危険物火災に対する消防能力向上に関する 検討会の概要について

危険物火災に対する消防能力向上に関する
検討会の概要について
一般財団法人海上災害防止センター
防災訓練所
次長
大
森
春
生
今般、石油コンビナート災害等における消防
風向き等気象状況への配慮が不足する等、実火
能力の向上を図るため、危険物保安技術協会を
災を想定した訓練になっていないことから、特
事務局とし、学識経験者、地方自治体消防関係
に各事業所においては、より実火災を意識した
者、海陸の業界関係者等で構成される「危険物
消火活動能力の向上を図る訓練が必要」との指
火災に対する消防能力向上に関する検討会」を
摘がなされたところです。
設置し、自衛防災組織の消防能力の向上を推進
このように、今後発生が予想される大規模災
するための技能基準である自主基準等について
害に対する備えとして、発生した災害の極小化
検討を実施しました。
を速やかに図り、被害の低減化を図るうえで、
各事業所の自衛防災組織等(防災要員以外の防
その検討会の概要について、投稿させていた
災活動に従事する者も含む。
)の更なる体制の
だきます。
強化のためには、実火災に対応した訓練の実施
が不可欠となります。
検討会の目的
月に発生した東日本大震災におい
これらを踏まえ、本検討会では、国内で発生
て発生した石油コンビナート災害では、大規模
した危険物火災事故事例や課題、国外の教育訓
な爆発や火災等により、当該事業所の周辺地域
練施設等を参考に、石油コンビナート災害等に
にまで影響が及ぶ事案もあったことから、
近年、
おける消防能力の向上を図るため、自衛防災組
首都直下型地震や南海トラフ巨大地震などの発
織等が実施すべき実火災に対応した訓練内容に
生が叫ばれている中、これらの巨大地震の発生
ついて、官民海陸の垣根を越えて検討するとと
に伴い、大規模な石油コンビナート災害などが
もに、当該消防能力の向上を推進するための技
発生することが懸念されています。
術基準の一つとなる自主基準を策定し、更に、
平成23年
これに伴い、総務省消防庁が主催する「石油
その訓練を実施するために必要となる消防訓練
コンビナート等防災体制検討会」においても、
施設について検討することを目的としました。
学者、専門家、業界関係者等により防災体制に
検討項目
関する様々な検討がなされ提言が取りまとめら
⑴
れており、平成26年度には、実例等を参考にし
危険物火災に対する消防訓練の現状と課題
の調査
た標準的な災害シナリオ等を作成し、防災訓練
の検証を通じて、石油コンビナート等防災本部
⑵
消防能力向上のための方策
の機能強化に資するための訓練のあり方等につ
⑶
実施すべき消防訓練の内容と消防能力に応
じた技能基準となる自主基準の策定
いて、検討が行われました。
これらの検討を通じ、「実働訓練においては、
41
⑷
消防訓練を実施するために必要となる消防
Safety & Tomorrow No.165 (2016.1)
⑵
訓練施設の検討
世界の消防訓練施設
国外には大小の消防訓練施設があり、訓練は
米国防火協会(以下「NFPA」という。
)等の基
検討の方法
学識経験者、地方自治体消防関係者、業界関
準に従って行われ、訓練後、一定の資格が与え
係者(石油、石化、電気、ガス、鉄鋼等)等で
られるものもあります。参加者は、民間企業、
構成する「危険物火災に対する消防能力向上に
民間消防隊、公的な消防機関などです。
関する検討会」
(委員長:東京理科大学小林恭一
教授(当時)事務局:危険物保安技術協会)を
米国における火災消火訓練施設の一つを紹介
いたします。
米国テキサス州南東部カレッジステーション
設置し、検討を実施しました。
市にある Texas Agricultural and Mechanical
大学(テキサス A & M 大学)付属の「Texas A
検討の開催経過
平成27年
月
日
& M Engineering Extension Service(通 称:
作業部会
平成27年
月
日
TEEX)に、Brayton Fire Training Field とい
第
回
平成27年
月30日
う訓練施設が建設されています。この訓練施設
第
回
平成27年
月24日
は、約49万 k㎡の広大な敷地を有し、コンビナー
第
回
トや交通災害現場を模擬した施設が配置されて
危険物火災に対する消防訓練の現状と取り
組みの課題
⑴
民間における危険物火災に備えた消防訓練
おり、消防訓練施設としては世界最高峰の規
模・内容を誇る施設であることから、他国の公
設消防隊員、自衛消防隊等に対しても NFPA
に基づく火災消火訓練を提供しています。
の課題
民間(特定事業所)における危険物火災に
代表的な訓練は次のとおりです。
備えた訓練の主な課題は、次のとおりです。
・NFPA 472:危険物事故対応者の能力基準
①
・NFPA 600:産業施設消防隊の基準
消火ホースの展張、放水等の操法訓練が
主であり、戦略・戦術を考慮した実践的な
消防訓練が少ない。
②
実火を使用した訓練は、初期消火が前提
となっている。
③
放水は施設、環境への影響・懸念から限
定的となる。
④
実火災規模への放水、消火訓練は実施出
来ない。
⑤
・NFPA 1081:産業施設消防隊員の専門基準
(NFPA 472修了者が条件)
TEEX におけるコンビナート火災消火訓練
等の特徴としては、次の事項が挙げられます。
・官民・海陸一体となった訓練体制
コースによっては、
公設消防、
コンビナー
ト自衛消防隊、
タンカー乗組員が同じ講習、
訓練を受講するため、官民・海陸の共通認
浮き屋根式タンクの火災を想定した訓練
識の醸成が図れる。
では、放水を屋根に向けて出来ないため、
・スキルテスト等の実施
タンク側面への放水しか出来ない。
⑥
大容量泡放射システムや石災法に規定す
る
点セット(大型高所放水車、大型化学
車、泡原液運搬車)を活用した実火を使用
した消火訓練が出来ない。
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コースによっては、技能の習得を確認す
るための「実技試験」
、その試験に合格後、
知識の習得を確認するための「学科試験」
が実施されている。
⑶ 米国の危険物火災に対する消防能力評価制度
ドラム缶内容物移送訓練
(NFPA 472)
複合施設火災消火訓練
(NFPA 1081)
器等の資機材から、消火活動に伴う戦略・戦術
NFPA では、有害物質対応者に対する基準
(後段に対し、どのような基準かが不明です)、
に関する事項まで、自衛消防隊員のレベル(現
コンビナート自衛消防隊員等が備えるべき、消
場対応者、現場指揮者)に応じてそれぞれ定め
火に関する知識と技能についての基準等を定め
られています。米国ではこの NFPA 基準が、
ています。
公設消防隊員及び自衛消防隊員に要求される知
識・技能として位置付けられています。
本検討会の主な対象者であるコンビナート自
⑷
衛防災組織等の知識と技能について、初期消火
日本の危険物火災に対する取り組みの課題
活動、屋内構造物消火活動、屋外消火活動に分
と消防能力に関する自主基準の必要性
けて、それぞれ防火服・消火ホース・空気呼吸
今後予想される首都直下地震や南海トラフ巨
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Safety & Tomorrow No.165 (2016.1)
大地震等により、石油コンビナート等で大規模
このためにも、危険物火災に対する消防能力
災害が発生し、発災事業所のみでは対応が困難
の目安となる自主的な基準(以下「自主基準」
になった場合、現場には公設消防隊や他の自衛
という。
)を策定する必要があります。
防災組織等が応援のため集結し、行政機関・特
危険物火災に対する消防能力の向上を図る
定事業者を問わず協働で消火活動を実施する場
ための自主基準とその訓練内容等
合も考えられます。その際、各自衛防災組織等
が異なる号令や動き(ホース・ハンドリング・
⑴
自主基準の考え方
コマンド)、さらには火災消火戦略・戦術の考え
世界的にも広く認識されている NFPA の基
方をした場合、効果的な消火活動が期待できな
準(教育訓練の基準、戦略・戦術の基準及び資
いおそれがあります。このため、現場対応者や
機材の基準)を採用することは、関係業界の共
現場指揮者については、共通の号令及び火災消
通認識を図るうえでも
火戦略・戦術の考え方を持つこと、つまり、消
に、今後石油コンビナート地域における大規模
防能力に関する共通認識を持つことが重要とな
な危険物災害が発生した場合にも、国際的な協
ります。
力を受けやすくなることが期待されます。
つの手本となるととも
⑴の消防訓練
このような考え方を踏まえ、国内の危険物火
の課題においても指摘されているとおり、消火
災に対する消防能力に関する自主基準につい
設備及び防災資機材等の操法訓練を中心に実施
て、センターが主催する訓練による場合を具体
しているところであり、実際の火を用いて火災
例の一つとして策定しました。
自衛防災組織等においては、
①
を再現した訓練については、必要に応じて、一
NFPA 基準を準用する。
(受講義務及び
資機材基準を除く。
)
般財団法人海上災害防止センター(以下「セン
②
ター」という。)が開催している「コンビナート
センターのコンビナート関連コースを統
火災にかかる訓練コース」に参加することで、
一的な能力評価システムとなるレベルに応
その知識及び技能を習得している特定事業所も
じた訓練内容に再編・修正し、新たな訓練
あります。
コース(石油コンビナート等災害防止法に
現在、センターが第二海堡消防演習場で提供
基づく「三点セット」による消火訓練を含
している「コンビナート火災にかかる訓練コー
む。
)の設定を行い、技能基準となる自主基
ス」は、消火ホースと消火器を駆使しての基礎
準を策定する。
③
的な訓練であり、つまり、火災事故現場におけ
新たな各訓練コースにおいて評価を行う
る最初期段階、又は初期段階の対応を主体とし
ことで、
統一的な能力認定を行うとともに、
ています。しかしながら、近年のコンビナート
能力に応じて訓練の受講制限を設ける。
④
火災事故においては、一度発生すればその隣接
認定された能力を維持するための体制を
整備する。
する施設にも延焼する可能性が非常に高く、被
害が拡大することから、最初期又は初期段階で
は対応できないケースとして、消防隊隊長クラ
⑵
自主基準の策定
上記⑴で記載した危険物火災に対する消防能
スの職員に対しては、
消火ホースのみではなく、
力の向上を図るための技術基準となる自主基準
大型高所放水車、大容量泡放射砲等を組み合わ
の考え方に基づいて検討した日本の自主基準は
せた、より実践に近い上級の火災消火訓練を実
次のとおりです。
施する必要があります。
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①
災害対応ベーシック(
日間程度)
危険物漏洩防止訓練
②
除染訓練
自衛消防隊員等の火災対応等に必要とさ
新たな各レベルに応じた訓練コースを受講し
れる個人防護・除染・汚染拡大防止策を体
た際には、その知識・技能が実践で活用されな
得することを目標
ければ効果が半減します。よって、本当にその
災害対応テクニシャン(
訓練コースにおける知識・技能が身に付いたか
日間程度)
油貯蔵施設等における火災の基本的消火
否については、しっかりとした評価が必要とな
方法を初め、緊急事態に迅速、適切に対応
ります。さらに、その評価は統一的な能力認定
するための指揮要領、火災に対する戦略・
でなければなりません。
また、NFPA の各基準(472、600、1081)に
戦術等の専門的知識・技能を習得すること
ついては、法的な基準となっているとともに、
を目標
③
災害対応プロフェッショナル(
基本的な個人防護の方法、消火の基本から段階
日間程
を経て、上級消火へと下から積み上げるプログ
度)
⑶
石油コンビナート等の火災における事前
ラムとなっているなど、統一的な能力評価シス
計画策定、自衛消防隊等の指揮・管理能力
テムが出来上がっているものの、これら各基準
を向上させることを目標
の訓練内容については、センターにおいても準
危険物火災に対する消防能力の認定とス
用していることから、ほぼ一致しており、共通
点も多く見受けられます。
テップアップ
消火ホース・ハンドリング・コマンド
消火ホースラインによる総合消火訓練
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石油コンビナート火災机上演習
大型石油プラント火災消火訓練
よって、自主基準として策定する新たな訓練
個人防護・除染・汚染拡大防止策等を体得す
コースについては、統一的な能力認定システム
るコースであることから、基本的に大きな訓
と、
「人命の安全(安全活動)⇒消火の基本(消
練施設は必要ないものの、有害性ガス及び危
防活動)⇒上級消火
(消防活動)
」
といったステッ
険性ガスの漏洩に対する初期対応として必要
プアップにより修得することが望まれます。
とされる、
「汚染拡大防止」や「危険範囲拡大
防止等」
の観点から、
ガスボンベやタンクロー
訓練を実施するために必要となる訓練施設
本検討の目的から、民間において技能基準と
リーなどの訓練施設が望まれる。
⑵
災害対応テクニシャン(
日間程度)
なる自主基準の策定にあたり、その訓練を実施
油貯蔵タンク等の危険物施設における火災
するために必要となる消防訓練施設について検
の基本的消火戦術を体得するコースであり、
討が不可欠であり、その施設については、危険
ホースラインチームによる消火が可能な訓練
物火災に対する消防能力にかかる技術レベルを
施設が望まれる。
体得し、維持できる施設であることが重要とな
ることから、次のような要望が出されました。
⑴
災害対応ベーシック(
日間程度)
自衛消防隊等の火災対応等に必要とされる
大型油貯蔵タンク火災訓練施設(イメージ)
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⑶
災害対応プロフェッショナル
(
日間程度)
災害対応ベーシック及び災害対応テクニ
シャンについては、ホースラインチームによ
る消火訓練を中心に実施するが、本コースに
可搬式泡放水砲(イメージ)
おいては、ホースラインチームに加えて、コ
となります。このため、今回の自主基準の策定
ンビナート事業所が保有する高所放水車、固
に際し、各レベルに応じて身に付けた知識・技
定・移動モニターノズルを駆使しての消火訓
能を維持・向上させるためには、定期的に訓練
練が可能となるような、大型油貯蔵タンク、
を受講することが望まれます。
大型石油プラントなどの訓練施設が望まれ
⑵
危険物火災に対する消防能力の認定の証に
ついて
る。
自主基準となる「災害対応ベーシック」
、「災
なお、臨海部における大規模災害発生時は、
陸上からの消火活動が困難な場合が想定さ
害対応テクニシャン」
、
「災害対応プロフェッ
れ、海上からの消火活動が非常に重要となっ
ショナル」の各コースを受講し、認定を受けた
てくる。このため、今後発生が予想される大
者については、その証として、ワッペン(出動
規模災害に備え、消防能力船においても、コ
服等に貼付する。
)又はシール(ヘルメット等に
ンビナート施設に対する消火訓練が必要であ
貼付する。
)を授与します。これは、次の効果を
る と 思 わ れ る。こ れ を 受 け 災 害 対 応 プ ロ
有し、もって、火災事故現場において、連携の
フェッショナルにおいて必要となる大型油貯
とれた効果的な消火活動が期待できると考えら
蔵タンク、大型石油プラントなどの訓練施設
れます。
①
については、消防能力船の消火訓練にも活用
当訓練コースを受講した者が、一定の能
力・技能を有することが認められ、個人の
できるものであることが望まれる。
モチベーションの向上に繋がる。
②
修得した技能の維持・向上を図るための方策
⑴
火災事故が発生した場合、外部から消火
活動に加わる公設消防隊及び共同防災組織
リフレッシュコースの設置について
等が、その者の能力・技能のレベルが一目
危険物火災に対する消防能力の向上ととも
で分かる。
に、その能力を維持するということは非常に重
要となります。そのため、今回、事業者におけ
る
検討結果
つの技能基準となる自主基準の策定ととも
本検討会では、今後発生が予想される石油コ
に、その能力を維持するための体制を検討する
ンビナート災害に対し、特定事業所や危険物等
必要があります。
日本においても、いろいろな法定資格や民間
を取り扱う施設(以下「石油コンビナート施設
資格などがあり、その中でも一定期間における
等」という。
)の自衛防災組織等が「単独」又は
再講習などが定められているものも見受けら
「協働」して迅速適確、かつ、円滑な消火活動を
れ、再講習においては、新たな知識・技能の付
実現できるように、消火活動に関する共通の知
与に限らず、現在の知識・技能を再確認するこ
識及び技術の醸成(以下「消防技能の標準化」
とにより能力の維持に努めるとともに、当該資
という。
)並びに海陸、官民連携の総合的な消防
格等に関する社会情勢や環境の変化について認
能力の向上を図るために技能基準となる自主基
識することなども、目的としているところです。
準を策定したうえで、この自主基準を具現化す
特に、技能については、一度訓練を受けただ
るための実際の危険物火災等を再現した消火活
けでその能力が永久に維持されるものではない
動等の教育訓練ができる消防訓練施設や設備等
ことから、本当の意味で消防能力の向上を図る
について、検討し、官民・海陸の関係者の協力
ためには、継続した訓練を実施することが重要
を得て策定したところです。
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Safety & Tomorrow No.165 (2016.1)
自治体等に対して理解を得るように努める
今後は、この検討結果の実現に向けて、消防
こと。
訓練施設の建造をはじめとして、次のような取
り組みを、民間事業者、一般財団法人海上災害
② 「各訓練コース」の実現のために必要な
防止センター及び国、地方自治体等に対して積
消防訓練施設の増設・改良工事、訓練に使
極的に推進することを望むものです。
用する高所放水車両等の整備について、資
⑴
金的支援者の獲得に努めること。
民間事業者の取り組み
③
本検討会で策定した「自主基準」及びそれに
検討結果の実施状況について、本検討会
基づき設定された「各訓練コース」は、あくま
の委員等に対して、適宜報告するように努
で危険物等を製造し、貯蔵し、運搬するなどし
めること。
て危険物等を取り扱っている事業者を対象とし
⑶
国、地方自治体の取り組み
て自主的に設定したものであって、この自主基
国や地方自治体に対し、このような民間事業
準に沿って開講される各種の教育訓練課程への
者等による自主的な取り組みについて、減災力
受講を強制・強要するものではありません。
強化のための方策として賛同して頂くととも
石油コンビナート施設等を設置する民間事業
に、石油コンビナート災害の現場における安全
者は、
「次なる災害」を想像したとき、近隣の自
で円滑な消火活動の実現に向けて、支援・協力
衛防災組織、共同防災組織や広域共同防災組織
を要望しています。
の全ての防災活動を行う者が、危険物火災等に
加えて、石油コンビナート災害の現場では、
対する知識・技能や消防戦術を共有していれば、
民間事業者の自衛防災組織・共同防災組織・広
有機的で効果的な消防活動を実施することが期
域共同防災組織が「共助」の混成チームとして、
待できます。
懸命の消火活動の展開が期待されるところであ
一般的な災害への段階的対応については、
「自
助」・
「共助」・「公助」の
つが重要であり、こ
るが、一方、
「公助」である地方自治体の公設消
防機関にあっても、官民一丸となっての「協働」
の「自助」、
「共助」及び「公助」を具体的に実
した消火活動を実現するため、可能な限り、本
行可能ならしめるためには、官民・海陸の垣根
検討会で策定した「自主基準」を具現化するた
を越えて、平時から統一された用語や共通の消
めの危険物火災等を再現した実火消防訓練施設
防戦術等を準備しておかなければなりません。
による教育訓練課程の活用が望まれます。
本検討会は、石油コンビナート施設等を設置
本検討会で策定した「自主基準」や「消防訓
する各民間事業者の関係者に、本検討会の検討
練施設」等については、民間による自主的な取
結果の意義をご理解いただき、事業規模や地域
り組みではあるものの、地方自治体等の公設消
特性等の違いがあるものの、各種の教育訓練課
防機関の積極的な参画により、
「自助」
「共助」
程の受講を積極的に推進して頂くことを望むも
及び「公助」の総合的な消防能力の底上げを図
のです。
り、引いては日本の消防能力の充実・強化につ
⑵
ながるものであると考えるところです。
一般財団法人海上災害防止センターの取り
また、本検討会で策定した「自主基準」に対
組み
本検討会では、センターに対し、次のような
取り組みが求められています。
①
策定した「自主基準」の重要性・必要性
について、事業者、関連団体、国及び地方
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応した実火消防訓練等を提供できる体制を整備
するための消防訓練施設の設置や高所放水車両
等の消防装備等の確保に関しても、国をはじめ
とする行政機関からの支援が望まれます。
⑷
れます。
まとめ
本検討会は、巨大地震の発生に伴った大規模
民間事業者のコンプライアンス、企業の社会
な石油コンビナート災害に備えた消防能力の向
的責任への意識の高揚と国民の防災、環境保全
上への取り組みとして、
「消防能力の段階別自
への関心の高まりが、本検討会の背景として存
主基準の策定」、「危険物火災等の実火災訓練に
在します。現実に起こっている危険物火災等の
関する内容」及び「必要となる消防訓練施設」
現場では、平時に抱いている漠然とした抽象的
の
で形式的な事故対応活動では、現場の安全の確
点について、官民・海陸の関係者が一体と
保や被害の最小化を果たすことは期待できませ
なって真摯に検討しました。
この検討を生かした新たな訓練コース等を、
ん。危険物が噴出し、漏洩し、実火災が発生す
消防活動に携わる関係者が、各自の実情に応じ
るリアルで、危険性や恐怖心を感じることので
て上手く活用していくことが恒常的に行われて
きる実火を使用する消防訓練施設において、整
いけば、民間事業者の自衛防災組織等の消防能
然として、具体的で実践的な事故対応活動を修
力の底上げが期待され、さらには、この「自主
得することが、
「自助」
「共助」
「公助」の別なく、
基準」の官民での共有によって、一層の官民の
消防能力を充実・強化し、もって、安心安全な
連携が図られれば、日本の危険物火災に対する
社会の実現への「一助」になるものと思慮しま
消防能力の充実・強化につながるものと考えら
す。
49
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