ガウスの予備定理について 風あざみ 2016/01/30 目次 1 証明の準備編 2 2 ガウスの予備定理の証明編 3 1 1 証明の準備編 定理1:a, n を互いに素な正の整数とする。このとき、ax + ny = 1 をみた す整数 x, y が存在することが言える。 証明:整数の集合 I を以下のように定義する。 I = {k は整数 | 整数 s, t を用いて、k = as + nt とかける。} a = a · 1 + n · 0 ∈ I, n = a · 0 + n · 1 ∈ I だから、I は正の整数 a, n を元に持つ。 I の正の元のうち、最小になるもの を e とする。I の元 k を任意にとるとき、k は e で割り切れることを証明す る。まず k が e で割り切れないと仮定する。このとき、k を e で割った時の 商を q 、余りを r とすると、以下のように書ける。 k = eq + r, 0 < r < e ここで、k, e ∈ I だから整数 s, t, u, v が存在して、以下のように書ける。 k = as + nt, e = au + nv r = k − eq = a(s − uq) + n(t − vq) ∈ I だから、r は I の元となる。ところが 0 < r < e だから、r は e より小さな正の整数であることがわかる。このこと は、e の最小性に反する。したがって、k が e で割り切れないという仮定は誤 りで、k は e で割り切れることが証明された。特に、I の元 a, n が e で割り 切れることがいえる。e ≥ 2 と仮定すると、e が a, n の 2 以上の公約数とな り、a, n を互いに素であることに反する。よって、e = 1 であること、つまり au + nv = 1 が証明された。 以上より、ax+ny = 1 をみたす整数 x, y の存在が言えた。 □ 定理2:a, b, n を正の整数とする。a, n と b, n がともに互いに素となるとき、 ab, n も互いに素になる。 証明: 定理1より、ax + ny = 1, bx + ny = 1 の整数解をもつことがいえ る。ax + ny = 1 の整数解を (x1 , y1 )、bx + ny = 1 の整数解を (x2 , y2 ) とす ると、ab(x1 x2 ) + n(ax1 y2 + bx2 y1 + ny1 y2 ) = 1 ここで、ab, n の最大公約数 d を取ると、d は明らかに 1 の約数である。したがって、ab, n も互いに素に なることがいえた。 □ 定理3:a, n を正の整数とする。a, n が互いに素となるとき、n − a, n も互い に素になる。 2 証明:n − a, n が公約数 c > 1 を持つと仮定する。このとき、a = n − (n − a) より、a は明らかに c で割り切れる。n は c で割り切れるから、n, a は公約数 c > 1 をもつことが言えるが、これは不合理である。 以上より、n−a, n も互いに素になることがいえた。 □ 正の整数 n に対して ϕ(n) を以下のように定義する。 ϕ(n) = n 以下の正の整数のうち、n と互いに素となるものの個数 また定理3の系として、以下が言える。 定理3の系:正の整数 n に対して、gcd(n, a) = 1, 1 ≤ a < a の個数と gcd(n, a) = 1, n 2 n 2 をみたす整数 < a ≤ n − 1 をみたす整数 a の個数は等しい。 証明:gcd(n, a) = 1, 1 ≤ a < n 2 をみたす整数 a を任意に取る。このとき、 定理3より、n − a は gcd(n, n − a) = 1, < n − a ≤ n − 1 をみたすこと がいえる。したがって、{gcd(n, a) = 1, 1 ≤ a < n2 をみたす整数 a の個数 } ≤ {gcd(n, a) = 1, n2 < a ≤ n − 1 をみたす整数 a の個数 } であることが n 2 < a ≤ n − 1 をみたす整数 a を任意に取る。 このとき、定理3より、n − a は gcd(n, n − a) = 1, 1 ≤ n − a < n2 をみた いえる。また、gcd(n, a) = 1, n 2 すことがいえる。したがって、{gcd(n, a) = 1, < a ≤ n − 1 をみたす整数 a の個数 } ≤ {gcd(n, a) = 1, 1 ≤ a < をみたす整数 a の個数 } であるこ とがいえる。以上より、{gcd(n, a) = 1, 1 ≤ a < n2 をみたす整数 a の個数 n 2 n 2 } = {gcd(n, a) = 1, えた。 n 2 < a ≤ n − 1 をみたす整数 a の個数 } であることがい □ n が奇数のとき、 n2 は整数になり得ず、また n が 4 以上の偶数のとき、 n2 , n は 1 より大きな公約数 n2 を持つので、 n2 , n は互いに素ではない。 したがって、定理3の系より、n を 3 以上の整数とするとき、ϕ(n) は偶数に なることが言える。 このとき、gcd(n, a) = 1, 1 ≤ a < 1, 2 n 2 n 2 をみたす整数 a の個数と gcd(n, a) = < a ≤ n − 1 をみたす整数 a の個数はともに、 ϕ(n) 2 になる。 ガウスの予備定理の証明編 a, n を互いに素な正の整数 (ただし、n ≥ 2) とするとき、整数 ϵ(a, n) を以 下にように定義する。 a を n で割ったときの絶対値最小の余りが正のとき、ϵ(a, n) = 1 a を n で割ったときの絶対値最小の余りが負のとき、ϵ(a, n) = −1 以降簡単のため、ϵ(a, n) を ϵ(a) と書くことにする。 3 定理3:n を 3 以上の整数とする、n2 未満の正の整数のうち、n と互いに素とな るものからなる集合 {a1 , a2 , · · · , a ϕ(n) } をとる。この中から a を任意にとる。 2 {a · a1 , a · a2 , · · · , a · a ϕ(n) } と、{ϵ(a · a1 )a1 , ϵ(a · a2 )a2 , · · · , ϵ(a · a ϕ(n) )a ϕ(n) } 2 2 2 は法 n において、同一の集合である。 証明:定理2より、a · a1 , a · a2 , · · · , a · a ϕ(n) は n と互いに素である。また 2 ある a · ai , a · aj が存在して、a · ai ≡ a · aj (mod n) となると仮定する。 定理1より、au ≡ 1 (mod n) をみたす整数 u が存在することがいえる。 (mod n) がいえるが、これは不合 理。そして、ある a · ai , a · aj が存在して、a · ai ≡ −a · aj (mod n) と よって ai ≡ u(a · ai ) ≡ u(a · aj ) ≡ aj なると仮定する。定理1より、au ≡ 1 (mod n) をみたす整数 u が存在す (mod n) がい ることがいえる。よって ai ≡ u(a · ai ) ≡ −u(a · aj ) ≡ −aj える。したがって、ai + aj ≡ 0 (mod n) かつ 0 < ai + aj < n がいえる が、これは不合理。よって、{a · a1 , a · a2 , · · · , a · a ϕ(n) } と、{ϵ(a · a1 )a1 , ϵ(a · 2 a2 )a2 , · · · , ϵ(a · a ϕ(n) )a ϕ(n) } は法 n において、同一の集合であることがいえ 2 た。 2 □ 定理4:a, n を互いに素な正の整数とする。このとき、以下が言える。 a ϕ(n) 2 ≡ ϵ(a · a1 )ϵ(a · a2 ) · · · ϵ(a · a ϕ(n) ) (mod n) 2 証明:定理3で取り上げた集合 {a1 , a2 , · · · , a ϕ(n) } をとる。定理3より、{a · 2 a1 , a · a2 , · · · , a · a ϕ(n) } と、{ϵ(a · a1 )a1 , ϵ(a · a2 )a2 , · · · , ϵ(a · a ϕ(n) )a ϕ(n) } は 2 2 2 法 n において、同一の集合である。よって以下が言える。 (a · a1 )(a · a2 ) · · · (a · a ϕ(n) ) 2 ≡ (ϵ(a · a1 )a1 )(ϵ(a · a2 )a2 ) · · · (ϵ(a · a ϕ(n) )a ϕ(n) ) (mod n) 2 a ϕ(n) 2 2 a1 a2 · · · aϕ(n) ≡ ϵ(a · a1 )ϵ(a · a2 ) · · · ϵ(a · a ϕ(n) ) · a1 a2 · · · a ϕ(n) 2 (mod n) 2 定理1より a1 u1 ≡ 1 (mod n)、a2 u2 ≡ 1 (mod n)、· · ·、a ϕ(n) u ϕ(n) ≡ 1 2 2 (mod n) をみたす整数 u1 , u2 , · · · , uϕ(n) の存在が言えるから a ϕ(n) 2 a1 a2 · · · a ϕ(n) u1 u2 · · · u ϕ(n) 2 2 ≡ ϵ(a · a1 )ϵ(a · a2 ) · · · ϵ(a · a ϕ(n) ) · a1 a2 · · · a ϕ(n) u1 u2 · · · u ϕ(n) 2 よって、a ϕ(n) 2 2 (mod n) 2 ≡ ϵ(a · a1 )ϵ(a · a2 ) · · · ϵ(a · a ϕ(n) ) (mod n) がいえる。 2 よって、定理4がなりたつことがいえた。 4 □ 特に、定理4の n = p(ただし、p は素数とする) の場合、ガウスの予備定理 そのものである。 a p−1 2 ≡ ϵ(a)ϵ(2a) · · · ϵ( p−1 a) (mod p) 2 5
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