロンモノ付加体においても,ソラレンの C3-C4 結合と
チミンの C5-C6 結合は約 0.2 Å 長くなっている。また,隣接した結合も 0.046∼
0.068 Å 伸びている。ピロンモノ付加体では,O1-C2 結合が 0.4 Å 短くなり,C9-O1
結合が 0.03 Å 伸びていることも注目に値する。
ソラレン化合物の単体は 12π電子系であるのに対し,フラン及びピロンモノ
付加体はどちらも 10π電子系である。特にピロンモノ付加体では,その 10π電子
系がさらに,フラン環とベンゼン環から成る 8π電子系とピロン環のカルボニル
から成る 2π 電子系とに分かれている。12π 電子系から 10π 電子系への変化は
O1-C2 及び C9-O1 結合に反映されている。ソラレンと同様に,5-MOP や 8-MOP
でも,フランモノ付加体はピロン環とベンゼン環に 10π電子系,ピロンモノ付加
体はフラン環とベンゼン環に 8π電子系を有している。
- 56 -
- 57 -
括弧内は単体との差
a
Psoralen
Isolated
Monoadducta
Furan
Pyrone
1.400 1.408 (+0.008) 1.362 ( -0.038)
Psoralen part O1-C2
C2-C3
1.460 1.457 ( -0.003) 1.508 (+0.048)
C3-C4
1.353 1.356 (+0.003) 1.551 (+0.198)
C4-C10 1.443 1.439 ( -0.004) 1.508 (+0.065)
C10-C9 1.422 1.415 ( -0.007) 1.413 ( -0.009)
C9-O1
1.366 1.359 ( -0.007) 1.393 (+0.027)
C2-O2" 1.204 1.204 ( 0.000) 1.204 ( 0.000)
C10-C5 1.405 1.413 (+0.008) 1.401 ( -0.004)
C5-C6
1.395 1.383 ( -0.012) 1.400 (+0.005)
C6-C7
1.416 1.410 ( -0.006) 1.410 ( -0.006)
C7-C8
1.388 1.389 (+0.001) 1.388 ( 0.000)
C8-C9
1.395 1.401 (+0.006) 1.395 ( 0.000)
C7-O1'
1.363 1.366 (+0.003) 1.364 (+0.001)
C6-C4'
1.447 1.508 (+0.061) 1.446 ( -0.001)
C4'-C5'
1.356 1.557 (+0.201) 1.358 (+0.002)
C5'-O1'
1.379 1.435 (+0.056) 1.378 ( -0.001)
1.580
Interacting partC4'-C15
C5'-C16
1.571
C4-C15
1.570
C3-C16
1.591
Thymine part N1-C2
1.391 1.368 ( -0.023) 1.371 ( -0.020)
C2-N3
1.387 1.409 (+0.022) 1.408 (+0.021)
N3-C4
1.407 1.378 ( -0.029) 1.378 ( -0.029)
9
6
H3C 5
1
C4-C5
1.470
1.522 (+0.052) 1.521 (+0.051)
N
2
C5-C6
1.354 1.564 (+0.210) 1.558 (+0.204)
4
N
O
8O
7 C6-N1
1.380 1.442 (+0.062) 1.448 (+0.068)
3
C2-O7
1.216 1.216 ( 0.000) 1.215 ( -0.001)
C4-O8
1.220 1.218 ( -0.002) 1.219 ( -0.001)
C5-C9
1.500 1.529 (+0.029) 1.530 (+0.030)
5-MOP
Isolated
Monoadducta
Furan
Pyrone
1.403 1.411 (+0.008) 1.364 ( -0.039)
1.457 1.454 ( -0.003) 1.507 (+0.050)
1.355 1.357 (+0.002) 1.548 (+0.193)
1.440 1.437 ( -0.003) 1.500 (+0.060)
1.418 1.409 ( -0.009) 1.407 ( -0.011)
1.363 1.357 ( -0.006) 1.393 (+0.030)
1.205 1.204 ( -0.001) 1.204 ( -0.001)
1.419 1.430 (+0.011) 1.408 ( -0.011)
1.408 1.399 ( -0.009) 1.411 (+0.003)
1.421 1.416 ( -0.005) 1.413 ( -0.008)
1.387 1.382 ( -0.005) 1.388 (+0.001)
1.393 1.399 (+0.006) 1.392 ( -0.001)
1.363 1.366 (+0.003) 1.364 (+0.001)
1.456 1.515 (+0.059) 1.452 ( -0.004)
1.354 1.555 (+0.201) 1.356 (+0.002)
1.375 1.433 (+0.058) 1.374 ( -0.001)
1.601
1.560
1.597
1.577
1.391 1.371 ( -0.020) 1.372 ( -0.019)
1.387 1.410 (+0.023) 1.408 (+0.021)
1.407 1.377 ( -0.030) 1.380 ( -0.027)
1.470 1.523 (+0.053) 1.524 (+0.054)
1.354 1.562 (+0.208) 1.562 (+0.208)
1.380 1.439 (+0.059) 1.443 (+0.063)
1.216 1.214 ( -0.002) 1.215 ( -0.001)
1.220 1.220 ( 0.000) 1.219 ( -0.001)
1.500 1.528 (+0.028) 1.527 (+0.027)
8-MOP
Isolated
Monoadducta
Furan
Pyrone
1.396 1.408 (+0.012) 1.359 ( -0.037)
1.461 1.457 ( -0.004) 1.507 (+0.046)
1.353 1.356 (+0.003) 1.550 (+0.197)
1.444 1.440 ( -0.004) 1.508 (+0.064)
1.416 1.415 ( -0.001) 1.409 ( -0.007)
1.366 1.361 ( -0.005) 1.392 (+0.026)
1.205 1.204 ( -0.001) 1.205 ( 0.000)
1.404 1.412 (+0.008) 1.399 ( -0.005)
1.393 1.383 ( -0.010) 1.398 (+0.005)
1.417 1.407 ( -0.010) 1.410 ( -0.007)
1.401 1.395 ( -0.006) 1.401 ( 0.000)
1.412 1.411 ( -0.001) 1.412 ( 0.000)
1.373 1.366 ( -0.007) 1.374 (+0.001)
1.447 1.508 (+0.061) 1.446 ( -0.001)
1.354 1.557 (+0.203) 1.356 (+0.002)
1.376 1.435 (+0.059) 1.376 ( 0.000)
1.588
1.569
1.591
1.569
1.391 1.369 ( -0.022) 1.370 ( -0.021)
1.387 1.406 (+0.019) 1.408 (+0.021)
1.407 1.380 ( -0.027) 1.378 ( -0.029)
1.470 1.523 (+0.053) 1.521 (+0.051)
1.354 1.565 (+0.211) 1.558 (+0.204)
1.380 1.444 (+0.064) 1.448 (+0.068)
1.216 1.218 (+0.002) 1.216 ( 0.000)
1.220 1.218 ( -0.002) 1.219 ( -0.001)
1.500 1.527 (+0.027) 1.530 (+0.030)
表4-4 ソラレン,5-MOP及び8-MOPのフラン及びピロンモノ付加体の結合長[Å]
図 4-4 は,フラン及びピロンモノ付加体を構成する際のソラレンとチミンの
軌道相関図[24]である。ソラレンとチミンに関しては,単体での最適化構造での
軌道エネルギーと,モノ付加体中での構造での軌道エネルギーの二種類を示し
てある。これら二種類の軌道エネルギーの違いは付加反応時の構造緩和の影響
を反映している。チミンに関しては,図 4-4(a)及び(b)どちらにおいても,C5-C6π
結合性軌道である HOMO (#33)のエネルギーはあまり変化していない。一方,
C5-C6π反結合性軌道である LUMO (#34)のエネルギーは,(a)では 0.067 hartree,
(b)では 0.069 hartree と大きく変化している。ソラレンにおいても同様に,HOMO
(#48)のエネルギー変化は(a)では 0.003 hartree,(b)では 0.005 hartree とさほど大き
くない。一方 LUMO (#49)は(a)では 0.026 hartree,(b)では 0.039 hartree と大きく
変化している。
図 4-4(a)において,C4’-C5’結合はチミン残基と結合しているため,C4’-C5’
結合に大きな軌道係数をもつソラレンの HOMO はフランモノ付加体の HOMO
(#81)に影響を及ぼしていないことがわかる。フランモノ付加体の LUMO (#82)
は,C3-C4π反結合性軌道であるソラレンの#50 の軌道とチミンの#35 の軌道との
相互作用として表されている。フランモノ付加体の HOMO,LUMO とも単体と
比べてそれぞれ 0.002 及び 0.003 hartree 高エネルギー側にシフトしているが,こ
のシフトは非常に小さいといえる。
図 4-4(b)では,ピロンモノ付加体の HOMO (#81)はソラレンの HOMO から
の寄与が主であることがわかる。ピロンモノ付加体の LUMO (#82)は,ソラレン
の HOMO とチミンの HOMO の相互作用により生じる反結合性軌道である。ピ
ロンモノ付加体ではソラレンの C3-C4 結合はチミン残基との結合に使われてい
るので,C3-C4 結合に大きな軌道係数をもつソラレンの LUMO はピロンモノ付
加体の LUMO にはほとんど寄与を及ぼさない。また,
ピロンモノ付加体の LUMO
のエネルギーは 0.032 hartree と大きくシフトしているが,HOMO は 0.006hartree
しかシフトしていない。このようにピロンモノ付加体の LUMO のエネルギーシ
フトが特に大きくなっていることがわかる。この大きなエネルギーシフトは
5-MOP や 8-MOP でも見られる。
- 58 -
(a) Furan monoadduct
0.050
-0.050
51
85
50
51
49
50
-0.100
35
35
84
83
82
34
34
49
-0.150
-0.250
48
48
47
47
81
80
79 78
-0.300
33
33
・ ・・ ・・ ・・・ ・
-0.200
・・ ・・・ ・
Orbital Energy (hartree)
0.000
29
29
-0.350
Isolated Combined
geometry geometry
Combined
geometry
Psoralen
Furanmonoadduct
Combined
geometry
Isolated
geometry
Thymine
(b) Pyrone monoadduct
0.050
0.000
51
-0.050
50
83
35
35
84
34
82
49
34
49
-0.100
-0.150
-0.250
48
48
47
47
81
80
79 78
-0.300
33
33
・・ ・・・ ・・ ・・
-0.200
・・ ・・ ・・
Orbital Energy (hartree)
50
85
51
29
29
-0.350
Isolated Combined
geometry geometry
Combined
geometry
Psoralen
Pyronemonoadduct
Combined
geometry
Isolated
geometry
Thymine
図4-4 フラン及びピロンモノ付加体におけるソラレンとチミンの軌道相関図
- 59 -
4.3.4
モノ付加体の励起状態
表 4-5 に,ソラレン化合物のモノ付加体の励起エネルギー,遷移強度及び励
起主配置を示す。図 4-5 は半値幅 10 nm のローレンツ関数で描かれたモノ付加体
の理論スペクトルである。表 4-5 において,フランモノ付加体の低励起状態はど
れも LUMO への励起であること,ピロンモノ付加体の低励起状態はどれも
HOMO からの励起であることがわかる。
単体,フラン及びピロンモノ付加体の一重項第一励起(S1)状態の波長はそれ
ぞれ 329,319 及び 276 nm と計算されており,フラン及びピロンモノ付加体の
励起エネルギーは単体と比べて 19 及び 53 nm ブルーシフトしている。
そのため,
単体やフランモノ付加体の S1 励起エネルギーは UV-A 光の領域(300∼400 nm)内
であるのに対し,ピロンモノ付加体の S1 励起エネルギーは UV-A 光の領域から
外れている。それゆえ,ピロンモノ付加体は UV-A 光では励起されず,ジ付加体
の生成を起こさないことがわかった。
このフラン及びピロンモノ付加体の S1 励起エネルギーのブルーシフトは,π
共役鎖に含まれる電子数の減少が原因であると考えられる。前述のように,単
体では 12π共役が形成されているのに対し,フラン及びピロンモノ付加体ではそ
れぞれ 10π共役,8π共役とπ共役の数が減少している。π共役鎖に含まれる電子
数が少ないほど励起エネルギーは大きくなるので,ピロンモノ付加体はフラン
モノ付加体よりも S1 励起エネルギーが大きくブルーシフトすることになる。
軌道エネルギーの観点からすると,S1 励起エネルギーの励起主配置である
HOMO→LUMO 励起に相当する HOMO-LUMO 間のエネルギー差は,単体,フ
ラン及びピロンモノ付加体でそれぞれ 0.158,0.159 及び 0.185 hartree であり,ピ
ロンモノ付加体のエネルギー差が最も大きくなっている。これは,ピロンモノ
付加体の LUMO のエネルギーシフトが他と比べて大きいためである。
5-MOP,8-MOP とも,単体やモノ付加体の励起エネルギーはソラレンと同
程度である。それゆえソラレンと同様に,フランモノ付加体の S1 励起エネルギ
ーは UV-A 光の範囲内であるのに対し,ピロンモノ付加体は範囲外であり,ジ付
加体を生成しないことがわかる。また,以上の結果から,治療に用いる UV 光
の波長をフランモノ付加体の S1 励起エネルギーも範囲内に含まれないように少
- 60 -
し長波長側にずらすことによって,ジ付加体の生成を抑制できるのではないか
と考えられる。
( a) isola ted psoralen
237
250
22 3
215
211
284
329
282
(b) furan- mon oadduct
31 0
246 252
261 279
225 242
224
278
24 9
(c) pyrone-monoadduct
236 239
228
220
219
248
260
25 5
200
250
276
300
[ nm]
35 0
図4-5 ソラレンモノ付加体の理論スペクトル
- 61 -
400
- 62 -
89→90
88→90
86→90
89→91
89→92
X1A
21 A
31 A
41 A
51 A
61 A
8-MOP
0.000
3.987
4.062
4.470
4.641
4.826
(311)
(305)
(277)
(267)
(257)
0.2833
0.0364
0.0003
0.0129
0.0414
0.2669
0.0961
0.0020
0.0001
0.0088
(306)
(300)
(276)
(274)
(258)
89→90
88→90
89→91
86→90
88→91
X1A
21 A
31 A
41 A
51 A
61 A
5-MOP
0.000
4.053
4.130
4.497
4.526
4.801
0.3222
0.0163
0.0000
0.0071
0.0519
Compound
Psoralen
Oscillator
strength
Calc.
Excitation
Main
state configuration energya
0.000
X1A
1
81→82
3.996 (310)
2A
1
80→82
4.443 (279)
3A
1
77→82
4.466 (278)
4A
1
81→84
4.756 (261)
5A
1
80→82
4.925 (252)
6A
8-MOP
5-MOP
X1A
21A
31A
41A
51A
61A
X1A
21A
31A
41A
51A
61A
89→90
89→92
89→92
87→92
88→90
89→90
89→92
88→90
89→91
87→92
0.000
4.248
4.483
4.704
4.990
5.030
0.000
4.336
4.651
4.760
4.956
5.037
(292)
(277)
(264)
(248)
(247)
(286)
(267)
(260)
(250)
(246)
Calc.
Excitation
Main
Compound state configuration energya
PyronePsoralen X1A
0.000
1
monoadduct
81→83
4.491 (276)
2A
1
81→82
4.761 (260)
3A
1
81→84
4.854 (255)
4A
1
79→84
5.007 (248)
5A
1
80→82
5.189 (239)
6A
0.0508
0.0408
0.1202
0.0343
0.0773
0.0655
0.0013
0.0591
0.0803
0.0399
0.0131
0.1710
0.0006
0.0092
0.0283
Oscillator
strength
ソラレン,5-MOP及び8-MOPのフラン及びピロンモノ付加体の励起エネルギー,遷移強度及び主励起配置
括弧内は励起エネルギーを nm単位に換算したもの
a
Furanmonoadduct
表4-5
4.4 結論
この章では,ソラレン化合物の単体,フラン及びピロンモノ付加体の励起
状態を TDDFT 法を用いて計算した。ソラレン化合物単体では,実験で観測され
た UV スペクトルのピークに関して,励起状態の帰属を行った。フラン及びピ
ロンモノ付加体に関しては,単体と比べて S1 励起状態がブルーシフトすること
を明らかにした。特にピロンモノ付加体の S1 励起状態が大きくブルーシフトし,
UV-A 光の領域から外れることを示した。それゆえピロンモノ付加体は UV-A 光
では励起されず,副作用の原因となるジ付加体を形成しないことがわかった。
- 63 -
第 4 章の参考文献
[1] T. Otsuki, J. Synthetic Org. Chem. Japan 49, 809 (1991).
[2] R. V. Bensasson, E. J. Land, and T. G. Truscott, in Excited States and Free Radicals
in Biology and Medicine (Oxford University Press, New York, 1993).
[3] P. S. Song and K. J. Tapley, Jr, Photochem. Photobiol. 29, 1177 (1979).
[4] H. P. Spielmann, T. J. Dwyer, J. E. Hearst, and D. E. Wemmer, Biochemistry 34,
12937 (1995).
[5] D. Kanne, K. Straub, H. Rapoport, and J. E. Hearst, Biochemistry 21, 861 (1982).
[6] D. Bethea, B. Fullmer, S. Syed, G. Seltzer, J. Tiano, C. Rischko, L. Gillespie, D.
Brown, and F. P. Gasparro, J. Dermatol. Sci. 19, 78 (1999) (and references therein).
[7] C. M. Estévetz, A. M. Graña, M. A. Ríos, and J. Rodríguez, J. Mol. Struct.
(Theochem) 231, 163 (1991).
[8] R. Boggia, M. Fanciullo, L. Finzi, O. Incani, and L. Mosti, Il Farmaco 54, 202
(1999).
[9] A. D. S. Marques, Y. Takahata, J. R. L. Junior, M. C. Souza, S. S. Simoes, W. M.
Azevedo, and G. F. de Sa, J. Lumin. 97, 237 (2002).
[10] H. Nakai, Y. Yamauchi, A. Nakata, T. Baba, and H. Takahashi, J. Chem. Phys. 119,
4223 (2003).
[11] P. J. Stevens, J. F. Devlin, C. F. Chabalowski, and M. J. Frisch, J. Phys. Chem. 98,
11623 (1994).
[12] J. C. Slater, Phys. Rev. 81, 385 (1951).
[13] A. D. Becke, Phys. Rev. A 38, 3098 (1988).
[14] S. H. Vosko, L. Wilk, and M. Nusair, Can. J. Phys. 58, 1200 (1980).
[15] C. Lee, W. Yang, and R. G. Parr, Phys. Rev. B 37, 785 (1988).
[16] T. H. Dunning, Jr., J. Chem. Phys. 90, 1007 (1989).
[17] M. J. Frisch, G. W. Trucks, H. B. Schlegel et al. Gaussian 98, Revision A.7,
Gaussian, Inc., Pittsburgh, PA, 1998.
[18] W. Kohn and L. J. Sham, Phys. Rev. A 140, 1133 (1965).
[19] E. J. Baerends, O. V. Gritsenko, and R. van Leeuwen, in Chemical Applications of
- 64 -
Density Functional Theory, edited by B. B. Ross and T. Ziegler (American
Chemical Society, Washington, DC, 1996) Vol. 629, p. 20.
[20] E. J. Baerends and O. V. Gritsenko, J. Phys. Chem. A 101, 5383 (1997).
[21] E. J. Baerends, Theor. Chem. Acc. 103, 265 (2000).
[22] D. P. Chong, O. V. Gritsenko, and E. J. Baerends, J. Chem. Phys. 116, 1760 (2002).
[23] H. Matsumoto and Y. Ohkura, Chem. Pharm. Bull. 26, 3433 (1978).
[24] K. Itoh, T. Kiyohara, H. Shinohara, C. Ohe, Y. Kawamura, and H. Nakai, J. Phys.
Chem. B 106, 10714 (2002).
- 65 -
第5章 高精度な内殻励起状態計算のための新しい密度
汎関数の開発:Core-Valence B3LYP
5.1
序
内殻励起は分子の構造やダイナミクスに関して多くの情報を与えるもので
あり,実験・理論の両面から研究が行われている。内殻に関する実験的な知見
は軟X線吸収スペクトル法や電子エネルギー損失分光法によって得ることがで
きる。一方理論研究では,遷移状態法(transition state approach)を用いた密度汎関
数 理 論 (DFT)[1] や 多 参 照 擬 縮 退 摂 動 (MCQDPT) 法 [2] , symmetry adapted
cluster-configuration interaction (SAC-CI)法[3,4]が原子や分子の内殻イオン化や内
殻励起の計算に用いられてきた。
時間依存密度汎関数理論(TDDFT) [5-8]は,励起状態の物性を計算するのに
幅広く用いられている手法の一つである。TDDFT 法は一電子励起配置間相互作
用(CIS)法や時間依存 Hartree-Fock (TDHF)法と同程度の少ない計算コストで,価
電子励起状態に関してはそれらの手法よりはるかに定量的な結果を与える。さ
らに,Rydberg 励起や電荷移動励起を高精度に記述するための交換相関汎関数の
開発も行われている[9-12]。しかし,TDDFT 法を用いた内殻励起に関する研究
は,いくつかの例外を除いて[13-16]ほとんど行われておらず,交換相関汎関数
の体系的なアセスメントなどはこれまでに報告されていない。
この章ではまず,一般的な交換相関汎関数である Becke-1988 (B)交換 +
Lee-Yang-Parr (LYP)相関汎関数[17,18],Becke-Half-and-Half (BHH)交換 + LYP 相
関汎関数[19],Becke-3-parameter (B3)交換 + LYP 相関汎関数[20,21]を用いた
TDDFT 法及び TDHF 法により内殻励起エネルギーを計算し,精度を検証した。
さらに,その検証の結果に基づき,内殻及び価電子励起の双方を高精度に記述
するための新しい hybrid 汎関数,core-valence B3LYP (CV-B3LYP)を開発した。
5.2 節では TDHF 法及び TDDFT 法による内殻励起状態計算の精度の検証を
行う。5.3 節では CV-B3LYP の理論を示す。5.4 節では,CV-B3LYP の精度や挙動
について,BHHLYP や B3LYP との比較を交えて検証する。5.5 節は本章のまと
- 66 -
めである。
5.2
従来の交換相関汎関数の精度検証
この節では,一般的な汎関数である BLYP,B3LYP 及び BHHLYP を用いた
TDDFT 計算による内殻励起の記述精度を検証し,
HF 交換項の効果を調査した。
比較のため,TDHF 計算も行った。また,cc-pCVTZ [22]と 6-311G(2df, 2pd) [23]
の二種類の基底関数を用いて計算を行い,基底関数の種類による違いも検討し
た。予備研究として,用いる構造の構造最適化条件(最適化に用いる基底関数や
交換相関汎関数)による違いも検討したが,差は最大でも 0.1 eV と非常に小さい
ことがわかった。よって今回は,B3LYP/cc-pVTZ レベルで最適化した構造を用
いて励起状態計算を行った。
TD-BLYP,TD-B3LYP,TD-BHHLYP 及び TDHF 法で得られた X1s→π*内殻
励起エネルギー(X = C, N 及び O)の計算結果を表 5-1 に示す。表中の分子名にお
ける太字は,その原子の 1s 軌道からの励起であることを表している。また,実
験値との差を括弧内に示す。表 5-1 で,Pure 汎関数である BLYP を用いた TDDFT
計算では内殻励起エネルギーを 15 eV 以上過小評価し,逆に TDHF 計算では 10
eV 程度過大評価している。一方,hybrid 汎関数である B3LYP や BHHLYP を用
いた TDDFT 計算では,pure 汎関数を用いたときと比較して誤差が大幅に減少し
ていることがわかる。これは交換相関項の中に B3LYP では 20%,BHHLYP では
50%の HF 交換項が含まれているためであり,HF 交換項が pure-TDDFT 計算の
誤差を小さくする役割を果たしていることがわかる。cc-pCVTZ 基底関数を用い
た場合の TDHF, TD-BHHLYP,TD-B3LYP 及び TD-BLYP 計算の平均誤差(ME)
はそれぞれ 11.1,−2.8,−12.0 及び−17.9 eV であり,特に TD-BHHLYP の精度
が高いことは注目に値する。cc-pCVTZ と 6-311G(2df, 2pd)の計算結果の差は大き
いものでも 0.1 eV 程度であり,内殻励起エネルギーの計算結果は基底関数の種
類にはほぼ依存しないといえる。
- 67 -
- 68 -
O1s→2pπ*
CO
ME
d
O1s→2pπ*
CH2O
括弧内は実験値からの差
b
参考文献 [1]
c
参考文献 [24]
d
実験値からの平均誤差
a
N1s→2pπ*
C1s→2pπ*
CH2O
N2
C1s→2pπ*
C2H4
C1s→2pπ*
C1s→2pπ*
C2H2
CO
Assignment
Molecule
(+8.4)
294.4
(+7.0)
412.3
(+11.3)
545.9
(+15.1)
550.2
(+16.0)
(+8.4)
294.4
(+7.0)
412.2
(+11.2)
545.9
(+15.1)
550.1
(+15.9)
11.2
(+10.2)
294.4
(+10.1)
294.4
11.1
(+10.3)
294.9
(+10.2)
294.8
-2.8
( -3.1)
528.1
( -2.7)
531.6
( -2.6)
( -3.0)
283.5
( -3.9)
397.9
( -2.2)
283.0
( -2.2)
282.5
-2.8
( -3.1)
528.1
( -2.7)
531.6
( -2.6)
( -3.0)
283.5
( -3.9)
397.9
( -2.2)
283.0
( -2.2)
282.5
BHHLYP
6-311G
cc-pCVTZ
(2df,2pd)
283.6
283.6
-12.0
( -12.5)
516.7
( -14.1)
519.8
( -14.4)
( -10.8)
276.1
( -11.3)
388.5
( -10.4)
275.2
( -10.5)
274.3
-12.0
( -12.5)
516.6
( -14.2)
519.8
( -14.4)
( -10.8)
276.1
( -11.3)
388.5
( -10.4)
275.2
( -10.5)
274.3
B3LYP
6-311G
cc-pCVTZ
(2df,2pd)
275.3
275.3
-17.9
( -18.5)
509.4
( -21.4)
512.3
( -21.9)
( -15.8)
271.3
( -16.1)
382.5
( -15.7)
270.2
( -15.9)
269.0
-17.9
( -18.5)
509.4
( -21.4)
512.3
( -21.9)
( -15.8)
271.3
( -16.1)
382.5
( -15.6)
270.2
( -15.8)
269.1
BLYP
6-311G
cc-pCVTZ
(2df,2pd)
269.9
270.0
C2H2,C2H4,CH2O,CO及びN2分子の内殻励起エネルギー[eV]a
TDHF
6-311G
cc-pCVTZ
(2df,2pd)
296.0
296.1
表5-1
b
534.2 b
530.8
401.0 c
287.4 b
286.0 b
284.7 b
285.8 b
Expt.
理論:Core-Valence B3LYP (CV-B3LYP)
5.3
5.3.1
CV-B3LYP のエネルギー表式
前節で述べたように,HF 交換項を 50%含む BHHLYP が内殻励起の記述に
は適している。一方,価電子励起や価電子の寄与する物性に関しては,HF 交換
項を 20%含む B3LYP の方が高い精度を示すことが広く知られている。つまり,
内殻励起の記述に適切な HF 交換項の割合は価電子励起に対するものとは異な
っている。そこで,内殻軌道と価電子軌道にそれぞれ適切な HF 交換項の割合を
用いるような汎関数 CV-B3LYP を開発した。CV-B3LYP では,電子エネルギーを
内殻-内殻(CC),内殻-価電子(CV)及び価電子-価電子(VV)間の相互作用の 3 つに
区別し,それぞれに適切な HF 交換項の割合を決定する。すると,B3LYP や
BHHLYP など通常の汎関数における交換相関エネルギーが
E xc = a ∑ (− K ij ) + bE xSlater + cE xB 88 + dE cVWN 5 + eE cLYP
(5-1)
ij
のように与えられるのに対し,CV-B3LYP では
E xc = a CC ∑ (− K kl ) + a CV ∑ ∑ (− K km ) + a CV ∑ ∑ (− K mk ) + a VV ∑ (− K mn )
Core
C Valence
kl
[ρ ] + b
[ρ ] + c
[ρ ] + d
[ρ ] + e
+ bCC E
Slater
x
+ c CC E
B 88
x
+ d CC E
+ eCC E
VWN
c
LYP
c
C
C
k
CV
C
C
CV
CV
C
m
k
V
mn
[ρ ] − E [ρ ] − E [ρ ]) + b E [ρ ]
(E [ρ ] − E [ρ ] − E [ρ ]) + c E [ρ ]
(E [ρ ] − E [ρ ] − E [ρ ]) + d E [ρ ]
(E [ρ ] − E [ρ ] − E [ρ ]) + e E [ρ ]
CV
(E
m
V
Slater
x
B 88
x
Slater
x
B 88
x
VWN
c
LYP
c
C
B 88
x
C
VWN
c
LYP
c
Slater
x
C
C
V
VWN
c
LYP
c
V
VV
VV
V
V
B 88
x
VV
VV
LYP
c
Slater
x
V
V
VWN
c
V
V
(5-2)
として与えられる。ここで a∼e はそれぞれ HF 交換項,Slater 交換汎関数[25],
Becke (B88)交換汎関数[17],Vosko-Wilk-Nusair (VWN5)相関汎関数[26]及び LYP
相関汎関数[18]の係数である。和記号上の“C”及び“V”は,それぞれ内殻及び価電
子軌道に関する和を取ることを示している。本節では i, j は占有軌道,a, b は仮
想軌道,p, q, r, s はそれらを制限しない一般的な軌道の指標として用いている。
占有軌道に関してはさらに k, l を内殻軌道,m, n を価電子軌道の指標として区別
する。(5-2)式で aCC,aCV 及び aVV を適切に決定することにより,適切な HF 交換
項の割合を用いることができる。これら係数の具体的な値は表 5-2 に示す。ρ,
- 69 -
ρC 及びρV は全電子密度,内殻電子密度及び価電子密度である。
OCC
C
2
V
2
ρ = ∑ ϕ i , ρC = ∑ ϕ k , ρV = ∑ ϕ m
k
i
2
(5-3)
m
ρc 及びρv で表される項はそれぞれ CC 及び VV 相互作用に相当する。内殻軌道価電子軌道間の電子密度は零なので,CV 相互作用は Exc[ρ]から Exc[ρC]及び
Exc[ρV]を引いたものとして表す。
BHHLYP,B3LYP及びCV-B3LYPにおける交換相関汎関数の係数の値
CV-B3LYP
TDHF BHHLYP B3LYP BLYP
CC
CV
VV
(HF exchange)
1
0.5
0.2
0
0.5
0.35
0.2
(Slater exchange)
0
0
0.08
0
0
0.04
0.08
(B88 exchange)
0
0.5
0.72
1
0.5
0.61
0.72
(VWN5 correlation)
0
0
0.19
0
0
0.095
0.19
(LYP correlation)
0
1
0.81
1
1
0.905
0.81
表5-2
a
b
c
d
e
5.3.2
CV-B3LYP に対する Kohn-Sham 方程式
前節で述べたように,CV-B3LYP では電子エネルギーは CC,CV 及び VV
相互作用に分割される。
C
V
C
m
k >l
C
V
k
m
V
C
V
k
m>n
E = 2∑ H k + 2∑ H m + ∑ 2 J kl + ∑ ∑ 2 J km + ∑ ∑ 2 J mk + ∑ 2 J mn
k
m
+ a CC ∑ (− K kl ) + a CV ∑ ∑ (− K km ) + a CV ∑ ∑ (− K mk ) + a VV ∑ (− K mn ) (5-4)
C
C
V
V
C
V
kl
k
m
m
k
mn
+ b' CC E xc [ρ C ] + b' CV (E xc [ρ ] − E xc [ρ C ] − E xc [ρ V ]) + b' VV E xc [ρ V ]
簡便のため,(5-2)式の Ex と Ec はまとめて Exc (係数は b’)と表している。先述の
とおり,交換相関エネルギー項の係数は軌道の組み合わせによって決まる。ク
- 70 -
ーロン演算子 JC,JV,JTOT,交換演算子 KC,KV 及び Exc[ρC],Exc[ρV],Exc[ρ]に
対する一次微分を以下のように定義する。
C
V
OCC
k
m
i
J C = ∑ J k , J V = ∑ J m , J TOT = ∑ J i = J C + J V ,
C
V
k
m
KC = ∑ Kk , KV = ∑ Km ,
V xc [ρ ] =
δE xc [ρ ]
δE [ρ ]
δE [ρ ]
, V xc [ρ C ] = xc C , V xc [ρ V ] = xc V
δρ
δρ C
δρ V
(5-5)
(5-4)式を変分すると,以下のように内殻軌道と価電子軌道に対しそれぞれ別々
の Fock 演算子が得られる。
FC = h + 2 J TOT − (a CC K C + a CV K V ) + (b' CC −b' CV )V xc [ρ C ] + b' CV Vxc [ρ ]
(5-6)
FV = h + 2 J TOT − (a CV K C + a VV K V ) + (b' VV −b' CV )Vxc [ρ V ] + b' CV Vxc [ρ ]
(5-7)
ここで,これら二つの演算子を一つにまとめるために,Roothaan の結合演
算子法[27-29]を用いる。(5-6),(5-7)式それぞれの演算子から得られる内殻軌道
と価電子軌道の間にはユニタリー不変性が保証されていないので,オイラー方
程式は以下のようになる。
V
FCϕ k = ϕ k ε kk + ∑ ϕ mθ mk
(5-8)
m
C
FV ϕ m = ϕ m ε mm + ∑ ϕ k θ km
(5-9)
k
行列εのエルミート性を保証するためには,次の条件が課されねばならない。
ε km = ϕ k FC ϕ m = ϕ m FV ϕ k = ε mk
(5-10)
すると,以下のような結合演算子を得ることができる。
⎡ F − V ϕ ϕ Θ )⎤ ϕ = C ϕ ϕ F ϕ
∑ l l C k
C
m
m
⎥⎦ k
⎢⎣ C ∑
m
l
(5-11)
⎡ F − C ϕ ϕ Θ )⎤ ϕ = V ϕ ϕ F ϕ
V
V
k
k
n
n
m
⎥⎦ m ∑
⎢⎣ V ∑
k
n
(5-12)
ここでΘC とΘV は
Θ C = (1 − λ )FC + λFV
(5-13)
Θ V = µFC + (1 − µ )FV
(5-14)
- 71 -
である。λとµは零以外の任意の実数である。(5-11),(5-12)式の左辺のエルミー
ト性を保証するために RC 及び RV
RC = −∑ { ϕ m ϕ m Θ C ) + (Θ C ϕ m ϕ m
}
(5-15)
RV = −∑ { ϕ k ϕ k Θ V ) + (Θ V ϕ k ϕ k
}
(5-16)
V
m
C
k
を導入すると,以下の式を得る。
(F
+ RC ) ϕ k = ∑ ϕ l θ lk = ϕ k ε ' k
(5-17)
(F
+ RV ) ϕ m = ∑ ϕ n θ nm = ϕ m ε ' m
(5-18)
C
V
C
l
V
n
上記の手法は Roothaan の二重 Fock 演算子法に相当する。本章では,λとµをそ
れぞれ 0.5 及び−0.5 に設定することによって,(5-17), (5-18)式の左辺が 0.5(FC−
FV)と簡略化されるようにしている。この場合には,クーロン項は打ち消しあい,
交換項のみが残る。仮想軌道間の Fock 行列要素に関しては二重 Fock 演算子法
では任意である。そこで本章では,CV-B3LYP の仮想軌道の挙動を B3LYP に近
づけるため,仮想軌道間の Fock 行列にも FV を用いることにした。
5.3.3
CV-B3LYP に対する TDDFT の表式
通常の TDDFT 法[5-8]と同様に摂動に対する線形応答を考えると,内殻軌道
と価電子軌道を区別することによって以下のような式を得る。
Faa( 0 ) x ak − x ak Fkk( 0 )
VIR V ∂F
C VIR ∂F
V VIR ∂F
⎤
⎡VIR C ∂F
+ ⎢ ∑ ∑ ak xbl + ∑ ∑ ak xbn + ∑ ∑ ak y bl + ∑ ∑ ak y bn ⎥ Pkk( 0 ) = ωx ak
b n ∂P
l
b ∂P
n
b ∂P
bn
lb
nb
⎦
⎣ b l ∂Pbl
(5-19)
- 72 -
(0)
Faa( 0 ) x am − x am Fmm
VIR V ∂F
C VIR ∂F
V VIR ∂F
⎤ ( 0)
⎡VIR C ∂F
= ωx am
+ ⎢ ∑ ∑ am x bl + ∑ ∑ am xbn + ∑ ∑ am y bl + ∑ ∑ am y bn ⎥ Pmm
b n ∂P
l
b ∂P
n
b ∂P
bn
lb
nb
⎦
⎣ b l ∂Pbl
(5-20)
Fkk( 0 ) y ak − y ak Faa( 0 )
VIR V ∂F
C VIR ∂F
V VIR ∂F
⎤
⎡VIR C ∂F
− Pkk( 0 ) ⎢ ∑ ∑ ka xbl + ∑ ∑ ka xbn + ∑ ∑ ka y bl + ∑ ∑ ka y bn ⎥ = ωy ak
n
b ∂P
b n ∂P
l
b ∂P
bn
lb
nb
⎦
⎣ b l ∂Pbl
(5-21)
(0)
Fmm
y am − y am Faa( 0 )
VIR V ∂F
C VIR ∂F
V VIR ∂F
⎤
⎡ VIR C ∂Fma
(0)
xbl + ∑ ∑ ma xbn + ∑ ∑ ma y bl + ∑ ∑ ma y bn ⎥ = ωy am
− Pmm
∑
⎢∑
b n ∂P
l
b ∂P
n
b ∂P
bn
lb
nb
⎦
⎣ b l ∂Pbl
(5-22)
F(0)と P(0) は基底状態での Fock 行列と密度行列である。x,y 及びωの定義は参考
文献[7]及び 2 章 2 節と同じである。CV-B3LYP の Fock 行列を一般化すると次の
ようになる。
FC , pq = h pq + 2 J pq − a CC ∑ ∑ ( pr sq )Prs − a CV ∑ ∑ ( pr sq )Prs
r ≠V s≠V
+ (b' CC −b' CC )( p v C q ) + b' CV ( p v q )
(5-23)
r ≠C s≠C
FV , pq = h pq + 2 J pq − a CV ∑ ∑ ( pr sq )Prs − a VV ∑ ∑ ( pr sq )Prs
r ≠V s≠V
+ (b' VV −b' CV )( p v V q ) + b' CV ( p v q )
(5-24)
r ≠C s≠C
ここで p と q は,(5-23)式の中では価電子軌道以外の軌道,(5-24)式の中では内
殻軌道以外の軌道に制限されている。DFT 項に関しては,
(p v q) = ∫ ϕ
*
p
(p v q) = ∫ ϕ
V
⎛ δE [ρ ] ⎞
(r )⎜⎜ xc ⎟⎟ϕ q (r )dr ,
⎝ δρ (r ) ⎠
*
p
(p v q) = ∫ ϕ
C
*
p
⎛ δE [ρ ] ⎞
(r )⎜⎜ xc C ⎟⎟ϕ q (r )dr ,
⎝ δρ C (r ) ⎠
⎛ δE [ρ ] ⎞
(r )⎜⎜ xc V ⎟⎟ϕ q (r )dr
⎝ δρ V (r ) ⎠
(5-25)
ρ = ∑ ∑ Ppqϕ p (r )ϕ q* (r ) , ρ C = ∑ ∑ Ppq ϕ p (r )ϕ q* (r ) , ρ V = ∑ ∑ Ppq ϕ p (r )ϕ q* (r )
p
q
p≠V q≠V
p ≠C q≠C
(5-26)
- 73 -
と定義する。基底状態の密度行列 P(0)を MO 足で表すと,
Pij( 0 ) = δ ij , Pia( 0 ) = Pai( 0 ) = Pab( 0 ) = 0
(5-27)
となる。(5-19)∼(5-22)式より,固有方程式は以下のようになる。
⎛ A CC
⎜
⎜ A VC
⎜ B*
⎜ *CC
⎜B
⎝ VC
A CV
B CC
A VV
B VC
*
CV
A *CC
A *VC
B
B *VV
B CV ⎞ ⎛ X C ⎞
⎛1
⎟⎜
⎟
⎜
B VV ⎟ ⎜ X V ⎟
⎜0
ω
=
*
⎜0
A CV ⎟ ⎜ YC ⎟
⎟
⎜
⎟
⎜
⎜0
A *VV ⎟⎠ ⎜⎝ YV ⎟⎠
⎝
0 ⎞ ⎛ XC ⎞
⎟
⎟⎜
1 0
0 ⎟⎜ XV ⎟
0 − 1 0 ⎟ ⎜ YC ⎟
⎟
⎟⎜
0 0 − 1 ⎟⎠ ⎜⎝ YV ⎟⎠
0
0
(5-28)
ここで,
ACC , akbl = δ kl δ ab (ε a − ε k ) + (ak lb ) − a CC (ab lk )
+ (b' CC −b' CV )(ak wC lb ) + b' CV (ak w lb )
ACV , akbn = (ak nb ) − a CV (ab nk ) + b' CV (ak w nb )
AVC , ambl = (am lb ) − a CV (ab lm ) + b' CV (am w lb )
AVV ,ambn = δ mnδ ab (ε a − ε m ) + (am nb ) − a VV (ab nm )
+ (b' VV −b' CV )(am wV nb ) + b' CV (am w nb )
BCC ,akbl = (ak bl ) − a CC (al bk ) + (b' CC −b' CV )(ak wC bl ) + b' CV (ak w bl )
BCV , akbn = (ak bn ) − a CV (an bk ) + b' CV (ak w bn )
BVC , ambl = (am bl ) − a CV (al bm ) + b' CV (am w bl )
BVV , ambn = (am bn ) − a VV (an bm ) + (b' VV −b' CV )(am wV bn ) + b' CV (am w bn )
(5-29)
(5-30)
(5-31)
(5-32)
(5-33)
(5-34)
(5-35)
(5-36)
である。固有値ωは励起エネルギーに対応する。(5-29)∼(5-36)式における交換相
関汎関数の二次微分の項は以下のとおりである。
( pq w sr ) = ∫ ϕ
( pq w
C
( pq w
V
*
pσ
⎛ δ 2 E xc [ρ ] ⎞ *
⎟⎟ϕ sτ (r' )ϕ rτ (r' )drdr'
(r )ϕ qσ (r )⎜⎜
⎝ δρ σ (r ) ρ τ (r' ) ⎠
(5-37)
⎛ δ 2 E xc [ρ C ] ⎞ *
⎟ϕ sτ (r' )ϕ rτ (r' )drdr'
sr ) = ∫ ϕ *pσ (r )ϕ qσ (r )⎜⎜
⎟
⎝ δρ C σ (r ) ρ C τ (r' ) ⎠
(5-38)
⎛ δ 2 E xc [ρ V ] ⎞ *
⎟ϕ sτ (r' )ϕ rτ (r' )drdr'
sr ) = ∫ ϕ *pσ (r )ϕ qσ (r )⎜⎜
⎟
⎝ δρ V σ (r ) ρ V τ (r' ) ⎠
(5-39)
- 74 -
結果と考察:CV-B3LYP の精度検証
5.4
CV-B3LYP 汎関数を GAMESS04 [30]に実装した。TDDFT 法は GAMESS04
には実装されていないので,GAMESS04 で計算した軌道エネルギー及び軌道係
数を用いながら Gaussian 03 [31]にて TDDFT 計算を行った[32]。KS 方程式を解
く際には,(5-2)式における係数を表 5-2 のように決定した。CC 項と VV 項の係
数はそれぞれ BHHLYP,B3LYP の係数に設定した。CV 項の係数には BHHLYP
と B3LYP の係数の平均値を用いた。また,cc-pVTZ 基底関数[22]を用いて G2-1
セット分子に関する標準生成エンタルピーを参考文献[33]の手順に従って計算
した。CV-B3LYP を用いた TDDFT 計算では,CV-B3LYP の軌道係数と軌道エネ
ルギーを用いながら(5-28)式を B3LYP の行列の形で近似した。これは,TDDFT
計算の際に aCC,aCV,aVV を B3LYP の a で,b’CC,b’CV,b’VV を B3LYP の b’で
近似したことに相当する。励起状態計算では,基底関数に cc-pVDZ,cc-pCVDZ,
cc-pVTZ 及び cc-pCVTZ [22]の四種類を用いた。標準生成エンタルピー計算,励
起状態計算に用いた構造はそれぞれ B3LYP/6-31G(2df,p),B3LYP/cc-pVTZ レベ
ルで最適化したものである。
5.4.1
軌道エネルギーと標準生成エンタルピー
BHHLYP,CV-B3LYP 及び B3LYP 計算で得られた N2 分子の基底状態での軌
道エネルギーを表 5-3 にまとめる。その際,CV-B3LYP に関しては 5.3.2 節で示
した KS 方程式を計算した。表 5-3 には二つの内殻軌道,4 つの占有価電子軌道
の軌道エネルギーが示されている。
CV-B3LYP の内殻軌道エネルギーは BHHLYP
に近く,B3LYP の軌道エネルギーよりも約 13 eV ほど低い。一方,価電子軌道
に関しては,CV-B3LYP の軌道エネルギーは B3LYP に近く,BHHLYP よりも 2
∼4 eV 高い。このような軌道エネルギーの傾向は,CV-B3LYP の軌道エネルギ
ーが汎関数のデザインどおりに振舞うことを示している。
- 75 -
表5-3
N-1sσ
N-1sσ*
2sσ
2sσ*
2pπ
2pσ
N2分子の軌道エネルギー[eV]
BHHLYP
-405.70
-405.62
-34.58
-17.60
-14.57
-14.11
CV-B3LYP
-405.05
-404.98
-30.83
-15.11
-12.75
-11.79
B3LYP
-392.31
-392.26
-30.75
-15.03
-12.78
-11.78
G2-1 セット分子(55 分子)の標準生成エンタルピーの計算結果を表 5-4 に示
す。CV-B3LYP,BHHLYP 及び B3LYP の平均絶対誤差(MAE)はそれぞれ 4.2, 12.4
及び 2.9 kcal/mol であり,CV-B3LYP の精度は BHHLYP より大分高く,B3LYP
よりやや低い程度であることがわかる。CV-B3LYP が BHHLYP よりも高い精度
を示すのは,価電子軌道の記述が改善されているためである。B3LYP の係数 a
∼e は G2-1 セットの物性値を高精度に記述できるように経験的に決められたも
のであるが,CV-B3LYP はこの B3LYP の価電子軌道を再現するように構築され
ているため,価電子軌道の記述の改善が見られるのである。また,三種類どの
手法においても,最大の誤差を与える分子は SO2 である。SO2 分子は G2-1 セッ
トに含まれる 55 種類の分子の中で最も基底関数依存が大きい分子として知られ
ており,cc-pV 系の基底関数に含まれる分極関数では SO2 での分極を表すのに十
分でないことが知られている[34,35]。
- 76 -
表5-4
G2-1セット分子の標準生成エンタルピーの実験値との差[kcal/mol]
Molecule BHHLYP
LiH
1.2
BeH
-7.5
CH
1.5
3
1.5
CH2( B1)
1
5.4
CH2( A1)
CH3
2.3
CH4
5.6
NH
0.6
NH2
2.9
NH3
9.5
OH
5.3
H2O
14.5
FH
10.8
0.8
SiH2(1A1)
-0.6
SiH2(3B1)
SiH3
-1.1
SiH4
0.4
PH2
-1.4
PH3
3.1
H2S
6.3
HCl
5.1
Li2
4.1
LiF
10.5
C2H2
17.6
C2H4
13.6
C2H6
12.1
CN
24.4
HCN
19.2
CO
21.0
CHO
17.5
a
d
b
e
参考文献[33]
平均絶対誤差
c
平均二乗偏差
CV-B3LYP
-0.6
-6.8
-0.5
0.0
2.0
0.0
2.0
-1.0
-1.2
3.5
0.7
6.1
4.8
-1.0
-1.4
-1.5
0.4
-4.1
-0.7
2.1
2.3
3.1
2.4
7.4
5.5
6.2
8.0
6.1
7.3
2.6
B3LYP
-0.3
-7.8
-1.0
-1.5
0.9
-1.9
-0.4
-3.5
-4.5
-0.6
-0.3
4.3
3.8
-1.1
-1.5
-1.7
0.2
-4.2
-0.8
2.0
2.3
3.7
1.8
3.3
1.1
1.5
3.0
0.6
4.5
-0.8
Exptl.a
33.3
81.7
142.5
93.7
102.8
35.0
-17.9
85.2
45.1
-11.0
9.4
-57.8
-65.1
65.2
86.2
47.9
8.2
33.1
1.3
-4.9
-22.1
51.6
-80.1
54.2
12.5
-20.1
104.9
31.5
-26.4
10.0
Molecule BHHLYP
CH2O
19.2
CH3OH
18.4
N2
21.6
N2H4
17.6
NO
20.6
O2
20.2
H2O2
27.6
F2
21.9
CO2
32.4
Na2
1.4
Si2
14.9
P2
15.8
S2
11.2
Cl2
11.5
NaCl
8.1
SiO
23.7
CS
20.9
SO
19.1
ClO
16.4
ClF
16.1
Si2H6
3.5
CH3Cl
11.2
CH3SH
13.2
HOCl
19.6
SO2
51.3
MAEb
RMSc
d
Max. (+)
e
Max. (-)
最大誤差(+)
最大誤差(-)
- 77 -
12.4
15.8
51.3
-7.5
CV-B3LYP
5.1
7.1
7.3
5.6
3.2
-0.6
6.6
1.8
7.5
0.2
6.3
4.1
1.1
4.2
6.9
9.7
8.4
3.9
2.2
3.5
3.6
5.4
6.2
5.3
22.5
4.2
5.5
22.5
-6.8
B3LYP
1.4
3.0
0.4
-2.3
-1.5
-3.2
3.5
0.7
2.2
0.3
6.3
4.0
1.0
4.2
6.8
8.0
7.2
2.3
1.1
2.7
3.3
3.1
3.8
3.8
19.2
2.9
4.1
19.2
-7.8
Exptl.a
-26.0
-48.0
0.0
22.8
21.6
0.0
-32.5
0.0
-94.1
34.0
139.9
34.3
30.7
0.0
-43.6
-24.6
66.9
1.2
24.2
-13.2
19.1
-19.6
-5.5
-17.8
-71.0
−
−
−
−
5.4.2
励起エネルギー
cc-pCVTZ 基底関数を用いて計算した N2 分子の内殻及び価電子励起エネル
ギーの計算結果を表 5-5 に示す。括弧内には実験値との差を示してある。表 5-5
より,CV-B3LYP で計算された 1s→2pπ*内殻励起エネルギーは B3LYP よりも
BHHLYP の結果に近いことがわかる。また,CV-B3LYP 及び BHHLYP の誤差が
0.3 及び–3.0 eV と小さいのに対し,B3LYP の誤差は–12.5 eV と大きい。一方,
価電子励起に関しては,CV-B3LYP の精度は B3LYP と同程度である。また,
BHHLYP ではπ→π*励起エネルギーが過小評価されているため 1Πg,1Σu−及び 1∆u
状態の順番が正しく表現できていないが,CV-B3LYP では B3LYP と同様にこれ
らの状態の順番を正しく再現できていることもわかる。表 5-5 での CV-B3LYP
の励起エネルギーの挙動は表 5-3 での軌道エネルギーの挙動と同様であり,これ
は軌道エネルギーが励起エネルギーの計算結果に大きく影響することと対応し
ている。
表5-5 N2分子の励起エネルギー
分子の励起エネルギー[eV]
[eV]a
BHHLYP CV-B3LYP
1s→2pπ*
398.0
401.3
( -3.0)
(+0.3)
1
9.47
2pσ→2pπ* ( Πg) 9.63
B3LYP
388.5
( -12.5)
9.42
(+0.32)
2pπ→2pπ* ( Σu ) 9.05
(+0.16)
9.53
(+0.11)
9.52
( -0.87)
9.59
( -0.68)
( -0.39)
9.93
( -0.34)
( -0.40)
9.92
( -0.35)
1
-
1
2pπ→2pπ* ( ∆u)
a
括弧内は実験値からの差
b
参考文献[24]
c
参考文献[12]
- 78 -
Exptl.
401.0 b
9.31
c
9.92
c
10.27
c
表 5-6 はアセチレン(C2H2),エチレン(C2H4),ホルムアルデヒド(CH2O),CO
及び N2 分子の内殻励起エネルギーの計算結果をまとめたものである。実験値と
の誤差を括弧内に示す。表 5-6 では,どの分子に関しても CV-B3LYP の内殻励起
エネルギーは B3LYP よりも BHHLYP に近くなっている。さらに,BHHLYP や
B3LYP の MAE がそれぞれ 2 及び 11 eV 以上であるのに対し,
CV-B3LYP の MAE
は 1 eV 以下であり三種類のなかで最も良い精度を示した。B3LYP の誤差は飛び
ぬけて大きいといえる。
内殻の相関を考慮した基底関数(cc-pCV 系)を用いることによる精度の変化
はどの汎関数においても 0.1 eV 程度である。一方 triple zeta 基底関数を用いた場
合には,BHHLYP や B3LYP では MAE が 0.4∼0.6 eV 増加するのに対し,
CV-B3LYP では 0.4 eV 減少している。表 5-6 より,基底関数を triple zeta に分割
すると,得られる内殻励起エネルギーはより小さくなることがわかる。BHHLYP
や B3LYP では内殻励起エネルギーは cc-pVDZ の時点で既に過小評価されている
ので,基底関数を triple zeta にするとますます過小評価されることとなる。一方
CV-B3LYP による内殻励起エネルギーは cc-pVDZ を用いた場合にはやや過大評
価されており,この過大評価は triple zeta 基底である cc-pVTZ や cc-pCVTZ を用
いることによって減少する。
表 5-7 に N2,C2H2,C2H4,cis-2-ブテン(cis-C4H8),C4H6,ベンゼン(C6H6),
1,3,5-trans-ヘキサトリエン(C6H8),CH2O 及び CO 分子の価電子励起エネルギー
の計算結果を示す。価電子励起に関しては,CV-B3LYP 及び B3LYP の MAE は
0.21∼0.25 eV,BHHLYP の MAE は 0.36 eV であり,CV-B3LYP の精度は B3LYP
と同程度であることが示された。CV-B3LYP や B3LYP では,double zeta 基底関
数と triple zeta 基底関数の差は 0.04 eV である。一方,cc-pVXZ と cc-pCVXZ 基底
関数(X = D, T)における MAE は等しく,内殻に基底関数を足すことは価電子励起
エネルギーにはほぼ影響を与えないことがわかる。それゆえ,今回の場合にお
いて cc-pVDZ 基底関数は価電子励起エネルギーを計算するのに十分であるとい
うことができる。π→π*励起エネルギーはπ共役鎖が長くなるとブルーシフトす
ることは広く知られているが,CV-B3LYP では従来の B3LYP や BHHLYP と同様
に,このブルーシフトを正しく再現することができた。
- 79 -
- 80 -
MAEd
CO
実験値からの平均絶対誤差
d
2.4
( -2.6)
528.4
( -2.4)
532.0
( -2.2)
( -2.5)
528.6
( -2.2)
532.2
( -2.0)
CH2O
N2
2.3
( -2.6)
284.0
( -3.4)
398.4
( -2.5)
284.1
( -3.3)
398.5
括弧内は実験値からの差
b
参考文献[1]
c
参考文献[24]
a
( -1.7)
283.4
( -1.6)
283.5
CH2O
CO
( -1.7)
283.0
( -1.6)
283.1
C2H4
Molecule
C2H2
2.8
( -3.0)
528.2
( -2.6)
531.7
( -2.5)
( -3.0)
283.6
( -3.8)
398.0
( -2.1)
283.0
( -2.2)
282.6
2.8
( -3.1)
528.1
( -2.7)
531.6
( -2.6)
( -3.0)
283.5
( -3.9)
397.9
( -2.2)
283.0
( -2.2)
282.5
BHHLYP
cc-pVDZ cc-pCVDZ cc-pVTZ cc-pCVTZ
284.2
284.1
283.6
283.6
0.8
(+0.9)
532.0
(+1.2)
535.2
(+1.0)
(+0.6)
287.5
(+0.1)
401.9
(+1.0)
286.6
(+0.9)
285.7
0.7
(+0.8)
531.8
(+1.0)
535.0
(+0.8)
(+0.5)
287.4
( -0.0)
401.8
(+0.9)
286.5
(+0.8)
285.6
0.4
(+0.3)
531.5
(+0.7)
534.6
(+0.4)
(+0.0)
287.0
( -0.4)
401.3
(+0.4)
286.0
(+0.3)
285.1
0.3
(+0.3)
531.4
(+0.6)
534.5
(+0.3)
(+0.0)
286.9
( -0.5)
401.3
(+0.4)
286.0
(+0.3)
285.1
CV-B3LYP
cc-pVDZ cc-pCVDZ cc-pVTZ cc-pCVTZ
286.7
286.6
286.1
286.1
11.3
( -11.8)
517.3
( -13.5)
520.5
( -13.7)
( -10.1)
276.7
( -10.7)
389.2
( -9.7)
275.9
( -9.8)
275.0
11.5
( -12.0)
517.1
( -13.7)
520.3
( -13.9)
( -10.3)
276.6
( -10.8)
389.0
( -9.9)
275.7
( -9.9)
274.8
11.9
( -12.4)
516.7
( -14.1)
519.9
( -14.3)
( -10.7)
276.2
( -11.2)
388.6
( -10.3)
275.3
( -10.4)
274.4
12.0
( -12.5)
516.7
( -14.1)
519.8
( -14.4)
( -10.8)
276.1
( -11.3)
388.5
( -10.4)
275.2
( -10.5)
274.3
B3LYP
cc-pVDZ cc-pCVDZ cc-pVTZ cc-pCVTZ
276.0
275.9
275.4
275.3
表5-6 BHHLYP,CV-B3LYP及びB3LYPによるC2H2,C2H4,CH2O,CO及びN2分子の内殻励起エネルギー[eV]a
b
534.2 b
530.8
401.0 c
287.4 b
286.0 b
284.7 b
Expt.
285.8 b
- 81 -
( -0.18)
6.19
( -0.18)
6.19
C4H6
(+0.87)
5.11
(+0.16)
4.17
(+0.23)
9.70
( -0.18)
(+0.87)
5.11
(+0.16)
4.17
(+0.23)
9.70
( -0.18)
0.36
C6H8
CH2O
CO
MAEf
参考文献[12]
参考文献[37]
実験値からの平均絶対誤差
参考文献[38]
e
d
参考文献[36]
c
b
0.36
(+0.27)
5.77
(+0.27)
5.77
C6H6
括弧内は実験値からの差
a
f
(+0.15)
7.37
(+0.16)
7.37
cis -C4H8
0.36
(+0.23)
9.67
( -0.21)
(+0.06)
4.17
(+0.79)
5.01
(+0.12)
5.69
( -0.37)
6.04
( -0.13)
7.18
( -0.48)
7.87
0.36
(+0.23)
9.67
( -0.21)
(+0.06)
4.17
(+0.79)
5.01
(+0.12)
5.69
( -0.37)
6.04
( -0.13)
7.18
( -0.48)
7.87
0.21
(+0.13)
9.86
( -0.02)
( -0.09)
4.07
(+0.64)
4.86
(+0.08)
5.54
( -0.32)
6.00
(+0.20)
7.23
( -0.10)
8.20
( -0.37)
8.15
0.21
(+0.13)
9.87
( -0.01)
( -0.09)
4.07
(+0.64)
4.86
(+0.08)
5.54
( -0.32)
6.00
(+0.20)
7.23
( -0.10)
8.20
0.25
(+0.12)
9.82
( -0.06)
( -0.18)
4.06
(+0.57)
4.77
( -0.07)
5.47
( -0.50)
5.85
( -0.14)
7.05
( -0.24)
7.86
0.25
(+0.12)
9.82
( -0.06)
( -0.19)
4.06
(+0.57)
4.76
( -0.07)
5.47
( -0.51)
5.85
( -0.15)
7.04
( -0.24)
7.85
( -0.39)
6.86
( -0.37)
8.16
( -0.39)
6.86
C2H4
( -0.32)
7.00
( -0.32)
7.00
( -0.87)
6.62
( -0.81)
6.73
( -0.81)
6.73
C2H2
( -0.87)
6.62
CV-B3LYP
cc-pVDZ cc-pCVDZ cc-pVTZ cc-pCVTZ
9.60
9.60
9.53
9.53
Molecule
N2
BHHLYP
cc-pVDZ cc-pCVDZ cc-pVTZ cc-pCVTZ
9.11
9.11
9.05
9.05
0.21
(+0.10)
9.85
( -0.03)
( -0.09)
4.04
(+0.63)
4.86
(+0.08)
5.53
( -0.32)
6.00
(+0.20)
7.23
( -0.11)
8.20
( -0.32)
6.99
0.21
(+0.10)
9.86
( -0.02)
( -0.09)
4.04
(+0.63)
4.86
(+0.08)
5.53
( -0.32)
6.00
(+0.20)
7.23
( -0.11)
8.20
( -0.32)
6.99
0.25
(+0.08)
9.81
( -0.07)
( -0.19)
4.02
(+0.56)
4.76
( -0.07)
5.46
( -0.50)
5.85
( -0.12)
7.05
( -0.24)
7.89
( -0.40)
6.86
0.25
(+0.08)
9.81
( -0.07)
( -0.19)
4.02
(+0.56)
4.76
( -0.07)
5.46
( -0.51)
5.85
( -0.10)
7.04
( -0.24)
7.90
( -0.40)
6.86
B3LYP
cc-pVDZ cc-pCVDZ cc-pVTZ cc-pCVTZ
9.60
9.60
9.52
9.52
9.88 b
3.94 b
4.95 e
4.90 b
5.92 e
7.55 d
8.00 b
7.10 c
Expt.
9.92 b
表5-7 BHHLYP,CV-B3LYP及びB3LYPによるN2,C2H2,C2H4,cis-C4H8,C4H6,C6H6,C6H8及びCO分子のπ-π*価電子
励起エネルギーとCH2O分子のn-π*価電子励起エネルギー[eV]a
5.5
結論
本章では,まず従来の交換相関汎関数に関して精度の検証を行い,続いて
内殻及び価電子励起を双方とも高精度に記述するための新しい hybrid 汎関数
CV-B3LYP を開発した。TD-BLYP,TD-BHHLYP,TD-B3LYP 及び TDHF 法の精
度検証によって,内殻励起状態を精度よく記述するためには HF 交換項の割合が
重要であることが明らかとなった。その結果に基づき CV-B3LYP 汎関数では,
内殻軌道と価電子軌道を区別し,それぞれに適切な HF 交換項の割合を用いた。
Roothaan の結合演算子法[27-29]を用いながら CV-B3LYP の KS 方程式,TDDFT
の表式を導出した。CV-B3LYP,BHHLYP 及び B3LYP を用いて DFT 及び TDDFT
計算を行ったところ,基底状態において,CV-B3LYP の内殻及び価電子軌道エネ
ルギーは,それぞれ BHHLYP,B3LYP の値を再現した。また,標準生成エンタ
ルピーに関しても,B3LYP と同程度の精度で定量的に計算することができた。
CV-B3LYP による励起状態計算に関しては,内殻励起は BHHLYP,価電子励起
は B3LYP と同程度の精度で記述できており,内殻及び価電子励起を双方とも高
精度に記述可能であることが示された。
- 82 -
第 5 章の参考文献
[1] C. –H. Hu and D. P. Chong, Chem. Phys. Lett. 262, 729 (1996).
[2] S. Shirai, S. Yamamoto, and S. Hyodo, J. Chem. Phys. 121, 7586 (2004).
[3] K. Kuramoto, M. Ehara, H. Nakatsuji, M. Kitajima, H. Tanaka, A. De Fanis, Y.
Tamenori, and K. Ueda, J. Electron Spectrosc. Relat. Phenom. 142, 253 (2005).
[4] K. Kuramoto, M. Ehara, and H. Nakatsuji, J. Chem. Phys. 122, 014304 (2005).
[5] M. E. Casida, in Recent Advances in Density Functional Methods Part I, edited by D.
P. Chong (World Scientific, Singapore, 1995), p. 155.
[6] R. Bauernschmitt and R. Ahlrichs, Chem. Phys. Lett. 256, 454 (1996).
[7] S. Hirata and M. Head-Gordon, Chem. Phys. Lett. 314, 291 (1999).
[8] S. Hirata, M. Head-Gordon, and R. J. Bartlett, J. Chem. Phys. 111, 10774 (1999).
[9] R. van Leeuwen and E. J. Baerends, Phys. Rev. A 49, 2421 (1994).
[10] S. J. A. van Gisbergen, V. P. Osinga, O. V. Gritsenko, R. van Leeuwen, J. G.
Snijders, and E. J. Baerends, J. Chem. Phys. 105, 3142 (1996).
[11] D. J. Tozer and N. C. Handy, J. Chem. Phys. 109, 10180 (1998).
[12] Y. Tawada, T. Tsuneda, S. Yanagisawa, T. Yanai, and K. Hirao, J. Chem. Phys. 120,
8425 (2004).
[13] M. Stener, P. Decleva, and A. Görling, J. Chem. Phys. 114, 7816 (2001).
[14] B. Brena, Y. Luo, M. Nyberg, S. Carniato, K. Nilson, Y. Alfredsson, J. Åhlund, N.
Mårtensson, H. Siegbahn, and C. Puglia, Phys. Rev. B 70, 195214 (2004).
[15] B. Brena, S. Carniato, and Y. Luo, J. Chem. Phys. 122, 184316 (2005).
[16] Y. Imamura and H. Nakai, Chem. Phys. Lett. 419, 297 (2006).
[17] A. D. Becke, Phys. Rev. A 38, 3098 (1988).
[18] C. Lee, W. Yang, and R. G. Parr, Phys. Rev. B 37, 785 (1988).
[19] A. D. Becke, J. Chem. Phys. 98, 1372 (1993).
[20] A. D. Becke, J. Chem. Phys. 98, 5648 (1993).
[21] P. J. Stevens, F. J. Devlin, C. F. Chabalowski, and M. J. Frisch, J. Phys. Chem. 98,
11623 (1994).
[22] T. H. Dunning, Jr., J. Chem. Phys. 90, 1007 (1989).
- 83 -
[23] R. Krishnan, J. S. Binkley, R. Seeger, and J. A. Pople, J. Chem. Phys. 72, 650
(1980).
[24] M. Ohno, P. Decleva, and G. Fronzoni, J. Chem. Phys. 109, 10180 (1998).
[25] J. C. Slater, Phys. Rev. 81, 385 (1951).
[26] S. H. Vosko, L. Wilk, and M. Nusair, Can. J. Phys. 58, 1200 (1980).
[27] C. C. J. Roothaan, Revs. Modern Phys. 32, 179 (1960).
[28] S. Huzinaga, 分子軌道法, (岩波書店, Tokyo, 1980) (in Japanese).
[29] K. Hirao and H. Nakatsuji, J. Chem. Phys. 59, 1457 (1973).
[30] M. W. Schmidt, K. K. Baldridge, J. A. Boatz, S. T. Elbert, M. S. Gordon, J. H.
Jensen, S. Koseki, N. Matsunaga, K. A. Nguyen, S. Su, T. L. Windus, M. Dupuis,
and J. A. Montgomery, J. Comput. Chem. 14, 1347 (1993).
[31] M. J. Frisch, G. W. Trucks, H. B. Schlegel et al. GAUSSIAN 03, Revision C.02,
Gaussian, Inc., Wallingford CT, 2004.
[32] SCF 計算において重要な計算条件であるエネルギー及び密度行列の収束判
定の閾値,グリッド点の数は GAMESS04 と GAUSSIAN03 ではそれぞれ
(1.0×10-9, 1.0×10-5, 27,640)及び(1.0×10-6, 1.0×10-6, 58,410)である。この条件で
計算した場合の基底状態でのエネルギー差は,N2 及び CH2O 分子において
それぞれ 3.0×10-6 及び 1.0×10-6 hartree であった。本章では CV-B3LYP の精度
を内殻及び価電子励起エネルギーに関しそれぞれ 10-1 及び 10-2 eV のオーダ
ーで議論しているので, 二種類のプログラムを用いることによって生じる
差は本章では無視することができるオーダーであるといえる。
[33] L. A. Curtiss, K. Raghavachari, P. C. Redfern, and J. A. Pople, J. Chem. Phys. 106,
1063 (1997).
[34] C. W. Bauschlicher, Jr. and H. Partridge, Chem. Phys. Lett. 240, 533 (1995).
[35] J. M. L. Martin, J. Chem. Phys. 108, 2791 (1998).
[36] R. Dressler and M. Allan, J. Chem. Phys. 87, 4510 (1987).
[37] I. C. Walker, T. M. Abuain, M. H. Palmer, and A. J. Beveridge, Chem. Phys. 119,
193 (1988).
[38] L. Serrano-Andrés, M. Merchán, I. Nebot-Gil, R. Lindh, and B. O. Roos, J. Chem.
Phys. 98, 3151 (1993).
- 84 -
第6章
6.1
内殻,価電子及び Rydberg 励起状態を高精度に
記述するための新しい密度汎関数の開発:
Core-Valence-Rydberg B3LYP
序
時間依存密度汎関数理論(TDDFT) [1-4]は低計算コストで定量的に励起エネ
ルギーを計算できることから,現在幅広く用いられている。しかし,従来の交
換相関汎関数を用いた TDDFT 計算では Rydberg 励起エネルギーを大幅に過小評
価することが知られている[5-7]。この過小評価は,従来の交換相関汎関数では
漸近領域での挙動が適切でないために生じると考えられており,これまでに
TDDFT による Rydberg 励起の記述改善のための様々な手法が報告されてきた。
汎関数の漸近領域での挙動を改善する手法として,van Leeuwen-Baerends’ 94
(LB94)汎関数[8]や漸近補正 Kohn-Sham (KS)方程式[9]などが提案されている。ま
た,交換汎関数に対する長距離補正法[10]では,短距離領域には交換汎関数を,
長距離領域には Hartree-Fock (HF)交換項を用いることによって,漸近領域での挙
動の改善に成功している。
前章では,内殻励起状態の TDDFT 計算に対する従来の交換相関汎関数の精
度検証を行い,従来の交換相関汎関数では内殻励起エネルギーを大きく過小評
価する傾向があること,内殻励起を高精度に記述するためには HF 交換項の交換
相関汎関数に占める割合が重要であることを明らかにした[11-13]。さらに最近,
TDDFT 法による内殻励起の不適切な記述は,交換相関汎関数の自己相互作用の
不適切な取り扱いが原因であることが報告された[13]。
その結果に基づき,TDDFT 法による内殻励起状態計算の精度向上のための
交換相関汎関数が二種類開発された。一つは修正 LB94 を用いた Becke’s 1988
(B88)交換[14] + Lee-Yang-Parr (LYP)相関[15]汎関数(BmLBLYP) [5]である。
BmLBLYP では,B88 汎関数を価電子領域に用い,内殻及び漸近領域には LB94
ポテンシャルを用いることによって内殻→価電子(C→V)励起のみならず内殻
→Rydberg (C→R) 励 起 の 記 述 の 改 善 に 成 功 し て い る 。 も う 一 つ が 前 章 の
- 85 -
Core-Valence Becke’s three-parameter (B3)交換[16] + LYP 相関汎関数(CV-B3LYP)
[11]である。CV-B3LYP 汎関数では,内殻領域と価電子領域にそれぞれ適切な
HF 交換項の割合を用いている。その結果,標準生成エンタルピーに関して
B3LYP と同程度の精度が得られ,かつ C→V 励起及び価電子→価電子(V→V)励
起も高精度に記述することに成功した。しかし予備研究の結果,CV-B3LYP では
Rydberg 励起の記述精度が低いことがわかった。これは,仮想軌道に関して
CV-B3LYP が,Rydberg 軌道の記述に不適切な B3LYP と同様の振る舞いを示すよ
うに作られているためである。
そこで本章では,C→V,C→R,V→V 及び価電子→Rydberg (V→R)励起の
全てを精度良く記述するための新しい hybrid 汎関数として,
core-valence-Rydberg
B3LYP (CVR-B3LYP)を提案する。CVR-B3LYP の開発においては,仮想軌道に関
しても価電子軌道と Rydberg 軌道を区別し,それぞれに適切な HF 交換項の割合
を用いることによって記述の改善を試みた。具体的には,Huzinaga と Arnau が
HF 法に用いた improved virtual orbital (IVO)法[17,18 及び 2 章 4 節]と同様の手法
によって,元の Fock 演算子に適切な演算子を加えることによって HF 交換項の
割合を軌道ごとに調節した。
6.2 節では CVR-B3LYP の理論について,CV-B3LYP の簡単な復習も含めて
説明する。6.3 節では CVR-B3LYP の計算結果を BLYP,B3LYP,Becke’s half-andhalf (BHH)交換 + LYP 相関汎関数[19]及び HF 計算の結果と比較することによっ
て,CVR-B3LYP の精度を検証した。6.4 節は本章のまとめである。
理論:Core-Valence-Rydberg B3LYP (CVR-B3LYP)
6.2
6.2.1
CV-B3LYP
CV-B3LYP[11]では,内殻軌道と価電子軌道がそれぞれ適切な HF 交換項の割
合をもつように設計されている。前章での従来の交換相関汎関数に関する精度
- 86 -
検証により,BHHLYP 及び B3LYP がそれぞれ内殻及び価電子励起の記述に適し
ていることがわかっている。それゆえ,CV-B3LYP の内殻及び価電子軌道はそれ
ぞれ BHHLYP 及び B3LYP の挙動を再現するように作られている。CV-B3LYP で
は電子エネルギーは内殻-内殻(CC),内殻-価電子(CV)及び価電子-価電子(VV)間
相互作用の三種類に分割される。
C
OV
C
C OV
k
m
kl
k
OV C
OV
E = 2∑ H k + 2∑ H m + ∑ 2 J kl + ∑ ∑ 2 J km + ∑ ∑ 2 J mk + ∑ 2 J mn
m
m
k
mn
+ a CC ∑ (− K kl ) + a CV ∑ ∑ (− K km ) + a CV ∑ ∑ (− K mk ) + a VV ∑ (− K mn )
C
C OV
kl
k
OV C
m
m
k
OV
mn
+ bCC E xc [ρ C ] + bCV (E xc [ρ ] − E xc [ρ C ] − E xc [ρ OV ]) + bVV E xc [ρ OV ]
(6-1)
ここで a 及び b は HF 交換項及び DFT 交換相関汎関数の係数であり,具体的な
値は表 6-1 に示してある。
CV-B3LYP の交換相関汎関数は Slater 交換汎関数[20],
B88 交換汎関数[14],Vosko-Wilk-Nusair (VWN5)相関汎関数[21]及び LYP 相関汎
関数[15]から成り立っている。CC 及び VV 相互作用項の係数にはそれぞれ
BHHLYP 及び B3LYP の値を用いた。 CV 相互作用項に関しては,BHHLYP と
B3LYP の平均値を係数として用いた。和記号の上の“C”及び“V”はそれぞれ内殻
及び価電子軌道に関する和を取ることを示しており,添字 k,l は内殻軌道,m,
n は価電子軌道に対応している。H,J,K 及び Exc はそれぞれ 1 電子,クーロン,
HF 交換及び交換相関エネルギーを表している。ρ,ρC 及びρOV はそれぞれ全電子
密度,内殻電子密度及び価電子密度である。
BHHLYP,B3LYP及びCV-B3LYPにおける交換相関汎関数の係数の値
CV-B3LYP
HF BHHLYP B3LYP BLYP
CC
CV
VV
a (HF exchange)
1
0.5
0.2
0
0.5
0.35
0.2
b (Slater exchange)
0
0
0.08
0
0
0.04
0.08
(B88 exchange)
0
0.5
0.72
1
0.5
0.61
0.72
(VWN5 correlation)
0
0
0.19
0
0
0.095
0.19
(LYP correlation)
0
1
0.81
1
1
0.905
0.81
表6-1
- 87 -
変分原理により,以下の二種類の Fock 演算子が得られる。
FC = h + 2 J − (aCC K C + aCV K OV ) + (bCC − bCV )Vxc [ρ C ] + bCVVxc [ρ ]
(6-2)
FOV = h + 2 J − (a CV K C + a VV K OV ) + (bVV − bCV )V xc [ρ OV ] + bCVV xc [ρ ]
(6-3)
h と J は 1 電子及びクーロン演算子である。HF 交換演算子及び Exc の一次微分は
以下のとおりである。
C
OV
k
m
K C = ∑ K k , K OV = ∑ K m ,
V xc [ρ ] =
δE xc [ρ ]
δE [ρ ]
δE [ρ ]
, V xc [ρ C ] = xc C , V xc [ρ OV ] = xc OV
δρ
δρ C
δρ OV
(6-4)
ここで,内殻軌道と価電子軌道間のユニタリー不変性を保証するために,
Roothaan の結合演算子法[22–24]を用いる。RC と ROV を以下のように定義する。
RC = −∑ { ϕ m ϕ m Θ C ) + (Θ C ϕ m ϕ m
OV
m
}
ROV = −∑ { ϕ k ϕ k Θ OV ) + (Θ OV ϕ k ϕ k
C
k
(6-5)
}
(6-6)
ここでΘC とΘOV は
Θ C = (1 − λ )FC + λFOV
(6-7)
Θ OV = µFC + (1 − µ )FOV
(6-8)
である。すると,式変形ののち以下の結合演算子を導出することができる。
FC ' ϕ k = (FC + RC ) ϕ k = ϕ k ε k
(6-9)
FOV ' ϕ m = (FOV + ROV ) ϕ m = ϕ m ε m
(6-10)
ϕとεは KS 軌道とその軌道エネルギーであり,λとµは非零の任意の数である。
すると,二つの Fock 演算子を結合した結合演算子は,形式的には以下のように
表すことができる。
C
OV
F ϕ = ⎛⎜ ∑ FC ' ϕ k ϕ k + ∑ FOV ' ϕ m ϕ m ⎞⎟ ϕ = ϕ ε
m
⎝k
⎠
(6-11)
(6-11)式は Roothaan の二重 Fock 演算子法に対応する。エルミート性を保証する
には(6-11)式を対称化し,λ = –µにすればよい。二重 Fock 演算子法では仮想軌道
間の Fock 行列要素に任意性が残されている。そこで CV-B3LYP では,仮想軌道
が B3LYP のときと同様の振る舞いをするように,仮想軌道間の Fock 行列要素
- 88 -
を FOV に設定している。これは,Fock 演算子が以下のように表されることに対
応している。
C
OV
OCC
OCC
F = ∑ FC ' ϕ k ϕ k + ∑ FOV ' ϕ m ϕ m + ⎛⎜1 − ∑ ϕ i ϕ i ⎞⎟ FOV ⎛⎜1 − ∑ ϕ i ϕ i ⎞⎟
k
m
i
i
⎝
⎠
⎝
⎠
(6-12)
添字 i は内殻,価電子軌道を合わせた全ての占有軌道に対応する。(6-12)式右辺
の第三項は,占有軌道を変化させること無しに仮想軌道だけを変化させる演算
子である。
CV-B3LYP の TDDFT 表式では,A 及び B 行列は CC,CV,VC 及び VV の
四種類の項に分割される。
この分割により A や B の次元が変わることはないが,
通常の TDDFT と比べ多少計算コストが増大する。それゆえ本章では,CV-B3LYP
の厳密な TDDFT 表式を用いるのではなく,CV-B3LYP の軌道エネルギー及び軌
道係数を用いながら B3LYP の TDDFT 表式を近似的に用いた。これは,TDDFT
計算時のみ CV-B3LYP での aX 及び bX (X = CC,CV,VV)を B3LYP の a 及び b
に近似したことに相当する。この近似の元でも CV-B3LYP は TD-B3LYP や
TD-BHHLYP よりも高い精度を示す[11]。
6.2.2
CVR-B3LYP
前節でも述べたとおり,仮想軌道間の Fock 行列要素に FOV を用いることに
よって CV-B3LYP の仮想軌道は B3LYP の挙動を再現している。しかし,B3LYP
は Rydberg 軌道を記述するには不適切である。そこで,IVO 法[17,18]に基づき,
(6-12)式の第三項の代わりに(6-11)式の F に以下のように二つの演算子を加える。
C
OV
F = ∑ FC ' ϕ k ϕ k + ∑ FOV ' ϕ m ϕ m
k
m
⎛
⎞
⎛ ≠ UV
⎞ ⎛ ≠R
⎞ ⎛ ≠R
⎞
+ ⎜1 − ∑ ϕ p ϕ p ⎟ FUV ⎜1 − ∑ ϕ p ϕ p ⎟ + ⎜1 − ∑ ϕ q ϕ q ⎟ FR ⎜1 − ∑ ϕ q ϕ q ⎟
p
p
q
q
⎝
⎠
⎝
⎠ ⎝
⎠ ⎝
⎠
≠ UV
(6-13)
ここで和記号上の“≠UV”及び“≠R”は添字 p と q がそれぞれ非占有価電子軌道及
- 89 -
び Rydberg 軌道を除いた全ての軌道に対応することを表している。FUV と FR は
非占有価電子軌道及び Rydberg 軌道に関する任意の Fock 演算子である。(6-13)
式の第 3,第 4 項はそれぞれ非占有価電子軌道及び Rydberg 軌道にしか作用しな
いので,占有軌道は(6-11)式のままに保たれている。さらに,占有軌道と仮想軌
道は厳密に直交したままである。仮想軌道内のユニタリー不変性を保証するた
めに,前節で占有軌道に対して行ったのと同様に,仮想軌道の二種類の Fock 演
算子に対して結合演算子法を適用する。以下の条件が満たされた場合には固有
値行列εはエルミートとなる。
ε ac = ϕ a FUV ϕ c = ϕ c FR ϕ a = ε ca
(6-14)
ここで添字 a と b は非占有価電子軌道であり,c と d は Rydberg 軌道である。こ
こで,以下の演算子
R UV = −∑ { ϕ c ϕ c Θ UV ) + (Θ UV ϕ c ϕ c
R
c
R R = −∑ { ϕ a ϕ a Θ R ) + (Θ R ϕ a ϕ a
UV
a
}
}
(6-15)
(6-16)
を導入する。ΘUV とΘR は
Θ UV = (1 − σ )FUV + σFR
(6-17)
Θ R = τFUV + (1 − τ )FR
(6-18)
である。すると,(6-14)式から以下のような結合演算子を得ることができる。
FUV ' ϕ a = (FUV + R UV ) ϕ a = ϕ a ε a
(6-19)
FR ' ϕ c = (FR + RR ) ϕ c = ϕ c ε c
(6-20)
すると,形式的な統一演算子は以下のようになる。
C
OV
F = ∑ FC ' ϕ k ϕ k + ∑ FOV ' ϕ m ϕ m
k
m
OCC
⎛ ≠ UV
⎞
⎛ ≠R
⎞
+ ⎛⎜1 − ∑ ϕ i ϕ i ⎞⎟ FUV ' ⎜1 − ∑ ϕ p ϕ p ⎟ + ⎛⎜1 − ∑ ϕ i ϕ i ⎞⎟ FR ' ⎜1 − ∑ ϕ q ϕ q ⎟
i
p
i
q
⎝
⎠
⎠ ⎝
⎝
⎠ ⎝
⎠
OCC
(6-21)
FUV’と FR’の左側の和記号は占有軌道のみの和を取る,それは非占有仮想軌道−
Rydberg 軌道間の要素が消えてしまわないようにするためである。(6-13)式を対
称化しσ = –τの条件を課すことによって F をエルミート化することができる。
- 90 -
(6-21)式から得られる Fock 行列を図 6-1 に示す。
occupied
C
FC
λ(FC–FOV)
FC
FC
OV
λ(FC–FOV)
FOV
FOV
FOV
UV
occupied
unoccupied
valence (OV) valence (UV) Rydberg (R)
FC
FOV
FUV
R
core (C)
virtual
FC
FOV
σ(FUV–FR)
σ(FUV–FR)
FR
図6-1 CVR-B3LYPにおけるFock行列
FUV と FR の取り方に任意性が残されていても,(6-21)式から得られる仮想軌道は,
それら自身の間でも直交しており,また CV-B3LYP のまま保たれている占有軌
道に対しても厳密に直交している。(6-21)式を解く作業は CV-B3LYP 計算が収束
した後一度だけ行えばよく,繰り返し計算は必要ない。本章では,λとσは 0.1,
µとτは–0.1 に設定した。HF 交換項は漸近領域の正しい振舞いを表現するので,
Rydberg 軌道のような空間的に広がった軌道の記述に対して重要な役割を果た
す[10]。 そこで本章では,HF 法での Fock 演算子 FHF を FR として用いた。
- 91 -
OCC
FR = FHF = h + 2 J − ∑ K i
(6-22)
i
占有価電子軌道と同様に非占有価電子軌道も B3LYP の挙動を再現するように,
FUV は FOV に揃えた。
CVR-B3LYP の Fock 行列を作るためには,どの軌道が内殻,価電子,及び
Rydberg 軌道であるかを事前に知っておく必要がある。内殻軌道のエネルギーは
他の軌道と比べて非常に低いので,内殻軌道は軌道エネルギーから区別するこ
とができる。一方,Rydberg 軌道のエネルギーは非占有価電子軌道のエネルギー
と近いため,軌道エネルギーから Rydberg 軌道を判別するのは難しい。そこで本
章では,r2 の期待値であり軌道の空間的な拡がりを反映する二次モーメント rp2
を用いて Rydberg 軌道を判別した。
( )
(ν x µ ) + ∑ ∑ C
rp2 = ∑ ∑ C µp Cνp ν r 2 µ
µ
ν
= ∑ ∑ C µp Cνp
µ
ν
2
µ
ν
(
)
(
2
2
µp Cνp ν y µ + ∑ ∑ C µp Cνp ν z µ
µ
ν
)
(6-23)
(6-23)式では,p は分子軌道,µとνは原子軌道を表している。Rydberg 軌道は価
電子軌道より広がっているので,Rydberg 軌道の二次モーメントは非占有価電子
軌道の二次モーメントと比べて著しく大きくなるはずである。
図 6-1 に示したとおり CVR-B3LYP の Fock 行列の C-UV 及び C-R 要素はど
ちらも FC であり,OV-UV 及び OV-R 要素は FOV であるため,CVR-B3LYP に対
する TDDFT の厳密な表式は CV-B3LYP のものと同じになる。TDDFT 計算時に
は CV-B3LYP のときと同様の近似を用い,CVR-B3LYP の軌道エネルギーと軌道
係数を用いながら B3LYP の A 及び B 行列の形[1-4]を利用した。
- 92 -
結果と考察:CVR-B3LYP の精度検証
6.3
C2H2,C2H4,CH2O,CO 及び N2 分子の C→V,C→R,V→V 及び V→R 励
起エネルギーを TDHF 法及び BLYP,B3LYP,BHHLYP,CV-B3LYP,CVR-B3LYP
汎関数を用いた TDDFT 法で計算した。基底関数には cc-pCVTZ [25]を用いた。
さらに,(3s, 3p)軌道を表現するために Dunning-Hay の single (s, p) Rydberg 基底関
数[26]を加えた。全ての分子の構造は B3LYP/cc-pVTZ [25]レベルで最適化した。
6.3.1
二次モーメント
HF 計算及び CV-B3LYP,BLYP,B3LYP,BHHLYP 汎関数を用いた DFT 計
算を行い,各分子軌道に関して二次モーメントを計算した。図 6-2 には N2 分子
のエネルギーの低い方から 50 個の軌道の二次モーメントの計算結果を示す。縦
軸には二次モーメントの平方根の値,横軸には軌道の番号を示す。#50 以降の軌
道の二次モーメントの平方根の値はどれも 1.3 Å 以下と小さいため,図 6-2 では
割愛した。図中で,はじめの七つの軌道は占有軌道であり,残りは仮想軌道で
ある。仮想軌道のうちの八つの軌道が 3s,3pσ及び 3pπ Rydberg 軌道であり,HF
では(#8 – #15),DFT では(#10 – #17)がそれに相当する。図 6-2 から,Rydberg 軌
道の二次モーメントは価電子軌道と比べて非常に大きいことが明確にわかる。
Rydberg 軌道の二次モーメントの平方根の値はどれも 3.4 Å より大きいが,仮想
軌道では 2.6 Å 以下である。DFT での(#8, #9)及び HF での(#16, #17)は縮退して
いる。これらは 2pπ*軌道に相当しており,HF の 2pπ* 軌道のエネルギーは DFT
と比べて高くなっている。
DFT 計算の結果を比較すると,B3LYP の二次モーメントは BHHLYP よりも
BLYP に近いことがわかる。CV-B3LYP は B3LYP の仮想軌道を再現するため,
CV-B3LYP の仮想軌道の二次モーメントの値は B3LYP に極めて近くなっている。
BHHLYP の二次モーメントは,2pπ*軌道(#8, #9)では他の汎関数に比べて小さく,
逆に 3pπ軌道(#15, #16)では大きくなっている。これは,BHHLYP 計算では 2pπ*
軌道と 3pπ軌道が混ざっていることを示している。
- 93 -
- 94 -
[Å]
0
2.0
4.0
6.0
5
10
図6-2
20
# of orbital
25
30
N2分子の二次モーメントの平方根の値[Å]
15
35
40
45
BLYP
B3LYP
BHHLYP
HF
CV-B3LYP
50
6.3.2
軌道エネルギー
今回の計算では各第二周期原子に関して single (s, p) Rydberg 基底関数を用い
ている。各分子には第二周期原子が二つ含まれているので,八つの Rydberg 軌道
が得られることになる。それゆえ,CV-B3LYP 計算で得られた軌道のうち二次モ
ーメントの大きかった八つの軌道を Rydberg 軌道として扱い,CVR-B3LYP 計算
を行った。HF 計算及び BLYP,B3LYP,BHHLYP,CV-B3LYP,CVR-B3LYP 汎
関数を用いた DFT 計算で得られた N2 分子の軌道エネルギーのうち下から 17 番
目までのものを図 6-3 及び表 6-2 に示す。この 17 個の軌道は二つの内殻軌道,
五つの占有価電子軌道,二つの非占有価電子軌道及び八つの Rydber 軌道から成
っている。図 6-3 には(a)内殻,(b)価電子,(c) Rydberg 軌道の三つが含まれてい
る。また,図 6-3 (a)∼(c)において,六種類の計算方法は括弧内に示されたそれ
ぞれの手法における HF 交換項の割合の順に並べられている。CV-B3LYP 及び
CVR-B3LYP では,HF 交換項の割合は軌道の種類によって異なっていることに
注意せねばならない。軌道エネルギーの具体的な数値は表 6-2 に示した。表 6-2
では,#10 及び#11 の軌道の種類が CVR-B3LYP だけ他の手法と異なっているた
め,CVR-B3LYP の軌道の種類を括弧内に示してある。HF 計算及び従来の汎関
数を用いた DFT 計算の結果を比較すると,占有軌道のエネルギーは BLYP >
B3LYP > BHHLYP > HF の順に低く,仮想軌道のエネルギーは BLYP < B3LYP <
BHHLYP < HF の順に高くなっている。この結果から,HF 交換項は占有軌道の
エネルギーを下げ仮想軌道のエネルギーを上げるのに大きな役割を果たしてい
るといえる。この軌道エネルギーのシフトの様子は図 6-3 でも明確に表されてい
る。
CVR-B3LYP の占有軌道のエネルギーは CV-B3LYP と同じであり,CV-B3LYP
及び CVR-B3LYP の内殻,占有価電子軌道のエネルギーはそれぞれ BHHLYP,
B3LYP に近くなっている。一方仮想軌道に関しては,CVR-B3LYP の軌道エネル
ギーは CV-B3LYP とは異なる挙動を示している。非占有価電子軌道に関しては
CVR-B3LYP と CV-B3LYP の軌道エネルギーはどちらも B3LYP の軌道エネルギ
ーに近い。しかし,Rydberg 軌道に関しては,CV-B3LYP の軌道エネルギーが
B3LYP に近いのに対し,CVR-B3LYP では HF に近い値を与えた。それゆえ,
- 95 -
Rydberg 軌道以外の軌道エネルギーは CVR-B3LYP と CV-B3LYP でほぼ同じなの
に対し,Rydberg 軌道では CVR-B3LYP の方が CV-B3LYP と比べ 0.8∼1.4 eV 高
くなっている。また,他の DFT 計算とは異なり,CVR-B3LYP 計算では HF 計算
と同様に 3pσu 軌道の方が 3sσg 軌道より低い軌道エネルギーを与えている。この
ように,CVR-B3LYP では内殻,価電子及び Rydberg 軌道エネルギーがそれぞれ
BHHLYP,B3LYP 及び HF に近い値を与えており,汎関数のデザインどおりに振
舞っていることが確認された。
表6-2
# of
orbitals
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
Orbital type
DFT
HF
1sσg
1sσg
1sσu
1sσu
2sσg
2sσg
2sσu
2sσu
2pσg
2pπu
2pπu
2pπu
2pπu
2pσg
2pπg
3pσu
3sσg
2pπg
3sσg (3pσu)a 3pπu
3pσu (3sσg)a 3pπu
3pπu
3pπg
3pπg
3pπu
3pσg
3pσg
3sσu
3pπg
2pπg
3pπg
2pπg
3sσu
N2分子の軌道エネルギー[eV]
BLYP
-383.86
-383.82
-28.19
-13.32
-11.53
-11.53
-10.25
-1.79
-1.79
0.12
0.51
0.65
0.65
1.54
1.73
1.73
2.69
B3LYP BHHLYP
-392.42
-392.37
-30.83
-15.11
-12.85
-12.85
-11.87
-0.80
-0.80
0.42
0.69
0.87
0.87
1.76
1.94
1.94
2.97
a
CVR-B3LYPでのorbital type
- 96 -
-405.78
-405.71
-34.65
-17.66
-14.63
-14.63
-14.17
0.70
0.70
0.79
0.88
1.17
1.17
2.03
2.35
2.35
3.35
HF
-426.73
-426.63
-40.19
-21.16
-17.28
-16.79
-16.79
1.19
1.51
1.77
1.77
2.18
2.18
2.70
4.24
4.74
4.74
CV-B3LYP CVR-B3LYP
-405.15
-405.09
-30.91
-15.18
-12.82
-12.82
-11.88
-0.77
-0.77
0.41
0.69
0.87
0.87
1.76
1.95
1.95
2.97
-405.15
-405.09
-30.91
-15.18
-12.82
-12.82
-11.88
-0.78
-0.78
1.20
1.58
1.83
1.83
2.80
2.93
2.93
4.38
(a) Core orbitals
-380.0
1sσu
1sσg
Orbital energy [eV]
-390.0
-400.0
-410.0
-420.0
-430.0
CVCVRBLYP B3LYP BHHLYP B3LYP B3LYP
HF
( 0%) (20%) (50%) (50%) (50%) (100%)
(b) Valence orbitals
5.0
0.0 2pπ
g
unoccupied
occupied
Orbital energy [eV]
-5.0
2sσ
-10.0 2pπu
u
-15.0
2sσu
-20.0
-25.0
2sσg
-30.0
-35.0
-40.0
-45.0
CVCVRBLYP B3LYP B3LYP B3LYP BHHLYP HF
( 0%) (20%) (20%) (20%) (50%) (100%)
(c) Rydberg orbitals
4.5
4.0
Orbital energy [eV]
3.5
3.0
3sσu
2.5
2.0
1.5
1.0
3pπg
3pσg
3pπu
0.5 3pσu
0.0
3sσg
CVCVRBLYP B3LYP B3LYP BHHLYP HF
B3LYP
( 0%) (20%) (20%) (50%) (100%) (100%)
図6-3 N2分子の(a)内殻,(b)価電子及び(c) Rydberg軌道エネルギー
括弧内は各汎関数におけるHF交換項の割合
- 97 -
6.3.3
励起エネルギー
この節では,C2H2,C2H4,CH2O,CO 及び N2 分子の C→V,C→R,V→V
及び V→R 励起エネルギーを TDHF 法及び CVR-B3LYP,CV-B3LYP,BLYP,
B3LYP,BHHLYP 汎関数を用いた TDDFT 計算で求めた。表 6-3 に C→V 励起エ
ネルギーの計算結果を示す。また,実験値からの差を括弧内に示す。各手法の
平均絶対誤差(MAE)を比較すると,CVR-B3LYP 及び CV-B3LYP の 0.3 eV は次に
小さい BHHLYP の 2.8 eV と比較しても 1/10 程度であり,CVR-B3LYP と
CV-B3LYP は他の汎関数よりはるかに高い精度を示していることがわかる。また,
TD-BLYP,TD-B3LYP 及び TDHF の MAE はそれぞれ–17.9,–12.0 及び 11.1 eV
であり,TDHF 法では C→V 励起エネルギーを大きく過大評価,BLYP では大幅
に過小評価している。CVR-B3LYP の内殻及び非占有価電子軌道の挙動は
CV-B3LYP のものから変化していないため,CVR-B3LYP の励起エネルギーは
CV-B3LYP と非常に近い値となっている。
表6-3
C2H2,C2H4,CH2O,CO及びN2分子の内殻→価電子励起エネルギー[eV]a
Molecule Transition
C1s → π*
C2 H2
B3LYP BHHLYP
275.2
283.6
TDHF
296.0
( -10.6)
274.3
( -2.2)
282.5
(+10.2)
294.8
(+0.2)
285.1
(+0.3)
285.1
284.7 b
286.0 b
C2 H 4
C1s → π
( -16.1)
268.9
CH2O
C1s → π*
( -15.8)
270.2
( -10.4)
275.2
( -2.2)
282.9
(+10.1)
294.4
(+0.4)
286.0
(+0.4)
286.0
CO
C1s → π*
N2
N1s → π*
( -15.8)
271.3
( -16.1)
382.5
( -10.8)
276.2
( -11.2)
388.5
( -3.1)
283.5
( -3.9)
398.0
(+8.4)
294.4
(+7.0)
412.2
( -0.0)
286.9
( -0.5)
401.3
( -0.0)
286.9
( -0.5)
401.3
CH2O
O1s → π*
CO
O1s → π*
( -18.5)
509.4
( -21.4)
512.3
( -21.9)
( -12.5)
516.7
( -14.1)
519.8
( -14.4)
( -3.0)
528.2
( -2.6)
531.7
( -2.5)
(+11.2)
546.0
(+15.2)
550.1
(+15.9)
(+0.3)
531.4
(+0.6)
534.5
(+0.3)
(+0.3)
531.4
(+0.6)
534.5
(+0.3)
17.9
12.0
2.8
11.1
0.3
0.3
*
MAEd
a
括弧内は実験値からの差
b
CV-B3LYP CVR-B3LYP
286.0
286.1
参考文献[27]
Exptl.
285.8 b
BLYP
269.7
c
参考文献[28]
d
実験値からの平均絶対誤差
- 98 -
287.4 b
401.0 c
530.8 b
534.2 b
表6-4 C2H2,C2H4,CH2O,CO及びN2分子の内殻→Rydberg励起エネルギー[eV]a
Molecule Transition
C2H2
C1s → 3sσg
BLYP
269.6
B3LYP BHHLYP
276.1
286.0
TDHF
302.4
→ 3pπu
( -18.1)
270.4
( -11.6)
277.0
( -1.7)
287.2
(+14.6)
303.1
( -0.8)
287.8
(+0.3)
288.7
288.7 b
→ 3pσu
( -18.3)
269.9
( -11.7)
276.5
( -1.5)
286.7
(+14.4)
303.7
( -1.0)
287.2
( -0.1)
288.2
288.8 b
Exptl.
287.7 b
C2H4
C1s → 3sσ
( -18.9)
269.4
( -12.3)
275.8
( -2.2)
285.6
(+14.9)
300.3
( -1.6)
286.6
( -0.6)
288.0
287.1 c
CH2O
C1s → 3sa1
( -17.7)
272.0
( -11.3)
278.3
( -1.5)
288.0
(+13.2)
302.3
( -0.5)
289.1
(+0.9)
290.4
290.2 d
→ 3pb2
( -18.2)
272.6
( -11.8)
279.1
( -2.2)
288.9
(+12.1)
302.4
( -1.1)
289.9
(+0.2)
290.8
291.3 d
→ 3pb1
( -18.6)
273.0
( -12.1)
279.5
( -2.4)
289.7
(+11.2)
305.6
( -1.4)
290.2
( -0.4)
291.3
291.7 d
N1s → 3sσg
( -18.7)
272.8
( -19.6)
273.5
( -19.8)
273.3
( -20.1)
384.0
( -12.2)
279.3
( -13.0)
280.0
( -13.3)
280.0
( -13.5)
391.7
( -2.0)
289.4
( -3.0)
290.3
( -3.0)
290.3
( -3.2)
403.6
(+13.9)
304.7
(+12.3)
306.2
(+12.9)
306.4
(+12.9)
422.1
( -1.5)
290.1
( -2.3)
290.8
( -2.5)
290.7
( -2.7)
404.4
( -0.5)
291.0
( -1.3)
292.0
( -1.3)
291.5
( -1.9)
405.8
→ 3pπu
( -22.1)
384.5
( -14.4)
392.4
( -2.5)
404.6
(+16.0)
423.8
( -1.7)
405.1
( -0.3)
406.1
407.1 f
→ 3pσu
( -22.6)
384.4
( -14.7)
392.4
( -2.5)
404.8
(+16.7)
424.3
( -2.0)
405.1
( -1.0)
405.7
407.3 f
( -22.9)
511.0
( -24.5)
511.8
( -15.0)
520.0
( -15.4)
520.7
( -2.5)
534.0
( -1.4)
534.7
(+16.9)
556.6
(+21.1)
555.8
( -2.2)
534.7
( -0.7)
535.4
( -1.7)
535.9
(+0.5)
536.4
( -24.5)
513.8
( -25.1)
514.5
( -25.4)
( -15.6)
522.7
( -16.3)
523.5
( -16.4)
( -1.7)
536.4
( -2.5)
537.6
( -2.4)
(+19.4)
557.8
(+18.9)
559.7
(+19.8)
( -0.9)
537.3
( -1.6)
538.2
( -1.7)
(+0.0)
538.3
( -0.6)
539.4
( -0.5)
20.9
13.6
2.2
15.4
1.5
0.7
CO
C1s → 3sσ
→ 3pπ
→ 3pσ
N2
CH2O
O1s → 3sa1
→ 3pa1
CO
O1s → 3sσ
→ 3pπ
MAEh
a
括弧内は実験値からの差
e
参考文献[32]
b
参考文献[29]
f
c
参考文献[30]
g
d
CV-B3LYP CVR-B3LYP
286.9
288.0
参考文献[31]
参考文献[33]
参考文献[34]
h
実験値からの平均絶対誤差
- 99 -
292.4 e
293.3 e
293.5 e
406.2 f
535.4 d
536.3 d
538.9 g
539.9 g
表 6-4 は C→R 励起エネルギーの計算結果である。表中で,CVR-B3LYP は
六種類の手法の中で最も良い精度を示している。CV-B3LYP は BHHLYP と比べ
大分良い結果を与えているが,CVR-B3LYP を用いることによってさらに精度が
改善されており,CV-B3LYP の MAE 1.5 eV が CVR-B3LYP では 0.7 eV と半減し
ている。他の手法に関しては,TD-BLYP,TD-B3LYP 及び TDHF の MAE はそれ
ぞれ 20.9, 13.6 及び 15.4 eV であり,非常に大きな誤差を与えている。全体とし
て,C→R 励起エネルギーの計算結果は,CVR-B3LYP が CV-B3LYP より精度が
高いことを除いては C→V 励起エネルギーのときと同様の傾向を示している。
V→V 励起エネルギーの計算結果を表 6-5 に示す。表 6-5 より,CVR-B3LYP
及び CV-B3LYP の精度は B3LYP と同程度であることがわかる。また,BLYP,
B3LYP,
CV-B3LYP,
CVR-B3LYP の MAE が 0.3 eV 程度であるのに対し,
BHHLYP
と TDHF ではそれぞれ 0.46 及び 0.85 eV であり,BLYP,B3LYP,CV-B3LYP 及
び CVR-B3LYP は BHHLYP や TDHF より高い精度を与えていることがわかる。
内殻励起エネルギー計算の際には従来の汎関数による TDDFT 計算での過小評
価や TDHF 計算での過大評価がどの分子に対しても見られたが,V→V 励起に関
してはそのような傾向はない。
表6-5 C2H2,C2H4,CH2O,CO及びN2分子の価電子→価電子
励起エネルギー[eV]a
Molecule State Transition BLYP
1 +
*
6.80
C2H2
Σu
π→ π
CV-B3LYP CVR-B3LYP
6.75
6.78
C2H4
1
B 1u
π→ π
( -0.30) ( -0.35)
7.20
7.43
CH2O
1
A2
n → π*
( -0.80) ( -0.57)
3.92
4.01
( -0.43)
4.16
( -0.48)
4.46
( -0.58)
4.04
( -0.46)
4.02
CO
1 -
π→ π
N2
1
π→ π
( -0.02) (+0.07)
9.84
9.79
( -0.04) ( -0.10)
9.74
9.49
(+0.22)
9.66
( -0.22)
9.03
(+0.52)
9.42
( -0.46)
8.11
(+0.10)
9.79
( -0.09)
9.50
(+0.08)
9.77
( -0.11)
9.48
( -0.18) ( -0.43)
( -0.89)
( -1.81)
( -0.42)
( -0.44)
0.46
0.85
0.31
0.28
Σ
Σu
-
*
*
*
MAEd
a
括弧内は実験値からの差
b
B3LYP BHHLYP TDHF
6.75
6.55
6.09
参考文献[35]
0.27
c
0.30
Exptl.
7.10 b
( -0.55)
7.57
( -1.01)
7.52
( -0.35)
7.42
( -0.32)
7.54
8.00 c
3.94 c
参考文献[10]
d
実験値からの平均絶対誤差
- 100 -
9.88 c
9.92 c
C2H2,C2H4,CH2O,CO及びN2分子の価電子→Rydberg励起エネルギー[eV]a
表6-6
Molecule State
1
C 2 H2
Πu
C 2 H4
3pσ
(+0.33)
8.38
9.00 b
+
3pπ
( -1.96) ( -1.44)
7.57
8.05
( -0.87)
8.57
( -0.35)
8.90
( -1.46)
8.03
( -0.62)
8.93
9.21 b
B 3u
π → 3sσ
( -1.64) ( -1.17)
6.36
6.70
( -0.64)
7.04
( -0.31)
7.24
( -1.18)
6.68
( -0.28)
8.05
7.11 c
3pσ
( -0.75) ( -0.41)
6.81
7.19
( -0.07)
7.57
(+0.13)
7.78
( -0.43)
7.17
(+0.94)
8.34
7.80 c
B 2g
3pσ
( -0.99) ( -0.61)
6.68
7.14
( -0.23)
7.61
( -0.02)
7.94
( -0.63)
7.12
(+0.54)
7.91
7.90 c
1
Ag
3pπ
( -1.22) ( -0.76)
7.24
7.63
( -0.29)
8.04
(+0.04)
8.19
( -0.79)
7.61
(+0.01)
8.56
8.28 c
1
B2
n → 3sa1
( -1.04) ( -0.65)
5.66
6.42
( -0.24)
7.39
( -0.09)
8.52
( -0.67)
6.41
(+0.28)
7.66
7.09 c
1
A1
3pb2
( -1.43) ( -0.67)
6.39
7.20
(+0.30)
8.26
(+1.43)
9.53
( -0.68)
7.17
(+0.57)
8.17
7.97 c
(+0.29)
8.15
(+1.56)
9.30
( -0.80)
7.20
(+0.20)
8.09
8.12 c
8.38 c
Πg
1
1
Σg
B 1g
1
B2
3pa1
( -1.58) ( -0.77)
6.41
7.17
1
A2
3pb1
( -1.71) ( -0.95)
6.70
7.49
(+0.03)
8.53
(+1.18)
9.70
( -0.92)
7.50
( -0.03)
8.51
( -1.68)
9.06
( -1.72)
9.53
( -1.87)
9.68
( -1.85)
10.60
( -0.89)
9.90
( -0.88)
10.31
( -1.09)
10.44
( -1.09)
11.51
(+0.15)
10.91
(+0.13)
11.36
( -0.04)
11.47
( -0.06)
12.67
(+1.32)
11.89
(+1.11)
12.61
(+1.21)
12.62
(+1.09)
14.10
( -0.88)
9.93
( -0.85)
10.34
( -1.06)
10.48
( -1.05)
11.51
(+0.13)
10.73
( -0.05)
11.13
( -0.27)
11.65
(+0.12)
12.71
1 +
σ → 3sσ
1 +
3pσ
1
3pπ
1
Π
11.40 c
11.53 c
σ → 3sσ
1
Πu
3pπ
( -1.60) ( -0.69)
10.86
11.83
(+0.47)
13.13
(+1.90)
14.64
( -0.69)
11.84
(+0.51)
12.80
12.90 c
1
+
3pσ
( -2.04) ( -1.07)
10.73
11.77
(+0.23)
13.10
(+1.74)
14.16
( -1.06)
11.79
( -0.10)
12.40
12.98 c
( -2.25) ( -1.21)
(+0.12)
(+1.18)
( -1.19)
( -0.58)
0.26
0.86
0.89
0.33
Σu
1.56
MAE
括弧内は実験値からの差
参考文献[35]
10.78 c
+
Σg
d
b
Exptl.
8.16 b
( -0.85)
7.54
Σ
a
CV-B3LYP CVR-B3LYP
7.31
8.49
( -0.02)
8.65
Σ
N2
B3LYP BHHLYP TDHF
7.33
7.81
8.14
( -0.35)
8.13
1
CO
BLYP
6.88
( -1.28) ( -0.83)
7.04
7.56
1
1
CH2O
Transition
π → 3sσ
0.89
c
参考文献[10]
d
実験値からの平均絶対誤差
- 101 -
12.20 c
表 6-6 は V→R 励起エネルギーの計算結果である。表 6-6 において,従来の
手法の中では BHHLYP が最も高い精度を示している。BHHLYP の V→R 励起に
関する MAE は 0.26 eV であり,これは V→V 励起に関する B3LYP の精度に匹敵
している。よって,BHHLYP は V→R 励起に関して十分な精度を持っていると
いえる。CV-B3LYP 汎関数の MAE は 0.89 eV であり,これは B3LYP と同程度の
精度であるが BHHLYP と比べると非常に悪い。一方,CVR-B3LYP の精度の高
さは注目に値する。 CVR-B3LYP の MAE は 0.33 eV であり,これは BHHLYP
と同程度,TDHF より高精度である。BHHLYP の方が TDHF よりも高精度な結
果を与えているので,FR = FHF ではなく FR = FC とした計算を行ってみたが,そ
の場合の MAE は 0.71 eV となり,FR = FHF のときより精度が低下した。これは,
6.2.1 節で述べたように BHHLYP では仮想軌道の記述が不適切な場合があるため
であると予想される。
表 6-3∼6-6 に示した C→V,C→R,V→V 及び V→R 励起の MAE の値を図
6-4 にまとめた。図 6-4 を見ると,CVR-B3LYP が最もバランスよい結果を与え
ていることがわかる。CVR-B3LYP の MAE はどの励起の場合でも 0.8 eV を超え
ていない。CV-B3LYP では C→V 及び V→V 励起の精度はバランスよいものの,
Rydberg 励起エネルギーの精度は非占有価電子軌道への励起と比べて低くなっ
ている。TD-BLYP,TD-B3LYP,TD-BHHLYP 及び TDHF 計算では内殻軌道から
の励起の MAE が占有価電子軌道からの励起と比べて非常に大きくなっており,
またそれらの中でも非占有価電子軌道へ励起する場合と Rydberg 軌道へ励起す
る場合で精度が異なっている。以上のことから,CVR-B3LYP が内殻,価電子及
び Rydberg 励起状態を計算するのに最も汎用性のある汎関数であることが期待
される。
- 102 -
C→V
C→R
V→V
V→R
Mean absolute error [eV]
20.0
15.0
3.0
0.0
BLYP
B3LYP
BHHLYP
TDHF
CV-B3LYP CVR-B3LYP
図6-4 内殻→価電子(C→V),内殻→Rydberg (C→R),価電子→価電子(V→V)
及び価電子→Rydberg(V→R)励起エネルギーの平均絶対誤差
- 103 -
6.4
結論
本章では,C→V 及び V→V 励起を精度良く記述するために提案した汎関数
CV-B3LYP [11] に 関 し て , Rydberg 励 起 の 記 述 に 関 し て も 改 良 し た 汎 関 数
CVR-B3LYP を開発した。CVR-B3LYP は,内殻及び占有価電子軌道だけでなく,
非占有価電子軌道及び Rydberg 軌道に関しても適切な HF 交換項の割合を用いる
ように設計されている。CVR-B3LYP 計算では,CV-B3LYP に関する KS 方程式
を計算した後,非占有価電子軌道と Rydberg 軌道に対する二種類の演算子を用い
て Fock 演算子を再構築する。この Fock 演算子の再構築は仮想軌道の任意性
[17,18]に基づいて行う。さらに,非占有価電子軌道と Rydberg 軌道の直交性を保
証するために,Roothaan の結合演算子法[22-24]を用いた。DFT 計算の結果から,
Rydberg 軌道の二次モーメントは価電子軌道よりも明らかに大きいことが明示
された。また TDDFT 計算では,CVR-B3LYP の計算精度は C→V 及び V→V 励
起に関しては CV-B3LYP と同程度,C→R 及び V→R 励起に関しては CV-B3LYP
より高いことが明らかとなった。以上より,CVR-B3LYP は内殻軌道及び占有価
電子軌道からの励起,また非占有価電子及び Rydberg 軌道への励起のどの励起を
記述する場合にも適した汎関数であるといえる。
- 104 -
第 6 章の参考文献
[1] M. E. Casida, in Recent Advances in Density Functional Methods, edited by D. P.
Chong (World Scientific, Singapore, 1995), Pt. I, p. 155.
[2] R. Bauernschmitt and R. Ahlrichs, Chem. Phys. Lett. 256, 454 (1996).
[3] S. Hirata and M. Head-Gordon, Chem. Phys. Lett. 314, 291 (1999).
[4] S. Hirata, M. Head-Gordon, and R. J. Bartlett, J. Chem. Phys. 111, 10774 (1999).
[5] Y. Imamura and H. Nakai, Chem. Phys. Lett. 419, 297 (2006).
[6] M. E. Casida and D. R. Salahub, J. Chem. Phys. 113, 8918 (2000).
[7] H. Appel, E. K. U. Gross, and K. Burke, Phys. Rev. Lett. 90, 043005 (2003).
[8] R. van Leeuwen and E. J. Baerends, Phys. Rev. A 49, 2421 (1994).
[9] D. J. Tozer and N. C. Handy, J. Chem. Phys. 109, 10180 (1998).
[10] Y. Tawada, T. Tsuneda, S. Yanagisawa, T. Yanai, and K. Hirao, J. Chem. Phys. 120,
8425 (2004).
[11] A. Nakata, Y. Imamura, T. Ostuka, and H. Nakai, J. Chem. Phys. 124, 094105
(2006).
[12] Y. Imamura, T. Otsuka, and H. Nakai, J. Comput. Chem. in press.
[13] Y. Imamura and H. Nakai, Int. J. Quant. Chem. 107, 23 (2007).
[14] A. D. Becke, Phys. Rev. A 38, 3098 (1988).
[15] C. Lee, W. Yang, and R. G. Parr, Phys. Rev. B 37, 785 (1988).
[16] A. D. Becke, J. Chem. Phys. 98, 5648 (1993).
[17] S. Huzinaga and C. Arnau, Phys. Rev. A 1, 1285 (1970).
[18] S. Huzinaga and C. Arnau, J. Chem. Phys. 54, 1948 (1971).
[19] A. D. Becke, J. Chem. Phys. 98, 1372 (1993).
[20] J. C. Slater, Phys. Rev. 81, 385 (1951).
[21] S. H. Vosko, L. Wilk, and M. Nusair, Can. J. Phys. 58, 1200 (1980).
[22] C. C. J. Roothaan, Revs. Modern Phys. 32, 179 (1960).
[23] S. Huzinaga, 分子軌道法, (岩波書店, Tokyo, 1980) (in Japanese).
[24] K. Hirao and H. Nakatsuji, J. Chem. Phys. 59, 1457 (1973).
[25] T. H. Dunning, Jr., J. Chem. Phys. 90, 1007 (1989).
- 105 -
[26] T. H. Dunning and P. J. Hay, in Methods of Electronic Structure Theory, edited by
H. F. Schaefer III (Plenum Press, New York, 1977), Vol. 3.
[27] C. –H. Hu and D. P. Chong, Chem. Phys. Lett. 262, 729 (1996).
[28] M. Ohno, P. Decleva, and G. Fronzoni, J. Chem. Phys. 109, 10180 (1998).
[29] J. Adachi, N. Kosugi, E. Shigemasa, and A. Yagishita, Chem. Phys. Lett. 309, 427
(1999).
[30] Y. Ma, C. T. Chen, G. Meigs, K. Randall, and F. Sette, Phys. Rev. A 44, 1848
(1991).
[31] G. Remmers, M. Domke, A. Puschmann, T. Mandel, C. Xue, G. Kaindl, E. Hudson,
and D. A. Shirley, Phys. Rev. A 46, 3935 (1992).
[32] M. Domke, C. Xue, A. Puschmann, T. Mandel, E. Hudson, D. A. Shirley, and G.
Kaindl, Chem. Phys. Lett. 173, 122 (1990).
[33] C. T. Chen, Y. Ma, and F. Sette, Phys. Rev. A 40, 6737 (1989).
[34] R. Püttner, I. Dominguez, T. J. Morgan, C. Cisneros, R. F. Fink, E. Rotenberg, T.
Warwick, M. Domke, G. Kaindl, and A. S. Schlachter, Phys. Rev. A 59, 3415
(1999).
[35] R. Dressler and M. Allan, J. Chem. Phys. 87, 4510 (1987).
- 106 -
第7章 Core-Valence-Rydberg B3LYP 汎関数の第三周期元素
への拡張
7.1
序
現在広く用いられている励起状態理論の一つに時間依存密度汎関数理論
(TDDFT) [1-4]がある。TDDFT 法では,交換相関汎関数を用いることによって電
子相関を考慮しているため,Hartree-Fock (HF)法に基づいた一電子励起配置間相
互作用(CIS)法や時間依存 HF (TDHF)法と同程度の少ない計算コストで定量的な
結果を与える。しかし,従来の交換相関汎関数を用いた TDDFT 法には,内殻励
起及び Rydberg 励起のエネルギーを大幅に過小評価するという問題がある[5-10]。
これらの過小評価は,従来の交換相関汎関数では内殻及び漸近領域での挙動が
適切でないことや本来無いはずの自己相互作用を含んでいることに起因すると
いう報告があり[7],この問題に関してこれまで様々な取り組みがなされてきた。
内殻励起状態計算に関しては,第 5 章に示す core-valence Becke’s threeparameter (B3)交換[11] + Lee-Yang-Parr (LYP)相関[12] (CV-B3LYP) [5]汎関数が開
発された。交換相関項に占める HF 交換項の適切な割合が内殻軌道と価電子軌道
を記述する場合で異なることから,CV-B3LYP では占有軌道を内殻及び価電子軌
道に区別し,それぞれの軌道に適切な HF 交換項の割合を用いることによって内
殻 励 起 状 態 の 記 述 を 改 善 し て い る 。 Rydberg 励 起 状 態 に 関 し て は , van
Leeuwen-Baerends’ 94 (LB94)汎関数[13]や漸近補正 Kohn-Sham 方程式[14],長距
離補正法[15]などが提案されている。また,内殻及び Rydberg 励起の双方を改善
する手法として,修正 LB94 を用いた Becke’s 1988 (B88)交換[16] + LYP 相関汎関
数(BmLBLYP) [8]及び第 6 章の core-valence-Rydberg B3LYP (CVR-B3LYP) [17]が
提案されている。CVR-B3LYP では,仮想軌道に関しても価電子軌道と Rydberg
軌道を区別し,それぞれに適切な HF 交換項の割合を用いることで,内殻→価電
子(C→V),内殻→Rydberg (C→R),価電子→価電子(V→V)及び価電子→Rydberg
(V→R)励起の全てを精度良く記述することに成功している。
第 5 及び第 6 章では,第二周期元素を二つ含む系に関して CV-B3LYP 及び
- 107 -
CVR-B3LYP を適用し,精度の検証を行っている。このように,TDDFT 法以外
の手法も含め従来の内殻励起状態計算では主に第二周期元素から成る小さな分
子を対象とすることが多かった。そこで本章では,第三周期元素を含む分子に
関しても CVR-B3LYP を用いた励起状態計算を行い,精度の検証を行う。7.2 節
では,従来の BLYP,B3LYP,Becke’s half-and-half (BHH)交換 + LYP 相関汎関数
[18]及び HF 法による第三周期元素の内殻励起状態計算の精度検証を行う。7.3
節では,7.2 節の結果に基づいて,本章で新たに改良した CVR-B3LYP 計算を行
い,その精度を検証する。7.4 節は本章のまとめである。
7.2
従来の交換相関汎関数における第三周期元素を含む分子の内殻
励起エネルギー計算の精度検証
この節では,一般的な汎関数である BLYP,B3LYP 及び BHHLYP を用いた
TDDFT 計算による,第三周期元素の内殻励起状態の記述精度を検証した。比較
のため,TDHF 計算も行った。基底関数には cc-pCVTZ [19-22]を用い,さらに第
二周期元素の(3s, 3p)軌道及び第三周期元素の(4s, 4p)軌道を表現するために
single (s, p) Rydberg 基底関数[23-25]を加えた。対象分子の構造は B3LYP/cc-pVTZ
レベルで最適化した。また,第三周期元素では相対論効果が重要となるので,
Relativistic scheme by eliminating small-components (RESC)法[26,27]を用いて相対
論補正を行った。今回の計算ではスピン軌道相互作用は考慮していない。
表 7-1 及び 7-2 に,SiH4, PH3, H2S, SO2, HCl 及び Cl2 分子の 1s 軌道及び 2p
軌道からの内殻励起エネルギーの計算結果を示す。計算には BLYP, B3LYP 及び
BHHLYP 汎関数を用いた TDDFT 法を用いた。
比較のため TDHF 計算も行った。
表中の分子名における太字は,その原子の 1s 及び 2p 軌道からの励起であること
を表している。また表には RESC 法によって相対論効果を考慮した場合(R)と考
慮しない場合(NR)の双方の結果を示してあり,実験値との差を括弧内に示す。
SiH4, PH3 及び Cl2 分子に関しては P3/2 に相当する状態の実験値と比較した。表
- 108 -
7-1 における 1s 内殻励起において,相対論効果を考慮した場合と考慮しない場
合を比べると Si では 3.4∼4.2 eV,P では 4.9∼5.6 eV,S では 6.5∼7.3 eV,Cl で
は 8.5∼9.4 eV 励起エネルギーが変化している。このことから,相対論効果の影
響は核電荷が大きくなるほど強くなることがわかる。また,相対論補正の大き
さは BLYP < B3LYP < BHHLYP < TDHF の順に大きくなる傾向があり,HF 交換
項の割合が増えるほど補正が大きくなることが示された。相対論効果を考慮し
た場合の TD-BLYP,TD-B3LYP,TD-BHHLYP 及び TDHF 法における 1s 内殻励
起エネルギーの平均誤差(ME)はそれぞれ−58.6,−42.6,−17.1 及び 23.2 eV で
ある。第二周期元素の 1s 励起エネルギーにおける ME が TD-BLYP,TD-B3LYP,
TD-BHHLYP 及び TDHF 法でそれぞれ−17.9,−12.0,−2.8 及び 11.1 eV である
こと[17 及び 6.3.2 節]と比べると,pure 汎関数を用いた場合は大きく過小評価,
TDHF 法では大きく過大評価するという傾向が一致している。また,hybrid 汎関
数を用いた TDDFT 計算では,pure 汎関数のときよりも誤差が大きく減少するこ
とも共通している。しかし,誤差の絶対値は ME の最も小さい BHHLYP でさえ
17.1 eV であり,第二周期元素の場合と比べて非常に大きい。
表 7-2 における 2p 内殻励起においては,相対論補正の大きさは最大でも 1.9
eV であり,1s の場合と比べて小さい。相対論効果を考慮した場合の TD-BLYP,
TD-B3LYP,TD-BHHLYP 及び TDHF 法の ME はそれぞれ−8.5,−5.2,−0.5 及
び 7.0 eV であり,TDDFT 法では過小評価,TDHF 法では過大評価,hybrid 汎関
数では pure 汎関数と比べて過小評価が軽減することは 1s のときと同様である。
2p 軌道の場合には,最も精度の高い BHHLYP では−0.5 eV の誤差であり,内殻
励起状態を議論するのに十分な精度を示している。
- 109 -
- 110 -
b
B3LYP
-48.2
-42.6
d
実験値からの平均誤差
参考文献 [31]
h
相対論効果を考慮した計算における内殻励起エネルギー
相対論効果を考慮していない計算における内殻励起エネルギー 参考文献 [30]
参考文献 [28]
c
( -41.4)
2100.1
( -45.7)
2422.6
( -50.5)
2423.0
( -50.8)
2769.0
( -54.9)
2766.5
( -54.8)
参考文献 [29]
e
( -44.8)
2095.1
( -50.8)
2415.9
( -57.2)
2416.3
( -57.5)
2760.4
( -63.5)
2757.9
( -63.4)
g
-58.6
8.5
8.5
6.5
6.5
4.9
f
-64.2
( -57.8)
2082.4
( -63.4)
2403.7
( -69.4)
2404.3
( -69.5)
2748.4
( -75.5)
2746.5
( -74.8)
c
c
括弧内は実験値からの差
MEh
P 1s→σ*(e)
( -61.5)
2077.5
( -68.4)
S 1s→3b2(σ*) 2397.2
( -75.9)
S 1s→3b1(π*) 2397.7
( -76.1)
Cl 1s→3pσ* 2739.9
( -84.0)
Cl 1s→3pσu* 2738.0
( -83.3)
Si 1s→σ*
BLYP
b
BHHLYP
8.7
8.7
6.7
6.7
5.1
-23.0
( -18.8)
2122.8
( -23.0)
2445.6
( -27.5)
2445.8
( -28.0)
2792.4
( -31.5)
2789.4
( -31.9)
-17.1
( -14.9)
2128.1
( -17.8)
2452.5
( -20.6)
2452.7
( -21.1)
2801.3
( -22.6)
2798.3
( -23.0)
c
8.9
8.9
6.9
6.9
5.2
∆R−NR
∆R−NR NR
∆R−NR NR
NR
R
R
R
1781.0 1784.7 3.7
1797.7 1801.1 3.4
1823.7 1827.6 3.9
b
17.1
(+22.4)
2166.9
(+21.1)
2492.9
(+19.8)
2492.3
(+18.5)
2843.3
(+19.4)
2839.7
(+18.4)
23.2
(+26.6)
2172.5
(+26.6)
2500.1
(+27.0)
2499.6
(+25.8)
2852.6
(+28.7)
2849.1
(+27.8)
c
TDHF
9.4
9.4
7.3
7.3
5.6
∆R−NR
NR
R
1864.9 1869.1 4.2
b
SiH4,PH3,H2S,SO2,HCl及びCl2分子の1s内殻励起エネルギー[eV]a
b
a
Cl2
HCl
SO2
H2S
PH3
SiH4
Molecule Assignment
表7-1
2821.3
g
2823.9 g
2473.8 f
2473.1 f
2145.8 e
1842.5 d
Exptl.
- 111 -
h
-8.5
( -8.2)
122.4
( -9.7)
154.8
( -9.7)
154.7
( -9.6)
189.5
( -11.5)
187.3
( -10.9)
NR
94.4
b
-8.5
( -8.2)
122.4
( -9.7)
154.8
( -9.7)
154.7
( -9.7)
189.5
( -11.5)
187.3
( -11.0)
c
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
∆R−NR
R
94.4
0.0
BLYP
参考文献 [32]
相対論効果を考慮した計算における内殻励起エネルギー
-5.2
参考文献 [33]
-5.2
( -4.8)
126.5
( -5.6)
158.5
( -6.0)
158.4
( -6.0)
194.0
( -7.0)
191.4
( -6.8)
参考文献 [35]
実験値からの平均誤差
h
g
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
∆R−NR
R
97.8
0.0
c
B3LYP
参考文献 [34]
f
e
( -4.8)
126.5
( -5.6)
158.6
( -5.9)
158.4
( -6.0)
194.0
( -7.0)
191.4
( -6.8)
NR
97.8
b
-0.3
( -0.2)
132.2
(+0.2)
164.4
( -0.1)
163.6
( -0.7)
200.4
( -0.6)
197.4
( -0.8)
NR
102.4
b
-0.5
( -0.2)
131.4
( -0.7)
164.4
( -0.1)
163.6
( -0.7)
200.4
( -0.6)
197.4
( -0.8)
c
0.0
0.0
0.0
0.0
-0.8
∆R−NR
R
102.4
0.0
BHHLYP
6.7
(+6.8)
139.0
(+7.0)
172.9
(+8.4)
171.6
(+7.3)
210.1
(+9.1)
206.8
(+8.6)
NR
109.4
b
7.0
(+6.8)
140.9
(+8.9)
172.9
(+8.4)
171.7
(+7.3)
210.1
(+9.1)
206.8
(+8.6)
0.0
0.0
0.0
0.0
1.9
∆R−NR
R
109.4 0.0
c
TDHF
SiH4,PH3,H2S,SO2,HCl及びCl2分子の2p内殻励起エネルギー[eV]a
相対論効果を考慮していない計算における内殻励起エネルギー
d
c
ME
Cl 2pπ→3pσu*
Cl2
括弧内は実験値からの差
b
a
Cl 2pπ→3pσ*
HCl
S 2p→3b2(σ*)
H2S
S 2p→3b1(π*)
P 2p→σ*(a1)
PH3
SO2
Si 2p→σ*
SiH4
Molecule Assignment
表7-2
198.2
g
201.0 f
164.4 e
164.5 d
132.1 d
102.6 d
Exptl.
1s 及び 2p 内殻励起状態計算における HF 交換項の割合をより詳細に調べる
ために,SiH4, PH3, H2S, SO2, HCl 及び Cl2 分子に関して交換相関汎関数における
HF 交換項の割合を 60, 70, 80, 90 及び 100%に変えて励起エネルギー計算を行っ
た。結果を表 7-3 及び 7-4 に示す。これらの汎関数における交換相関エネルギー
は
Exc = a ∑ (− K ij ) + (1 − a )ExB88 [ρ ] + EcLYP [ρ ]
(7-1)
ij
とした。(7-1)式の a を 0.6, 0.7, 0.8, 0.9 及び 1.0 とすることによって,HF 交換項
の割合を 60, 70, 80, 90 及び 100%に調節した。以降これらの汎関数を HF+B88+
LYP (X%)と表す。これらの計算では RESC 法を用いて相対論効果を考慮した。
また表 7-3 及び 7-4 では,HF 交換項の割合が 0%, 20%及び 50%の場合として
TD-BLYP, TD-B3LYP 及び TD-BHHLYP 計算の結果と TDHF 計算の結果も再び示
してある。
表 7-3 においても,交換汎関数に HF 交換項を全く含まない BLYP や,HF
交換項のみを含む HF+B88+LYP (100%)や TDHF 法では 1s 内殻励起エネルギーの
誤差が非常に大きいことがわかる。ここで,HF+B88+LYP (100%)と TDHF 法の
差は最大でも 0.7 eV であり,1s 内殻励起エネルギー計算における相関汎関数の
影響は小さいといえる。表 7-3 における九種類の計算方法の中では HF+B88+LYP
(70%)の平均絶対誤差(MAE)が 1.2 eV と最も小さく,内殻励起状態を記述するの
に十分な精度を示している。表 7-4 の 2p 内殻励起エネルギーに関しては,HF
交換項の割合が 50%である BHHLYP が最も高い精度を示し,MAE は 0.6 eV で
ある。
HF+B88+LYP (60%)も MAE が 1.7 eV であり高い精度を示している。
また,
2p 内殻励起エネルギー計算においても HF+B88+LYP (100%)と TDHF 法の差は小
さく,相関汎関数の影響が小さいことがわかる。
- 112 -
- 113 -
20.5
10.6
( -6.5)
2137.1
( -8.8)
2462.2
( -10.9)
2466.4
( -9.9)
2462.2
( -11.6)
2467.6
( -10.8)
2811.7
( -12.2)
2816.2
( -11.6)
2808.6
( -12.7)
2817.7
( -10.8)
参考文献 [28]
c
参考文献 [29]
参考文献 [31]
実験値からの平均絶対誤差
f
1.2
9.2
19.0
HF+B88+LYP
70%
80%
90%
1844.4 1852.8 1861.1
(+1.9) (+10.3) (+18.6)
2146.0 2155.0 2163.8
(+0.2) (+9.1) (+18.0)
2471.8 2481.3 2490.9
( -1.3) (+8.2) (+17.8)
2476.7 2486.9 2497.2
(+0.4) (+10.6) (+20.9)
2471.7 2481.1 2490.4
( -2.1) (+7.3) (+16.6)
2477.3 2486.9 2496.5
( -1.1) (+8.5) (+18.1)
2822.1 2832.4 2842.6
( -1.8) (+8.5) (+18.7)
2827.2 2838.2 2849.1
( -0.6) (+10.4) (+21.3)
2818.8 2829.0 2839.1
( -2.5) (+7.7) (+17.8)
2828.7 2839.7 2850.7
(+0.2) (+11.2) (+22.2)
括弧内は実験値からの差. %は各計算手法におけるHF交換項の割合 参考文献 [30]
e
51.3
( -14.9)
2128.1
( -17.8)
2452.5
( -20.6)
2456.1
( -20.2)
2452.7
( -21.1)
2457.9
( -20.5)
2801.3
( -22.6)
2805.2
( -22.6)
2798.3
( -23.0)
2806.6
( -21.9)
b
70.8
( -41.4)
2100.1
( -45.7)
2422.6
( -50.5)
2424.4
( -51.9)
2423.0
( -50.8)
2427.5
( -50.9)
2769.0
( -54.9)
2771.4
( -56.4)
2766.5
( -54.8)
2772.6
( -55.9)
d
f
( -57.8)
P 1s→σ*(e)
2082.4
( -63.4)
S 1s→3b2(σ*) 2403.7
( -69.4)
S 1s → 4pb2
2404.4
( -71.9)
S 1s→3b1(π*) 2404.3
( -69.5)
S 1s→9a1(γ*) 2408.0
( -70.4)
Cl 1s→3pσ* 2748.4
( -75.5)
Cl 1s → 4pπ 2750.0
( -77.8)
Cl 1s→3pσu* 2746.5
( -74.8)
2751.1
Cl 1s→4p
( -77.4)
Si 1s→σ*
B3LYP BHHLYP
20%
50%
60%
1801.1 1827.6 1836.0
a
MAE
Cl2
HCl
SO2
H2S
PH3
SiH4
BLYP
0%
1784.7
28.8
100%
1869.3
(+26.8)
2172.7
(+26.8)
2500.3
(+27.2)
2507.4
(+31.1)
2499.7
(+25.9)
2506.1
(+27.7)
2852.8
(+28.9)
2860.0
(+32.2)
2849.2
(+27.9)
2861.6
(+33.1)
28.4
(+26.6)
2172.5
(+26.6)
2500.1
(+27.0)
2506.8
(+30.5)
2499.6
(+25.8)
2505.9
(+27.5)
2852.6
(+28.7)
2859.3
(+31.5)
2849.1
(+27.8)
2860.9
(+32.4)
TDHF
100%
1869.1
2828.5 e
2821.3 e
2827.8 e
2823.9 e
2478.4 d
2473.8 d
2476.3 d
2473.1 d
2145.8 c
1842.5 b
Exptl.
HF 交換項の割合を変えた場合のSiH4,PH3,H2S,SO2 ,HCl及びCl2分子の1s内殻励起エネルギー[eV]a
Molecule Assignment
表7-3
- 114 -
MAE
Cl2
HCl
f
Cl 2pπ→3pσu*
Cl 2pπ→4pπ
Cl 2pπ→3pσ*
S 2p→4s
S 2p→3b1(π*)
10.7
6.5
0.6
( -0.2)
131.4
( -0.7)
164.4
( -0.1)
167.3
(+0.8)
163.6
( -0.7)
170.9
( -0.4)
200.4
( -0.6)
204.0
( -0.6)
197.4
( -0.8)
c
参考文献 [32]
参考文献 [33]
b
1.7
参考文献 [35]
参考文献 [34]
3.5
5.6
7.6
HF+B88+LYP
70%
80%
90%
105.4
106.8
108.3
(+2.8) (+4.2) (+5.7)
134.6
137.8
139.5
(+2.6) (+5.7) (+7.5)
167.9
169.7
171.4
(+3.4) (+5.2) (+6.9)
171.7
173.9
176.0
(+5.2) (+7.4) (+9.5)
167.0
168.7
170.3
(+2.6) (+4.3) (+5.9)
175.6
177.9
180.1
(+4.3) (+6.6) (+8.8)
204.5
206.5
208.4
(+3.5) (+5.5) (+7.4)
209.1
211.7
214.2
(+4.5) (+7.1) (+9.6)
201.3
203.2
205.1
(+3.1) (+5.0) (+6.9)
実験値からの平均絶対誤差
f
e
d
(+1.3)
134.1
(+2.0)
166.2
(+1.7)
169.5
(+3.0)
165.3
(+1.0)
173.2
(+1.9)
202.4
(+1.4)
206.6
(+2.0)
199.4
(+1.1)
( -4.8)
126.5
( -5.6)
158.5
( -6.0)
160.3
( -6.2)
158.4
( -6.0)
163.8
( -7.5)
194.0
( -7.0)
196.4
( -8.2)
191.4
( -6.8)
( -8.2)
122.4
( -9.7)
154.8
( -9.7)
155.5
( -11.0)
154.7
( -9.7)
159.0
( -12.3)
189.5
( -11.5)
191.1
( -13.5)
187.3
( -11.0)
括弧内は実験値からの差. %は各計算手法におけるHF交換項の割合
a
S 2p→σ*
H2S
SO2
P 2p→σ*
PH3
S 2p→4s
Si 2p→σ*
SiH4
B3LYP BHHLYP
20%
50%
60%
97.8
102.4
103.9
BLYP
0%
94.4
9.5
9.1
TDHF
100%
100%
109.4
109.6
(+7.0) (+6.8)
141.3
140.9
(+9.2) (+8.9)
173.2
172.9
(+8.7) (+8.4)
178.1
177.6
(+11.6) (+11.1)
171.9
171.7
(+7.5) (+7.3)
182.4
181.7
(+11.1) (+10.4)
210.4
210.1
(+9.4) (+9.1)
216.7
215.9
(+12.1) (+11.3)
207.0
206.8
(+8.8) (+8.6)
c
198.2
204.6
e
d
201.0 d
171.3
164.4 c
166.5 b
164.5 b
132.1 b
102.6 b
Exptl.
HF交換項の割合を変えた場合のSiH4,PH3,H2S,SO2 ,HCl及びCl2分子の2p内殻励起エネルギー[eV]a
Molecule Assignment
表7-4
表 7-3 及 び 7-4 の 結 果 に お け る TD-BLYP, TD-B3LYP, TD-BHHLYP,
TD-HF+B88+LYP 及び TDHF 法の誤差の傾向を見るために,各計算方法の ME
を図 7-1 にまとめる。図 7-1 から,1s 及び 2p 内殻励起のどちらにおいても HF
交換項の割合が少ないほど過小評価し,HF 交換項の割合が多いほど過大評価す
ることがわかる。誤差が最も少なくなる HF 交換項の割合は 1s 内殻励起と 2p 内
殻励起で異なっており,1s 内殻励起では 70%,2p 内殻励起では 50%である。こ
れは,第三周期元素の K 殻軌道の電子は第三周期元素の L 殻軌道や第二周期元
素の K 殻軌道の電子よりも核に強く束縛されるため,自己相互作用による誤差
が大きくなるためであると考えられる。以上の結果から,第三周期元素の K 殻
励起エネルギーの記述には 70%,L 殻励起エネルギーの記述には 50%程度の HF
40.0
15.0
20.0
10.0
0.0
5.0
[eV]
[eV]
交換項が必要であることが示された。
-20.0
0.0
-40.0
-5.0
-60.0
-10.0
-80.0
BLYP B3 BHH 60% 70% 80% 90% 100% TDHF
LYP LYP
HF+B88+LYP
BLYP B3 BHH 60% 70% 80% 90% 100% TDHF
LYP LYP
HF+B88+LYP
(a) 1s excitations
図7-1
-15.0
(b) 2p excitations
第三周期元素の内殻励起エネルギーにおける実験値からの平均誤差
- 115 -
CVR-B3LYP を用いた第三周期元素を含む分子の内殻励起エネ
7.3
ルギー計算
7.3.1
第三周期元素を含む系に関する CVR-B3LYP の表式
7.2 節の結果から,
第三周期元素においては,
K 殻励起状態の記述には 70%,
L 殻励起状態の記述には 50%程度の HF 交換項の割合が適していることがわかっ
た。また,価電子軌道の記述に関しては HF 交換項を 20%含む B3LYP が高い精
度を与えることが知られている。従来の CVR-B3LYP では,占有軌道を内殻軌道
(C)と価電子軌道(OV)に区別し,それぞれに適切な HF 交換項の割合を用いてい
る。この節では,内殻軌道をさらに K 殻(C1)と L 殻(C2)に区別する,つまり占
有軌道を 3 種類に分類することを考える。すると電子エネルギーは,C1-C1,
C2-C2,OV-OV,C1-C2,C1-OV,C2-OV 間相互作用に分類される。
C1
C2
OV
C1
C1 C2
C1 OV
k
m
p
kl
k
k
E = 2∑ H k + 2∑ H m + 2∑ H p + ∑ 2 J kl + ∑ ∑ 2 J km + ∑ ∑ 2 J kp
C2 C1
C2
C2 OV
m
mn
m
m
OV C1
p
OV C2
OV
+ ∑ ∑ 2 J mk + ∑ 2 J mn + ∑ ∑ 2 J mp + ∑ ∑ 2 J pk + ∑ ∑ 2 J pm + ∑ 2 J pq
k
p
p
k
p
m
pq
+ aC1C1 ∑ (− K kl ) + aC1C2 ∑ ∑ (− K km ) + aC1OV ∑ ∑ (− K kp )
C1
C1 C2
C1 OV
kl
k
k
m
p
+ aC1C2 ∑ ∑ (− K mk ) + aC2C2 ∑ (− K mn ) + aC2OV ∑ ∑ (− K mp )
C2 C1
C2
C2 OV
m
mn
m
k
p
+ aC1OV ∑ ∑ (− K pk ) + aC2OV ∑ ∑ (− K pm ) + aOVOV ∑ (− K pq )
OV C1
p
k
OV C2
p
OV
m
pq
+ bC1C1 E xc [ρ C1 ] + bC2C2 E xc [ρ C2 ] + bOVOV E xc [ρ OV ] + bC1C2 (E xc [ρ C1+C2 ] − Exc [ρ C1 ] − Exc [ρ C2 ])
+ bC1OV (Exc [ρ C1+OV ] − Exc [ρ C1 ] − Exc [ρ OV ]) + bC2OV (Exc [ρ C2+OV ] − Exc [ρ C2 ] − Exc [ρ OV ])
(7-2)
和記号上の“C1”,“C2”及び“OV”は,それぞれ K 殻, L 殻及び価電子軌道に関す
る和を取ることを示している。本節では i, j は占有軌道の指標とし,さらに k, l
- 116 -
を 1s 内殻軌道,m, n を 2s, 2p 内殻軌道,p, q を価電子軌道の指標として区別す
る。電子密度に関しては,
C1
C2
2
OV
2
ρC1 = ∑ ϕ k , ρC2 = ∑ ϕ m , ρOV = ∑ ϕ p
k
m
≠ OV
2
2
p
≠C 2
≠ C1
2
ρC1+C2 = ∑ ϕi , ρC1+OV = ∑ ϕi , ρC2+OV = ∑ ϕi
i
i
2
(7-3)
i
とする。和記号上の“≠C1”,“≠C2”及び“≠OV”は,それぞれ C1, C2 及び OV 軌道
を除く全ての占有軌道の和を取ることを表している。種類の異なる軌道間の電
子密度は零なので,C1-C2 間相互作用は Exc[ρC1+C2]から Exc[ρC1]及び Exc[ρC2]を引
いたものとして表す。C1-OV 及び C2-OV 間相互作用も同様である[36]。(7-2)式
で aX 及び bX (X = C1C1, C1C2, C1OV, C2C2, C2OV 及び OVOV)を値を決めること
によって,各軌道における HF 交換項の割合を決定することができる。交換相関
汎関数には Slater 交換汎関数[37],
B88 交換汎関数[16],
Vosko-Wilk-Nusair (VWN5)
相関汎関数[38]及び LYP 相関汎関数[12]が含まれている。aX 及び bX の具体的な
値を表 7-5 に示す。表 7-5 で,C1C1, C2C2, OVOV に関してはそれぞれ
HF+B88+LYP (70%), BHHLYP 及び B3LYP の係数の値を用いている。
C1C2, C1OV
及び C2OV にはそれぞれ C1C1 と C2C2,C1C1 と OVOV 及び C2C2 と OVOV の
平均値を用いた。これらの係数は全て,各組の中で交換項及び相関項の係数の
和がそれぞれ 1 であるという条件を満たしている。
表7-5 CVR-B3LYPにおける交換相関汎関数の係数の値
CVR-B3LYPにおける交換相関汎関数の係数の値
C1C1
a (HF exchange)
0.7
b (Slater exchange)
0
(B88 exchange)
0.3
(VWN5 correlation)
0
(LYP correlation)
1
C1C2
0.6
0
0.4
0
1
- 117 -
C1OV
0.45
0.04
0.51
0.095
0.905
C2C2
0.5
0
0.5
0
1
C2OV
0.35
0.04
0.61
0.095
0.905
OVOV
0.2
0.08
0.72
0.19
0.81
(7-2)式を変分して得られる Fock 演算子は,
FC1 = h + 2 J − (aC1C1 K C1 + aC1C2 K C2 + aC1OV K OV )
+ (bC1C1 − bC1C2 − bC1OV )Vxc [ρ C1 ] + bC1C2Vxc [ρ C1+C2 ] + bC1OVVxc [ρ C1+OV ]
(7-4)
FC2 = h + 2 J − (aC1C2 K C1 + aC2C2 K C2 + aC2OV K OV )
+ (bC2C2 − bC1C2 − bC2OV )Vxc [ρ C2 ] + bC1C2Vxc [ρ C1+C2 ] + bC2OVVxc [ρ C2+OV ]
(7-5)
FOV = h + 2 J − (aC1OV K C1 + aC2OV K C2 + aOVOV K OV )
+ (bOVOV − bC1OV − bC2OV )Vxc [ρ OV ] + bC1OVVxc [ρ C1+OV ] + bC2OVVxc [ρ C2+OV ]
(7-6)
の三種類となる。h と J は一電子及びクーロン演算子である。HF 交換演算子及
び Exc の一次微分は以下のとおりである。
C1
C2
OV
k
m
p
K C1 = ∑ K k , K C2 = ∑ K m , K OV = ∑ K p ,
Vxc [ρ C1 ] =
δExc [ρ C1 ]
δE [ρ ]
δE [ρ ]
, Vxc [ρ C2 ] = xc C2 , Vxc [ρ OV ] = xc OV ,
δρC1
δρC2
δρOV
Vxc [ρ C1+C2 ] =
]
]
δExc [ρ C1+C2 ]
δE [ρ
δE [ρ
, Vxc [ρ C1+OV ] = xc C1+OV , Vxc [ρ C2+OV ] = xc C2+OV
δρC1+C2
δρC1+OV
δρC2+OV
(7-7)
以下のように演算子 R
{
(
RC1 = −∑ {ϕ m ϕ m Θ C1C2 ) + (Θ C1C2 ϕ m ϕ m }− ∑ ϕ p ϕ p Θ C1OV ) + Θ C1OV ϕ p ϕ p
C2
OV
m
p
}
(7-8)
{
(
RC2 = −∑ {ϕ k ϕ k ΘC2C1 ) + (ΘC2C1 ϕ k ϕ k } − ∑ ϕ p ϕ p Θ C2OV ) + Θ C2OV ϕ p ϕ p
C1
OV
k
p
}
(7-9)
ROV = −∑ {ϕ k ϕ k Θ OVC1 ) + (Θ OVC1 ϕ k ϕ k }− ∑ {ϕ m ϕ m Θ OVC2 ) + (Θ OVC2 ϕ m ϕ m
C1
C2
k
m
}
(7-10)
を導入することにより,次の結合演算子[39-41]を得る。
FC1 ' = FC1 + RC1
(7-11)
FC2 ' = FC2 + RC2
(7-12)
FOV ' = FOV + ROV
(7-13)
- 118 -
ここで,
Θ C1C2 = (1 − λ )FC1 + λFC2
(7-14)
Θ C2C1 = −λFC1 + (1 + λ )FC2
(7-15)
Θ C1OV = (1 − µ )FC1 + µFOV
(7-16)
Θ OVC1 = − µFC1 + (1 + µ )FOV
(7-17)
Θ C2OV = (1 − σ )FC2 + σFOV
(7-18)
Θ OVC2 = −σFC2 + (1 + σ )FOV
(7-19)
である。すると,形式的な統一演算子は
C1
C2
OV
k
m
p
F = ∑ FC1 ' ϕ k ϕ k + ∑ FC2 ' ϕ m ϕ m + ∑ FOV ' ϕ p ϕ p
(7-20)
と表すことができる。λ, µ及びσは任意の実数であり,本章では 0.1 に設定した。
仮想軌道に関しては,通常の CVR-B3LYP[17 及び第 6 章]と同様に,Rydberg 軌
道を二次モーメントの大きさで判別し,非占有価電子軌道には FOV,Rydberg 軌
道には HF の Fock 演算子の形を用いた。TDDFT 計算時には第 5 章のときと同様
の近似を用い,CVR-B3LYP の軌道エネルギーと軌道係数を用いながら B3LYP
の A, B 行列の形[1-4]を利用した。
7.3.2
第三周期元素を含む系に関する CVR-B3LYP の精度検証
SiH4, PH3, H2S, HCl 及び Cl2 分子における 1s 及び 2p 内殻励起エネルギーの
CVR-B3LYP による計算結果を表 7-6 に示す。表 7-5 の係数の値を用いた場合の
HF 交換項の割合は K 殻,L 殻及び価電子軌道に関してそれぞれ 70%, 50%及び
20%である。また,これらの計算においては RESC 法により相対論効果を考慮
している。表 7-6 において,1s 及び 2p 内殻励起エネルギーに関する CVR-B3LYP
の MAE は 1.5 eV 及び 1.1 eV である。表 7-3 及び 7-4 において最も高い精度を示
した HF+B88+LYP (70%)及び BHHLYP に関しては,1s 及び 2p 内殻励起エネルギ
ーの MAE は HF+B88+LYP (70%)では 1.2 及び 3.5 eV,
BHHLYP では 20.5 及び 0.6
eV であった。これらと CVR-B3LYP を比較すると,1s 内殻励起エネルギーに関
- 119 -
して CVR-B3LYP は HF+B88+LYP (70%)と同程度の精度を与えており,BHHLYP
よりもはるかに高い精度を示した。また,2p 内殻励起エネルギーに関しては,
CVR-B3LYP は BHHLYP と同程度の高い精度を与えており,HF+B88+LYP (70%)
より高精度である。以上より,HF+B88+LYP (70%)や BHHLYP では K 殻励起あ
るいは L 殻励起の一方しか精度よく計算できないのに対し,CVR-B3LYP では K
殻及び L 殻励起の双方を同時に高精度に計算できることが示された。
表7-6 CVR-B3LYPによるSiH4,PH3,H2S,HCl及びCl2分子の内殻励起エネ
ルギー[eV]a
Molecule
SiH4
PH3
H2S
HCl
Cl2
1s Excitation
Assignment CVR-B3LYP Exptl.
Si 1s→σ*
1846.6
1842.5 b
(+4.1)
P 1s→σ*(e)
2148.9
2145.8 c
(+3.1)
S 1s→3b2(σ*)
2474.7
2473.1 d
(+1.6)
S 1s → 4pb2
2477.4
2476.3 d
(+1.1)
2824.8
2823.9 e
Cl 1s→3pσ*
(+0.9)
2827.9
2827.8 e
Cl 1s → 4pπ
(+0.1)
Cl 1s→3pσu*
2822.1
2821.3 e
(+0.8)
2829.2
2828.5 e
Cl 1s→4p
(+0.7)
MAEi
1.5
a
f
b
g
c
h
d
i
括弧内は実験値からの差
参考文献 [28]
参考文献 [29]
参考文献 [30]
Assignment
Si 2p→σ*
2p Excitation
CVR-B3LYP Exptl.
103.7
102.6 f
P 2p→σ*
S 2p→σ*
S 2p→4s
Cl 2pπ→3pσ*
Cl 2pπ→4pπ
Cl 2pπ→3pσu*
(+1.1)
133.1
(+1.0)
166.1
(+1.6)
168.3
(+1.8)
202.0
(+1.0)
205.0
(+0.4)
199.1
(+0.9)
1.1
参考文献 [32]
参考文献 [33]
参考文献 [35]
実験値からの平均絶対誤差
e
参考文献 [31]
- 120 -
132.1 f
164.5 f
166.5 f
201.0 g
204.6
198.2
g
h
表 7-3, 7-4 及び 7-6 の結果に関して第三周期元素の種類ごとの ME の変化の
様子をまとめたものを図 7-2 に示す。図 7-2(a)は 1s 内殻励起に関する ME の元素
依存性を表しており,HF 交換項の割合が少ないときには Si, P, S, Cl となるにつ
れ過小評価されていくのに対し,HF 交換項の割合が多いときには Si, P, S, Cl と
なるにつれ過大評価されていくことがわかる。また,HF 交換項の割合が 70%及
び 80%の場合には元素依存性はほとんど見られないが,HF 交換項の割合がそれ
より多い場合あるいは少ない場合には,元素の種類による絶対誤差の差が大き
くなっている。CVR-B3LYP の誤差の傾向は HF+B88+ LYP (70%)と同様であり,
元素依存性は小さい。図 7-2(b)は 2p 内殻励起に関する元素ごとの ME の変化で
ある。2p 内殻励起エネルギーの場合にも,HF 交換項の割合が少ないときには元
素が大きくなるにつれ過小評価され,HF 交換項の割合が多いときには過大評価
されることがわかる。2p 内殻励起の場合には,HF 交換項の割合が 50%及び 60%
のときに元素依存性が少なくなっている。CVR-B3LYP の挙動は BHHLYP と同
様であり,元素依存性が非常に少ないといえる。
40.0
15.0
20.0
10.0
[eV]
[eV]
0.0
-20.0
-40.0
5.0
0.0
-5.0
-60.0
-10.0
-80.0
-100.0
BLYP (0%)
B3LYP (20%)
BHHLYP (50%)
60%
70%
HF+B88
80%
+LYP
90%
100%
CVR-B3LYP
(1s:70%, 2p:50%)
Si
P
S
Cl
-15.0
Si
(a) 1s excitations
P
S
Cl
(b) 2p excitations
図7-2 第三周期元素の内殻励起エネルギーにおける実験値からの平均誤差の
元素依存性
- 121 -
CVR-B3LYP における価電子の記述の精度を検証するために,価電子が大き
く寄与する物性の一つである標準生成エンタルピーを参考文献[42]の手順に従
って計算した。また,比較のために BLYP, B3LYP, BHHLYP 及び HF+B88+LYP
汎関数を用いた密度汎関数理論(DFT)法及び HF 法においても標準生成エンタル
ピー計算を行った。SiH4, PH3, H2S, HCl 及び Cl2 分子に関する標準生成エンタル
ピーの計算結果を表 7-7 に示す。
表 7-7 において,HF 法における MAE が 52.0 kcal/mol であるのに対し,DFT
法における MAE はどれも 10 kcal/mol 未満であり,DFT 法は HF 法と比べて標準
生成エンタルピーの計算精度が高いことがわかる。DFT 法の中では,HF 交換項
の割合の少ない BLYP や B3LYP の MAE が 2.0 及び 1.5 eV であり,非常に高い
精度を示している。また,交換汎関数に占める HF 交換項の割合が増えると誤差
が増加する傾向がある。この結果から,反応に寄与する価電子の記述に関して
は 0 – 20%程度の HF 交換項が適切であることがわかる。一方,CVR-B3LYP の
MAE は 1.9 eV であり,BLYP や B3LYP と同程度の精度を示した。これは
CVR-B3LYP の価電子軌道が B3LYP の価電子軌道を再現しているためである。
以上のことから,CVR-B3LYP では,内殻軌道の HF 交換項の割合を適切に決定
することによって内殻励起状態の記述を改善するとともに,価電子に関する記
述を B3LYP と同程度に保つことができることが示された。
- 122 -
- 123 -
2.0
b
括弧内は実験値からの差
参考文献 [42]
c
実験値からの平均絶対誤差
a
MAEc
Cl2
HCl
H2S
PH3
13.3
(+5.1)
1.2
( -0.1)
-2.8
(+2.1)
-19.9
(+2.2)
-0.5
( -0.5)
BLYP
SiH4
Molecule
1.5
7.9
( -0.3)
-0.4
( -1.7)
-3.7
(+1.2)
-20.3
(+1.8)
2.7
(+2.7)
B3LYP
4.5
7.9
( -0.3)
3.4
(+2.1)
0.5
(+5.4)
-17.5
(+4.6)
10.3
(+10.3)
BHHLYP
5.4
60%
6.5
( -1.7)
3.5
(+2.2)
1.0
(+5.9)
-17.0
(+5.1)
12.2
(+12.2)
6.3
7.1
7.9
HF+B88+LYP
70% 80% 90%
5.1
3.7
2.1
( -3.1) ( -4.5) ( -6.1)
3.6
3.7
3.6
(+2.3) (+2.4) (+2.3)
1.5
2.0
2.4
(+6.4) (+6.9) (+7.3)
-16.6 -16.1 -15.7
(+5.5) (+6.0) (+6.4)
14.1
15.9
17.6
(+14.1) (+15.9) (+17.6)
8.7
100%
0.5
( -7.7)
3.5
(+2.2)
2.8
(+7.7)
-15.3
(+6.8)
19.3
(+19.3)
52.0
75.0
(+66.8)
71.7
(+70.4)
48.7
(+53.6)
7.7
(+29.8)
39.4
(+39.4)
1.9
5.9
( -2.3)
-2.5
( -3.8)
-5.4
( -0.5)
-21.5
(+0.6)
2.1
(+2.1)
0.0
-22.1
-4.9
1.3
8.2
HF CVR-B3LYP Exptl.
表7-7 SiH4,PH3,H2S,HCl及びCl2分子の標準生成エンタルピー[kcal/mol]a
b
7.4
結論
本章では,C→V, C→R, V→V 及び V→R 励起の全てを精度良く記述するた
めに提案した汎関数 CVR-B3LYP [17]を第三周期元素を含む系に拡張した。
まず,
従来の汎関数を用いた場合の第三周期元素に関する内殻励起エネルギーの計算
精度を検証した。その結果,第三周期元素の L 殻からの内殻励起に関しては,
第二周期元素の K 殻励起の場合と同様に BHHLYP 汎関数が高精度であることが
示された。一方,第三周期元素の K 殻励起に関しては,従来用いられている汎
関数では誤差が非常に大きいことがわかった。そこで,交換相関汎関数に含ま
れる HF 交換項の割合を変化させて 1s 及び 2p 内殻励起エネルギーを計算したと
ころ,K 殻励起状態の記述には 70%程度,L 殻励起状態の記述には 50%程度の
HF 交換項の割合が適切であることが示された。そこで,K 殻軌道と L 殻軌道に
異なる HF 交換項の割合を用いるように CVR-B3LYP を拡張した。K 殻,L 殻及
び価電子軌道に関する HF 交換項の割合を 70%,50%及び 20%にした結果,1s
及び 2p 内殻励起状態を同時に高精度に記述することができた。また,標準生成
エンタルピーの計算から,CVR-B3LYP の価電子の記述精度が高いままに保たれ
ていることを確認した。以上より,CVR-B3LYP は第三周期元素に関しても内殻
軌道及び占有価電子軌道の双方を高精度に記述することが可能であることが示
された。
- 124 -
第 7 章の参考文献
[1] M. E. Casida, in Recent Advances in Density Functional Methods, edited by D. P.
Chong (World Scientific, Singapore, 1995), Pt. I, p. 155.
[2] R. Bauernschmitt and R. Ahlrichs, Chem. Phys. Lett. 256, 454 (1996).
[3] S. Hirata and M. Head-Gordon, Chem. Phys. Lett. 314, 291 (1999).
[4] S. Hirata, M. Head-Gordon, and R. J. Bartlett, J. Chem. Phys. 111, 10774 (1999).
[5] A. Nakata, Y. Imamura, T. Ostuka, and H. Nakai, J. Chem. Phys. 124, 094105
(2006).
[6] Y. Imamura, T. Otsuka, and H. Nakai, J. Comput. Chem. in press.
[7] Y. Imamura and H. Nakai, Int. J. Quant. Chem. 107, 23 (2007).
[8] Y. Imamura and H. Nakai, Chem. Phys. Lett. 419, 297 (2006).
[9] M. E. Casida and D. R. Salahub, J. Chem. Phys. 113, 8918 (2000).
[10] H. Appel, E. K. U. Gross, and K. Burke, Phys. Rev. Lett. 90, 043005 (2003).
[11] A. D. Becke, J. Chem. Phys. 98, 5648 (1993).
[12] C. Lee, W. Yang, and R. G. Parr, Phys. Rev. B 37, 785 (1988).
[13] R. van Leeuwen and E. J. Baerends, Phys. Rev. A 49, 2421 (1994).
[14] D. J. Tozer and N. C. Handy, J. Chem. Phys. 109, 10180 (1998).
[15] Y. Tawada, T. Tsuneda, S. Yanagisawa, T. Yanai, and K. Hirao, J. Chem. Phys. 120,
8425 (2004).
[16] A. D. Becke, Phys. Rev. A 38, 3098 (1988).
[17] A. Nakata, Y. Imamura, and H. Nakai, J. Chem. Phys. 125, 064109 (2006).
[18] A. D. Becke, J. Chem. Phys. 98, 1372 (1993).
[19] T. H. Dunning, Jr., J. Chem. Phys. 90, 1007 (1989).
[20] D.E. Woon and T.H. Dunning, Jr., J. Chem. Phys. 98, 1358 (1993).
[21] D. E. Woon and T.H. Dunning, Jr., J. Chem. Phys. 103, 4572 (1995).
[22] K. A. Peterson and T. H. Dunning, Jr., J. Chem. Phys. 117, 10548 (2002).
[23] T. H. Dunning, Jr. and P. J. Hay, in Methods of Electronic Structure Theory, edited
by H. F. Schaefer III (Plenum Press, New York, 1977), Vol. 3.
[24] E. Magnusson and H. F. Schaefer III, J. Chem. Phys. 83, 5721 (1985).
- 125 -
[25] T. H. Dunning, Jr. and P. J. Harrison, in Modern Theoretical Chemistry, edited by
H.F. Schaefer III (Plenum Press, New York, 1977), Vol. 2.
[26] T. Nakajima and K. Hirao, Chem. Phys. Lett. 302, 383 (1999).
[27] D. G. Fedorov, T. Nakajima, and K. Hirao, Chem. Phys. Lett. 335, 183 (2001).
[28] S. Bodeur, P. Millié, and I. Nenner, Phys. Rev. A 41, 252 (1990).
[29] R. G. Cavell and A. Jürgensen, J. Electron Spectrosc. Relat. Phenom. 101-103, 125
(1999).
[30] S. Bodeur and J. M. Esteva, Chem. Phys. 100, 415(1985).
[31] S. Bodeur, J. L. Maréchal, C. Reynaud, D. Bazin, and I. Nenner, Z. Phys. D-Atoms,
Molecules and Clusters 17, 291 (1990).
[32] M. B. Robin, Chem. Phys. Lett. 31, 140 (1975).
[33] E. Gedat, R. Püttner, M. Domke, and G. Kaindl, J. Chem. Phys. 109, 4471 (1998).
[34] G. Fronzoni, M. Stener, P. Decleva, and G. De Alti, Chem. Phys. 232, 9 (1998).
[35] O. Nayandin, E. Kukk, A. A. Wills, B. Langer, J. D. Bozek, S. Canton-Rogan, M.
Wiedenhoeft, D. Cubaynes, and N. Berrah, Phys. Rev. A 63, 062719 (2001).
[36] (7-2)式の DFT 項に関しては,3 体以上の相互作用は切り捨てられている。
この切り捨てによる誤差は今回用いた系に関しては全エネルギーの 0.02%
であり非常に小さい。また励起エネルギーや標準生成エンタルピーの計算
精度が高いことからも,3 体以上の相互作用の切り捨てによる誤差は本章で
は無視できるといえる。
[37] J. C. Slater, Phys. Rev. 81, 385 (1951).
[38] S. H. Vosko, L. Wilk, and M. Nusair, Can. J. Phys. 58, 1200 (1980).
[39] C. C. J. Roothaan, Revs. Modern Phys. 32, 179 (1960).
[40] S. Huzinaga, 分子軌道法, (岩波書店, Tokyo, 1980) (in Japanese).
[41] K. Hirao and H. Nakatsuji, J. Chem. Phys. 59, 1457 (1973).
[42] L. A. Curtiss, K. Raghavachari, P. C. Redfern, and J. A. Pople, J. Chem. Phys. 106,
1063 (1997).
- 126 -
第8章
総括
本論文では,密度汎関数理論(DFT)及び時間依存密度汎関数理論(TDDFT)を
用いた生体分子における高精度計算の一例として,皮膚病の光治療薬であるソ
ラレン化合物の励起状態ダイナミクスに関する理論的研究を行った。また,
TDDFT 法を用いて内殻及び Rydberg 励起状態を高精度に計算するために,新し
い交換相関汎関数の開発を行った。
ソラレン化合物はフラン環の C4’-C5’結合とピロン環の C3-C4 結合の二つの
光反応部位を持っており,UV-A 光(300∼400 nm)照射下で DNA 残基と付加反応
を起こす。しかし,フラン環とピロン環の双方が DNA 残基と付加反応を起こし
たジ付加体は副作用の原因となるため,どちらか一方の環のみが DNA 残基に付
加したモノ付加体の段階で反応を抑制することが重要となる。
このような背景のもと,第 3 章では,ソラレン,5-methoxypsoralen (5-MOP)
及び 8-methoxypsoralen (8-MOP)の単体及びフランモノ付加体に関する最低励起
三重項(T1)状態の電子状態を DFT 法により検討した。その結果,T1 状態におい
てピロン環の O1-C2 結合が開裂した特異な開環構造が存在することが明らかと
なった。この開環構造に関して結合長やスピン密度分布を検討した結果,ピロ
ン環の C3-C4 部位が失活していることが示され,開環構造では C3-C4 部位への
付加反応が起こらないことが示された。特に,ソラレンや 5-MOP では T1 状態で
閉環構造と開環構造の二種類の安定構造があるのに対し,8-MOP では開環構造
のみが安定に存在することがわかった。以上の結果から,ソラレンや 5-MOP と
比べて 8-MOP はピロン環への光付加反応が起こりにくく,副作用の原因となる
ジ付加体を生成しにくいことが示唆された。さらに,5 位及び 8 位に様々な置換
基をつけた化合物の計算を行い,安定な開環構造をもつ化合物の予測を試みた。
その結果,8 位に電子供与性置換基をつけることによって,開環構造を安定化さ
せられることがわかり,ジ付加体を誘導しにくいソラレン化合物を提案するこ
とができた。
また,第 4 章では,ソラレン化合物の単体,フラン及びピロンモノ付加体
- 127 -
の励起状態を TDDFT 法を用いて計算した。ソラレン化合物の単体に関する
TDDFT 計算では,実験で観測された UV スペクトルのピークに関して,励起状
態の帰属を行うことができた。フラン及びピロンモノ付加体に関しては,単体
と比べて一重項第一励起(S1)状態がブルーシフトすることを明らかにした。特に
ピロンモノ付加体の S1 状態が大きくブルーシフトし,UV-A 光の領域から外れ
ることを示した。その結果,ピロンモノ付加体は UV-A 光では励起されず,副作
用の原因となるジ付加体を形成しないことを理論的に明らかにした。
第 5 章から第 7 章では,TDDFT 法を用いた内殻及び Rydberg 励起状態の高
精度計算のための新しい交換相関汎関数の開発を行った。
第 5 章では,まず従来の交換相関汎関数に関して精度の検証を行った。こ
れにより,内殻励起状態を精度よく記述するためには交換相関汎関数における
HF 交換項の割合が重要であることを明らかにした。具体的には,HF 交換項を
50%含む Becke’s half-and-half exchange (BHH) + Lee-Yang-Parr correlation (LYP)汎
関数及び HF 交換項を 20%含む Becke’s three-parameter exchange (B3) + LYP
correlation 汎関数が,それぞれ内殻及び価電子励起状態を高精度に記述すること
がわかった。その結果に基づき,内殻及び価電子励起を双方とも高精度に記述
するための新しい交換相関汎関数 core-valence B3LYP (CV-B3LYP)を開発した。
CV-B3LYP 汎関数では,内殻軌道と占有価電子軌道を区別し,それぞれに適切な
HF 交換項の割合を用いた。その際,内殻軌道と占有価電子軌道の直交性を保証
するために,結合演算子法を用いた。CV-B3LYP を用いて DFT 及び TDDFT 計
算を行ったところ,価電子の寄与する物性である標準生成エンタルピーに関し
て,B3LYP と同様に高精度に計算することができた。また励起状態計算に関し
ては,内殻→非占有価電子励起は BHHLYP,占有価電子→非占有価電子励起は
B3LYP と同程度の精度で記述できており,内殻及び価電子励起を双方とも高精
度に記述することに成功した。
第 6 章では CV-B3LYP において,さらに Rydberg 励起の記述に関しても改良
した交換相関汎関数 core-valence-Rydberg B3LYP (CVR-B3LYP)の開発を行った。
CVR-B3LYP では,内殻及び占有価電子軌道だけでなく,非占有価電子軌道及び
Rydberg 軌道に関しても適切な HF 交換項の割合を用いた。DFT 計算の結果から
- 128 -
Rydberg 軌道の二次モーメントは価電子軌道よりも明らかに大きいことが示さ
れたため,CVR-B3LYP では二次モーメントを用いて Rydberg 軌道の判別を行っ
た。CVR-B3LYP を用いた TDDFT 計算では,内殻→非占有価電子及び占有価電
子→非占有価電子励起に関しては CV-B3LYP と同程度,内殻→Rydberg 及び占有
価電子→Rydberg 励起に関しては CV-B3LYP より高い精度を得ることに成功した。
よって,CVR-B3LYP は内殻軌道及び占有価電子軌道からの励起,また非占有価
電子及び Rydberg 軌道への励起の,どの励起を記述する場合にも適しているとい
える。
第 7 章では,第三周期元素を含む系に対する CVR-B3LYP の拡張を行った。
従来の汎関数を用いて第三周期元素に関する TDDFT 計算を行ったところ,内殻
励起状態を記述するのに適切な HF 交換項の割合は K 殻励起と L 殻励起とで異
なり,K 殻励起に関しては 70%程度,L 殻励起に関しては 50%程度の HF 交換
項の割合が適切であることがわかった。そこで,K 殻軌道と L 殻軌道に異なる
HF 交換項の割合を用いるように CVR-B3LYP 汎関数を構築した。K 殻,L 殻及
び価電子軌道に関する HF 交換項の割合を 70%,50%及び 20%にした結果,1s
及び 2p 内殻励起状態の双方を高精度に記述することに成功した。また,
CVR-B3LYP の価電子の記述精度が B3LYP と同程度に高いことを確認した。以
上より,CVR-B3LYP は第三周期元素に関しても内殻軌道及び占有価電子軌道の
双方を高精度に記述することが可能であることが示された。
本論文では,TDDFT 法を基盤として,生体分子の励起状態に関する応用計
算及び励起状態計算の高精度化を試みた。現在の量子化学では,DNA やたんぱ
く質などの巨大生体分子の全体を計算しようといった試みや,溶媒などの外場
の影響をポテンシャルではなく実際に分子を配置することによって考慮する試
みがなされ始めている。しかし,現在ではこのような巨大系に関しては,計算
コストの問題から精度の低い手法でしか取り扱うことができない。このように
対象とする系が巨大化する傾向にある中で,TDDFT 法は巨大分子の高精度励起
状態計算手法としていずれ主力を占めるようになるであろう。本論文が TDDFT
法の生体分子への応用,そして高精度化への初期の一歩となることを願いつつ,
本論文の結びとする。
- 129 -
謝辞
本研究は、早稲田大学理工学術院、中井浩巳教授のご指導のもとで行われ
ました。中井先生には 6 年間、厳しくも暖かいご指導を数多くいただきました。
本論文の執筆に当たりましても、多くのご助言を頂きました。ここに、心より
御礼申し上げます。
また、本論文をまとめるにあたり、多くのご助言、ご意見を頂きました同
化学科の伊藤紘一教授、古川行夫教授、東京大学の中嶋隆人助教授に厚く御礼
申し上げます。
高橋博彰教授には、第 3, 4 章に関して、実験的観点から様々なご助言を頂
きましたことを深く感謝いたします。
本研究を行うにあたり、中井研究室の博士研究員である今村穣博士、大塚
教雄博士、サヌーン客員講師、また先輩である馬場健修士、市川尚志修士、河
村芳海博士、袖山慶太郎博士、河東田道夫修士、千葉真人博士、星野稔修士、
山内祐介博士には、長年に渡り非常に多くのご助言、ご激励を頂きました。特
に、第 3, 4 章は馬場健修士、第 5, 6, 7 章は今村穣博士との共同研究であり、多
くの議論を交わしていただきました。同期である渥美照夫修士、菊池那明修士、
及び小林正人修士、桐生大義学士、赤間知子学士、佐倉大輔学士ほか多くの後
輩の方々にも、様々なご協力を頂きました。同期であった小澤志保修士や松田
愛子学士とは励ましあいながら研究を進めることができ、公私共にお世話にな
りました。また後輩の竹内真理修士、山谷舞子修士、田上貴裕学士、土持崇嗣
君と共同研究を行う機会を得られたことは大きな経験となりました。秘書の石
田敬子さんには、暖かい励ましを何度も頂きました。本論文を完成させること
ができたのは以上の方々の暖かい支えのおかげです。心から感謝いたします。
2004 年度から 2006 年度においては、日本学術振興会特別研究員奨励費、及
び早稲田大学理工学研究科特別研究員 DC 奨励研究費の補助をいただき、円滑に
研究を進めることが出来ましたこと、厚く御礼申し上げます。
最後に、長年にわたり暖かい理解と励ましによって支えてくれた家族に感
謝いたします。
2007 年 1 月
- 130 -
研究業績
投稿論文
○(1)(報文)
“Hybrid exchange-correlation functional for core, valence, and Rydberg excitations:
Core-Valence-Rydberg B3LYP”
J. Chem. Phys., 125, 064109-1 - 064109-9 (2006),
A. Nakata, Y. Imamura, H. Nakai.
○(2)(報文)
“Time-dependent density functional theory calculations for core-excited states:
Assessment of standard exchange-correlation functionals and development of a novel
hybrid functional”
J. Chem. Phys., 124, 094105-1 - 094105-9 (2006),
A. Nakata, Y. Imamura, H. Nakai.
(3)(報文)
“Synthesis of the Pivalamidate-Bridged Pentanuclear Platinum(II, III) Linear
Complexes with Pt…Pt Interactions”
Inorg. Chem., 44, 8552-8560 (2005),
K. Matsumoto, S. Arai, M. Ochiai, W. Chen, A. Nakata, H. Nakai, S. Kinoshita.
(4)(報文)
“Principal Component Analysis with Energy Density of Calophyllum Coumarins”
Chem. Lett., 34(6), 844-845 (2005),
M. Takeuchi, A. Nakata, H. Nakai.
- 131 -
○(5)(報文)
“Theoretical Study on the Excited States of Psoralen Compounds Bonded to a
Thymine Residue”
J. Comput. Chem., 25, 179-188 (2004),
A. Nakata, T. Baba, H. Takahashi, H. Nakai.
(6)(報文)
“Ab initio molecular dynamics study on the excitation dinamics of psoralen
compounds”
J. Chem. Phys., 119, 4223-4228 (2003),
H. Nakai, Y. Yamauchi, A. Nakata, T. Baba, H. Takahashi.
- 132 -
講演
国際会議
1) “Development of a novel exchange-correlation functional for core, valence, and
Rydberg excitations: CVR-B3LYP”
The XIIth International Congress of Quantum Chemistry (XII-ICQC2006), Kyoto,
Japan, May 2006.
Ayako Nakata, Yutaka Imamura, Hiromi Nakai
2) “Development and assessment of Core-Valence-Rydberg B3LYP hybrid functional”
The International Congress of Quantum Chemistry (ICQC) Satellite Symposium
"Chemical Accuracy and Beyond - Electron Correlation, DFT, and Breakdown of
Born-Oppenheimer Scheme", Tokyo, Japan, May 2006.
Ayako Nakata, Yutaka Imamura, Hiromi Nakai
3) “Development of a new hybrid functional for precise description of core excitations”
The International Chemical Congress of Pacific Basin Societies (Pacifichem 2005),
Honolulu, Hawaii, USA, December 2005.
Ayako Nakata, Yutaka Imamura, Hiromi Nakai
4) “Synthesis of the pivalamidate-bridged pentanuclear platinum(II, III) linear
complexes of Pt-Pt bondings”
The International Chemical Congress of Pacific Basin Societies (Pacifichem 2005),
Honolulu, Hawaii, USA, December 2005.
Saiko Arai, Masahiko Ochiai, Wanzhi Chen, Kazuko Matsumoto, Ayako Nakata,
Hiromi Nakai, Shuhei Kinoshita
5) “Development of a new hybrid exchange-correlation functional for core excitations”
1st NAREGI International Nanoscience Conference, Nara, Japan, June 2005.
- 133 -
Ayako Nakata, Yutaka Imamura, Hiromi Nakai
6) “Theoretical study of the psoralen-DNA photoaddition reaction by Time dependent
density functional theory”
21COE International Symposium on 'Practical Nano-Chemistry' Waseda University,
Japan, December 2003.
Ayako Nakata, Hiromi Nakai
学会発表
1) “内殻及び Rydberg 励起状態計算のための hybrid 汎関数の開発(2)”
日本コンピュータ化学会 2006 秋季年会,北海道教育大学(函館),
2006 年 10 月.
土持崇嗣, 中田彩子, 今村譲, 中井浩巳
2) “内殻及び Rydberg 励起状態計算のための hybrid 汎関数の開発”
日本コンピュータ化学会 2006 春季年会,東京工業大学(大岡山),
2006 年 6 月.
中田彩子,今村穣,中井浩巳
3) “内殻及び Rydberg 励起に適した hybrid 汎関数の提案:CVR-B3LYP”
日本化学会第 86 回春季年会,日本大学(船橋),
2006 年 3 月.
中田彩子,今村穣,中井浩巳
4) “白金五核錯体の安定性に対する配位子効果に関する理論的研究”
日本化学会第 86 回春季年会,日本大学(船橋),2006 年 3 月.
田上貴裕,中田彩子,新井彩子,松本和子,中井浩巳
- 134 -
5) “アミド架橋白金(II,III)五核錯体の合成とその性質”
日本化学会第 86 回春季年会,日本大学(船橋),2006 年 3 月.
新井彩子,齋藤祐介,落合真彦,松本和子,
田上貴裕,中田彩子,中井浩巳
6) “CV-B3LYP 汎関数の開発と応用−内殻,価電子励起状態の高精度計算へ向け
て−”
分子構造総合討論会 2005,タワーホール船堀(東京),2005 年 9 月.
中田彩子,今村穣,中井浩巳
7) “CV-B3LYP 汎関数を用いた内殻励起状態計算”
日本コンピュータ化学会 2005 春季年会,東京工業大学(大岡山),
2005 年 5 月.
中田彩子,今村穣,中井浩巳
8) “内殻励起状態計算に適した hybrid 汎関数の開発”
第 9 回理論化学討論会,京都大学(京都),2005 年 5 月.
中田彩子,今村穣,中井浩巳
9) “内殻励起に適した hybrid 汎関数の開発”
日本化学会第 85 回春季年会,神奈川大学(横浜),2005 年 3 月.
中田彩子,今村穣,中井浩巳
10) “Energy Density Analysis (EDA) を用いた主成分分析による機能性材料の設
計”
第 7 回理論化学討論会,岡崎コンファレンスセンター(岡崎),2003 年 5 月.
竹内真理,中田彩子,中井浩巳
11) “Energy Density Analysis (EDA) を用いた主成分分析−機能性材料の設計に向
けて−”
- 135 -
日本コンピュータ化学会 2003 春季年会,北とぴあ(東京),2003 年 5 月.
竹内真理,中田彩子,中井浩巳
12) “ソラレン化合物の DNA への光付加反応における励起状態ダイナミクスの
理論的研究”
第 29 回生体分子科学討論会,岡崎コンファレンスセンター(岡崎),
2002 年 7 月.
中田彩子,馬場健,高橋博彰,中井浩巳
13) “ソラレン化合物の DNA 光付加反応の電子的メカニズムに関する理論的研
究”
日本コンピュータ化学会 2002 春季年会,北とぴあ(東京),2002 年 7 月.
中田彩子,馬場健,高橋博彰,中井浩巳
14) “Ab initio MO 法によるソラレン誘導体の励起状態ダイナミクスの研究”
日本化学会第 81 回春季年会,早稲田大学(東京),2002 年 3 月.
中田彩子,馬場健,高橋博彰,中井浩巳
15) “Ab initio MD シミュレーションによるソラレン誘導体の励起状態ダイナミ
クスの研究”
日本化学会第 81 回春季年会,早稲田大学(東京),2002 年 3 月.
山内佑介, 中田彩子, 馬場健, 高橋博彰, 中井浩巳
16) “ソラレン化合物の励起状態ダイナミクスに関する理論的研究”
分子構造総合討論会 2001,北海道大学(札幌),2001 年 9 月.
中田彩子,馬場健,高橋博彰,中井浩巳
17) “ジベンゾ7員環化合物の励起状態ダイナミクスに関する理論的研究”
分子構造総合討論会 2001,北海道大学(札幌),2001 年 9 月.
馬場健,中田彩子,高橋博彰,中井浩巳
- 136 -