ファンドニュース 信用リスクに係る標準的手法の見直しに関する第二次市中協議について 2016 年 1 月 背景 バーゼル銀行監督委員会(BCBS)は、2014 年 12 月に「信用リスクに係る標準的手法の見直し」に関する第一次市中 協議文書を公表しました。当該協議文書は標準的手法を対象としており、その背景としては、外部格付への過度な依拠 を緩和するとともに、内部格付手法と標準的手法による計算結果のばらつきを抑制し、銀行間の比較可能性を向上させ るという BCBS の意図があります。 しかしながら、第一次市中協議文書の内容は、これまでの方法をあまりに大幅に変更する内容であったために、利害 関係者から多くのコメントが寄せられ、その結果、2015 年 12 月に第一次市中協議文書の内容を大きく見直す第二次市 中協議文書(以下「本提案」)が公表されました。 本提案に対するコメントは 2016 年 3 月 11 日まで受け付けられており、2016 年中を目処に規則文書の最終化が行わ れる見込みですが、具体的な適用時期は現状未定です。ただし、将来的に国内に適用された場合、標準的手法を採用 する多くの地域金融機関、信用金庫・信用組合などへの影響があるものと考えられます。同時に、標準的手法を採用す る機関投資家が投資するファンドについてリスクアセットに関する情報を提供している、本邦の資産運用会社にも影響を 及ぼすと考えられるため、当該見直しの概要および資産運用会社への潜在的な影響について簡潔に解説いたします。 (今回の見直しは、アメリカなどの法令により外部格付の利用が認められない法域と外部格付の利用が認められる法 域の二通りの信用リスク算出について公表されておりますが、外部格付の利用が求められる法域の信用リスク算出に ついてのみ解説します。より詳細な説明は、2015 年 12 月にバーゼル銀行監督委員会より公表された表題の市中協 議文書(原題:Revisions to the Standardised Approach for credit risk)をご覧ください) 見直しの概要 第一次市中協議文書案においては、外部格付の参照を全て排除し、新たな指標に基づくリスクウェイトの決定が求め られていましたが、本提案においては、外部格付に基づくリスクウェイトの決定を再度認めることとしました。ただし、外部 格付の機械的な利用を回避するため、外部格付の適切性・保守性の検証が求められています(後述)。アセット種類ごと の、現行標準的手法、第一次市中協議文書案および本提案によるリスクウェイトの考え方は以下のとおりです。 アセットの種類 銀行向け債権 日本における現行の 標準的手法 設立地のソブリンの外部格 付を参照し、20%-150%のリス クウェイトを適用 BCBS 第一次市中協議文書案 銀行の自己資本比率、銀行の 資産の質(不良資産比率)に 基づき、30%-300%のリスクウェ イトを適用。 BCBS 第二次市中協議文書案 (本提案) 政府支援を勘案しない外部格 付に応じて 20%~150%のリスク ウェイトを適用。 無格付先は、自己資本比率に 応じて 50%~150&のリスクウェ イトを適用。 期間 3 ヶ月未満の短期債権に ついては、一部格付において 上記リスクウェイトを軽減。 法人向け通常 債権 法人向け特定 債権 居住用不動産 貸出先の法人の外部格付を 参照し、20%-150%のリスク ウェイトを適用あるいは金融 庁への届け出を前提に一律 100%のリスクウェイトを適用 することも可能 法人の売上高*および負債比 率に基づき、60%-300%のリスク ウェイトを適用。(*原文は [revenue]のため営業利益な ど、ほかの指標で読み替えら れる可能性あり) 外部格付に応じて 20%~150% のリスクウェイトを適用。 上記法人向け通常債権で計 算したリスクウェイトと、特定債 権としてのリスクウェイト(開発 型 150%、そのほか 120%)のど ちらか高いリスクウェイトを適 用。 外部格付に応じて 20%~150% のリスクウェイトを適用。 抵当権付住宅ローンの場合 資産の完成、担保の有効性、 は 35%のリスクウェイトの適用 担保価値の妥当性が満たされ (居住または賃貸されてお た場合には、ローンに対する り、かつ LTV<100%の場合) 担保価値(LTV: Loan to Value)と借手の支払能力 (DSC: Debt Service Coverage))に基づき、25%100%のリスクウェイトを適用。 上記条件が満たされない場合 は、債務者(法人やリテール) への通常債権に適用されるリ スクウェイト(60%-300%)を適用。 無格付先は、中小企業が 85%、それ以外は 100%のリスク ウェイトを適用。 無格付先は、オブジェクトファイ ナンスおよびコモディティファイ ナンスは 120%、プロジェクトファ イナンスは完工前 150%、完工 後 100%のリスクウェイトを適用。 ローンに対する担保価値 (LTV)100%以下の場合には、 LTV に応じて 25%~55%のリス クウェイトを適用。LTV100%超 の場合は、債務者のリスクウェ イトを適用。 返済原資が賃貸収入に依拠す る場合、LTV に応じて 70%~ 120%のリスクウェイトを適用。 アセットの種類 商業用不動産 日本における現行の 標準的手法 不動産取得事業向けエクス ポージャーの場合は原則 100%のリスクウェイトの適用 BCBS 第一次市中協議文書案 BCBS 第二次市中協議文書案 (本提案) 資産の完成、担保の有効性、 担保価値の妥当性が満たされ た場合には、ローンに対する 担保価値(LTV)に基づき、 75%-120%のリスクウェイトを適 用。 ローンに対する担保価値 (LTV)が 60%以下の場合に は、60%ないしは債務者のリスク ウェイトを適用。LTV60%超の場 合には、債務者のリスクウェイト を適用。 上記条件が満たされない場合 返済原資が賃貸収入に依拠す は、債務者(法人やリテール) る場合、LTV に応じて 80%~ への通常債権に適用されるリ 130%のリスクウェイトを適用。 スクウェイト(60%-300%)を適用。 株式および 劣後債 一律 100%のリスクウェイトの 適用 上場会社の株式は 300%のリス クウェイトを適用、それ以外の 会社の株式は 400%のリスク ウェイトの適用。劣後債は 250%。 上場/非上場に関わらず一律 250%、劣後債は 150%のリスク ウェイトを適用。 中小企業・ 個人 エクスポージャーの額が 1 億円以下などの基準を満 たす中小企業・個人に対し て 75%のリスクウェイトを適用 リスクウェイト 75%が適用可能 リスクウェイト 85%が適用可能な な中小企業の定義を明確化。 中小企業の定義を明確化。リ 担保、DSC、満期、債務者と銀 テールについては、一定の要 行の取引関係に応じたリスク 件を充足するものは 75%、その ウェイトを分類することを検討 ほかは 100%のリスクウェイトを 中。 適用。 オフ・バランス 取引 無条件で取消し可能なコ ミットメントは 0%のリスク ウェイト適用 原契約期間 1 年以下の コミットメントは 20%、1 年 超のコミットメントは 50%の リスクウェイト適用 無条件で取消し可能なコミット メントは 10%のリスクウェイト適 用 無条件で取消し可能なコミット メントは 10%~20%のリスクウェイ ト適用(リテールのみ) 原契約期間にかかわらず無条 件で取消し可能でないコミット メントは 75%のリスクウェイトを 適用 原契約期間にかかわらず無条 件で取消し可能でないコミットメ ントおよび法人向けの無条件 で取消し可能なコミットメントは 50%~75%のリスクウェイトを適 用 資産運用会社に与える影響 現在の標準的手法から本提案による方法に変更された場合、資産運用会社に与える影響は下記のとおりだと考えら れます。 投資家の投資行動の変化 同じ資産であっても適用されるリスクウェイトが変更されるため、投資対象ファンドから生じるリスクアセット額が見直 し前と比較して大幅に変わる可能性があり、投資家の投資行動に少なからず影響を与えるものと考えられます。資 産運用会社は、投資家のニーズに合わせたファンドの組成、投資対象の選別・組替を行う必要が生じる可能性があ ります(ただし、上記のとおり第一次市中協議文書案の内容と比較して、本提案において要求されるリスクウェイトは 概して緩和されており、その意味では現行標準的手法と比較した場合の影響は相対的に小さくなっています)。 投資家向け報告作業の増加 本提案において、現行標準的手法と同じく外部格付によるリスクウェイト算出が再度認められたものの、外部格付 の 機 械 的 な 利 用 を 回 避 す る た め 、 外 部 格 付 の 適 切 性 ・ 保 守 性 の 検 証 が 求 め ら れ て い ま す ( Due diligence requirements)。投資家である銀行は、取引開始時点およびその後は定期的(少なくても年次)に、投資先(与信先) のリスク・プロファイルおよび属性を十分に理解することが求められています。銀行は、自己査定や外部委託先によ る評価・分析を通じて、投資先(与信先)の業務および財務評価を適切に実施することになります。当該評価の結果 が、外部格付が示すリスクウェイトよりも高い場合には、外部格付により算出されたリスクウェイトを補正する必要があ ります。実務上、かかるプロセスの一端を運用会社が担うことが期待された場合には、現状よりも投資家向け報告の ために必要な関連情報の入手に時間とコストを要することが予想されます。 おわりに 今回の見直し内容は、あくまで BCBS の市中協議文書上の話であり、今後市中より受けたコメントに基づき大きく修正 される可能性があること、またグローバルで合意された後に日本の規制当局である金融庁が最終的にどのように本邦の 規制として導入するかによって影響が大きく変わるものとなるため、今後の動向を注視する必要があります。 なお、内容にご質問などございましたら、以下のお問い合わせフォームからご連絡いただければと思います。 文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることを申し添えます。 PwCあらた監査法人 第3金融部(資産運用) パートナー 山 口 健 志 マネ ージャー 前 田 宏 童 PwCあらた監査法人 第3金融部(資産運用) お問い合わせフォーム 本冊子は概略的な内容を紹介する目的で作成されたもので、プロフェッショナルとしてのアドバイスは含まれていません。個別にプロフェッショナル からのアドバイスを受けることなく、本冊子の情報を基に判断し行動されないようお願いします。本冊子に含まれる情報は正確性または完全性を、 (明示的にも暗示的にも)表明あるいは保証するものではありません。また、本冊子に含まれる情報に基づき、意思決定し何らかの行動を起こされ たり、起こされなかったことによって発生した結果について、PwCあらた監査法人、およびメンバーファーム、職員、代理人は、法律によって認められ る範囲においていかなる賠償責任、責任、義務も負いません。 © 2016 PricewaterhouseCoopers Aarata. 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