日弁連執行部の「基本方針」に対する意見

2016年1月26日
日弁連執行部の「基本方針」に対する意見
千 葉 県 弁 護 士 会
会
長
山
本
宏
行
当会は、日弁連執行部の取りまとめた「新しい段階を迎えた法曹養成制度改革に
全国の会員、弁護士会が力を合わせて取り組もう」(以下、「基本方針」という)
に対し、以下のとおり意見を述べる。
第1
1
意見の趣旨
1500名からの「更なる減員」、具体的には「1000名以下への減員」
を「基本方針」に加えるべきである。
2 「法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度」からの脱却を「基
本方針」とすべきである。
第2
1
意見の理由
「1000名以下への減員」を「基本方針」に加えるべきこと
(1)
推進会議の決定
政府の法曹養成制度改革推進会議は、本年6月30日「法曹養成制度改革
の更なる推進について」と題する決定(以下、決定という)を行い、司法試
験の年間合格者については、「1500人程度は輩出されるよう、必要な取
組を進め、更にはこれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社
会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、
活躍する状況になることを目指すべきである」とした。最低でも1500名
を確保すべき、とするのである。
(2)
日弁連執行部の「基本方針」
この決定を受けて、日弁連執行部は9月理事会に「新しい段階を迎えた法
曹養成制度改革に全国の会員、弁護士会が力を合わせて取り組もう」という
書面を「現時点における執行部としての取りまとめ案」として提示し、若干
の修正のうえ正副会長会で決定した前記書面(以下「基本方針」という)を、
11月理事会において提示した。
この「基本方針」は、「政府決定の到達点と課題を踏まえ、その積極的な
内容を速やかに現実化するための制度改革に取り組む」としたうえで、「政
府決定を踏まえた制度改革面の課題」の冒頭に「取り組むべき課題」として、
「1500名の早期実現」を掲げる。
(3)
2012年3月の日弁連「提言」との関係
ところで、日弁連は、2012年に2つの提言、すなわち2012年3月
- 1 -
15日付「法曹人口政策に関する提言」と同年7月13日付「法科大学院制
度の改善に関する具体的提言」の2つの提言を理事会決定している。では、
今回の「基本方針」との関係はどうか。この点につき、「基本方針」では、
「2つの提言はいっそう重みを増している。」とされ、11月理事会で会長
は、「2012年の2つの提言に示された日弁連の政策・方針を変更するも
のではな(い)」と説明する。
しかし、「基本方針」には、2012年3月の「提言」において示されて
いた「更なる減員」、すなわち「まず1500人にまで減員し、更なる減員
については法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要、問題点の改善状況を検
証しつつ対処していくべきである」との言及は、全く記載されていない。
この点につき、同理事会で会長は、この「基本方針」は、「1500名を
実現するためのもので、それまでの基本方針である」、1500名というの
は「実現の可能性があるだけである…(推進会議)決定を実現するのは容易
ではな(い)」等と説明している。要するに、「基本方針」は、1500名
より更なる減員は目指してはいないのである。
(4)
法曹志望者減少の理由
法曹志望者激減の主たる理由は、激増政策による司法修習生の就職難や弁
護士の収入減などを背景として、法曹の魅力や資格としての価値が薄れてお
り、加えて、法曹養成制度の中核とされた法科大学院進学による経済的・時
間的負担等がこれに見合わなくなっていることが根本的な問題である。これ
らを解決することなくして法曹志望者数の回復はありえないのであり、その
ためには、大幅な減員こそ必要である。
法曹志望者から優秀な人材が逃げている現状があり、文科省構想や推進会
議決定の数合わせ的論理からは、これを是正することはできない。合格率が
7、8割になれば優秀な人材が戻ってくるわけではないのである。
(5)
「1000名以下への減員」の必要性
当会は、2011年2月10日の総会において、「司法試験合格者を10
00人以下に減員すること等を求める決議」を行っている。そして、推進会
議決定に対して、2015年8月25日付「『法曹養成制度改革の更なる推
進について』に対する意見書」において、司法試験合格者数を「当面150
0人程度は輩出」することに反対した。
法曹志望者の激減の主たる原因である司法試験合格者の供給過剰状態を解
消するためには、合格者数の上限を定めるべきであるところ、下限目標を設
定するというのは常識的には考えられないところである。
「法曹離れ」を食い止め、法曹養成制度を立て直すには、司法試験合格後
の不安を除去し、安心して法曹を目指せる環境整備が何より必要である。
「合
格者数1500人以上の確保」を目指すとする推進会議決定では、若者の法
曹離れに終止符を打つことは全く期待できず、「直ちに1000人以下」と
の目標を明確に打ち出すべきである。「1000名以下への減員」を「基本
方針」に組み込み、そのための「課題」と「取組」を明記すべきである。
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2
「法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度」からの脱却を
(1)
法科大学院制度の深刻な現状
「法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度」の現状の問題
点は、前述したような法曹志望者の減少にとどまらず、①未修者の合格の困
難性や②社会人経験者の減少があり、さらに、③高額な授業料などから経済
的に裕福な家庭の子弟でないと受験できない、あるいは多額の借財をかかえ
るという問題があり、人材の多様性を喪失しつつある。
また、これまで、既に1万5000人程度の法科大学院修了生が司法試験
に合格し、実務に就いているはずであるが、法科大学院教育によって質が底
上げされ、旧制度と比較して優れた人材が多く輩出されているとの評価が固
まっているとは言えず、むしろ新人法曹の一部に能力の不足が見られるとい
うのが法曹三者共通の問題意識となっている。
(2)
法科大学院修了を受験資格とすることの見直しが必要
当会は、平成25年2月8日の総会において、「「法科大学院を中核とす
る法曹養成制度」の見直しを求める決議」を行い、法科大学院修了を司法試
験の受験資格とすることなどを定めた司法試験法第4条の撤廃を求めた。当
会は、この決議の中で、経済的、時間的、地理的障壁等、法科大学院を中核
とする法曹養成制度は構造的欠陥を有するもので、法曹志望者の増加、多様
かつ優秀な人材の確保という観点からは有害であると明言した上で、法科大
学院の修了を司法試験受験資格とせず、司法修習を2年としてこれを法曹養
成の中核と位置付ける抜本的改革が必要であると訴えた。
(3)
推進会議決定への追随でよいのか
法曹養成において最も必要なのは適正な質、量の法曹の安定的確保であり、
「法科大学院を中核とする法曹養成制度」がこれを実現できないことは既に
実証されている。法曹養成の手段に過ぎない法科大学院制度の維持を至上目
的とするかのような推進会議決定は本末転倒である。
ところが、「基本方針」は、推進会議決定に追随し、法科大学院の定員削
減等と合格者数1500名程度の確保により合格率を上昇させて司法試験の
合格を容易にし、他方で弁護士の職業的魅力の低下の真の原因の解消を図る
ことなく、弁護士の職業的魅力を宣伝するなどして、法科大学院入学の勧誘
活動等を行い、法曹志望者数を回復しようとするものである。
このような方策は、弁護士過剰の更なる拡大をもたらすものであり、到底
賛成できない。
(4)
法科大学院至上主義からの脱却こそ急務
今求められているのは、法科大学院のためではなく国民のための法曹養成
制度の再構築であり、「法科大学院を中核としたプロセスとしての法曹養成
制度」からの脱却こそが「基本方針」とされなければならない。
以上
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