平 成 28 年 1 月 26 日 日本政策金融公庫 総 合 研 究 所 訪問・通所介護事業者の経営実態 ~「訪問・通所介護事業に関するアンケート」から~ Ⅰ 調査目的 Ⅱ 実施要領 Ⅲ 調査結果 1 提供している介護サービスの種類 2 企業の属性 3 代表者の属性 4 経営状況 5 介護報酬改定の影響 6 介護職員・登録ヘルパーの充足状況 7 人材の定着率を向上させる施策 8 今後の方針 9 まとめ <問い合わせ先> 日本政策金融公庫総合研究所 小企業研究第一グループ ℡ 03-3270-1687 担当 竹内、山田 Ⅰ 調査目的 日本では人口の少子高齢化が急速に進んでいるため、介護サービスの需要は増加の一途をたどっている。介護保険制度が成立して以 後、介護サービスを供給する企業も急増してきた。しかし、2015年4月の介護報酬改定で基本報酬が引き下げられたり、人手不足が続 いていたりと、介護事業者を取り巻く経営環境は厳しく、将来は介護サービスの供給が大きく不足することが懸念される。 そこで、事業所数が多い訪問・通所介護サービスを提供する企業を対象に売上高や採算など経営の実態を明らかにするとともに、人 材確保の方策や今後の経営方針を探るため、「訪問・通所介護事業に関するアンケート」を実施した。 Ⅱ アンケートの実施要領 1 調査時点 平成27年10月 2 調査対象 訪問介護または通所介護を行っている法人12,333社 内訳:日本政策金融公庫国民生活事業の融資先から抽出した企業が4,792社 ㈱東京商工リサーチの企業データベースから抽出した企業が7,541社 3 調査方法 調査票の送付・回収ともに郵送による。調査票は無記名。 4 回収数 2,886社(回収率23.4%) (参考)介護サービスの種類別提供事業所数(上位10種) 50,000 41,660 40,000 38,837 33,911 30,000 20,000 12,497 10,251 10,000 8,018 7,961 7,903 7,284 7,249 特 定 福 祉 用 具 販 売 福 祉 用 具 貸 与 訪 問 看 護 通 所 リ ハ ビ リ 介 護 老 人 福 祉 施 設 0 通 所 介 護 居 宅 介 護 支 援 訪 問 介 護 共認 同知 生症 活対 介応 護型 短 期 入 所 生 活 介 護 (資料) 厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」(2014年) (注) 複数のサービスを提供している事業所は、それぞれに計上している。 1 (参考)2015年度の介護報酬改定における訪問・通所介護の基本報酬の増減率(抜粋) 1 訪問介護費 (1)身体介護が中心である場合 ・所要時間が20分未満の場合 ・所要時間が20分以上30分未満の場合 ・所要時間が30分以上1時間未満の場合 ▲3.5% ▲3.9% ▲4.0% (2)生活援助が中心である場合 ・所要時間が20分以上45分未満の場合 ・所要時間が45分以上の場合 ▲4.2% ▲4.7% (3)予防訪問介護 ▲4.7~▲4.8% 2 通所介護費 (1)小規模型(前年度の1カ月当たり平均延べ利用者数が300人以内) ・所要時間3時間以上5時間未満の場合 ・所要時間5時間以上7時間未満の場合 ・所要時間7時間以上9時間未満の場合 ▲7.6~▲8.4%(要介護度によって異なる) ▲8.4~▲9.1%(同上) ▲8.8~▲9.9%(同上) (2)大規模型Ⅰ(前年度の1カ月当たり平均延べ利用者数が750人超900人以内) ・所要時間3時間以上5時間未満の場合 ・所要時間5時間以上7時間未満の場合 ・所要時間7時間以上9時間未満の場合 ▲4.3~▲5.8%(要介護度によって異なる) ▲4.5~▲5.7%(同上) ▲4.4~▲5.6%(同上) (3)予防通所介護 ・要支援1 ・要支援2 ▲22.1% ▲20.3% 2 Ⅲ 調査結果 1 提供している介護サービスの種類~訪問・通所介護以外の介護サービスも提供している企業が6割~ 〇 アンケート回答企業について、提供している介護サービス(介護保険対象のもの)をみると、「訪問介護のみ」が12.3%、「通所介護のみ」が25.3%、「訪 問介護と通所介護のみ」が4.3%となっている(図-1)。一方、「訪問介護と通所介護とその他」の21.3%など、訪問・通所介護以外の介護サービスを提 供している企業が58.1%ある。 〇 訪問・通所介護以外に提供している介護サービスをみると、「居宅介護支援(ケアマネジャー)」が最も多い(表-1)。提供している介護サービスの種類 別では、「訪問介護とその他」では「福祉用具貸与・販売」と「訪問看護」が多くなっているが、「通所介護とその他」「訪問介護と通所介護とその他」では 「短期入所生活介護(ショートステイ)」と「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」が多くなっている。 表-1 訪問・通所介護以外に提供している介護サービス 図-1 提供している介護サービスの種類 (%) (n=2,886) 30 訪問介護とその他 25.3 25 20 15 (n=475) 21.3 20.3 通所介護とその他 16.5 (n=586) 訪問介護と通所介護と その他 (n=614) 12.3 10 4.3 5 居宅介護支援 90.5% 居宅介護支援 78.5% 居宅介護支援 92.8% (注)1 複数回答 2 それぞれ上位3項目を抜粋した。 0 訪 問 介 護 の み 訪 問 介 護 と そ の 他 通 所 介 護 の み 通 所 介 護 と そ の 他 訪 問 介 護 と 通 所 介 護 の み 訪 問 介 護 そと の通 他 所 介 護 と (注)1 訪問介護、通所介護には、それぞれ予防訪問介護、予防通所介護を含む。 2 「その他」は、居宅介護支援、介護老人福祉施設などで訪問・通所介護を含まない。 3 福祉用具 貸与・販売 10.5% 短期入所 生活介護 29.7% 短期入所 生活介護 26.1% 訪問看護 9.5% 介護老人 福祉施設 22.9% 介護老人 福祉施設 19.5% 2 企業の属性①-法人格、業歴~訪問介護のみ・通所介護のみの企業では会社が9割~ 〇 アンケート回答企業の法人格をみると、全体では株式会社や合同会社など「会社」が73.1%と最も多く、以下「社会福祉法人」の15.7%、NPO法人の7.2 %が続いている(図-2)。提供している介護サービスの種類別にみると、どの類型でも「会社」が最も多いが、「通所介護とその他」と「訪問介護と通所介 護とその他」では「会社」の割合が50%台と低く、代わりに「社会福祉法人」の割合が30%台と多くなっている。 〇 介護事業を始めた年をみると、介護保険制度が2000年に始まったこともあり、2000年以後に開始した企業が9割弱を占めている(図-3)。とくに 「訪問 介護のみ」と「通所介護のみ」では、「2010年以降」に開始した企業の割合が多く、それぞれ53.1%、66.3%となっている。逆に、「訪問介護と通所介護 とその他」の企業では「2010年以後」の割合が12.1%と少なく、「1999年以前」の割合が25.1%と多い。 図-2 法人格 図-3 介護事業を始めた年 (単位:%) NPO法人 会 社 全 体 (n=2,886) 73.1 7.2 4.0 91.6 訪問介護と その他 (n=475) 8.2 7.4 2.5 87.6 56.0 訪問介護のみ 3.6 16.0 (n=337) 2.5 5.1 80.2 通所介護のみ (n=731) 訪問介護と通所介護と その他(n=614) 15.7 0.8 訪問介護のみ (n=356) 通所介護と その他 (n=586) 訪問介護と 通所介護のみ (n-124) その他 社会福祉法人 訪問介護と その他 (n=461) 4.2 2.6 通所介護のみ (n=701) 7.3 31.4 6.5 6.1 53.6 4.8 9.7 33.1 8.6 4.7 8.9 訪問介護と通所介護と その他(n=597) (注) 「会社」とは、株式会社、有限会社、合資会社、合名会社、合同会社。 「その他」は医療 法人や一般社団法人など。 27.3 2010年以後 38.8 53.1 31.9 27.8 31.5 2.4 8.7 通所介護と その他 17.2 (n=553) 訪問介護と 通所介護のみ 4.4 20.2 (n-114) 0.8 84.7 (単位:%) 1999年以前 2000~2004年 2005~2009年 全 体 11.6 24.4 25.2 (n=2,763) 25.1 22.5 66.3 27.3 25.7 34.2 39.9 29.8 41.2 22.9 12.1 (注)社会福祉法人の48.1%が1999年以前に介護事業を始めているのに対し、会社は97.3%が 2000年以後に参入している。 4 2 企業の属性②-従業者数~訪問・通所介護だけを行っている企業は50人以上の層が少ない~ 〇 登録ヘルパーを除いた従業者数をみると、「10~19人」が27.1%で最も多く、これに「20~49人」の22.5%が続いている(図-4)。提供している介護サ ービスの種類別にみると、「訪問介護のみ」では「4人以下」の割合が34.7%と多く、逆に「50人以上」の割合が0.9%と少ない。「通所介護のみ」の企業 や「訪問介護と通所介護のみ」の企業も、「50人以上」の割合はそれぞれ2.5%、8.3%と少ない。 〇 従業者数に登録ヘルパーを含めても、「4人以下」の割合がいくらか減るものの、全体の分布はあまり変わらない(図-5)。提供している介護サービス の種類別にみても、「訪問介護のみ」「訪問介護とその他」で「4人以下」の割合がそれぞれ4.0%、2.1%と少ないことを除けば、従業者数の分布に大 きな差はない。 図-5 従業者規模(登録ヘルパーを含む) 図-4 従業者規模(登録ヘルパーを除く) 4人以下 全 体 (n=2,805) 5~9人 9.1 10~19人 21.9 (単位:%) 20~49人 27.1 50人以上 22.5 4人以下 5~9人 全 体 3.3 16.0 (n=2,805) 19.5 10~19人 20~49人 28.2 28.7 (単位:%) 50人以上 23.9 0.9 訪問介護のみ (n=349) 訪問介護と その他 (n=466) 通所介護のみ (n=719) 34.7 11.8 35.2 30.5 21.2 26.0 訪問介護のみ 4.0 (n=349) 8.0 20.6 訪問介護と 2.1 その他 10.1 (n=466) 11.2 23.8 41.5 26.4 29.8 4.3 39.9 18.0 2.5 2.5 6.1 通所介護と その他 3.2 7.6 (n=564) 訪問介護と 通所介護のみ 2.5 16.5 (n=121) 訪問介護と通所介護と 2.2 3.8 14.7 その他(n=586) 36.9 38.7 28.0 15.9 28.0 34.7 32.3 通所介護のみ (n=719) 通所介護と 3.2 その他 7.6 (n=564) 33.2 38.0 6.1 訪問介護と 通所介護のみ (n=121) 8.3 10.7 訪問介護と通所介護と 1.9 8.2 その他(n=586) 1.2 47.1 (注) 1 従業者数は、代表者、有給役員、フルタイム・パートタイムの社員・職員の合計。 2 社会福祉法人では、「50人以上」の割合が68.6%を占める。 36.9 28.0 24.0 31.7 38.7 15.9 28.0 33.2 46.3 19.0 57.0 (注) 従業者数は、代表者、有給役員、フルタイム・パートタイムの社員・職員、登録ヘルパーの 合計。 5 3 代表者の属性~小規模な企業ほど、若い経営者と女性の経営者が多い~ 〇 代表者の年齢をみると、「60~69歳」が31.2%で最も多く、次が「50~59」歳の25.5%となっている(図-6)。従業者規模別にみると、規模が大きい企業 で「70歳以上」の割合が多く、逆に規模が小さな企業では「39歳以下」の割合が多くなっている。 〇 代表者の性別は、全体では「男性」が69.1%を占めているが、従業者規模別にみると、小規模な企業ほど女性の割合が多くなっており、「4人以下」の 企業では女性が43.3%を占めている(図-7)。 図-6 代表者の年齢 39歳以下 全 体 (n=2,846) 9.6 4人以下 (n=252) 9.9 5~9人 (n=610) 40~49歳 20.0 14.6 10~19人 (n=758) 10.7 20~49人 (n=630) 8.1 50人以上 4.4 10.9 (n=542) 50~59歳 60~69歳 70歳以上 25.5 31.2 13.7 21.8 29.0 25.1 17.3 29.8 28.2 24.5 21.0 29.4 全 体 (n=2,863) 4人以下 (n=254) 5~9人 (n=615) 7.0 10~19人 (n=759) 9.9 35.7 36.2 男 性 9.5 25.1 25.5 25.1 図-7 代表者の性別 (単位:%) 20~49人 (n=629) 13.8 50人以上 (n=545) 27.5 (注) 従業者に登録ヘルパーは含まない。 (注) 図-6に同じ。 6 69.1 (単位:%) 女 性 30.9 56.7 43.3 61.3 38.7 67.1 32.9 70.6 29.4 84.4 15.6 4 経営状況①-訪問・通所介護の1カ月当たり売上高~訪問介護よりも通所介護の方が企業間のばらつきが大きい~ 〇 訪問介護について、1カ月当たりの売上高をみると、「100万円未満」が21.3%、「100万~200万円」未満が26.8%と、200万円未満の企業が48.1%を占 めている(図-8)。従業者規模別にみると、小規模な企業ほど売上高の少ないものが多くなっている。 〇 通所介護について、1カ月当たりの売上高をみると、「600万円以上」の企業が22.2%ある一方で、「200万円未満」の企業が26.8%あり、訪問介護よりも ばらつきが大きい(図-9)。従業者規模別にみると、「50人以上」の企業では「600万円以上」の企業が47.7%を占めているが、「4人以下」や「5~9人」 の企業では「200万円未満」が過半を占めている。規模間の差が訪問介護より大きいのは、通所介護では利用者数が大きい事業所ほど基本報酬が高く 設定されていることが主因である。 図-9 通所介護の1カ月当たり売上高 図-8 訪問介護の1カ月当たり売上高 (単位:%) (単位:%) 100万円未満 全 体 (n=1,193) 100万~200万円 21.3 4人以下 (n=130) 200万~400万円 26.8 28.3 37.7 5~9人 (n=236) 10~19人 (n=260) 30.5 21.5 20~49人 (n=281) 14.6 50人以上 (n=265) 15.8 22.1 24.9 15.4 31.4 24.6 27.2 26.8 4人以下 (n=57) 6.9 20~49人 (n=406) 34.5 50人以上 (n=384) 32.1 (注) 図-6に同じ。 22.2 22.8 5.3 14.0 3.0 30.5 27.2 14.5 7.6 (注) 図-6に同じ。 7 17.3 65.4 10~19人 (n=445) 22.3 33.8 57.9 5~9人 (n=269) 11.4 31.5 28.8 200万円未満 全 体 (n=1,593) 23.6 40.0 26.7 400万円以上 400万~600万円 600万円以上 200万~400万円 52.4 29.3 21.9 13.5 27.8 22.9 28.3 47.7 1.1 7.0 4 経営状況②-訪問・通所介護の採算~4人以下の企業では赤字企業が過半を占める~ 〇 訪問介護の採算をみると、「黒字」企業の割合が52.4%、「赤字」企業の割合が47.6%となっている(図-10)。従業者規模別にみても、この比率はほと んど変わらないが、「4人以下」の企業だけは「赤字」の企業が56.9%と過半を占めている。 〇 通所介護の採算をみると、「黒字」の企業が57.3%と、訪問介護よりも多い(図-11)。しかし、従業者規模別に「黒字」企業の割合をみると、「4人以下」 が47.2%、「5~9人」が49.1%と、50%を下回っている。逆に、「50人以上」では「黒字」の企業が67.2%を占めており、売上高と同様に規模間の差が大 きい。 図-10 訪問介護の採算 図-11 通所介護の採算 (単位:%) (単位:%) 黒 字 全 体 (n=1,455) 4人以下 (n=130) 52.4 43.1 赤 字 全 体 (n=1,913) 47.6 56.9 57.3 42.7 47.2 52.8 49.1 50.9 54.1 45.9 5~9人 (n=320) 10~19人 (n=308) 54.5 45.5 10~19人 (n=534) 20~49人 (n=338) 52.7 47.3 20~49人 (n=473) 50人以上 (n=320) 52.2 47.8 50人以上 (n=464) (注) 図-6に同じ。 8 赤 字 4人以下 (n=72) 5~9人 (n=279) (注) 図-6に同じ。 黒 字 51.7 48.3 59.8 67.2 40.2 32.8 5 介護報酬改定の影響①-報酬の増減~2015年4月の改定により6割の企業が介護報酬減~ 〇 2015年4月の介護報酬改定は全体で2.27%の引き下げとなった。改定前後で介護報酬の増減状況をみると、「増えた」とする企業の割合は8.8%にと どまり、「減った」とする企業の割合が57.6%と過半を占めた(図-12)。とくに、引き下げ幅が大きかった通所介護を営んでいる企業で、「減った」とする 企業の割合が多くなっている。 〇 介護報酬が増えた企業について増加の割合をみると、「5%未満」の企業が36.5%を占めるものの、「15%以上」の企業も25.7%を占めている(図-13)。 一方、介護報酬が減った企業について減少割合をみると、「5%未満」の企業が37.7%で最も多いが、「15%以上」減少した企業も16.7%ある(図-14)。 図-13 介護報酬の増加割合 図-12 介護報酬の増減 (単位:%) 全 体 (n=2,753) 訪問介護のみ (n=338) 増えた 変わらない 減った 8.8 33.6 57.6 10.4 訪問介護と その他 (n=453) 9.7 通所介護のみ (n=709) 8.0 43.2 26.7 全 体 (n=226) 46.4 41.3 (単位:%) 49.0 5%未満 5~10% 36.3 18.6 10~15% 19.5 15%以上 25.7 (注) 図-12で「増えた」と回答した企業について集計。 65.3 図-14 介護報酬の減少割合 (単位:%) 通所介護と その他 (n=555) 7.6 訪問介護と 通所介護のみ (n=118) 7.6 35.6 56.8 訪問介護と通所介護と その他(n=580) 9.5 31.9 58.6 31.5 60.9 5%未満 全 体 (n=1,519) 37.7 5~10% 10~15% 15%以上 21.9 23.7 16.7 (注) 図-12で「減った」と回答した企業について集計。 9 5 介護報酬改定の影響②-報酬増減の要因~小規模な企業ほど改定の影響が大きい~ 〇 介護報酬が改定前よりも増えた企業について、その理由をみると、「利用者の数が増加したから」が71.9%で最も多く、とくに増加幅が大きいほど回答し た企業の割合が多くなっている(図-15)。次に多い「介護職員待遇改善加算を新規に取得または増やせるように態勢を整えたから」は、増加幅が小さ い企業で多くなっている。 〇 介護報酬が改定前よりも減った企業について、従業者規模別に減少割合をみると、規模の大きな企業ほど「5%未満」の割合が多く、「15%以上」の割 合が少なくなっている(図-16)。 〇 規模の拡大に成功した企業や、もともと規模の大きな企業は、介護報酬引き下げの影響を軽微にとどめることができたが、規模の小さな企業では、小規 模な通所介護ほど引き下げ幅が大きく、また人員や資金の制約から各種の加算を取得したり、より報酬の高いサービスを開始したりすることが難しいた め、報酬改定の影響を緩和できなかった企業が多いと思われる。 図-15 介護報酬が増えた理由-介護報酬の増加割合別 図-16 従業者規模別にみた介護報酬の減少割合 (単位:%) 5%未満 71.9 4人以下 (n=119) 86.0 利用者の数が増加したから 5~10% 10~15% 78.0 75.6 34.5 18.5 15%以上 20.2 26.9 53.9 20.3 24.6 22.0 22.0 17.1 より重い要介護度の 利用者が増加したから 全 体 28.0 10~19人 (n=427) 27.2 21.5 26.7 23.8 15%以上 10~15% 13.9 26.3 店舗や施設を 増加・増床したから 5~9人 (n=311) 18.7 33.0 21.1 5~10% 14.6 12.2 7.9 5%未満 20~49人 (n=411) 38.6 26.8 22.4 12.1 46.8 35.1 34.1 介護職員処遇改善加算を 新規に取得または 増やせるように態勢を整えたから 51.2 (n=215) (%) 60.5 0 20 40 60 80 50人以上 (n=304) 100 (注) 上位4項目を抜粋。 (注) 図-6に同じ。 10 62.8 22.4 10.2 4.6 5 介護報酬改定の影響③-介護保険対象事業全体の採算~半数の企業で採算が悪化~ 〇 介護保険対象の事業全体について採算をみると、全体では「黒字」の企業が56.0%となっている(図-17)。従業者規模別にみると、小規模な企業ほど 「赤字」の割合が多くなっている。 〇 介護報酬の改定前と比べた採算の変化をみると、黒字幅が増加したなど「好転」した企業の割合は25.5%で、黒字から赤字になったなど「悪化」した企 業の割合が51.3%を占めている(図-18)。介護保険対象事業全体の採算が「黒字」の企業であっても、「悪化」した企業が68.6%を占めている一方、 「赤字」企業でも「好転」した企業が43.9%を占めており、介護報酬改定の影響は、企業間のばらつきが大きい。 図-17 介護保険対象事業全体の採算 図-18 介護保険対象事業全体でみた採算の変化 (単位:%) 全 体 (n=2,748) 4人以下 (n=236) 5~9人 (n=591) 10~19人 (n=738) 20~49人 (n=610) 50人以上 (n=523) 黒 字 赤 字 56.0 44.0 46.6 (単位:%) 不 変 悪 化 25.5 23.2 51.3 全 体 (n=2,748) 53.4 50.1 好 転 49.9 黒字企業 (n=1,540) 51.9 11.1 20.3 68.6 48.1 61.1 38.9 赤字企業 (n=1,208) 65.6 43.9 26.9 29.2 34.4 (注) 「好転」は、「黒字幅が増加した」「赤字から黒字になった」「赤字幅が減少した」、「悪化」 は「黒字幅が減少した」「黒字から赤字になった」「赤字幅が増加した」、「不変」は「黒字 のまま変わらない」「赤字のままかわらない」である。 11 (参考)介護保険外の介護サービス~3割弱の企業が保険外の介護サービスを提供 〇 配食、庭の手入れ、見守りなど、介護保険の対象となっていない高齢者の介護サービスを独自の事業として提供している企業は、全体の28.6%を占め る(参考図-1 )。ただし、訪問介護を営んでいない企業では、10%程度と少なく、訪問介護と合わせて提供している企業が多い。 〇 通所介護を行っている企業では、夜間に宿泊サービスを提供する「お泊まりデイサービス」を提供している企業の割合が13.6%ある(参考図-2)。なお、 宿泊料金の平均値は2,700円、最頻値は3,000円となっている。 〇 介護保険外のサービスによる1カ月当たりの売上高は、「訪問介護のみ」「通所介護のみ」「訪問介護と通所介護のみ」の企業の場合、平均値が128万 円、中央値が50万円となっている。なお、保険外の介護サービスを行っているからといって訪問・通所介護の採算がよいということはない。 参考図-2 「お泊まりデイサービス」を提供している企業 参考図-1 保険外の介護サービス事業を行っている企業 全 体 (n=2,630) 通所介護を 行っている企業全体 (n=1,980) 28.6 訪問介護のみ (n=321) 13.6 44.5 訪問介護と その他 (n=431) 通所介護のみ (n=703) 48.0 通所介護のみ (n=663) 通所介護と その他 (n=565) 12.4 通所介護と その他 (n=546) 訪問介護と 通所介護のみ (n=113) 10.3 訪問介護と通所介護と その他(n=556) 38.7 10 20 30 40 (%) 50 10.8 訪問介護と 通所介護のみ (n=119) 44.2 0 18.2 60 15.1 訪問介護と通所介護と その他(n=593) 10.6 (%) 0 (注) 介護保険外の介護サービスとは、配食、大掃除、ペットの世話、見守りなど、生活支援サー ビスをいう。ただし、「横出し」といって自治体が独自に介護保険の利用を認めることもある。 12 5 10 15 20 6 介護職員・登録ヘルパーの充足状況~人手が足りている企業では定着率が高い~ 〇 介護職員・登録ヘルパーの充足状況をみると、「足りている」とする企業の割合は41.5%で、半数に満たない(図-19)。「足りている」とする企業の割 合は訪問介護を行っていない企業で多くなっており、「通所介護のみ」と「通所介護と訪問介護以外」の企業では、それぞれ61.8%、57.7%が「足りて いる」としている。 〇 同業者と比べた介護職員・登録ヘルパーの定着率は、「高い」とする企業が51.8%を占めている(図-20)。介護職員・登録ヘルパーの充足状況別に みると、「足りている」とする企業では同業者よりも定着率が「高い」とする企業の割合が63.9%であるのに対し、「足りていない」とする企業では42.9%に とどまっている。逆に、定着率が「低い」といする企業の割合は「足りていない」企業が11.9%で、「足りている」企業の3.3%を上回っている。 図-19 介護職員・登録ヘルパーの充足状況 足りている 足りていない 41.5 58.5 全 体 (n=2,738) 訪問介護のみ (n=333) 訪問介護と その他 (n=455) 27.9 高 い 51.8 同じくらい 低 い 40.0 8.2 72.1 20.9 79.1 61.8 通所介護と その他 (n=556) 訪問介護と通所介護と その他(n=586) (単位:%) (単位:%) 全 体 (n=2,717) 通所介護のみ (n=689) 訪問介護と 通所介護のみ (n=119) 図-20 介護職員・登録ヘルパーの定着率 57.7 34.5 27.3 足りている (n=1,125) 38.2 63.9 32.8 3.3 42.3 65.5 足りていない (n=1,576) 42.9 72.7 (注)同業者との比較で聞いたものである。 13 45.2 11.9 7 人材の定着率を向上させる施策①~企業内のコミュニケーションを深める~ 〇 介護職員や登録ヘルパーの定着率を上げるには、企業内のコミュニケーションを深めることが重要である。 〇 たとえば、面談やアンケートなどにより、介護職員や登録ヘルパーの要望や悩み事を聞くようにしているかと定着率との関係をみると、「定期的に聞く機 会を設けている」企業や「気がつけば聞いている」とする企業では、定着率が「高い」とする企業の割合が5割を超えているのに対し、「あまり聞いていな い」とする企業での同割合は26.8%にとどまっている(図-21)。 〇 また、社員旅行や飲み会、サークル活動など職員の親睦を深める機会を設けているかと定着率との関係をみても、「定期的に設けている」とする企業で は定着率が「高い」とする企業が59.2%を占めるのに対し、「不定期に設けている」「設けていない」とする企業では5割に満たない(図-22)。 図-21 「職員の要望や悩みを聞いているか」と 介護職員・登録ヘルパーの定着率 図-22 「職員の親睦を深める機会を設けているか」と 介護職員・登録ヘルパーの定着率 (単位:%) 定期的に聞く機会を 設けている (n=954) 気がつけば 聞いている (n=639) 同じくらい 低 い 56.3 37.3 6.4 51.6 相談があれば 応じている (n=824) あまり聞いていない (n=41) 高 い 41.5 44.5 26.8 44.4 56.1 (単位:%) 定期的に設けている (n=1,212) 高 い 同じくらい 低い 59.2 35.5 5.4 6.9 不定期に設けている (n=1,201) 45.4 44.0 10.6 設けていない (n=293) 47.1 42.3 10.6 11.0 17.1 14 7 定着率を向上させる施策②~介護の質を高める~ 〇 コミュニケーションと並んで、介護の質を高めることにつながる取り組みも定着率の向上につながる。 〇 介護職員や登録ヘルパーのスキルアップを図るために外部のセミナーを受講させているかと定着率との関係をみると、定着率が「高い」とする企業の割 合は、「受講させている」企業では53.0%であるのに対し、「受講させていない」企業では45.8%となっている(図-23)。逆に、定着率が「低い」とする企 業の割合は「受講させていない」企業では12.2%であるのに対し、「受講させている」企業では7.5%と少ない。 〇 介護はチームで行うものであり、介護記録を担当者が共有することは介護の質を高めるために欠かせない。そこで、介護記録を共有できているかと定着 率との関係をみると、定着率が「高い」とする企業の割合は、「あまりできていない・できていない」とする企業では34.8%であるのに対し、「十分できてい る」企業では61.4%と2倍近くになっている。 図-24 「介護記録を共有できているか」と 介護職員・登録ヘルパーの定着率 図-23 「外部セミナーを受講させているか」と 介護職員・登録ヘルパーの定着率 (単位:%) 高 い 受講させている (n=2,279) 53.0 同じくらい 39.4 (単位:%) 低 い 高 い 十分できている (n=638) 7.5 61.4 おおむねできている (n=1,918) 受講させていない (n=417) 45.8 42.0 同じくらい 低 い 32.6 50.0 41.8 6.0 8.2 12.2 あまりできていない ・できていない (n=155) 15 34.8 47.7 17.5 8 今後の方針①-訪問・通所介護~3割が事業の拡大を検討~ 〇 訪問介護を行っている企業のうち、今後も訪問介護を「拡大したい」とする企業の割合は30.3%であるが、「縮小・撤退したい」とする企業も8.6%ある(図 -25)。また、訪問介護を行っていない企業では、訪問介護に「進出したい」とする割合が11.4%ある。 〇 同様に、通所介護を行っている企業のうち、今後も通所介護を「拡大したい」とする企業の割合は28.3%あるが、「縮小・撤退したい」とする企業も8.4% ある(図-26)。なお、通所介護を行っていない企業では、通所介護に「進出したい」とする企業の割合が14.1%ある。 〇 訪問・通所介護を拡大したいと考えている企業や新たに進出したいと考えている企業の方が多いとはいえ、9%弱の企業が縮小や撤退を考えていること は、介護サービスの供給を増やさなければならない現状を考えると不安材料といえる。 図-25 訪問介護の今後について 図-26 通所介護の今後について 30.3 訪問介護を 行っている企業 (n=1,296) 8.6 28.3 通所介護を 行っている企業 (n=1,694) 縮小・撤退したい 11.4 訪問介護を 行っていない企業 (n=1,101) 拡大したい 進出したい 8.4 縮小・撤退したい 14.1 通所介護を 行っていない企業 (n=703) 拡大したい 進出したい (%) 0 10 20 30 (%) 0 40 (注) 訪問介護が赤字の企業では、「拡大したい」の割合が26.8%、「縮小・撤退したい」の割合が 13.5%となっている。 16 10 20 30 40 (注) 通所介護が赤字の企業では、「拡大したい」の割合が26.6%、「縮小・撤退したい」の 割合が14.6%となっている。 8 今後の方針②-訪問・通所介護以外の介護事業への参入意向~4割の企業が他の介護サービスを検討~ 〇 訪問・通所介護以外の介護保険対象事業への参入意向をみると、「居宅介護支援」が25.0%で最も多く、以下「訪問看護」の9.9%、「小規模多機能型 居宅介護」の6.5%、「認知症対応型共同生活介護」の4.9%が続いている(図-27)。「とくにない」とする企業の割合が58.9%あるものの、提供するサー ビスを増やすことを考えている企業も少なくない。介護保険制度の下で売上高を増加させるには、こうした取り組みが有効であると考えられる。 〇 保険外の介護サービスを行っていない企業について、新規参入の意向をみると、「独自の事業として参入したい」が28.8%、「「横出し」の範囲内で参入 したい」が19.2%と、関心をもつ企業が48.0%を占めている(図-28)。ただし、「横出し」サービスは、自治体の裁量で介護保険を利用できるようにしたも のであることを考えると、保険外サービスへの参入について積極的な企業はそれほど多くない。 図-27 新規に進出したい介護保険対象の事業 (%) 図-28 介護保険外サービスへの参入意向 58.9 60 (単位:%) 50 40 30 独自の事業と して参入した い 28.8 25.0 20 9.9 10 6.5 4.9 取り組むつも りはない 52.0 3.4 0 居 宅 介 護 支 援 訪 問 看 護 居 宅 介 護 小 規 模 多 機 能 型 共 同 生 活 介 護 認 知 症 対 応 型 短 期 入 所 生 活 介 護 と く に な い 「横出し」の範 囲内で参入し たい 19.2 (n=1,614) (注)1 上位5項目を抜粋した。 2 「とくにない」を除き、それぞれの介護サービスを提供していない企業について集計した。 (注) 介護保険外の介護サービスを行っていない企業について集計した。 17 9 まとめ 〇 訪問介護、通所介護ともに全体では赤字の企業が4割強を占めている。赤字企業の割合は小規模な企業で多くなっており、訪問介 護では従業者数4人以下の企業で、通所介護では同9人以下の企業で、それぞれ赤字の割合が黒字の割合を上回っている。また、 通所介護の場合、規模間の差が大きく、黒字の割合は従業者数4人以下の企業では47.2%であるのに対し、同50人以上の企業では 67.2%もある。通所介護は、利用者数が多いほど基本報酬が高いことに加え、訪問介護より規模の経済が働きやすいことが要因と 考えられる。 〇 2015年4月の改定後、介護報酬が増加した企業は1割に満たず、減少した企業が6割弱を占めている。介護報酬の減少幅は規模が 小さな企業ほど大きく、15%以上減った企業の割合は従業者数50人以下の企業では4.6%に過ぎないのに対し、同4人以下の企業 では26.9%を占めている。規模の大きな企業では、各種の加算を取得したり、より報酬の高いサービスを始めたりするなどして報 酬改定の影響を緩和できたのに対し、小規模な企業では人員の確保や設備投資が難しいため、同様の対策をとりにくかったと考え られる。 〇 介護職員や登録ヘルパーが足りていないとする企業の割合は、全体では58.5%であるが、訪問介護を行っていない企業では足りて いるとする企業が過半を占めており、登録ヘルパーの不足が深刻である。人材の確保には定着率を高めることが重要であるが、そ のためには企業内のコミュニケーションを深めたり、介護の質を高めたりする仕組みをつくることが効果的と考えられる。 〇 訪問介護や通所介護について、縮小や撤退を考えている企業が9%弱ある。介護サービスの需要増に応えるには、新規参入だけで はなく、事業の拡大や多角化によって経営基盤の強化を図る企業を支援していくことが重要である。 18
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